ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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真なる聖剣《Holy Orders》

 

「たく、ヒヤヒヤさせてくれるよ。けど三人ともナイスファイトだ」

 

 渚は自然と称賛を贈っていた。 

 一誠とレイナーレ、そしてミッテルトが変異したドーナシークを相手取り勝利を掴んだ。所々危ない場面もあったが、肩を貸し合う三人を見て渚は安堵の息を洩らす。

 周囲にいたケルベロス達も朱乃と小猫が全て駆逐してしまった為、渚は十分な余力を残せていた。

 頼もしい仲間たちである。

 だが、ここからが本番だ。油断なく残った敵へ視線を向ける。

 空に座するコカビエルは(いま)だに動く気配はない。手駒を失ったのに随分と悠長だと思うが好都合なのでしばらく静観を願いたい。

 そうすれば魔法陣でなんらかの儀式を行っているバルパーとフリードの二人に集中できる。

 

「ドーナシークめ、所詮は木っ端堕天使か。時間稼ぎ程度にしか使えんかったが役には立った。……く、くく、こうして()()()のだからな!!」

 

 バルパーが両手を空に掲げて哄笑(きょうしょう)すると膨大な聖なるオーラが駒王学園を駆け巡る。

 何が()()()のか?

 魔法陣に意識を集中させると複数からなる聖剣のオーラを感じる。渚は何が起こるのかを漠然と予測した。バラバラだったエクスカリバーという聖剣を魔方陣でひとつにする気なのだろう。

 そしてバルパーが陶酔した顔で術式の完成に歓喜した。

 

「四本のエクスカリバーが今、一つになったのだ!」

「四本? ……取られたか」

 

 渚は眉を潜めて状況の悪さに舌打ちをこぼす。

 コカビエル側にある聖剣が()()()()。コカビエルが教会から持ち去った聖剣は三本。だがバルパーは四本と言った。確かコカビエルはここに来る前に祐斗達と戦闘を行ったと言っていた、つまりゼノヴィアかイリナの聖剣のどちらかが奪われている。彼女たちに同行していた祐斗の安否を気にしていると、夜の闇に紛れて駒王学園に近づく気配があった。

 

「バルパー・ガリレイ!」

 

 夜を裂こうかという俊足と殺意を(もっ)て、校庭にやってきたのは祐斗だ。そのすぐ後ろからは少し遅れてゼノヴィアもやって来る。どうやら無事だったようだ。

 バルパーを睨む祐斗に対してゼノヴィアは焦った様子で周囲を見渡す。そしてアーシアを見つけるや否や、慌てた様子で駆け寄った。

 

「アーシア・アルジェント、助けてくれ!!」

 

 ゼノヴィアの背には血まみれでぐったりとしたイリナが持たれ掛かっていた。

 明らかに虫の息で今にも死んでしまいそうな深傷だ。ゼノヴィアは両方の膝を突いて懇願するようにアーシアを見上げた。うっすらと涙の後も見られる。

 

「頼む! 以前の事を許さないと言うなら幾らでも償う!! だから──!!」

 

 痛々しいほどの懇願だった。

 ゼノヴィア自身もアーシアをあれだけ罵倒したのに虫の良い話だと思っているのだろう。

 それでも死に瀕しているイリナを助けるためにプライドも恥も殴り捨てて頭を下げる。イリナを抱える手が震えている。とても見ていられなかった。

 そんなゼノヴィアに対してアーシアはイリナの症状をしっかりと観察していた。何も言わなくても助ける気だった彼女を渚は誇らしく思う。やはりアーシアは優しいのだ。

 

「酷い。この右胸の大きな傷は裂傷ですね……。ゼノヴィアさん、他の傷は?」

「た、助けてくれるのか……?」

「私にやれる事はしますから早く! 今なら間に合います!!」

「わ、分かった」

 

 アーシアに圧される形でイリナを地面にゆっくりと寝かせるとイリナの体を見聞する。

 

「君の言う通り右胸の傷が一番大きい、あと動脈からも出血している。秘薬を煎じた薬草で止血しているが止まる気配がないんだ」

「いいえ、応急処置は完璧です。ゼノヴィアさんがいなければ失血死していました。良かった、イリナさんは単純に傷が深すぎるだけです」

「何が良かったんだ!」

 

 ゼノヴィアが声を張り上げるがアーシアは傷を見聞しつつ返事を返す。

 

「私の神器は、呪詛や毒などの治癒に時間を要します。でも単純な深傷なら……」

 

 アーシアが傷に手を当てると淡い光が怪我を消していく。

 余りの速さにゼノヴィアが息を呑んだ。

 やがて荒かったイリナの呼吸が安定したが目覚める気配はない。

 

「すいません、傷は癒せても体力までは戻せないんです」

「そんなことはない。ありがとう、イリナを助けてくれて本当に……」

「か、顔を上げてください。わたしは出来る事をやっただけですから」

 

 ゼノヴィアの感謝に顔を赤くするアーシア。

 そんな彼女たちを上空から冷徹な瞳で見るコカビエルがいた。アーシアの治癒能力の高さを疎ましく思ったのは明白だった。何をしてきてもいいように渚は刀の鍔に指をかけて警戒する。

 

「面白いくらいに傷が治る神器だな。……バルパー」

「分かっている。フリード、陣のエクスカリバーで聖女もろとも全員殺せ。四本分の聖剣だ、やれるだろう?」

「いいねぇ、聖剣使って悪魔狩りってチョー最高!」

 

 狂気染みた笑顔でエクスカリバーを握るフリード。

 聖剣が抜かれた瞬間、陣から莫大なエネルギーが放出されて駒王学園を大きく揺らす。

 その光景を見たコカビエルが不適に嗤うとエネルギーを巧みに操作して手のひらサイズに圧縮した。

 何をするかは分からないが嫌な予感はする。

 

「それで何をする?」

「高密度のエネルギーだ、色々な選択肢がある。擬似的な聖剣因子を産み出す事も出来れば、ここいらを焦土と化す……というのも可能だ」

 

 コカビエルの宣言にリアスが憤怒の形相で前に出た。

 

「なんてことを! そんな行為に意味はないわ!!」

「意味はある。貴様の領地が聖なるエネルギーで破壊されれば状況証拠が残る。ほら戦争に一歩また近づくだろう?」

「この戦争狂め!」

 

 リアスが怒りの目でコカビエルを罵倒する。

 そんな中で渚は冷や汗を流す。

 コカビエルの左手に浮かぶ光球のエネルギー総量からして町が丸ごと消えても不思議じゃないレベルの爆発が起きる事と第六感が告げているのだ。どうにかして暴発だけは防がないと大変なことになる。

 渚は目標をフリードからコカビエルへ変えると走り出す。

 

「おーっとと、渚くーん? 俺ちゃんを無視するなんてイケずだねぇ」

 

 聖なるオーラを宿した聖剣が斬り込んできた。

 邪魔な奴だと思いつつ聖剣を刀で打ち払う。

 一定距離でフリードと睨み会う、相手にしている暇はない。一刻の早くエネルギーをコカビエルの手中から引き離す。コカビエルを戦いに引き込んで使う余裕を無くしながら奪うのが考える限りのベストな策だ。あとはリアスか朱乃の手でゆっくりと霧散させれば問題はなくなる。

 

「渚くん、フリードは僕がやるよ」

 

 祐斗が渚の隣で魔剣を抜く。

 

「私もやるぞ。最早アレは聖剣ではない、悪の手に落ちた異形の邪剣だ。破壊するのに躊躇はない」

 

 イリナの介抱をアーシアに託したゼノヴィアも渚の隣に立った。

 

「任せる。こんな状況だから無理をするなとは言えない、けど気を付けてくれ」

「うん」

「ああ」

 

 三人が同時に駆け出す。

 祐斗とゼノヴィアは聖剣に真っ直ぐ向かっていった。

 渚は脚に霊氣を送り込み飛翔すると玉座に座っていたコカビエルに刃を降り下ろす。

 

「オラぁ!」

 

 荒い口調で繰り出された斬撃は玉座を一刀の元に断ち斬った。

 

「残念だがハズレだ」

 

 渚の攻撃を回避したコカビエルが右手に光の槍を装備して襲いかかる。

 刀と槍が空中でぶつかり合う。

 常人には軌跡しか見えない刃の応酬。

 渚は顔をしかめた。繰り出される一撃が重く鋭い。

 動きは大雑把だが速さとパワーが桁違いだ、何よりコカビエルには隙がなかった。粗削(あらけず)りに見えて効率的な槍を繰り出して来る。

 "(かた)"とは違った()()()()()を駆使した技術に徐々にだが防戦を強いられる。

 剣を一度ぶつける度にコカビエルの戦闘経験の高さが明らかになっていくが負けられない。

 

「"輝夜(かぐや)"」

 

 超速の居合いでコカビエルの胴体を狙う渚。だが音速を超えた剣閃ですら届かない。

 

「褒めてやろう、このコカビエルが相手ではなかったら当たって──むッ!」

 

 刀が通った道に沿ってもう一撃が迫る。これは鞘による二撃目だ。

 コカビエルが目を見開くが冷静に槍で受け流す。

 

「刀と鞘による二連撃か、だが──」

 

 そのまま反撃の構えを見せるコカビエルに渚は静かに告げた。

 

「まだ終わりじゃねぇぞ」

「ガッ!」

 

 (ごう)っと風を押し潰すような音でやってきた三撃目がコカビエルの横っ腹を打ち据えた。

 骨が軋む感覚が伝わる。

 渚が使ったのは"刻流閃裂"が技の一つ、輝夜の派生技である"月影"。

 刃、鞘、蹴りの順番で繰り出す隙の生じない三段構えの技だ。

 刃に劣らぬ殺傷能力の蹴りを受けたコカビエルは転落していく。

 

「味な真似を!」

 

 地面に衝突する瞬間、翼を使って綺麗に着地するコカビエル。

 大きなダメージを受けた様子はない。伝説級の相手だけあって流石の耐久力だ。

 しかし駒王を破壊する術の動きが緩慢になった。時間を稼ぐ事は成功しただけ渚は良しとする。

 落下する中で渚は刀を上段に構えてコカビエルが立つ場所に真っ直ぐ見据えた。

 

刻流閃裂(こくりゅうせんさ)" 天鐘楼(てんしょうろう)"」

「ぬぅうう!!」

 

 落下速度に威力重視の技を加えてコカビエルに叩きつけると学園の校庭が蜘蛛の巣状にひび割れ巨大な爪痕を残す。

 コカビエルが光の槍で受けるも砕け散り、胸を切り裂かれた。

 確かな感触、コカビエルの顔が苦痛に歪む。

 目の前の強敵と渡り合えると内心で安堵する。

 それが油断と気づくと同時にコカビエルから反撃が跳んできた。

 

「小僧が!」

「ぐッ!」

 

 鋭い蹴りが渚の腹を打ち据える。

 内蔵が悲鳴をあげると血と吐瀉物を地面に吐き出す。

 猛スピードの自動車に突っ込まれたかと錯覚する攻撃で足元がふらつく。

 しかし痛みと気持ち悪さを無理矢理に抑え込んだ渚が口許を拭き取って立ち上がる。

 

「くそ、吐いちまった。ダッサイなぁ、みんなが居るのに」

「軽口とは余裕だな、蒼井 渚」

「まぁな。第一ラウンドで倒れたら、それこそダサすぎて死んじまう」

「ふん、まぁいいだろう。この俺と斬り合えるその技量に免じてその無礼は許してやろう」

「それは、ありがとよ」

 

 渚がコカビエルと睨み合う。

 お互い痛み分けの第一ラウンド。次に備えて刀を納めて抜刀術の構えを取る。

 そんな渚に対してコカビエルは聖剣の方を見た。

 

「グレモリーの"騎士"(ナイト)は聖剣が憎いらしいな?」

「だったらどうした?」

「果たして伝説の聖剣を超えられるか見ものだと思っただけだ」

「見るのは勝手だが余所見して斬られないように注意しとけよ」

 

 フリードと打ち合う祐斗の魔剣は、やはり聖剣に砕き斬られている。

 二人に大きな力量差はない。ただ武器の性能が違いすぎるのだ。

 祐斗は伝説の聖剣を超える一振りが造れない。(かろ)うじて剣を合わせられるのは同じエクスカリバーを持つゼノヴィアだ。

 それでもゼノヴィアのエクスカリバーに対してフリードは四本のエクスカリバーを一つにしたモノ。内包される力は単純に一対四だ。それを示すようにゼノヴィアのエクスカリバーも刃こぼれを始めた。

 

「くそ! 僕では聖剣を砕けないのか!」

「気付くの、おっそ! チミじゃ俺の超エクスカリバーは折れないっての! そんでもそっちのクソ聖職者のエクスカリバーでもだ! ははははははは!!!!」

「いい気になるな、背信者が! その聖剣はお前のような存在が持っていてはいけないと理解しろ!」

「おー怖い女。けど、そんなしょぼいエクスカリバーで俺のエクスカリバーに勝てるわけねぇだろうがぁ!!」

 

 フリードが聖剣を輝かせるとオーラで二人を薙ぎ払う。

 奇しくも渚のいる方向にだ。

 挑発と嫌がらせだろう。フリードは渚に向かって中指を立てているので間違いない。

 祐斗は上手く体勢を立て直しているが、ゼノヴィアはまだだった。あのままでは受け身を取れずに落下する。

 渚はコカビエルに注意しながら後方へ跳ぶとゼノヴィアを回収する。

 

「受け身も取らずに何やってんだ」

「す、すまない」

 

 俗に言うお姫様抱っこという奴だ。

 頬を赤めるゼノヴィア。

 こんな程度で狼狽する人間とは思っていなかっただけにリアクションに困る。

 渚は祐斗がいる場所に着地するとゼノヴィアを下ろして再び剣を構える。

 コカビエルは襲ってこなかった。どうやら待っていたようだ。

 渚は背中合わせの状態でフリードと対峙する祐斗に声を掛けた。

 

「お互い上手くいってないな」

「……そうだね」

「どうした? 覇気がないけど?」

「そうもなるよ。ここまで多くの魔剣が砕かれている。その度に聖剣との距離を見せ付けられる気分だ」

 

 弱気な発言。

 それも仕方無いと渚は思う。

 祐斗はエクスカリバーに何度も剣を砕かれている。

 どれだけ魔力を注ごうが、伝説の聖剣と言う壁は高い。

 

「いけるさ。伝説だろうが何だろうが、お前なら超えられる」

「根拠は?」

「信頼だな」

「全く、君と来たら……」

 

 この数日、渚は祐斗の"神 器(セイクリッド・ギア)"、"魔剣創造(ソード・バース)"が活発に活動しているのを肌で感じていた。

 "神 器(セイクリッド・ギア)"の気配を読む事が出来るからこそ分かる"魔剣創造(ソード・バース)"の想い。神器も宿主に応えようと必死なのだ。

 渚はその宿主と神器が一心になる姿を見ながら祐斗の背を()す。

 

「行ってこい、()()()ならやれる」

「渚くん? 今、何を?」

「祐斗の相棒にもエールを贈っただけだ」

「この感覚。……胸から妙な感じが」

 

 祐斗が魔剣を創造するが黒いモヤが剣の型を造るだけで形を成さない。

 それを見たバルパーが嘲笑した。

 

「遂に魔剣すら造れなくなったか。確か貴様は聖剣計画の被験体と言ったな? もしやあの時に逃げ出した個体か? まさか生きていようとな」

 

 嗤うバルパーに祐斗の憎悪が膨らむ。

 

「何がおかしい」

「私の計画の被験者がこのザマで呆れているのだ、慈悲をくれてやっていいぞ?」

「慈悲だと? 僕がお前から受けとると思うのか」

「ああ、受けとるとも。コレがなんなのか、分かるか?」

 

 バルパーが取り出したのは光輝く球体。

 聖剣とよく似た雰囲気を持つアイテムだった。

 

「なんだ、それは?」

「これは聖剣因子と呼ばれるモノを凝縮した結晶だ。そして貴様たちが残した成果でもある」

「成果? 僕たちは失敗作としてお前に処分された筈だ!」

「失敗? 違うな、成功だよ。聖剣は適正因子がないと使いこなせない。だから人工的に産み出そうとして世界中から因子を持っている子供を集めていた。しかし誰一人して人工的な聖剣使いに至れなかった。因子は存在するが足りな過ぎて聖剣が反応しなかったのだ。だが、だがだよ? 私はある日、こう思ったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……待て、まさかその因子は」

 

 祐斗が目を見開く。

 その有り様を前にバルパーは愉悦の笑みを浮かべた。

 

「あの時、殺処分した子供から抜き取ったモノだ」

「貴様ぁああああああ!!!!」

 

 祐斗の感情が爆発する。

 不味い状況だ。冷静さを失った時の祐斗はいつも通りに立ち回れない。ゼノヴィアとの戦いもそれで為す術もなく負けてしまっている。

 渚はコカビエルと相対している。次も見逃して貰える保証はないので動けない。

 このままではバルパーの前に立つフリードヘ突貫するだろう。

 渚が言葉で止めようとしたが意外な事にゼノヴィアが立ちはだかる。

 

「よせ、木場 祐斗」

「そこを退()け!」

「ダメだ、今の君は私に敗れた時の君だ」

「……クッ!!」

 

 負の感情を理性で押し込める祐斗。

 留まる事は出来たがバルパーを殺意の籠った瞳で射抜く。

 

「そう怖い顔をするな。この研究のお陰で教会は聖剣を使う方法を見つけた。そうだろ、そこな教会の戦士よ?」

「本当、なのかい?」

 

 ゼノヴィアが歯軋りすると悔しそうに頷く。

 

「……あぁ本当だ。聖剣エクスカリバーに適正するために私たちに因子が埋め込まれている。その方法の雛形になったのがバルパーの研究と聞いた」

「……なんて事だ。僕の同士たちは死んでも尚、利用され続けているのか」

 

 祐斗が膝を突くと声を震わせて人目を(はばから)らずに涙を流す。

 

「私の研究に役立ったのだ、寧ろ喜ぶべきだろう」

「なんでコイツ泣いてんの? 笑える、超バカっぽいんですけどぁー」

 

 バルパーとフリードが絶望する祐斗の心を踏みにじった。

 渚の脳内が一気に沸騰する。

 友が戦場で動かなくなる程の苦悩を叩きつけられたのだ。

 

「あー、イラつく」

 

 決して怒っているようには聞こえない渚の声。

 だがそれは余りの怒りで感情が止まってしまった事による弊害だった。

 灼熱の怒りは冷徹な理性で加工された。

 渚の脳内にあるのは、どうやってあの腐った外道の嗤いを止めてやろうかという算段だけだ。

 一秒にも満たない思考のあと渚は迅速に行動を開始した。

 

「コカビエル。悪いな、少し席を外す」

「貴様、いきなり動きが──」

 

 まずコカビエルに瞬きの間に接近し殴り飛ばす。不意打ちのような攻撃だが殺し合いなのだから問題はない。

 コカビエルの動きを止めた渚はフリードを肉薄した。

 

「おいおい、何だよ急に! そんな怖い顔しちゃってさぁ!」

「その汚い口を閉じてろよ」

「ゴホッ!」

 

 渚の行動が予想外だったのだろう、驚きながら聖剣を使ってくるが無視して膝で腹を抉るように打ち付けて黙らせると次はバルパーの前に無言で立つ。

 

「ひっ! コカビエルとフリードをこうも簡単に!? な、なんだ、貴様は!!」

「人のダチを嗤う野郎に名乗る名なんかねぇよ」

 

 無感情で殺意を飛ばす渚に、外道の嗤い顔が戦慄に染まる。

 このまま微塵に刻んでも良心は痛まないが、それは自分の役目じゃないと刀を握る手を緩める。

 それを見たバルパーが明らかに安心したので顔面に刀の柄頭を叩き込む。ここまで来て無傷で済ませる訳がない。

 

「ぎゃ! わだじの顔がぁ!」

五月蝿(うるさ)い。鼻を砕いただけで死にはしねぇよ。けどコイツは貰っていく。お前が持っていいモンじゃないからな」

 

 腫れ上がった顔で倒れるバルパーから結晶を奪い取る。手に取った結晶から日溜まりのような暖かさが伝わってくる。

 この温もりを、すぐに祐斗へ届けようとした時だった。

 

 『──ありがとう、お兄さん』

 

 手にある結晶から小さな子供たちの声が届く。

 因子には祐斗の同士たちの心も宿っていたのだ。

 渚はこんな姿になって利用されていた子達を不憫に想いながら首を振った。

 助けられた訳じゃない。全て終わった事で、どう足掻いてもこの因子を持っていた子供たちの未来は戻らないのだ。

 だからこそ、せめて祐斗に彼らを託す。

 

「祐斗、手を出せ」

「ダメだ、渚くん、僕にはそれに触れる資格がない」

「ばか。これはお前の大切だった人達が残せた唯一のモノなんだぞ? それを受け取らないでどうする、きっとこの世界の誰よりもお前が持っているのが一番だ」

 

 優しい声音で祐斗へ結晶を差し出す。

 渚の言葉を受けた祐斗は泣きながらも両手で大事そうに結晶を受け取ってくれた。

 ゴメン、ゴメン……と何度も謝罪を繰り返す。結晶を悲しそうに愛しそうに何度も優しく撫でる。

 すると結晶にヒビが入り、砕け散った。

 駒王学園をホタル火のような光が包む。雪のように無数の光が地面に落ちると形を成して行く。

 それは小さな人型の形をした光だ。

 祐斗を取り囲むように多くの子供たちが現れる。きっとこの子たちが祐斗と共に"聖剣計画"へ身を投じて──処分されてしまった者たちなのだろう。

 

「皆……なのか」

 

 子供たちが頷く。

 祐斗は悲哀の表情で子供たちに顔を向けた。

 

「ずっと、ずっと後悔していた。あの時、自分だけが逃げてしまった事に……僕より大きな夢を見ている子もいた、僕より生きたいと願っていた子もいたんだ。なのに僕だけが幸せになるなんておかしいと思っていた」

 

 懺悔するような祐斗に一人の少年が近づくと微笑む。

 

『──こんなにもボクたちを想ってくれてありがとう。けれどもういいんだ、君は君のために生きてほしい、それがボクたちの願いだよ、イザイヤ』

 

 同士の心を聞いた祐斗の双眸から涙が止めどなく溢れてくる。

 そして霊魂となった子供たちが口を一斉に動かすと何らかの歌を口ずさむ。

 

「これは聖歌」

 

 アーシアがそう呟いたのを渚を聞いた。

 美しくも胸を閉めつられるような歌だった。

 ずっと辛い実験を強いられ、果ては夢と未来を奪われた子供たちは唯一の生き残りであるイザイヤ(祐斗)の為に"希望"を謳う。

 子供たちが無垢な笑みを浮かべながら次々と光に帰っていく。

 

『──イザイヤ、ボクたちの夢と未来を君に受け取ってほしい』

 

 祐斗は涙ながらも力強く頷く。

 答えに満足した子供たちの魂が光となって祐斗へ降り注ぐ。

 聖剣の苛烈な光とは違う穏やかな光。

 友を想う優しい心が彼らを一つにした。

 

「皆の想い、確かに受け取ったよ」

 

 祐斗の手にあった形を成せなかった魔剣が光を放つ。

 

「もう大丈夫か?」

「うん、ありがとう。渚くんが皆を僕の元へ連れてきてくれた。だからもう大丈夫」

「そうか、なら聖剣を超えてこい!」

「うん、今から僕は本当の剣になる! "魔剣創造(ソード・バース)"よ、僕と同士たちの魂に答えてくれ!!」

 

 祐斗の神器と聖剣の因子が混ざり合う。

 聖と魔が融合して一振りの剣を産み出す。

 これは昇華。

 本来ならあり得ないモノが一体となり、極致へ至る。

 

「──禁 手(バランス・ブレイカー)、"双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)"」

 

 禍々しい魔剣と神々しい聖剣の融合した聖魔剣が夜天を切り裂く。

 

「行ってくるよ」

「ああ。()()()()のカッコいい所、見せてくれよ」

 

 渚は祐斗と神器、そして共にある同士たちへエールを贈る。

 そして祐斗はフリードヘ走り出す。

 "騎士(ナイト)"の特性である俊足は直ぐにフリードを間合いに捉える。

 フェイントを織り混ぜてフリードを翻弄(ほんろう)すると視界から消えて死角から斬る。

 だがフリードはエクスカリバーの特性の一つ"天 閃(ラピッドリィ)"を使用して祐斗の動きに付いてくる。

 スピード特化の"騎士(ナイト)"の速さを越える天 閃(ラピッドリィ)

 フリードがニヤリと余裕を見せた。

 しかし次の瞬間、エクスカリバーの聖なるオーラが祐斗の聖魔剣にかき消される。

 

「はぁ!? なに、本家本元の聖剣の力を消してくれてんの! そこはいつも通りに砕けとけよ!! なんなの、そのクソ剣ッ!!」

「仮に君の持つエクスカリバーが完全だったらこうはならなかった。でも不完全なエクスカリバーでは僕の……僕たちの想いは砕けない!」

「くそったれが!」

 

 フリードが後方に跳ぶと聖剣の切っ先を祐斗へ向けた。

 

「伸びろぉぉぉぉぉ!」

 

 刀身が真っ直ぐ伸びて祐斗を刺し貫こうとする。

 イリナから奪った"擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)"の能力が祐斗に迫る。

 聖魔剣を構える祐斗。

 瞬間、エクスカリバーの刀身が七つに分裂した。

 

「ははは! 躱せるかぁ? "擬 態(ミミック)"と"天 閃(ラピッドリィ)"の同時併用だ!」

 

 目にも止まらない速さの刃が祐斗に斬りかかった。

 四方八方、上下左右、あらゆる方向から来る刀身だったが祐斗は全て叩き落とす。

 例え刃が速くても殺気が強すぎて来る方向が見え見えなのだ。

 

「なんで落とせるんだよ! 俺が使ってんのは最強の聖剣だぞ!? こんなバカがあるかっての!! じゃあこれならどうよ!」

 

 焦るフリードが更に聖剣の力を引き出す。

 "透 明 の 聖 剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)"。

 姿を消してしまう聖剣、初めて見る能力だ。

 フリードの剣が周囲の風景に溶け込んで消失する。

 確かに凄まじい能力だが、殺気を抑えていないままのフリードでは使いこなせない。

 祐斗は剣ではなく殺気を見ているのだ。つまり結果は変わらず、フリードの攻撃は当たらない。

 

「おい、ふざけんなよ!」

 

 目元を引き釣らせて怒り狂うフリードもバルパーが叫ぶ。

 

ぜいけん(聖 剣)だ! あのせいじょくじゃ(聖 職 者)からも奪え! 五づ目を|取り込め!」

「合点!」

 

 フリードが地面をエクスカリバーで叩いて煙幕(えんまく)代わりにするとゼノヴィアを狙う。

 

「ソイツを寄越(よこ)せ、クソアマ!!」

「いいぞ」

 

 ポイッとフリードに聖剣を投げるゼノヴィア。

 目の前に突き刺さったエクスカリバーを前にしたフリードが呆気に取られる。そんなフリードにゼノヴィアが言う。

 

「どうした、取らないのか?」

「てめえ、どういうつもりだ?」

「なに、先輩たちの勇姿を見てしまった以上はコチラも本気を出すだけだよ。いくぞ、未完の聖剣。真の聖剣がどういう物かを見るがいい」

 

 右手を宙に広げると空間が歪む。

 

「この刃、セイントの御名に於いて解放する。──"デュランダル"!」

 

 現れたのはフリードの持つ聖剣を上回る聖剣だった。

 バルパーはゼノヴィアの手にある剣を見るなり驚嘆する。

 

「ばがな! デュランダルだと!! 完全体のエクスカリバーと同格である聖剣が何故貴様のような小娘にぃ!」

「お前はこう言いたいのだろう? 今の時点での人工聖剣使いは分裂したエクスカリバーまでしか扱えない、と……。確かにデュランダルを扱える人工聖剣使いはいない」

「づまり、貴様は……」

「天然物だよ」

 

 ゼノヴィアの言葉にバルパーもフリードも絶句する。

 彼女は最高級の聖剣使いだったのだ。

 

「もっともデュランダルは相当な暴君でね。触れたものはなんでも切り裂くし、私の言うことは聞かないわで、危険極まりない。だからいつもは異次元に収納しているのさ。──さてフリード、その未完成の聖剣でデュランダルに挑む勇気はあるか? こうして抜いてやったんだ、一撃で終わるなんて事にはなってくれるなよ」

 

 オーラの質が違いすぎる。

 デュランダルの聖なるオーラは万物を切り裂かんとするほどに鋭い。

 フリードの持つ不完全なエクスカリバーでは届かない。

 戦意が無くなったフリードがゼノヴィアから逃げるため背を向けた。

 

「こんなヤバイ奴等を相手にしてられるかっての!」

 

 だが逃走しようとしたフリードに一人の男が立ちはだかる。

 

「何処へ行く?」

「こ、コカビエルの旦那」

 

 コカビエルだ。

 壁のような不動な姿でフリードを冷たい目で見下す。

 

「まだ戦いは終わっていない」

「終わってるっつの! 見ろよこの状況をよ!! 化け物みてぇな奴に、禁手に至った悪魔、デュランダル使いもいやがる。それ以外の奴も手強いと来た、もうすぐ赤龍帝野郎だって動き出すかもしれない。こうなったら詰みだろう!」

「ほう、つまりお前は俺が負けると思っているのだな?」

「たりめえだろうが!」

「ふ、確かに状況は悪いな。だが打開策が無いわけでもない」

 

 コカビエルがフリードの聖剣を取り上げる。

 

「おい旦那、そりゃ俺の……」

「貴様にはもう必要あるまい」

 

 そう言うと聖剣でフリードを斬りつけた。

 大量の血を流しながらもコカビエルから距離を取るフリード。

 

「てめぇ」

「外したか、やはり剣は向いていないな」

 

 ビュンとフリードに向かってエクスカリバーを振るうコカビエル。すると光の奔流が全てを薙ぎ払う。

 フリードが跡形もなく消え去った有り様を渚たちは黙って見ているしかなかった。

 

「バカな、堕天使が聖剣を使えるだと!」

「聖剣は人間にしか扱えないと思ったのか、デュランダルの娘よ」

 

 ゼノヴィアの言葉にコカビエルが聖剣を撫でながら答える。

 

「堕天使は元を言えば天使。同じ聖なる者だから使えると言うこと?」

「その通りだ、リアス・グレモリー。尤も天使と言えど聖剣因子を所持していない身では十全に扱えんがな」

「そんな不十分な聖剣で私たちに勝てるとは思わないことね」

 

 リアスの強気な発言にコカビエルは鼻で笑う。

 

「滅びの力、雷光の血筋、白き小さな巨腕、赤龍帝、癒しの聖女、聖魔剣、デュランダル、背徳の同胞、そして蒼井 渚。よくもここまで多種多様な敵が揃ったものだ、誰一人殺せずに俺が出る羽目になるとは思わなかったぞ。……だとしても、ここからは死の時間だ」

 

 コカビエルが右手に浮かべていたエネルギーを再び操作する。

 

「その力で周囲を吹き飛ばす気!?」

「更に面白いモノだ、黙って見ているがいい」

 

 コカビエルは狂暴に笑みを浮かべるとエネルギーを収束させて自身に取り込む。そして聖剣を逆手に持上げると己の胸に突き刺した。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅん!!!」

 

 表情を苦悶に染めながらも聖剣を深々と刺し込んでいくコカビエル。

 全員が困惑して現状を見守っていると胸にあった聖剣が砕けて消える。

 最初に気づいたのは渚と小猫だった。

 

「アイツ、聖剣を喰いやがった……!」

「……はい。大量のエネルギーを使って聖剣の核を取り込んでます、危険です」

「不味い! コカビエルを止めなさい!!」

 

 渚と小猫の言葉を聞いてリアスが叫ぶ。

 弾かれたように疾走した渚に祐斗とゼノヴィアも続く。

 三人が一斉に斬りかかるもコカビエルは周囲に六つの光の槍を展開して三人を攻撃を跳ね返した。

 

「聖剣の力、このコカビエルが確かに頂いたぞ」

 

 禍々しいほどの光力で威圧するコカビエル。

 聖剣を喰らった堕天使が翼を広げる。

 渚の背筋に悪寒が走り、やがて警鐘に変わり、五感から第六感に掛けてこう告げるのだ。

 本当の戦いはこれから、だと……。

 

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