ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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和平会談に迫る闇。
暗影は静かに、だが確実に手を伸ばしていた。
そう魔刻(まこく)という名の(くら)い影が……。



招かれざる者たち《Reason for Betrayal》

 

「ししょーたち、まだかなぁ」

 

 ギャスパーがアリステアの帰りを待ちながら部室の天井を仰ぎつつ呟く。

 いつからだろうか、他人を怖がっていた自分がこうも誰かを待ち()びるようになったのは……。

 自分でも変わったなと思う。それほどまでにアリステアはギャスパーの精神的な支えになっていた。

 

「……気が早い、まだ始まったばっかり」

 

 ソファーで携帯ゲーム機をしながら小猫が答える。

 

「そ、そうだけどぉ。小猫ちゃんはここにいていいの? 世界の行く末を決める大事な話し合いだよ?」

「……別に興味ない。ギャーくんのお()りの方が大事だから」

「うぅ~、留守番くらい一人でできるよぉ」

 

 本当ならギャスパーも小猫と一緒に会談へ参加するはずだったが重度な人見知りを考慮されて部室待機を命じられている。リアスの心遣いを有り難く思うと同時に情けない気持ちになる。

 アリステアは反対こそしなかったが、(いま)だ他人を(こば)むギャスパーに落胆したかもしれない。

 もしそうだったらと思うだけで怖くなる。アリステアに見捨てられたら今度こそ立ち直る自信がない。どうやったら彼女に必要とされるのだろうか……。

 

「ねぇ小猫ちゃん」

「……ん?」

「蒼井 渚さんって、どんな人?」

 

 ずっと気になっていた。

 リアスたちグレモリー関係者に随分と慕われているのは知っている。だが面識のないギャスパーでは人となりを知る由はない。あのアリステアからも信頼されているのだから余程の人格者だろう。

 少しだけ胸がチクッとする。

 ギャスパーは知っている。渚の話をする時のアリステアは柔らかく笑うのだ。

 あれは親愛やら恋慕やら情愛などに近い。

 アリステアからそんな想いを向けられる蒼井 渚が羨ましい。

 

「……気になるの?」

 

 小猫は携帯ゲーム機を膝に置くとギャスパーを見る。

 

「うん、ししょーや部長が話してるの、よく聞くから。……強いの?」

「……うん、強い。渚先輩は強くて優しい人」

 

 そんな評価をする小猫が困ったように小さく笑う。その表情から内心までは読み取れない。ただ小猫は渚の強さを手放しで喜んではいなかった。

 珍しいモノを見たとギャスパーは思う。

 彼女は基本的にフラットで感情の起伏(きふく)が少ない。相当な揺らぎが無ければ顔に出ないのだ。それがこうも表に出ている。小猫が渚の何を知って、そんな瞳をするのかは分からない。だが小猫にとって渚が特別な存在というのは分かった。

 

「そっか。すごい人なんだね」

「……ん」

 

 ギャスパーがアリステアを(した)う感情に近いのかもしれない。もっと話を聞こうとした時だった。

 小猫がいきなりギャスパーの頭を押さえると床に伏せる。顔面を強くぶつけたギャスパーは小猫に「何をするんだ」と文句を言おうとした。しかし、その言葉は部室内に吹き荒れた暴風に邪魔される。どこからともなく現れた風に机は飛ばされ、窓ガラスが砕け散り、部室はメチャクチャに()き回される。

 何が起きたか理解出来ず、ギャスパーは悲鳴を上げる事しか出来なかった。

 

「いけないな、少し派手に過ぎましたか」

 

 風がやむと柔らかな男性の声が聞こえる。ギャスパーはこの声の主に覚えがあった。目の前に転がっていたソファーから恐る恐る顔を出しながらその名前を呼ぶ。

 

「ラグエル……さん?」

 

 それはかつてイオフィエルと共に駒王へやって来た天使。もしかしたら会談に出席するためにやって来たのだろうか? そう訪ねようとして小猫に服を引っ張られる。

 

「……知り合い?」

「うん、いちおう。前に駒王学園に来た天使さんだよ」

 

 ラグエルは柔和に微笑む。敵意なんて欠片もない穏やかな雰囲気にギャスパーは安心しながら返事を返した。

 

「お久しぶりです、ギャスパーさん」

「あ、はい! な、名前を覚えていてくれて感激ですぅ!」

「貴方は面白い方ですから」

「え、面白いんですか、僕?」

「それはとても。改めて宜しくお願いします」

 

 ラグエルが握手を求めて近づいて来たのでギャスパーも失礼の無いように手を差し出すが小猫が遮るように立ち塞がる。

 

「あなた、なんですか?」

 

 小猫がギャスパーを背に(かば)いながら問い掛ける。その言葉や口調には警戒心、いや敵意に近い感情が込められていた。

 ギャスパーは意外な小猫の反応に慌てる。それなりの付き合いだが彼女が天使を特別毛嫌いしている様子は無かったし、リアスたちもそんな事は言ってなかった。なのにどうしてこうもラグエルを目の(かたき)にするのだろうか。

 とにかく小猫を諌めようとフォローを入れる。

 

「こ、小猫ちゃん? 確かにこの人は天使だけどイオフィエルさんのお友達で悪い人じゃないよ! 部室をこんなにしたのも何かの間違いだと思うッ!」

 

 早口でラグエルの事を説明するが効果はない。(むし)ろ段々と戦闘モードに移りつつあるようにすら見えた。

 どうしたらいいか分からず途方に暮れるギャスパー。

 

「か、勝手に天使と戦ったりしたら会談に悪い影響を与えちゃうよぉ」

 

 最後の手段として和平会談を口にするが小猫はラグエルから視線を離さず首を小さく左右に動かす。

 

「……違うよ、ギャーくん。この人、天使の殻をかぶってるだけで天使じゃない。もう一度聞きます。──あなた、誰ですか?」

 

 その発言にラグエルが動きを止めると穏やかな表情を消す。

 

「あのアリステア・メアすら見抜けなかった擬態が見破られとは"蒼"によって高められた"仙術"を(あなど)り過ぎたようだ。"真眼"への対策を万全にゆえ別のベクトルからのアプローチには若干の穴が出来たという訳ですね。……とはいえ生半可な者が相手ならばバレないのですが流石は()()()だ。若いからと見誤っていましたよ」

 

 恐らく小猫を称賛しているのだろうが、言い知れない薄ら寒さを感じて背筋から冷たい汗が流れる。はっきり言って今のラグエルは少し……いや、かなり怖い。一瞬、本当に同一人物か疑ったくらいだ。

 

「本来はギャスパーさんだけだったのですが、塔城 小猫さん、貴方も連れて行くとしましょう」

 

 瞬間、ラグエルが距離を詰めて小猫の首を掴んだ。

 余りの速さにギャスパーは勿論、小猫も為す術もなく間合いへの侵入を許してしまう。

 

「ぐっ!」

「こ、小猫ちゃん!」

「抵抗はお()しなさい。──出来れば五体満足で持ち帰りたい」

「……こ、のっ!」

 

 苦しそうに顔を歪めながらも小猫は拳を叩き込もうとする。しかしそれを嘲笑うように突風が吹き荒れ、小猫の身体を斬り刻みながら鮮血を巻き上げる。

 ギャスパーは風圧によって身体を弾かれて床を転がった。

 

「痛……」

 

 鋭い木片が腕に刺さり血が出る。死にはしないが怪我に慣れてないギャスパーは身体を震わせた。

 (うずくま)って泣きそうになるギャスパーだったが、小猫の叫びに反応して顔をあげる。

 

「うぅ……あぁぁあぁああっ!」

 

 視線の先で小猫が血塗れになりながらも拳を放つのが見えた。

 

「愚かな」

 

 しかしラグエルは軽く受け流すと、小猫を乱暴に床へ投げ捨てる。しかもそれだけでは終わらない。立ち上がろうとする小猫の顔を掴むと何度も床に叩き付けたのだ。淡々としながらも容赦のない暴力に小猫が苦痛の(こも)ったうめき声をこぼす。

 

「や、やめてぇ!」

 

 耐えかねたギャスパーはラグエルの腕に組み付き小猫を救出する。そして"魔眼殺し(眼鏡)"を外すとラグエルの時を停めた。

 上手くいったと喜んだのも束の間、ラグエルは平然とギャスパーを見下ろす。

 力が効いていない!? 

 ギャスパーの心が恐怖に染まる。だが微かな勇気を振り絞って小猫を庇う。

 

「……心配せずとも"蒼の霊器"である彼女は簡単には壊れませんよ」

「ひっ!」

 

 ラグエルが穏やかな声音で喋りかけてきた。小猫にした仕打ちを見たあとだ。もうどんなに優しくされても信用は出来ない。

 

「こ、ここ、小猫ちゃんを、い、苛めないてくださいぃ!」

「説明は無意味ですか」

「……ないす、ギャーくん」

 

 ドゴンっと重厚な音を経てながらラグエルが壁まで跳ばされ、派手な破壊音を撒き散らす。ギャスパーに気を取られていたラグエルに小猫の打撃がクリーンヒットしたのだ。相変わらず凄まじい腕力に(なか)呆然(ぼうぜん)とするギャスパーだったが、すぐ正気に戻って小猫を介抱しようと動き出す。

 

「小猫ちゃん!」

「……ふぅ、ギャーくん、大丈夫?」

「大丈夫は小猫ちゃんだよ!!」

 

 肩で息をする全身血だらけの少女の言葉とは思えず、ギャスパーは少しの憤慨と多大な心配を胸にしながら叫ぶ。

 

「……私は頑丈だから」

「でも、たくさん、血が出て、す、すぐにアーシア先輩を呼ぶからね!」

 

 渡されていた魔力通信機を取り出して不馴れな手つきで操作していると小猫が心配そうな目で見てくる。

 

「……呼べるの? ギャーくん、電話とか苦手そうだけど?」

「うぅう、苦手だけど頑張るっ!」

 

 人見知りが、どうこうなんて言ってられない。自分がやらなくてはダメだ。明らかに重傷な小猫は安静にさせておくべきだし、ここで臆したらアリステアにも幻滅されてしまうだろう。

 だが通信機のスイッチをオンにしても繋がらずノイズしか流れてこない。

 操作を間違ったのかと思いギャスパーはまた通信機を弄り出すが視界の隅っこに人影を見て指が止まる。

 

「良い打撃でした」

「う、うそ……」 

 

 平然とした態度で立っていたラグエルに戦慄する。

 グレモリー眷属の中でもトップクラスの攻撃力を持つ小猫の一撃でも倒せない化物にギャスパーは腰を抜かしてしまう。

 

「通信は出来ませんよ。これから来る方たちが妨害しているのでね」

 

 小猫が再び拳を構える。戦う気のようだが得体の知れないラグエルを相手に重傷の身で勝ち目があるようには思えない。ギャスパーが不安な面持ちで小猫の表情を覗く。よく見れば冷や汗を流してラグエルと対峙している。平静を装っているが、やはり厳しい状況なのだ。

 

「……足止めはするからギャーくんは走って!」

「だ、だめ。ぼ、僕も戦うよ!」

「素晴らしい友情だ。同時に枷でもありますがね」

 

 ラグエルが目を細めるやギャスパーと小猫は動けなくなる。体の自由が奪われ、困惑する。多分、異能を使われた。だが何かまでは分からない。ただ状況が悪い方向へ傾いたのは確かだ。

 

「ひっ。う、動けない!」

「一体、何が」

 

 石像のようになった二人にラグエルは近づくと小猫を見た。気を許してしまいそうな穏やかな表情とは裏更に瞳だけは物を見るように冷たい。それはモルモットや家畜に向けるべき目だ。

 

貴女(小猫)は彼女に与えますか。……しかし今は席を外してもらいます」

 

 言うや風を使って壁に激しく打ち付けた。先のお返しと言わんばかりだ。小猫に駆け寄ろうとするギャスパーだが完全に腰が抜けて足が動かせない。

 

「さてギャスパーさんは私のモノになって貰いましょう」

 

 そして怪しげな注射器を取り出すラグエル。中の黄金色からなる液体を一目見てギャスパーはさらに恐怖した。本能がアレだけは体内に入れられては不味いと警鐘を鳴らす。

 

「い、いや、いやだぁああ!」

「心安らかに受け入れなさい」

 

 首に注射器を突き刺された。

 痛いと感じる暇もなく身体に侵入する黄金。首から熱い液体が脳を巡り、心臓を廻り、全身へ……。

 

 ──ドクン。

 

 心臓の鼓動が響き、魂が(くら)い欲望に汚染されていく。

 

 ──ドクン。

 

 1回鳴る度に脳が熱くなり思考が塗り潰される。今まで感じたことのないソレは"破壊衝動"だ。自身を虐げる者を壊してしまえと誰かが吠える。

 

「ぎ……ぐ、がぁ、なに、これ……?」

 

 あぁダメだ。考えてはいけない事ばかりが頭に(よぎ)る。力を振るいたくてたまらない。なんでもいいから壊したい。

 そして何よりもアリステアをボクノ モ ノニ シタイ。

 

「誰カ 僕ヲ 止メテ……」

「ギャスパー・ブラディ、初めて会った時から貴方には興味があった。吸血鬼としての格、才能、時を停める力、そして神憑き。タブリスから贈り物でその真価を見極めさせて貰いましょうか。──さぁ汝が獸性の解放を……!」

 

 ラグエルの宣誓を機を()に世界の停滞が始まる。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 ハッと一誠は顔をあげる。身体を縛り上げるような不愉快さに襲われたからだ。

 それに少し身体が重い。手足の動きが固いと言えばいいのか、とにかく万全な調子ではないのは確かだ。

 そんな違和感を肯定するかの如く会議室の雰囲気が変わる。特に各陣営のトップ陣は何かに気付いたように周囲に気を張っていた。

 

「全く以て世話のかかる弟子です」

 

 アリステアが席を立つ。誰もそれを(とが)めず、ミカエルは窓の外を見ており、サーゼクスとセラフォルーが真剣に話し合う。リアスたちも各々(おのおの)が事態の変化に戸惑(とまど)っていた。

 一体、何が起きたのだろうか……。

 

「アザゼル総督。現状は分かっていますね?」

「あぁ。学園……いや駒王町全体にまで(およ)んでやがるな。後処理が面倒だぜ」

「原因の究明に向かいます」

「取り敢えず待ちな、アリステア。動く前に立ち回り方は相談しておきたい」

「指図ですか?」

 

 アリステアがアザゼルを冷ややかに見据えた。

 堕天使の総督に対して、あんな顔が出来る人間はそう多くないだろう。

 

「お前さんに指図出来る奴がいるなら是非紹介して欲しいモンだ。貴重な戦力は上手く使いたい。……頼む」

「あまり時間を掛けないよう願います」

 

 どうやらアザゼルやアリステアは一誠が感じている違和感の正体に辿り着いているようだ。

 やはり何かが起きているという読みは正しいようだ。

 一誠は近くにいる祐斗に声を掛ける。

 

「木場、様子が変だ。分かるか?」

「詳細は分からない。多分、攻撃を受けているんだと思う。身体が異様に重く感じるのは何らかの異能によるものじゃないかな」

 

 祐斗は真面目な顔で答えてくれた。

 一誠は攻撃を受けていると言う発言に気を引き締める。

 しかしこの全身に重りが付いているような状態は(なん)とかならないだろうか。この不調は間違いなく戦いに支障が出る。

 払拭(ふっしょく)出来そうにない気持ち悪さに困り果てているとアーシアが周囲を注意深く観察している事に気づく。

 

「アーシア、どうした?」

(とき)が止まっています」

「え、とき?」

「はい。これは恐らくギャスパーさんの力によるものです」

「ギャスパーの力? 分かるの?」

「私はそういうのに強いですから」

 

 そういうのって、どういうの? 

 アーシアの言っている意味が分からないが、どうやらギャスパーが時を()めたらしい。誰一人として停止してないから気づけなかった。

 

「イオさんが止まっている筈の人も保護してるんですよ。──それにしても厄介な人に目を付けられてしまったわね、ナギくんも……」

 

 アーシアが一誠の疑問に答えてくれる。

 最後らへんが小声だったのでよく聞こえなかったがイオフィエルが頑張って守ってくれているのはわかった。……というかアーシアはこの状況に取り乱した様子がない。下手をしたらこの場にいる誰よりも冷静な風にも見える。こんなクールな()だったかな、と新たな疑問を覚える一誠。

 

「しかし"時流操作"を利用してきたか」

「なかなか面白いアプローチだね」

 

 アザゼルがため息混じりに言うとイオフィエルが感心したように笑う。

 

「あの……何がどうなってるんですか? これってギャスパーがやったみたいですけど?」

「ん? あぁ只の襲撃だ。ギャスパー・ヴラディを使った、な」

「──っ! なぜギャスパーを?」

 

 リアスが顔に驚愕を浮かべながら問うとアザゼルが答えた。

 

「ある一定の方向性を決めた"時"の干渉は強力だ。例え俺でも動けなきゃ簡単には殺されるしな。しかし時を止める神器の存在が洩れてやがるな」

 

 アザゼルが言うや駒王学園の外から閃光と爆音が轟く。

 

「きゃ、何事!」

「おわ! なんだなんだぁ!」

 

 一誠が揺れる校舎に足元をふらつかせ、アザゼルが窓に向けて笑いをこぼす。

 

「お()でなすったぜ、せっかちなヤツらだ」

 

 一誠が外を見るや校庭や空中に至るまで沢山の人影が取り囲んでいる。魔術師みたいなローブで全身を隠した集団は学園を破壊するつもりなのか、容赦のない砲撃魔弾を撃ち続けていた。完全に殺す気なのが伝わってくる。

 

「悪魔や天使じゃないのか、何者だ?」

 

 イオフィエルが「ふむ」と前置きして語り出す。

 

「あれは魔法使いだね。悪魔の魔力体系を独自解釈して最適化した集団だよ。魔力量からして一人一人が中級悪魔クラスかな」

「ようするに悪魔みたいな力を使える人間さ。もっとも進歩し過ぎて悪魔にも出来ない事も体現させちまう奴らだ。ま、俺とサーゼクスに加えてミカエルも結界を張ってる。簡単には手を出せないだろうぜ」

 

 同意を求めるようにサーゼクスとミカエルを見るアザゼル。陣営トップが守ってくれるとは心強すぎる。

 

「その影響で我々は動けないのだけれどね」

 

 サーゼクスの一言でまた不安になる一誠。つまりトップ陣の方々は戦えない。

 自分たちがなんとかしないといけないのかと少し緊張する一誠だったが、察したミカエルはアザゼルに話を振る。

 

「若い方々を駆り出す前に1手くらいはあるのでしょう、アザゼル?」

「なんで俺なんだよ」

「策略や謀略はお手の物な貴方ですからね」

「おい、普通に本音が駄々漏れだぞ」

「隠す気ないので。今までやらかした事柄を数えれば妥当な評価だと思いますが?」

「へいへい、どうせ俺は悪の総督ですよ、と。しかしだ、俺がやるより、そっちのが動いてくれれば1発だぜ?」

「だそうですよ、イオフィエルさん」

 

 アザゼルとミカエルがイオフィエルを見た。

 そんなに彼女は強いのかと一誠は思う。中学生くらいのブロンド美少女があの魔法使いの群れを蹴散らしている絵を想像するのは難しい。

 当の本人であるイオフィエルは呆れたように肩を竦める。

 

「アザゼルはともかくあなたもかミカエル。まさかこんな幼気(いたいけ)な少女を戦場に出すのかい?」

「幼気? 過剰戦力の間違いだろ」

 

 アザゼルが断言した。

 そんな彼に眉をピクリと動かすや面白くなさそうな口を尖らせるイオフィエル。

 

「あなた達全員がわたしをどう思ってるのか聞いてもいいかい?」

「は? 戦場の殺戮者(ジェノサイド)だが?」

「偉大なる死刑執行人(エクスキューショナー)です」

「天界の最終兵器(リーサルウェポン)だね」

「可愛らしい智天使(シャイニーエンジェル)ちゃん☆」

 

 順にアザゼル、ミカエル、サーゼクス、セラフォルーである。

 3対1で答えがマトモじゃない。特にアザゼルのジェノサイドってあだ名が酷すぎる……。何をしたらそんな風に呼ばれるのだろうか? 

 

「くたばれ、男ども。しかしセラフォルーは良い観察眼を持っている、友人になれそうだ」

 

 腕を組んで口をへの字にするイオフィエル。

 一誠はこっそりとゼノヴィアに話しかける

 

「なぁ、イオフィエルさんってそんなにスゴいのか?」

「私も詳しくは知らない。しかし知り合いのシスターから絶対に逆らうなと念を押されたことがある。……優しくも恐るべき方だとな」

「マジかよ、あんなに可愛いのにな」

 

 美しさと可愛いらしさが同居した天使さまは思ったよりも凄まじいようだ。

 

「ふざける時間は終わりだ。ほら、わざわざ敵さんが挨拶にきてくれたぜ」

 

 アザゼルが言うや会議室の中央に転移陣が浮かぶ。

 急な光に一誠は驚く。

 

「な、なんだ!?」

「あの紋様はヴァチカンで見たことがある、あれはレヴィアタンのものだ」

 

 レヴィアタンって言うからにはセラフォルーさまのご家族だろうか。

 一誠が困惑しているとゼノヴィアが警戒するように身構えた。

 

「僕の知っているレヴィアタンの紋様とは随分と違うけど」

「佑斗くん、恐らくゼノヴィアさんが言っているのは旧魔王の方ですわ」

 

 朱乃が陣を睨みながら説明するとサーゼクスもまた厳しい表情をする。

 

「そうか。今回の黒幕は君たちなのか」

 

 陣から現れたのは女だ。一誠好みの巨乳かつスリットの入ったドレス。その身には高濃度の魔力を纏わせている。それは敵が悪魔だという確固たる証拠だ。

 

「ごきげんよう、偽りの魔王と陣営トップの皆さま方。私はカテレア・レヴィアタンと言います」

「か、カテレアちゃん!?」

 

 セラフォルーが驚いた様子で名前を呼ぶもカテレアは一瞥しただけで無視した。何か因縁でもありそうな態度だ。

 

「先代レヴィアタンの血を引く者がこの場に何の用だ?」

 

 サーゼクスの質問に深々と頭を下げるカテレア。

 

「和平、おめでとうございます。祝盃代わりに、こちらも宣言をさせてもらおうと思いまして」

「宣言? 何をするつもりだい?」

「聞きなさいサーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタン。我々は現政権に反旗を(ひるがえ)し"禍の団(カオス・ブリゲード)"に(くみ)する」

「"禍の団(カオス・ブリゲード)"?」

 

 カテレアから発せられた聞き慣れない言葉にサーゼクスは眉を潜めた。そんな彼にカテレアは愉悦気味に答える。

 

「今、ここを襲撃している組織です」

「よりにもよってソコかよ」

 

 アザゼルが口許を緩めた。だがその笑みとは裏腹に目には焦燥が見え隠れしている。

 知ったような口振りのアザゼルにサーゼクスは目を向ける。

 

「アザゼル、"禍の団(カオス・ブリゲード)"とやらを知っているのか?」

「最近、裏で動いている組織だ。そいつら三大勢力の危険人物を集めてやがる。中には禁手に至った神器持ちもいる。"神滅具(ロンギヌス)"もいくつか確認されていた筈だ」

「なんてことだ。その組織の目的は?」

「破壊と混乱。平和が気に入らない最大級に迷惑なテロリストだよ」

 

 アザゼルの挑発をカトレアは嗤った。

 

「テロリストとは随分と卑下してくれたものですが我々には"無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)"が付いている。テロ程度では済みませんよ?」

「……そうか。()の者、オーフィスがバックにいるのか」 

 

 オーフィスと聞いてトップ陣が絶句する。

 "無限の龍神"って名前だけでもヤバそうなのに、周囲のリアクションからそれ以上の危機感が伝わってくる。

 

「馬鹿な、あのオーフィスが動くと言うのですか!?」

(こうべ)()れれば口添えぐらいはしてあげますよ、ミカエル」

「どうして、カテレアちゃん!」

 

 困惑と悲哀の混ざった声でセラフォルーが問いもカテレアは憎々しげな睨みで返す。

 

「私からレヴィアタンの名と座を奪ったあなたがそれを聞くの? ずっと前よ、ずっと前から嫌いだったのよ! 私が魔王に相応しいのになんであんたなんかがソコにいる!」

「わ、わたしは……」

「セラフォルー、あなたたち(現政権)は私たちが粛清します。寂しくはありませんよ、和平などとのたまう愚かな者共も一緒に殺してあげますから」

 

 カテレアの強気な発言にアザゼルが鼻で笑い飛ばす。

 

「ハッ、調子に乗んな、小娘。お前ら程度がオーフィスを操れるとでも思ってんのか?」

「オーフィスは象徴です。我らはその力で間違った世界を滅ぼし再構成するのです」

「その言い様、旧魔王派の全員がオーフィスに付くのか」

「無論です。貴方のような偽りの魔王ではなく私たち真なる魔王が冥界を初めとした全てを支配します」

 

 演説するように両手を広げて大々的に公言する。

 一誠は一種の狂気を見た。もう目がヤバいくらいに血走っている。まさに目先の目標に向かって走る狂人だ。

 あれではまさに……。

 

「まさに危険分子だね、怖い怖い」

 

 一誠が思っていた事を代弁したのはイオフィエルだった。クスクスと口許を隠しながらも流し目でカテレアを見つめる子供のようなイオフィエル。

 それを馬鹿にされたと取ったカテレアが睨みを効かせた。

 

「なんですか、あなたは?」

「あぁ失礼した、わたしはイオフィエルだ。一応、智天使をやっている」

 

 丁寧に自己紹介をするイオフィエルだったがカテレアはゴミを見るような視線を向ける。

 

「智天使? 随分と場違いな格下がいるのですね」

「いやいや、これでも高くて困ってるんだ。ミカエルがクビにしてくれなくてね、こっちも困ってる」

「自覚があるのはいいことです。ならば身の程を(わきまえ)た発言をすることです」

「では、そんな格下天使から警告だ。……あなたは我々の大事な会談を台無しにして宣戦布告まで(おこな)った。驚くぐらいに礼節を欠いている」

「だからなんだと言うのですか?」

「サーゼクスやミカエルのように優しい人ばかりではないと自覚した方がいい。後ろを見たまえよ、自称 魔王どの」

 

 カテレアが指された方向に顔を向けると銃声が鳴り、眼前に弾丸が迫る。

 

「なにぃ!」

 

 慌てた様子で回避するカテレアだったが次の瞬間、鈍い音が響く。銃のグリップで殴られたのだ。突き抜けるような衝撃に溜まらずといった様子で膝を突くカテレア。その額に銃口を向けたのは勿論、アリステアだ。

 

「うわぁ容赦ねぇ」

 

 思わず声にする。相も変わらずな()り様に一誠は顔を引き釣らせた。

 

「先程から長いのですよ。いい加減、手短に願います」

「貴様ぁ! 私が魔王の血筋と知っての無礼かっ!!」

 

 激昂するカテレアに嘲笑を向けるアリステア。最上級の悪魔に対して全くと言っていいほど脅威を感じていない。いつもの事だがどんな人生を歩めばあんな剛胆になれるのかが疑問だ。

 

「襲撃者が事欠いて無礼とは笑わせる。それに魔王と言いますが旧魔王(あなた)の時代は終わっています」

「殺す!」

「減点です。王を名乗るなら品性から磨くべきでしたね」

 

 アリステアは殺意の返答に弾丸を撃ち込んだ。

 しかし、その弾丸はカテレアのすぐ横を跳んで行く。

 アリステアは銃をそのままに静かな声でその名を呼んだ。

 

「──ヴァーリ・ルシファー」

 

 横やりを入れたのはヴァーリだ。弾丸が発射される直前にアリステアの手を取って銃口を逸らしたのだ。

 なんでアイツがカテレアを庇う!? 

 一誠は訳も分からずただ驚く。

 

「なんのつもりですか?」

「そのままの意味だよ」

「残念です」

 

 短く答えるとヴァーリの手を払って彼へ発砲する。しかしカテレアを担いだヴァーリは大きく飛び退いて回避した。

 

「あなた、もう少し丁寧に出来ないのですか!?」

 

 カテレアが抗議するがヴァーリは聞こえないフリをして放す。

 

「流石に狙いが鋭い」

「それはどうも」

 

 銃口をヴァーリに向けたままのアリステアだが、それをアザゼルが制した。

 

「アリステア、少し話をさせろ」

「アザゼル総督。以前の忠告、覚えていますね?」

「言うな、分かってる。あの言葉を撤回するつもりはねぇ」

「ならば良いでしょう」

 

 アリステアが1歩下がるとアザゼルは眉間にシワをよせる。今まで保っていた不適な態度が成りを潜めている事からアザゼルにとってヴァーリの行動は余程に衝撃的なのだろう。

 

「……裏切るのか?」

「そうなるね」

「いつからだ」

「コカビエルの騒動が終わってすぐだ。オファーがあって受けることにした」

「何故だ、何が気に入らない。お前がバトルマニアなのは知ってるさ。戦いから遠ざかる平和を認めたくないのも理解してるつもりだ。だが戦いはまだ続く。他の神話も襲ってくるし、ソイツら(カテレア)みたいな輩も多い。わざわざテロリストになる必要はない」

 

 アザゼルの説得にヴァーリは小さく頭を振って否定した。

 

「俺もバカじゃない。三大勢力が手を組んだ瞬間から次の戦いは始まるのは予想出来たさ。だが戦いたい者が味方にいるのならこうするのが手っ取り早い」

「それは赤龍帝か?」

「お、俺?」

 

 ヴァーリは一誠を見て幻滅したような目をする。かなり失礼な奴だと思う。

 

「一応、宿命のライバルだ……いずれは倒すさ。だが今のままではダメだ、倒し甲斐(がい)がない」

「ならアリステアだな?」

「そうだ……と言いたいが今の彼女には然程(さほど)興味はない。例え強敵だろうが弱体化した相手に勝っても喜びなんて感じないからね」

「今の状態の私を倒してから言って欲しいモノです」

「キミが俺より弱いとは言っていないよ、勘違いしないで欲しい。勝っても負けても何も得られないだけさ。気に障ったなら謝ろう」

 

 強い者と戦うのが現白龍皇の目的だという。

 現状のアリステアでも足りない。ならば何が彼を動かしたのか。

 

「わかった……」

 

 一誠は天啓が降りてきたように閃く。彼の裏切る理由が分かってしまった。それは一誠もいずれは通る道。ヴァーリもまた一誠と同じ人間を目標としているから分かったかもしれない。

 

「お前、ナギと戦いたいんだろ?」

 

 その答えにヴァーリは不敵な笑みを浮かべた。

 どうやらビンゴらしい。

 

「正解。流石は同類だな、兵藤 一誠。キミの言う通り蒼井 渚が目下の標的だ。敗北したままなのは悔しいからね」

「ナギに負けたから裏切るのかよ!」

 

 渚を超えたいと思う気持ちは解る。一誠も現在進行形でその背中を追いかけているのだ。だが仲間を裏切ってまでやることではない。

 しかしヴァーリは、そうだと頷く。

 

「俺にとっては重要なんだよ。最強の白龍皇なんて言われているが蒼井 渚は簡単に超えて行ってくれた。最強の名が泣くなんて言わない。ただずっと待っていたんだ、なんの(しがらみ)も無く、全力で俺が挑める好敵手をね。本来ならキミがそうなるはずだったんだけど、それは高望みのしすぎだったよ」

 

 一誠はその言葉に安心している己を恥じた。自分と戦う前に渚がヴァーリを倒してくれるかもしれないと期待してしまったのだ。それは渚への信頼であり、押し付けでもあった。

 本来なら白龍皇を止めるの対である赤龍帝でなければならないのにだ。二天龍の因縁なんて真っ平だが渚が巻き込まれるのは本意じゃない。

 

「いいね、その目。怒りを感じているのか。見所があると知れて嬉しいよ、赤龍帝。蒼井 渚を打倒するまでにここまで昇ってくるといい。俺……白龍皇と正面から相対出来る者は大歓迎だ」

 

 一誠は何も言い返せない。自分の弱さは自分がよく知っている。赤龍帝なんて持ち上げられていても凄いのはドライグであって一誠ではないのだ。一誠はどうしようもなく凡庸でヴァーリは生まれながらの天才。この差はどう足掻いても縮まることはない。

 そんなヴァーリの言葉に表情を険しくするアザゼル。

 

「そんな相手、幾らでもいるだろうが!」

「……いないさ。俺が特別なのは俺自身がよく知っている。最高の悪魔の血に最上のドラゴンの力。そんな異質な生物が俺だよ、アザゼル。そんな怪物と戦うリスクを背負うヤツなんてそうはいない」

 

 笑うヴァーリの瞳に揺らぎが見える。自身の出生に思うところがあるのだろう。もしかすると強者を求めるのは自らに根ざす孤独を埋める為かもしれない。

 

「馬鹿野郎、お前は俺の……!」

 

 アザゼルが何かを言おうとしたがヴァーリは言葉を重ねた。

 

「やめよう、アザゼル。ここまで育ててくれたんだ、感謝はしている。陣営のトップたちよ、俺が"禍の団(カオス・ブリゲード)"に(くみ)するのは独断であり、堕天使は関与していない。だが決めた以上は俺はこの覇道を行く。今後は旧魔王派のルシファーとして貴方がたに牙を()く。サーゼクス・ルシファー、真の魔王が誰かを決めるとしよう」

 

 ヴァーリの高らかな挑戦にサーゼクスは目を伏せた。

 なんだかんだでアザゼルを気遣う姿に一誠はやるせなさを覚えた。

 この二人には間違いなく絆がある。それを捨ててでも強さを求めるなんて理解できないし、したくもない。

 

「本当にそれでいいのかよ。俺にはお前がルシファーの称号に拘っているようには見えない。まだ迷っているんじゃないか?」

「案外鋭いな、兵藤 一誠。確かに迷いはある、アザゼルには申し訳ないとも思っているさ。だがドラゴンとは身勝手な生き物。決めた以上、俺は修羅の道を行く。キミもそうなってくれると嬉しいんだがね」

「誰がなるか」

 

 ハーレム王にはなりたいが修羅王にはなりたくない。

 ふと一誠は不思議なことに気づく。ヴァーリもまた強者なのに超えたいとは思えないのだ。渚は超えたいのにヴァーリは超えたくない。その要因を一誠は探せずにいた。

 

「残念だ、ならば精々頑張ってくれ」

 

 ヴァーリ・ルシファーが光の翼が出現する。あれが奴の神器をなのだろう。一誠の"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"も共鳴するように展開された。

 それを見たヴァーリがゆっくりと言葉を紡ぐ

 

「──禁手化(バランス・ブレイク)

Vanishing Dragon(バニシング ドラゴン) Balance Breaker(バランス ブレイカー)!!!!!!!!』

 

 音声が響き、ヴァーリの体が真っ白なオーラに包まれる。光が止むと白く輝く全身鎧(プレート・アーマー)の姿になっていた。最後にマスクが顔を覆うと目が光って一誠を威圧した。

 ──ここまで違うのかよ……。

 同じ二天龍の禁手化(バランス・ブレイク)なのにレベルが次元違いだ。鎧の強度、魔力量、闘志、何もかもが上に行かれている。ハッキリ言って化物だ。渚はこんな奴を倒したのかと今更ながらに驚嘆する。

 

「さぁ初めようか」

 

 ヴァーリはリアスへ殴りかかった。まさかの人選に全員が驚く中で一誠は反射的に前へ出た。

 大切な人を脅かす敵に感情が爆発する。

 

「させるかよ! ドライグゥ!」

Welsh Dragon(ウェルシュ ドラゴン) Over Boorter(オーバー ブースター)!!!!!!』

 

 赤いオーラが一誠を覆うと真っ赤な全身鎧(フルプレート)を装備する。ヴァーリとは対となる力でその拳を止めた。一誠はぶちギレ状態でヴァーリを睨む。

 

「てめぇ、部長を狙うとはどういう了見だ!」

「たまたま目についてね。しかし、いい動きだった、まさかキミが反応するとは思わなかった」

「たまたまだぁ? ふざけんな!」

 

 称賛されたのを無視して一誠は怒号混じりの拳を放つもヴァーリは軽くいなして一誠を弾き飛ばした。

 

「がはッ!」

 

 壁に大穴を開けて倒れ込む。とてもじゃないが勝てる気がしない。だが立ち上がって構えを取る。一誠のその姿を見て嘆息するヴァーリ。

 

「挑むのか? 力の差は歴然だぞ」

「…………うっせ」

「キミはまだ俺と戦えるレベルじゃない」

 

 ヴァーリが手を翳すと鎧の所々に設置された宝玉が光る。

 

Divide(ディバイド)!』

 

 体が重くなり、"赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)"が放っていたオーラが小さくなった。

 

『気を付けろ、相棒。奴は"半減"を使う、俺"の倍加"の対となる厄介な力だ。放置してると禁手化(バランス・ブレイク)状態でもいつもの相棒並みにされるぞ』

「そりゃ洒落になんないな!」

 

 倍加で押し返そうとするが『Divide(ディバイド)』という音声が響き、更に力が奪われた。

 

「倍加の時間など与えない」

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!』

 

 畳み掛けるように半減を繰り返すヴァーリ。立て直す隙がない。本当に洒落じゃ済まなくなってきた。スタートで付けられた差が倍加を間に合わなくしてしまう。

 ──ヤバい。

 こんな状態で攻撃されたら一溜まりもない。

 一誠が打開策を考えているとヴァーリに向かって飛び掛かる人影があった。

 

「やらせないよ」

「覚悟」

「その人から離れろ!」

 

 佑斗にゼノヴィア、そしてレイナーレだ。

 三人を難なく迎撃しようとしたヴァーリだが天井を突き破ってナニかが飛来した。

 

「来ましたか……増援です、ヴァーリ・ルシファー」

 

 カテレアがそう言うやヴァーリは懐疑的な口調で言った。

 

「増援? それは味方なのか?」

「えぇ。恐らく協力者が送ってきた刺客でしょう」

「随分と抽象的だな。大丈夫なのかい」

 

 降りてきた人影が立ち上がる。

 それは端正な顔立ちの人物だった。全身を影のような黒い衣服を纏い、歳は一誠に近い。線の細い身体で男か女か判別がつかない。

 そいつはゆっくりと全員を見渡した。

 ゾクリっと鳥肌が立つ。背筋が寒くなるほど無機質な瞳。

 瞬間、一誠の意識は凍結した。

 

『相棒!』

 

 ドライグの呼び掛けに反応して顔をあげる。

 

「な……!」

 

 気づけばすぐ(そば)を例の乱入者が横切った。

 かなり離れていたのに一瞬で距離を詰めてきた!? 

 

『違うぞ。奴は目視できる速さで普通に歩いたんだ』

 

 どういう事だ。だって現に今、自分に気づかれず横を通って行った。

 だがドライグは言う。

 

『相棒が気付けなかったんだ。奴は俺ですら数秒ほど完全に停めた。恐らくここにいる全員が時を奪われた』

 

 それはつまり乱入者はギャスパーと同様に時を止められる奴で、各陣営のトップや白龍皇、そしてアリステアにも干渉できるヤバい奴と言うことになる。

 周囲を見れば敵味方関係なく乱入者を見ていた。力あるトップ陣は警戒を、それ以外のグレモリー関係者は困惑を浮かべている。

 一体、アイツはなんだ? 

 この面子の時を止めるなんてギャスパーでも出来ない。

 乱入者はアリステアの前で歩みを止めた。

 無言で視線を交わし合う二人。やがてアリステアが小さくため息をする。

 

「随分と様変わりしましたね、ギャスパー・ヴラディ」

 

 一誠は耳を疑った、いや彼を知る全員がだ。

 あの長身の美しい人物が、自分の知る泣き虫吸血鬼だとアリステアは言ったのだ。

 

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