旧ルシファー領、東の果て──。
そこには"ルオゾール大森林"と呼ばれる広大な樹海がある。冥界で最も古い森でありながら、その探索領域は10分の1にも届いていない未開の地だ。
旧ルシファーがまだ政権を握っていた時代に大規模な調査隊が何度も派遣されたが帰還した者は数えきれる程しかいない。
ただ生存者は語る。
──あの森は冥界であって冥界ではない、と。
●○
「んで、その"ルオゾール大森林"にやってきた訳だが……」
渚は荒地と森の境界線に立っていた。
背後は乾いた大地、正面は青々と覆い茂る自然。なんとも差のある光景たちだ。
ピスティスと"蒼"を頼りに半日掛かけてルシファー領の避難場所である"ルオゾール大森林"へやって来た理由は下見だ。ここは今後の戦況によっては重要な場所となる。だから自分の目でどんな所なのかを見ておきたかった。
シアウィンクスからは案内人を付けると押されたが人員に余裕がないので単独で行動させて貰っている。ただ先方には渚が来ることだけを
「行くか」
木々の間をひょいひょいと奥へ進む。
渚は移動する中でこの森の異常性を知る。魔力濃度が濃すぎて探知が意味を為さないのだ。森に漂う魔素が魔力を隠してしまっている。
これでは得意の気配察知も役に立たない。
取り敢えず、勘を頼りに歩き続ける。
「しかも木がデカイな」
入口辺りは普通のサイズだが少し入れば大樹と呼ばれても不思議はない木々が空を隠していた。これでは上から捜すのは無理である。しかも森と言うのは似たような風景が続くので方向感覚が鈍る。これ以上、闇雲に歩くのは危険だと判断して裏技を使う。
「ティス、ルシファー領の避難民を見つけられそうか?」
『問題ない。魔力ではなく生命力を追う。……発見した、ここから
「流石、頼りになる」
『テレた』
なんとも可愛らしい返しである。
そうして一時間ほど行った辺りで魔素に紛れる微弱な悪魔の気配を感じた。
それを追っていると槍に似た棒が一定感覚で刺さっている区域を見つけた。恐らくアレが魔物用の結界なのだろう。数十メートルおきに刺さる鋭い棒の間は見えない壁があるようで進めない。
渚は棒の位置を沿うように移動する。
「あ、いたいた」
何個目かの棒を越した先に何人かの人影を発見する。
どうやら見張りをしているようだ。渚は隠れる理由もないので堂々と姿を
「何者だ!」
「用事があって首都から来た者なんですが何か聞いてませんか?」
「来客があるのは聞き及んでいる。名前と事前に渡された書状を拝見したい」
「蒼井 渚です、あとこれが書状になります」
言われた通りにシアウィンクスから預かった直筆と印章の入った書状を見せる。
「確かに。先程は無礼を働きました」
「仕事ですから仕方ないですよ」
見張りが待機していた兵に指示を出すと結界の一部を解いて中へ招く。
「ようこそ、この先をまっすぐ進んで下さい。貴方の訪問が良き物になるよう願っております」
渚は挨拶もそこそこにして目的地へ辿り着く。
そこは森の表層と中層の間を開拓して作られたコロニーだった。首都から避難した悪魔達が森の中で助け合って一つの集落を作っているのだろう。足りない物資に不便な環境。それでも懸命に生きようとする営みがあった。
渚は活気に吸い寄せられるようにコロニーへ足を進めた。
「アンタ、新顔かい?」
コロニーを見渡していると声を掛けられた。
渚が振り返ると
「あなたは?」
「アチキかい? アチキはカナリアって言う料理人さ! アンタは首都の子じゃないね。襲われた村からの難民って感じでもない」
「流れ者という意味では間違って無いですよ。偶然、領土争いに巻き込まれて、ルシファー領の人達からここに避難地域があると聞いてきました」
「災難だね。アンタみたいな子は……食べな!」
カナリアは持っていた篭からパンを取り出すと次々と渡される。
いや、いきなり、何? って多い多い!
手には溢れんばかりのパンが乗せられ胸を使って抱える形になる。
慌てる渚にカナリアは満足げだ。近所の気の良いおばちゃんみたいな人だ。
「お腹が空いたら、いつでもアチキのトコに来な。大体はアッチの屋台にいるからね」
人だかりのある場所を指すカナリア。
屋台の前には簡易テーブルと椅子が並び、客らしき人たちが飲み食いしていた。新参感丸出しの渚を気に掛けてくれたみたいだが店の方は大丈夫なのだろうか。
そんな渚の心配は客たちの「また始まったよ」なんて言う笑いで消える。カナリアが人に世話を焼くのは毎回恒例のようだ。
「なんと言いますか、ありがとうございます?」
「いいよいいよ。宿は決まってるかい?」
「大丈夫です。知り合いのツレがここにいるんで」
「そうかい。じゃアチキは店に戻るよ」
体格とは裏腹に軽やかに屋台へ戻るカナリア。
「いい人たちなんだろうな」
渚はパンを抱え込んだまま歩く。
周囲の人から視線を感じる。
そりゃそうだ。物資が不足してる
ふとこちらを特に強く見つめる集団がいた。全員が子供で年齢もバラバラだ。しかも誰一人として笑わず無表情である。
「あれは……」
渚は、多分
いきなり寄ってきた大人(高校生)から逃げようとする子供達だったが呼び止める。
「食べるの手伝ってくれないか?」
出来る限りの笑顔で提案する。
やはり子供たちは心を開かず警戒してくる。
パンは欲しいが渚は信用できない、そんな感じだった。
めげずに近くにいた少年へパンを一つ渡す。
「誰か助けてくれないかなぁ。重くてたいへんだなぁ」
わざとらしく言うと子供たちは渚からパンを奪っていった。感謝はないが警戒は解けたようで渚を見ずに夢中でパンを食べる子供たち。
けれどその目は暗い。
やはり、この子たちは……。
「この子たちは孤児なんですよ~」
渚の疑問が明確になる。
答えをくれたのは、おっとりとした声だ。
振り向けば
「(……ん?)」
アルンフィルを
動き難そうだがメイドは穏やかな笑みを浮かべて子供たちを一人一人の頭を丁寧に撫でた。
「怖い目に合って心に傷が残ってるのです」
「バアルの仕業ですね」
「はい、この子たちはバアルに襲われた町や村からの避難者なのでございます」
余程、酷いものを見てきたのだろう。
本来なら喜怒哀楽が激しい年頃なのに一切の感情が抜け落ちている。
子供たちを見ている渚にメイドが微笑む。
「初めまして、蒼井 渚さん。私はアルンフィル、シアウィンクス・ルシファーに仕えるメイドです。首都では色々と世話になったようで、その節は感謝に絶えません」
「こうなったのは成り行きです。だからそんな畏まらないでください」
「うふふ、聞いた通りの方ですね~」
なんて話したんだ、シアウィンクスは……。
渚は妙なことを吹き込んでないかを一瞬疑うもシアウィンクスがするわけないなと改める。
「話をしたいんだけど良いですか?」
「はぁい。みんな~、私はこのお兄さんとお話があるからまた後でね~」
アルンフィルが言うや子供たちは名残惜しそうにメイド服から手を放す。
「ごめんな、皆のお姉ちゃんを少しだけ貸してくれ」
渚が謝ると子供たちが黙って頷く。
献上したパンが効いてるようだ。しかし子供たちが頬張るカナリアのパンはとても旨そうだ。一つくらいは食べておけば良かったと思う。
そんな渚の袖が引っ張られた。最初にパンをあげた少年がパンを半分に千切って差し出してくる。
「くれるのか?」
「ん」
断ろうとしたがタイミング悪く腹が鳴る。
子供たちが一斉に渚を見た。
気恥ずかしさを誤魔化すためにパンを受け取って食べた。
「(これは美味い)」
あまりの美味さに目を剥く。
それが面白かったのか、他の子供たちも千切ったパンをどんどん渡してくる。
渚は「君らが食べな」と断りを入れてアルンフィルを追うが、子供たちは普通に付いて来る。意地でも食べさせるという気概すら伝わってきた。やってることは逆だが、まるで親鳥の後を追う雛鳥達である。
「あららぁ。随分と好かれちゃいましたね~」
渚への餌付けはアルンフィルの天幕まで続くのだった。
○●
アルンフィルの天幕は自室というより軍議室に近かった。一際目立つ大きな立て掛けボードには周辺地図が張られていて点在する町や村に×マークやら○マークが付けられている。これは今も無事かどうかの印なのだろう。渚が考えていたより×が多く顔を歪める。
「お茶を入れましたから、どうぞ~」
「ありがとうございます」
渚はカップを受け取り、紅茶に口をつける。
茶葉の良し悪しは分からないが癖がなく飲みやすい。
「本題に入る前に少しだけ伺いたいことがあります」
「答えられる事なら幾らでも答えますよ」
アルンフィルから穏やかな雰囲気が消えた。
お日様のようにポカポカしていた表情は冷徹な悪魔のように冷たくなる
随分と風変わりする女性だと驚く。
「渚さんはシアの英雄召喚に巻き込まれたと聞いています。現状を理解している前提でお話して宜しいですか?」
「はい」
アルンフィルは「では」と前置きをして喋りだす。
「この戦い、ルシファー領に真の意味での勝利は有り得ません。例え憎き相手と言えどバアルは潰せない……いえ潰したらいけない。長い歴史と多くの人脈を持つ大王は新参魔王より強い影響力を持つ。今の政権の舵取りはバアルがいるからこそ上手くいっている。もしもそれが無くなればクーデターへの足掛かりになるでしょう。言うなれば我々は冥界全土の敵となっているのです」
全体の事を考えれば渚たちは勝ってはいけない。
バアル打倒は冥界の混迷を招き、最悪魔王に取って変わろうとする輩も現れる。現魔王が簡単に落ちると思わないが、その過程で多くの被害は出るだろう。
それは種の存亡が危ぶまれる悪魔たちにとって由々しき事態となる。
「だからこそ問わせて頂きます。あなたは……いえ、
シアウィンクスの為に悪になる覚悟はあるのか?
アルンフィルはそう問うてきた。
迷いがないと言えば嘘になる。アルンフィルの言った言葉を
しかし情に厚く、人のために動けるシアウィンクスが不幸に会うのは見過ごせない。
悪と言われても仕方ない利己的な行動かもしれない。けれど他人ではなく自分がそうあるべきと思った正しさで渚は動きたいのだ。
リアス・グレモリー、兵藤 一誠、姫島 朱乃、木場 祐斗、塔城 小猫、アーシア・アルジェント、そして千叉 譲刃にアリステア・メア。ここにはいない大事な仲間は渚の行動を知ったら「余計な事に首を突っ込んでる」と呆れるかもしれない。
しかし間違いなく背中を押してくれる。そんな連中だと信じているからここにいる。
「戦います。今のバアルにシアを渡したくありません。俺は冥界全体よりも、この領土に住む人たちを取る。それを脅かすなら大王だろうと戦ってやりますよ」
この状況で無関心を通せるほど大人じゃない。だから、やれることはやっておきたい。理由としては弱いかもしれないが紛れもない本心だ。
渚の言葉を聞いたアルンフィルが目の前に寄ってくる。何を言われても不動を貫こうと彼女の言葉を待った。
「きゃ──♪ カッコいい──!」
「!!!!!!?????」
黄色い声で渚の背中に手を回すアルンフィル。
あまりにも突然な動きに渚の思考は混乱した。
アルンフィルは隙だらけな渚の後頭部を掴むと、その大ボリュームな胸に渚を埋めて頭に
「わしゃわしゃ~♪」
「こばばばばっ!!!!!」
……息が出来ない。
ヤバい、胸の中で窒息とか笑い話にもならん。こんなのは一誠の死に方だ。
振りほどこうと足掻くが想像したよりも力が強い。
そんな細い腕でなんつう力だよ!?
渚は変死を避けるため"蒼"を起動させようか本気で迷う。
「……あなたがシアちゃんの側に来てくれて本当に救われたわ」
アルンフィルが大人びた声で囁くとパッと解放される。
後ろによろめきながら足りなかった酸素を懸命に補充する渚。アルンフィルはそんな渚を満足したような顔で眺めていた。
恨めしそうに睨むが彼女は笑顔で受け流す。
「にこにこ」
「何がにこにこですか……」
「じゃあ、にまにま?」
「もう良いです、本題に入りましょう」
真面目だったり不真面目だったり、何かと読めないメイドだと諦めて話題を切り替える。
渚は立て掛けボードに張り付けてある地図の前へ移動する。
「今回の一件、俺は魔王に相談すべきだと思っています」
「魔王に? 助けてくれますかね?」
呆気らかんに答えるアルンフィル。シアウィンクス程に魔王を警戒した様子はない。
「このまま戦いを続けるのは不可能です。物量差が有り過ぎて押し潰されます。……かと言って逃げ回るのも無理がある。シア一人ならなんとかしますが、彼女は領民を見捨てられない」
「そうですね~。しかし旧ルシファー領土から新政権の本拠までは距離があります」
アルンフィルが棚から一枚の地図を出すとテーブルに広げた。冥界の世界地図だ。広さは地球と同じぐらいと聞くが海というものが存在しないので陸地の割合が断然大きい。
「旧ルシファー領土はここです。そして新政権の本拠であるリリスは~」
すぅーっと指が世界を横断する。
「この辺りです」
「本当に遠いですね」
見た感じ日本からアメリカぐらいの距離はある。
歩いて行ったら一ヶ月や二ヶ月でも足りない。
「それに周辺領土はバアルに付いています。一度、私個人で抜け出せる穴がないか調べに行きましたが、
アルンフィルは世界地図からルシファー領土の地図へ視線を向けるや、ペンを突き立てて北、西、南に順に×マークを着けた。
渚はジッと旧ルシファー領土の地図を見つめる。
「やっぱりこれしか無いよな」
『肯定。想定通り』
ピスティスの頷きを聞いた渚はテーブルに転がる赤いペンを取って東側に○を付けてそのまま真っ直ぐに線を引いた。これはここに来る前にピスティスと相談して出した案だ。
それを見たアルンフィルが目を見開く。
「渚さん、あなたはまさか……」
「はい。俺たちはこの"ルオゾール大森林"を踏破して、その先にあるフェニックス領を目指します」
渚が引いた線は前人未踏の地を横断していた。
○●
──"ルオゾール大森林"を越えようと思う。
渚が出した突拍子もない案は大いにルフェイたちを揉めさせた。
"ルオゾール大森林"は旧ルシファー領とフェニックス領を跨ぐように存在する太古の樹海だ。
冥界でも魔境と呼ばれるほどの禁止区域であり、その中心部までの踏破率はゼロという驚異的な危険度を誇る。
「"ルオゾール大森林"……」
そこは魔法使いなら一度は聞いた事のある冥界屈指の魔力密度を誇る樹海だ。
ルフェイとて魔法使いの端くれ、興味は大いにある。
太古から存在する未踏区域には未だ発見されてない薬草や生物が生息していて、それらは新たな霊薬や魔法の開発にも繋がる代物だ。
しかし異様に濃い魔素で満ちた"ルオゾール"は外とは隔絶した環境を持ち、独自の生態系で成り立っている。異常総量の魔力に適応した動植物は劇的なまでに姿を変異させて生命の系譜すら嘲笑う進化を遂げるからだ。嘘か誠か魔王に匹敵するだろう怪物の噂もある。
どうあれ未知なる危険とは対処がとても難しい。
そんな場所を横断しようとしているのだから普通に考えれば余りにも荒唐無稽だ。
しかも
最早、恒例と化しつつある兵舎での会議室でルフェイを含めた4人が頭を悩ませていた。
「流石にアルンフィルも賛成しねぇだろ。俺は表層に民を隠してる今でも不安でならねぇってのによぉ!」
「そうだねぇ。前回の調査隊は全滅、その前は300人中の2人しか帰って来なかった。あそこは不味いさね」
否定的な意見はカルクスとククルからだ。
年の功から"ルオゾール大森林"の危険性を知ってるゆえの判断だろう。シアウィンクスは何やら考え込んでいる様子で口を開く様子はない。
「しかし一度は敗退したバアル軍は次こそ本気で攻めてきます」
今までの侵攻は荒さがあったから生き延びられた。
バアルは何処かゲーム感覚でルシファー領を襲っていたとルフェイは考えている。
でも今度からは違う。
ルシファー領は明確な敵意を以てバアルの軍隊を潰した。これは負ける筈のない戦いでの敗北であり屈辱を舐めさせられたに等しい行為だ。
必ず本腰を入れて攻めてくる。十万もしかしたら二十万かもしれない。多分、次の軍勢は渚一人では全てを相手取れない。
「(少し未来を計算してみましょう)」
ルフェイは瞑想しながら最適解を探すため
人、物、事象、あらゆる出来事を自らの脳内宇宙に散りばめた高速思考によるシュミレーションは直ぐ様、35通りの選択肢を瞬時に立ち上げた。
一つ一つ試していく。
バアルと正面から挑み全滅。西の領土を攻めるが全滅。北の領土に奇襲を掛けるも全滅。南を懐柔しようとするが全滅。全滅全滅全滅全滅全滅全滅全滅滅滅滅滅滅滅滅!!!!!!
「────ッ」
似たような状況で違う選択を取っても結果は変わらない。それが運命だと言われてる気がして胸が締め付けられる。
失敗に失敗を重ねたルフェイは意気消沈させた心持ちで渚の考えた36通り目の選択を試してみた。
──第36ーA、魔法演算スタート。
舞台は一見変わって"ルオゾール大森林"。
すぐに死者が出た、けど終わらない。
更に死者が増えた、それでも生き残りはいる。
生存者がどんどん消えていく。かなりの速さだ。
これもダメかと諦めかけた。
「……え?」
思わず魔法と瞑想を解いてしまった。
多くの死者こそ出したたが、それでも助かったのだ。比率は全体の0.35%程度に過ぎないが初めて全滅以外の結末を迎えるルフェイは慌てて同じ状況で再演算を開始した。
──第36ーB、魔法演算スタート。
次は0.6%の命を救えた。
そこから繰り返す。何度も何度も隔絶された思考の宇宙で"ルオゾール大森林"に挑み続けた。
何百何千とリトライした結果、最終的に生存率を40%まであげられた。0%に比べたら快挙とも言える数字だ。現実がシュミレーションとは違うのは自覚している。"ルオゾール大森林"は未開の地だ。ルフェイの予知演算も完璧ではない。なのでより一層の危険も充分にあり得る。
たがルフェイの案では助からなかった命を渚は助けた。魔法使いは合理的でなければならない。だからルフェイはシアウィンクスに振り返る。
「シアさま、渚さまの案で行きましょう。それ以外は全滅です」
「……そうね。あたしもそう思うわ」
シアウィンクスが賛同する。
その意外な答えにカルクスとククルは唖然としていた。
「ちょっと待てよ、お嬢。あの"ルオゾール大森林"だぞ? 踏破した奴はいねぇ魔境に挑むのかよ」
「みすみす死にに行くようなもんさね。そんな無謀に挑むよりはバアルの奴等を一人でも道連れにしたいね」
シアウィンクスはそんな二人を睨み付けて黙らせる。
あまりに迫力のある姿にルフェイも息を呑んだ。
そして座っていた椅子から悠然と腰をあげる。
「どうせ負けたら皆は殺される。ならあたしも命を賭けるわ。カルクス、ククル、死ぬのならあたしと一緒に死になさい。アルンフィルの説得はこっちがする。カルクスは兵と馬を率いて周辺の村や町を周りなさい、生き残りに事情の説明をして参加させるの。ククルは武器や食料の確保よ。悔しいけど領地は捨て置くわ。必要になりそうな物を優先しなさい。……超えるわよ、あの"ルオゾール"という未踏の魔物を!」
完全に場の支配者となったシアウィンクス。
魔王としての彼女の姿にカルクスとククルは歓喜したように唇を噛んで腹を決めた。
「ち、しょうがねぇのぉ! この歳になって伝説を作るたぁ、なかなか長生きはするもんだわな! え? ククル婆」
「何をイキッとるのさ、若造。だがやるからには為して見せるさね!」
「バアルは直ぐに動くわ。時間との闘いになる、急ぐわよ」
「応よ!」
「おうさ」
カルクスとククルが威勢良く部屋を出ていく。
それを見送ったシアウィンクスはフラッと身体を揺らして倒れ込む。ルフェイは慌てながらもしっかりと支えた。全身を奮わせて冷たい汗を流すシアウィンクス。
「ルフェイ、あたしやっちゃったよ。あんな危険地帯に沢山の人を行かせようとしてる」
綺麗な桜色の唇を青くさせて声を震わせるシアウィンクスにルフェイは抱きついた。
そして胸の鼓動を聞かせてあげる。
心臓の音に人を安心させる効果があるのは生きている命を近くに感じられるからだ。
未だ見ぬ死を、今ある生で優しく包む。
冷たくなったシアウィンクスを暖めるように寄り添うルフェイ。
「英断でした。きっと渚さまも褒めてくれます」
「そうかな」
「きっとそうです」
「ありがと、ルフェイ。あなたの鼓動、安心する」
キュッと更に締め付ける。弱いのに強くあろうとする王はなんとも美しくも儚い。少しでも不安を溶かせるよう柔らかに語り掛ける。
「渚さまが言ったように、余りご自分を責めないで下さい」
「……誰もあたしを責めないからクセになってるの。周りが優し過ぎるのも辛い時がある」
「なら私がシアさまに厳しくします」
「ほんと?」
「はい。それはもうキビキビしてしまいます!」
「うふふ、何それ。でも良かった。あたしをちゃんと叱ってくれる人がいて……」
「渚さまもキチンと叱ってくれます」
「そうかな、魔王の血筋だからって遠慮しないかな」
「バアル家にケンカを売る御仁ですから大丈夫ですよ!」
小さな暖かさが部屋に満ちる。
シアウィンクスはルフェイに短く感謝を伝えるとゆっくり離れた。その顔に最早不安はない。
「面倒な女でしょ?」
「そうですね」
「手厳しい子になった」
「だめですか?」
「いいえ、悪くない。ルフェイ、多くの命を助けるわ。だから手伝って」
決意を以て堂々と言うシアウィンクス・ルシファーにルフェイ・ペンドラゴンは礼を尽くす。
「
誤字を修正しました。