金髪シスター良いものだ。良いものですよね?
「はぁ~~」
初めて友人と喧嘩して殴られた。
喧嘩相手である一誠の前では大見栄を切ったが所詮は小心者の渚だ。結構な精神ダメージを受けていた。
拳を貰って腫れた左頬に触れる。殴った一誠の本気が見て取れる痛みはズキズキと全身に響く。
「入りますよ、ナギ」
ガラガラと浴室を仕切る戸が躊躇なく横に開いた。
渚がゆっくりと声の主の方へ振り向くと見慣れた白銀髪の少女が私服姿で立っている。
三秒ほど二人が無言で見つめ合い、渚が異常事態だと気づいた。今は入浴中、つまり全裸なのだ。
「その頬……。喧嘩でもしたのですか?」
「きゃああああああ!!」
思わず全身を抱き締める渚。
「気味の悪い声を出さないでください、千切られたいのですか?」
「ひぃいいいいいい!!」
悲鳴が恐怖の絶叫に変わる。……どの部位が千切られるかは想像すらしたくない。
「え、何? なんでいるの? つか覗かれてんの俺!? 普通逆じゃないかッ!?」
「こんな堂々とした覗きがありますか。ただ入浴時間が長いので気になっただけです」
まるで母親のような言い分だ。
「部屋を訪ねて既に一時間が過ぎました。いつまで待たせるつもりですか、貴方は?」
「いや、なぜに待ってんの?」
「なんとなくです、何か問題でも?」
「それなら自分の部屋、戻れよ!」
ピシャリと渚がガラス張りの戸を閉めて大きく肩を落とす。一体、この状況は誰得なのだろうかと神に問い正したい。せめて逆なら目の保養にはなった。抹殺される未来がすぐ訪れるが……。
「……何かありましたね?」
扉越しの鋭い指摘だ。黙秘する渚の態度を肯定と受け取ったのか彼女は続ける。
「早く上がりなさい。話ぐらいは聞いてあげますから」
そう言い残してアリステアは浴室から出て行く。見送った渚が止まっていた入浴を済ませるため動き出す。
少しして風呂から上がると食欲を誘う香りに気づく。思えば学校から帰宅して何も食べていない。
空腹に誘われるままリビングに向かうとアリステアがキッチンに立って料理をしていた。白雪の髪を後ろで一つに束ねてエプロンをしている姿は新鮮だ。
「もうすぐ出来ます。座って待っていてください」
言われるがまま、リビングにあるテーブルに座ると料理が出てきた。
丁寧に置かれた皿が複数並ぶ。貝や海老、卵などで彩られた瑞々しいサラダ。食べやすいようにスライスされたチーズとハムが挟まれたパン。湯気を立てているのはコンソメのスープだ。そしてメインは、刻まれたマッシュルームとパプリカに特性のソースが乗るパスタだ。色とりどりの料理と食欲を掻き立てる匂い。食べる前から美味いだろうと分かる食事だ。
渚とアリステアが手を合わせて食事を始める。
「切った口が痛い……」
「そんな傷は放っておいてもすぐ治ります」
「冷たい……」
「料理は温かいので、それで熱を取ってください」
渚が言われるままにパスタを口に運ぶ。
予想以上の美味が舌に広がり、痛さを忘れてがっつく。渚がガツガツと、アリステアは丁寧に料理を食べていく。こうして二人の食事は淡々と進み、やがて皿が
「ご馳走さま」
「お粗末様です」
アリステアが食器を片付けて、再び渚の対面に座る。
「では、どうぞ」
「えと、言うの?」
「無理には聞きません。さして内容に興味がある訳ではないので」
「まぁいいか」
そして渚が夕麻の処遇で友人と揉めたことを話す。
堕天使である夕麻を殺すべきと偉そうな主張しながらも説得できず、果ては一誠のために殺したくない。そんな青臭いどっちつかずな心内をさらけ出すように
話し終えた後、アリステアは「そうですか」と腕を組む。渚は彼女の言葉を静かに待つことにした。
「説教したのに相手を説き伏せられないという痴態を
「ちげぇよ! 話し聞いてましたでしょうかっ!?」
真剣さが一気に霧散した。渚の本筋はどうやったら
「冗談です。大体これは深刻な問題でもないでしょう。天野 夕麻を半殺しにして捕らえてしまえばいい。生かすか殺すかはリアス・グレモリーと兵藤
「そう簡単にいかないだろう。夕麻側の戦力も拠点も不明。それに相手には強い奴がいる」
ドーナシークは夕麻の事を知っている素振りだったのを渚は覚えている。ならば仲間と考えるべきだ。つまりクラフト・バルバロイもまた夕麻側にいることになる。アレは多分、渚では手に追えない怪物だ。思い出すだけで全身が寒気に襲われる。
「"強い"ですか、ならばその方は私が相手をしましょう」
当然のように手を貸そうとするアリステアに渚は首を振った。
「ダメだ、ホントにヤバイ奴なんだ。ステアでも勝てないかもしれない」
「ふふ、面白い冗談ですね」
「冗談じゃない!」
渚が本気で止めようと身を乗り出すがアリステアの細い指が唇に
柔らかな感触は言葉など無粋と言いたげに渚を丸め込む。
「ご安心を、この世界で私を殺せる相手などいません」
「そんな訳あるか。ここは化物みたいな連中がゴロゴロしてる。お前は神様相手でもそれを言えるのかよ」
「はい。なんなら首でも取ってきましょうか?」
コンビニで買い物をしてくるような気軽さでとんでもない事を言う。
罰当たりな自信と美しさすら覚える傲慢さは正にアリステア・メアらしい言い分だ。
こうまで強気な態度に出られれば無碍にはできないだろう。その頼りがいのある相棒を前に渚もまた自分が望む未来を勝ち取ろうと決意する。
「たく、わかったよ。神様の首はいらない、代わりに手を貸して欲しい」
「承りました。──ともせず私、アリステア・メアが敗れる事など在りはしないと武力を以て証明しましょう」
たった二人の小さな陣営はこうして堕天使への武力介入を開始する。
●○
──欧州、教会本部ヴァチカン。
四大熾天使が描かれたステンドガラスに囲まれる広い一室にて、罪を暴くための儀式が行われていた。
罪人は年若いシスター。
裁判官は礼服を纏う年老いた神父。
それ以外にも多くの教会関係者が集っていた。
懺悔のように中央の証言台へ立つシスターを周囲の神父たちは忌々しく睨む。
そんな中で裁判長らしき老神父がシスターを見下ろしながら言う。
「罪人、アーシア・アルジェント。汝を主の名の下に刃にて浄殺する」
シスターの少女、アーシア・アルジェントは足を震わせながらも頷くしかなかった。
教会の教えに従い、神を崇めて生きてきた敬虔なるシスターは一つの正しい間違いを起こした。それは教会の主である神の敵対者、悪魔の救済である。生まれ持った癒しの神器──"
アーシアは治癒という分野で右に出る者はいない程のヒーラーである。教会は彼女の
教会の思惑はどうあれ懸命に人を助ける為だけに働き続けるアーシアは"聖女"とまで呼ばれるほど有名になった。
しかし"聖女の癒し"が怨敵に向けられた瞬間、アーシア・アルジェントの評価は反転する。
アーシアにしてみれば助けを
だが教会は彼女の優しさを強く
聖女の力が悪魔を救うなど信仰に陰りが生じる。そう考えてからの判断だろう。
信仰は教会とその上にある天界にとっても重要な意味を持ち、決して失われてならない。それを揺るがしたアーシアは非常に許しがたい罪を犯したと断じられたのだ。
こうしてアーシアの罪を問う異端審問が開かれる。審問に召集された彼女を待っていたのは複数の教会関係者たちによる激しい怒号と冷たい言葉により責め苦の嵐だ。審問とは形ばかりの心を犯す言葉の暴力に首が締まる錯覚に
そして今、判決が言い渡された。
刃により浄殺とは──斬首に他ならない。
反対する者はいない。死んで当然という総意がアーシアの精神を容赦なく叩き潰す。
声無き悪意にアーシアが倒れそうになる。
「
審問の場がどよめく中、
大きな手が泣きそうな少女の肩に置かれた。
威圧するような巨体さに対して優しい瞳だった。老人は周囲の者を見やると静かだが深く響いた声で席の中央に座る裁判長らしき男性に言う。
「審問中に失礼するぞ」
「ストラーダ猊下、
「弁護人がいないなぞ不公平だと思って参上した、早速だが言わせてもらうぞ? ──聖女アルジェントの力は"
「バカな! 幾ら貴方でも言葉が過ぎるぞ、猊下!!」
「私の信ずる神は慈悲深き方。我が信仰の光たる父はこう告げている。"敬虔なる者とて時には間違える、であれば一つの罪で魂まで捧げよとは酷であろう"とな」
一人の老人の言葉に場が飲まれる。彼はアーシアを擁護しながらも信徒として訴えているのだ。
「猊下はアーシア・アルジェントの罪を許せというのか……? 他の信徒たちはきっと納得しない、この娘が悪魔を助けた事実が知られれば信仰と共に教会は内部から崩壊するぞ」
「そうさな、ここがなくなれば多くが路頭をさまよい魔の者と戦う戦士も消える。民草も困るだろう」
ストラーダと呼ばれた老人が顎に手をやって考える。
「このヴァチカンから離れた辺境の地で暮らさせるのはどうだ?」
「……辺境、辺境か。ふ、いいだろう。……アーシア・アルジェント」
「は、はい!」
「赴任先は後ほど伝える、それまでは待機だ。──閉廷」
ストラーダの登場であっさりと異端審問が終わりを迎え、審問官たちが次々に去っていく。
異議がなかったのはストラーダという人物が教会内でも重要な位置に座する存在だからだろう。
最後に残されたアーシアは庇ってくれた老人に頭を下げる。初対面だが周囲の反応から、かなり偉い人物だとアーシアは思った。
「あ、あの、ありがとうござました」
「礼の必要はないぞ。確かに貴殿は教会の存続を揺るがす罪を犯した、しかし同時に教会のため真摯に働く姿も見てきたつもりだ。この程度しか出来ない老骨こそ許してほしい」
「命を救って頂いたのに、これ以上のご厚意はありません」
「ならば来た甲斐があった。癒しの聖女よ、ここを離れても健やかにな」
もう一度、深く礼をするアーシア。きっとこの恩は忘れないだろう。
後日、アーシアの移動先が決まった。
そこは聞いたこともない辺境の地。
日本の──駒王町という街だった。
●○
「ここにもいないか」
駒王町の外れ、人が滅多に通らないだろう山道にある廃屋で渚は警戒を解く。
山奥に建てられて屋敷から出て日の光を浴びる。
埃っぽくなった学校の制服を手で払い、駒王の地図を広げて次の行き先を考えた。既に多くのバツ印が書かれた地図を見て悩む。
天野 夕麻の捜索を始めて一週間たったが収穫はない。こういった普段は人が立ち寄らない場所こそ隠れ家には持ってこいだ。だから昨日の内に目星を付けて学校帰りに寄ったのだが空振りに終わった。
「結構、遠くまで来たんだけど無駄骨だな。こんな人里離れた場所に屋敷とか建てんなっつの」
渚がボロ屋敷の壁に背を預けて文句を垂れると茂みの中から私服姿のアリステアが現れる。念のため周囲を確認してもらったのだ。
「どうだった?」
「その屋敷以外で拠点に出来そうな場所はありません」
「そっか。色々回ったが見つからないな」
「こうまでして発見できないとなると高位の隠匿術を敷いていると見るべきですね」
「隠匿か。仕方ない、一度街に戻ろう」
樹木が茂る山を降りて舗装されたコンクリートの二車線道路に出る。
周囲が緑に囲われた道には歩道がないので脇を歩く。
ここから街の中心まで徒歩で二時間は掛かる。少し急ごうかとアリステアに言おうとした時だ。
視界の隅に"何か"が目に留まった。ボロボロに朽ちたバス停の時刻表を前かがみになって見つめる人影だ。
「シスターですね」
「あ、うん。シスターだな」
白いベールを被り、アタッシュケースを持ったシスター服の少女。
海外の人だろうかと思いつつ足を進める。
見るからに困っている様子だ。進行方向にいるので嫌でも近くを通る渚は臆しつつも声を掛ける事にした。
「何か、お困り事ですか?」
渚に気づいていなかったのか、シスターはビクリッと身体を強ばらせた。
恐る恐るといった感じで振り向く。
綺麗で大きな碧眼が渚を写す。垂れ目気味の瞳は穏やかで優しげな印象を与える。
しばらく見つめ合うこと数秒。
「Ti prego, aiutami!」
「え"」
シスターがペコペコと忙しなくお辞儀をしてきた。
急に何事かと思いつつ、聞きなれない言葉を前にたじろぐ。盲点だった、アリステアやリアスといった日本語が堪能な海外の面々と接し慣れたせいもあり、言語という絶壁があるのを失念していた。
とりあえずコミュニケーションをとろうと必死になる渚。
「まい ねいむ いず なぎさ あおい?」
「???」
あ、ダメだ、通じてねぇ。
そう直感すると背後から盛大なため息がした。言うまでもなくアリステアだ。
「翻訳術式を使ったらどうですか?」
「あ、ああ! あったな、そんなモン、よし」
ナイスなアドバイスを受けて異能を起こす。翻訳術は名の通り、あらゆる言語を術者の知る言語へ変える魔術だ。少し学べば拾得可能な初歩の術でもある。
術の影響でシスターの言葉が鮮明に翻訳された。
「あ、あの、私、道に迷ってしまって、不躾なお願いで申し訳ないのですが道を教えて頂けませんか? どうしましょう、言葉が通じてないです、はぅ」
ここでやっとシスターの目的を理解する。今にも泣き出しそうな必死さである。
「大丈夫、通じてる」
渚の言葉に目を丸くし、感激した様子で胸の前で手を組むシスター。
「主よ、この出会いに感謝を捧げます」
よく分からないが自分も捧げておこうとシスターの真似をするがアリステアに小突かれた。
「形だけの祈りなど捧げられても嬉しくないですよ」
「すまん、つい釣られて……。それで君はこんな場所でなぜ迷子になってるんだ?」
「私、実はヴァチカンからクオウという町に赴任することになったんですが、案内役の人が"ここまでしか行けない"と申しまして……」
それは案内人としてどうなのだろうと思う。
ここは駒王町とされているが距離的に外といってもいいだろう。しばらくは森に囲まれた山道が続き、人が居るところまでは一時間以上は歩く。土地勘の無い者を置いて行っていい場所ではない。
渚がそんな事を考えているとアリステアが急に腕を引っ張って耳打ちしてきた。
「ナギ、彼女という存在に違和感を感じます」
「違和感?」
「ヴァチカンと言えば教会の総本山です。そして駒王は悪魔の領地、つまり彼女にとっては敵地にも等しい。戦闘のプロであるエクソシストなら理解は出来ます。しかし、あのようなシスターが単独で派遣されるのはおかしいかと」
言われてみればそうだ。駒王に建てられた教会はずいぶん前から機能していないと聞く。建物自体はあるが殆ど廃墟状態だろう。
今更そんな場所にシスターが一人来たところで何も変わらない。というより下手をすれば悪魔にあっさり処断されるのがオチだ。
「いや、ああ見えても恐ろしく強いかもしれない。見た目だけで油断したらダメ……」
「お二人とも、どうしたのです──きゃう!」
シスターが自身のスカートを踏んで派手に転ぶ。立ち上がるが、その拍子に石ころを踏んで今度は背後にひっくり返る。長いスカートがめくれ、見えてはいけない布地を渚は見てしまった。──純白だった。
すぐ近くからゴミを見るようなアリステアの視線を感じてシスターから目を逸らす。
「はぅ、恥ずかしいです」
真っ赤になりがら慌ててスカートを直す純白少女。
「どうしよう、ステア。俺から見ても弱そうなイメージしか湧かない」
「実際、弱いでしょうねアレは。……あと不可抗力とはいえ対価は支払うべきかと、手ぐらい貸してあげたらどうですか?」
「な、なんのことかなー」
涙目で伏せる純白のシスターに渚が手を貸す。
「ほら、立てる?」
「ご、ごめんなさい、私、昔からドジで」
「大丈夫、それは立派なステータスだと思う」
可愛らしい外見でドジっ娘、そしてシスター。友人たちが知れば鼻息を荒くして悶絶する。実際、渚も彼女に萌えていた。薄ら寒いアリステアの視線が突き刺さるが努めて気にせずにシスターを立たせる。
「駒王に行きたいんだよな?」
「はい、行きたいです。あ、自己紹介が遅れました、私はアーシア・アルジェントと申します」
「蒼井 渚とこっちがアリステア・メアだ、よろしくアルジェントさん。じゃあ案内するよ。このバス停は機能してないから悪いけど歩きになる」
「そうだったのですか。では、よろしくお願いします」
アーシアを引き連れて歩き始める。
正直、本当に案内していいか悩ましかった。
駒王は現在、堕天使も暗躍しているため安全とは言いがたい。いや、かなり不味いタイミングでの来日だと言わざる得ない。
堕天使だけでなく天界関係者までも駒王へ来たとあれば間違いなく状況は混迷する。
「アーシア・アルジェント、質問があるのですがよろしいですか?」
「質問ですか? 私でよろしければお答えします」
急にアリステアがアーシアへ声を掛けた。
「駒王に教会関係者はいません。複数の人間が同時に赴任してくるなら理解はできますが貴方一人というのは些か奇妙とも言えます、どういった経緯でここへ?」
「あ、その、少し本部の方でミスをしてしまいまして……」
「お聞きしても?」
「ステア、
妙に事情を探ろうとするアリステアを渚が止めようとする。
「ナギ、このままでは彼女は死にます」
「え、わ、私、死ぬんですか?」
アーシアが困惑気味に足を止めた。いきなり死ぬと宣言されればそうもなる。当人ではない渚も初対面の子になんて事を言ってるんだと驚いてるくらいだ。
アリステアを平然とした態度でアーシアに胸元を指さす。
「アーシア・アルジェント、貴方は神器保有者ですね?」
「な、なぜ、その事を!?」
「体質です。ナギ、貴方も彼女に感じる何かがあるでしょう?」
「え、そうなのか?」
当然のように同意を求められても困る。渚は神器の気配など一切感じていないのだ。アリステアが「マジか、こいつ……」みたいな顔をする。読めて普通みたいな態度はやめろと言いたい。
毎度の事ながら自分に色々求めすぎな相棒だと渚は思った。
「……あなた方は一体」
小さな警戒心を持ったのか、アーシアは数歩だけ後ずさるも……「きゃ」っと可愛らしく叫んで背後に転倒する。どうやらまた
リプレイを見せられた気分になり渚は再びアーシアを起こす。
「俺らも一応ソッチ側なんだ……。人間だけど悪魔も天使も知ってる。けど君に危害を加えようとは思ってない、信じてくれないか?」
「信じたいです。でも死ぬと言われてしまったら……」
「ステア、キチンと説明してあげてくれ」
「最初からそのつもりです。まず貴方は駒王町がどういった場所か知っていますか?」
「いえ、ただ行けと言われたので来ました」
「それだけで思惑が透けて見えますね。理由は不明ですが、どうやら教会はアーシア・アルジェントを間接的に抹殺したいようです」
「そ、そんな筈は……!」
悲鳴にも似たアーシアの叫び。信じられないと顔に出ていた。
「ここは日本で唯一の悪魔領土です。そんな場所へヴァチカンに籍を置く非力なシスターが護衛もなしでやって来る。──私から言わせて貰えれば極刑にも等しい扱いですよ、これは」
「きょ、極刑……。審問官の方々が私を抹殺?」
フラッと
「自分がこんな扱いされる覚えはある?」
出来るだけ優しく渚は聞くと無言でコクリと
ポツポツと自分の身の上を話し始めるアーシア。渚とアリステアはただ耳を傾ける。
教会の信徒でありながら悪魔を助けてしまった事。異端審問に掛けられて処刑されそうになった事。一人の老人の弁護で死は免れたが駒王へ行かされる命令が下った事。
全てを話し終える頃には陽が傾き、空は赤く染まっていた。
「……災難だったな」
ありふれた言葉しか出てこない。
渚の率直の感想は
教会の為に身を粉にして働いた少女は一回の間違いで殺されそうになる。──いやアーシアの行いは渚からしてみれば善行だ。
「それで、これから貴方はどうするのですか?」
「教会に向かいます。私はシスターですから……」
こうまで酷い扱いを受けても信仰心を失わない精神は悲しいほどに鮮麗だ。彼女の進む道に救いはない、それでも神のためと自らを省みず
アーシアの深い信仰心に胸を打たれつつも、渚は危うさも感じる。
ともせず立場的に見捨てるべきなのだろう。渚は駒王町の平穏を取り戻すために戦うと決めた。そしてリアスや一誠の為に茨の道を選んだ。これ以上は望みすぎだと分かりつつも純心な少女を切り捨てる事が出来ない。
「……ステア」
「分かっています、そうなると思ってましたよ」
嘆息する白雪の相棒。
渚の考えなどお見通しだと言わんばかりだ。本当に善い相棒である。二人の会話に付いていけないアーシアを渚は真っ直ぐ見つめた。
「俺は君を助けたくなった」
「助けるですか? どうして?」
「いつもの事ですよ、余計なお節介を焼いて自己満足に浸るはナギの得意技の一つです」
「自分も相手も損をしないワガママって素敵だろ?」
「よく言いますね、全く」
言葉は辛辣だが満更でもない様子のアリステア。きっと彼女なりにアーシアに思うところがあるのかもしれない。
「……というわけでアーシア。──悪魔は嫌い?」
「あ、悪魔ですか? 嫌いというよりも怖いです。昔から狡猾で残虐と教わってましたから」
それでも助けてしまうのは彼女が本当に優しい娘だからだろう。渚の決心が更に堅くなる。
「じゃあ今から怖くない悪魔を紹介するよ。悪いけど少し付き合ってくれ」
こうして渚はやや強引にアーシアを引っ張って行く。
目指すは教会でなく駒王学園。
リアス・グレモリーにヴァチカンのシスターを紹介する為に……。
猊下を早く出したかった私なのでした。
早く参戦させたいです。