ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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蛇になりし魔は堕天の王に挑み、吠える。
時狂いの鬼は白雪の愛を求め、狂喜する。
修羅なる龍は自らの糧を望み、邁進する。


始神源性の欠片《Fragment of the Beginning》

 

 アリステアを見返すは赤い瞳。

 つい先程まで見下ろしていた筈のギャスパーを見上げるアリステア。

 教え子だった小さなギャスパーはアリステアの身長を越えるまで急成長し、美しい微笑みを浮かべていた。

 

「やっぱり師匠には僕が分かるんですね」

「えぇ」

 

 感激するギャスパー。

 随分と立派になったものだが外見の変貌など些細な事だ。問題は内包する膨大な魔力。その総量だけなら二人の魔王すら凌駕している。

 長い時間と鍛錬を経て至る筈だった姿への変貌。"邪眼"が持つ時間操作が関係しているのは確実だが他にも外的要因があるのは明らかだ。

 

「そこの貴方、私達の援軍で間違いないわね?」

 

 アリステアとギャスパーの間に入ってきたのはカテレア。

 そんな彼女の言葉を無視してアリステアを見続けるギャスパー。端から見れば恋人たちの会瀬(おうせ)にも見える。

 カテレアはギャスパーの対応に苛立ちつつも「まぁ良いでしょう」と前ふりするとアザゼル達へ振り返り、胸の谷間から小瓶を取り出す。

 

「これはオーフィスの"蛇"。無限からの加護を得られる素晴らしいものです」

 

 アリステアは視線だけをカテレアの持つ小瓶へ向ける。

 "始神源性(アルケ・アルマ)"の欠片。

 "黄昏"がそうであるように、あれが"無限"の眷族を作るモノなのだろう。

 しかし"無限"とやらは随分と優しい神のようだ。"蛇"を観察しながらそう思う。

 アリステアの知っている"始神源性(アルケ・アルマ)"は相手の都合などお構いなしに魂と肉体の全てを変性、変容させた挙げ句、隷属を()いていた暴君そのものだ。

 "始神源性(アルケ・アルマ)"にマトモなのはいないと断じていたが、生命体を()()()()()()()()()()オーフィスは存外話せる奴かもしれない。(もっと)もただの可能性の話なのだが……。

 アリステアはとりあえず"蛇"とやらの効力を確かめるためにカテレアの密かに観察をすることを決める。

 見せびらかせるように小瓶を掲げたカテレアはそのまま体内へ"蛇"を投与した。カテレアの魔力が器から溢れるようにオーラとなって炎が如く噴出されると大気と地面が呼応して震え出す。自慢するだけあってカテレアの魔力が異常なまでに膨れ上がる。魔王を殺すというのは誇張ではなく本当らしい。

 

「あははは! 素晴らしいわ、力が(あふ)れてくるッ!!」

 

 喜びにうち震えるカテレアに対してアザゼルが立ち上がる。どうやら彼が直々に相手をするようだ。

 トップが先陣を切るのもどうかと思うが今のカテレアにグレモリーをぶつけるのは危険だと判断したのだろう。

 アリステアの個人的な要望としてはイオフィエル辺りが当て馬になって欲しかった。実力的にも問題はないし、死んでもちょっと位の高い天使が消えるだけ、何よりアリステア自身が喜ぶ。

 まぁそれを進言するほど空気が読めない訳じゃないので黙っておく。

 

「要するにドーピングか、そんなモノを使ってまで勝ちたいかねぇ」

 

 アザゼルが呆れ半分な表情で言う。しかしその目は笑っていない。

 

「いくら私でもこのメンツを相手に勝てるとは言えません。しかし"蛇"を使えばどうです? 今なら貴方がたをくびり殺せます!」

「面白え。ヴァーリ、コイツの後に仕置きしてやるから大人しくしてろ」

「約束はできない。俺はもう敵だからね」

「そうかよ。……赤龍帝!」

「は、はい!」

「相手は白龍皇だ。お前が戦え」

「お、俺が!?」

「時間稼ぎでいい、やれるか?」

「やります、俺が戦います」

「勿論、僕も手伝うよ」

「なら私も先輩たちに付き合うとしよう」

 

 佑斗とゼノヴィアが一誠に並ぶ。

 その光景にアザゼルは笑むとカテレアと共に屋外へ飛び立った。

 ヴァーリよりも先にカテレアの処理を優先したのはオーフィスの"蛇"とやらの力を見極めるためだろう。

 アリステアはアザゼル考慮を理解しつつ、再びギャスパーと視線を交わす。

 

「師匠、今の僕なら貴女に相応しいと思います」

 

 世の女性を魅了してしまいそうな微笑。

 だがアリステアは表情を一切変えない。絶世の美少年程度では白雪の心は溶かせないのだ。

 

「そうですか。それで? 何があったか答えてください」

「何も。ただ導かれた、自らが在るべき本当の姿に」

 

 正気じゃないのは目を見ればわかる。その瞳の奥には狂気が見え隠れする。本来の彼ではあり得ない行動と台詞からしてギャスパーは何かしらの洗脳あるいは精神汚染を受けた可能性が高い。

 

「異物を混入されましたね。今の貴方はライザー・フェニックスと同じモノが()えます」

 

 魔王とグレモリー関係者がざわめく。ライザーが謎の医師から渡されたという薬。それは彼を"不死鳥"と昇華変性させた代物だ。以前に戦った"衰退"の"はぐれ悪魔"といい、薬は冥界を中心に配られているかもしれない。

 

「ど、どうしてギャスパーがそんなものを。それに今の姿は……」

 

 驚嘆するリアスだが別に驚く事でもない。この襲撃の背後にはライザーに薬を……"黄昏"の因子を与えた存在もいる、それだけだ。肉体の急激な成長もライザーの変異に比べれば可愛いモノだ。

 

 「(破壊したはずの"黄昏(たそがれ)"の欠片があるのは()()()()()()()()から許容範囲。ただ以前の"衰退"の"はぐれ悪魔"といい、出回りすぎているのは気になります。故意に配っている輩がいるようですが危険性を考慮してないのでしょうか? 仮に分かってやっているのならより深刻です。そしてそんな事が出来そうな人は……)」

『わたしは関係ないよ』

 

 脳内にイオフィエルの声が響く。アリステアの思考を読んで念話を跳ばしてきたようだ。

 

『イオフィエル、やはり"黄昏"についても知っているのですね?』

『"蒼"を知っていて"黄金"を知らない訳がないだろう? アレらは実に近しいモノだ。ちなみにだがギャスパー・ヴラディが打たれたのは"始神の霊薬"。奴らの製造した薬だ』

『奴ら?』

『"アルマゲスト"。奴らもまた"黄昏"について知ってるのさ』

『滅ぼす理由が増えましたね』

『あぁ是非そうしたまえ』

『一つ聞いても?』

『聞こうじゃないか』

『"黄昏"はここに健在なのですか』

『ははは。そんなの一目瞭然じゃないかな』

 

 念話を一方的切られた。

 完全に信用したわけじゃないが、イオフィエルの言葉にアリステアは顔を歪めた。一目瞭然とは、つまりギャスパーがその証拠だと言いたいのだろう。エル・グラマトンが気まぐれでサンプルから造ったと言ってくれればどんなに安堵したか。

 どうやら本体もいると考えた方がよさそうだ。

 アリステアはギャスパーに視線を向ける。

 

「ギャスパー・ヴラディ。部室で何があったのか、教えてください」

 

 アリステアはもう1度だけギャスパーに問うた。犯人にを知るには、やはり被害者に聞くのが確実だ。

 

「その前に僕の質問に答えてください。今の僕は貴女に──」

「力をひけらかす子供に興味はありません」

 

 バッサリとギャスパーの告白を両断する。

 その言葉に表情が凍りつくギャスパー。

 

「どうしてですか? 見てください、この時流操作をっ! 今の僕なら魔王も天使長も堕天使総督だって倒せる! こんなに強いんだ、師匠だって守れる! 蒼井 渚なんかよりも僕といた方が幸せになれるんだ!!」

 

 (いびつ)な笑いを浮かべると、すがるようにアリステアへ歩み寄ろうとする。

 

「力に溺れた輩に言われても嬉しくありませんね」

「違う! 僕は本当の自分になれたんだ。もう何かに怯えることもない」

「今の貴方と話すことはありません。その不純物を取り除いてあげます」

 

 ギャスパーに手を伸ばすが乱暴に払われた。

 

「貴方も僕を見捨てるのか! 裏切ったな、僕の気持ちを裏切ったな!」

 

 ガリガリと頭を掻きむしるギャスパー。

 

「落ち着いてください。貴方は"黄昏"に精神を呑まれている」

 

 情緒が不安定なのは人格が"黄昏"に付きまとう狂気に侵されているからだ。"黄昏"の力は下位存在の肉体にも人格にも影響を与える。破壊衝動から始まり、狂気に囚われ、最終的には獸へ墜ちる。そうなったらもうアリステアでも救うのは困難だ。更に言うならギャスパーは既に狂気の段階に入っている。獸になるのも時間の問題だ。

 

「──そうだ。なら師匠は僕が飼ってあげます。そうすればずっと僕のモノだ」

 

 取り乱していたのが嘘のように静まったと思いきや狂気に染まった眼でギャスパーが嗤う。

 支離滅裂になった馬鹿弟子はどうやら自分が欲しいようだ。しかし飼うとは些か言葉を選ぶべきである。

 

「まさかペット扱いとは女性に対してのエチケットが()っていませんよ」

「僕に血を吸われれば師匠は僕の(とりこ)だ。うん、凄くいい」

 

 本気で隷属させる気のようだ。本来なら絶対にやりそうにない事をしようとするギャスパー。ここまで人格をねじ曲げる"黄昏"の悪辣さを改めて実感する

 

「その狂気に染まった思考を叩き潰してあげますよ」

「大丈夫。優しくしてあげます」

 

 噛み合わない会話と共にギャスパーが姿を眩ませ、アリステアの背後に現れるや体を抑えて首へ噛みつこうとした。

 

「私の血がお望みですか。……色々と高く付きますよ?」

 

 ギャスパーの頭を掴むとそのまま投げつけるが、地面に落ちるタイミングで無数の蝙蝠へ姿を変えると再び身体を再構成して着地する。

 

「ふふふ。やっぱり一筋縄じゃ行かないなぁ。じゃあ本気でいきますね」

 

 ギャスパーの瞳を光らせる。その色彩が赤から黄金に変色するやアリステアの四肢が硬直した。

 凄まじい時流操作にアリステアの抵抗術式が突破されつつある。驚くべき事に防げない。"黄昏"によって増幅されたとはいえ、こうまで圧されるとは思わなかった。完全に停止するのも時間の問題だろう。歯痒いが今のアリステアの霊氣で防ぐのは至難の技だ。

 アリステアは"真 眼(プロヴィデンス)"を発動してギャスパーの現状をステータスとして垣間見る。

 

 

 ──

 

・ギャスパー・ヴラディ

 

《パーソナルステータス》

 

パワー(力) ■『上昇中』(通常時E判定)

ディフェンス(耐久力) ■『上昇中』(通常時D判定)

マナ(魔力)■『上昇中』(通常時B判定) 

スピード(敏捷) ■『上昇中』(通常判定D相当)

テクニック(技量) B(D ) 

アビリティ(異能) ■『上昇中』(通常時B+相当)

 

 

固 有 能 力(アビリティ)

 

・吸血鬼《ランクA+》

 

伝承にある能力のすべてを付与される。

高度な影術、蝙蝠化、吸血による眷族編成、重度の魅了、不死性などが含まれる。

 

 

混合種(ハイブリット)《ランクA》

 

人間との混血であるため生まれた突然変異。

太陽に強く、水も渡れ、鏡にも映る。

雑種強勢とも言える個体であり、伝承にある吸血鬼の弱点を克服している。

 

 

・黄昏の欠片《ランク■》

 

■■の■■により生命体としての個体値が逸脱する。

凄まじい力を与えるが対象を最適化するため肉体が変容する。加えて致命的な精神汚染が発生する。

 

 

・■■■■の■眼《ランク■》

 

■■■■■による干渉を受けて能力に補正が掛かっている。

 

 

・■■の■■《ランク■■》

 

詳細不明

 

 

 ──

 

 

 今の状態でも厄介だというのに技量以外の能力はまだ上がるようだ。それに虫食いみたいにジャマをする■の羅列にも辟易(へきえき)する。ひ弱な吸血鬼が何回限界を突破したらあんな風になれるのだろうか……。

 あのライザー・フェニックスとて、こんなにはならなかった筈だ。

 あのまま力が上昇を続けたら最終的に"禁種個体"へ匹敵する可能性すらある。

 ──しかし合点がいかない。

 いくら"黄昏"の力を受けたとは言え、所詮は砂粒程度の加護だ。アリステアを肉薄するまで強くなるのは流石におかしい。だが実際に"真眼"は抵抗(レジスト)されてギャスパーの全ては見抜けない。

 アリステアは"黄昏"と並列した()()()があると判断して■で隠された部分を注意深く探った。

 次々と空白を解明していく。

 

「"時流支配の神眼"に"永劫の霊器"ですか」

 

 やはりギャスパーの神器、"停止世界の邪眼"が変異している。さらに奥に隠されていた能力は何処か"蒼の霊器"を思い出させる。"蒼"によって昇華された生命体を"蒼の霊器"と呼ぶ。

 永劫……時間を司る言葉。これがギャスパーの神器の能力に馬鹿げた増幅している可能性が高い。"真 眼(プロヴィデンス)"で詳細を確かめるが、厳重なフィルターが掛かっているようで上手く把握出来なかった。ただこの"永劫"とやらは"黄昏"とは別物だ。アリステアの知らない"ナニか"が彼に影響を与えている。霊気の出力を上げて覗き込もうとするが戒めるように右腕の"血咒(けっしゅ)"が浸食を始めた。

 

「(限界ですね、これ以上は喰われる)」

 

 セクィエス・フォン・シュープリス、全く(もっ)て面倒な呪いを(ほどこ)してくれたものだ。

 右腕から流れるアリステアの血を見たギャスパーは恍惚(こうこつ)な笑みで舌舐めずりをする。

 

「師匠の血、綺麗です。それに今の僕なら師匠ですら止められる!」

「借り物の力で粋がらないで下さい」

 

 アリステアはギャスパーの懐に入ると腹に拳をぶつけた。壁を破壊して外まで跳んでいくギャスパー。それを追うため歩き出す。

 

「アリステア、あの子を助けてあげて!」

 

 リアスが懇願するが即答は出来ない。

 助けたくないわけではない。多少の被害ならアリステアも目をつぶってギャスパーの命を優先した。それぐらいの情はあるつもりだ。だがギャスパーを一刻も早く止めなければアリステアを含めた全員が近いうちに停止する。止まればそれで最後だ。あとは何故か時間停止の影響を受けていないカテレアや魔法使いになぶり殺されるだろう。

 リアスには悪いが最悪な状況も覚悟してもらわなければならない。

 

「……善処はしましょう」

「らしくないな。そこは『いいえ、殺します』じゃないのかな?」

 

 イオフィエルが口出ししてくる。アリステアは冷たく睨むがイオフィエルは涼しげに受け流す。

 

「イオフィエル、ギャスパーは私の眷属よ!」

 

 鋭い口調はリアスだ。しかしイオフィエルもまた微笑を消すと光のない暗い瞳で見返す。

 

「知ってるさ。だがね、アレは少々危険だ。リアス・グレモリー、あなたたちが今動けているのはわたしが各々に干渉して術を施しているからだ。消せばグレモリーは即座に時間凍結に呑まれる。そして術も徐々に時流操作に侵されている。サーゼクスたちとて例外じゃない。全員が物言わぬ人形になるのにそう時間は掛からんさ」

「……っく!」

 

 唇を噛み締めるリアス。彼女は眷属を愛しすぎている故に残酷な決断が出来ないのだ。

 

「手はわたしが下そう、存分に恨めばいい。だがこの会談は必ず成功させる。サーゼクス、ギャスパー・ヴラディの殺害を許可しろ」

「イオフィエルさん」

「ミカエル。誰かが殺らなければならないのなら喜んで受けよう。始めたのはわたしだ、それ(和平)を成す義務があり、そしてやり遂げる権利がある」

「待ってくれ」

 

 イオフィエルが立ち上がるとサーゼクスが止めるに入った。

 

「まさか殺すなとか言わないだろうね?」

「いや妹の眷属だ。ならば私がやろう」

「お兄さま!」

「リアス、このままでは全てが終わってしまう。王ならば時に決断しなければならない……分かるね?」

「で、でもギャスパーは……」

 

 トップ人は流石に事の重大さを理解しているようだ。

 今のギャスパーは間違いなく魔王を殺せる領域にいる。合理的に言えば殺害が一番リスクの少ない選択だ。

 

 ──それでいいのですか? 

 

 アリステアの心の隙間からそんな声がする。

 何を今さら……。情に絆されるなど自分らしくもない。

 これが最善だ。このままでは時間停止の檻に閉じ込められて死ぬ。元凶である狂ったギャスパーの説得も難しい。ならば処分しなければならないだろう。終わらせるなら自分が最適だ。イオフィエルの出る幕はない。

 アリステアは冷徹に優先順位を組み立てる。最優先はトップ勢の命、その他は二の次である。

 いつも通りにやればそれで終わり。

 アリステアは会議室から出て、心を凍てつかせ冷たい殺意でギャスパーへ銃を向ける。

 そんなアリステアに頬を赤めるギャスパー。

 

「師匠、僕が勝ったら言うこと聞いてくれますね?」

「勝てたならどうぞ」

 

 歓喜かつ狂喜。

 ギャスパーの魔力が膨れ上がる。

 余程、アリステアが欲しいようだ。そんな歪んだ愛情を撃ち抜くためにアリステアは教え子へ発砲するのだった。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「……っち」

 

 アザゼルが光の槍を片手に舌打ちをした。

 また体が重くなったのだ。下を見ればアリステアがギャスパーに向けて弾丸を撃ち込んでいる。

 ギャスパー・ヴラディが異常な程に力を付けているせいで時間が肉体を蝕む。誰が何をしたら無害だった悪魔をあんな災害に出来るのか。

 アザゼルはギャスパーの精神が弄られているのは分かっている。誰かが裏で糸を引いているのは会談に参加した全員が気づいているだろう。時間を掛ければ正気に戻せるかもしれないが今はその時間がない。

 早くギャスパーを止めないと時間停止の餌食なる

 

「動きが悪いわねぇ!」

 

 カテレアが悪魔の翼を広げて攻撃を加えてくる。重い攻撃に圧される。思っている以上に"オーフィスの蛇"とやらの効力が大きい。

 こっちは時間停止で動きづらいのにドーピングしたカテレアは影響を受けている様子はない、学園を囲む魔法使い達もだ。目に見えて正気じゃないギャスパーが敵味方を判別しているとは思えない。ならば誰かがギャスパーの異能に干渉しているはずなのだ。尤もその誰かを排除しても時間停止が消える訳じゃないので結局はギャスパー自身をなんとかするしかないのだが……。

 これはかなり不味い状況だとアザゼルは苦笑した。

 

「あははは! 私は今、あのアザゼルを()しています!」

 

 ウザったいカテレアに少しだけイラッとする。

 自分は強化しといて相手は弱体化させる。己の実力ではないのに得意になっている。

 少し驚かしてやるか。

 アザゼルはゴソゴソと懐を探ると短剣らしきモノを取り出す。

 

「まさかそんなもので私を倒すつもりで?」

「そのまさかさ。取って置きを見せてやるよ」

 

 瞬間、短剣が光の塊となって弾けた。光は鎧を思わせるパーツに変異するとアザゼルの肉体に次々と装着されていく。

 

「俺が"神 器(セイクリッド・ギア)"の研究に(いそ)しんでいるのは知ってるな。その過程で自分で"神 器(セイクリッド・ギア)"を製作してるだが聖書の神には一向に届かなくてね。けど最近、偶然にも出来ちまったのよ」

「まさか造ったというの!? 聖書の神が創造した奇跡であると同時に犯した禁忌でもある"神 器(セイクリッド・ギア)"を!!」

「まぁな。紹介するぜ、白龍皇をベースに他のドラゴン系列のデータに組み込んだ俺の傑作。()()()() "堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)"、そいつの疑似禁手だ」

 

 金色の鎧に包まれたアザゼルからは凄まじいドラゴンのオーラが溢れている。

 それを見てカテレアは冷や汗を流す。"オーフィスの蛇"を使った自分を肉薄する力を秘めているのが分かったからだ。

 

「堕天使風情(ふぜい)が神の領域に手を出しますか」

「必要ならなんだってするさ。そっちも似たようなモンだろ。ドラゴンの力を扱う者同士、ソレらしく潰し合おうや」

「面白い、歯応えがなくて落胆していた所です!」

「ハッ。後が控えてんだ。軽く捻ってやるから、とっとと来いよ」

 

 

 

 

 ○●

 

 

 

 

 一誠は外が更に騒がしくなったのを肌で感じていた。

 アザゼルとアリステアが各々に戦闘を始めたからだ。これで厄介な奴はヴァーリだけになったが外の魔法使いが野放し状態だ。それにギャスパーと一緒にいた小猫の安否も気になる。

 

「さて兵藤 一誠。退くつもりは無いのか?」

 

 それは嘲りであり、慈悲でもあった。

 

 ──キミはまだ俺と戦えるレベルではない。

 

 こっちの都合などお構いなしにヴァーリが光の翼を広げて一誠に忠告する。

 相対するだけでヴァーリの龍圧に呑み込まれそうだが脚をふんばり腹に力を込める。

 レベルが違うのは最初から解っていた事だ。だけど、ここは逃げていい場面じゃない。

 一誠に並ぶように佑斗とゼノヴィアが立ち、後ろでは朱乃が雷を迸らせている。レイナーレやミッテルトも光の槍を構えている。心強き仲間たちが白龍皇へ戦意を(たぎ)らせる。ただリアスだけはギャスパーの方を見て焦燥に駆られていた。

 

「部長!」

「い、一誠?」

「ギャスパーの事はアリステアさんに任せましょう。今はコイツと外の魔法使いをなんとかしないと!」

「……そうね!」

 

 一誠の気迫にリアスの士気が上がる。

 その状況を見守っていたサーゼクスが命を出す。

 

「リアス、君の眷族の何人かは外の魔法使いに対処してくれ。私たちは結界維持で動けない。グレイフィアを援護に回す」

「わかったわ。一誠と私、アーシア以外は敵の掃討後、小猫の安否確認を! グレイフィア義姉さま、共に戦ってくれますか?」

「畏まりました」

 

 グレイフィアが優雅に一誠の前に降り立つ。そして冥界最強の"女王(クイーン)"として歴代最強の白龍皇へ礼儀正しく頭を下げた。

 

「魔王サーゼクスの"女王(クイーン)"グレイフィア、お相手致します」

「最強の"女王(クイーン)"か。相手に取って不足はない!」

「皆、行くわよ!」

 

 リアスの合図でグレイフィアがヴァーリへ魔法弾を撃ち込むと各々が散る。

 佑斗とゼノヴィアが先導して会議室に砲撃を続ける魔法使いを次々と斬り倒し、朱乃が二人を狙う者に雷撃を落とす。レイナーレとミッテルトも上手く立ち回っていた。

 一誠は仲間たちの活躍を頼もしく思いながらヴァーリと対峙する。

 

「兵藤様、少しよろしいですか?」

 

 グレイフィアがヴァーリに砲撃を加えながら声を描けてきた。

 

「は、はい!」

「白龍皇の力は触れた対象への半減です。距離に制限のある室内では接近された場合の対処が難しい。ですので赤龍帝である貴方さまには前衛をお願いしたいのです。勿論、無理のない程度で結構です」

「了解しました!」

 

 グレイフィアの放った魔力弾にヴァーリがよろけた。一誠は千載一遇のチャンスだと思い、駆け出す。

 

「行きます!」

 

 一誠が鎧の背中から噴出口を展開させると倍加を重ねた拳を翳して突貫した。

 グレイフィアの援護はその間も続く。魔力弾は意志があるように一誠を避けてヴァーリに降り注ぎ、防御に専念させていた。あまりの手数に流石のヴァーリもその場からは動けない。あの一発一発が駒王学園を消し飛ばすに()る威力がある。誘爆しないのはグレイフィアの魔力操作の賜物だろう。

 ヴァーリが身動きの出来ない絶好のチャンス。

 一誠はこの一撃で終わらせようと倍加を加速させて解き放つ。

 

「……俺を侮ったな、グレイフィア・ルキフグス。そして兵藤 一誠」

 

 魔力弾に曝されながら一誠と視線をだけを合わせるとヴァーリは不適に笑う。

 

「兵藤様!」

「いけない!」

 

 グレイフィアとサーゼクスが叫ぶや幾重もの防御陣を展開する。瞬間、ヴァーリを中心に場が炸裂した。

 激しい衝撃に一誠は何が起きているか分からず、喉から駆け昇ってくる熱を吐き出す。それは自分でも驚くほどの血液だった。鎧も砕けて身体中に致命的なまでダメージを受けている。

 何が起こったかなど聞く必要はない。

 ヴァーリが魔力と龍のオーラを爆発エネルギーに変換しただけだ。しかしその破壊力は一誠を戦闘不能にするには十分過ぎる。

 閃光と轟音がやむと地面が抉れ、会議室の半分は消し飛んでいた。

 もう半分が無事なのはサーゼクスのおかげであり、爆心地にいた一誠以外の者に被害はない。

 

「今ので大半はいけると思ったが俺もまだまだのようだ」

 

 嘆息するように言うヴァーリだが彼も無傷ではない。グレイフィアから受けた攻撃で鎧の至る所に少なくないダメージを受けた跡がある。それでもまだ余裕があり、戦闘は可能だ。

 しかし一誠はそうではない。

 見れば損傷した鎧の合間から血がボタボタと冗談のように零れている。

 これは死ぬ。出血が洒落になっていない。世界が歪み、とにかく意識を保っていられない。

 ヴァーリからしたら戯れの一撃だったのだろう。それでこの様だ。悔しさと情けなさで泣きたくなる。

 遠くでリアスとドライグが何かを言っているがまるで聞こえなかった。

 そう言えばナギも何回か死にかけていたのを思い出す。血塗れで誰もが戦えないと思った時も立ち上がった。そして強敵を打ち勝ったのだ。

 

「うおあぁああ!」

 

 気合いで一誠も立ち上がった。

 辛い、痛い、苦しい。陳腐だがその三つしか考えきれない。けれど一誠はヴァーリに殴り掛かる。

 ヴァーリにとって一誠の行動は予想外だったらしく呆気に取られていたがそれも一瞬、すぐに一誠の攻撃に対処して反撃を加えてきた。

 天地が引っくり返る。全身強打で体が悲鳴をあげた。

 

「少し驚いたがこの程度──」

 

 最後まで言わせるか、と一誠は噴射口を使いをヴァーリに体当たりをする。

 学園の校庭を飛び抜けて体育館に大穴を開けながら突撃するが、拍子にヴァーリのホールドを解いてしまった。

 体育館の内部を破壊しながら転がる一誠は壁に激突しながらも立ち上がった。

 

「どこを見ている」

 

 痛烈な蹴りが鎧を貫く。

 

「がぁ! くそ、まだまだぁ!」

「……何がキミを駆り立てる? 勝ち目がないのは解るだろ? 俺は今のキミと戦うつもりはない。退けば命は助けるつもりだ」

「あぁそうさ、俺はお前となんか戦いたくない。けどよ、追いかけてる奴が同じなら退けないんだよ」

「なに?」

 

 これは単なる意地だ。

 ずっと女にしか興味がなかった只の高校生が、初めて抱いた男への意地。アイツがやれたのに、自分が出来ないなんて格好が悪過ぎる。そんなチンケだと笑われそうな信念が一誠を支えていた。

 

「ナギを超えたいのはお前だけじゃないって言ってんだよ。お前がいたら俺の事をアイツは見ないかもしれないだろ」

 

 渚は強い。

 常に仲間を守るために人知れず頑張っていた。一誠が強くなりたいと思ったときも親身になってくれた。無理に無理が重なって今は眠りについているが、それも仲間のためにそうなった。

 こう言っては誤解を産みそうだが漢として惚れている。憧れとも断じていい。

 だから一誠は、いつかはアイツと並び立ち、超えたいと夢想しているのだ。

 そして渚は既に目の前のヴァーリを一度退けた。何も渚が出来たなら自分がやれるなんて驕るつもりはない。自分に出来るのは精々が渚みたいに諦めず立ち上がるまでだ。けれど一撃くらいは入れる。それぐらいしなければ渚に置いて行かれそうだ。

 意地もあれば、誓いもある。愛しのご主人様と約束したのだ、最強の"兵士(ポーン)"になると……。

 ならば立って進むしかないだろう。超えるべき壁は大きい、だが挑む価値はあるはずだ。

 

「俺を倒せないキミが蒼井 渚を超える? 冗談……ではないな」

 

 一誠の雰囲気からヴァーリは真意を読み取ったようだ。

 

「ったりまえだろ」

「ならここで現実というのを教えておこう」

 

 ヴァーリの雰囲気が変わる。

 これは遊ぶのをやめて一誠を敵として倒すという宣言でもあった。

 一誠は(かま)えも取れずにヴァーリを迎え撃とうとする。

 

「どっからでも──」

 

 来い……という前にあらゆる方向からの打撃に襲われた。骨は砕け、肉が千切れ、鮮血が舞う。ただでさえ瀕死の一誠はこの攻撃に耐えられない。最後の足掻きで前へ進むが鋭く重い一撃を顔面に食らった。

 フルフェイスの兜が無惨に砕け散る。

 素顔を露にした一誠は倒れながら、こう思う。

 

 ──ナギに追い付けなかったな。

 

 最初は隣にいた筈だった。なんの変哲もない友達の筈だったのだ。

 だが気づけば、その背中は遠くにあった。

 沢山助けてもらった。

 レイナーレの時、ライザーの時、コカビエルの時だっていつも最終的に体を張ったのは渚だ。

 自分の為になんて言いながら、結局誰かの為にしか戦わないカッコつけしい。普通に暮らしたいと裏でぼやきながらも命を懸けてまで非日常を駆け抜ける考え無し。もうダメだと諦めていたら『なんとかする』なんて適当な言葉で濁しながら本当になんとかしてしまうトンデモ野郎。何度も死に追いやられても復活する生きたゾンビ。

 しかし、それが、そこが、堪らなくカッコ良かった、憧れた。だからその背中を全力で追いかけたのだ。

 一誠はもう少ない意識の中で手を伸ばす。

 

「追い……付き……たかった、なぁ……」

 

 これがナギだったら立ち上がって皆のために戦うんだろうな。

 一誠は死に掛けても立ち上がる渚を何度も見てきた。この度に強敵を倒す姿に何度魅せられたか……。

 届かなかった背中に手を伸ばすが力抜けてガクリと落ちる。たがその手を誰かに取られた。

 

「おい人を勝手にゾンビ扱いして死ぬなよ、俺に失礼だ」

「(なんだ、来てたのか)」

「まぁ、アレだ、その、誉められるのは嬉しいけどな、俺はイッセーを追い抜いてないぞ?」

「(嘘つけ、俺がどんなに一生懸命だったか、分かってないだろ)」

「それはわからなかった、俺はどうも自己評価が苦手らしいんでな。……悪かったよ」 

「(別にいい。ナギが来てくれたなら安心だしな)」

「それでいいのか?」

「(俺じゃ届かなかったんだ、色々さ)」

「届かないなら俺が引っ張るよ。諦める前にもう少しやってみないか? 何より俺が先にいるって思うなら、俺を追い抜きたいなら──()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 照れるように、誘うように、ソイツは笑った。

 それは目標()からの激励であり、挑発。一誠は諦めかけた自分に渇を入れてその手を強く握り返す。

 

「なんなら足踏みして待っとくか? いいぞ、俺はのんびりが好きだしな」

「(言ってろ、すぐ俺の背中を拝ませてやるよ)」

 

 心臓が大きく鼓動し、神器に魂を込める。──もっと力を、と。

 瞬間、警報音のようなけたたましい音が響いた。

 

『──警告(Warning)赤の炉心へ不正接続を確認(Unauthorized access confirmation)

 

 うるさいほどにハッキリと聞こえる声はドライグではなく機械音だ。その声が続ける。

 

『アニムスコード認証中……エラー。コードの差異により不正アクセス者の侵入と認定、回路強制カット。炉へ霊気隔壁、展開。不正接続者への魂絶プログラム起動。ルート逆算終了。目標の霊子核を確認。不正接続者への攻撃開…………中断。最上位機関(メインコア)より緊急伝令を受信、不正接続者への攻撃を中止および炉心へのアクセス権を要請。……最上位機関(メインコア)、"クァエルレース・ケントルム"の要求を受諾。不正接続者、兵藤 一誠にアクセス権を発行……完了。兵藤 一誠をユーザー登録、アニムスコードより申請を確認、承諾完了。封印回路により30%の限定起動。──Mode(モード) active(アクティブ) Supreme Ruler(シュプリーム ルーラー).』

 

 一誠の神器が眩く光る。何が起きたかわからない。ただ渚をすぐ近くに感じた。

 

「頑張れよ、イッセー……」

 

 渚の声が遠くなる。

 背中を叩かれた気がした。あんな軽口を叩いていた奴は最後の最後で優しげに言ってから行きやがった。

 だが確かに自己評価が下手な奴だ。渚は自分がどんなに凄い奴か、まるで理解してない。

 あんな適当な応援で一誠はこんなにも活力に溢れ、ヴァーリにも勝てそうな気すらしてしまうのだから……。

 次会ったら大活躍劇を自慢してやろうと一誠は誓うのだった。

 




手違いで同じ話を続けて投稿してしまいました。
困惑させた事を深くお詫びします。
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