ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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誤字を修正しました。



目指すべき場所《Turning Point》

 

 ──蒼井 渚によりガイナンゼ・バアルの軍勢が瓦解した時とほぼ同時刻。

 

「アーサー、感じたか?」

「えぇ。微細ですが力の波動を感じました。かなり遠くからのようですが大規模な戦闘があったのは確実です」

 

 荒れた広野で語るは、ヴァーリ・ルシファーとアーサー・ペンドラゴン。二人は同じ方向を見ていた。一見して何もない場所だが、その遥か彼方には目指すべき旧ルシファー領土が存在する。

 

「黒歌の怪しげな占いも役に立つ。彼女の言った通りだ、ルフェイ・ペンドラゴンは間違いなく旧ルシファー領土にいる」

「早計では? 今の力はルフェイとは関係ない。どうして貴方は確信を持って言えるのですか?」

 

 その質問にヴァーリは笑みを浮かべた。

 

「この波動は間違いなく蒼井 渚のモノだ。直接受けたことがあるから間違いない」

 

 アーサーが興味深そうに眼鏡をクイッと直す。

 

「貴方程の人が敗北を(きっ)したという方ですね」

「ああ、いつかリベンジマッチをさせてもらう人間さ。しかもアザゼルからの情報で彼は今、強制召喚により行方不明らしい。奇しくもアーサーの妹と同じと言うわけだ」

「成る程。ルフェイは強制召喚により行方を(くら)ませた。ならば同じ場所にいる可能性が高い」

「最近起こっている誘拐騒ぎは悪魔絡みという黒歌の読みも正しかったようだ」

「彼女には礼をしなければなりませんね、紹介してくれた貴方にも……」

「キミの妹の捜索と救助が俺のチームに入る条件だ。お互いにフェアな契約さ」

「契約ですか。悪魔らしい言葉です」

「お気に召さないかい?」

「いいえ。冥界に来る手段がない私にとっては益のある契約ですよ」

「俺もこんな形で里帰りするとは思わなかった」

 

 肩を竦めるヴァーリにアーサーは問いかける、

 

「貴方はその力ゆえに旧ルシファー領土から追われたと聞きます。今さら戻って大丈夫なのですか?」

「それこそ今さらだ。俺はルシファーと言う名を誇りに思っていない。魔王ではなく白龍皇として生きると決めているからね」

「フッ、無用な問答でした」

「知り合ったばかりだ、無用なんて思わないさ。それよりも急ぐか? 妹が行方不明となって一ヶ月は経っているのだろう?」

「いいえ。あの子は聡明で魔法の実力も高い。慌てる必要はないでしょう」

 

 冷静さを崩さないアーサーだったが、その足取りは先程より速かったのをヴァーリは見逃さなかった。なんだかんだで妹が心配なのだろう。

 

「俺も異母姉(あね)に会うのだが、果たしてどうなることやら」

 

 ヴァーリとしては微妙な心境だ。

 異母姉は失踪した父と祖母に代わり、旧ルシファーを支えているという。領土について秘密裏に調べた所、領民からは好かれているそうだ。

 恐らく母側に似たのだろう。

 ヴァーリが知る限り父と祖父の性格は最悪だ。傲慢かつ卑劣で弱者を痛ぶる事で愉悦に(ひた)る悪魔らしい悪魔、他者など自らの踏み台としか考えていない生粋の下劣。そんな奴が領民から支持を得られるわけがない。ヴァーリも幼少期は随分と可愛がられたものだ。出会えば殺してしまうほどの借りがある。

 異母姉に会ってしまったら自分はどうするのだろうか? 

 温室で育った彼女を恨むかもしれないし、案外どうとも思わない事もあり得る。

 

「どうしました、ヴァーリ?」

 

 歩みを止めていたヴァーリが首を振った。

 

「いや、気にしないでくれ。どうやら会えるのを楽しみにしていたようだ」

 

 シアウィンクスだけではない。その背後に見え隠れする蒼井 渚もだ。

 旧ルシファー領で彼が既に暴れていると言うことに争いの予感がしてならない。

 ヴァーリは戦いの予感に胸を踊らせながらアーサーに追い付くのだった。

 

 

 

 

 ●◯

 

 

 

 

 蒼井 渚によりガイナンゼ・バアルの軍勢が瓦解した翌日。

 

 ──バアル城。

 

 白い玉座の前にはバアルの兄弟たちが集っていた。

 バアル家当主である大王は玉座の隣に立つ補佐を見る。

 そこにいるのは妙齢の女性だ。漆黒のドレスを着こなし素顔をベールで隠した冷たい雰囲気を纏う彼女は開いた扇子で口辺りを隠しながらバアルの兄弟達を見下ろす。

 

「ガイナンゼ」

「ハッ」

 

 女性に呼ばれ、頭を深く下げる。

 

「旧ルシファー領に送った兵が全滅した事に対する弁明は?」

「ありません」

「……だ、そうですよ。大王」

「う、うむ。しかしガイナンゼは怪我を負って療養していたのだろう? 聞けば副官も置いて来たらしいではないか。レギーナ、そう責めることもあるまい?」

 

 宰相(さいしょう)の顔を色を窺うような姿はバアルが誇る大王としては頼り無さが目立つ。

 だが4人の息子は馴れた様子で何も言わない。

 この男は無能ではないが決定能力に欠けており、誰かに意見を求めてしまう癖があるのだ。今も隣に立つ宰相(さいしょう)、レギーナ・ティラウヌスの顔を気にしている始末だ。

 

「なりません、大王。部隊の失態は指揮官の責任。副官に指揮を預けていたとは言え、トップはガイナンゼです」

「療養しながら女遊びしてたしねぇ」

「……」

 

 エルンストがニヤニヤと笑いながらガイナンゼを見るが巌のような顔は瞑目するだけで何も言わない。ここで争うつもりはないようだ。

 

「ノリが悪いなぁ。いつもみたいに『黙れ、殺すぞ』くらい言いなよ、寂しくて泣いちゃうぞぉ」

「御前だ。見苦しい真似はせん」

「ガイナンゼの言う通りだ。エルンスト、ここは悪ふざけをする場ではないぞ」

「サイラオーグ兄さんはガイナンゼ兄さんの味方かぁ」

「エルンスト。あまり軽口は……」

「えぇ~マグダランもぉ。随分と嫌われちゃったね、因みに"兄上"を忘れてないかい。無礼な弟は粛清するよ?」

 

 緩やかな"滅び"の気配にサイラオーグがエルンストを鋭い視線で射抜く。

 

「マグダランに何をする気だ」

「何って、そりゃあ、ね?」

「やめろ」

「なんでサイラオーグ兄さんが止めるのさ? これは僕とマグダランの問題だ」

「兄だからだ」

「……無能が」

 

 黙っていたガイナンゼが小さく呟く。その顔には苛立ちが含まれていた。サイラオーグはガイナンゼの悪態を聞いても凜然と胸を張る。

 

「それでも兄だ」

「ふん」

 

 だからなんだ、と鼻で笑いながらガイナンゼは控えた。サイラオーグと無駄な口論をして場を乱したくないからだ。バアル兄弟で最も粗暴な彼こそが、この場では一番大人の対応を見せた。

 

「サイラオーグ、過度な干渉はやめて頂きたい」

 

 マグダランはサイラオーグに目を合わせずハッキリと答える。

 

「だがエルンストは──」

「貴方に庇われる方が屈辱だ」

「ふふふ。"滅び"を持たないサイラオーグ兄さんは次期大王の椅子をマグダランを倒して用意させたからね。そのお陰でマグダランは誰よりも大王から遠くなった。可哀想だよ、実にね」

 

 クスクスと小馬鹿にするエルンストにサイラオーグが顔を歪めた。大王になるための素質がなかったサイラオーグは"滅び"とは違う力を誇示する必要があった。だからマグダランと御前試合を行い、打ち勝ってこの継承者争いに参戦した過去を持つ。マグダランが嫌いなわけではない。しかし大王という称号を得るためには倒さなければならなかった。結果、マグダランがバアルに相応しくないと(かろ)んじられようともだ。

 

「サイラオーグ、貴方は後からやって来てバアルの内情を踏み荒らしている。俺は貴方が嫌いだ、あの時の試合がエルンストやガイナンゼだった方が遥かに救われたと思う。例え殺されていたとしても」

「……マグダラン」

「ふっ」

「無能と低能は苦労するね」

 

 ガイナンゼが口で弧を描き、エルンストが笑顔で貶す。

 

「いつまで、その無駄話を続ける気だ?」

 

 レギーナがパンっと扇子を閉じると兄妹達を黙らせる。

 漆黒のベールの奥に隠されたその瞳から冷たく重い重圧が放たれる。レギーナは女性でありながら、この場の誰よりも巨大な圧力で場を支配していた。

 バアルの大王もレギーナの剣呑さに身体を小さく震わせていた。

 

「ガイナンゼ、もう一度だけ聞こう。バアルの軍勢を無駄にした貴方はどう責任を取るつもりか?」

「旧ルシファー領の侵攻は私が始め事。必ずやシアウィンクス・ルシファーは物にします」

「だから兵を貸せ、と?」

「私の私兵の半数は死んだようなので」

「継承者争いに大王の威光を借りるのは容認できないと考えないのか?」

「一人で行けと言うのならそうします。しかし我が軍勢を滅ぼす程の力が旧ルシファー側にあるならば念には念を押しておきたくあります」

「確かにそれは懸念材料か。ガイナンゼ、貴方に兵を貸し与えよう。大王、宜しいですね?」

「う、うむ。レギーナが言うのならそうせよ」

 

 その言葉にサイラオーグとマグダランが眉を潜めて、エルンストがバレない程度に肩を竦める。大王が宰相に決定権を委ねている様子に思うところがあるのだろう。

 だがガイナンゼだけは、不気味なほどになんの感情も見せない。ただレギーナへ向けてこう言った。

 

「それで私は何を差し出せば宜しいので?」

「では戦況と戦力を見謝った眼を捧げなさい」

「分かりました」

 

 余りにも自然な流れでの不自然な会話。

 ガイナンゼは迷う素振りもなく片目に指を突き入れた。ブチブチと眼球を抜き出すと繋がる視神経を引き千切る。眼孔から真っ赤な血が流れて顔の半分を染めた。

 

「……これを」

 

 大王とレギーナに光を失った眼球を差し出す。

 余りの光景に誰もが驚いている。

 サイラオーグは表には出さないが内心で……。

 エルンストはサプライズを用意された子供のように。

 マグダランは顔を畏怖と驚愕を隠せずに目を見開いている。

 大王もまたマグダランと同様だ。

 しかしレギーナだけは何一つ変わらずガイナンゼに歩みより眼球を受け取る。

 

「確かに。対価を払った以上は私から言うことは何もないでしょう」

「ハッ」

 

 カツカツと靴を鳴らしながら大王の隣に戻るレギーナ。

 

「大王、次の議題を」

「が、ガイナンゼの治療を──」

「人間ではあるまいし、あの程度なら1日放っておいても死にません。これはバアルに恥を掻かせたガイナンゼへの罰でもあるのです。さてエルンスト、例の件を話しなさい」

 

 大王すら意に介さず話を続けるレギーナ。

 ガイナンゼも大人しく従っている異様な光景。

 この場を支配しているのはバアルではなく美しくも恐ろしいレギーナ・ティラウヌス。彼女こそ大王すら逆らわない女帝なのだ。

 そんな彼女を強く見つめるサイラオーグ・バアル。

 まるで挑むような目付きに気づいたレギーナは扇子を広げて口元を隠す。その唇は細く笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 ●◯

 

 

 

 

 大王への謁見が終わってからレギーナはバアル城の自室で資料にまとめていた。

 机の上にある膨大な用紙に目を通しては羽ペンで修正を入れてかなりの速度で仕分けしていく。こうして見ると宰相として優秀である。

 ふと、その手がピタリと止まる。

 

「入りなさい」

 

 そう言うと扉が開いて顔に包帯を巻いたガイナンゼが現れる。

 

「何をしに来た。貴方には旧ルシファー領を落とす準備があるでしょう?」 

 

 机の上で手を組むレギーナにガイナンゼが歩み寄ると片膝を突いた。

 

「此度の件、誠に申し訳ありません」

 

 誠心誠意の謝罪だ。

 傲慢な彼を知っている者がいたら驚愕に(おのの)く姿だ。

 レギーナは静かに席を離れると(ひざまず)くガイナンゼを立たせた。

 

「何を言うかと思えばそんな事か? ガイナンゼ、貴方は良くやっている」

「治療を早めに切り上げて直ぐに戻るべきでした」

「女遊びをやめて、か?」

「そ、それは……」

 

 罰が悪そうな顔のガイナンゼに対してレギーナは雰囲気を幾分か和らげた。

 

「気にするなとは言わん。しかしあの状況からひっくり返されるなど誰もが予想出来ないだろう。あのアルンフィルとも直接に相見えたと聞いた。あれほど彼女とは直接戦うなと念を押したのに何故だ?」

(くだん)のメイドはレギーナ様が危険視していたので排除したかったのです」

「それで死に掛けては意味がない。ガイナンゼ、貴方はいずれサーゼクスやアジュカをも超える才能を秘めている。けれど未だに道半ば。アレ等と並ぶには経験と研鑽が必要になる。解るな?」

「……はい」

 

 何処か母親のように言い聞かせるレギーナに頷くガイナンゼ。

 

「よろしい。それと目の方はどうだ。必要であれば新しい物を用意させよう」

「いいえ。この目は誓いです、もう二度と貴方の期待を裏切らないための」

「ならばもう行きなさい。あまりここに長居していると要らぬ噂を流される」

「はい。……では最後に一つ聞きたいことがあります」

「なにか?」

「私が大王になっても隣で支えてくれますか?」

「私はバアルの宰相だ。それ以上でも以下でもない」

 

 その言葉に満足したのかガイナンゼは満足げに部屋を出て行くと入れ替わるようにエルンストが入ってくる。

 

「や、来たよ」

「エルンストか」

 

 エルンストなど気にせず再び資料に目を通し始めるレギーナ。

 

「取り敢えず報告するね、レギーナさんが言った奴は多分まだ現れてない。ただイレギュラーが4つ、旧ルシファー領土に近づいてる」

「イレギュラー?」

 

 気になったのか視線だけをあげるレギーナ。

 エルンストは立てていた4本の指を2本に減らしてニヤつく。

 

「実際には2組だね。どっちも面白いよ?」

「詳細を語りなさい」

 

 聞くべき案件と判断したのか姿勢を正してエルンストに身体ごと向き合う。なんとも覇気のある姿にエルンストは微笑を深くする。

 

「一つ目は白龍皇と聖王剣だね。まだ離れてるけどコイツらは間違いなく旧ルシファー領に来る。なんてたって聖王剣の妹がシアウィンクス側にいるからね」

「ルフェイ・ペンドラゴン、彼のアーサー王の血族」

「そ。凄く可愛い娘だよ、しかも魔法にも精通してるし頭もいい。白龍皇はアレかな里帰り?」

 

 レギーナが思慮に耽る。  

 

「厄介な者が敵になるな。それにしても、この広い冥界で良く探し当てたものだ」

「捜索能力の高いヤツでも囲ってるんじゃない? あと厄介って言うならもう一組もだね。最初に痕跡が確認されたのは現政権の首都リリスからだ。何故か真っ直ぐ旧ルシファー領に向かってる謎存在」

「目的は?」

「分かんないなぁ。コイツらは本当に旧ルシファー領にくるかも不明だね。ただ強いよ、文字通り直線距離で目指してるから危険な魔物スポットすら蹴散らしながら驀進してる。間違いなく最上級悪魔以上の実力がある。だから一応報告しておいた」

「仮想敵と考えて行動すべきだな」

「コイツらと()り合えば、あのガイナンゼ兄さんでもキツくない?」

「そうだろうな」

「見捨てる?」

「シアウィンクスと旧首都ルシファードは手に入れる為、それはあり得ん」

「シアウィンクスねぇ。確かに可愛いけど、そんなにあの娘って重要なの?」

 

 後継者争いに旧ルシファー領土の攻略をねじ込んだのは他の誰でもなくレギーナだ。表向きは危険思想を持つ旧魔王派の筆頭を管理下に置くと言う題目だが真の目的は首都ルシファードとシアウィンクス・ルシファーの確保だった。

 レギーナはエルンストの質問には答えない代わりに手を翳すと魔方陣から妙な玉を取り出した。

 

「エルンスト、新たな指示を出す」

「ん~なに?」

「私が求めたら"ルオゾール大森林"へ向かいなさい」

「なんで? シアウィンクスがこっそり避難させた民を殺せばいいのかい?」

「そんなモノはガイナンゼが処理する。貴方が行くのは深奥にある霊廟だ」

 

 レギーナの言葉にエルンストから笑みが消えた。

 

「流石に死ぬよ? "ルオゾール"の深奥は最上級悪魔すら餌にする"侵魔生物"たちの宝庫だ。あんな世界法則のねじ曲った場所から生きて帰れるのは相当のイカれだけだ」

「なら適任では?」

「うわ、ひどっ」

 

 レギーナが玉をエルンストへ投げてきた。

 

「これがあれば森が霊廟まで導くだろう」

「霊廟? なんなのさ、この玉?」

「"始神源性(アルケアルマ)"の(コア)と思われるモノだ」

「あるけあるま? 何ソレ?」

「無事に戻れたら話す。霊廟に眠るソレの身体に返せば途方もない力が目覚める。それだけ知っておきなさい」

「行きたくないなぁ」

 

 玉を(もてあそ)びながらごねるエルンスト。

 

「私の指示に従えば面白いものが見られるでしょう」

 

 レギーナの意味深な台詞にエルンストの動きが止まる。

 

「どのくらい?」

「冥界の歴史に残ると断言しよう」

「本当に?」

「間違いなく」

「それ、いいね♪ そういうのは大好きさ。じゃあ僕も命を掛けようかな。──楽しみだなぁ」

 

 相変わらずの快楽的破滅思考のエルンスト。

 

「エルンスト、行くのはこちらに向かいつつある4つのイレギュラーの力を見てからにしろ。勝手なことをすれば首を跳ばす」

 

 喜気として部屋を出ようとしたエルンストにレギーナが指先一つで呪いをかけた。首に紋様が浮かぶと脈動する。

 

「げっ、ガチのやつじゃん、何すんのさ?」

「こうでもしないと勝手をするでしょう。貴方に託したソレは下手を打てば冥界を滅ぼす代物、私の指示以外で使うことは許さないと胸に刻みなさい」

 

 エルンストは呪いをかけたレギーナに憤慨するどころか満面に愉悦を浮かべた。

 

「冥界を滅ぼす? ふふふ、最高だね。ただ僕の期待を裏切ったらレギーナさんでも殺しちゃうから」

「使えば間違いなく期待には答えられる、だから黙って従え」

「了解了解♪ じゃ、しばらくは大人しくしてるねぇ」

 

 バタンとドアを閉めて去るエルンスト。

 レギーナは瞳を一度瞬かせて術式を発現させた。それは映像を投影する物見の術。その中では"ルオゾール大森林"の深奥で魔物同士が戦う姿が映されていた。

 それは奇っ怪な映像だった。

 森林を見ているはずなのに暴風と荒波が支配する光景が広がっているのだ。その中心で翼竜と鮫が互いに喰らい合っている。嵐と津波が苛烈な環境となり別世界同士が潰し合っているようにも見える。

 彼らは膨大な魔素を使い、世界を侵食する特別な魔物。レギーナは"侵魔生物"と呼んでいる。これらはどれもが神話級の力を持ち、最上級の悪魔ですら圧倒する怪物たちだ。ソレらの戦いをレギーナは静かに見ていた。

 

「真魔の白龍皇、最強の聖王剣、至高の滅び、原罪の王魔、まだ見ぬイレギュラー。これだけ揃ったのだ、貴方を満足させられるかしら──ルオゾール・ディ・ベネディクシオ」

 

 

 

 

 ◯●

 

 

 

 

 蒼井 渚によりガイナンゼ・バアルの軍勢が瓦解した翌々日。

 

 ──現政権の首都リリスと旧ルシファー領の首都ルシファードのほぼ中間地点。

 

 乾いた風が吹き抜ける尾根を二人組の少女が歩く。

 外套とフードで隠されている肉体は華奢(きゃしゃ)ではあるも双方とも険しい道を気にした様子もなく進んでいた。

 ふと尾根が大きく揺れて地面から巨大なワームが出現する。目のない顔に縦線が現れるとヌチャリと滑付(ぬめつ)いた音を鳴らして口を開く。不揃いな牙は見るも(おぞ)ましい。

 

「これが例の魔物かな」

 

 金髪の少女が地面から現れた巨大な魔物を見上げながら隣の銀髪の少女に問う。

 

「そうですね。こうまで大きいと確かに人がエサになるのも頷けます」

 

 この魔物はキリングワームと呼ばれる人食いミミズだ。

 立ち寄った(ふもと)の村では恐れられている害獣である。

 

「取り敢えず退()かしますか」

「もう()っといたよ」

 

 スパンッとキリングワームが斬り跳ばされた。

 同時に刃が鞘に収まる金属音。

 目にも止まらぬ居合いを放ったのはアーシア・アルジェントに憑依中の千叉 譲刃だ。

 斬撃の強風でフードが倒れるも、譲刃はすぐに被り直す。あまり素顔を晒さないためだ。本来のアーシア・アルジェントは戦えない。なのに刀を振り回して大立回りしている姿を見せれば何処かで勘違いさせてしまう。そうなれば色々と不味い。

 アリステアも承知しているので戦闘は任すよう言ったのだが害意を前にすると譲刃は反射的に刀を抜く。

 ここに来るまでも戦闘はあったが全て譲刃が処理していた。彼女の気配察知は渚のソレを越えており、アリステアよりも先に敵を発見してしまうので自然と迎撃してしまうのだ。

 アリステアは反撃機能付きの索敵レーダーみたいな譲刃に呆れと感心を持ちつつ歩き出す。

 

「では先を急ぎましょうか」

 

 アリステアと譲刃が冥界にいるらしい渚を探し初めて数日が過ぎている。

 手懸かりは2日前に遥か南西に感じた"冥天崩戒の魔拳(シュバルツ・ゲペニクス)"の(わず)かな残滓(ざんし)のみ。だが渚は既に目覚めて"蒼"を使用している。それだけで充分だった。

 問題は今分かっているのは渚がいた方角だけで居場所じゃない事である。どれだけ進めばいいのか、果てはどこまで進んでいいのかが不明なのが心配の種だ。渚がいるのに素通りなんて可能性もゼロではないのだ。

 そんな考えを胸にしながら悠然とキリングワームの死骸を乗り越えるアリステア。

 そのアイスブルーの瞳が遠方を眺めた。

 尾根を降りた平原で誰かがキリングワームに襲われていたのだ。

 

「人が襲われてますね」

「どこ?」

「あそこです」

 

 指をさすと譲刃が疾走して瞬く間に蟻のように小さくなる。アリステアはその後ろ姿に眺めて面倒そうな顔をするが後を追う。

 

刻流閃裂(こくりゅうせんさ)の使い手はどうしても人を救いたがる(さが)でもあるのでしょうか……」

 

 アリステアが追い付くとキリングワームの群れと譲刃が戯れていた。キリングワームが譲刃を丸飲みにしようとする度に刻まれて行く様を見て助太刀は無用と判断し、アリステアは襲われていた者に近づく。その旅商人風な男は頭にターバンを巻いた優男だ。目は眼鏡のレンズで隠れていて、どうにも顔の印象を掴み辛い。

 

「こんな場所で何をやっているのですか、貴方は?」

 

 声を掛けられた優男は返答に困ったような素振りを見せる。

 

「あわわわわ、助かりましたぁ。ありがとうございます!」

 

 平伏(へいふく)する優男にアリステアは(いぶか)しげな視線を返すが直ぐにを()らして譲刃を見た。彼女は刀に付いた血を払い飛ばしながら寄ってくる。

 

「終わったようですね」

「うん。その人は大丈夫?」

「問題ないでしょう」

 

 ドライな物言いに譲刃が苦笑した。優男はペコペコと頭を下げる。

 

「私、カージャと言います。一応行商人をやっております」

「カージャさんですか。私は……譲刃と言います。こっちはアリステア。今は人探しの旅をしています」

「ほぅ人探しですか?」

 

 キラリとメガネを光らせる。

 

「こう見えて私は様々な町を歩く商人、それなりの情報通でもあります。何か助けになるかもしれません、探し人の特徴を聞かせてもらっても?」

 

 譲刃がアリステアを見た。見られたアリステアは小さく頷く。

 

「髪は黒。身長は175、年齢は10代後半」

「ん~。身体的特徴以外のヒントはありませんか。異能などがあれば、それなりに絞れますよ」

「黒い波動を放つ籠手と光り輝く浮遊する剣を使います」

「あぁ~。なら最近聞いた話にありましたよ。確かバアル軍を殲滅した反逆者です」

「反逆者?」

「はい。2日ぐらい前にバアル軍を黒い波動で蹴散らした人がいるらしいんですよ。表向きには自然災害によるモノと発表されてるんですけどね。噂では6本の光る剣も使っていたとかなんとか」

 

 譲刃とアリステアが顔を見合わせる。漠然とした気配だけの探索は終わりに辿り着いたのだ。

 譲刃はカージャに詰め寄る。

 

「な、なにか?」

「それはどこですか?」

「ここから遥か南西に向かった場所──旧ルシファー領です」

 

 冥界に来て数日。

 やっと手に入れた有益な情報にアリステアと譲刃が顔を見合わせる。こうして二人の目的地が決まった。

 

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