ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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第二の目覚め《The Second Awakening》

 

 気づけば立派な武家屋敷の庭に渚は立っていた。眼前に迫っていた"不死鳥"の炎は消えて、嘘みたいに落ち着いた光景が現れたのだ。

 一瞬、あの世かと勘違いしたが()()も来た場所だったので、まだ生きているのだと考えを(あらた)めた。

 

「やっぱり落ち着くな、ここ」

 

 渚の到来を喜ぶように優しい風が舞う。

 つい最近訪れた場所だが、もうずっと前から知っている感覚が全身に包む。懐かしい匂いと風景は脳ではなく体の記憶だろう。

 ここは"魂の座"と名称された渚の精神世界、外の世界とは切り離された場所だ。大きく深呼吸してから後ろを向くと予想通りの人物が立っている。

 

「こんにちは、ナギくん」

「譲刃か」

「はい、千叉(せんさ)譲刃(ゆずりは)です」

 

 綺麗な黒髪を揺らすのは和服を着こなす少女。本人いわく"刀に宿る残留思念"との事である。

 相変わらず表情の読めない綺麗な顔で渚を真っ直ぐ見ていた。彼女が渚をここへ招く時は(なん)らかの手助けをしてくれる。他力本願で情けない気もするが、人の命が懸かっている以上はそんな事も言ってられない。

 

「ちょっと不味い状況なんだ、力を貸してほしい」

「キミの頼みなら(いく)らでも。……でもどんな形で力を貸せば良いのかな?」

 

 試すような視線。

 渚の目的は"不死鳥"の打倒だ。きっと譲刃も分かっているのだろう。

 だから即答する。

 

「あの"不死"を突破する力が欲しい」

「突破、ね」

 

 少し考えるような仕草を見せる譲刃。

 やはりあの馬鹿げた再生を超えるのは不可能なのだろうか。

 

「簡単には無理か?」

 

 だが渚の予想に反して譲刃は首を振った。

 そして手を(かざ)して刀を呼び出す。渚が使わせてもらっている刀だ、(めい)は彼女と同じ名の"譲刃"または"護神刀"とも呼ばれている。

 

「可能よ。この刀の特性は"千切(ちぎ)り"、あらゆる物を斬り(はら)える。ナギくんが決め手に()けているのは単に刀の出力が"不死鳥"に(おと)っているだけなの。私が力を貸せば負担は大きいけど斬れるようになるわ」

「本当か!」

「けど問題が一つ」

 

 ビシッと人差し指を伸ばす譲刃。

 

「問題?」

「その前に質問かな」

「あ、ああ」

「ナギくんはフェニックスの彼をどうしたいの?」

「……どうしたいかって言われれば倒さなくちゃならない」

「どんな形で? あのレイヴェルって子からお兄さんをお願いされてるんだよね?」

 

 それを聞いて譲刃の言いたい事を理解した。

 渚はレイヴェルからライザーの事を頼まれている。譲刃の力を借りれば"不死鳥"に対抗は出来るのだろう。しかし同時にライザーを殺すという意味も含まれる。

 あの兄想いのレイヴェルがそんな事を望むのだろうか……いや、きっと殺してしまっても渚を責めないだろう。渚よりもずっと賢い彼女が最悪な状況を想定しない筈がない。

 だから"兄を助けてください"ではなく"兄を止めてください"という言葉を使ったのだ。

 

「そういうことか」

「分かったみたいね、それでどうするかな? ──(とき)の流れさえすら閃裂(せんさ)く鬼の剣、与えましょうか?」

 

 譲刃が白い手を差し出す。

 この手を取ると力を得られる。

 あの"不死鳥"は渚だけでは絶対に倒せない。つまり手を取らなければあの場にいる全員が死ぬ。命を天秤で数えるならば選択の余地(よち)など有りはしない筈だ。ここで思い止まっている時点で馬鹿げている。犠牲者の中には渚の大事な人達が含まれているのだ。今日、出会ったばかりの兄妹を救う義理なんてありはしない。

 しかし、それでも……。

 

「そう、何人(なんぴと)たりとも斬り伏せる力は必要ないのね?」

 

 譲刃が手を下ろす。

 どうしても、その手は握れなかった。

 間違っている自分の愚かさに幻滅すらした。誰か優柔不断な自分を断じて欲しいくらいだ。

 けれど譲刃は嬉しそうに笑う。

 

「よかった、やっぱり私の知ってる蒼井 渚だったよ」

「……え?」

「誰もが見捨てる状況でも手を差し伸べる高潔な精神、私が憧れた蒼き信念はキミの中でも生き続けている」

「譲刃?」

「ただ斬るだけの剣鬼(わたし)では最善の未来を手繰(たぐ)り寄せる事は出来ない。だけど()()なら可能かな」

 

 譲刃が刀を抜くとヒュッと横へ()ぐ。

 すると次元が裂けた。

 急な展開に呆然とする渚。

 

「この先に求めてるモノがあるわ」

「俺の求めるもの? その()()って人物がいるのか?」

「行けば分かる。分からなくても解る筈よ」

 

 次元の裂け目からは蒼一色の世界が広がっている。

 渚は意を決したように歩を進めた。譲刃は決して嘘を言わない。この先に渚が必要としている物ないし人が待っているのだろう。

 

「なら行ってくる」

「うん、彼女によろしくね」

 

 こうして蒼の世界に飛び込む。

 

「あ、足元に気を付けて」

「へ?」

 

 瞬間、落下した。

 足を着ける場所などない、地面すらなくなった蒼の底にただ落ちていく。

 

「うそだろぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 目を覚ます。

 どうやら落下した時に身体を強くぶつけたようだ。

 渚は痛む腰を押さえながら立ち上がる。

 まさかあんな急降下ダイブをさせられると夢にも思わなかった。腰を振り回し、軽く運動をする。背骨がバキバキとなったのを確認してから冷静に周囲を確認した。

 

「あー、なんかすっげぇ燃えてるんですけど……」

 

 一言で(あらわ)すなら地獄が広がっていた。

 何処(いずこ)かの都心なのだろう。

 高層ビルが並び立つ大都市が壊滅していた。駒王でないのは確かだが余りにも酷い光景だ。

 燃え盛る建造物、断裂した道路、破壊された自動車の群れ、広大な街の全てが破壊という地獄に飲み込まれている。

 

 こんな場所に何がある?

 

 渚は一人、地獄を歩く。

 一歩踏み出すたびに気分が悪くなる。胸を()(むし)るは嫌悪、脳を焼くのは絶望だった。

 街を見ているだけで狂気に(おちい)錯覚(さっかく)に襲われる。

 これは恐怖に近い感情だった。

 何故(なぜ)、こうも(おび)えているのかを理解出来ないまま歩いていると瓦礫(がれき)の山に人影を発見する。

 

「アレか」

 

 譲刃が言っていた存在を確認する。

 瞬間、視線が釘付(くぎづ)けになった。

 それは無地(むじ)のワンピースを着た年端(としは)も行かぬ"蒼の少女"だった。

 目を引くのは小さな身長と同等までに伸ばされた(きら)めく蒼銀の髪。神秘と言う言葉を数千以上、(かさ)ねても足りない超然性を(まと)う少女が渚の存在に気づき、ゆっくりと蒼い双眸(そうぼう)を落とす。

 それだけで()み込まれそうな存在感が渚が(おお)う。果たしてアレは人間なのだろうかという疑問を抱く。渚には人の形をした全く別次元の存在にしか見えない。一見(いっけん)して渚よりも年下にしか映らない静かな雰囲気だが、(にじ)み出る圧力はまるで深くて重く、そして大きい。渚を砂粒として数えるなら彼女は大海そのものだ……いや、もしかしたらそれよりも隔絶(かくぜつ)している。

 しかしそんなモノは些細(ささい)な事だった。

 譲刃が言っていた通り、会った瞬間に解った。あの"蒼の少女"こそが自分にとって必要な存在だと……。

 だから彼女に畏怖(いふ)を感じつつも協力を頼もうとした。

 

『ユズリハがナギサを(まね)いた?』

「え、ああ」

 

 急な言葉に渚は気の抜けた返事をしてしまう。

 

『ナギサは、ここへ来るべきじゃなかった』

 

 ()めるのではなく心配するような言い方だった。

 

「俺の欲しいものがあるって譲刃から聞いてきた。それは多分、君だと思う。分からないがそんな気がするんだ」

『魂に刻まれた記憶。それがナギサの既知(きち)感の原因』

「魂、か。つまり俺は君と会うのは初めてじゃないって事だよな?」

『肯定。けれど今は情報よりも力が欲しいはず……』

 

 淡々(たんたん)とした口調。

 まさか相手から本題に入られるとは思ってもいなかったから驚くが好都合でもあった。彼女が全てを把握しているのなら話は早い。

 

「欲しい、倒す力じゃなくて救う力が……」

(いま)だ"蒼獄界炉(そうごくかいろ)"は不完全ゆえ蒼の全能は使用不可能。……けれど求めるモノは与えられる』

「"不死鳥"を倒してライザーを救えるのか?」

『肯定』

「それを俺にくれるのか?」

『肯定。そのために私はここにいる』

「なら君の力を貸してくれ」

『例え全能に程遠い私でも?』

 

 そんなものは決まっている。渚が欲しいのは今を乗りきれる力だ。

 

「全能なんて大層なモノはいらない。俺は手の届く範囲で誰かの力になれればいいと思っている」

 

 その言葉を聞いた瞬間、蒼の少女が瞑目(めいもく)する。何を考えているのかは分からない。けれどすぐに瞳を開けると渚を静かに見据(みす)えた。

 

『その命令(オーダー)受諾(じゅだく)。最終目標を"不死鳥"の殲滅(せんめつ)ならび(かく)となった生命体の救出に設定。最適解を検索……終了。──プロフィティエンの白騎士による攻略を推奨。洸剣(こうけん)の再演を開始』

 

 蒼の少女が両手を胸に当てると聖句を詠う。

 

『……洸天(こうてん)より(まばゆ)き光、()はあらゆる罪を浄化し正義を()す剣撃なり。そして()たれ純白なる執行者(しっこうしゃ)、──"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"

 

 詩の終わりと同時に渚は現実世界に引き戻された。

 眼前にいた蒼の少女は廃墟の街と共には消え失せ、炎熱に崩壊した駒王学園に戻ってくる。

 "不死鳥"が解放した炎が渚を飲み込もうとしている。回避は出来ない、激しい光と熱で全身が発火しそうだ。

 反射的に愛刀を振るおうとするが譲刃が何処にもない事に気づく。これには渚も慌てた。剣を探そうとするが消えていた。剣が無ければ対抗できずに一瞬で灰へと変えられる。

 

『──何故(なぜ)、剣を抜かない?』

 

 "蒼の少女"の声が頭に響く。

 どうやら彼女とは現実でもコミュニケーションが取れるようだ。

 しかし今はそんな事より聞きたいことがあった。

 さっきまであった刀の消失。そして呼び掛けても手に現れる気配もない。原因は分かっている、"蒼の少女"だ。彼女と会ってからこうなったのだから間違いないだろう。

 

「剣ってどこだ! 刀はどうした!?」

『ユズリハは創造の触媒(しょくばい)に使った』

「触媒ってなんの!?」

『──その背に無垢なる翼の聖剣を』

 

 後ろを向けば背に熱を感じる。見れば光り輝く翼を思わせる剣があった。翼のように展開された6本の光剣、それは幅広だが掴む筈の()がなく刃だけの存在、であれば手で使う武器でない。

 ならばどう使うか。

 簡単だ。剣自体が持ち主の意思を()んで動く。

 渚が炎を防ごうとすると光剣は背中から前方に移動、大きな花びらのように広がると力場を発生させて炎と熱を完全に遮断した。

 炎の嵐を前に揺るがない強固なシールドである。渚の背後にいた者たちも無論、無傷だった。

 

「これは……」

『"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"は展開して起点を造り、点を結ぶ事で防御フィールドを発生させる』

「盾にもなるのか」

 

 恐らく(なん)らかの異能が付与(ふよ)されている剣なのだろう。そんな炎を防ぎきった光の剣が力場を解除するとヒラヒラと渚を中心に旋回を繰り返す。まるで()()()()ような動きは生き物である。

 

「これはどうすりゃいい?」

『アレは意思ある剣撃。ナギサの主命(しゅめい)を待っている』

「主命?」

『思うままに(あつか)えばいい』

 

 言われた通り自分のやりたいようにやってみる。

 腰を落として投擲(とうてき)の構えを取ると浮遊していた剣が渚の周囲に展開。

 刃先の方向には再び炎を撃とうしている"不死鳥"。

 

「狙いはアレだ。──()って()いッ!!」

 

 光が発射される。

 目映(まばゆ)い粒子の(おび)を引っ張りながら剣は"不死鳥"へ跳ぶ。

 同時にレーザーのような炎も放たれるが、聖剣の刃先は熱線をモノともせず切り崩しながら真っ直ぐに飛翔して行く。

 6本の剣、全てが"不死鳥"に突き刺さる。

 "刻流閃裂"の一撃に比べれば針の一刺しのような攻撃だが"不死鳥"は過剰に反応し悲鳴をあげて悶え苦しむ。

 それは"輝夜・貌亡"で粉々に刻まれても聞くことが出来なかった"痛み"から来る叫びだった。

 

()いてるな、けどなんで?」

『あの個体は光という属性に弱い傾向にある、加えて"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"の特性は霊式によって()まれた"斥力"。名こそ人のいう()れと同じなれど(ことわり)の外にある力であり霊質すらも引き剥がす。──彼の者の不死性とて例外ではない』

 

 渚が知る"斥力"は物体を遠ざける力であるが"蒼の少女"が与えてくれた力は遮断に等しい。"斥力"という言葉を使っているが物理法則のソレとは全く違うものなのだろう。とにかく、あの光剣は不死殺しの能力が(そな)わっているという事だ。

 

「思った以上のおあつらえ向けの力だ」

『肯定。その為の私である』

 

 突き刺さった剣が不死を解体する。

 翼をもがれた凶鳥は墜落して地面を()う。

 形勢逆転。難敵だったはずの"不死鳥"は"蒼の少女"の介入よってアッサリと攻略できてしまった。新たな協力者に感謝しつつも渚は肝心なことを忘れていた。

 

「そうだ、名前を聞いてなかった。そっちは俺を知ってるみたいだし教えてくれないか?」

『ティスと呼ばれていた』

「わかった、ティス。色々と聞きたいことがあるけどあっちが先だな。……どうすっかなぁ」

 

 剣に()い付けれるように倒れ伏す"不死鳥"。

 どうやってライザーに戻せばいいのだろうか。

 渚が真剣に悩んでいるとティスが進言する。

 

『あの者を人間体に戻せばいい?』

「出来るのか?」

『肯定。あの変異は外的要因によるもの、ソレを取り除けば元に戻る』

「やり方を教えてくれ」

『既に終わった。独自判断した剣が彼の者と外的要因を引き剥がしている』

「働きモンだな、アイツ。……人じゃないけど」

 

 忠犬のような剣に少し愛着が()く。

 "不死鳥"に刺さっていた一本の光剣が渚の前にゆっくりと飛んでくる。刃先には米粒程度の黄金の塊が刺さっており、それを渚は手に取る。

 すると黄金は輝きを失い、黒い霧となって消えた。同時に6本の光剣も消失。代わりに刀が手元も戻る。

 

「お、消えた」

『……黄昏の残照(ざんしょう)

「この小さいモンを知ってるのか?」

『確証はない。ただ似ているモノが記憶データに存在する』

「そのデータって奴じゃあアレはなんだ?」

『かつて(ほうむ)ったはずの"敵"』

「敵、ね」

 

 渚がもう少し詳しく聞こうとした時だ。

 燃え盛る"不死鳥"が色褪(いろあ)せて灰となった。

 その中心に騒ぎの発端となった者、ライザーが倒れている。

 

『望みは果たした。私は奥に戻る』

「あ、ああ、そうか。助かったよ」

『礼は不要。存在意義を実行したに過ぎない』

 

 ティスに別れを告げて、ライザーを確かめようと近づくが背中からやってきたフェニックスの眷属が我先にと駆け寄った。

 

「……感謝する」

 

 過ぎ去り際に、そう言ったのはイザベラだった。

 渚は聞こえないと分かっていて「どういたしまして」と返すとアーシアの肩を借りているレイヴェルに歩み寄る。

 

「まさか、助けてくれるとは思いませんでしたわ」

「これが最善と思ってな」

「とんでもない人」

「最近、自分でもそう思う」

「でも、ありがとうございます」

「契約完了、だな」

「そうですね、とても良い仕事っぷりでしたわ」

 

 二人して笑い合う。

 これで渚の目的は達成だ。

 少し離れた場所でリアスが耳にある通信機に手を当てて喋っている。相手はグレイフィア辺りだろう。

 

「部長、何を話しているのでしょう?」

 

 アーシアが首を傾げる。

 

「現在の状況じゃないか?」

「ですわね。通信が不可能だった以上、運営側は状況が掴めていなかったでしょうし」

「ゲームはどうなのでしょう」

「仮に続行するようなら俺とグレモリー先輩が戦うことになる」

 

 渚がそう判断するもリアスが怪訝そうな表情をするのが見えた。やがて長い通信が終わり、フェニックス陣営の者が光に包まれた。渚がフェニックス陣営の転送を見送っているとリアスがやってくる。

 

「お疲れさま、渚」

「先輩も」

「あんな隠し玉があるなんて驚いたわ」

「ははは、自分もです」

 

 自覚はないが元から合ったものを引き出したというのが正しい。自分の中はまだまだ何かが有りそうな気がしてならない。

 きっと脳ではなく魂が覚えている記憶なのだろう。

 

「それでゲームは?」

「運営の方針で続行。私たちは戦う事になったわ」

「まぁですよね」

 

 当然と言えば当然だ。

 これは三つ巴であり、最後のチームが残るまで続くバトルロワイヤルだ。

 

「先に言っておくと私たちはライザーだけじゃなくて貴方にも勝つつもりで戦術を練ったわ」

「最初から俺は敵として見られていたと言うわけですか」

「訓練の恩を仇で返すようで気が引けるけど悪く思わないで頂戴。……それと投了(リザイン)も無しよ」

「リタイアも? 何か理由があるんですか?」

「ええ」

 

 リアスが言うにはゲームの詳細を見れなかった観客が不満を爆発させたようだ。

 グレイフィア曰く、魔王の妹の初試合は注目の的だったらしく非公式な試合にも関わらず観戦者は多いとの事。

 

「それに"赤龍帝"と"鬼神"の実力も見たいと言う声も多数あるみたいなのよ」

「鬼神? 誰です、それ?」

 

 "赤龍帝"は一誠だろうが"鬼神"というのは初耳だ。

 祐斗に小猫、朱乃を見るが微妙に合っていない気がする。悪魔より天使の方が似合っているアーシアに至っては絶対に違うだろう。

 しかし凄いあだ名だなぁ。なんて他人事のように思っているとリアスが渚を指差す。

 

「"鬼神"って貴方の事よ」

「…………え"?」

 

 まさかのお言葉に間抜け(づら)をさらす。

 いつのまにか意味不明なゴツイ称号が付いているのだから当然だろう。何故、そんな大層なあだ名がついてしまったのか疑問に持っているとリアスが少しバツが悪そうに(あやま)る。

 

「ごめんなさい、報告書に鬼神のような強さの協力者がいると書いてしまったの。きっとあだ名の出所はそこね。けど決して名前負けはしていないわ、貴方が討伐した"はぐれ悪魔"の中には冥界でも問題視されていた者がいるのよ。自信を持ちなさい、渚」

「ア、ハイ、ソーデスネ」

 

 嬉しくない。

 渚が目指すのは平和な日常。

 多少のいざこざは許容するが悪魔の上層部に名が知られると危険な予感がする。

 

「あらあら、蒼井君は有名人ですわね」

「あれだけの実力だからね。名を知られないのがおかしいくらいだよ」

「……当然です」

 

 渚の心情を知ってか知らずか褒め称えてくれる仲間たち。

 一誠が羨ましがり、アーシアが嬉しそうに笑む。

 とりあえず一旦、考えるのをやめる。

 

「聞くまでもないですけど、そっちは6人でいいんですか?」

「あら、更にハンデをくれるの?」

 

 違う、そうじゃない。

 圧倒的な数の暴力である。

 つまり渚は王の滅びと女王の雷撃を避けて、騎士の魔剣と戦車の拳を防ぎ、兵士の倍加と僧侶の治癒を阻止しなければならない。

 心が折れそうになる。

 "鬼神"なんてあだ名いらないから誰かもっと優しくしてほしい。

 今すぐリタイアしたいくらいだ。

 

「微力ながら力になりますわ」

 

 炎の翼を広げるレイヴェル。

 渚は「いや、なんでそんなやる気なんだ!? 君、片手がないんだよ? 早く転送して治療しな!?」と言おうする。

 

(わたくし)は貴方がたに勝って魔王様に会わなければならないんですの」

「個人的にはリタイアを宣言してもらいたいわ」

「お優しい王ですのね、ですがルールをお忘れで? (わたくし)たちは二人が王なのです、欠けた瞬間に敗北が決定しますわ」

「そうだったわね」

「ですので、推し通りますわ」

「悪いけど負けられないのは私もなのよ。初試合を情で捨てるほど甘くはないわ」

「上等ですわ!」

 

 完全に戦闘モードのリアスとレイヴェル。

 レーティング・ゲームの勝利を眷属に与えるため……。

 ライザーの名誉を回復するため……。

 両者とも譲れないモノがあるのだろう。

 ならば自分はどうすべきなのかなど考えるまでもない。一度、深く呼吸して頭を切り替える。

 

「イッセー」

「あ、おう?」

 

 戦意を込めた真剣な声で一誠の名を呼ぶ。

 

「加減は無しでいい、禁 手(バランス・ブレイカー)で来い」

「いや、でもよ」

 

 一誠がチラッとリアスを見る。

 

「許可するわ、元々は渚用の切り札にするつもりだったもの」

「りょ、了解です」

短期決戦(ブリッツ)にするのね、渚」

「ええ」

 

 理由は二つ。

 一つはレイヴェルだ。

 気丈に振る舞っているが片腕の損傷は大きい、設備の整った治療が必要なずだ。

 二つ目は渚自身ある。

 大技の連発に加えて、新しい力の発露。

 体力がいつまで持つか不確定だ。体には確実に疲労が貯まっている。

 

「アーシアに治癒をさせるわ」

 

 渚を気遣(きづか)うリアス。

 平然としているがフェニックス眷属や"不死鳥"との戦いで渚は軽くない傷の数々を受けている。

 肉体のコンディションは最善とは言い(がた)い。

 だが渚は首を振って断る。

 

「いえ、この方がいい」

「力量差からくる自信かしら?」

 

 リアスが苦笑した。そこに怒りといった感情は一切ない。そして渚も釣られて似たような顔をする。

 

「今は敵同士ですよ? 先輩こそ物量差からくる自信ですか?」

「そうね、そうだったわ。この状態をチャンスと思うべきね」

「非情になれない所は先輩らしいです」

「誉めてもなんもでないわ。じゃあ行くわよ」

 

 リアスの号令と共に燃え盛る駒王学園で最後の戦いが切って落とされた。

 渚はここで(さっ)した。

 リアスとその眷属たちにとって、ライザー撃破以上に蒼井 渚の打倒は大きいのだと……。

 まず動いたのは一誠だ。

 左手を高々に挙げて吠える。

 

「行くぜぇ、ナギ!! "禁 手 化(バランスブレイク)"ッ!!!」

 

 『赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)』が光り輝くと全身を包み、中からフルプレート姿の竜人が現れる。

 

 ──赤 龍 帝 の 鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

 "神滅具(ロンギヌス)"である"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"の禁 手(バランスブレイク)

 正に圧巻である。

 真っ赤なオーラと鎧は最弱悪魔を自称していた一誠とは思えないほど猛々(たけだけ)しく雄々(おお)しい。幾重(いくえ)もの段階を超えた今の一誠は最早グレモリー眷属でも最上位の力を持っている。

 侮るなどしていたら一撃でやられてしまうだろう。

 

「さぁ"鬼神"狩りの時間よ」

 

 一誠を先頭にリアスが手を前に(かざ)す。

 どうやら加減する気はさらさらないようだ。

 渚はもう戦うと決めている。

 気持ち的には「どうしてこうなった!?」と叫びたい気分だが、そう思ってるのは自分しかいないので大人しく空気を読む(諦 め る)

 因みに"鬼神"と言う呼び方は本当に勘弁してほしい渚であった。

 





データファイル


聖天斬堺(せいてんざんかい)洸劔(こうけん)

”蒼の少女”が護神刀 譲刃を媒介に創造再現した聖剣。
柄のない剣であるため、手ではなく思考で操作する武器。展開時に背面へ広がるような現れ方をするので刃翼とも呼ばれる。
かつてプロフィティエンの聖騎士という者が使用していた武器で、その能力は”斥力”操作。ここで言う”斥力”とは物理に於けるソレとは一線を画すモノであり、物質だけではなく霊質も引き剥がす事が可能。
そのため異能すらも斥力フィールドによって弾くため攻撃だけではなく防御にも優れた武具と言える。


『蒼の少女』

渚の深層心理の奥、魂の座にいる幼い少女。
自身の身長なみに伸ばされた輝く蒼の髪と瞳を持つ。
浮き世離れした雰囲気を持ち、渚が大海よりも深く巨大と揶揄するほどの存在感を持つ。
蒼獄界炉(そうごくかいろ)と呼ばれるモノと密接な関係があるが、その全てが謎に包まれている。
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