ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

32 / 86
悪魔と信徒《Ugly Vices》

 

「おう、分かった。じゃあミッテルトの事、頼むな」

 

 そう言って一誠は自宅の電話を切る。

 相手は渚だった。

 ミッテルトが訪問して来たので今日は泊めていいか、との事だった。

 一誠はレイナーレ達と二ヶ月以上も監視という名の同棲をしている。理由はレイナーレの持つ赤龍帝の欠片への抑止だ。親であるドライグを宿す一誠ならレイナーレを簡単に無力化が可能だからだ。

 両親にはリアスが軽い暗示をかけてホームステイと言う形で納得を得ている。

 だが最近になって同居人が増えた。

 

「イッセー、電話は誰から?」

「あ、ナギです。ミッテルトが来たらしいんですけど大雨だから泊めていいかって」

「まぁ渚なら問題ないでしょう、それよりご飯が出来たわ。今日はカレーよ」

 

 一誠の会話相手はリアスだ。彼女はここ数週間前より一誠の家で暮らしている。

 ちょうどライザーとのゲームが終わってからである。あの戦い以降リアスの一誠に対する態度は変わった。

 レイナーレの友達という名目で兵藤家にホームステイを希望した……そんな無理がある設定を暗示で乗りきって住み込み始めたのである。

 一緒に住んで分かったが、リアスはかなり家庭的な女性だ。

 炊事、洗濯などお嬢様であるリアスにはほど遠いスキルをバッチリ身に付けている。

 今日のカレーも彼女の手作りだったりする。

 憧れの女性からの手料理に一誠は上機嫌でテーブルについた。

 

「美味い」

「なら作った甲斐があったわ」

 

 ガツガツとカレーを食べる一誠を愛しい目で見るリアス。

 

「スープもあるわよ、ご主人様!」

 

 ガンっとそんな二人の世界を壊すようにレイナーレがスープを乱暴に配膳する。

 

「レイナーレ、少し乱暴じゃなくて?」

「失礼しました」

 

 反省の色のない謝罪だ。

 一誠は不機嫌なレイナーレのスープを取る。

 これも手作りで、担当はレイナーレだ。

 口にしようとするとリアスが挑むような目でスープと一誠を見る。

 妙な緊張感が場を支配する中、一誠はスープを飲む。

 味は普通だった。

 リアスのカレーに比べたら味の質は落ちる。

 けれども心が満たされた。なんの変鉄もないスープだが、これをレイナーレが頑張って作ってくれたという事実が一誠を嬉しくさせる。

 

「いい味だよ、夕麻ちゃん」

「レイナーレよ」

「あ、ごめん」

 

 一誠はよくレイナーレを夕麻と呼んでしまう。

 きっとそれはまだ彼女に恋をしているからだろう。

 そんな一誠にリアスは肩を落とした。

 

「レイナーレ」

「なに?」

「すぐ貴方に追い付くから」

「……勝手にしなさいな」

 

 ツンッとした態度のレイナーレにリアスはクスクスと笑う。

 二人の中で争いが起きている。だが命に関わるような戦いじゃない。

 兵藤 一誠を取り合っているのだ。リアスは一誠を一人の異性として見ている。

 しかし今の一誠はレイナーレを見ている。だけどリアスは負けるつもりはないようだ。

 レイナーレとリアスを交互に見る一誠は何が起こってるのか、まるで理解していなかった。

 

「そうそう、イッセー」

 

 ふとリアスが一誠に話を振った。

 

「なんですか?」

「三日後、部室で教会の人間と会うわ」

「きょ、教会ですか!?」

「アンタ、正気なの?」

 

 とんでもない事を言うリアス。それは部室に敵を招く行為に等しい。

 

「あちらからコンタクトが合ったのよ」

「宣戦布告しに来たんじゃないの?」

「恐らく違う。町の管理者である私との対話が目的らしいのよ。対話に当たっては決して刃を向けないと"神に誓った"わ」

「それをアンタは信じるの?」

「信仰者が神の敵に誓うくらいだもの。相当な厄介事なのは確実よ。実際、私も嫌な予感がしているわ。ここ最近、町に潜入した神父が次々と惨殺されているしね」

「神父が?」

「潜入の目的は間違いなく私たちじゃなくて他のモノよ。彼らは私たちに近づくことすらしてない。むしろコソコソと何かを捜索しているようにも見えるわ」

 

 リアスは難しい表情で考え込む。

 はぐれ神父のフリードでさえ悪魔に対して嫌悪の感情を持っていた。

 本来の信仰者ならばその感情は更に大きいのではないか?

 その信仰者が悪魔と対話を望むのは、かなり切羽詰まっている状況なのではないだろうか?

 ──何かヤバイ事が起きる。

 そんな不安を残し、一誠は三日後を待つ事になる。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 ──三日後。

 

 話を聞かされた渚はオカルト研究部の部室にいた。

 部員は全員揃っている。ここ三日間、顔を出していなかった祐斗も今日は部活に参加していた。

 ソファーにはリアスと朱乃、それに相対するような形で二人の女性が座っている。

 渚はその二人を観察する。

 まず思ったのは二人ともかなり若いという事だ。

 歳は渚と同じくらいだ。だが六人もの悪魔に囲まれているというのに臆する様子もなく落ち着いている。

 若いからと(あなど)っては足元を(すく)われるだろう。

 近くに立っていたアーシアが怯えるように渚の服を掴んだ。何故か異様に彼女たちを……いや彼女たちが持ち込んだ布で覆われた長物を怖がっている。全体が隠されているので詳細は不明だ、しかし形状からして剣だと渚の予想する。

 小さく震えているのはアーシアだけではない。一誠もまた冷や汗を流していて、小猫も客人から距離を取っている。全員が布で包まれた物体に一種の忌避感を抱いているのを肌で感じる。

 リアスと朱乃も真剣な面持ちで相手を(うかが)っていた。

 そんな中で特に負の感情が大きいのは祐斗だ。教会関係者である二人を怨恨の眼差しで睨んでいるのだ。今にも斬り掛かって行きそうな雰囲気ですらある。

 渚が重たすぎる空気に辟易(へきえき)していると二人組の内の一人、栗毛のツインテールが特徴の少女が一誠を見るも()ぐにリアスヘ視線を戻して話を切り出す。

 

「早速、本題に入らせて貰っても?」

「構わないわ。わざわざ敵地にまで来たんだもの、厄介ごとなのは分かってる」

 

 栗毛の少女が短く咳払いをすると話題を切り出す。

 

「……先日、カトリック教会本部およびプロテスタント、正教会に保管されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

 ざわっと周囲が騒ぎ出す。最強の聖剣が奪われるなどと誰が思うだろうか。同時に渚は彼女の言葉に引っ掛かる。

 エクスカリバーはカトリック教会本部とプロテスタント及び正教会で奪われたと栗毛の少女は言った。つまり三ヶ所でエクスカリバーは奪われた事になる。

 まるでエクスカリバーが複数あるような言葉である。

 

「あの部長、エクスカリバーって三本もあるんですか?」

 

 渚の疑問を一誠が口にした。

 

「エクスカリバーは大昔に折れたのよ。その散りばめれた破片を集めて鍛え直し、七本の聖剣として生まれ変わった。……で間違ってないわよね?」

 

 リアスの言葉に返答したのはショートカットの女性だ。

 

「ああ、間違いない。今はこのような姿になっている」

 

 彼女が傍ら置いていた長い物体を取ると全体を覆っていた布を解き放った。それは一本の刀剣。聖なるオーラで周囲に浄化してしまいそうな見事な剣である。

 アーシアが渚の手を握る。汗ばむ手からも間違いなくあの剣に恐怖していた。悪魔を滅ぼす為の武器なのだから当然だろう。アレに触れたら問答無用で消滅させられるのだ。

 

「これがエクスカリバーだ。私が持つのは"破 壊(デストラクション)"の名を持つ一本になる」

 

 剣の紹介をすると再び布で隠す。

 普段はあれで封印しているのだろう。

 続くように栗毛の少女が長い紐のようなモノを取り出す。その紐は意思を持っているかのように動き、形を変えて刀に変化した。

 

「私のは"擬 態(ミミック)"の名前を(かん)するエクスカリバーよ。七本のエクスカリバーはそれぞれ特殊な能力を持っていて、私のは色んなモノに化けるの。そっちのゼノヴィアは文字通り破壊に特化した能力になるわ」

 

 意気揚々と喋る栗毛の少女にショートカットの方、ゼノヴィアが嘆息する。

 

「イリナ、悪魔に能力まで説明する必要はないだろう」

「ゼノヴィア、いくら悪魔でも今回は信頼関係は築かないと。それに能力を知られたからといって、この場にいる皆様に遅れを取るなんてことないわ」

 

 自信満々のイリナ。

 聖剣を持っているからなのか、絶対に負けないという自負が透けて見える。

 渚はその過剰なイリナの自信に対しての苛立ちはなかった。きっとそう言うだけの力をエクスカリバーは持つのだろうし、二人とも教会の戦士として修羅場も(くぐ)ってきているのだろう。

 ただすぐ近くで鬼のような形相で二人を見ている祐斗が気になってしょうがない。

 人生を台無しにされた聖剣が急に出てきたのだ、心中は察するがリアスは平和的に教会の二人組と話をしようとしている。ここで祐斗が飛び出せば全てが無駄になる。渚は危うい友人がポカを(おか)さないために何時(いつ)でも動けるようにしておく。

 

「貴方たちが聖剣所持者でエクスカリバーが何者かに奪われたというのは分かったわ。それでこの町に来た理由は?」

「簡単さ。エクスカリバーを奪ったの者が、この町にいるからだよ」

 

 ゼノヴィアの言葉にリアスが息を呑んだ。そんな事を知ってか知らずか、ゼノヴィアは続けた。

 

「カトリック教会には私のを含めて二本、プロテスタントの元にも二本、正教会も二本、そして過去の大戦で消息不明になった一本。そのうち各教会にある聖剣が一本ずつ奪われている」

「なんで私の管理地はこうも嬉しくない出来事が豊富(ほうふ)なのかしら。……それで奪った輩の正体は?」

「"神の子を見張るもの(グリゴリ)"だ」

「堕天使に奪われたの? なるほど、貴方たちが焦る理由にも納得ね。失態どころの話じゃないもの」

「相手の察しは付いている。奪ったのは堕天使コカビエル、"神の子を見張るもの(グリゴリ)"の大幹部だ」

「聖書にも名が出てくる古の堕天使か。随分な大物じゃない」

 

 リアスが苦笑した。

 それほどの相手なのだと渚はどことなく理解しながらも聞き耳を立てる。

 

「先日から秘密裏に神父を侵入させて捜索さているが、(ことごと)く抹殺されている。十中八九、奴等の妨害だろう」

「つまりこの町の管理者である私に協力を要請するということなのかしら」

「逆だ。こちらの依頼……いや要求は私たちと堕天使が行う聖剣の争奪戦に悪魔は一切介入しないでもらいたい」

 

 この言いようにリアスの眉がつり上がる。

 

「私の町での出来事に首を突っ込むなと? もしかして私たちが堕天使と通じていると思っているのかしら?」

「可能性がゼロではないと思っている」

 

 リアスの瞳が冷たくなる。

 彼女の怒りは正当だ。

 わざわざ話し合おう招いた敵が「今からお前のたちの領土で好き勝手暴れるから、大人しく見てろ」とほざいているのだ。

 (しま)いには堕天使と結託して聖剣を奪ったと疑われている。

 

「堕天使と手を組むほど落ちていいないわ」

「上層部はそうは考えていない。聖剣を教会から取り払えれば悪魔にとって大きな利益になる。もしも堕天使と通じているのが本当だった場合、容赦なく消滅させる。例え魔王の妹だとして、だ。──今日はこの言葉を言うために来た」

 

 淡々と告げるゼノヴィア。あまりの言いようにリアスが睨むも受け流される。

 これでは喧嘩を売りに来たのと変わらない。しかしリアスは一瞬だけ瞑目(めいもく)して深呼吸する。

 

「私は兄を……魔王の顔に泥を塗るような事はしない。これは絶対であり、グレモリーの名に誓ってよ」

 

 挑発に乗らず毅然と言葉を返す。

 

「それならそれでよしだ。こちらの都合を知って貰っておいた方が教会的にも後腐れがない。話ぐらい通して置かないと私たちを派遣した上が恨まれるからね。それと教会と悪魔が手を組んだとなれば三竦みに影響が出るだろうから協力は(あお)がない。あなたたちにとってもその方が良いだろう」

「まぁそうね。けれど一つ聞かせて頂戴。奪還者の規模はどれくらいなの? あまり教会関係者がゾロゾロと来られても困るのよ」

「安心するといい、派遣されたのは私たち二人だけだ」

「待ちなさい、二人でコカビエルに挑むの?」

 

 リアスの問いに今度はイリナが答える。

 

「そうよ。上層部は聖剣奪還よりもこれから始まる戦争に備えてる、だから回す人材も最低限なの。聖剣探索は私とゼノヴィアだけに任されてるわ」

「死ぬつもり?」

「そうよ」

「覚悟の内さ」

 

 二人は即答した。

 

「──っ! やはり貴方たちの信仰心は常軌(じょうき)(いっ)しているわ」

「私たちの信仰を(けな)さないでちょうだい。それは逆鱗よ、リアス・グレモリー。ね、ゼノヴィア」

「ああ、だが今回は奪還じゃなくて破壊も許可されている。堕天使に聖剣が渡るぐらいなという判断だろうな」

「それでも危険な事には変わりないわ」

「簡単に死ぬつもりはないとだけ言っておく」

「エクスカリバー以外にも何か切り札があるのかしら?」

「想像にお任せしよう」

 

 二人の会話が止まる。両者見つめあったまま言葉が途絶した。もう話すことはないと思ったのか、イリナとゼノヴィアが目で合図を取り合うと立ち上がる。

 

「そろそろ行くとする。イリナ」

「はーい、じゃあイッセーくん、おば様によろしくね」

「お、おう、言っとく」

 

 見知った様子で一誠に手を振るイリナ。

 さっきの視線を送った時といい、どうやら二人は顔見知りのようだ。

 

「お茶は要らないの? お菓子ぐらいなら用意させるけど?」

「いらない。あなたも言ったろ? 我々は敵同士だ、仲良くお茶を飲み合う仲ではない」

「あー、ごめんなさいね。ゼノヴィアってば少しピリピリしてて」

 

 リアスの好意に手を振って拒絶するゼノヴィア、その態度を片手で謝るイリナ。

 部室から出ていこうとした二人の視線が一ヶ所に集まる。その目は渚を向けられたものだ。ゼノヴィアが軽蔑、イリナが哀れむような視線をそれぞれ送ってくる。

 あまり良い気はしなかった渚が反射的に二人を見返す。

 

「なにか、用?」

「君は人間だろう?」

「そうだけど」

「なんてこと、イッセーくんと同様で悪魔に心を奪われたのね」

「何が言いたいんだ?」

「警告だよ。悪魔崇拝者はろくな死に方はしないぞ、経験則だ」

「そうね、ここからいち早く去った方がいいわ」

 

 イラッときた。

 ここにいる悪魔は渚にとって大事な人たちだ。

 まるで、ろくでもない生物のように扱っているこの二人に苛立ちを覚える。だが怒りを抑えた。リアスたちは、そう思われていると予想していたのか表だっての反論はない。

 ならば事を荒立てるのは良くないだろう。

 渚は感情に(ふた)をして怒りを抑え込む。

 

「アンタらには関係ないだろ。俺が誰といようと俺の勝手だ」

「確かに余計な世話だった」

「あ、ゼノヴィア。彼の隣にいる子……」

 

 渚の隣にいるアーシアに二人の視線が行く。

 

「ああ、もしやと思ったが"魔女"アーシア・アルジェントか」

 

 "魔女"と呼ばれたアーシアの体がビクリと跳ねた。

 イリナがまじまじとアーシア見る。

 

「へぇー、あの有名だった"聖女"さんが今は悪魔やってるんだ。悪魔や堕天使も癒せる力を持ってるんでしょ? 教会から追放されてどっかに流れたって聞いてたけど。そっか、悪魔になっちゃたんだ」

「えっと、私は……」

 

 イリナの言葉に悪意はない。それでもアーシアは返す言葉に困っていた。

 

「あ、心配しないで! ここで見たことは誰にも言わないから。"聖女"アーシアを慕っていた方々がショックを受けてパニック起こすからね」

 

 フォローのつもりなのだろう。しかしアーシアは複雑な表情で黙り込む。

 蓋をした渚の感情が少しだけ開く。

 まるでアーシアが悪いような言い方である。

 全て逆なのだ。なんの罪も犯していないアーシアを教会は戦争を起こすと言う目的のために利用して殺そうとした、いや実際一度死んでいる。悪魔にならなければ生きられない状況に追い詰められたアーシアこそが教会を弾劾できる立場なのだ。しかしそんな事はしない、アーシアは今でも神を(した)い、教会を信じているのだから……。

 

「君の噂はよく聞いたよ。しかし悪魔に堕ちてしまうとは。……まだ神を信じているのか?」

「もうゼノヴィア。悪魔になった彼女が(しゅ)を信仰してるはずないわ」

 

 呆れたと言いたげにイリナが言う。

 

「背信行為をする(やから)のなかには罪を犯しつつも信仰を捨てきれない者がいる。彼女からはそんな(たぐ)いの物を感じるよ」

 

 ゼノヴィアが目を細めて言うとイリナがら意外そうにアーシアを見つめた。

 

「アーシアさん、悪魔になった身で主を信じているの?」

 

 イリナの言葉にアーシアは悲しそうに頷く。

 

「……捨てきれていないだけです、ずっと信じて来たのですから」

 

 それを聞いたゼノヴィアが手に持ったエクスカリバーの布を解く。

 

「そうか。ならばこの場で私に斬られるといい。(しゅ)の名も下に、この聖剣で君を断罪しよう。例え罪深くともその浄滅を(もっ)て我らが主も救いの手を差しのべてくださる筈だ」

 

 渚の思考がフリーズする。

 コイツは何を言っているのだろう?

 怒りよりも先に来たのは疑問だ。

 アーシアがいつ罪を犯した? 確かに教会からしたら悪魔化は許されないかもしれない。だけれどそう仕組んだのは何処(どこ)のどいつだ? その仕組んだ奴等と同じところから来た女がアーシアの刃を向けて死ねと言っている。

 なんだこれは……。

 渚は感情が抑えきれなくなり、震えるアーシアを自分の背中に隠す。

 

「……な、ナギさん」

「なんのつもりだい? これは彼女の為でもあるんだ」

 

 それが救いと言いたげなゼノヴィア。信仰が絶対であり、神が本当にアーシアを救ってくれると思っている。だから迷いすらなくアーシアを殺すだろう。死こそが救いだと勘違いしているからだ。

 

「あと一歩だ」

「……何がだ?」

「アーシアに近づいたら、その自慢の聖剣ごと叩き斬る」

 

 渚の言いようにゼノヴィアが肩を竦めた。

 

「退くんだ。これは"魔女"が"聖女"に戻るための儀式だ」

「対価が命か? 随分と高くつくな」

「当然だ。彼女は犯してはならない罪を……信仰を裏切ったのだから」

 

 あまりにも可笑しさに渚は笑う。

 

「ハッ、それは笑いを取ってるのか?」

「笑う場所など何処にもないだろう」

「いや、あるさ。アーシアが信仰を裏切ったんじゃない、信仰がアーシアを裏切ったんだ」

「どういう意味だ?」

 

 ここで初めてゼノヴィアが殺気を纏った。だが渚は嘲笑うように言ってやる。

 

「知ってるか? アーシアはずっと祈り続けていた、教会から追放される前も後もだ、果てには悪魔になっても祈ってる。そんな一人の女の子に神は何をしてくれたんだ?」

「それは単純に彼女の信仰が足りなかったんだろう」

 

 ゼノヴィアは、文字通り全てを捧げたアーシアにまだ足りないと告げた。

 信仰の醜い裏側を見せられても信じようとするアーシアの心をどこまで踏みにじれば気がすむのだろうか? 

 一体どこまで(にえ)と捧げれば神は彼女の祈りに答えてくれる?

 渚には信仰という存在が、敬虔な者を食らい、骨の髄まで絞り尽くす化物にしか思えない。

 こんなモノにアーシアの心が犯されている事実に心が軋む。

 

「足りないか。……足りないなら仕方ないな」

「納得してくれたか?」

「あぁ納得した、よく分かったよ。これだけやっても何もしてくれないお前らの神様が──欲深い単なる木偶(でく)って事が、な」

「貴様ッ!」

 

 渚が敢えて馬鹿にした態度を取ると思った通りゼノヴィアは聖剣で斬りかかってきた。譲刃でその聖なる刃を受け止めてやろうとしたが渚の前に人影が乱入する。

 

「いい加減、調子づくのは()めてくれないか?」

 

 殺気を殺意で返す祐斗にゼノヴィアが眉を潜めた。

 

「誰だ、君は?」

 

 その問いに祐斗は不適に笑む

 

「君たちの先輩だよ」

「先輩だと?」

「"聖剣計画"を知ってるかい? その失敗作が僕さ」

 

 瞬間、威圧するように無数の魔剣が出現した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。