ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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久しぶりの投稿になります。




執念の拳《Battle Field of School Ⅰ》

 

『ライザー・フェニックス様の"兵士"一名、リタイア』

 

 渚は、そんな放送を耳にする。

 体育館が消滅してからすぐのことだ。

 一誠と小猫は先程まで体育館にいたので祐斗辺りが撃破したのだろう。

 順調な友人たちの活躍を嬉しく思う渚だったが……。

 

 ──シュッ!

 

 そんな彼の顔面に風を切る拳が跳んでくる。

 ムチのような打撃はボクサーのジャブだ。

 思考を瞬時に戦闘へ切り替える。敵はフェニックスの"戦車(ルーク)"イザベラ。

 彼女はボクシングに類似したスタイルのファイターであり近接戦闘に()けた眷属だった。音速を超えたジャブが牽制となり反撃へ転じる暇を与えない。距離を取ろうにも素早いステップでピッタリくっついて来る。

 武器戦に慣れている動きだ。

 刀の内に入り続けて剣術が使えない様にする立ち回りは酷くやり(にく)い。

 ダメージ覚悟で強引に斬り裂こうにも"戦車(ルーク)"であるイザベラのジャブは無視はできない威力がある。ゲームはまだ序盤、(あと)(ひび)きそうなダメージは避けたい。

 

「上手く(かわ)す。ならギアは上げるぞ」

 

 イザベラの動きが変わる。顔の横にあった両手の内の一つが下がってユラユラと揺れ始めたのだ。

 瞬間、渚の顔面横を打撃が通りすぎる。頬を少し(けず)られた渚は血が出る。

 勢いに乗ったイザベラは打撃を繰り返す。

 

挙動(きょどう)が見えずらいパンチだ」

 

 拳から紙一重で逃げながら苦言(くげん)()らす。そんな渚にイザベラは笑みを浮かべた。

 

「すぐに終わらせる、とは誰の言葉だったかな?」

「うっせ。……フリッカーってヤツか」

「そうだ。キミみたいな剣を使う者は刃の内に入られると極端に弱くなる。近距離戦(クロスレンジ)が得意だと自負するがゆえの誤算だね。さぁ程度の低い剣術でいつまでモツかな?」

 

 脳裏に(よぎ)るのは譲刃の顔だ。

 自分の剣術が弱いと思われる事が彼女を馬鹿にされているような気がして胸中がささくれ立つ。

 簡単に言うと頭にきた。

 

「刃の内に入られると弱い? 程度が低い? あんま()めんなよ」

「何? ……クッ!」

 

 左手に持った納刀状態の刀を突き上げた。

 アッパーカットの要領で下から来た柄頭をイザベラはスウェーバックで避ける。渚は予想通りと言わんばかりに剣を返して柄を握ると上段の構えを取った。

 

「そら、俺の距離になったぞ?」

 

 納刀したままで真っ直ぐ振り下ろす。

 イザベラが腕をクロスさせて正面から刀を受けた。

 瞬間、巨大な物体同士が猛スピードで激突したような轟音が烈風と共に唸る。

 

「……重い一撃だ。それでも届きはしないけどね」

 

 ガシッと鞘の腹を掴まれる。

 渚の動きを封じたイザベラが叫ぶ。

 

「今だ、出てこい!」

 

 彼女の合図と同時に二人組の少女が渚の両サイドから急に現れた。

 

「これは……」

「熱を使った隠密術だよ。炎を(つかさど)る我らフェニックス眷属に教えられる異能だ、気づかなかっただろう? 君には悪いが、こうやって単体と思わせて奇襲するのも戦いには必要でね」

 

 イザベラの言葉に対して渚は顔色ひとつ変えずに言う。

 

「謝罪はいらない。アンタたちが三人組だって事は知ってたよ。姿はないけど気配だけはあったからな。──刻流閃裂(こくりゅうせんさ) "輝夜(かぐや)小夜鳴(さよなき)"」

 

 相手の両腕に刀を押さえつけたままで抜き放つ渚。

 まさかこんな体勢から抜刀すると思わなかったのだろう。イザベラは慌てて回避に移るも上から円を描くように銀閃がフェニックス眷属をまるごと斬り裂く。

 

「うぁ!」

「きゃ!」

「くッ! だが詰めが甘いな!」

 

 三人の中の二人が戦闘不能になると『ライザー・フェニックスさまの"兵士(ポーン)"二名、リタイア』というアナウンスが聞こえた。残ったイザベラが舌打ちをする。彼女は"戦車(ルーク)"、堅牢な守りを持つゆえに仕留(しと)めるには(いた)らなかったようだ。

 すかさず二撃目を振るうも後ろに避けられた。

 

「見事な気配察知能力だが仕切り直しだ、人間!」

「離れたつもりか? そこはまだ攻撃範囲内だぞ」

「なに……!」

 

 イザベラの間合いから一歩下がった渚が刀を低く構えた。

 

「刻流閃裂 "雷霆(らいてい)(げき)"」

「ガハッ!」

 

 鋭い踏み込みを駆使した"突き"が直撃したイザベラは豪速とも言える速度で吹き飛び、やがて地面に落ちると(けず)るようにして転がって行った。

 技の威力にレイヴェルが口を押さえて目を見開く。

 

「死にはしない。切っ先じゃなくて(つか)の頭で打つ技だ」

 

 地面に落ちた鞘を取ると刀を納める渚。

 確かな手応えだった。例え"戦車(ルーク)"だろうが打ち崩す一撃を放ったはずだ。

 しかし……。

 

「まだだ、人間ッ!」

 

 よろりとイザベラが立ち上がると裂帛(れっぱく)の声を上げて突貫してくる。魔力の籠った左腕のフックを前にした渚は納刀したまま防御する。

 拳と柄が衝突して風が炸裂するように荒ぶった。

 渚は彼女の頑丈さに驚くも動揺(どうよう)()み込む。一撃でダメなら倒れるまで打てばいいのだ。そう頭を切り替えて再び刀を抜くタイミングを(はか)るがイザベラを見て渚は(まゆ)をひそめた。

 

「アンタ、正気か?」

 

 イザベラは血反吐を撒き散らしながら拳を突き出している。渚の一撃で砕けたアバラが肺を傷付けたのだろう。即リタイアしてもおかしくない状態だった。

 

「グッ! 負けんっ! 負けられないんだ!! 私はライザー様に勝利していただく」

 

 全ては(あるじ)(ため)

 そんな執念(しゅうねん)にも似た信念が肉体を突き動かしていた。敗北は許されないとイザベラの瞳が(かた)っている。

 

「何がアンタを駆り立てる?」

「あの方は()()()()()()()()で全てを失ったのだ! あんな思いをさせないために私は戦う」

 

 イザベラは血を吐きながらの刀を強引に弾く。

 渚のガードを崩したイザベラが渾身の右ストレートを放つために目一杯(めいっぱい)拳を引く。右腕に魔力が集まり、紅蓮が宿る。フェニックスの眷属に相応(そうお)しい炎の打撃だ。

 

「我が拳は主が為に、──フェニックス・ブロウ」

 

 必殺の域に達した灼熱は優に二千度を越えていた。並みの人間では一瞬で骨まで灰になるだろう。

 熱気が皮膚をチリチリと焼く中で渚は炎熱の拳を見据(みす)えた。思考が急に加速する。

 理性が『どうすればいいか』という問いを投げ掛けると本能が『受け止めろ』と即答する。馬鹿げた答えだと心の何処(どこ)かで思いつつも身体は勝手に動く。

 左手は刀と共に弾かれて瞬時には使えない。

 右手を前に出すと真っ正面から炎熱を止める。

 紅蓮の拳を受けたのは蒼のオーラを(まと)()だ。

 

「ば、バカな、私の技をこうも簡単に!? いや、その右手に纏っている力はなんだ!?」

「"霊氣"っていう。魔力と似たモンだと思ってくれ」

「気? 噂に聞く仙術の類いか!」

「そっちとは別口らしい。俺も使えてはいるけどよく分からないんだ。知ってそうな相棒が秘密主義者でね」

 

 渚の"霊氣"がイザベラの炎を相殺する。

 自らが持つ最大の技を破られたイザベラが歯噛(はが)みするや()いた手で渚を殴ろうと挑み掛かる。

 そんな悪足掻(わるあが)きをする相手に渚は反撃を繰り出す。

 

「……もう寝てろ」

 

 握っていたイザベラの右拳を起点にしてぶっきらぼうに投げたのだ。

 ドガンっと炸裂する地面がクモの巣状にひびわれる。轟音を鳴らしながら叩きつけられたイザベラは衝撃でバウンドするも渚を真っ直ぐ睨み拳を振りかざしていた。恐るべき勝利への渇望だ。渚は刃を抜いて迎撃する。重い斬撃によってイザベラは新校舎まで弾き跳ばされコンクリートの壁を派手に破壊した。

 渚はイザベラを見失うが油断なく消えた方向を見据える。畏怖すべきは実力以上の執念だ。正直、あまり相手にしたくはない。追い詰められたら死に物狂いで相討ちを狙ってくるのが目に見えている。

 

「けど、まだ終わってないな」

 

 イザベラがリタイアしたというアナウンスは流れてこない。

 次はどのように動くか考える。リタイア寸前のイザベラをわざわざ追撃するか他のターゲットを探すか。

 とりあえずレイヴェルの意見も聞いておこうと彼女へ近づくと化け物を見るような眼をされた。

 渚は少し傷つく。

 

「は? え? なに引いてんの?」

「い、イザベラを、ああも簡単に倒してしまうのですね。正直、貴方の戦力を(あなど)っていましたわ」

「え、ああ、一応色々と修羅場は(くぐ)ってきてるからな」

 

 どこか見下していたレイヴェルの態度が変化する。

 イザベラの力を余程信頼していたのだろう。どうやら渚の戦いを見て評価が激変したようだ、悪くも良い方向に……。

 

「何故、力で私に(あらが)わなかったのですの? 従属するフリなんかしてまで」

「フリって……最初に投了(リザイン)するって言ったのは君じゃないか」

 

 そのせいで頭を悩ませていたのは記憶に新しい。渚からしたら首輪を付けられた気分を味わされたのだ。

 

「このゲームは貴方にとっても大事なモノですの?」

「そうだ。……じゃないと参加しないだろうに」

「本気でフェニックスに勝てるとでも? 相手は不死なんですのよ」

「やりようはあるさ。肉体が死なないんだろ? なら精神をダメにする」

「精神面を追い詰めるというのは良い着眼点ですわ。それでどうしますの?」

「そんなの決まってるだろ。──相手が、泣くまで、斬るのを、やめない」

 

 シンっと二人の間に沈黙が流れる。

 

「……本気で言ってますの?」

「割りとね。イケるさ、用は持久戦に勝てばいい。そっちだって勝たなきゃならない理由があるんだろ?」

「ええ、まぁ」

「じゃあお互い協力し合うのがいいと思うけど?」

 

 渚の言葉に目を丸くするレイヴェル。可愛らしいが指摘しても反感を買いそうなので黙っておく。

 代わりに双方にとって最適な条件を提示することにした。

 

「なら人間と悪魔らしく契約しないか?」

「け、契約?」

「ああ、今夜限り互いが手を取り合うってのはどうだ?」

 

 理由は不明だがレイヴェルはリアスではなくライザーの打倒を目指している。

 渚と言う戦力を目の当たりにしたのなら簡単には断らない、いや断れないだろう。

 狙い通り彼女は首を縦に振る。

 

「……いいですわ、その契約を受けましょう」

「契約書でも書こうか?」

「いりませんわ、今夜限りのモノですもの。それで、これからどうするおつもりで?」

「悪いけど赤点大王の俺に戦術とか期待しないでほしい。思い付くのは"兵士(ポーン)"を手早く撃破するくらいだ」

「確かにオーソドックスですが……」

 

 レイヴェルが頬に手の平を乗せて考える。

 レーティング・ゲームは"兵士(ポーン)"を減らす事から始まる。

 最弱であり数が多いと言う安易な理由ではない。敵対する陣地に侵入した時、兵士はプロモーションと呼ばれる能力が発動できるからだ。これを使った瞬間から兵士は英雄となり、"(キング)"以外の駒に成り代わる。

 最強の駒である"女王(クイーン)"を選べば全ての能力が格段に上昇するのだ。複数の兵士が女王になればパワーバランスは一気に傾き、勝敗は決する。

 

「とりあえずフェニックス眷属を探すか?」

「……いえ、お待ちになってイザベラを倒しましょう」

「死に体だぞ」

 

 レイヴェルが首をふった。

 

「フェニックス陣営には回復アイテムがありますの、すぐに止めをささないと面倒になりますわ」

「それを早く言ってほしかった」

「ごめんあそばせ、あなたの化け物っぷりに驚いていましたの」

「さよで。……イザベラは新校舎だな」

 

 渚の言葉にレイヴェルも頷く。

 結構大きな穴がぽっかりと空いている。もしかしたら向こう側に抜けているかもしれない。

 回り道をして確かめたいが回復アイテムを持っているのなら早急に対処すべきだろう。つまり相手の本陣を突っ切るのが正解だ。

 

「……相手の本拠地を正面から踏み入るは本来は愚策。ですが貴方の戦闘力の高さなら大丈夫かと。けれど間違いなくトラップは仕掛けられているのでご注意下さいな。ここでイザベラを撃破出来れば、グレモリーが付け入る隙を作れますわ、グレモリーの眷属はゲーム経験こそ皆無ですが戦闘に関しては有能だと聞きます。上手く利用すれば(わたくし)たちのプラスになるでしょう」

 

 つらつらと自分の考えを渚に伝えるとレイヴェルが(うかが)うようなに見上げてくる。

 まるで採点を待つ子供だ。不安と期待が入り交じった瞳に対して反対する理由もない。

 

「よし、それで行こう」

 

 レイヴェルの案に乗ることを決定すると新校舎に向かって走り出す。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 新校舎の裏手にある運動場を走る影が三つあった。

 一誠と小猫、そして体育館が無くなった直後に合流した祐斗である。因みに三人が移動を開始してから直ぐに祐斗を追ってきたフェニックスの"兵士(ポーン)"を一人撃破しているので相手は五名ほどリタイアしている。

 未だに脱落者のいないグレモリー眷属は新校舎を目の前にして立ち止まると物陰から様子を(うかが)う。

 

「体育館がなくなった今、運動場の部室棟が唯一の侵入ルートになるから油断しないでね」

 

 祐斗が注意を(うなが)す。

 ここは旧校舎側から攻めるグレモリー眷属にとって避けることのできない場所、つまり最前線となる。無闇に突っ込むのは得策ではない。

 

「……りょうかいです」

「分かってるよ」

 

 小猫と一誠が応えると新校舎側から一人の女性が現れた。

 剣を片手に甲冑を着た姿からしてフェニックスの"騎士(ナイト)"だろう。

 女性が躊躇(ためら)い無く、新校舎から運動場の真ん中へやって来ると剣を地面に突き刺す。

 

「居るのは分かっている。私はライザー・フェニックスさまに仕える"騎士"カーラマイン! 見ての通り腹の探り合いは(しょう)に合わない性格だ、正々堂々と勝負と行こうじゃないか!! この後に及んで臆する者でもあるまい!!!」

 

 勇ましい声だ。

 一誠と小猫がどうするか迷う。罠という可能性を考慮しているのだろう。

 だが祐斗だけは違った。

 

「あんな名乗りを挙げられたらグレモリーの"騎士"として黙ってはいられないな」

 

 物陰から一人出ていく祐斗。

 

「あ、おい」

「……行きましょう、きっと部長の"騎士"として誇りがあるんだと思います」

 

 一誠が止めようとするも逆に小猫から止められた。

 

「しょうがねぇな」

 

 祐斗に続いて二人も出ていくと隣に並ぶ。

 

「僕はグレモリーの"騎士(ナイト)"、木場 祐斗だ」

「俺は"兵士(ポーン)"の兵藤 一誠」

「……"戦車(ルーク)"搭城 小猫」

 

 名乗りを挙げた三人に前にしたカーラマインは笑う。

 

「まさか全員が堂々と出てくるなど驚きだぞ、リアス・グレモリーの眷属は本物の勇士のようだ。──そう思わないか、お前たちも!!」

 

 カーラマインが叫ぶと背後の新校舎から複数の人影が出てきた。

 

「まったく私はライザー様からレイヴェル様の捜索と言う任を与えられているのだがな」

「にゃ、にゃ、いいじゃん、いいじゃん」

「レイヴェルさまはイザベラが探してくれるにゃ」

「はぁ、さっさと終わらせましょう」

 

 ライザーの眷属が四人も現れる。

 背中に大剣を背負う女性、獣耳を生やした双子の少女、十二単を着た女子。

 グレモリー眷属は数で勝るフェニックス眷属に警戒する。

 

「おいおい、結構出てきたぞ」

「……全部、ぶっ()ばすだけです」

 

 小猫の強気な発言に不快げな顔をするフェニックス眷属。

 

「小さな体でよく吠える」

「なまいきー」

「わたしたちがぶっ跳ばすにゃ」

「少し不快ね」

 

 臨戦態勢になる両方の眷属。

 対戦が始まろうとした時だった。

 

『ライザー・フェニックス様の"兵士(ポーン)"二名、リタイア』

 

 そんなアナウンスにグレモリー眷属の各々が笑みを浮かべた。

 

「二人も!? ハハハ、もしかしてアイツか」

「……間違いないです」

「そうだね、彼しかない」

 

 朱乃は相手の"女王(クイーン)"と交戦中、リアスとアーシアは本陣にいる……だとすれば考えられる可能性は一つしかない。

 

「だ、誰にゃソイツは!」

「ミィ、下がれ」

 

 いきり立つ猫耳の女の子をカーラマインが諌めた。

 

「しかしカーラマイン。あの二人はイザベラに付いていた、アイツがいてこの有り様は不測の事態だ」

「シーリス、これは戦いなのだ。不測の事態などあって当然だ。そしてイザベラも戦っているのだろう、ならば我らがすべき事は目の前の敵を撃破する事じゃないか?」

 

 カーラマインが落ち着きのなくなった眷属たちに言う。

 

「余程の実力者なんだね、そのイザベラという人物は」

「ああ、"女王"(クイーン)であるユーベルーナに()ぐ強さだ。接近戦では恐らく眷属最強だろう。木場 祐斗、興味がてらに聞くがイザベラと戦っているのは第三勢力の者だな?」

「うん、僕の個人評価になるけど彼に勝てるものはこのフィールドにはいない」

「ほぅそちらの"(キング)"よりも強い、と?」

「むしろ君たちの"(キング)"よりも強いさ」

 

 祐斗の言葉にフェニックスの眷属たちが殺気を放つ。

 

「戯れ言としても笑えないな、ライザー様に勝てる人間などいない」

「……いいえ、あの人を止められる人こそいない」

 

 小猫が言い切った。

 これには一誠と祐斗も顔を見合わせる。

 流石にそこまでは思っていなかったからだ。彼の最も近い場所には"白雪の少女(アリステア)"がいる、彼女ならば容易(たやす)く止めてしまいそうである。

 しかし小猫の言葉には希望的観測ではない強い断定があるようにも見えた。

 

「まぁいい、お前たちを倒してソイツの首を取りに行けば分かることだ」

 

 カーラマインが剣を抜く。

 この場いる全員が標的を見据えた。

 一誠が獣耳の"兵士(ポーン)"二人、ミィとリィに対して戦意をぶつける。

 祐斗が"騎士(ナイト)"であるカーラマインに剣を向けた。

 小猫がもう一人の"騎士(ナイト)"シーリスと"僧侶(ビショップ)"の美南風(みはえ)へ構えを取る。

 

「来い、俺の神 器(セイクリッド・ギア)!」

 

 一誠の"赤 龍 帝 の 籠 手(ブーステッド・ギア)"が"倍加"を初めたのを合図に全員が動き出す。

 眷属同士が互いの相手に攻撃を仕掛けようとした……そんな時だった。

 耳を(つんざ)く破壊音が響く。全員の目が音の発生源に追う。見れば新校舎の壁が吹き飛んで、中から人影が現れた。ぐったりとしている様子から戦いに敗れたのだろう。

 

「イザベラか!」

 

 シーリスがボロボロのイザベラを受け止めた。フェニックス陣営に戦慄が走る。眷属でもトップクラスの実力者がやられたのだ。精神的な動揺は簡単には(ぬぐ)いきれない。

 

「どうやら先の言葉は()(ごと)と流す訳にもいかなくなったな」

 

 カーラマインのソレは一人言(ひとりごと)なのか祐斗に対してなのか。分かるのはイザベラをここまで痛めつけたであろう人間を許さないと言うことだ。

 

「木場、なんかナギがあの"騎士(ナイト)"さんにロックオンされてる気がするんだけど」

「恐らくだけど、あの倒された人はフェニックス陣営の最高戦力、つまりエースになるはずだよ」

「……エースが倒されたんです。間違いなく戦い(ゲーム)に支障がでます」

(あせ)りが怒りになったって事か」

 

 一誠がそう解釈すると新校舎で爆発が起きた。

 一階の全フロアが灼熱に(おお)われ、窓ガラスは残らず砕ける。黒煙が立ち昇ると続けざまに爆発が発生した。

 

「おわ、校舎の一階が火の海になったぞ!」

「これは爆破の術式、フェニックスの"女王(クイーン)"のトラップか、まさか蒼井くんは!」

「……新校舎を突っ切るみたいです。中から渚先輩の気配を感じます」

「なんだって! 助けねぇと!!」

 

 一誠が駆け出そうとする。

 だが次の瞬間、校舎全体に巨大な切り口が発生した。それはまるで巨大な刃物で切断したような跡だ。

 そしてゆっくりとスライドし、新校舎はたちまち崩れていった。

 

「あれは斬撃なのか?」

「……刻流閃裂(こくりゅうせんさ)の一つ、"天鐘楼(てんしょうろう)"です」

「刻流って事はナギの技かよ、やばすぎだろ……」

 

 渚がよく使う居合い"輝夜"。数ある派生技の中でも極致と呼ばれる最強の一つは規格外の威力だった。小猫が言う"天鐘楼"とやらは初めて見るが「凄まじい」と思う。フェニックス眷属に至っては驚異的な攻撃力に心臓を鷲掴みされる恐怖を残したほどだ。

 

「どうやら化け物が一匹、混じっているようだな」

 

 それがフェニックス眷属が渚に対する正直な感想だった。

 

 

 

 ○●

 

 

 

 ──駒王、郊外の森。

 

 煌々(こうこう)と輝く月の下で硝煙(しょうえん)と血の臭いが広がる。

 見れば50体以上の"はぐれ悪魔"が死んでいた。これらは繋がりやすくなっている冥界からの訪問者だ。勿論、観光などと言う生易しい目的ではなく、人間を喰らうためにやって来た者達である。

 その中で唯一生きていた最後の一体も身体中に弾痕(だんこん)を刻まれて虫の息だ。そんなボロボロな状態で倒れ伏す"はぐれ悪魔"の眼前に人影が立つ

 

「せっかく冥界から来たのですから、もう少し抵抗してみてはどうです?」

 

 そう言ったのは雪のような可憐さと氷のような冷徹さを合わせ持つ少女、アリステア・メア。

 何の感慨(かんがい)もなく、ベレッタ92F(拳銃)を"はぐれ悪魔"の鼻先に向ける。

 

「キサマ、コロシテヤル。ソノ キレイ ナ カオヲ クライツクシテヤル」

 

 呪詛(じゅそ)じみた"はぐれ悪魔"の声は聞くだけで呪われてしまいそうな程に恐ろしい。

 しかしアリステアは『くだらない』と一蹴するか如くトリガーを引く。額に一発の銃弾が直撃した悪魔は死亡。まるでゴミを処理するような迷いの無さだ。

 

「なんとも歯応えのない」

 

 銃を仕舞うとアリステアの背後で鳥が羽ばたくような音がした。夜の空から降り立ったのは光の槍を装備したメイド服の堕天使レイナーレとミッテルトだ、二人が周囲の惨状を見渡す。

 

「よくもまぁこんなに殺したわね」

「招かれざる客にはお帰り願うのが当然でしょう」

 

 ため息まじりのレイナーレにシレッと言葉を返すアリステア。

 

「か、帰るって普通に死んでんスけど」

 

 死骸の山に顔を青くするミッテルト。帰るどころか最早どこにも行けはしない。

 しかも死んでいるのは、どれもこれも上級悪魔クラスの怪物だ。そんなものをサクッとぶっ殺すアリステアはやはり化け物の類いだと再び認識したのだろう。

 

「送り先が冥界から地獄になっただけです。どっちも故郷みたいなものですよ」

「うわ、なんスか、その超理論」

 

 おっかない物を見るような目でアリステアへ視線を送るミッテルト。

 

「……ていうかなんでこんなに"はぐれ悪魔"が多いのよ、ここ」

 

 死体を光の槍でつつきながら愚痴を(こぼ)すレイナーレ。彼女の疑問も尤もだろう。毎晩のように処理しているのに()いて出てくる(さま)なのだ。

 

「半年前に頭のネジが跳んだ男が駒王と冥界の通路を作ったのが原因です。お陰さまで比較的少ない魔力で転移が可能なのだそうですよ」

「迷惑ね、結構な手練れも混じってるし。こんな面倒な事を毎日やってんの?」

「来るのだから排除しなければならないでしょう」

 

 すっぱりと答えるアリステアにレイナーレは疑いの目を向けた。

 アリステアは、かなりの知恵者だ。渚に神器やらの異能の知識を授けていると言う。

 ならばこの二つの世界を繋ぐ通路もどうにか出来そうではないか、とレイナーレを思うのだ。

 

「本当は(ふさ)げるんじゃないの?」

「解除には時間が掛かるのですよ、壊すことは今でも出来ますが」

「だったらやりなさいよ」

「無知ですね。考え無しで壊せば双方の世界に穴が空く、そうなれば次元の狭間を支配する"無"が流出し、悪い影響が出ます」

 

 次元の狭間とは世界と世界の間にある空間であり、なんの防備もなし飛び込んだ対象は消滅するほど危険な場所だ。

 

「ソレ、魔王も知ってるの?」

「ええ、最近の調査で判明したようです。だからこそ万全の体勢を整えるのに時間が掛かっていると思います」

 

 どうして塞げる物を塞がずにいるのかの疑問が解決する。つまり修復するまでに時間が掛かるので、それまでの露払いをさせられているのが渚やアリステアなのだ。

 しかし、それも終わりが近いだろう。

 魔王直属の臣下が修復に来るという話も挙がっている。

 レイナーレは興味を失ったようにアリステアに背を向けた。

 

「帰るわよ、ミッテルト」

「え? 帰るんスか?」

「当然よ。アリステア・メア、もう狩りは終わりなんでしょう?」

「ええ、帰って貰っても結構ですよ」

 

 ミッテルトが二人の顔を交互に見る。

 

「えと、レーティング・ゲームはどうするんス? ナギサとイッセー、アーシアだって出てるスよね」

「どうって私たちが見れるわけないじゃない。悪魔がやってる試合よ」

「ミッテルト、見たいのですか?」

「……ちょっと」

 

 その言葉を聞いたアリステアが人差し指で虚空に円を描く。

 

「千里眼とも呼ばれる遠目の術式です。今日の貴方たちはリアス・グレモリーの依頼で動いていた、ならば試合の観戦ぐらいは咎められないでしょう」

 

ミッテルトがアリステアに飛び付く勢いで近づく。

 

「まじっスか! すげぇ、こんなことも出来るんだぁ。アリステア、すげぇ、前から思ってたけどやっぱすげぇス」

「貴方の語彙力(ごいりょく)の無さの方が凄いですよ」

「あんた、本当に薄気味悪いくらいになんでも出来るわね」

「誉め言葉として取っておきます。──試合は佳境のようですね」

 

 虚空に映るのは駒王学園だった。

 現在、行われている戦いは三つ。

 一誠を含めたグレモリー眷属三名と五人のフェニックス眷属の戦い。もうひとつは体育館があっただろう場所の上空で激突している爆炎と雷だ、巫女姿の朱乃が対処しているところから敵の"女王(クイーン)"なのだろう。

 

「舞台は駒王学園のレプリカですか。見た限り、グレモリー眷属の本陣が旧校舎。フェニックス眷属の本陣が新校舎と言った所でしょう」

「おぉー、レーティング・ゲームってこんな感じなんだなぁ」

「かなり実戦に近い方式なのね」

「死にはしないというだけで大ケガなどは当然ありますよ。さてナギは……」

 

 一誠たちが戦っている場所とは新校舎を挟んで真逆の方向に渚はいる。

 隣にいるのは何らかのルールで行動を共にしている悪魔だろう。

 アリステアの言葉に堕天使二人も渚を注視する。

 接近戦が主体の戦いが行われるなかで、渚は相手の炎を纏う攻撃を受け止めて反撃していた。

 

「右手に蒼いオーラ? 居眠り男って異能を使えたのね」

「当然でしょう、でなければ人外などと渡り合えないですよ」

「……にしてもアレ何? 見た感じ魔力とも光力とも取れるわ」

「おや? なかなか目は良いのですねレイナーレ」

「嫌み? 魔力の光と光力の波は割りと独特よ、よく見れば分かるものよ」

 

 アリステアは素直に誉めただけである。目視だけで異能を種別するのは言うほど簡単ではない、かなりの観察眼が必要になる。

 

「大抵は気づけないのですがね。……あのオーラの名前は"霊氣"といいます」

「気って事は仙術とか類い?」

 

 レイナーレのそんな発言にアリステアはクスクスっと嗤う。

 

「──"霊氣"とは"蒼"より(こぼ)れた力です」

 

 意味深かつ聞きなれない単語にレイナーレが面白くなさそうな顔をする。文句ついでに問いたださそうとするがミッテルトが身を乗り出して興奮ぎみに叫ぶ。

 

「おー、ナギサ、敵っぽいやつをぶっ飛ばしたス!」

 

それから傍らにいる悪魔と幾つかの会話を交わすと走り出す。

 

「おりょ? なんか新校舎に走ってくっスよ」

「まさか居眠り男の奴」

「ええ、そのまさかです。校舎の反対側まで飛んだ相手を追うつもりですね」

「校舎はフェニックスの本陣よ。私なら避けるわ」

「急ぐ理由があるのでしょうね」

 

 レイナーレとアリステアの予想していた通り、渚は新校舎に突入した。

 そして次の瞬間、校舎内で幾つもの爆発がおきる。

 

「やっぱりね」

「な、何が起こってるんス」

「新校舎はフェニックスの本陣、備えは当然あります。ナギは侵入者用のトラップに掛かっただけです」

()()()()って」

 

 ミッテルトが戦慄する。仮に自分が引っ掛かりでもしたら粉々になる火力だったからだ。

 新校舎から炎と噴煙が広がる。

 炎のトラップは相手を燃やし尽くすかの如くだ。

 だが、その炎を斬り裂く刃が走る。斬撃が建物全体に走ると巨大なコンクリートの建物がスライドしながら崩れ落ちていく。

 

「は?」

「気のせいかしら、校舎が真っ二つになってるように見えるわね」

 

 ミッテルトが間抜けな声を出し、レイナーレが現実逃避行する。

 無理もない渚は炎ごと敵の本陣を両断したのだ。

 

「あの威力だけを重視した斬撃は"天鐘楼(てんしょうろう)"ですか。……(あい)も変わらず刻流閃裂は剣術の領域を逸脱(いつだつ)していますね」

 

 (あき)()じりのアリステア。

 当然だ、剣を振るえば駒王学園の新校舎を真っ二つにする力を剣術にカテゴライズしていい訳がない。

 

「ナギサ、パネェ……」

「……派手ね」

 

 豪快に倒壊した校舎の有り様にミッテルトとレイナーレが呟く。

 いつもは平和主義を装っている(くせ)(まれ)にとんでもない事を仕出かすのが蒼井 渚という人物だと再認識する堕天使二人なのだった。

 

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