ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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神器を求める堕天使の襲来。



漆黒の天使、来たりて《Azazel》

 

 一誠は深夜の住宅街を自転車で走っていた。

 時刻は0時を過ぎている。本来なら寝る時間なのだが悪魔の仕事があるので働かなくてはならないのだ。

 しかし眠気はない。悪魔に転生した影響で夜になると体の調子が良いくらいだった。逆に太陽の前では気だるさが酷い。リアス(いわ)(じき)に慣れるらしいので、しばらくは我慢の日々が続くだろう 。

 そんな一誠だが悪魔特有の悩みがあった。

 それは颯爽(さっそう)と転移を使って契約者の所へ行けないことだ。本来は呼び出した人間の下へ転移陣を使って移動するのだが一誠は魔力が少ないため使えないのだ。

 下級の身で中級悪魔は倒せるのに魔力が底辺というヘンテコな悪魔が今の一誠である。

 だから現在はママチャリを使っての通勤が続いていた。悲しいが将来、上級悪魔(けん)ハーレム王になるための下働きだと頑張っている。夢はまだ遠いが諦めるつもりはない。自身に宿るエロスを力に変えて夜の住宅街でキコキコとペダルを回す。

 ふと左手に目を向けた。

 

「聞こえるか、ドライグ」

『なんだ相棒。あの天使(イオフィエル)が言っていた俺と"蒼"とやらの関係が気になるのか』

 

 ずっとドライグに聞こうとしていた事を改めて言葉にする。

 

「一応な。俺と小猫ちゃんはソレが原因でアルマなんとかっていう奴ら狙われるみたいだしな」

『すまないが"蒼"と俺がなんらかの繋がりがあるという話は信じきれていない』

「そっか」

『……だが』

 

 歯切れの悪いドライグ。何かを思うことがあるようだ。

 

「なんかあんのか?」

『俺自身が蒼井 渚に妙な懐かしさに似た物を感じたのは事実だ。かつて失われた記憶の中にはあったのかもしれん』

「かつて失われた? もしかしてお前も記憶喪失なのか?」

『"聖書の神"が俺を"神 器(セイクリッド・ギア)"に封印した際に幾つか能力を切り取られた。その時あるいは記憶もだったかもしれん。加えて相棒が禁手に至った経緯にも疑問が残る。通常は宿主の成長で"神 器"(セイクリッド・ギア)は覚醒するにも関わらず、相棒は至った』

「確かになぁ。弱っちぃ俺がいきなり"神 器(セイクリッド・ギア)"の奥義みたいなもの使えるのもおかしい話だ」

『いや、不可能ではない』

「マジ!?」

『俺が本気で手を貸して相棒が四肢を(にえ)にしたら10秒くらいなら使える』

「贄って怖いこと言うなよ……。でも、それだけして10秒なのか。じゃあ今、5分以上使えてるのは俺たちの力じゃないって事だ」

『外的要因が大きいだろうな。目覚めた時から"神 器(セイクリッド・ギア)"が異様に活性化していたのは確かだ。こんな現象は今までは無かった』

「やっぱ、ナギが関係してんのかな?」

『あぁ、蒼井 渚と相棒が近くにいれば俺の力が増大する。あの男が"神 器(セイクリッド・ギア)"になんらかの影響を与えているのは間違いない』

『じゃあイオフィエルさんの話もまんざら嘘じゃないって事か』

『可能性の話だがな』

 

 どっちみち真実は分からないという事である。

 一誠は(ちゅう)ぶらりんの情報に踊らされながらも契約者さんの待つ家へ自転車をこぎ始めた。

 

「うっし! 今日こそ本契約をとってやるぜ!!」

 

 悪魔の仕事である契約。

 これは力を貸す代わりに(なん)らかの報酬を受け取る悪魔ビジネスを指すのだが一誠には残念な事に顧客がいないので売り出し中の身だ。

 幸い自分を使った客の受けは良く、リピーターとして仮契約は続いているので近い内にもしかすると本契約も取れるのではないだろうか期待をしている。

 そして今日は初めて会う客なので少し緊張していた。

 契約には色々あって、例えば悪魔の能力を見せて欲しいや契約者の個人的な悩みの解決など内容は多岐に渡る。

 とにかく客の求める物を与えれば成功と言える。

 さて今日のはどんな依頼が待っているのだろうか。

 

「ここ……だよな?」

 

 やって来たのは、そびえ立つ立派なマンションだった。渡されたメモに書いてあった部屋の入り口に近づくとインターフォンを鳴らす前にドアが開く。

 タイミングの良さに驚く一誠を前に男が笑顔を迎えてくれた。

 

「おう待ってたぜ、悪魔くん」

「あ、グレモリーから派遣された兵藤 一誠です。今日は依頼の件でよろしくお願いします」

 

 心臓が緊張を帯びた。

 その依頼主の男を一言で言えばワルそうなイケメンだろうか……。見た目や雰囲気などが悪党っぽく見えるので無理な注文をされないか不安になる。

 バレないように注意深く相手を観察する。

 歳は二十後半か少し上。黒い髪に浴衣姿なのだが風貌が日本人離れしているので外国人なのは間違いなだろう。

 

「そんな警戒するな、別に取って食らったりはしねぇよ」

 

 内心を完全に読まれてドギマギする。

 これがリアスの評価を下げる結果になったらと思うと別の緊張感に襲われた。

 

「ふーん、へぇー。なるほどねぇ」

 

 マジマジと一誠の頭から足の爪先を見る依頼主。

 探られているようで、あまりいい気分はしない。

 そんな一誠を見るなりニヤつくと手招きをしてくる。

 

「ま。入れよ、悪魔の仕事をやってもらうとしよう」

「……はい、お手柔らかに」

 

 ビクビクしつつも彼の後に付いていくとテレビの前に案内される。

 

「さ、これが依頼したい内容だ」

「……え?」

「どうしたよ? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」

「いえ、えと、なんと言っていいのか」

 

 なんだ、コレ……。

 一誠は意外な場所に意外な物が転がっている事に気づく。

 

「俺はゲームが好きでね。トランプやボードゲームなんかは昔から良くやったもんだ。そんでもって最近はテレビでやる奴にチャレンジしてんだよ。それで今日はコイツをやろうと思ってんだが相手がいなくてね」

 

 そこにはゲーム機と二つのスティックコントローラーが用意されており、画面には一誠がやり込んだ格闘ゲームのタイトルが映されている。

 まさか今回の依頼はこれなのだろうか……。

 

「あの、もしかしてですけど……」

「そうだ。俺とゲームをしてもらう、人気のタイトルなんだろ? ならやっとくべきと思ってな。ほら、時間が惜しい、さっさと始めるぜ?」

 

 二人分の座布団を敷くと依頼主が余った席を手で叩いて一誠を急かす。

 まさかこんなワル系の大人からテレビゲームの対戦を依頼されるとは思ってもみなかった。

 

「……俺ってこの手のゲーム強いですよ? 初心者さんですよね?」

「あぁ、んじゃ軽く頼むわ」

 

 そして戦いは幕を開ける。

 所謂コンボーゲームと言われるソレは初心者と経験者ではまず戦いにならない。

 キャラごとに繋がる攻撃が違うしタイミングも合わせないと簡単に抜けられる。経験と感覚が物言うゲームだ。

 実際、依頼主は一誠のキャラにボコボコにされてしまう。

 初戦でやり過ぎたと思った一誠は、次から少しだけ手を抜きなら対戦を繰り返す。

 しかし……。

 

「なるほどキャラによって得意分野が違うのな」

「ええ、このゲームはキャラの個性が強いですから」

 

 5戦を越えた辺りでキャラ特性を見極めると無闇な攻撃を止めて防御を使いこなし始めた。

 

「お、この攻撃は繋がるか」

「うわ、それのキャンセルタイミングってシビアなんですよ」

 

 10戦を超えた所からダメージ効率がやたら高いコンボを構築する依頼主。恐ろしいことに一度やったコンボは正確に決めて来る。

 

「この隙はチャンスってことだろ?」

「げ、直ガからの反撃かよ!」

 

 15戦からは実用的なコンボを完成させて一誠の体力ゲージを確実に削って来た。

 

「そこでの必殺技は分かってたぜ」

「げ! モロに喰らった!?」

 

 20戦にもなれば確実な防御と攻撃を繰り出して一誠を押し始める。

 

「はは! どうしたどうした、もう少し考えてゲージは吐け!」

「ちょっと、なんでそれが見えるの!」

 

 25戦目には逆に一誠の敗けが多くなった。

 

「うぉおおおおお、また負けた!! 上達、速すぎないですか!?」

「中々どうして格闘ゲームっつうのは楽しいもんだな。それで終わりにするかい?」

「何をいってんですか、コレからですよ!!」

 

 26戦目が開始された。一誠は相手のキャラの挙動を見逃さないと目を離さずに集中する。

 

「いいねぇ。気合いのある奴は嫌いじゃない、流石は赤龍帝だ」

「それは関係ないで……すよ」

 

 依頼主の言葉に一誠の手が止まり、ゆっくりと画面から依頼主へ視線を向けた。

 今、なんと言った。

 背中に冷たい汗が流れた。何故、人間がその名を知っている……。もしかしてこの男は此方側の存在なのだろうか。

 一誠が生唾を飲み込んで依頼主から少し距離を取った。

 

「あんた、誰だ?」

 

 依頼主は画面を見つめつつも不適に嗤う。

 

「──アザゼル。堕天使の頭をやってる。よろしくな、兵藤 一誠」

 

 動きを止めた一誠のキャラがフルコンボで一気に倒される。

 対戦が終了すると同時にアザゼルが自分の存在を証明するように十二枚の黒い翼を広げるのだった。

 

 

 

 

 ○●

 

 

 

 

 一誠とアザゼルが邂逅した翌日。

 

「アリステア、戦争へ行くわ。力を貸してちょうだい……!」

「色々と言いたいことはありますが敵対勢力は?」

「堕天使アザゼルよ」

「あー、彼ですか」

「朱乃、盤上の駒は揃ったわ。──出陣よ」

「はい、部長。徹底的に叩きましょう」

「堕天使と戦う理由を聞いても? いきなり戦うのは性急に過ぎます」

「アザゼルが私のイッセーに接触してきたのよ……!」

「ついにここまで堕天使の魔の手が来ているのですわ!」

「……堕天使の総督が眷属に接触したくらいで戦争とは大袈裟です」

 

 アリステアは呆れる顔を隠そうともせずにグレモリーのツートップを見た。揃いも揃って堕天使に対し宣戦布告を告げたのだからそうもなる。

 たった数人の悪魔だけで堕天使の軍団に挑むなど喧嘩にもならない。今の状況で挑めばあるのは数による虐殺だ。とりあえず、二人には現実を見てもらいたい。

 

「戦いにならないですよ。まず落ち着くことをお勧めします」

「落ち着く? あのアザゼルがこの駒王にいるのよ」

 

 アザゼルが一誠に接触した事柄はリアスの危機感を相当に(あお)っているようだ。

 しかしだ、あのアザゼルがこんな簡単に悪魔領地へ侵入するという危険行為を犯すとはアリステアも意外であった。下手を打てば冗談抜きで戦争ものである。あとで連絡を入れる必要がありそうだ。

 

由々(ゆゆ)しき問題よ。あの堕天使の総督(アザゼル)はきっと私からイッセーを奪いに来たと考えるべきね。あの男が"神 器(セイクリッド・ギア)"に強い執着心を持っているのは有名な話よ。"神滅具(ロンギヌス)"ともなれば力づくで来るかもしないわ。あぁ"聖魔剣"という(ことわり)を無視した祐斗も狙われるかもしれない! いいえ、アーシアだってそうよ。不味いわ、ギャスパーが(さら)われる可能性も……!」

 

 世界の終わりみたいな顔をするリアス。

 こう言っては失礼だが少し面白い。自分の眷属をああまで大切にする悪魔も珍しい。

 

「部長。すぐに冥界に連絡を入れるべきではないでしょうか? 相手は組織のトップです、今のままでの戦力では危険があると進言しますわ」

 

 朱乃が強い意思で推奨した。

 

「けれど、いきなり魔王の権威を振るうのは……」

「相手はあのアザゼル総督。全力で挑まないと奪われてしまいます。堕天使に何かを奪われるなどあってはならない」

 

 怨念めいた口調の朱乃。この彼女らしくもない態度から個人的な私怨も混じっているのが透けて見える。堕天使と人間のハーフという過去が関係しているのはアリステアにも想像に容易(たやす)い。

 少し度が過ぎている気もするが、いつもは大和撫子の朱乃が今は夜叉に見える辺り相当に堕天使を恨んでいるのは間違いないだろう。

 とりあえず暴走しがちな二人を止めるためにアリステアは動く。自分はあくまでギャスパーの面倒を見るためにいるのだ、勝ち目のない戦争に付き合うためではない。

 

「そこまで(あせ)る必要はあるのですか。ただの偵察と思いますが?」

「アリステアさん、堕天使の狡猾さを舐めてはダメですわ、きっと何かを企んでるに違いありません」

「くっ、まさかアザゼルが直接やってくるなんて予想外ね。もう駒王は堕天使の軍勢に囲まれていると考えた方がいいわ」

 

 聞く耳持たずとは今のリアスと朱乃のことだろう。

 麻酔弾でも撃ち込んで黙らせるほうが簡単な気がしてきた。

 (はた)から見れば他人事だが、アザゼルというのは三大勢力だけではなく他の神話体系に名前が知れている大物だ。そんな人物に目を付けられて気が気でないのだろう。

 (もっと)も彼が戦争を望んでいないと知っているアリステアからすれば杞憂(きゆう)でしかない。一見して破天荒な男だが、その実は慎重かつ冷静な性格だ。何も考えずに戦争に(おちい)るような真似はしない。

 それを説明するには自分がアザゼルと内密に交流していると白状しなければならないので、どうにも説明が難しい。

 麻酔は最終手段に取っておくとしてリアスをどうやって(いさ)めるかを考えていると……。

 

「これは随分と嫌われているね、アザゼルも」

 

 耳障(みみざわ)りな声が聞こえてくる。

 見ればイオフィエルが訓練場に立っていた。

 急に現れた智天使(ケルビム)(おさ)に嫌悪感を覚える。勝手な感情だと分かっていても彼女といると思い出したくない人物を思い出すのだ。この天使と接している自分は相当に嫌な女だと自覚していても治せない辺り、まだまだ未熟者だと痛感させられる。しかし、なぜこのグレモリーの訓練場の転移装置から天使がやって来れたのだろうか。

 

「わわわ、あの時の天使さんです。こ、小猫ちゃん、ど、どど、どうしよう!?」

「……ギャーくん落ち着いて」

「無理ぃ! 神々しさで溶けちゃうぅ! 悪魔で吸血鬼な僕にとって天敵さんですぅ!!」

「ははは。やはり面白いな、彼。さて、わたしがここにいる理由だったかい。それは、わたしが、凄いからさ!」

 

 後光が見えそうな位のドヤ顔で自慢げに言い放つイオフィエル。

 何を偉そうにしているのかとアリステアは冷めた視線を送る。こんな悪魔濃度が高い場所なのだ、少し集中して探知を行えば嫌でも見つけられる。

 

「ひぃぃい! この天使さま、凄いけど怖いぃ!」

「……ギャーくん、うるさい」

「いたい!」

 

 (わめ)くギャスパーに制裁を加える小猫。

 情けない、自分を師匠と仰ぐぐらいならこんな程度で狼狽えないでほしいとつくづく思うアリステア。

 ギャスパーの惰弱(だじゃく)さに辟易(へきえき)しているとリアスがイオフィエルに声をかける。

 

「貴女は天界に帰ったのではないの?」

「しばらくは人界に身を寄せるつもりさ。わたしとあなたは同盟しているのだから駒王の滞在を許可してもらいたいのだがね」

「それは構わないのだけど……」

 

 歯切れの悪いリアス。悪魔の領地に天使がいるということ事態が何らかの問題に発展しかねない。それでも同盟を組んでしまった手前、無下にも出来ないのだから心境は複雑だろう。

 

「自らの立場を考えきれないで智天使(ケルビム)の長とは、なんとも嘆かわしい事です」

 

 だからアリステアが代わりに不満は請け負う。

 最も顔を会わせたくない存在が自分のテリトリーを侵そうとしているのだからリアスの分も文句を言ってやろう。

 けれどイオフィエルはニヤッと嗤う。

 

「いたのか? わたしは少し残念な気分になるよ」

「それは居て良かった。貴女がいると世界問題になりかねません、大人しく天に帰ってはどうです?」

「既に手は打ってある、問題にはならないさ」

「それは良かった。ではお引き取り願います」

「聞いていたかい? 問題にはならないんだよ?」

「ええ、ですが私が不愉快なので消えてくださいと頼んでいるのです」

「ははは。それが人に物を頼む態度なのかな?」

「強制送還をお望みで? 魂だけになりますがよろしいですか?」

「やはり物騒な人だな、あなたは」

 

 剣呑な雰囲気。

 今にも殺し合いが始まりそうな部室。

 自分とイオフィエルは相容れない存在だと互いが自覚し合っているだけに両者が歩み寄ることはない。感情が先走って相手を認めきれないのだ。

 しかし、もう一人の冷静な自分が合理的でないと訴えてくる。

 イオフィエルは信用できないが何も用がないのにわざわざアリステアがいる場所へ足を運ぶとは考え難い。なんらかの情報を持ってきたと見るべきだろう。

 それに、会うたびに反目しあっては何も得られない。だから感情を理性で押し潰す。

 

「用件を聞きましょう」

「おや、聞いてくれるのかい? 一体どういう心境の変化かな?」

「私の癇癪でリアス・グレモリーに迷惑を掛ければナギになんと言われるか分かったものではないで」

「ふーん。まぁいいさ。リアス、あなたに紹介したい人物がいるんだがいいかな」

「私に? 天界の関係者かしら」

「そうとも言えるのかなぁ。取り合えず勝手ながら駒王に来てもらう事になっているから付いて来てくるといい」

 

 そう言うとイオフィエルは手招きしながら転移陣を造り出す。

 

「折角だからここにいる全員を紹介するとしようか」

 

 転移の光が全員を包むと駒王学園の旧校舎裏に出る。

 

「駒王学園?」

「以前にマーキングしてね。悪いが勝手に選ばせてもらったよ」

 

 飄々(ひょうひょう)とした口調のイオフィエルに案内されてやってきたのは少し広場になっている場所だ。そこへとやってきたアリステアたちを待っていたのはゼノヴィアだった。まるで生気のない顔色をした彼女にリアスと朱乃が顔を見合わせる。

 神の不在を聞いてからずっとあの調子なのだろう。信じるべきものがいないと知った信徒の行く末がアレでは誰も救われない。

 

「最近はこの調子でね、どうにか出来ないかが目下の悩みだよ」

「原因は貴女でしょうに……」

 

 イオフィエル、リアスの各々がゼノヴィアを見て言った。

 ゼノヴィアがアリステアたちに気づくと小さく会釈する。その動作もぎこちなく戦士とは思えないほど足取りも危うい。アリステアは、そんなゼノヴィアなど無視する。

 

「それで誰が来ると言うの?」

 

 腕を組んで訪ねるリアスに空を指すイオフィエル。

 

「漆黒の天使は来たりて」

 

 突然、空から疾風が舞い降りる。

 巻き上がる砂塵に顔を隠す面々。

 何かがリアスたちの前に落ちて来たのだ。

 アリステアはその姿を見るなり、げんなりする。

 ここで来るのか……と頭痛を抑えるように顔半分を手で覆う。

 砂塵を弾き飛ばす黒い羽が舞う。

 

「おっと遅れちまったか、イオフィエル」

「良い時間さ、アザゼル」

 

 イオフィエルが招いたのさっきから話題に挙がっていた堕天使の総督アザゼルだった。

 アザゼルは洋服の(ほこり)を払うとリアスへ真っ直ぐ歩いてくる。

 

「突然だが邪魔するぜ、リアス・グレモリー。知ってると思うがアザゼルだ」

「あ、あ、アザゼル!?」

 

 恐れると言うよりも驚愕しているリアス。

 急にこんな大物が現れればそうもなる。

 事前に連絡を寄越さなかったアザゼルに目で文句を跳ばすアリステアだったがニヒルな笑いで返された。

 

「イオフィエルから聞いてると思うが俺は三大勢力をまとめる為に動くことを決めた。その前にグレモリーには挨拶しておこうと来てやったわけよ」

「それは和平を結ぶという話?」

「そうだ。お前さんのトコの兄貴にも既に書状は送ってある。おいイオフィエル、ミカエルはなんて?」

「愚問だね。天界の近況を知っていての質問かい?」

「じゃあ問題ねぇな。日取りは互いの都合で決めるとしよう。……それじゃリアス・グレモリー、赤龍帝と聖魔剣に会って来て良いか?」

 

 自分の都合でガンガン進めていくアザゼル。

 言うことは言ったからもう良いだろ……と言わんばかりに一誠と祐斗を探そうとする。

 

「だ、ダメに決まっているでしょう! なんで堕天使の総督にかわいい眷属を会わせなければいけないの!?」

「どうせ和平すんだから固いこと言うなって。こっちは結構楽しみだったんだぜ? それに損はさせねぇよ」

 

 ケラケラと笑うアザゼル。

 "神 器(セイクリッド・ギア)"が見たくて(たま)らないという感じである。

 病気が始まったと、ため息を吐くアリステア。

 

「僅か数ヵ月で禁 手(バランス・ブレイカー)に至った赤龍帝に、聖と魔の理を無視した聖魔剣。──そそられるぜ。んで居場所を教えな」

「い・や・よ!」

「なんだよ、ケチくせぇな。わかった、会いに行くのはやめる」

「わかれば……」

「ほいさ」

 

 小気味良く指を鳴らすアザゼル。

 すると転移陣が開いて中から一誠と祐斗が出てくる。

 ──強制召喚だ。

 召喚された本人たちは何が起こった分からずに呆然としていた。

 

「あれ? 俺、昇降口を歩いてたんだけど?」

「僕は廊下だ……一体何が?」

「おぉ来たな!」

 

 相手の意思を無視した召喚を繰り出したアザゼルは二人を見るなり、楽しそうに笑う。

 

「あんたはアザゼル!!」

「なんだって!」

 

 一誠と祐斗が神器を装備して構えた。

 アザゼルは臨戦体勢に入った二人に感心する。

 

「おっと急にか。だが構わんぜ? ちょっと揉んでやるから"神 器(セイクリッド・ギア)"を見せな」

 

 12枚もある漆黒の翼をはためかせるアザゼル、まるでラスボスのような風格と威圧感で場を支配した。

 一誠と佑斗が危機感を感じて禁手を使おうとする。

 待っていましたと言わんばかりにアザゼルが挑発的に手招きした。

 

「さぁ、初め──」

「いい加減にしてください、ラスボス気取りですか」

「がっ!」

 

 アリステアはヤル気満々なアザゼルへ銃口を向けると迷いなくトリガーを引く。マズルフラッシュと共に発射された弾丸は狙った通りの箇所へ直撃した。そう、アザゼルの額へと……。

 硝煙は立ち上ぼり、薬莢が地面に落ちる。

 鉛玉を撃ち込まれたアザゼルだったが、悶絶するだけに済んでいる辺り、やはりただの堕天使ではない。

 

「お、お前、普通撃つか!?」

「これが普通ですが何か?」

「とんでもねぇ女だな!」

「大袈裟な。なんの付与もない只の弾丸です。この程度では死なないでしょう?」

「何が只の、だ。その弾丸自体がお前が精製した特注品だろが、それだけでダメージは入るんだよ。おい、イオフィエル、お前も笑ってんじゃねぇ」

「いやぁ弾丸を受けた時の顔が面白くてね、くくく」

「マジで性格が悪いな、お前ら」

「「一緒にするな」」

 

 アリステアとイオフィエルの声が心底嫌そうに重なってしまう。

 こればかりは仕方ない。

 性格の良し悪しは関係なしに並列にされるのが単純に嫌だった。

 要するに互いが根本的なまでに相性が最悪なのだ。きっと渚がこの場にいたのなら『仲良くしろよ、お前ら……』と疲れた顔で呆れ果てていた事だろう。

 

 

 

 ●○

 

 

 

 ──日曜日。

 

 一誠は部活に出ていた。

 オカルト研究部の活動は契約や"はぐれ悪魔"の討伐に集約されるので基本的に明るい時間にはやることはない。

 ならば何をするのかというと単純に戦闘訓練である。

 いつもは旧校舎の裏にある広場で人払いの気配を張りながら祐斗や小猫と模擬戦を繰り返すのが常だった。

 けれど最近は違っていた。

 場所は広大な地下施設。ここは一誠の自宅地下に造られた訓練場。自分ん()の地下にこんなものをぶっ込まれた時は開いた口がふさがらなかった。リアスのやることはスケールが大き過ぎて(いま)だに慣れない。いつか慣れる日がくるのだろうか。

 ともせず、一誠は今日もこの広大な空間で己を鍛えあげていた。

 

「ちくしょう、全然歯が立たねぇ」

「そうだね、悔しいけどレベルが違う」

 

 大の字で倒れて激しく肩を揺らす一誠。隣では祐斗が聖魔剣を杖代わりにして片膝を突いている。

 

「当然だ、ガキんちょに負けるようなら堕天使のトップなんてやってないっつの」

 

 そうは言うが、対戦相手であったアザゼルは満足気だ。

 どうしてアザゼルと模擬戦をやっているかというと毎日のように押し掛けてくる彼にリアスが根負けしたからだ。尤もアリステアとイオフィエルの薦めがあったのが大きかったのだろう。

 ともあれ一誠と祐斗はアザゼルの指導を受けている。

 最初は不安もあったが神器研究の第一人者であるアザゼルの教え方は意外にも解りやすく特訓に大いに貢献していた。

 

「木場 祐斗は聖魔剣は強度をあげた方がいいな。並みの魔剣や聖剣よかマシだが伝説級には、まだ及ばなねぇ」

「どうしたら上げられるのか聞いても?」

「慣れだな。お前は聖魔剣をどれくらい維持できる? 数本の上限は?」

「一本なら一時間。二本目もなんとか」

「そりゃ何もしてない状況だろ? 戦闘時はどうだ」

「時間は半分で一本です」

「短すぎる。最低二本同時の半日を目指せ。スタミナを着けつつ、出来る限り禁手化でいるようにしろ。無理して戦闘をする必要はない、取り合えず持続させることを念頭に置け」

「わかりました」

 

 祐斗から一誠へアザゼルの目が移る。

 

「赤龍帝はこのまま基礎トレーニングを続けろ。お前は禁手に至っているくせに体の作りが足りていない。チグハグ過ぎて鎧の中で肉体がバラバラになりかねん」

「ば、バラバラって……」

「つか制限時間があるとはいえ禁手化に至れるレベルじゃないんだよ。あのヴァーリよりも速いなんてあり得ねぇぞ。どんな裏技使いやがった?」

 

 そんなことを云われても困る。

 自分もどうして至れたのか聴きたいくらいだ。

 可能性があるとしたら、やはり……。

 

「蒼井 渚か……」

 

 一誠の思考とアザゼルの言葉が重なる。

 

「その話は誰から……」

「アリステアからだよ。外部から神器の進化を促すなんて眉唾な話だと思ってたが、今のお前らを見ていると信憑性が高くなるな。……調べたいぜ」

「構いませよ。──命を懸けて頂けるなら」

「うお、いたのかよ。今日は休日だぜ? 一体なんのようだ、アリステア?」

「リアス・グレモリーからの眷属の一人を鍛えるように頼まれているのですよ」

 

 明らかに面倒そうなアリステア。

 

「なぁ木場、アリステアさんが部長に頼まれてる人って確かギャスパーだったよな?」

「うん、同じ"眼"を使う能力者同士らしいからね。似た系統だから部長もお願いしたんだと思うよ」

 

 アリステアと言えばライザー・フェニックスとのゲーム前に行った合宿を思い出す。あの時、渚へ容赦なく実弾を撃ち込んでいたイメージしかない。女装癖のある可愛い後輩が死んでしまわないか不安である。

 

「おいおい、そんなのに付き合うなんて暇なのか?」

 

 からかうように笑うアザゼル。

 

「どうしても……と頼まれたからです。"邪眼"を扱う能力者ですからね。"魔眼"の力を持つ私が指導してるのですよ」

 

 アリステアの言葉が聞いている内にアザゼルの目にだんだんと輝きが灯る。

 

「"邪眼"と来るか。そりゃ"アレ"か?」

「ご想像の通りの"アレ"です」

「よし、俺も付き合おう」

 

 興味津々な様子を隠そうともしないアザゼル。

 一誠たちの訓練を放り投げてしまいそうな勢いだ。

 

「神器バカと言わざる得ませんね……。さて約束の時間まで5秒を切っていますね」

 

 時計を見ながらそんな事を呟く。

 

「5秒ってどう考えても遅刻じゃないか?」

 

 一誠が回りを見渡す。旧校舎の広場に人影はない。あのアリステアを前に遅刻など恐ろしいことをする奴だと感心しつつも同情する。アリステアの恐ろしさはリアスの比ではない。一誠にとって怒らしたらダメな人物のトップランカーだ。

 

「時間通りですね」

 

 ふとアリステアが奇妙な事を言う。

 何が時間通りなのか? 一誠はよくわからない言動をする彼女を見た。

 

「え?」

 

 アリステアの前にはギャスパーが立っていた。

 

「よ、よろしくお願いしますぅ!」

 

 気弱そうな雰囲気でアリステアへお辞儀するギャスパー。物凄く可愛い女の子だが実は男である。

 最初は一誠も度肝を抜かれたが今になっては慣れてしまった。

 時間停止を使う事は知っていたが、こうして急に現れるとビックリしてしまう。

 そんな事を思っていた一誠の肩に腕が回されるとアザゼルがニヤつきながら教えてくれた。

 

「"時 間 停 止 の 邪 眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)"を良く制御してやがるな、数ある"神 器(セイクリッド・ギア)"でも扱いの難しさはトップクラスだってのに先生がいいのか、はたまた才能か」

「"時間停止"ってチート能力ですよね」

「チートって永遠と"倍加"出来る奴が言えた事かよ。まぁしかし現グレモリー眷属で一番厄介なのはアイツかもしれん」

 

 回された腕がほどかれる。

 アザゼルは意気揚々とギャスパーに近づく。

 

「よぉ、お前さん、中々神器を使いこなせてるじゃねぇか」

「ひ! ししょー、この人は誰ですか」

「堕天使の総督 アザゼルです。因みに捕まったらバラバラに解剖されますよ」

 

 一瞬のギャスパーの動きが止まる。そしてぷるぷると全身が震えるや叫び出す。

 いや、なんで驚かすんだよと一誠が内心で呆れた。

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁああああ!!」

「うぉびっくりした。なんだよ、こいつ」

 

 アザゼルに一誠も同意した。いきなり叫びだすとは何事だろうか。

 

「ギャスパー・ヴラディは極度の引きこもりで人見知りです。そして恐ろしく臆病でもある。そこに神器マニアの総督が襲来したのです、こうもなります」

「嘘こけ、お前が勝手に付け足した解剖ってのに反応してんだろ、コレ」

「こないでぇえええええ」

 

 ギャスパーの瞳が赤く光るとアザゼルを捉えた。

 

「おっと残念だが下級悪魔の力じゃ俺は止めれない──」

「いいえ。かなり良い線は行ってますよ」

 

 ピタリとアザゼルが動きを止めると右腕に視線を落とした。

 

「驚いたな、右手がまったく動かないと来た。部分的にとはいえ俺すら止めるか」

「中々でしょう?」

「わざとアイツを追い詰めてけしかけたな?」

「貴方に通用するか知りたかっただけです。謝罪しますか?」

「バカ言うな、こんなに興奮したのは久々だっての! ははは、ここは夢のテーマパークか何かかよ!」

 

 何かが割れる音がするとアザゼルの腕が動き出す。まるで停止させた空間を砕いたように見える。

 そして目に怪しい光を宿したアザゼルが両手をわきわきさせながらギャスパーに迫る。

 

「ひぃええええええええええ! 動きましたぁ! 解剖されるぅぅぅぅぅ!!」

「しないよぉ。少しだけ、すこ~しだけ、そのお目めをお兄さんに見せてくれないかなぁ」

 

 妙な迫力にギャスパーは泣きながらアリステアの後ろに待避した。

 

「怖い、怖いですぅ。あの人、間違いなく兵藤先輩くらいの変態さんですぅ」

「おい、なんで俺が変態扱いなんだよ!」

 

 ()せない。

 ギャスパーとはごく最近知り合った仲だ。そんな子から変態扱いは理不尽である。しかしギャスパーは捲し立てるように口を動かす。

 

「だって兵藤先輩って女の子の着替えは覗くし、胸ばかり見てるし、挙げ句は女性の衣服を問答無用で剥ぎ取る異能力を開発してると聞いてますぅ。そんなの変態さんじゃないですかぁ!」

 

 どれも的を射たお言葉の数々で、どれ一つとして偽りがない。アリステアを盾にしながら言いたい放題である。

 

「おいぃ! 引きこもりのお前が何故そこまで知っている!」

「ひぃ! い、今はネット社会ですよぉ!」

「俺ってネットに乗ってるのぉ!」

「駒王学園の裏掲示板では兵藤先輩が常にトップにいますよぉ!」

「マジで? 因みにスレッド名は?」

「えと最近のだと……『変態三人集(特に兵藤)は死すべし』とか『兵藤一誠抹殺計画』だったかな?」

「ぐぇ」

 

 精神的なダメージを受けて倒れ込む。

 まさか裏でそんな事になっていようとは……。

 少しは自重しているつもりだったがそうでもないようだ。

 多分これからも書かれ続けるだろうと思いつつ天を仰ぐ一誠。

 

「こっちへおいでぇ。大丈夫、怖くない、怖くないよう」

「いやぁあああああああ、堕天使のラスボスが手をわきわきしながら近づいてきますぅ! ししょー、うわぁああああん!!」

 

 ギャスパーの叫び声を聞きながら、一誠は空の青さと世間の厳しさに涙を流すのだった。

 

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