ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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不死を司る者《Battle Field of School Ⅲ》

 

「一体、何が起きたと言うの?」

 

 グレモリーとフェニックスのレーティング・ゲームの進行役であり審判であるグレイフィアが険しい表情で端末をタイピングする。彼女の前で浮くように存在する半透明のモニター全てがエラーの文字を映し出していた。最後に捉えた音声は耳をつんざく爆発音である。耳に掛けていた通信機に手を添える。

 

「グレモリーならびにフェニックスの方々、私の声が聞こえますか?」

 

 返事はない。有無を言わさず、強制退去のシステムを起動させるも誰も戻ってくる気配がない。

 本来ならあり得ない状況だった。

 通信が来る。リアスたちからの返事かと期待したが違った。

 異常を察知した観戦者たちだ。

 選手を心配する声もあるが、それ以上に『試合を見せろ』という横暴な態度の者が大半だった。

 礼節に欠いた言葉の数々を前にしてグレイフィアはオープンチャンネルにすると冷静な声音でマイクに声を当てた。

 

「観戦者の皆様ご安心を。このグレイフィア・ルキフグスが責任をもって事態の解決を致します」

 

 そうして通信を切った。

 グレイフィアは冷静だったが、危機感が無いわけではない。

 寧ろ、一刻も早くなんとかしないと不味いと感じているほどだ。

 あらゆる計器が機能停止するなかで生きている装置に目をやった。

 それは魔力観測値。駒王学園というバトルフィールドにいる選手の魔力を数値化する物だ。その計器が突然、急激な上昇を観測したのだ。魔力は悪魔の戦闘能力の基準の一つ。そして新しく表示された魔力総量は魔王クラスに迫る数値だ。

 何かが突然現れたのは間違いないだろう。ソレが出現した影響で計器が狂ったとすれば辻褄があう。

 グレイフィアはバトルフィールドへ転移するための抜け道を探すべく行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 炎が焼き尽くす駒王学園。

 燃え盛る戦場には凶鳥が一匹。

 炎熱を支配する其れは炎を司る者。

 名をフェニックス。

 悪魔の遊戯に降臨した"不死"という概念の象徴である。

 

「ライザー……なのか?」

 

 一誠は声を震わせながら"不死鳥"を見上げる。

 おおよそ人であったとは思えない怪物だ。内包する魔力、存在感がライザーとは異なり過ぎていて別物である。

 グレモリー眷属もフェニックス眷属も"不死鳥"にどう対処して良いのか分からない様子だ。

 あまりのイレギュラーな出来事であるため、このままゲームを続けるべきか否かという疑問。敵として攻撃すべきか、味方として共に戦うかという困惑。炎熱のフィールドで誰もが混乱している。

 

「いや違う。もうアレの中にいるのはライザーだけじゃない」

 

 渚はこの"不死鳥"がなんなのかを知っている口ぶりだ。

 

「ど、どういう意味だよ、ナギ」

 

 一誠が聞くと渚は片手で顔の半分を覆う仕草をする。

 歯を食い縛りながら懸命に記憶の糸を辿っている姿だとすぐ気づく。

 

「分からないんだ。ただ、あの"不死鳥"を視界に入れると頭にノイズが走る。ザラ付いた不快な違和感、アイツの()()()を見ればより一層大きくなる。"不死鳥"の瞳の"黄金"には覚えがある。ノイズが警告してくるんだ。……アレは暴虐と破滅の色彩だってな、クソッ」

 

 あの凶鳥はライザー・フェニックスという悪魔ではなく、もっと禍々しい"ナニか""になっていると確信が渚にはあるのだろう。

 一誠は渚の言葉に冷や汗を流した。

 "不死鳥"が動き出す。双翼を大きく広げたのだ。

 転瞬、無数の太陽が現れて極太のレーザーが降り注ぐ。

 大地を焼き払う狂暴な閃光は無差別な破壊を撒き散らす。直撃すれば間違いなく塵も残らないだろう。

 そして、その攻撃には敵味方の識別はなかった。

 一誠は懸命に逃げながら仲間に目をやる。朱乃、祐斗、小猫は上手く躱し、一番心配だったアーシアはリアスが保護していた。

 ふとフェニックス眷属がどうなったか気になり、視線を向ける。

 

「なぜこのような事をなさるのですか!」

「お止めください! ライザー様っ!!」

「やめてにゃ、ご主人さまぁ!」

「このままでは我々も全滅します!!」

 

 ユーベルーナとイザベラを始めとした眷属が懸命に訴えかけるが"不死鳥"は聞く耳すらもたない。

 熱線がフェニックス眷属をターゲットにした。無数のレーザーが眷属たちを薙ぎ払おうと迫る。

 渚は舌打ちしながら跳躍する。そして"不死鳥"の巨大な片翼を斬り跳ばす。

 巨大な翼を切断した渚に全員が注目した。やはりこの中でもっとも戦闘力が高いのは彼なのだ。

 

「ボサッとするな、死ぬぞ!!」

 

 渚の大声でフェニックス眷属だけはなく、グレモリーの眷属も我に返る。

 まず動いたのはリアスだった。

 

「朱乃、明らかな緊急事態よ。義姉さん(グレイフィア)とコンタクト取って」

「ダメ、繋がりませんわ」

 

 不味いとリアスは目を細めた。どういうわけか審判にも連絡が取れなくなっている。このままでは離脱もままならない。それは瀕死の重症を負っても医療施設への転移が始まらないと同義だ。

 

「レイヴェル・フェニックス」

「な、なんですの」

「貴女の兄は、どうしてああなってしまったの?」

「存じあげませんわ。あんな姿になる者は一族におりません」

「じゃあこの件は置いておきましょう。……ユーベルーナ」

「何かしら、リアス・グレモリー」

「ライザーを止めるわ、協力して」

 

 リアスの提案に難色を示すユーベルーナ。

 

「敵である、あなたと?」

「"王"に眷属殺しをさせたいの!」

「……ッ、敵の助力はいらないわ」

 

 ユーベルーナがライザーに近づくと戦う渚を押し退けて説得を始めた。

 渚が「止めろ」と警告するが無視される。懸命にライザーに訴えかけるユーベルーナだが、その行為も空しく"不死鳥"は狂暴な光を放つ。悲しくも歯がゆそうな表情で炎に飲み込まれそうになるユーベルーナ。

 だがその炎にユーベルーナに直撃する事はなかった。

 

「……くっ、ご無事かしらユーベルーナ?」

「レ、レイヴェルお嬢さま」

 

 ユーベルーナを庇ったレイヴェルが地面に転落する。

 

「何故! そんな、私のせいで!!」

「お気になさらず」

「しかし!」

 

 ユーベルーナが倒れるレイヴェルを抱え込む。

 あり得ない事が目の前で起きている。

 フェニックスであるレイヴェルの左腕が焼失していた。再生する気配すらない。まるで完全に消し去ったと言わんばかりだ。このフィールドにいる全員が異常な出来事に注目した。

 

「妹に何してやがる。……二度も言わせんなよ、ライザー」

 

 怒りの声は渚に他ならない。

 実の妹の腕を消し去った"不死鳥"は更なる追い討ちを掛けようとしていた。

 巨大な凶鳥を一刀の元に叩き斬る。

 直ぐ様、再生しようとするが怒りに猛る渚は荒々しく刀を納めると再び抜刀した。

 

「千切れ消えろ。──刻流閃裂(こくりゅうせんさ) 輝夜(かぐや)貌亡(かたなし)

 

 文字通り、形が無くなるまで微塵に斬り裂かれる"不死鳥"。

 それを見送った渚がレイヴェルの前に直ぐ様、駆けつける。

 

「再生が始まらないのか?」

「……のようですわ」

 

 苦しそうに笑みを浮かべるレイヴェル。

 

「すぐに治療をする、アーシア!」

「はい、お任せを!」

 

 渚の呼び掛けた時、既にレイヴェルの前にやって来ていた。

 淡い癒やし光が包む。

 レイヴェルの表情から少しだけ苦痛が抜けた。

 残ったもう一つの手が渚の服を弱々しく掴む。

 

「……お願いがありますの」

「言ってくれ」

「お兄さまを止めてください。……やってくれますか?」

「了解だ、契約だからな」

「……ええ、契約ですわ」

 

 渚が立ち上がる。

 視線の先にいるのは微塵になった筈の"不死鳥"。完全に復活した"不死鳥"は炎熱を撒き散らしながら眼下の者を見下す。灼熱の視線に対し、渚は鋭く斬るような目で睨む。

 

「ユーベルーナさん、俺はライザーを倒す。……邪魔だけはするな」

 

 冷たく燃えたぎるような言葉。

 ユーベルーナは何も返さない、いや返せない。彼女が犯した行動でレイヴェルが重症を負ったのだ。ただ黙って渚を見送った。

 再び、渚が"不死鳥"と交戦を始める。

 

「ユーベルーナ、グレモリーと協力しよう」

 

 そう言ったのはイザベラだ。

 フェニックスの眷属たちも気づいているのだ、自分の主人が異常な事態に見舞われているという事実に。

 ユーベルーナが唇を噛み締める。だが仲間たちがライザーに向ける悲痛な視線に顔をあげた。

 

「……ライザー様を戦闘不能にするわ」

 

 ユーベルーナを含めた眷属たちが頷く。

 それはとても重要な意味を持つ決断だった。

 ライザーを戦闘不能すればゲームのルール上、敗北である。……だとしても反対するものは居なかった。

 主人のために敵の力になる。言葉では簡単だが悪魔という存在はプライドが非常に高い。それを捨ててまで敵の手を借りるのは単純にライザーを慕っているからだ。

 両眷属の協力体制が整ったと同時にリアスが前に出た。

 

「皆、アレを見て」

 

 彼女の指差す方向で渚が"不死鳥"を切断していた。けれど、すぐに再生する。

 一進一退の攻防。

 現在進行形で渚が"不死鳥"と戦闘を繰り広げているが勝機があるようには見えなかった。斬った次の瞬間には再生して傷が消えるなど反則的な治癒力だ。

 

「変異前より治るスピードが上がっている以上、生半可な攻撃では倒せない」

「つまり何が言いたいの? リアス・グレモリー」

 

 ユーベルーナの質問にリアスは即答する。

 

「……手加減なしの総攻撃。これが最良だと進言するわ」

「つまり殺す気で掛かれと言うこと?」

「ええ」

 

 フェニックス眷属に迷いが生まれる。主を助けるために主を殺す。そんな矛盾を突き付けられれば仕方ないことだ。

 

「やりますわよ、みんな。お兄さまには沢山文句を言わなければなりませんもの」

 

 片腕を失くしたレイヴェルが言う。

 真っ青な顔でアーシアの肩を借りて立つ姿は、痛々しいが眼には強い力が宿っていた。全員がその姿を見て鼓舞された。ライザーを助けるために矛盾すらも呑み込む。

 この場所に存在する異能が一斉に"不死鳥"に向けられた。『赤龍帝(ブーステッド・ギア)』の『倍加』、『魔剣創造(ソードバース)』による多彩な属性攻撃、雷による猛攻、滅びによる滅殺、小さな巨腕による重い打撃などといった多くの攻撃が"不死鳥"に降り注ぐ。

 

「ダメだ、足りない」

 

 渚が忌々しげに呟く。

 "不死鳥"は悪魔たちの総攻撃からも蘇生した。

 

「あんなのどうやって倒すんだよ」

 

 一誠が恐怖するように"不死鳥"を見上げた。

 それは泣き言だが間違いなく全員の本心でもあった。

 圧倒的な火力と再生力。

 そんな相手をどう攻略すればいいのか。誰もが活路を捜すが"不死鳥"はそんな時間を与えない。頭上の"不死鳥"が羽根で自身を包む。光が収束し、魔力が迸る。

 フィールドの空にヒビが入り、地面が崩れ始めた。

 渚の第六感が死を予感する。

 凝縮された魔力の恒星……それが今のアレだ。炸裂すれば駒王学園を模したバトルフィールドなど簡単に消し飛ぶ。阻止は不可能に近い。例え防御に回ったとしても無駄だろう。

 

「クソ!」

 

 渚が前に出る。

 膨張する太陽を切り裂くためだ。

 しかし"不死鳥"は嘲笑うように力を解放する。

 全てが強烈すぎる熱と光の炸裂に支配される。

 それは俗に言う太陽フレアと称された現象、核兵器の一億倍にも及ぶ暴力だ。

 灼熱の濁流は、まず戦闘に立つ渚へと降り注ぐ。

 そして、その一切を否定するかの如く燃やし尽くした。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「ちょっと、これヤバイんじゃないの?」

 

 全てを見ていたレイナーレはアリステアに問う。

 

「ど、どうしよう。ナギサたちが死んじゃう……」

 

 ミッテルトも顔面を蒼白にしながらアリステアの服を引っ張っている。

 ライザーが変異した"不死鳥"は、かつて龍化したレイナーレよりも間違いなく強い。

 火炎による絶大な攻撃力、再生による不死性。どれをとっても死角がないのだ。

 実際、あの渚が手も足も出ていないのだ……勝つ可能性があるのは、その渚を超えるだろう実力を持つ白雪の少女くらいだろう。

 だが返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「二人とも戦闘準備をしてください」

 

 アリステアが映し出された映像から目を背けると何もない方向を冷めた瞳で見る。

 何事かとレイナーレが文句を言おうとした時だ、足跡が近づいてくるのに気づく。

 月の光がその者を映す。

 

「こんばんは、いい夜ね」

 

 現れたのはレイナーレやアリステアと同じぐらいの歳の女だ。

 密編みされた長い黒髪が月の光に反射する。剣呑な雰囲気と眼鏡が特徴の女は絶世の美女といっても良いだろう。

 

「何者です?」

 

 アリステアが聞くと、女は会話に対して面倒そうにため息を吐く。

 

「分かるでしょ、"敵"よ。でも自己紹介が必要ならしてあげる、あたしはセクィエス・フォン・シュープリス。ああ、お前たちの自己紹介はいらないわ、そっちの堕天使がレイナーレで小さいのがミッテルト。……そしてアリステア・メア」

 

 深淵が如く黒い瞳でセクィエスはアリステアを見た。

 

「よくご存じで、誰からソレを?」

「そこの堕天使が世話になった"道化"よ。これで分かる?」

「……カラワーナ」

 

 レイナーレが答える。

 強くなる方法を提示した友であり、自分を利用した堕天使の名だ。

 

「カラワーナ? あぁ最近までそう名乗ってたわね、とにかくソレよ。──じゃあ話は終わり。構えなさい、迅速に終わらせてしまいたいから」

 

 殺気を感じる暇もなく、セクィエスがレイナーレの首を掴む。

 何が起こった理解できないレイナーレ。

 気づいた時にはもう遅い。

 

「ちょっと、これぐらいは反応しなさいよ。もしかして殺る気ないの?」

「く……ぁ……」

 

 ミシリと首が軋む。

 セクィエスの瞳には落胆が見られた。

 腹が立つ。

 いきなり現れた女に、こんな顔をされる筋合いはない。

 

「れ、レイナーレ様を離せ!」

 

 死を感じた時、ミッテルトが光の槍を手にして突貫してくる。

 勇敢な心意気だが蛮勇でもある。セクィエスはミッテルトを見ることもせず槍を奪うと彼女の小さな身体に突き刺した。

 

「きゃう!」

 

 太ももを刺されたミッテルトが地面に転がる。それでも涙を流しながらセクィエスの足を掴む。

 

「は、離せよ、レイナーレ様が死んじゃうだろうが!」 

「うざったい堕天使ね」

 

 セクィエスはミッテルトを一瞥すると頭を踏みつける。

 地面に広がるミッテルトの血を見たレイナーレの怒りが爆発した。

 

「調子に乗ってんじゃないわよ、クソ眼鏡ぇ!!」

 

 瞬間、レイナーレの右手の甲が光を帯びた。

 真っ赤な光を放つソレからこぼれ出るのは、堕天使の彼女には馴染みのないドラゴンのオーラだ。

 

『──Dragon Booster(ドラゴン ブースター)!!』

 

 赤い装甲がレイナーレの手首から指先に掛けて包む。

 その形状は、一誠の持つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』によくて似ていたが籠手ではなく手甲に近い。

 甲の部分にある碧の宝玉から放たれた閃光によってセクィエスの目が眩むのを見たレイナーレはすかさず光の槍を振るう。

 

「少し驚いた。……で、次はどうするつもり?」

 

 首を狙った光の槍だが、セクィエスは顔色一つ変えずに鷲掴みにする。

 

「こうすんのよ!」

 

 手甲に意識を集中する。

 もしもレイナーレの思った通りなら、あの能力が備わっている可能性が高いのだ。

 魂を込めて叫ぶ。

 

「私を高みへと導きなさい、『赤龍帝の欠片』!」

 

 彼女の言葉に宝玉が輝いた。

 

『Boost!!』

 

 槍の光力が高まる。

 熱を発する槍によってセクィエスの皮膚が焼け始めた。

 その状況でもセクィエスは表情を変えない、ただただ面倒そうな顔をした。

 

「へぇ赤龍帝の真似事ができるの……。でもこの感じからして上昇率は1,5倍ってところね」

「なに余裕ぶって解説してんのよ、ぶっ殺すわよ」

「余裕なのよ、実際。劣化した倍化を振りかざしている程度で勝てるつもり? 所詮は分霊、相手にならないわ」

「言ってなさい!」

 

 レイナーレが槍で猛攻を開始する。長いリーチを使った横薙ぎ、鋭い連続突き、叩き潰すような打撃。

 その動きは一級品であり、達人の領域にある技の冴えだ。今日昨日で身に付けた技術ではなく、端々に厳しい鍛練の成果が滲み出ている戦い方だった。

 

「意外。堕天使の槍は基本的に投げて使うと思ってたわ」

「勉強不足よ、人間」

 

 相手の質問を足蹴にするレイナーレ。

 しかしセクィエスの言葉はあながち間違ってもいない。

 光の槍の用途は大半が投げ槍として使われる。仇敵である悪魔と天使が遠距離を主にした種族だからだ。

 接近戦闘を挑むのは只のバカか、腕に覚えのある者だけだ。

 そしてレイナーレは後者である。才能がないから努力した結果とも言えよう。光力の総量では並みの堕天使以下の彼女だが、槍捌きでは並みの堕天使など相手にならない。

 

「悪くない技量ってのは認める。……けど飽きたわ」

 

 レイナーレの槍をセクィエスがガシッと掴む。

 

「……なっ」

「凡人が努力したトコで越えられないモノがあるのよ、堕天使。──例えばあたしとか、ね」

 

 片手で槍を持ち上げるとレイナーレを勢いよく投げ捨てるセクィエス。

 レイナーレが翼を広げて急ブレーキを描けると槍を逆手に持ち変えた。

 既に5回ほど倍化している。威力にしても、かなりもモノになっているはずだ。

 

「これなら……どう!」

 

 槍を投擲するがセクィエスは避ける素振りすら見せないどころか前に進み出す。

 

「5回の倍加ってことは大体7,5倍か。──選択ミスね、せめてあと50回はブーストして出直しなさい」

 

 迫る槍の刃先に人差し指を当てる。

 すると槍が飴細工(あめざいく)のように砕け散った。余りの呆気(あっけ)なさにレイナーレは言葉を失う。

 

「この程度で何を驚くの、バカ?」

 

 そんな彼女の右頬を冷たい指先が触れた。

 つい今まで数十メートル離れた場所にいたセクィエスが目の前に居たからである。

 

「──ッ!!」

「少し動きを速くしただけでこれか……。このまま目でも潰そうかしら」

 

 右頬に触れる手、その親指がレイナーレの瞳を覆い隠す。このまま突き刺されると思った時だ。

 

「さっきから楽しそうですね。私も混ぜてくれませんか」

 

 レイナーレの鼻先を弾丸が通りすぎる。その弾丸によってセクィエスから解放された。

 

「仲間にも当たるとこよ、アリステア・メア」

「ご心配なく、弾道の計算は完璧ですので」

「よく言うわ、仲間がやられてるのを黙って見てたくせに」

「折角ですので彼女たちにも経験を積んで貰おうと思ったのですよ」

「あたしがその気ならとっくに堕天使どもは死んでるわ」

「ええ、だからそうなる前に邪魔したのですよ」

「性格最悪ね、お前」

「せめてスパルタと言って欲しいものです」

「ああ言えばこう言うわね」

 

 セクィエスがアリステアを肉薄する。

 あまりのスピードに瞬間移動したとしか思えない程である。アリステアの細い首をセクィエスの手が狙う。

 

「遅いですね」

 

 だがその手が届く前にアリステアは華麗なハイキックでセクィエスを吹っ飛ばした。人間がサッカーボールのように飛んでいく威力だ。普通なら重症は避けられない。そんなキックを受けたセクィエスが猫のように回転して着地する。

 

「へぇ、びっくり。あの"道化"があたしを派遣するわけね。……全く本当に面倒だわ」

 

 そんなキックを受けたセクィエスが猫のように回転して着地する。距離を開けた敵にアリステアが銃口を向けた。

 

「面倒なら手早く済ませましょうか?」

 

 銃口から放たれたのは弾丸ではなく閃光。

 それはクラフト・バルバロイを戦闘不能した神速の銃弾だった。目視すら不可能な光がセクィエスを正面に捉える。

 誰もが直撃を予測した。

 しかし次の瞬間、光が消失する。

 

「こんなの避けるまでもないわ」

 

 見ればセクィエスの手の平に赤いビー玉に似た物質が浮いていた。

 アリステアが目を細める。

 

「それは"血"ですね」

「ふん、眼はいいようね。ええ、そうよ。お前の弾丸を私の血で包んで密封した」

「興味深い、霊気や運動エネルギーすら遮断するとは面白い術式です」

「そう? けれどお前の術は詰まらないわ、ただ異能で弾丸を速く撃ち出すだけ……。そんなの誰でも出来る」

 

 セクィエスが手を閉じて人差し指をアリステアへ。

 彼女の指に追従してた赤い玉。それが燃えるようなオーラを吹き出す。

 

「バァン」

 

 バカにしたような口調で言うと真っ赤な玉が弾丸となってアリステアへ飛んでいく。

 速度は一切変わらないままの攻撃だった。だがアリステアは首を少し動かすだけで避けてしまう。

 背後で爆発が起きる、真夜中を深紅に染め上げるほどの……。

 

「詰まらないという割りに同じ手を使うのですね」

「今のは嫌がらせ。神速に辿り着いたお前に対してのね」

「くだらない自尊心ですか。それともアレが私の切り札だとでもお思いで?」

「あら違うの?」

「相手の力量を測れない貴女を哀れむべきでしょうか?」

「じゃあ見せてくれない?」

「いいでしょう、私としても少々時間が惜しい」

「蒼井 渚ってヤツが心配? そんな気にしないでいいわよ。フェニックスが失敗したら、わたしが殺してあげるから安心して先に逝きなさい」

「殺す? 誰が誰をですか?」

「わたしがお前たちをよ」

 

 白い少女と黒い少女が笑みを浮かべる。

 それは互いを殺さんばかりの殺意の証明だ。

 そして深夜の森でレーティング・ゲームなどでは決してあり得ない。

 正真正銘の殺し合いが始まった。

 

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