ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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可愛い女の子に惚れられると苦労すると言うお話。



競技大会《Dog Ball or But Ball》

 

「ふぁ~~……眠い」

 

 昨晩、徹夜をしてしまった渚は球技大会の始まりを告げる花火をぼんやりと眺めていた。

 更に頭上を見れば空を薄い雲が隠している。

 天気予報によれば今日から天気は下り坂で連日は雨が続くと言っていた。

 なんにしても雨は夕方からとの事なので、なんとか天気には持ってほしいと思う。

 球技大会は予定通り9時から開始され、様々な競技が次々と行われる。午前はクラス対抗での野球となった。

 渚は勿論、同じクラスの一誠やアーシアも特訓の成果を出し切って良い順位を獲得する。

 午後は部活対抗の試合になるので、適当に昼食を取った渚はオカルト研究部の面々と合流した。

 眠たげな渚と違い、やる気満々の様子で軽く筋トレを始める一誠。その近くではアーシアも朱乃にストレッチを手伝っても貰っている。小猫は球技のルールブックを読んで最終チェックをしていた。リアスは種目を確認しに行っている最中だ。

 渚は最近様子のおかしい祐斗を盗み見る。

 やはり、心ここに在らずと言った具合で考え込んでいた。

 

「悩みごとでもあるのか?」

「どうしてだい?」

 

 渚が祐斗に聞くが質問で返される。

 どうしても何もない。ずっとこんな調子で考え込まれたら気にもなると言うものだ。

 

「最近、ぼんやりし過ぎだと思ってな」

「……大丈夫。ここ連日、夢見が悪いだけだよ」

 

 嘘には聞こえない。

 しかし、そうなると相当な悪夢なのだろう。

 渚がもう少し踏み込んで質問しようとするがリアスが帰ってくる。

 

「種目はドッヂボールに決定したわ」

 

 ニヤリと不適に笑みながらピースサインを出す。

 渚は乾いた笑いをこぼす。

 リアスの目は優勝を狙っている、つまり彼女は勝ちを狙いに行くのだろう。

 悪魔の魔球を受ける羽目になる学生が哀れでしょうがない。

 

 

 

 

 ○●

 

 

 

 

「……マジか」

 

 部活対抗試合が行われる午後。

 午前から渚を襲っていた睡魔が吹き飛ぶ現象が起きた。

 渚の視線の先にはブルマ姿のアーシアが立っているのだ。

 寝ぼけて幻影を見ているのかと何度も瞼を擦って目の前の光景を確かめたくらいだ。

 対抗戦の直前までは学園指定のハーフパンツ姿だった筈のアーシアはいつの間にかブルマ姿に変身していた、一誠も「ぶ、ブルマ……」と驚いている。

 

「ど、どうしたんだ、アーシア?」

 

 渚の質問にアーシアは白い脚をモジモジさせながら顔を赤くする。

 

「そ、その、桐生さんが、ドッヂボールの正装はぶ、ブルマと言って……」

 

 周囲の男子はアーシアを凝視する。

 アーシアは美脚だ、いつもはスカートでも隠れている白い太ももが上まで見えているので嫌でも視線を奪われる。

 渚も男なので思わず注視してしまうくらいだ。急に我に返り、藍華へ顔を向けると「どう? 良いでしょう?」とドヤ顔をされた。

 悔しいが怒ることが出来ない。それくらいに今のアーシアは見映えするのだ。

 

「に、似合ってないでしょうか?」

 

 アーシアが恥ずかしそうな上目使いで渚へ聞いてくる。

 似合う以前に美少女がこんな格好をしているのだ、目は引かれる。

 しかし、きっと羞恥で逃げ出したいのだろう。

 元々、目立つ事を好まない控えめな性格だ。周囲の注目に晒されて嫌な筈である。

 渚がアーシアの肩に軽く手を乗せる。その目は彼女の間違いを訂正するために真剣だった。

 

「アーシア、ブルマはドッヂボールの正装なんかじゃない、だから学園指定の体操着でも問題ないんだ。嫌なら着替えてきても良いんだぞ?」

「で、でも、な、ナギさんが喜ぶと言っていたので」

「え"」

 

 大変な事が起きてしまった。

 そこは決して()()()()()()()()()()()

 金髪美少女が自分の為だけに恥を耐えてブルマ姿になる。

 これほどの奉仕行為が嬉しくない訳がない。

 こんな至福があって良いのだろうかとすら渚は思う。

 

「私ではダメでしょうか……?」

 

 悲しそうに目を伏せる。

 彼女の勇気を踏みにじってはダメだと魂が叫ぶ。

 渚はもう片方の手もアーシアの肩に乗せた。少し強く置いた手にアーシアが顔を上げる。

 

「凄く可愛い、そして俺はとても嬉しいぞ。──ありがとう」

 

 心の奥で歓喜のラッパが鳴り響く。

 なんだかんだで最高に渚は萌えているのだ。

 ふと、周囲からどす黒い気配がした。

 渚とアーシアの会話を聞いていた男子がスゴい目付きで睨んでいた。

 全員の目がこう言っている「「「アイツコロス」」」……と。

 すぐに視線をアーシアに戻す。

 

「ヤバい、アイツ等ヤバい」

 

 男子どものどす黒いオーラに冷や汗を流す渚、一誠にすら距離を取られた。

 この瞬間から渚は全校男子の敵となったのだ。

 

「気を引き締めなさい、貴方たち。私たちは勝ちに行くわよ」

 

 リアスがパンっと両手を叩いて眷属たちの気合いを入れる。

 

「オッス! 今日は部長のために頑張ります!!」

 

 一誠の元気な返事にリアスが笑みを浮かべた。

 

「良い返事ね。頑張ったらご褒美をあげるわ!」

 

 クワッと一誠の目が開く。

 

「うおおおおおお! おっぱいぃいいい!!」

 

 急に叫ぶ一誠。

 やはりそこに行き着くのかと渚は呆れた。

 一連の会話を聞いていた男子どもが更に騒ぎ出す。

 リアスは学園でも超の付く人気者だ。そんな誰もが憧れるお姉さまからご褒美を貰える一誠。

 渚は次にどうなるか予想した。

 

「「「アイツモコロス」」」

 

 渚同様、一誠もまた学園の絶対悪となった。

 男子の黒い視線のなかで渚は喜びの真っ只中にいる一誠の脇を肘で小突く。

 

「皆に渡すもんがあるんだろう」

「あぁそうだった」

 

 渚と一誠の会話に「?」を浮かべる部員たち。

 一誠が取り出したのはハチマキだった。

 ここ最近、渚と一誠は空いた時間を使ってハチマキを作っていた。

 言い出したのは一誠で渚はその手伝いをしたのだ。

 真っ赤な布に「オカルト研究部」と刺繍してある。

 赤いハチマキの一つをリアスが嬉しそうに取った。

 

「用意がいいのね、二人とも」

「誉めるなら一誠にしてやってください、俺は少し手伝っただけですんで」

「いや、ナギの手伝いも助かったぜ? 二人して指を刺しまくったもんな」

「いやいや俺が作ったのは字のバランスがおかしいだろ」

 

 渚が一誠の言葉に苦笑した。

 七つの内、三つを受け持った渚だったが完成度は一誠の方が高い、渚がやった刺繍は少し型崩れしているのだ。

 一つは渚が使うが、あと二つを使用する人に申し訳なく思っているとアーシアと小猫が迷わず取った。

 

「私はナギさんのを使います!」

「……気合いマックスです」

「さんきゅな、二人とも」

 

 朱乃もニコニコと笑ってハチマキを取ると迷う事なく額に巻いた。

 

「あらあら、私も本気になってしまいそうですわ」

 

 団結力を高めたオカルト研究部が出撃する。

 だがそんな中でハチマキを見つめながら難しい顔をする祐斗を渚は見逃さなかった。

 

 

 

 

 ○●

 

 

 

 

「コロセ! コロセ!!」

 

 オカルト研究部の対戦相手は野球部だった。

 豪速球のボールは怨念を宿しているのか嫌に鋭く速い。野球部と言うだけでは考えにくい速度を叩き出している。

 

「こわ! アイツら殺す気だぞ!?」

「と、とにかく避けろ!」

 

 渚と一誠が狙われる。

 ある意味こうなるのは目に見えていた。

 先程の出来事もあるが、それが無くてもオカルト研究部でボールを当てられるのはこの二人しかいないのだ。

 まずリアス、駒王学園が誇る二大お姉さまの一人、攻撃不可。

 朱乃、同じく二大お姉さまの一人、攻撃不可。

 アーシア、二年でも癒し系金髪美少女、攻撃不可。

 小猫、学園のマスコット美少女、攻撃不可。

 祐斗、攻撃したら学園の女子を敵に回す、攻撃不可。

 半数が攻撃できない以上、既にオカルト研究部の勝ちが決定しているという謎の状況である。

 しかし、その分だけ渚と一誠には容赦ない攻撃が降ってくるのだ。

 彼らの気持ちは分かる。要するに「なんで美男美女が揃っている部活に異物が二つもあるんだ? アレなら当ててもいいんじゃね? 寧ろ当てなきゃ気がすまん! ……ヨシ、コロソウ」という感じなのだろう。

 精神が肉体を凌駕したヘッドショットが渚と一誠をひたすら襲う。

 

「おらぁあああ!兵藤とよく知らねぇもう一人も死ねぇ!」

 

 せめて名前ぐらい覚えてから殺意をぶつけてほしいと思う。

 

「お願い、野球部! リアスお姉さまと朱乃お姉さまに近づく兵藤を討って! あとついでにもう一人も!!」

 

 一誠のついで、という理由は扱いが雑すぎて泣けてくる。

 

「うぉおおおブルマ姿のアーシアちゃんに肩を置いていた兵藤の近くにいる男子を滅ぼす!」

 

 いい加減に名前を言って欲しくなる渚。

 

「はぁ、はぁ、小猫ちゃん、最高!! 兵藤ともう一人はロリコン、殺せ!」

 

『どっちがだ!』と心から一誠と渚が叫ぶ。

 

「蒼井! テメェは俺を怒らせた!!!! 死んでしまえ!!!!!!!!」

 

 おまけ扱いだった渚の名を誰よりも大きな声で読んでくれた男に軽く感激した。

 

「って松田かよ!」

 

 怒りの形相でボールを投げてきたのは悪友の松田だった。そういえば野球部だったのを忘れていた。

 とにかく渚と一誠にボールが集中する。

 それを見たリアスが閃いたような顔をすると手を前に出して指令を跳ばす。

 

「──この状況、サクリファイスの戦術が有効だわ! 二人ともこのまま敵の注意を引くのよ!!」

「うぉおおおおおお、部長の言葉なら俺はやれる!! ナギ、付き合え!」

「OK、どのみちデコイだからやるさ」

 

 火がついた一誠に渚も呼応して気合いをいれる。

 ボールをひたすらに避け続けていると渚の前に小猫が立ち塞がる。

 

「……渚先輩ばかり狙わないでください」

「俺の前に小猫ちゃんが! クソ、俺には……出来ない!!」

 

 悔しそうに野球部がボール投げた。明らかに手加減をした緩い速度だ。

 小猫が不服そうにキャッチして戦車の腕力で投げ返すと野球部は止めきれずにヒットする。

 次々と小猫に沈められる野球部。

 やがて追い詰められた一人の部員が自棄(やけ)になったのか、離れた場所で孤立していた祐斗に狙いを絞る。

 

「恨まれてもいい、イケメン王子は死すべし!」

 

 剛速球のボールが祐斗にめがけて跳ぼうとしていた。

 スピードの速い祐斗なら避けられるだろうと渚は高を括っていたが、当の本人がボールを見ていないと気づく。

 

「おい!」

 

 渚はダンっとグランドを蹴った。

 

「渚くん?」

 

 祐斗を庇うように立って構えたがすぐ正面にはボールが迫っていた。

「あ」と思った瞬間には豪速球のボールを顔面に食らう。

 

「ぐげぼ!」

 

 変な悲鳴が喉から出た。

 

「ナギさん!!」

 

 アーシアが駆け寄ってくる音がする。

 左手で顔面を押さえたままの渚がアーシアの気配のする方向へ右手を出して制止するよう(うなが)す。

 

「だ、大丈夫だ、アーシア。少し鼻を打っただけ……」

「きゃ」

 

 近くでアーシアが短い悲鳴をあげる。

 そして右手に柔らかいものが当たると渚はそのまま押し倒された。

 身体全体に柔い物体が覆い被さる。鼻孔にいい匂いが広がった。

 何事だろうと思いながら右手にある柔らかい物を握る。

 

「……ぁん」

 

 艶っぽい声が耳元でする。

 渚はさらに右手を動かす。妙にさわり心地の良い物体だったからだ。

 

「あ……ナギ……さん」

 

 ビクリと渚に覆い被さったものが小さく跳ねた。

 この声と右手の感触、そして匂い。

 渚の血の気が引く。

 視界を塞いでいた左手を退かすと目の前に碧色の宝石が映った。

 アーシアの瞳だ。息の掛かる距離にアーシアの顔があるのだ。というか唇のすぐ横にキスをされていた。

 状況は理解した。渚を心配して駆け寄ったアーシアが(つまず)いて渚を押し倒してしまったのだろう。

 

「ご、ごめんなさい! わ、わたし、そんなつもりは!!」

 

 アーシアが慌てて渚の上から退く。

 柔かな暖かさと心地よい匂いが遠ざかる。

 渚は右手と頬に忘れられない感覚を残して立ち上がる。

 

「あの、私、その!」

 

 トマトにみたいに真っ赤なアーシア。

 

「落ち着け、アーシア。今のは事故だ、ノーカンだ」

 

 自分に言い聞かせるように渚は言う。

 ふと回りが静かになっていた。

 渚は何事かと近くにいた松田を見る。

 

「お、お前、アーシアちゃんを押し倒して無理矢理キスしやがった」

「……へ?」

 

 コイツの目は腐ってるのだろうかと思う。事故ではあるが押し倒されたのは渚である。

 だいたいキスはしていない、ギリギリほっぺだ。

 渚が弁解しようとするが鼻から何かが流れて来た。

 

「こ、こいつ、アーシアちゃんに欲情して鼻血を出しやがったぞ!!」

「なんでやねん!!」

 

 思わずツッコむ。ボールが鼻に当たったから出た血である。

 リアスたちに助けを求めようと渚が振り向く。

 

「良かったわ、渚も男の子だったのね」

「はい、部長。女の子に対して興味があるというのは大切なことですわ」

 

 真剣に二人が安堵していた。

 一体、どんな目で自分を見ていたのかが気になる。

 

「……おっぱい、触ってました」

 

 ボソッと小猫が冷たい目で言った。

 事故だと言っても触ってしまったので有罪なのだろう。

 

「頭が痛いな」

 

 渚は頭を抱えて現実から逃避したくなるが、色々と手遅れな気がしたのでやめる。代わりに転がっていたボール拾って内野にいた松田に手加減なしで投げつけてやる。

 派手にブッ跳ぶ松田。

 遠くから藍華が大爆笑している声が聞こえた。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 雨が降りしきる。

 天気予報どおり夕刻から雨が落ち始めた。

 渚はオカルト研究部の部室で窓の外を見ている。

 強い雨だ。少し待ってから帰った方がいいだろう。

 

 ──パン。

 

 雨音に混じって乾いた音が部室に響く。

 頬を叩かれたからだ。

 渚ではない。リアスが祐斗を叩いていた。

 

「祐斗、なぜ叩かれたのか理解はしている?」

 

 リアスは怒っていた。

 球技大会はオカルト研究部の優勝で幕を閉じている。

 渚もそれなりに優勝に貢献したが、一人だけ一致団結の輪から離れている人物がいたのだ。

 それが祐斗だった。

 常にぼんやりと考え込み、皆とは違う方面に気を向けていた。

 片方の頬を赤くした祐斗は無表情でリアスを見ている。だがそれも一瞬、すぐにニコニコと笑う。

 

「部長、今日はすいませんでした。少し調子が悪くてぼんやりしていました。今日は球技大会の練習もないですし、もう休ませて貰います」

「木場、お前大丈夫か? 流石にちょっとおかしいぞ」

 

 一誠が声を掛けるが冷たい笑顔の祐斗。

 

「今回は(あるじ)の言うことを聞かなかった僕が悪かったと思っているよ」

「そうじゃなくて。何か悩みごとがあんなら言えよ、俺ら仲間だろ」

「仲間?」

「そう、仲間だ」

 

 祐斗が嗤う。だがその中に感情は空っぽだった。何もおかしくないのに、ただ笑っているフリをしている。

 

「最近、同じ夢を見るんだ」

「夢?」

 

 急に話を変える祐斗。

 

「そう、その夢が僕の生きる……戦う理由を思い出させてくれた」

「戦う理由? 部長のためじゃないのか?」

 

 一誠がそうであってくれと言わんばかりに祐斗に言葉を投げ掛けるが即否定された。

 

「違う、僕は復讐の為に剣を取った。そうあの忌まわしき聖剣──エクスカリバ─に関わるものを葬るために」

 

 笑顔の奥にあったのは凄まじいまでの怒気と憎悪、そして強い決意。

 祐斗が見せたのは復讐者としての顔だった。

 重い沈黙が部室を支配する。アーシアが不安そうに渚の服を掴んだ。

 一誠も祐斗の見たこともない顔に言葉が見つからない様子だ。

 

「……祐斗」

 

 リアスが手を伸ばすが、逃げるように祐斗は部室の出口へ歩き出す。

 

「今日は帰ります」

 

 ただそれだけを言うと祐斗は部室から出ていくのだった。

 

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