ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

27 / 86

渚の戦いは幕を閉じた。
しかし、その裏でアリステアの戦いは続いていた。
セクィエスを名乗る謎の女はアリステアを容赦なく追い詰める。



絶死の抱擁、救済の滅尽《Area of Destrction》

 

 夜を白雪が駆ける。

 アリステアは木々が()(しげ)る森を縦横無尽に失踪していた。装備したベレッタ92Fの銃口を敵へ向けて発砲。数発の弾丸は狙った通りに敵であるセクィエス・フォン・シュープリスへ吸い込まれていく。

 

「弾の無駄でしかないわ」

 

 そんな一言と共に全ての弾丸が弾かれる。

 先程からこれの繰り返しだった。撃てば一瞬だけ赤い盾のようなモノが現れて防がれ、続けざまに目視不可能な斬撃が襲ってくる。

 堅牢な防御と鋭い斬撃、それこそがセクィエスの武器だった。そんな彼女が気だるげな横目でアリステアを見つめる。その視線に捉えられたアリステアは即座に距離を取った。すると今居た場所にあった木々の全てが広範囲に渡って細切れになる。

 

「外したか。中々にすばしっこいじゃない、アリステア・メア」

「残念ですか?」

「別に。そっちこそ攻撃を当てる気あるの? 程度の低い鉛玉じゃ百年撃ち続けても届かないわ」

 

 セクィエスがアリステアの持つベレッタを分断した。

 手から地面に落ちる銃のパーツにアリステアは一瞥もせずに言う。

 

「当てる気はありませんでしたよ、ただ少し貴方を()させて貰いました」

 

 ピクリとセクィエスが小さく反応した。

 

「へぇ、それで何を見たの?」

「見えない斬撃の正体です。貴方は自身の血液を極細の糸とし攻撃をしています。私の弾丸を防いだのは、その糸を重ね合わせて編んだモノです」

「正解、ハナマルでもあげようか? それとも斬首がお好み?」

 

 クイッと指先を動かすセクィエス。

 鮮血色の閃糸が風を裂き、アリステアの周辺に物を刻む。それは正に嵐が如く全てを根こそぎ消し去る暴力だった。

 岩、大木、大地、鋭い斬撃によってアリステアという存在以外が消え失せた空間となる。

 威嚇というにはやり過ぎな破壊だ。

 そして何もなくなった場所に赤い糸が張り巡らされる。蜘蛛の巣のような糸は少しでも動けばアリステアを真っ二つにするだろう。

 危機的な状況でアリステアは小さく笑った。

 

「結構。綾取(あやと)りがしたいのなら一人でやってください」

「その綾取りで殺される奴は、さぞかし滑稽と知れ」

「そんな人がいるのですか? 随分と間の抜けた方です」

「大層な自信ね、いつまで持つかしら?」

「当然、死ぬまでですよ」

 

 アリステアは糸に自ら触れた。

 指先に切り口を作ると血が流れて赤を更に濃く染める。だが鋭い切れ味など些細な問題と言いたげに束になった糸をガシッと掴み、ブチブチっと無理矢理に引き千切った。一つが切れた事により連鎖するように(ゆる)む蜘蛛の巣だったがアリステアの()はズタズタにされてしまう。

 血液によって真っ赤になる手の平、それでも涼しい顔でセクィエスへ接近。そのまま手刀を叩き込む。

 アリステアの手刀はセクィエスの眼前まで迫ったが、深紅の糸によって絡め取られてしまう。

 上腕から血が吹き出す。肉にめり込む糸は華奢な腕の奥へと侵入して骨まで達する。

 

「踏み込みが甘かったわね」

「いいえ、丁度良い間合いです」

 

 アリステアが手刀で虚空を掴むと一丁の拳銃が召喚される。

 最強のリボルバー拳銃の一つ、"S&W M500" 10,5インチバレルのハンターモデル。

 化物を殺す怪物が突如として眼前に現れ、火を吹く。

 セクィエスは唐突な出来事にも回避で対処するも頬を(かす)めた弾痕に対して目を細める。

 

「"物質の転送移(ア ポ ー ツ)"か」

「正解です、ハナマルの代わりを受け取ってください」

 

 アリステアが大口径の銃をスパークさせて発砲。

 神速の弾丸が来ると予測したセクィエスは糸を盾のように結んで結界を造る。この血糸で編まれた盾はその弾丸を通さない。実際に何度も防ぎ切っている。

 馬鹿の一つ覚えか……とセクィエスは落胆(らくたん)する。

 

「落胆はさせません、もうそれでは防げませんからね」

「何……?」

 

 ほんの数分前まで難なく防いでいた弾丸が糸を貫き、そのままセクィエスの肩を撃ち貫く。

 大穴の空いた肩から噴水のような血液が吹き出した。

 何故という疑問はすぐに解決する。

 アリステアは弾丸を更に高密度な霊力で覆って貫通力を飛躍的に高めたのだ。そうする事で疑似的な徹甲弾を再現して盾を攻略したのである。

 

「大口径による運動エネルギーと弾丸強度を高めて無理矢理、撃ち抜いたか。……自分の血を見たのは随分と久しぶりね」

「好きなだけ堪能させてあげますよ」

「上等じゃない。次はお前を血染めにしてあげる」

 

 セクィエスは辟易するような口調で血の着いた服の袖を引き千切ると捨てる。彼女もまた痛みを何処(どこ)かに置いてきたように平然さを(たも)っていた。

 だらりと下がっていた腕を前に翳すと大量の血が収束して剣を形作る。

 

「私を血染めにするための刃が血液ですか」

「お洒落でしょ? さて力を見せてあげるわ、──"鮮血の刃(ブラッドエッジ )"」

 

 天に血染めの刃を向けるとそのまま振り下ろす。

 力など一切込めてない斬撃だったが放たれた斬圧は大気を意図も容易く両断し、大きく大地を蹂躙した。

 ここで初めてアリステアが笑みを消す。

 セクィエスが戯れに放った一撃は平地に底の見えない幅広の谷を作った。その破壊力は地形を変える程であり、間違いなく"神滅具(ロンギヌス)"に匹敵する。

 

「……少し脅威度を上げておきましょうか」

 

 機械のような手つきで弾丸を再装填するアリステアに対して、どこまでも無気力で脱力したセクィエスがゆらりと歩き出す。

 

「とっとと終わらせるわ」

 

 血染めの刃が走る。

 脱力していたセクィエスだったが動き出した瞬間に別人のような動きを見せる。

 斬撃のスピード、身のこなし、その全てが神速の域に到達している必殺の剣を繰り出してきたのだ。

 アリステアは眼を凝らして刃を見切るとセクィエスと同等の速さで躱す。

 一撃、二撃、三撃、刃が振るわれる度に余りある剣圧が周囲の風景を変えていく。

 それは斬撃という名の圧壊を強制する暴風であり、地形に大きな爪痕を残す災害といってもいいだろう。

 

「よくやる、なら一本追加よ」

 

 セクィエスの余っていた腕に同じ刃が握られる。

 

「……更に速くなりますか」

 

 同時に動きが急激に変わった。踊るように刃を使い始めたのだ、無駄のように見えて一切の無駄がない乱撃。

 共に神速の身だが刃の速さが一歩先を行く。

 このままでは待つのは死だと悟ったアリステアが"眼"の力を使う。

 アリステアの真価は莫大な霊氣でも有能な知恵でもなく"真眼"と呼ばれる瞳術だ。ソレはあらゆる事象の観測しソコから導き出された解を見渡す神域の見界(けんかい)を持たらす奇跡の産物である。

 アリステアは身体的な速さでの戦いを捨て、"真眼"を(もち)いた予測回避でセクィエスの動きに対応する。相手が数段速かろうと来る攻撃を来る前に避ければ充分に間に合う。それでもセクィエスの攻撃に対して少しでもタイミングが間違えば即死だ。

 暴虐の刃を掻い潜りながら銃で応戦するも剣が難なく遮る。これでは百年撃ち続けても当たらないだろう。アリステアは、離れた場所でミッテルトを抱えているレイナーレへ声を跳ばす。

 

「レイナーレ、ミッテルトを連れて離れてください、出来るだけ遠くへ。ここにいると死にますよ!」

「言われなくとも、そうするわ!」

 

 冷静な指摘にレイナーレは有無を言わずにミッテルトを担いでその場を去る。

 あのままでは剣圧に巻き込まれてバラバラになるのは時間の問題だ。それに、ここに留まられては()()()()()()()()()()()()

 

「あら意外ね、仲間の心配するんだ? てっきり冷血な奴だと思ってたわ」

「その評価は改めたほうがいいですね」

「必要ない、お前はもう死に囚われているのだから」

 

 片方の血染めの刃から糸が延びる。その鮮血の糸はアリステアを瞬く間に拘束した。

 

「これは」

「どう? 動けないでしょう?」

「元々、液体ゆえに姿形も自由自在という訳ですね」

「ご名答。……それじゃあ死になさい」

 

 刃が首を跳ねようとする。

 だが危機的状況な筈のアリステアが嗤う。

 

「ふふふ」

 

 セクィエスの手が止まる。こんな状況で笑える人間など破滅願望者か凶人でしかない。

 

「何がおかしいの?」

「いえ、こうも追い詰められたのは久しぶりだったので」

「なら命乞いでもしてみる?」

「まさか。──しかし認めましょう、セクィエス・フォン・シュープリス。貴方は間違いなく私たちにとって脅威となる存在。ゆえにアリステア・メアの名において排除します」

 

 アリステアが宣言すると極大のオーラが発生した。

 それは拘束していた糸を消し飛ばし、セクィエスに距離を取らせる。

 

「"Last(ラスト) Embrace(エンブレイス)"」

 

 蒼銀の光が天を突くと弾け跳んだ。残照の光は粉雪となって地上へ落ちてくる。

 月に照らされた雪は銀に彩られ、幻想的で美しかった。

 

「雪?」

 

 セクィエスが白雪に触れる。

 その瞬間、触れた部分が溶け始めた。流石のセクィエスも驚く、自分の体が熱で溶けた氷のように分解されているのだから当然だろう。何が起きているのか理解できない。

 

「これは降り積もる殺戮の包容、命を崩壊せしめる銀の葬礼です」

「ちっ!」

 

 セクィエスがアリステアに斬りかかるも、その鮮血の刃も死の雪が分解してしまう。

 

「残念ですが、この雪は私を殺しても止まりません」

「無差別の範囲攻撃とか随分とエグい術を使うのね」

「貴方を"禁種 第零特異個体"レベルの敵対者と認識したので使用しました」

「何、その意味不明な単語羅列。いいわ、上等よ。つまり私が崩れて消えるか、お前が私に切り殺されるかの二択って訳ね」

「まだやる気ですか?」

 

 アリステアの呆れたような声にセクィエスもまた嗤う。

 

「この程度で勝った気になっていたの? ナメるなよ、化物」

 

 セクィエスが両手を大きく広げると赤い鮮血のようなオーラが吹き出る。

 その量と質はアリステアに劣らない総量だ。

 

「──"血 殲 架 の 断 刀(ヴェルリオーズ・ルガンツィア)"」

 

 やがてオーラが巨大で禍々しい血の大鎌へと変質する。

 身体を崩されてなお圧倒的な死の気配を纏うセクィエスは正しく死を招く者だった。

 

「その覇気と異能力、肉体の崩壊は続いていると言うのに挫けぬ精神、貴方こそ大した化物ですよ」

「面倒なご託はいいわ、殺してやるからさっさと撃ってきなさい」

 

 万物を崩壊させる白雪が冥天を支配し、万象を絶つ鮮血の大鎌が大地を穿つ。

 小さな人間が持ち得るには強大すぎる力は世界を揺るがす。

 可憐な少女たちの苛烈な攻撃は災害レベルの破壊を繰り返して、互いの存在を抹消するためだけに最大の殺意をぶつけ合った。

 そんな二人の内のどちらかが倒れるまで続くはずの果てない死の饗宴がピタリと止まる。

 

「なにか来る」

 

 アリステアとセクィエスが同じ方へ視線を向けた。

 空間がねじ曲がり黒い穴が開く。二人は同時に警戒した。

 

「まさか、こんな凶悪な力を持った人間が居たとは驚きだ」

 

 空間が裂け、門が唐突に開かれると中から一人の男性が現れる。

 巨大な魔力の出現によって空気が変わった。その男はアリステアが降らせた死の雪を極細の魔方陣で一つ一つ無効化(レジスト)していた。凄まじい術式の操作だ、大規模な結界では雪の崩壊は防げない。しかし使い捨ての陣で相殺は出来る。ただ何万、何億と降り積もる細やかな雪の数々に対して、そんな芸当をするなど狂気じみた所業だ。

 アリステアとセクィエスが、その男性の正体に目を見開く。こんな場所になんでこの男がいるのか……そんな表情だった。

 

「魔王アジュカ・ベルゼブブ……!」

 

 そう彼こそは現冥界を統べる四人の魔王の一人。

 男は魔性の笑みを浮かべて両者を見据えた。

 

「説明はしよう。だが、まずその物騒な兵装を下げてもらいたい。流石に君達の攻撃は同時に受けたくないのでね」

 

 数秒の沈黙の後に武器を下ろしたのはアリステアだった。

 

「何故、魔王がこんな辺境の地に?」

「緊急事態だからね。それに今やこの地は世界の何処よりも危険な魔境だと俺は考えているよ」

 

 周囲を確認しながらアジュカが言う。そこは降り積もり雪と巨大な獣に引っ掻き回されたような死の絶景。

 アリステアがアジュカを観察する。

 降り注ぐ白雪の相殺……。かつてこれ程までに完全に防ぎ切った相手などいただろうか。

 

「私の力がこうも通じないのは初めてですよ」

「いや、どうだろう。この術式は完全には読めない。解析不可能な式が四割もふくまれている。足りない不足は魔力で補填してる有り様だよ。今も大量の魔力が喰われ続けているんだ。この状況での戦闘行為など自殺に等しい」

 

 何処か楽しげに言う、魔王。

 セクィエスがそんな彼に対して苛立ったのか、大地に大鎌を突き立てる。

 アリステアの雪でダメージを受け続けている以上、セクィエスは短期決戦で事を済ませる必要性がある。だからアジュカの出現など邪魔でしかない。

 

「……で? お前はあたしの敵な訳?」

「いや、そんなつもりはない。ただ戦闘行為は中断してもらえないか?」

「こっちは仕事できているのよ、はいそうですかって帰ると思ってるんだったら、相当な愚か者よ?」

「無理を言っているのは理解している。だがこちらも困っていてね。門を通じた君らの力が混在しながら冥界へ流れている。影響は凄まじく、近年稀に見る大嵐だ。……俺が直接出向く程度には甚大な被害が出そうな程のね」

「関係ないわ。終わってほしいなら、そっちの白い女に自害でも頼みなさい」

 

 セクィエスがアジュカに大鎌を向ける。

 どこまでも気だるげだが、纏う殺意は相手が魔王だろうと一切の曇りはない。

 対するアリステアは極めて冷静に対処する。

 アジュカは、冥界に直通する門がある領域で激突しているアリステアとセクィエスを止めに来た。

 彼ほどの存在が来る程だ、冥界は余程不味い状況なのだろう。

 利害を見極めたアリステアが言葉を紡ぐ。

 

「いいでしょう、アジュカ・ベルゼブブ。私は条件付きで戦闘を中断します」

「条件を聞こう」

「彼女の撤退。元々、仕掛けて来たのはあちらです。この町に滞在する身としては全てを無に帰すまで戦っても益がない。……この意味が理解できますね?」

「ふ、理解した。君がグレモリーの協力者と言うことは知っているからね」

 

 アジュカが魔方陣を展開する。アリステアは遠回しにアジュカにこう言った。

 

 ──戦いをやめてやるから、セクィエスを倒す手伝いをしろ。

 

 魔王に対して無礼を通り越して傲慢なまでの要請をしたのだ。アジュカも解っていて、その提案に乗った。魔王と名乗るには些か謙虚だが器の大きさは計れた。プライドなどを持たず、利となる選択を選べるアジュカは間違いなく名君なのだろうとアリステアが感服する。

 それに対してセクィエスは鼻で嗤う。

 

「魔王に助けを求めるとはね」

「助け? これは取引です。より確実に勝利を得るための、ね」

「まぁいいわ、どっちも殺せば問題ない」

 

 アリステアとアジュカ、超然的な強さを持つだろう二人に挑むなど無謀としか言い様がない。

 しかしセクィエスは勝つのは自分だと確信している。

 アリステアは、その事に関しては否定はしなかった。

 彼女の戦闘力は神の領域に至っている。魔王を越え、神すらも殺しかねない鮮血の担い手。

 それがセクィエス・フォン・シュープリスという敵の最終評価だ。

 そんな殲滅を掲げる血の大鎌が駆け抜けようとした時だった。

 

「あい、待ったぁ!!」

 

 更なる闖入者が現れる。

 ダボダボな服を来た中学生くらいの少女だ。

 口にキャンディーをくわえた少女が体操選手のような月面宙返りをしながらセクィエスの前に立つ。

 

「や。セッちゃん」

「タブリス」

 

 ニコニコとセクィエスに近寄るタブリス。

 馴れ馴れしいタブリスが鎌の間合いに入るや否や、セクィエスは細い首に刃を添える。

 

「このタイミング……。お前、覗き見していたな? それとセッちゃんと呼ぶな」

「うわ、なんでボクの首に鎌を突き立てるの!?  酷っ! 助けに来たんだよ? ……って何この雪!? 体が崩れてくんだけど!? でも呼び方は変えない!」

 

 一人で騒がしいタブリスに親しさなど欠片もない冷笑で返すセクィエス。

 

「笑えるわ、お前と肩を並べて戦えって?」

「バッカだなぁ、相手は超越者とイレギュラーだよ? 君はともかくボクは死んじゃうって」

 

 自慢げに無い胸を張るタブリス。

 

「それはそれで喜ばしいわ。今すぐ突撃でもして死ぬがいい、……やる気がないなら消えなさい」

「全く、普段は物臭なくせにスイッチが入ったら真っ直ぐにしか走れないF1カーみたいだね。──退くよ、超越者まで出てきた以上は任務を破棄する。今君を失うのは得策じゃない、これは総主からの命令でもある」

「アイツが? …………いいわ、退いてあげる」

 

 殺意をたぎらせたセクィエスがアリステアを睨む。

 

「アリステア・メア、次は殺すから」

「ご自由に。出来るものならですが……」

 

 アリステアが挑発的な物言いをすると、タブリスがひょこっとセクィエスの後ろから顔を出す。

 

「お久、真っ白ちゃん」

 

 屈託のない笑顔のタブリス。

 アリステアにとっては初対面の少女だが、その口調と雰囲気から何者かは気づいている。

 

()()使()()()()()()()()()ですか。本性は随分と可愛らしいのですね」

「ありがと…って、わお! 急に弾丸を撃ち込むの止めてよね!!」

「貴方の不死性は存じています、当たったとして致命傷になるのですか?」

「痛みは感じるんだよ?」

 

 褒めると同時に弾丸を叩き込むが紙一重で避けられた。

 馬鹿な道化を演じているが、やはり手練れだとアリステアは再確認する。

 

「貴方たちの今回の目的はなんですか?」

「戦争の勃発、前と変わんない。……あぁそれと手の傷は大丈夫かな? セッちゃんの"血咒(けっしゅ)"は厄介だよ? それはね──」

「道化、喋りすぎよ」

「あ、めんご」

 

 血が流れ続ける片腕を見て蠱惑的に嗤うタブリス。

 陶器のような美しさを誇ったアリステアの腕はズタズタに引き裂かれており、全然大丈夫ではない。

 タブリスの嫌味な問いにアリステアは呆れたようなため息を吐いた。

 

「貴方ぐらいなら殺せる程度には大丈夫ですよ」

「コワコワ。君なら本当に殺り()ねないな。また殺されるのは嫌だから、おいとまするよ。魔王様もバイバ~イ」

 

 銃を向けれたタブリスがヒラヒラと手をふって逃げるようにセクィエスを連れて転移した。

 あとにはアリステアと魔王が残される。

 

「厄介な者たちに命を狙われているな、君は」

「いずれ処理しますので心配は無用です」

「ならば言うことはない。猶予すべき事態は改善した、俺も帰るとしよう」

「来て間もないというのに忙しい人ですね」

「それほど君たちが冥界にもたらした影響が凄まじかったと言うことだ。今後は冥界に直通する場所での激しい戦闘は自重してほしい」

「時と場合によりますね。嫌なら速く門を閉ざすことです」

「サーゼクスには俺からも進言しておこう。では肉体が崩壊してしまう前に退散するよ。……確認なんだが、その傷は厄介な"式"が掛けられている、対処できそうか?」

「問題はありません」

「……そうか」

 

 魔王が目を細めるも直ぐに表情を変えて何事も無かったように去って行く。

 雪は止み、断刀の音も消え、静かな夜だけが残る。

 それは戦いの終わりを意味していた。

 アリステアは血塗れの腕を癒そうと回復の術式を編んで霊氣を回す。

 普通ならそれだけで修復が始まるはずなのに傷は治らない。

 恐らく"血咒"という術式の効果だろう。

 

「術式の構成把握、対する抵抗術の精製……治すのは存外に手間ですね」

 

 傷からポタポタと血を流しながらアリステアが雪原に立ち尽くす。

 戦闘で拮抗したのは随分と久しぶりだ。圧倒的な戦力を持った自分と対等に渡り合ったセクィエス。道化を演じながら常に相手を見極めようとするタブリス。そのタブリスと繋がっているだろう"砕き"という破壊を具現したクラフト。

 どの相手も危険な存在である。

 同時に疑問も過る。

 一体、あの者たちは何者か、と……。

 個人個人が魔王クラスかソレ以上の手練れ。そんな集団の目的が戦争の勃発だけとは限らない、その先があるはずである。

 しかし直ぐに考えるのをやめる。答えにたどり着くためのピースが足りないからだ。

 例え答えが分かっててもやることは変わらない。

 何者だろうと障害となるならば殲滅する、ただそれだけだ。

 そんな些細な問題よりも、今一番の課題をアリステアは熟考する。

 

「さてこの傷はナギに対してどう説明しましょうか、あまり格好の悪い所は見せたくないのですが……」

 

 珍しく憂鬱そうな表情をする。

 弱味を見せたくないという幼稚なプライドだと自覚しているが、こればかりはどうしようもない。

 これは自らに課した戒律でもあるのだ。

 

 ──最後に残った"蒼の守護者"として最強であるべき。

 

 それこそがアリステア・メアの存在意義であり、自身が持つ権利でもあるのだから……。

 





データファイル


物質転送移(アポーツ)

遠くにある物質を引き寄せる術。
逆に送る事も出来るが、生物は空間を跳ぶ際の余波で肉体に大きな負荷が掛かる。


Last(ラスト) Embrace(エンブレイス)

”絶死の包容”とも言われる。
霊氣によって自らの頭上に生成した粉雪を降らせる範囲攻撃。
幻想的で美しい雪景色を作り出すが、その効力は分解にして崩壊という見た目とは裏腹に残酷なもの。
触れた者は痛みを感じず氷が溶けるように、ゆっくりとこの世界から消え去っていく。
範囲攻撃なので回避は不可能、防御は可能だがアリステアが編んだ術なので彼女を上回る異能で対抗しなければ突破される。
つまり魔王クラスの実力者でないと物の数秒で消滅。対抗出来ても雪がやむまで常に防御に気をつかなわないといけないという強力すぎる術式。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。