ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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聖剣エクスカリバー《Holy Sword Excalibur》

 

 旧校舎の外にある広場。

 少し前に野球の練習をした場所に渚は立っていた。隣には剣呑な雰囲気を隠そうともしない祐斗、さらに対峙するようにゼノヴィアとイリナがいる。

 周囲には朱乃が展開した結界が張り巡らされていた。リアス、朱乃、アーシア、小猫、一誠は渚たちを黙って見守っている。

 

「グレモリーの力を見せてもらうとしよう」

 

 ゼノヴィアがそう言って白いローブを脱ぎ捨てるとイリナもそれに(なら)う。

 黒い戦闘服を(あらわ)すると聖剣を構える二人。

 今から始まるのは決闘。

 アーシアを傷つけたゼノヴィアを挑発した結果、渚は戦いを申し込まれた。

 それに祐斗が参戦の意思を伝えるとゼノヴィアは心良く了承した。自信満々に二人まとめて掛かってこいと言われたくらいである。もっとも二対一の構図に相棒のイリナが慌てて介入し、二対二というルールとなったが……。

 ともせず渚は教会の戦士と刃を交えることになったのだ。

 

「さぁ始めよう」

 

 祐斗が魔剣を周囲に展開する。地面に突き刺さる剣の数々は禍々しいオーラを放ち、祐斗の憎悪そのものだ。

 

「笑っているのか?」

 

 ゼノヴィアの言葉だ。

 そう、祐斗は笑っている。見慣れた爽やかな笑みではなく負の感情を押し込めた薄ら寒い微笑みである。

 エクスカリバーへの殺意と歓喜で高揚しているのだろう。

 

「やっと、やっとだ。ずっと壊したかった、消し去りたかった物が目の前にある。この日を夢見てやまなかった。ここからやっと始まるんだ。──嬉しくて堪らないよ」

 

 ゼノヴィアが同情するように祐斗を見た、彼女たちはも協会関係者だ。恐らく……いや間違いなく聖剣計画を知っているのだろう。

 

「"魔剣創造(ソード・バース)"か。自らの思い描いた剣を造り出す、創造系の"神 器(セイクリッド・ギア)"でも上位な存在。まさか"聖剣計画"の生き残りが魔剣の担い手になっているとは皮肉なものだね」

 

 彼女の言葉に祐斗は決して答えない。かわりに殺気を刃に乗せて威嚇した。

 これ以上の会話は無駄と思ったのだろう、ゼノヴィアも口をつぐむ。

 渚は大きく嘆息するのを我慢できなかった。

 ゼノヴィアと戦うのはいい。こうなることを覚悟して彼女の急所(信仰)を刺激したし、リアスに迷惑ならないようにゼノヴィアからも私的な決闘だと言質を取っている。

 ただ隣の祐斗が問題である。

 明らかに試合を死合と履き違えているのだ。ここでゼノヴィアとイリナに死なれでもしたら大きな問題となる。心情的に三体一を強要されている気分だ。

 

「祐斗、とりあえず……」

 

 作戦の立案をしようとした渚だったが言葉を切る。御神刀 "譲刃"が次元を斬り裂いて手元に現れたからだ。

 譲刃の声が届く。

 

 ──油断大敵、かな。

 

 見れば聖剣を振りかざすゼノヴィアが迫っていた。直ぐ様、手にある"御神刀"で防御しようと(かま)えるも祐斗が前に出て攻撃を止めるてくれる。

 

「不意打ちとは恐れ入る、教会の戦士が聞いて(あき)れるよ」

「何を言っている? ここは既に戦場だ、ならば始まりの合図などありはしないだろう?」

 

 祐斗の侮蔑(ぶべつ)の混じった言葉にゼノヴィアは当然のように言いきった。

 確かに結界が張られた時点で既に火蓋は切って落とされている。ならば油断した渚が悪いのも頷ける。聖職者を名乗る者が不意打ちを使うのもどうかと思うが……。

 

「グレモリーの"騎士(ナイト)"よ、退()いてくれないか? 私は(しゅ)侮辱(ぶじょく)した彼と刃を(まじ)えたいんだ。君はあっちのイリナと戦ってくるといい」

 

 渚を見る目が敵意と殺意に満ちている。余程腹が立っているのだろう、どうやらゼノヴィアも祐斗同様に死合いをご所望のようだ。

 

「もちろんそうするさ。そのエクスカリバーを粉々にしてからね」

「どうやら彼の前に君を倒さないといけないようだ」

 

 二人の剣士が刃を振るう。

 聖剣と魔剣の交差に渚は取り残されてしまった。

 構えていた御神刀の柄から手を離す。

 そして祐斗たちから目を()らしてイリナへ振り向くと笑顔で返された。

 

「ゼノヴィア、取られちゃったね」

「そうだな、とりあえず戦うか?」

 

 思わず問いを投げ掛けた。

 渚はアーシアを傷つけようとしたゼノヴィアには怒っているがイリナには良い感情を持っていないが悪感情も(いだ)いていない。彼女はアーシアに対して色々と不躾(ぶしつけ)だったが多少の心遣いも見せた聖職者だ。しかも一誠の知り合いときている。理由もなく斬りたい相手ではない。

 戦意の低い渚に対してイリナは聖剣に光を宿して意気揚々と天に(かざ)す。

 

「愚問ね、私はこれでも神の代行者よ。道を(あやま)った者に救いの手を伸ばすのが使命なんだから! おぉ悪魔に虜にされた不憫な魂よ、私の聖なる剣で罪を洗い流してあげるわ!!」

 

 胸の辺りで十字を切るイリナ。

 なんか良くわからん理由で斬られる事になった……。

 大体、人間は聖剣じゃなくとも斬られたら最悪命を落とす。

 罪を洗い流す=(イコール)大ケガまたは死という事実に気づいているのだろうか? いやもしかすると教会ではアレがスタンダードな対応なのかもしれない。

 やはり聖職者という存在はアーシア以外まともじゃない気がしてきた。

 はいそうですか、と斬られる訳にいかないのでいつでも抜刀できるように再び柄に指を添えておく。

 イリナが動く。しかし接近ではなく距離を離すようにだ。

 

「行くわよ!」

 

 イリナの持つエクスカリバーの刃が伸びてムチのように変形、渚を貫こうとする。刀を抜いてエクスカリバーを(はじ)くが再び軌道修正して襲ってきた。

 何度弾いてもすぐに戻ってくる様はまるで生物だ。

 

「ムチに擬態させた刃は柔軟かつ不規則。やりづらいでしょう?」

「そうみたいだな」

 

 確かに斬撃の軌道は読み(づらい)いし速さもある。だが所詮は一本の線で結ばれた武器だ。よく動きを見て先読みすれば問題はない。

 エクスカリバーの刀身を紙一重で(かわ)し、その切っ先を置き去りにしてイリナへ接近する。

 踏み込みの速度なら渚の方が速い。

 刀でイリナの聖剣を弾き飛ばす。……それで終わりにしようとした時だ。目の前に追い抜いた筈のエクスカリバーの切っ先が現れた。

 

「なっ!」

 

 渚は即座に攻撃から回避に転じた。すると四方からも攻撃がやってくる。

 思わぬ攻撃に距離を取る。頬が小さく切れた渚を見てイリナが得意気に胸を張った。

 

「甘くみないでね! 私のエクスカリバーの能力は"擬態(ミミック)"、変身と行ってもいいわ。こうして刀身を増やす事だって出来るの」

「おいおい」

 

 七つに増えた刀身が再び渚へと伸びる。

 流石は名高い聖剣とあって(さば)くのもかなりの苦労を()いられる。

 渚の制服の所々が切り裂かれた。

 生物的な動きをする刃というのは存外、厄介な代物だ。斬っても切れず、防いでも間髪いれずに再び襲ってくる。このまま続けてもただ体力を奪われるだけだ。七つの刀身は渚の動きを完全に止めている。三本で刀を抑え、二本で体捌きに牽制、残りを使って死角から攻撃。イリナは距離を開けて渚の刃が届かない位置を保っている。

 

「……隙のない戦い方をする」

 

 相手の長所を潰し、防戦一方に追い込んで徐々に削るスタイルなのだろう。

 力ではなく手数に物を言わせる技術での強襲。動けない渚に勝利を確信したのかイリナは無邪気な笑みを浮かべた。

 

「改心するなら、この辺で許してあげてもいいわ!」

「折角の誘いだけど宗教には興味がなくてね」

「大丈夫よ、私が面倒見てあげるから!」

「神を(けな)した俺に文句のひとつもないのか?」

「あるわ! けどそれは私たちを知らないからよ。知って初めて分かる事もあるもの」

 

 間違っていない道理だ。

 きっと信仰深い少女なのだろう。渚を悪魔崇拝者と断じているが軽蔑なしに救おうとしている。

 少しアーシアに似ていると思うが勧誘には(なび)かない。

 

「今の場所が気に入ってるんだ。その誘いは慎んでお断りする」

「残念ね、じゃあそろそろトドメを刺すわ」

「いいや今度は俺の番だ」

「この刃を切り抜けられると言うの? 考えなしに突っ込んだら死んじゃうわ」

 

 確かにそうだ。七本の刃は常に渚を狙っている、下手に動けば体を切り裂くだろう。

 だからこそ一歩踏み込んで、大地を思いっきり蹴る。

 渚が敢行したのは突進だった。刃の先にいるイリナへ向かって跳躍したのだ。

 防御を捨てた事で四肢の至るところが貫かれる。炎のような熱さが脳を焼く。

 

「い、命が()しくないの!?」

「惜しいさ、だから致命傷は避けてんだよ!」

 

 くれてやったのは四肢だけだ。防御箇所を急所だけに絞れば突破は出来る。

 痛みの代償によって予想通りイリナを肉薄した。

 勝ちを確信した渚だったが、耳をつんざく爆音と暴風で止めを刺し損ねる。

 

「なんだ!?」

 

 見れば祐斗とゼノヴィアが戦っていた場所に巨大なクレーターが出来ていた。

 ゼノヴィアが聖剣を使ったのだろう。

 

「これがあらゆる物を破壊する"破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)"。この通り加減が難しいんだ、間違えば君など一瞬で(ちり)にしてしまう。……白旗を挙げてはどうだい?」

 

 クレーターの上にいる祐斗へゼノヴィアが提案する。破壊に特化した聖剣だけあって威力が段違いだ。祐斗とてアレを正面から受ければ魔剣ごと体が圧壊するだろう。

 しかし渚の心配を余所に祐斗はエクスカリバーを持つゼノヴィアを忌々しげに睨んだ。

 

「七つに別れて尚、この威力……。全てを消滅させるのは修羅の道か」

 

 瞳の奥で燃え盛る憎悪はさらに激しさを増す。

 祐斗が一本の魔剣を造り出して正眼に構えると魔力を放出し始めた。

 

「その聖剣と僕の魔剣、どちらの破壊力が上か……勝負だ!!」

 

 魔剣が形を変えて巨大になっていく。

 あらゆる物を断絶する剛剣は二メートルを越えた。

 祐斗の持つ最強の一撃なのだろう。

 

「よせ、祐斗!」

 

 声が聞こえてないのか返事はない。

 渚はイリナを放置して走り出す。アレではダメなのだ。あの魔剣では絶対に聖剣に勝てない。

 だが渚が祐斗を止める前に巨大な魔剣を使ってゼノヴィアの下へ駆ける。

 

「……詰まらない選択をする」

 

 それはゼノヴィアの言葉。落胆したと言いたげに祐斗を見ている。

 破壊の聖剣と巨大な魔剣が正面から激突する。

 金属が砕ける音が響く。

 真っ二つに割れて宙を舞う自身の魔剣を祐斗は呆然と眺めていた。

 

「君の武器は俊足と多彩な魔剣による手数だった。しかし今のはどうだ? 俊足を殺し、筋力の足りない腕で身の丈に合わない剣を使った。──もしや手加減したのか?」

「バカな! 僕が聖剣に加減など──」

 

 祐斗の言葉を最後まで聞かずにゼノヴィアは剣の柄で腹を打つ。

 ただのそれだけ衝撃が空気を揺らした。彼女のエクスカリバーは斬撃だけではなく攻撃そのものに破壊の能力を備えているのだ。

 吐血した祐斗はその場に崩れ落ちた。

 

「当分は立ち上がれないだろう。これがリアス・グレモリーの"騎士(ナイト)"か? 少し拍子抜けではあるね」

「……ま、まて!」

「次は頭を冷やしてから立ち向かってくるといい。そんな剣じゃ私は決して倒せない」

 

 這いつくばりながら手を伸ばす祐斗にゼノヴィアは背を向けた。勝敗は決した。祐斗はエクスカリバーに届かなかった。

 祐斗を(くだ)したゼノヴィアは渚を真っ直ぐ見据えた。

 

「さて余興は終わりだ。無礼な異教徒に罰を与えようか」

「出来るんならな」

 

 祐斗の介抱に行きたいがゼノヴィアが邪魔だった。間違いなく背中を見せたら斬りかかってくるタイプだ。背後にはイリナもいる。

 状況は二対一になってしまった。

 

「行くぞ」

「さっさと来い」

 

 ゼノヴィアが聖剣を正面から降り下ろす。

 渚は刀を盾にして受けるが凄まじい衝撃によって派手に跳ばされた。地面を転がりながらも体勢を立て直すが既にゼノヴィアが迫る。

 ある程度の恩情を与えたイリナとは違い、完全に渚を潰す勢いである。余程、神を()()ろしたのがお気に召さなかったようだ。

 だがその方がいい。慈悲もなく、殺意を以て攻撃してくる奴ならば──手加減する必要もない。

 渚は超速の"抜刀術(輝 夜)"でゼノヴィアを首を斬った。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「ゼノヴィア!」

 

 イリナの声が耳に届く。

 敵の少年から、いきなり距離を取って屈んだ自分を心配したのだろう。

 抑えていた首から手を離すと血が流れていた。あと数ミリ深ければ動脈のある場所だ。

 背筋に冷たいものが流れる。

 この男は危険だ。あの抜刀からの斬撃が全く見えなかった。そして敢えてここをあの男は狙ったのだ。

 

 ──いつでも首を落とせる。

 

 これはそんなメッセージだ。戦場であったなら今ので雌雄は決していた。

 幼い頃から悪魔払い(エクソシスト)として育てられ、多くの人外を滅して来たゼノヴィアは俗に言う天才だ。

 誰も彼も置いていく才を持つがゆえに、これほどの差を突き付けられたのは初めてだった。

 一人では確実に殺られると戦いの勘が告げてくる。

 

「イリナ、援護しろ」

「え? え? 手を出すなって目で言ったじゃない、いいの?」

 

 確かに渚と戦う前に、そんなアイコンタクトを送った。

 

「事情が変わった、加減したら此方がやられる」

「そ、そんなに強いの、彼?」

「私より戦ったお前が何故気づかない!?」

「し、知らないわよ! 私が戦ったときは強くなかったし」 

 

 イリナが七つの刀身であの男──蒼井 渚を攻撃する。

 ムチのような斬撃を躱す渚へゼノヴィアも突貫。

 破壊の力で攻撃するが避けられた。洗練された体捌きである。

 だがイリナとゼノヴィアのコンビは数年に及ぶため連携に関してはグレモリー眷属を上回る。

 ゼノヴィアの攻撃に意識を取られればイリナの刃が体を貫き、逆になれば一撃で終わってしまう。絶妙なコンビネーションを前に徐々ではあるが渚を追い詰めていく。

 

「くそ、手が足りない」

 

 渚がそう呟くと大きく刀を薙ぎ払って全ての刃を退けた。

 そして大きく距離を取った。

 ──勝てる。

 ゼノヴィアは確証する。個々の実力では負けているが連携を上手く使えば取れると思った。

 だが次の瞬間、渚は刀をゆっくり納めた。そして捧げるように前に差し出す。

 

「……洸天(こうてん)より(まばゆ)き光、()はあらゆる罪を浄化し正義を()す剣撃なり。そして()たれ純白なる執行者(しっこうしゃ)、──"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"

 

 それは詠唱だった。

 刀が消えて渚の背後に強烈な光が現れる。

 一瞬、天使の翼かと見紛うソレは展開された六本の光り輝く刃。

 

「第2ラウンドだ」

 

 不適に笑う渚に対してゼノヴィアは言葉を失った。

 見間違う筈がない、渚の召喚したアレは間違いなくゼノヴィアの持つエクスカリバーと同じ聖剣だったからだ。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「くそ、手が足りない」

 

 渚はゼノヴィアとイリナの連携に苦戦を強いられている。

 かたや七つの刀身を持つ"擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)"、かたや攻撃特化の"破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)"。個人の戦闘力なら渚が上だが高度な連携をしてくる相手と言うのは数倍もしくは数十倍の厄介さを持つ。ゼノヴィアとイリナは正に息がピッタリなのだ。恐らく二人は長い間の時を過ごしたのだろう、パートナーの長所を活かしと短所をカバーしてくる。攻撃力の低いイリナは手数で渚の動きを封じ、その隙をゼノヴィアが討つ。

 仮にイリナの牽制を無視すれば徐々に削れて負ける。ゼノヴィアの対処を怠れば一撃で終了。

 前衛と後衛が上手く機能している状況だ、対処するには文字通り手が足りない。

 渚は大地を強く踏んで自分に迫る聖剣を無理矢理、弾いて逃げるように距離を置く。

 アレ以上、組み合っていたら体力が尽きて破壊される。

 接近戦は不利、持ち込むなら二人の内のどちらかを倒してからだ。

 ならば使える手はアレだけだ。渚は自身の深奥に意識を落とす。

 

「(聞こえるか、ティス?)」

『聞こえる』

 

 自身の中にいる蒼の少女──ティスが感情の薄い声で即答した。

 相も変わらず正体不明の彼女だが力を借りるしか今の状況の打破は難しいだろう。

 

「(力を貸して欲しい)」

『何を望む?』

「(例のシュベアルトなんとかって言う光剣を使いたい)」

『それは"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"のこと?』

「(そう、それ)」

『私の力がなくても"詠唱(コード)"を(とな)えれば自動的に譲刃がコンバート(変換)するようになっている』

「(コードってなんだ?)」

『"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"をイメージすれば脳に浮かぶ、やってみる』

 

 ティスに急かされて譲刃を前に出す。

 あの刃翼とも言える武器を欲すると自然と脳に言葉が浮かぶ。

 

「……洸天(こうてん)より(まばゆ)き光、()はあらゆる罪を浄化し正義を()す剣撃なり。そして()たれ純白なる執行者(しっこうしゃ)、──"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"

 

 瞬間、手にあった譲刃が消えて背中に強い光が現れた。

 翼にように展開されたのは三対六の剣。

 渚が手を下に引く。すると柄が存在しない幅広の刃は腰の辺りまで高度を下げて頭を垂れるように刃先を地面に向けた。

 これを実戦で使うのは二度目になるが扱えないという事はない。

 渚は深呼吸するとゼノヴィアとイリナを見据える。二人は渚の武器の変化に驚いている様子だ。

 

「第2ラウンドだ」

 

 腰付近で待機状態の"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"を一本だけ手の側に来るよう操作する。

 そして腰を下ろすとアンダースローのフォルムでイリナに投げる。

 粒子の帯を散らしながら光速で跳んでいく刃はイリナの横に着弾して地面を爆砕。激しい暴風と衝撃が彼女を突き飛ばす。

 

「きゃあああ!」

 

 悲鳴をあげるイリナを確認した渚は残りの刃を率いてゼノヴィアに向かって走り出す。

 

「君のそれは聖剣か。驚いたよ、因子を持った者がいたのとはね」

「因子? なんの話だ」

「まぁいいさ。だが私の持つ聖剣は分かたれたとはいえ最強の聖剣だ。格の違いを見せてあげよう」

 

 ゼノヴィアが破壊の聖剣で渚へ斬りかかった。

 爆発にも似た轟音が響き、土煙が空高く舞う。

 あらゆる物を破壊する聖剣の一撃は渚に直撃した。

 だが……。

 

「な、なんだと!?」

 

 ゼノヴィアがあまりの驚愕に目を見開く。

 

「なんだ、大した事ないな破壊の聖剣も」

 

 渚は片手で聖剣をガードしていた……いや盾のように展開した洸剣が受け止めたというべきだろう。

 三本の洸剣が点となり渚の腕を守るように面となる力場で聖剣の破壊を(はじ)いたのだ。

 破壊が意図も容易(たやす)く防がれたゼノヴィアが狼狽(うろた)える。

 隙だらけの彼女に一撃お見舞いしようするが七つの刃先が空から渚を強襲した。

 

「ゼノヴィア、下がって!」

「い、イリナ」

「何を狼狽(うろた)えているの!」

「し、しかし聖剣の一撃がこうも簡単に……」

「馬鹿! 敵の前で弱気になるな、一撃がダメなら二撃目を撃っちゃえばいいのよ!!」

 

 叱咤激励するイリナが猛攻を開始する。擬態によって七つに増えた刀身に対して渚は五つの刃を空中で踊らせて対抗する。

 イリナの聖剣が蛇とするなら、渚の洸剣は騎士だった。光の刃は人間が振るうように空中を自在に駆け(めぐ)る。イリナの聖剣が圧され気味だ。

 

「嘘、数はこっちが上なのに!」

「ならばこれでどうだ!」

 

 ゼノヴィアの一撃。渚は再び洸剣を三つだけ呼び寄せてガードする。破壊は見事に弾かれて周囲にだけ被害を及ぼす。"聖天斬堺の洸劒(シュベアルト・フリューゲル)"の特性は斥力だ。物理だけではなく異能すらも弾ける。この武器は一見して攻撃的な見た目だが真髄は防御にこそある。

 攻撃を受けた斥力のシールドでゼノヴィアをイリナの近くに弾き跳ばす。

 

「イリナだっけ?」

「何よ!」

「ここまでだ」

「まだ私は──!」

 

 聖剣を持つイリナの動きが止まる。彼女の首下には渚の洸剣が突きつけられていた。

 これは最初にイリナに放った一本。爆発に生じて隠していたものだ。

 渚に意識を取られている内にこっそりと死角から首を狙わせた。

 

「続けるか?」

「……参ったわ」

「そっちのゼノヴィアは?」

「……いいだろう、このままではお前には勝てないようだ」

 

 妙な言い草に引っ掛かりを覚える。

 まだ手はあると言いたげだからだ。

 渚がイリナの首から洸剣を退ける、それを決着と見たリアスが朱乃に結界を解かせた。

 一誠とアーシアが渚に駆け寄る。

 

「やったな、ナギ!」

「ああ」

 

 自分の事のように喜ぶ一誠と軽くハイタッチを決めた。

 アーシアは聖剣によって付いた傷を治してくれる。

 

「良かった、本当に良かったです」

「心配してくれたんだな、ありがとな」

 

 まだ誰かが傷つくことに慣れていないのだろう。

 震えながら癒すアーシアの頭に手を置いてポンポンと優しく置く。

 それから渚は祐斗に近づく。アーシアに癒して貰った祐斗はゆっくりと立ち上がった。

 

「やっぱり君は特別だね」

 

 祐斗の目にあるのは憧憬と羨望、そして嫉妬だった。

 よろめく足取りで校舎の外へ歩き出す祐斗にリアスが声を張り上げる。

 

「待ちなさい、祐斗! 何処へ行く気なの?」

「この町にある聖剣を壊しに……。僕は"はぐれ悪魔"になってでも、この復讐をやり遂げます」

 

 少し間を置いて祐斗が背中越しに言う。その言葉にリアスは首を降った。

 

「今、私の下を離れる事は許可しないわ。命令よ、貴方は私の"騎士(ナイト)"なのだから言うことを聞いて。このまま"はぐれ悪魔"になることは許さない」

「僕は同士たちの命の上に生きている。だからこそ彼らの無念を晴らさなければならないんです。さようなら、リアス・グレモリー」

 

 それだけ言って祐斗はフッと消えた。祐斗の俊足に追い付けるのは渚くらいだが今の彼に何を言っても無駄だろうと思い、追わなかった。

 

「……祐斗」

 

 悲しそうに目を伏せるリアス。

 あまり好ましくない状況を前に渚は陰鬱な気分になる。

 そんな渚の肩に手が置かれた。

 

「あとで話がある」

 

 一誠が真剣な面持ちで言う。

 なんの話かは聞かなくても分かる。

 きっと祐斗の件を解決しようと動くのだろう。

 

「……渚先輩」

 

 小猫が心配そうに渚の制服を引っ張る。返事の代わりに頭を撫でてやる。

 分かっている。簡単ではないが渚も解決のために事を成そうと思っていた所だ。

 一誠が自分の協力を必要とするなら喜んで手を貸そう。

 祐斗を"はぐれ悪魔"なんかしてやる気は更々ないのだから……。

 

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