ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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おれは人間をやめるぞ! ナギサァアアア!!




凶兆の兆し《Battle Field of School Ⅱ》

 

「……死ぬかと思った」

 

 新校舎が音を立てて倒壊していく。最早、全壊といっても過言ではない有り様だった。

 イザベラを追って新校舎に侵入したのは間違いだったのかもしれない。まさか踏み入れた瞬間にフロア全体が大爆発を起こすなど誰が予想できただろうか。

 校舎を切り裂いたのも生き残るためだ。ああでもしないと今ごろ丸焦げだった自信すらある。

 ある程度の防護トラップがあるのは覚悟していたが、まさかあんな殺す気満々のモノが仕掛けられているなど思いもしなかった。

 

「ひ、非常識すぎですわ」

 

 炎の翼を広げて渚の隣に降り立つなり非難の声をあげるレイヴェル・フェニックス。

 

「まったくだ。踏み込んだ瞬間に大爆発とかどうなってんだフェニックス陣営」

「いえ、ユーベルーナがいるのでそれは予想していましたわ。(わたくし)は本陣を一刀両断した貴方に言ったのですわ」

「俺ぇ!?」

 

 レイヴェルの中ではこの大爆発は折り込み済みだったようだ。渚が軽くフェニックス家の常識に戦慄する。

 確かに相手の本陣を力技でねじ伏せたやり方は戦術とは程遠い、頭の悪い脳筋だと思われても仕方ないだろう。

 しかし踏み入れた瞬間に大爆発するトラップは許されるのだろうか? 

 

「ユーベルーナですから」

 

 渚の意見は、その一言で圧殺された。ユーベルーナなる人物は余程の爆弾魔(危険人物)だと頭にインプットしておく。

 

「でもライザーの動きは封じられるんじゃないか」

「……眷属を倒す時間稼ぎが出来たと?」

「ダメだったか?」

「いいえ、()には(かな)っています。やり方が少々乱暴ではありますが……」

「言ったろ、俺は戦術を()る頭はないって。……動くぞ」

「ええ」

 

 渚がレイヴェルと歩き出す。

 イザベラはすぐに見つかる。新校舎を抜けた先で仲間に介抱されていた。どうやら新校舎の反対側でも戦闘が行われていたようだ。

 一誠と祐斗、小猫までいる。対してフェニックス眷属は地面で寝かされているイザベラを含めた六名。

 渚とレイヴェルが現れた瞬間、全員の視線が集まる。

 

「イザベラを(いた)ぶり、新校舎を破壊したのはお前か?」

 

 祐斗と対峙していた"騎士(ナイト)"らしき女性が乱入者である渚に対し剣先で威圧してくる。

 その瞳は静かだが確実に怒りを宿していた。

 痛ぶった覚えはないが戦いで大きな傷を負わせたのは事実なので渚は言い訳せずに肯定する。

 

「ああ」

「そうか。……木場 祐斗、勝手ながら少々勝負を預ける」

 

 "騎士(ナイト)"らしき女性、カーラマインが祐斗に断りを得て渚へ突進すると剣を向けてきた。

 いきなりの戦闘開始だ。

 渚は左手に持った納刀状態の刀をそのまま前に出して(つば)で剣を受ける。刀身と(つば)が競り合い、ガチガチと鋼が音を鳴らす。

 

「その格好と武器からして、フェニックスの"騎士(ナイト)"か」

「舐めた真似をしてくれたな、人間よ。我が(あるじ)の本陣を(くず)すとは万死に値する(おこな)いだ」

()めてなんかない、真剣にやったからこうなったんだ。あぁしなかったからコッチが灰になっていたんだよ」

 

 文句ならあんなメチャクチャなトラップを仕掛けたユーベルーナに言って欲しかった。

 そう思いながらもカーラマインの太刀筋を切り抜けて渚は拳を叩き込む。

 

「カハッ!」

 

 苦しそうに数歩下がるカーラマインの背後からもう一人の"騎士(ナイト)"シーリスが背中の大剣で渚を強襲した。それを身体を横にずらすだけの動作で(かわ)すと柄頭(つかがしら)でシーリスの腹を打って反撃する。

 

「私の剣を躱すか、やるな」

「なるほど……強い! イザベラが敗れる訳だ」

 

 "騎士(ナイト)"であるシーリスとカーラマインが渚を睨む。たったの一合で隔絶(かくぜつ)された技量の差に気づいたのだ。

 そんな事を知ってか知らずか渚が攻勢に出る。

 二人の"騎士(ナイト)"に刀で挑む。刃鋼(はがね)同士が重なり合うと幾度(いくど)も剣が()く。一対二と不利な状況でも優勢なのは渚だった。

 

「……手加減してるのか?」

 

 渚の一言にカーラマインとシーリスが怒りを()き出しにして剣を振るう。

 挑発めいた言葉は相手を(けな)した訳じゃない。"騎士(ナイト)"の二人を同時に相手できている渚はカーラマインとシーリスが本気を出さずに様子見をしていると考えていたのだ。

 だが真実は違う。渚の技量が二人を圧倒しているに過ぎない。

 やがて渚が大きく弧の字を描く斬撃で二人の"騎士(ナイト)"を切り払う。体勢を崩したカーラマインとシーリス。渚がトドメを仕掛けるため走り出そうとした。

 瞬間、すぐ前方で爆発が起きる。

 渚は爆風と熱風に襲われて地面を転がった。

 

「けほけほ、(あっち)ぃな」

 

 間一髪で()退()いたから軽い火傷だけでなんとか済んだ。何事かと見上げれば上空にフェニックスの"女王(クイーン)"ユーベルーナがいた。

 

「苦しそうね、カーラマインにシーリス。手を貸してあげるわ」

 

 空に浮かぶフェニックスの"女王(クイーン)"は渚を冷たく見下ろすと魔力による爆撃を開始した。

 爆発から逃げるため渚は地面を蹴る。

 

「間違いない、あの容赦ない爆発……。アイツが新校舎に爆弾を仕掛けたヤバイ奴だ」

「うふふ、まるで虫のようね」

 

 ひたすら周囲に爆発を撒き散らすユーベルーナ。渚が爆発に意識を持っていかれていると爆煙の切り裂いてカーラマインとシーリスが現れた。避けたつもりが制服を浅く斬られる。

 

「爆心地に来るとか、正気か!?」

「ユーベルーナが何も考えずに周囲を爆破してると思っているのか?」

「こういう状況は慣れっこなのさ」

 

 無差別と思っていた爆発だがピンポイントで渚の行動だけを阻害(そがい)しているようだ。大雑把に見えて味方を巻き込まないように爆発をコントロールして道を作るユーベルーナ、その破壊と衝撃の道を迷い無く走り抜けてくるカーラマインとシーリス。まさに信頼と経験から来る見事な連携だ。

 

「ちぃ」

 

 反撃しようと"騎士(ナイト)"を追うが爆発によって妨げられる。こうも上手いと非常にやり(ずら)い。

 渚が舌打ちをすると周囲が断続的に爆破された。まるで渚の動きを封じるような爆炎の檻に動きを止めてしまう。

 

「はい、終わり♪」

 

 ユーベルーナがそう告げると渚の足元に巨大な魔方陣が出現する。

 これが本命と気づいた時には術式は発動していた。

 

「しまっ──」

 

 魔力が(ほとばし)ると同時に今までとは比にならない程の大爆発が駒王学園を震わせる。

 グレモリー眷属が叫ぶ。

 渚自身も粉々になったかと思う爆発の中で何故か生きていた。すぐ近くで篝火(かがりび)のような暖かい熱を感じる。

 

「全く、誰も彼も(わたくし)の事を忘れていますわね」

 

 爆発を防いだのは炎の翼だった。

 その炎の主こそ渚の前に立つレイヴェル・フェニックス。彼女は兄の眷属に対して堂々とした(たたず)まいで対面していた。

 

「……レイヴェルさま、立ちふさがると言うのなら容赦は出来ません」

「ユーベルーナ、加減は無用ですわ。あなた方がお兄さまの為に戦っているように(わたくし)も戦う理由があるのですから」

「無礼を承知で言いますが、私とレイヴェルさまでは勝敗は見えているかと」

「お兄さまの"女王(クイーン)"を単体で倒せるなどは言いませんわ。……けれど、()めが甘くなくて?」

 

 レイヴェルがクスリと笑うとユーベルーナの頭上から雷が落ちてくる。

 

「く、雷の巫女か!」

「つれないですわね。幾ら本陣が崩れたとはいえ、いきなり戦いを放置して行くなんて」

 

 巫女装束の朱乃が雷を(まと)いながら笑顔で睨む。

 

「続き、しますか?」

「いいでしょう、ですがその前に……」

 

 ユーベルーナが魔力で新校舎を爆破する。

 破壊したのは瓦礫となった上層部分。狙いは生き埋めになったライザーの救出だろう。

 ガラリと音を立てて瓦礫が崩れた。

 そして炎が燃え上がる。

 

「ち、まさか生き埋めにされると思いもしなかったぞ」

 

 悪態を吐くのはフェニックス陣営の"(キング)"ライザー・フェニックスだ。

 無気力な様子でノロノロと眷属たちの前に歩いてくる。

 

「お前らだけか?」

 

 眷属たちに無感情のまま問う。

 その言葉に頭を下げたのは十二単を着た"僧侶(ビショップ)"の美南風(みはえ)だった。

 

「ライザー様、申し訳ありません。我らの(いた)らなさから半数以上も眷属を失いました」

 

 シンっとフェニックス陣営の者たちが黙り込む。

 渚はライザーがどう出るのかを静かに見ている。

 結果だけならライザー陣営はかなり押されているのだ。眷属たちに無能と罵声を浴びせる可能性もある。

 

「久方ぶりのゲームだ、仕方ない」

 

 だが予想を裏切り、眷属たちに優しい言葉を投げ掛けるライザー。これには渚だけではなくグレモリー眷属たちも驚いた。

 粗暴(そぼう)というイメージがあっただけに、こんなにも"(キング)"らしい事をするライザーの一面は斬新だった。

 

「さて、と。俺はこんなゲームは早く終わらせたい。だからこれからテメェらはさっさと狩る。覚悟は出来てんだろうな?」

 

 ()だるげな目で睨まれたグレモリー眷属が身構える。ライザーはまずグレモリーから処理するつもりだ。察した渚が前に出ようとするが……。

 

「眷属に告ぐ。ユーベルーナはグレモリーの"女王(クイーン)"を、それ以外の全ての者は──あの人間を足止めしろ」

 

 渚の行動を予測していたのか先手を打たれる。カーラマインとシーリスが同時に渚へ襲いかかる。

 そして驚くべきことにその二人に加えてイザベラも参戦してきた。渚から受けた傷が嘘のように消え失せている。

 

「……例の回復アイテムか」

「レイヴェルに"フェニックスの涙"の事を聞いたようだね」

 

 回復アイテムの存在は知っていた。

 しかし渚が考えていたよりも効力が大きい。

 まさか瀕死から完全回復するなど思いしなかった。

 更に"兵士(ポーン)"のミィとリィの双子の猫又、"僧侶(ビショップ)"の美南風(みはえ)までも渚へ攻撃を開始する。

 五対一の攻防は渚をその場に縫い付ける。阿吽の呼吸で互いをフォローする戦術は洗練されたモノで容易には突破できない。その間にライザーが動き出す。

 ライザーは炎の翼を広げると、まず祐斗を肉薄した。

 ジェット噴射のような急激な加速による強襲。

 だが祐斗は反応して見せた、魔剣でライザーの炎熱の拳を受け止める。

 

「へぇ、止められるとは思わなかったぞ、リアスの"騎士(ナイト)"」

「あなたよりも速い相手と斬り結んだことがあるんでね」

「そうかい。ならソイツはこんな真似はしたか」

 

 祐斗と接触していた拳が急に爆発炎上する。

 至近距離からの爆発を受けた祐斗は為す術もなく炸裂した炎の餌食になる。

 

「致命的なダメージは(ふせ)いだか。けどもう立てねぇだろ」

「木場ぁ!」

「他人の心配か?」

「ぐあ!」

 

 鋭い蹴りをお見舞いするライザー。その場に一誠は(うずくま)る。

 

「二人目。次はお前だ、可愛らしいお嬢さん」

「……(あなど)らないでください」

 

 小猫はライザーの炎を掻い潜り、小さな拳で反撃して見せる。ボディにいいパンチを受けたライザーが数歩、後ずさった

 

「驚いたぞ、どうやらお前は他の二人よりも"力"が数段違うようだ。……見た目に(だま)されたが、もう容赦しねぇぞ」

「……これは大切な貰い物です。あなたに崩せる程、弱くはないです」

 

 ライザーと小猫。

 二人を中心に爆炎があがる。

 小猫はライザーと互角の戦いを繰り広げる。

 炎を拳で相殺して殴る。意外な人物の意外な強さに渚を含めたこの場にいる一同が視線を奪われた。

 

「"戦車(ルーク)"にしても妙に固ぇな、()()使()()()()()()?」

「……教えません」

 

 小猫のパンチがライザーの顔面を捉えた。

 鉄砲玉のような勢いで跳んでいくライザーだったが、すぐに背中の炎を噴射して体勢を建て直す。

 

「認めたくはねぇがポテンシャルはそっちが上か。ほんと何者(なにもん)だ?」

「……ただの下級悪魔です」

「ほざけよ、リアスの"戦車(ルーク)"が。まぁいい、攻略方法は思い付いた」

「……攻略?」

「ああ、肉体スペックに物言わせて殴る蹴るしか出来ない幼稚な戦い方だ。確かに堅牢だが"中"はどうかな」

 

 ライザーがクイッと指を動かすと小猫とライザーを閉じ込めるように炎柱がそびえ立つ。炎は容赦のない灼熱を撒き散らす。

 

「……すぐに出させてもらいます」

「出さねぇよ」

 

 ライザーの炎翼から鋭い穂先の炎が大量に放たれる。一発、一発なら大したダメージにはならないが数が多い。小猫は自身の力を両手に集中させて迎撃すること選択する。

 順調に攻撃を防御しながらライザーとの距離を縮めて行く小猫だったが一発の炎が彼女の肩を(かす)めた。そこから小猫の防御に(かげ)りが見え始めた。

 

「そろそろか」

「……炎のスピードが変わった?」

 

 小猫の疑問をライザーは(わら)う。

 

「ハッ! 違うな、お前の動きが鈍くなったんだよ」

「……わたしが?」

「お前を密閉(みっぺい)しているのは炎だぞ。……で次に何が起こると思う?」

「あ、れ?」

 

 小猫が苦しそうに(ひざ)を突く。それを確認したライザーは炎により攻撃を止めた。

 

「火は酸素を喰う。酸素がなければ生物は欠乏症に(おちい)るんだよ。この炎の中であんなに動き回れば症状は加速の一途だぜ?」

「……くぅ」

「めまいが酷いだろう? 呼吸が嫌に難しくはないか? 筋力が低下している自覚あるか?」

「……ま、まだやれます」

「いいや、終わりだ。この炎の(おり)がお前の終点だ」

 

 右手に巨大な炎を溜め込むライザー。

 そしてそれを容赦なく放つ。

 不味いと小猫が悟った時には手遅れだった。灼熱は眼前まで迫り、小さな体を飲み込もうとしている。

 その刹那、炎の檻を切り裂いて渚が小猫を抱えた。

 

「間に合ったか!」

「なぎ、せん……ぱい」

 

 炎と言う炎から逃れた渚と小猫。

 

「五人相手に突破してきのかよ」

「突破しただけだ」

 

 全身から血と焼けた匂いがする。

 渚は無理矢理に包囲網を破ったのだ。その代償は少なくないダメージだった。

 

「ライザー様」

 

 イザベラを筆頭にフェニックスの陣営が集まる。

 

「申し訳ありません」

「ふん、いいさ。あの野郎は俺がブチ殺したかった。──ユーベルーナ、来い!」

 

 ライザーが自らの"女王(クイーン)"を呼ぶ。ユーベルーナは朱乃との戦闘を中断して"(キング)"の前に降り立つ。朱乃もまた渚と小猫を庇う位置に移動する。

 

「随分とやってくれましたわね」

「おやおや、リアスの"女王(クイーン)"がお怒りだ。お前たちとて俺の可愛い眷属を撃破している、その怒りはお門違いという物だぜ?」

 

 ライザーが朱乃を挑発する。

 祐斗はリタイア寸前、一誠も意識はあるが動けずにいる。小猫に限っては回復に暫く掛かるだろう。

 対して相手は七人。"(キング)"の登場でこんなにも形勢が変わってしまった。

 

「まぁよく頑張った方じゃないのか?」

 

 炎をちらつかせるライザー。絶対有利の状況と確信しているからこその言葉だ。だが彼に喜びはない、あるのは無気力な感情だった。

 渚は違和感を覚える。眷属たちは死に物狂いでライザーを勝たせようとしているが、そのライザーがゲームに意欲的ではない。端的にいえば面倒な事を早く終わらせたいという怠惰(たいだ)さすら感じる。

 

「それで? 負傷者だらけの状況でまだやるのか?」

 

 当然だと渚が言い返そうとした時だ。知った気配がすぐ近くに現れた。

 

「──勿論よ」

「なんだ、来たのか」

 

 ライザーの質問を切り捨てたのは凛とした声だ。

 その声の主は堂々と紅い長髪を揺らしながら漆黒の翼で戦場へとやってきた。

 

「ライザー、貴方は私の可愛い眷属を(あなど)りすぎね」

「リアス、この惨状を見ての言葉なら正気を疑うぞ」

 

 登場したのはアーシアと連れたリアス・グレモリーその人だ。決して浅くはない傷を負った渚を見たアーシアが目を見開く。渚は『大丈夫だから、グレモリー先輩のそばにいてくれ』と無言の合図を送ると伝わったのか、踏み出そうとした足が止まる。

 

「アーシア、祐斗からお願いね」

「は、はい」

 

 アーシアが申し訳なさそうに渚へ目配せするが頷いて指示に従うよう伝えた。

 祐斗の治療が始まるとフェニックス陣営がアーシアに注目した。自分達が持つ"フェニックスの涙"と同等の回復、しかも一回きりでなく無限に使えるアーシアは敵対する陣営からした厄介(やっかい)すぎる能力の持ち主だ。

 

「アレは優先的に倒すべきだな。──ユーベルーナ」

(おお)せのままに」

 

 ユーベルーナの手の平がアーシアに向けられる。

 渚が刀を手に走り出そうとした。だがリアスに止められる。抗議しようと声をあげようとしたが『大丈夫よ、貴方のパートナーが動いてるわ』という言葉で彼女の姿を探す。

 そして爆発が起きる。それは何度も見たユーベルーナの爆破の力だ。アーシアを吹き飛ばす為に放たれた力は衝撃となって破壊を広げていく。

 

「やらせませんわよ」

 

 迫る爆撃を燃え盛る炎の翼が遮断する。レイヴェルが炎の翼を広げながらユーベルーナの爆破からアーシアと祐斗を守るように立つ。その姿を見たライザーは眉間にシワを寄せた。

 

「……レイヴェル」

「やっと(わたくし)の方を見てくださいましたね、お兄さま」

 

 炎を宿す兄妹が相対する。

 どこか諦めぎみな兄に挑むような情熱的な妹。対照的な二人である。

 

「お前と戦う気はない、下がっていろ」

「……"両陣営から一人選んで第三勢力する"。それを聞かされた時に決めましたの。──(わたくし)が、その品曲がったお兄さまの性根を叩き直すと」

「それで志願したわけか」

「そうですわ、この結婚は断固として反対です」

「祝福してくれると思ったんだがな……」

 

 残念そうな兄に妹は悲しそうな顔をした。

 

「それがお兄さまの本心なら祝福しましたわ」

「何を言ってるんだ、これは俺の意思で決めたことだ」

「嘘。お兄さまは……ただ逃げているだけですわ」

 

 ライザーが黙り込んだ。薄気味悪くらいに表情から感情が消えていた。

 代わりに炎の翼が激しく揺らぐ。

 

「……もう一度言うぞレイヴェル。下がれ、俺はこのゲームに勝つ」

「否定しますわ、(わたくし)にも目的があるのですわ」

「目的? 初耳だな、俺の婚儀の邪魔以外に何かあるのか?」

「このゲームは魔王ルシファーさまがご覧になられている。きっと勝者はあの方から直接にお言葉を頂けますわ」

「栄誉なことだ。だが意外だったぞ、お前がサーゼクスさまのファンだったとは」

 

 ライザーの言葉に首を振るレイヴェル。

 

「そんな俗物的な考えではありませんわ」

「ふん、ならなんだ?」

「お兄さまをこのような腑抜(ふぬ)けにした(やから)がいたと魔王さまに直訴(じきそ)しますわ」

「……なんだと?」

「聞こえませんでしたか? (わたくし)は訴えるのです。あの──」

「その名を口にするな!!!!」

 

 ライザーが激情を(あらわ)にすると膨大な熱量を放出する。

 そこあったのは明らかな焦燥と恐怖だ。レイヴェルが口にしようとした名を無理矢理に閉ざすのは荒ぶる炎。

 紅蓮の暴風となったライザーの激情が駒王学園を支配した。凄まじい炎の魔力放出は上級悪魔に相応しい暴力を秘めている。

 

「もういい、喋るな。お前はここでリタイアしろ、今すぐにだ」

「……お兄さま」

「行くぞ、レイヴェル」

 

 ライザーの放出した魔力に指向性が宿る。

 狙いは実の妹であるレイヴェル。まともに受ければ致命的なダメージとなる炎が彼女を襲う。

 

「──何やってんだ、アンタは」

 

 そんな炎を渚が切り裂く。

 荒れ狂う暴炎は()()りになり、業火の地獄を産み出す。

 燃え盛る駒王学園。炎熱と化した戦場で渚は、鋭くライザーを見つめた。

 

「流石に今のは実の妹に向ける魔力じゃないだろ」

「部外者が黙っていろ。俺たちはフェニックス(不死)だ、死にはしない」

 

 ライザーの言い分に渚が「やれやれ」といった風な態度で大袈裟(おおげさ)に肩を(すく)めた。

 

「死なないから燃やし尽くしても問題ないってか。……バカだろ、テメェ?」

 

 呆れ顔が一変して怒気を含んだ声となる。同時に渚の姿が忽然(こつぜん)()き消えた。

 この場にいる全員が渚を探す。

 最初に渚を感知したのはライザーだった。いや(とら)えられたというべきだろう。彼の胸からは真っ赤な色に染まった白銀の刀身が生えていたのだ。

 

「ゴホッ、ぐぁ」

「妹の全身を焼こうとしたんだ、これぐらいはどうってことないだろ?」

 

 苦悶(くもん)の声をあげるライザーに冷たく言い放つ。

 そう、死なないだけで痛みは感じるのだ。なのにライザーはレイヴェルを焼こうとした。きっと二人の様子から渚の知らない深い事情があるのだろう。

 それでも(かん)(さわ)った。

 妹に手をあげる兄がどうしても許せなかったのだ。

 自分でも驚くぐらいにライザーに対して怒りを向けている。心の奥底で『この男の暴挙を許すな』と叫ぶ自分がいる。

 

「妹でもいたのかな、俺は……」

 

 自らの失くしたモノ(記憶)に問いかけながら突き刺した刀を一気に引き抜く。

 渚の救援されたレイヴェルが何故と問いかけてくる。

 彼女を助けた理由など一つしかない、()わした契約を遂行(すいこう)するためだ。

 

「貴様ッ!」

 

 ライザーの炎が巻き起こすが渚はすかさず回避した。

 そしてレイヴェルの隣に立つと目を合わせず刀を構えて言う。

 

「──勝つんだろ?」

「勿論ですわ!」

 

 同意の言葉が返ってくると同時に炎が渚とレイヴェルを襲う。

 本格的に容赦のない攻撃である。渚は炎を切り裂き、ライザーに刃を叩きつける。

 

刻流閃裂(こくりゅうせんさ) "輝夜(かぐや)"」

 

 名が(たい)(あらわ)し、(こと)()が式を()む。

 そんな言葉がある。

 異能を使う際、名を口にするということは無駄な行動に見えて実は必要な儀式だ。名を呼ぶことで技に霊が宿り、霊が宿ることで光速を超えた斬撃を叩き込むという本来なら不可能な事象を実現する。

 武の剣術だけではたどり着けない霊と武の混合術、それが"刻流"という戦闘術式である。

 渚の超速の刃はライザーの肉体を深々と切り裂く。

 本来ならこれで終わる。だが斬られたライザーは哄笑(きょうしょう)する。

 

「バカが! 俺はフェニックスだぞ、すぐに元通りだ!!」

 

 裂かれた肉体が炎と共に再生するとライザーは元の健全な姿へと戻っていた。凄まじいまでの治癒、確かにこのレベルの自己治癒力を持っているのなら不死を名乗りたくもなるだろう。

 ならば……と渚は両手で刀を握る。

 

「刻流閃裂 "門都(かどつ)"」

 

 一瞬十斬。

 (またた)きの間にライザーの肉体が千切(ちぎ)()ぶ。

 

「ははは、無駄だと──」

 

 不死鳥は修復するが再びバラバラになる。

 

「な、何ぃ!!」

コイツ(門都)は乱撃だ。お前が再生すると同時に切り刻む事が出来る」

「そんな事を繰り返しても、いつかはスタミナが尽きるだろうが!」

「ああ、最初からそのつもりだ。心配するな、案外とスタミナには自信がある」

 

 伊達(だて)に多くの"はぐれ悪魔"を狩ってはない。一夜に五匹以上などザラなのだ、そんなハードスケジュールを半年以上も繰り返せば嫌でも体力は付く。

 

「こんな程度で!!」

「肉体が無理なら精神を()つってな!」

 

 (ことごと)くライザーを斬りつける。

 ライザーも距離を離そうとするが渚はしぶとく追いかけては刃を振るう。

 

小癪(こしゃく)なぁ!」

「そうか? 正攻法だろ?」

「生意気な野郎だ!」

「顔が辛そうだぞ、不死鳥?」

「小僧が! 黙れよ!!」

 

 根比べは間違いなく渚が優勢だった。

 それもそうだ。

 渚は派手に動いて乱舞を繰り返すだけだが、ライザーは常に切り刻まれる激痛を味わっている。精神的にも追い詰められているのは間違いない。

 

「いい加減にしやがれ!」

 

 痛みに耐えかねたライザーが炎を爆発させた。

 これには渚も防御に回る。

 その隙に撤退するライザーだったが横から炎が飛んで来た。思わぬ攻撃に足を止められる。

 

「レイヴェル!!」

「お兄さま、(わたくし)は勝つと言いましたわ」

 

 悲痛な表情でライザーの動きを封じるレイヴェル。

 その隙を渚は逃がさない。

 

「足が止まってるぞ!」

「ぐぁ! くそ、クソクソクソクソクソ!!!!」

 

 渚とレイヴェルによって精神が磨耗(まもう)したライザーは狂ったように目を血走らせる。

 眷属たちに助けを求めようとしても、いつの間にかグレモリー眷属との戦闘に入っている。

 勝負はあった。

 もはや逆転の目はないだろう。渚のスタミナはまだ底を突く気配はなく、ライザーの精神力はレッドゾーンだ。誰もが渚の勝利だと思う展開である。

 

「また負けるのか? また俺を(みじ)めと(さげず)むのか? 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!! そんなのは嫌だぁああああああ!!」

 

 感情の爆発が起きる。

 病的に何かを拒むライザーが光を放つと同時に自身を覆い隠す、まるで光輝く黄金の卵のようだ。

 フェニックスの炎よりも輝くソレは否応なく全ての者を釘付けにした。

 そんな中でも渚は心を強く掻き乱された。

 

「……ヤバい」

 

 ありふれた言葉だ。

 しかし内包された焦燥と恐怖は()(はか)れない程に大きい。あの美しくも恐ろしい色彩の降臨が良くない現象だと渚は知っている。だが何かは|解らない()()()()()()

 気づけば痛いくらいに刀を握りしめていた。

 

 ──ドクン。

 

 ライザーを取り込んだ黄金の卵が鼓動(こどう)を響かせて亀裂(きれつ)が入る。

 亀裂は広がり、黄金が砕けた。

 その中から出来てきたモノは渚の知るライザー・フェニックスではなかった。……いや人ですらない。

 影が地に(かぶ)さり、炎熱の羽ばたきが駒王学園に吹き荒れる。

 

「……フェニックス(不死鳥)

 

 レイヴェルが静かに空を見上げて呟く。

 天より地上を見下ろすのは空を覆う極炎の魔力と燃え盛る巨鳥。あまりに唐突(とうとつ)過ぎるライザーの変異にグレモリーだけではなくフェニックスの眷属たちですら驚愕している。

 この不死鳥の出現はイレギュラーなのだろう。

 ともせずライザー・フェニックスという悪魔は人の形を捨て、不死鳥という怪物に新生したのだった。

 

 

 





データファイル

刻流閃裂(こくりゅうせんさ)天鐘楼(てんしょうろう)”』

一撃に全霊を込めて放つ荒技。対象を斬り裂くのではなく、叩き斬るという破壊で討つ。
斬撃を放つ前に一瞬の”溜め”を要求するため乱発は出来ないが、その威力は段違いであり堅牢な防壁だろうが力で叩き潰す。
主に防護に優れた相手に使用する技である。


刻流閃裂(こくりゅうせんさ)門都(かどつ)”』

秒間十斬の素早い乱撃。その斬撃の全てが次に繋がるように放たれているので必ずしも十回で終わるとは限らないのが特徴。使い手に体力が多ければ多いほど斬撃の数を増やすことが可能。
”輝夜”とよく似ている速度重視の技だが一撃必殺の輝夜と違い、此方は手数に物言わせた連撃決殺。速度は輝夜に及ばないがライザーのような修復力に優れた敵を殺し続けられる殺尽剣(さつじんけん)の一つ。


『”不死鳥”』

ライザーが変異したモノ、詳細不明。


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