ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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投稿がおそくなりました。
少し短めです。



封印されし眷属《Cute Vamp》

 

 コカビエルとの一軒が済んで2週間ほどが過ぎた。

 一時は戦争の爆心になり得た事件の後処理も終わり、日常が常になりつつある。

 そんな中でアリステアは駒王学園の旧校舎に来ていた。時刻は夜、暗い闇の帳に包まれた古い木製の廊下を歩く。

 

「悪いわね、付き合わせて」

 

 そう言ってきたのは、呼び出した張本人であるリアスだ。アリステアは気にした素振りを見せず返事を返す。

 

「構いませんよ、私も貴女の"僧侶(ビショップ)"に興味があります。しかし他の眷属はいないのですか?」

「気が弱い子でね、大人数で行くと怯えるのよ」

「惰弱な事です」

 

 アリステアがストレートに思った事を口にするとリアスは苦笑を浮かべる。

 

「あの子に会ったらもう少し優しくしてあげてね」

「そういうのはナギにでも頼んでください。実際、この件はナギに頼もうとしたのでしょう?」

「そうね、本当なら彼が適任だと思うのだけど」

「寝こけている人の代わりが私ですか」

「気を悪くした?」

「言ったでしょう、個人的に興味があると。ナギが居ても付いてくるつもりでした」

 

 談笑をしている二人はやがて大きな扉の前に辿り着く。厳重に施錠された部屋であり、目視は出来ないが幾重もの封印術式が組み込まれている。

 これが今回、アリステアが呼ばれた理由だ。

 この部屋にはリアスのもう一人の"僧侶(ビショップ)"が圧し留められている。眷属を大事に思うリアスからは考えられない対応だが、"(キング)"である彼女すらも抑えきれない能力なため魔王がそうするように命令を下したとのことだ。

 何度も解放するように直訴していたが、最近の活躍もあってやっと許可が出たのだ。

 だが何かあったらまた封印されるので保険として強者であるアリステアに付き添いを頼んでいる。

 

「10分くらい時間を頂戴、堅い封印だから解錠するのに手間が掛かるのよ」

「確かに幾重にも巡らせた強固な封印術式です。中にいるのは狂暴な魔獣と言われても納得します」

「そう言わないで、私の可愛い眷属なのだから」

「これを見たら誰でもそう思います。封印は誰が?」

「お兄様よ」

「なるほど魔王が直々(じきじき)にとは恐れ入りますね」

 

 アリステアは物理的に施錠している南京錠に触れた。

 どうせ外すのだから壊しても構わないだろうと無理矢理に自分の霊氣を流し込んで魔力を暴発させる。

 空間が弾けてドアが派手に爆砕して粉塵が舞う。

 乱暴な開け方に咳き込んだリアスが、恨めしそうな眼でアリステアに不満を訴えてくる。手っ取り早い方法を選んだのだが不服なようだ。

 

「時間は有用に使った方がいいかと」

「けほ、だからって壊していい理由にはならないわ」

「覚えておきましょう」

 

 破壊された扉の向こうに足を踏み入れると生活感のある部屋が広がっていた。

 簡易コンロにカップ麺の残骸、パソコンに着替え。ここが学校だと忘れてしまいそうにある一室である。

 その部屋の隅で頭を押さえてブルブル震える人影をアリステアは見た。

 

「リアス・グレモリー。もしやと思うのですがコレですか?」

 

 想像していた人物像を(くつがえ)すあまりにも情けない姿にアリステアはリアスへ確認する。

 

「言ったでしょ、気が弱いって」

 

 リアスが(うずくま)る人影に歩み寄ると腰を落とす。

 見るからに非力な悪魔だった。肉体もさる事ながら覇気もなく気力も欠如している、アレなら銃なぞ不要であり素手で一捻りだろう。

 

「ギャスパー、私よ。こうして会うのは随分と久しぶりね」

「ぶ、部長? 僕、てっきり敵が来たのかと」

「そうよね、あんな風にドアを壊されたらそう思うわね」

 

 リアスが流し目で訴えてくる。

 

「謝りませんよ?」

「全く、貴女と来たら。渚が起きたら言うわよ?」

 

 確かに少し派手に壊してしまったのは事実だ。もしもリアスの眷属に無礼を働いたと渚が聞いたらなんと言うだろうか。渚は責めないかもしれないがアリステアの居ないところでリアスに借りを返そうと動く可能性もある。それは本意ではない、だからここで貸し借りはなしにしようと思う。

 

「それは面倒です。ああ見えてこう言った事には厳しい人ですからね」

「なら(あらた)めなさい」

「貴女の頼みごとを聞くという事で手を打ちましょうか」

 

 シレッと言うアリステアがギャスパーと呼ばれた小柄な人影を見下ろす。

 なんとも華奢な体である。細い腕に足、小猫並みの小ささだ。肌も白く容姿も可愛らしい女の子をしていた。

 しかしアリステアの"眼"は見逃さない。

 

「随分と可愛らしい男の子ですね」

「あら、ギャスパーの性別が分かるの? 最初はみんな女の子と勘違いするのに」

「その見た目ならしょうがないでしょう」

「ぶ、部長、この人は?」

「アリステア・メア。私の友人よ」

 

 チラチラとアリステアの顔を窺うギャスパー。

 卑屈さが見え隠れする赤い瞳にうんざりするアリステアだったが黙っておく。

 

「そ、そうですか。それで、ぼ、僕のところになんで来たんですか?」

「貴方をここから出そうと思ってるいるの」

 

 こんな暗く狭い部屋に一生いるよりは遥かにマシだろうとアリステアは思ったが、その考えは外れた。

 ギャスパーは見るからに青ざめて震え出したのだ。

 何事かと静かに観察する。

 

「い、嫌です。僕はここから出れない、出ちゃダメなんです!」

「大丈夫よ、怯えないで。私たちが付いているわ」

「ダメ、絶対に僕は出ない。もう嫌ですぅ」

 

 両手で顔を覆うギャスパー。

 こんなにも外を嫌がる理由はなんだ? この異様なほどの怖がり方は明らかに普通ではない。

 ついには泣き始めるギャスパー。それをリアスが(なだ)めるもあまり効果はないように見える。

 しばらくは静観していたアリステアだったが、いつまでも終わりが見えない二人の様子にとうとう痺れを切らす。

 

(らち)()きませんね。リアス・グレモリー、彼を外に連れ出せばいいのですね?」

「やめて、やめてぇ!」

「待って、あまり乱暴はしないであげて」

「しませんよ、そんな事をやったらナギになんと言われるか分かったものではないでしょうに」

 

 アリステアが面倒そうに手を軽くふった瞬間、景色が忽然と変わり果てた。

 風が吹き、木々の揺れを五感が教えてくれる。目の前には巨大な建造物。そこはなんらかの工場だったのだろうが、かつての名残(なごり)は既に無く、人の手が離れて随分経っている。その周囲にある乱雑に育った木々が工場全体を呑み込もうとしている有り様だ。

 

「強制転移? アリステアはここはどこかしら?」

「駒王学園から北西へ17キロに進んだ山の中に立てられた廃棄工場です」

「どうしてこんな場所に?」

「ちょっとした用事があったのでマーキングしておいたのです。手っ取り早く連れ出したかったので使いました」

「ちょっとした用事? それは何?」

「アレです」

 

 ボロボロの工場の一番高い屋根に異形の影が鎮座していた。

 それは狼のような魔獣にも見える。

 

「"はぐれ悪魔"? いえ違う」

「魔物ですよ。どこから来たのかは分かりませんが最近からここを根城にしているようです。色々あって放置していましたが、そろそろ刈り取って置こうと思いまして」

「ちょっと、この魔力、アレってランクはどのくらいなの!?」

 

 魔物が放つ尋常では魔力量に気づいたのかリアスが後ずさる。

 

「実力は"はぐれ悪魔"でいうランクS~SS程度です」

 

 アリステアが不適に嗤うと同時に魔物が吠えた。いきなりやってきた美味そうな肉に歓喜しているのだろう。

 本来ならグレモリー眷属が一致団結してやっと戦える相手だ。リアスが魔力を練ってアリステアも銃を抜いて魔物へ向けた。

 大気を震わせながら襲ってくる魔物の狙いはギャスパーだった。

 

「ひぃぃぃぃぃぃいい!!」

 

 ギャスパーが魔物を前にして震える。アリステアは臆病者は放っておいて銃の引き金へ指を添えた。

 いつも通り一発お見舞いして射殺してやろうとしたときだ。体の動きが鈍くなるのを感じた。その感覚はすぐに大きくなると、やがて(なまり)のように重くなる。

 

「……これは」

 

 最初は渚の使う"冥天崩戒の魔拳(シュバルツ・ゲペニクス)"と同様の重力操作かと思ったが、すぐに違うと気づく。これは抑え付けられるのではなく硬直に近い。

 つまり重力干渉ではなく空間干渉だ。

 アリステアの"眼"は力の発生源を即座に特定する。

 その"眼"が捉えたのは真っ赤な瞳に怪しげな光を灯すギャスパーの姿だ。

 彼の"神 器(セイクリッド・ギア)"がどんなものかは下調べが済んでいた。しかし常に高濃度の霊氣で外からの概念攻撃に対策を練っていた自分にまで効果を発揮するのは予想外だ。

 アリステアがギャスパーの潜在能力の高さに目を張る中でアリステアは完全に制止した。

 

「ま、また()めちゃった……」

 

 風が止み、木々が静まった空間は雲の動きすらも許さない。

 彼の神器は"停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)"。もっとも扱い難い力の一つであり、その異能は魔眼による時間操作だ。

 静止した時の中で一人(むせ)び泣くギャスパー。

 

「どうして、どうしてこうなっちゃうのかなぁ、ヴァレリー……」

 

 どうしようもない絶望の声が停止世界に響く。

 何も動いてないし、誰も動けない。時が止まった世界では自分以外が死んでいるも同義だ。主人であるリアスも、自分を食べようとした魔物も、誰かは分からない白い人も時間の檻から逃れられない。それが絶対のルールだとギャスパーは一人で制御不可能な力を前に屈していた。

 いつ動くか分からない世界で泣くことしか出来ない自分がより情けなく感じる。

 

「──時間を停止させたくらいで大袈裟な。なんですか、その世界の終わりみたいな情けない表情は……」

「へ?」

 

 さっきまで停止していたアリステアが平然とギャスパーを見下す。

 何が起こっているのか分からない様子で見上げるギャスパーを無視してアリステアは停止しているリアスの顔に触れた。まるで停止の具合を確認しているような仕草だ。

 

「固有時制御ではなく、時流制御の(たぐ)いですか。しかし成る程、確かにこの眷属は貴女の手に余る」

「ど、どうして、動けるんですかぁ!」

「簡単ですよ、貴方の邪眼を解読して対策を()っただけです」

「対策を練った? 今の一瞬でですか!?」

 

 あのコンマ数秒しか時間がなかったのだから当たり前だろう。

 アリステアはギャスパーの時間停止を受けつつも、対策術式を即座に組み上げて発動させた。

 言うのは簡単だが僅かな時間で対策を済ませるなど他の人間にやれと言われても絶対に不可能な荒業である。奇襲攻撃に対する的確な判断と超速とも言える思考に瞬間的な術式構成からの反撃など人間業ではない。

 

「時間を扱う(やから)とは事を構えた経験があります。その応用ですので造作もない行為ですよ」

「ぼ、僕の力が通じない人を初めて見ました」

「割と居ますよ。神々やどこぞの魔王や大天使、堕天使の総督にも通じないでしょう。世界の広さを知りなさい」

「あなたは僕が怖くないんですか?」

「ふっ」

 

 面白い質問に思わず笑った。

 ギャスパーの最大の武器は時間停止だ。それが通じないのに何処を恐れればいいのだろうか。むしろ圧倒的な戦力を持つアリステアこそ恐れられる存在だろう。

 

「貴方の何処(どこ)を怖がればいいのか、ご教授(きょうじゅ)願いたいのですが?」

「ぼ、僕、時間を()められるんですよ? 化け物ですよ?」

 

 この程度で化け物とは……。

 彼は知らないのだろう。片手間で地殻ごと国を滅ぼせるモノ、戯れに放った一撃で数十万もの人間を塵に還す事の出来るモノなどを……。

 ギャスパーがそう呼ばれるには脅威度が全然足りていない。せめて日本という国の全てを停められるようになってから名乗るべきである。こんな軟弱な時間停止で化け物とは(はなは)だしいにも程がある。 

 

「化け物? どこがですか? 残念ですがそう名乗るに貴方はまだまだ弱過ぎる。自意識過剰という言葉をプレゼントしますよ」

 

 少し刺がある言い回しをするも目の前にいるギャスパーはポ~っとアリステアを見上げていた。

 

「本当に停まらないんですか?」

 

 確認するようなギャスパー。アリステアはため息をするように言い聞かせる。

 

「私は動いています、貴方は決して化け物ではない」

「う。うぅ、うぅええええええええん!」

 

 急に腰に抱きつかれた。反射的に離そうとするが余りにも必死でしがみついてくるので仕方無しにそのまま放置する。

 するとギャスパーの精神が安定したためか時間が動き出す。それは目の前に迫る魔物が動き出す事を意味していた。アリステアはギャスパーを抱え込むとその場から跳び上がる。

 

「うひゃあ!」

「時間が動き出しました、しっかりと掴まってください」

「は、はいぃぃぃ!」

 

 ぎゅっとアリステアの服を掴むギャスパー。リアスはなんとか無事なようで魔力で応戦を初めていた。

 流石にランクが高い魔物だけあってリアスの魔力弾をものともしていない。魔物はリアスを無視してアリステアの方を睨む。

 

「狙いをこちらへ(しぼ)りましたか、どうやらアレは余程に貴方が好みのようですよ」

「ぼ、ぼぼぼ、僕ですか!」

「良かったですね、高級な肉か何かに見られてますよ」

「いやぁああ! 食べられるの、いやぁああああ!」

 

 可憐な笑みで祝福するアリステアに対して恐怖の絶叫を上げるギャスパー。

 鼓膜を破るつもりなのだろうか?

 

五月蝿(うるさ)い人です」

 

 魔物が飛翔してくるのを確認したアリステアが銃口を向けて数発ほど撃ち込んだ。

 全弾が命中するも物ともせずに魔物は突貫して来る。アリステアの持つ漆黒の銃はベレッタ92またはM9とも呼ばれる自動拳銃。そのベレッタに装填されているのは9mm程度の弾丸だ。人間ならばともかく強靭な肉体を持つ巨大な魔物相手には火力不足が否めない。

 

()いてない、()いてないですよぉ! もっとおっきい物じゃないと無理ですぅ!」

 

 泣き叫ぶギャスパーを無視して大口を開けてきた魔物の牙を身を(ひるがえ)して(かわ)すアリステア。そのまま着地したアリステアは銃を仕舞う。その背後では魔物が跳び掛かろうと構えていた。

 

「ど、どうして仕舞っちゃうんですぅ!? 仕舞っちゃう病の人ですかぁ!? き、来ます、来ますよぉ!!」

(なん)ですか、その馬鹿みたいな未知の病気は? 単に無駄弾を使いたくないだけです」

 

 瞬間、魔物が爆炎に包まれて炎に消えた。

 アリステアが撃ち込んだ弾丸は霊氣が込められた物で、それを爆弾と化し内部で炸裂させた。

 バラバラになった魔物の肉片がボタボタと地上に降り注ぐ。まさにスプラッターなグロさである。

 

「ひぃいいいいい! 何したんですかぁ!?」

「弾丸はあくまで霊術の依り代に過ぎません。本命は炸裂術式ですよ。大体はこれで死にますからね」

「ア、ボク モウ ダメ……」

 

 ギャスパーがむせるような血のと肉の()げる臭いに当てられて失神する。

 

「瞬殺とは相変わらずね、アリステア」

 

 呆れ半分のリアスだったに肩を竦めるアリステア。

 

「当然ですよ。さてこの惰弱な吸血悪魔はどうしましょうか?」

「とりあえず帰りましょう」

「了解しました」

 

 ため息を洩らしつつもギャスパーを背中に背負って歩き始めるアリステア。

 その頭上には満天の月が輝いていた。

 

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