ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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戦闘描写って難しいっす。
上手く書けてる自信がない……。



聖女と悪魔《Tender Girl》

 

「それで彼女を連れてきたという訳ね……」

 

 オカルト研究部の部室でリアス・グレモリーはアリステア・メアの話を聞き終わる。話の内容は白雪の少女の隣に立つ可愛らしい金髪のシスターの事だ。

 リアスが視線を向けるとシスターは緊張でガチガチになる。

 

「アーシア・アルジェントさんで良かったかしら?」

「ひゃい!」

 

 教会に見放された()()に悪魔が支配する領地に放逐されたシスター。信じていた者に裏切られた不幸な少女だが(いく)つかの運には恵まれているようだとリアスは思う。

 

「渚とアリステアに出会えて良かったわね」

「お、お二人には感謝しています。道も分からず迷っているところを保護していただいて、なんとお礼を言っていいか」

 

 それもあるがアーシアに投げ掛けた言葉の本質はそこではない。

 もしもアーシアが黙って駒王に入っていたらリアスはなんらかのアクションを起こしていた。教会から送られてくる人材など放っておける案件ではない。命までは奪わないが拘束もしくは連行くらいはしただろう。

 少しやりすぎと思うかもしれないがリアスの考えた行動は比較的温情がある方だ。殆どの場合は即抹殺。最悪、朽ち果てるまで(もてあそ)ばれる場合もありえる。

 アーシア・アルジェントの幸運は二つだ。

 駒王に入る前に出会ったのがコッチ側の事情に精通した渚だった事と支配する悪魔がリアスだった事だ。

 

「リアス・グレモリー、私は彼女を保護するべきだと思います」

 

 アリステアの発案にリアスは再び白雪の少女へ向き直る。

 

「悪魔がシスターを保護するもの変な話ね」

「それでもやるべきです。教会がアーシア・アルジェントをただ抹殺させるために送ったとは考え難い」

「気になる言い方するじゃない、聞かせてもらえる?」

 

 リアスの言葉にアリステアは続けた。

 

「教会関係者が悪魔領土で亡くなったら相手に"大儀"も与えてしまう」

「そういう事か。つまりアーシア・アルジェントの死を"開戦の号砲"にしたい者がいる」

「あくまで推測です。各陣営のトップは戦争を()けている(ふし)がある。ですが三大勢力の中には自分たちの存亡を懸けてでも相手を滅ぼしたいと考える者もいるでしょう」

「……耳が痛い話ね。実際にウチ(冥界)でも戦争を仕掛けるべきという声は小さくないわ」

 

 長い間に渡り続いた三大勢力の戦争。

 威信と誇りを懸けた戦いは、いつしか怨みと憎悪だけを生み出す争いへ変化していった。威信よりも敵の首、誇りよりも殺戮の数が賞賛される血塗られた歴史は多くの遺恨を残した。

 だが現魔王たちは争いよりも種の存続のため動いている。リアスは魔王サーゼクスの妹として戦争だけは避けたかった。ならば例えアーシア・アルジェントが敵陣営の人間だとしてもを大局的に見れば保護すべきだろう。

 

「どうやら決めたようですね」

「背中を押してくれて感謝するわ」

「私は別に何もしてませんよ。アーシア・アルジェント、貴方はリアス・グレモリーに保護下に入りなさい」

「あ、あの、でも、いいのでしょうか? 私を助ければグレモリーさんにご迷惑が……」

「迷惑? 何を言っているの?」

 

 リアスの問いにアーシアが何かを思い出すように悲しく目を伏せた。

 

「私は教会のシスターです。そんな人に恩情を与えたら他の悪魔方からお叱りを受けるのではないでしょうか?」

 

 その言葉に呆然とするリアス。

 アーシアは純粋にリアスを想ってくれている。悪魔だからと関係なく自分のせいで同族から責められるかもしれないと本気で心配していた。

 きっと自分自身が同じような体験をしたからだろう。気づけばリアスはアーシアの頬に優しく触れていた。

 

「貴方はすごく綺麗なのね、アーシア。渚が助けたがる訳ね、悪魔の私ですら胸を打たれるんだもの」

「はぅ、いえ、き、綺麗だなんて滅相もないです! グレモリーさんやメアさんの方がお綺麗です!!」

 

 真っ赤にして顔をブンブンと横に振るアーシアを見てリアスが()む。外見じゃなくて中身の話なのだが気付いていないアーシアを妙に愛しく感じる。

 

「気に入ったご様子で」

「だって外も内も可愛いじゃない」

「気持ちは分かると言っておきます」

「素直に褒めればいいのに」

「うぅう」

 

 ますます赤くなるアーシアの隣でアリステアが、ふと窓の外に目をやる。

 

「さて、アーシア・アルジェントを私に預けたナギはどうなった事やら……」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「ごめんな、グレモリー先輩を借りちゃって」

「……別に気にしてないです」

「まぁ事情が事情だしね」

 

 渚の謝罪に小猫と祐斗が応えた。

 現在、渚はグレモリー眷属の"はぐれ悪魔"討伐に同行させて貰っていた。

 渚がリアスの代わりにグレモリーの戦列へ加わっているのには理由がある。

 夜の駒王学園へアーシアを連れて行くとリアスたちが丁度"はぐれ悪魔"の討伐に向かおうとしていたタイミングに出くわしたのが切っ掛けだ。アーシアの事を軽く相談したらリアスの方が詳細を知りたがり、"はぐれ悪魔"の討伐を先延ばしにしようとしたので渚が肩代わりしようと願い出て今に至る。

 自分がすべき事情説明はアリステアに一任した。彼女の実力なら同時に護衛役にもなれるからだ。

 

「でも驚きましたわ。いきなりシスターを連れてくるんですもの」

「事情は道中説明した通りです。急な話ですいませんでした」

「いいのですよ。蒼井くんが代理なら部長も安心でしょうし、それに……」

 

 朱乃がニコニコと笑みながら渚の隣に並ぶと誰にも聞こえないように、さりげなく耳打ちをする。

 

「イッセー君とお話したいのでしょう?」

「……うっ」

 

 後ろを歩く一誠に目を向けると目を逸らされた。

 そう、渚と一誠が喧嘩して一週間が経つが未だにギクシャクしている。

 自分のコミュ力の低さに嫌気がさす。

 

「これから命を懸けた戦いに行くのですから頑張って仲直りしましょうね?」

「……はい」

 

 朱乃に言われて一誠の横に並ぶ。朱乃が笑顔で見守り、祐斗が激励代わり頷いて、小猫が胸の前で両手を握りエールを送る。嫌味抜きで善い悪魔たちだとしみじみ思う。

 

「悪魔稼業、頑張ってるんだってな」

「お、おう」

「契約は取れたのか?」

「まだだけど」

「そか、兵藤ならきっとすぐ取れるさ」

 

 やはりというか会話が弾まない。ついこの前までバカ話で盛り上がったのが嘘のようだ。

 渚が懸命に言葉を探していると一誠の方から声を出してきた。

 

「その、悪かった」

「へ?」

「殴ったのはやり過ぎた、だから悪い」

「いや、あれは普通怒るだろ」

 

 大事な相手を殺すと言われれば誰だって怒る。渚は一誠の身を案じすぎて精神を軽視していたのだ。心の傷は時に体の傷よりも深く残るというのに……。

 

「……けど蒼井の言ってる事も間違いじゃない。夕麻ちゃんは確実に俺を殺しに来てた。もしもあれが俺の知り合いに起こるんだとしたら止めるべきだ」

「俺も考えたよ。やっぱり彼女は止めるべきだと今でも思う、でも絶対殺さない。友達の彼女だもんな」

「蒼井……」

「つ、つまりだな。お前の手伝いをするから俺の失言をチャラにしてほしい」

「いいのか? 俺は殴ったんだぞ?」

「もう治った、あとは兵藤が許せばオールオッケーだ」

「そっちが許してくれるなら、許すに決まってんだろ。だから改めてよろしくな、蒼井……いやナギ」

「ああ、コッチこそイッセー」

 

 (わだかま)りが解消されたタイミングで見守っていた三人が近づいてくる。

 

「よかったね、蒼井くん、それに兵藤くんも」

「……男の友情を見せてもらいました」

「あらあら、おめでとうございます、二人とも」

 

 有り難い言葉を受けつつも目的の場所へたどり着く。

 背の高い草木が覆い茂る場所にある洞窟。自然に出来たその穴の奥からは耐えがたい邪気と臭気が流れ込んでくる。

 

「……酷い血の臭いです」

 

 小猫が制服の袖で鼻を隠す。濃い血の臭いに混じり、腐臭もする。

 周囲は不気味なほど静かだ。だが渚はゆっくりと肩に担いだ白い布から刀を取り出す。

 経験から確証を得ていた、ここは敵の支配領域だ。侵入者に気づかない筈がない。

 

「姫島先輩、俺はどう動けばいいですか?」

 

 リアスから指揮を託された朱乃の指示を仰ぐため問う。今の渚はグレモリーの下にある戦力。いつものように動くべきでない。

 

「ではイッセーくんの護衛をお願いします。今日が初めてなのでしっかり守ってあげてください」

「わかりました、イッセーもいいか?」

「あ、ああ。なんかヤバいのは分かるから頼む」

 

 悪魔としての直感か、一誠もこの場が普通でないと感じたようだ。

 

「来る!」

 

 祐斗の声と共に洞窟から5メートルはあるだろう巨大な影が這い出てくる。

 上半身は人のソレだが、下半身は蛇。伝説上のメデューサを思わせる"はぐれ悪魔"だ。

 

「……甘いです」

 

 密集してた渚たちを一網打尽にしようとした奇襲は小猫によって阻止される。

 小さな体から繰り出される拳が、巨大な"はぐれ悪魔"の顔面を捉えて吹き飛ばしたのだ。

 それを合図に朱乃と祐斗が散開。渚も一誠を連れて背後に下がる。

 

「す、すげぇ、小猫ちゃん、あの化け物を吹っ跳ばしちまった」

 

 一誠が口を開けて唖然としていた。

 

「まぁビックリするよな。俺も最初はたまげたよ。あの外見で"戦車(ルーク)"だからな」

「"戦車(ルーク)"?」

 

 どうやら一誠はリアスから"悪魔の駒(イーヴィル・ピース)"について聞いていないようだった。やることもない渚は少しだけ知識を絞り出すことにした。

 

「現悪魔の眷属はチェスの駒を(かたど)った"悪魔の駒(イーヴィル・ピース)"っていうので成り立ってる。"(キング)"に始まり、副官の"女王(クイーン)"、それから"騎士(ナイト)"、"戦車(ルーク)"、"僧侶(ビショップ)"、"兵士(ポーン)"の六種の役割に分かれているのが特徴になる。お前を転生させたのも同じモンだ、見ろ」

 

 渚が指をさす方向では、小猫が"はぐれ悪魔"を腕力だけで圧倒している。拳を放つ度に重厚な打撃音が響き、相手が苦悶の顔を浮かべる。

 

「ぱ、パワフルだな、小猫ちゃん」

「駒には宿した者へ特性を付与する効果があるらしい。"戦車(ルーク)"は純粋な力の急増と屈強な肉体、そんでもって……」

 

 "はぐれ悪魔"が怒り狂いながら蛇の尾で小猫を打ち据えようとした。

 しかしその尾は目にも留まらぬ早業で切断される。

 

「木場の"騎士(ナイト)"は速度が増す。相変わらず恐ろしく速いな」

「え、あの尻尾は木場やったのか? てかアイツどこ?」

「ここだよ」

「ビックリしたぁ、いつの間に」

 

 一誠が驚きに祐斗が微笑む。

 祐斗の手には一本の禍々しい刃が握られていた。彼の神  器(セイクリッド・ギア)、"魔剣創造(ソード・バース)"により造られた剣である。

 

「こっち来ていいのか、まだ生きてるぞ?」

「大丈夫、もう終わるよ」

 

 渚の問いに祐斗が答えると、優勢だった小猫が大きく後退する。

 

「あ! 小猫ちゃん、なんで距離を取ったんだ? あのままでも勝てそうなのに」

「いや、あれで正しいよ。兵藤くん、上を見て」

「上?」

 

 一誠が空を仰ぐと月を背にした朱乃が翼を広げ、手を翳していた。

 同時に轟音と熱で辺りが目映い光に照らされる。

 稲妻だ。凄まじい雷撃が夜を切り裂いて降り注いだのだ。

 一瞬の輝きのあとに残されたのは、焼けた大地とそこに寝そべる黒焦げの元悪魔だけだった。

 

「な、なな、なんだアレ……? 朱乃先輩がやったのか?」

「トドメは姫島先輩の雷撃か。連携って羨ましいなぁ、(らく)そう……」

 

 遠い目で渚が呟く。基本的に個人プレー強要されるパターンが多いのでチームでの戦いに憧憬にも似た感情を持ってしまう。

 

「すげぇ……もうすげぇって言葉以外出てこねぇ。なぁナギ、朱乃先輩はやっぱり……」

「ん? あぁ勿論"女王(クイーン)"だ。"(キング)"の補佐官だけあって"女王(クイーン)"は破格でな? 全ての駒の特性を宿してる」

「な、なぁ俺は一体どの駒が使われてんだ?」

 

 期待するように渚を見る。

 聞く相手を間違っているような気もするが、どの駒を使用したかはリアスから事前に教えてもらっている。

 

「"兵士(ポーン)"らしいぞ?」

「だよな、だと思った!」

 

 チェスで言えば"兵士(ポーン)"は最も数が多い。印象的には一番の格下と取られても仕方がないだろう。

 しかし最弱にして最強の可能性を宿すのが"兵士(ポーン)"という駒だ。

 

「へぇ~君は"兵士(ポーン)"なんだね」

 

 茂みの奥から声が聞こえ、一誠以外の者が構えた。暗い木の間から出てきたのはボディコンのような際どい格好をした女性だ。端的に言うと胸の部分が開き過ぎである。

 

「な、なんてグッジョブな格好を……」

「胸が好きなのかな、少年?」

「す、好きです!」

 

 エロさがにじみ出る女に一誠が反応する。

 渚たちに合流した小猫がそれを見て一言。

 

「……空気読んでください」

「あの姿を見たら、つい」

「読んでください」

「はい」

 

 冷たい小猫の指摘に一誠がうなだれた。

 

「イッセーらしいな、まぁアレはちょっと目のやり場に──」

「渚先輩も静かにしてください」

「……了解っす」

 

 小猫の静かな圧力に渚もまた大人しく従う。

 正体不明の第三者が現れたのだから、気を引き締めろと言いたいのだろう。

 

「あらあら、どちら様で?」

 

 朱乃が空から降り経つと招かれざる者へ問う。

 いつもの淑やかな笑顔だったが、手の中で小さな雷を散らしつつ警戒している様子だった。

 

「自己紹介をしないとは我ながら失礼だった。初めまして、グレモリー眷属の皆様がた、私は堕天使カラワーナという」

 

 自らの言葉を証明するかの如く一対の羽を展開するカラワーナ。カラスを連想する翼は間違いなく堕天使のソレである。

 渚は彼女に妙な既視感を覚えた、姿でなく気配にだ。

 堕天使にしか思えないのに小さなズレを感じる。注意深く観察しているとカラワーナが一誠へ視線を流す。

 

「単刀直入に言う、そこの兵藤 一誠が欲しい」

「え、俺?」

「ああ、君だ。私と来れば天野 夕麻に会わせてあげよう」

 

 右手を一誠に向けて差し出すカラワーナ。その効果は抜群で一誠が前に出ようとする。

 

「待て、どうにも胡散臭い」

「な、ナギ?」

「カラワーナって言ったか? どうしてイッセーを連れていく? そっちのメリットはなんだ?」

 

 渚の言葉に、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「堕天使と悪魔の禁じられた恋を応援したくてね?」

「その顔でキューピットのつもりかよ。悪意が透けて見えるぞ?」

「君は渚……くんでいいのかな? 噂は聞いてる、クラフトが随分と気にしていたからね」

 

 心臓が大きく波打つ。どうしてあの男が自分なぞを気に掛けるのか見当も付かない。

 そんな渚の思考を知ってか知らずかカラワーナは瞳を好奇(こうき)に染めた。

 

「あぁ奴の言葉も分からんでもないな。君はどうもアレだ──」

 

 ククッと短く嗤いながら言葉の途中でカラワーナの姿が闇に溶けた。

 

「とても愉快な感じがするよ」

 

 そして、すぐ背後で声がする。

 

 ──速い!

 

 不意に間合いを詰めてきたカラワーナの速度は祐斗に迫る俊敏さだった。

 手には堕天使らしい光の槍。刀を盾代わりにするため光の切っ先が向いている部位を見切る。場所は斜め後ろからの心臓狙い。間に合うかは賭けだった。

 光の凶器が接触する寸前、横から伸びてきた小猫の手が槍を止める。

 

「……触らないでください」

「ハハ、驚いた。私の動きに反応するか。ところで手は大丈夫かな?」

「……お返しです」

 

 カラワーナを無視して拳が振るわれるが、体を反らすことで避けられる。

 

()しいな」

「そうかな?」

 

 流れるような祐斗の追撃。無数の剣閃がカラワーナを捉えるも機敏(きびん)な動きで間合いの外へ逃げられる。

 

「血が出てしまったじゃないか。まったく女性の皮膚に傷を入れるなんて"騎士(ナイト)"としてどうなんだ?」

「不意打ちを行う者が騎士道を語るものではありませんわ」

 

 容赦ない朱乃の落雷がカラワーナを襲った。

 直撃である、圧倒的な熱と光は堕天使を容赦なく焼きつくした。

 決まったと誰もが思う。だが煙の中で人影が立ち上がる。

 

「流石の血筋だ、凄まじい火力に感服する。方陣を張ったのに体の半分が消し炭になってしまったよ」

 

 半身を妬かれて尚、余裕の(たたず)まいの堕天使に言いしれぬ危機感を覚える。

 

「貴方は普通の堕天使ではありませんね?」

「普通の? 例えばどんなのが異常なのか教えて欲しいな。ああ、君のような者か姫島 朱乃?」

「……黙りなさい」

 

 朱乃から表情が消え、雷撃が苛烈に放たれる。虎の尾を踏んだかのような怒りが見え隠れする攻撃の中でカラワーナは(わら)った。

 

「なんだ、意外に(もろ)いな。それで"女王(クイーン)"とは恐れ入る。さて兵藤 一誠くん、そろそろ私と行こうじゃないか?」

 

 流石の一誠も今度は()く。朱乃に体を()かれるがまま誘うカラワーナはハッキリ言って狂人にしか見えない。

 

「朱乃先輩、僕と小猫ちゃんも行きます」

「分かったわ、左右から攻めて」

「……了解です」

 

 小猫と祐斗が雷撃の合間から強襲を仕掛けるため迂回(うかい)を始める。

 

小癪(こしゃく)だな」

 

 カラワーナが辟易(へきえき)したように移動中の二人に手を(かざ)すと目を見開いて邪悪な笑みを浮かべる。

 渚は嫌な予感がした。あのままでは祐斗と小猫が殺されると思ったのだ。

 気づけば最短距離を算出して駆け抜けていた。

 朱乃の雷撃による猛攻は今も継続中だ。急に止めるなど出来ないと渚も分かっている、予想通り(かわ)せず(いく)らか灼かれてしまう。

 

「──()ッ」

 

 右肩、左腕、背、腰、右太股、左(ふく)(はぎ)。あらゆる箇所に高熱の鉄を刺し込まれたような痛みが(ともな)う。

 背面から声が聞こえる。朱乃か一誠のどちらかだ。いきなり稲妻が飛び交う場所に突撃したのだ心配もするだろう。

 無謀な突撃もあって誰よりも速く、カラワーナを肉迫(にくはく)した。

 

(いかずち)が降り(そそ)ぐ道を走ってくるなんてイカレてるな。しかも(かん)がいいと来た」

 

 カラワーナの両手にあるのは朱乃と同様の雷の(ほとばし)り。

 しかし渚は目を剥く。それは只の雷ではなく高密度の光力が圧縮された特殊な稲妻だったのだ。

 

「初めて見るようだね、これは"雷光"という。悪魔にとって最悪の攻撃に部類される一つさ、詳細は君らの"女王(クイーン)"にでも聞くといい」

「それは──撃たせない」

 

 会話を放棄して渚が抜刀。

 転瞬二刃、カラワーナの右腕を根本から斬り裂いて、返す刀で左腕も貰う。

 カラワーナの両手に宿った光力が行き場を失って破裂するかの如く膨張するのを見た。

 ここで光力が四方に(はじ)ければグレモリー眷属に被害が出るだろう。

 

「──輝夜(かぐや)

 

 渚は鞘に刀を戻すと渾身の一撃を放つ。

 半月を描く薙ぎ払いは暴風を巻き起こして爆弾となったカラワーナの両腕を彼方へ無理矢理吹き飛ばす。

 次の瞬間、予想通りカラワーナの腕が炸裂するや光の奔流が激しく周囲を焼き散らす。

 渚の皮膚が焼ける。込められた光力の大きさに冷や汗が止まらない。これが悪魔に放たれれば消滅もあり得た。

 

「──ふふ、ははは、アハハハハハハッ! すごい、すごいよ渚くん!! ぜんっぜん見えなかった、この()()ともあろう者がだ! これは驚きという他無い。意外や意外、滅法強いじゃないか!!! ハハ、人畜無害そうな顔して修羅さながらとは実に()()」 

 

 目も開けられない光の中で賞賛(しょうさん)を贈られる。その口調はついさっきまでの尊大(そんだい)さとは打って変わり少々幼い印象を受ける。

 それでも渚は油断せず、反撃を警戒して気配だけを頼りにカラワーナへ刀を向ける。

 

「褒めても何もねぇぞ、今あるのは斬撃だけだ。──続けるか?」

「ううん、今日は帰るよ。腕も無くなっちゃたしねー」

「もう二度と来んな、狂人」

「じゃまた合おうね、狂刃」

 

 気配が光の中に消えた。

 やがて視界が夜に戻るがカラワーナの姿はない。

 本当に帰ったようだ。どうにも不気味な後味(あとあじ)が残る相手だった。何も得られず、半身を灼かれ、両腕をまで失くしたというのに最後の声は溌剌(はつらつ)としていた。精神に異常があるとしか考えられない。

 

「はぁ~……助かったぁー」

 

心底安堵する。強気な態度は言うまでもなくブラフ。

全身はバチバチで脚もガクガク、頭はグラグラだ。立っているのでやっとの状態だ。このまま戦闘を続行したとしても、まともに動ける自信がない。

 

「蒼井くん、大丈夫かい?」

「なんとか生きてる、そっちは?」

「無事だよ」

「……わたしも問題ありません」

「嘘付け。体中、火傷だらけじゃないか」

 

 祐斗と小猫を見れば、所々に火傷を負っていた。

 これは暴発したカラワーナの光力の残滓(ざんし)で付いたのだろう。悪魔にとって光力は毒に等しい。触れた部位から浸食されて消滅していくのだ。

 

「つか俺のせいか。……申し訳ない」

 

 渚が頭を下げる。

 二人を助けようとしたとはいえ、カラワーナの"雷光"を広範囲にまき散らしのは事実だ。

 光によるダメージは激痛だと聞く。きっと傷以上の痛みが二人を襲っているはずだ。

 

「蒼井くん、頭を上げてください」

 

 渚の側に寄って頭をあげさせたのは朱乃だ。彼女は防護壁で光を防いだのか無傷だった。

 

「貴方が居なければ祐斗君と小猫ちゃんがやられていました。もしも責められるとした相手の力量を見極められなかった私です。こんなに傷だらけにしてしまって、なんと言ったらいいか……」

 

 悔しそうな表情で訴える朱乃。

 渚もまた全身に凄惨(せいさん)な火傷がある。光によるものでなく雷撃の道を通った時の代償だ。本音を言えば気を失いそうなほど痛い。だが祐斗も小猫も似たような怪我を負っているのだ。自分だけ泣き叫ぶのは大変格好が悪い。

 男の見栄(みえ)だけで涙を流さぬよう耐える。

 

「これは自業自得みたいなモノですから……。イッセーは大丈夫ですか?」

「彼は私が防護したので無傷ですわ」

「流石です"女王"さま、じゃあとりあえず帰りましょうか」

 

 渚がフラフラと歩き始める。

 酷く痛むので、月明かりを頼りに改めて全身を見ると結構な割合で肉が焦げていた。

 あれ? 思ったよりヤバくないか、俺……と思った矢先だ。

 

「……えい」

「ぎぇああああああ!!」

 

 小猫がいきなり渚の傷へ触れてくる。思わぬ行動に奇声をあげて倒れてしまう。

 

「……やっぱり我慢してます」

「と、塔城、いきなり何すんの!?」

「……雷撃をバカみたいに浴びまくった渚先輩は一番重傷です、私が担ぎます」

 

 気持ちは嬉しいが、自分より頭二つ分以上小さな女の子に担がれるのはビジュアル的にもお断りしたかった。

 

「だ、大丈夫、ぜんぜん痛くないぞ?」

「……叩きます」

「やめてください、死んでしまいます」

 

 叩かれそうになったので渚が早口で懇願する。

 

「……どうぞ」

 

 背中を向けてしゃがみ込む小猫。正直、小さすぎる。渚が乗るか断るか考えていると思わぬ所から助け船が渡される。

 

「小猫ちゃんも怪我しているし、ナギは俺が運ぶよ」

「……む」

「イッセー、いいのかよ?」

「本当は女の子がいいけど仕方ないじゃん。お前の怪我、明らかに木場や小猫ちゃんより酷い。俺、今回なんもしてねぇから、これくらいさせろ」

「そっか。んじゃ頼むわ」

 

 有り難く一誠の背を借りるとする。

 何故か帰りの道中で小猫に恨めしそうな視線を向けられ続ける謎のハプニングもあったが渚の忙しかった一日は、こうして終わりを迎えた。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「随分と機嫌がいいな」

 

 その男、クラフト・バルバロイは帰還したカラワーナの内心を見透かすように言葉を投げ掛けてきた。

 

「ふふ、分かる? とても素敵な出会いをしてきたんだよ」

 

 半身は黒く焼け、両腕を喪失したカラワーナは少女のような笑みで返す。

 

「兵藤 一誠を殺しに行くと言ってたが、どうやら仕損じたようだな」

「いやぁ、グレモリー眷属の思わぬ抵抗にあってねー」

 

 クラフトの痛い指摘をカラワーナが上手く躱していると、一つの足跡が近づいてくる。

 

「あんれぇ~、カラワーナ(仮)ちゃんとクラフトの旦那じゃないですか? こんな場所で密会? もしかしてナニしてんです?」

「フリード・セルゼンか」

「はいはい、フリードですよ。うわ、カラワーナ(仮)ちゃん、何? どして腕ないの? 半身消し炭じゃん、グロい!」

 

 舌を出して「うえぇ」とリアクションするのは神父姿の少年だ。年頃は渚や一誠に近い。

 

「見て見て、見事にぶった斬られちゃったよー」

「アハハ、ちょーウケる。瓶コーラみてぇにストレートになってるしぃ」

 

 愉快に笑い合うカラワーナとフリード。

 

「ところでフリードくんは、今からお出かけ?」

「そ、お仕事お仕事っすよ。この子を殺せって教会から依頼があって出撃フリードさん状態。もう"はぐれ神父"だからって汚い事ばかりさせたがるんだから、嫌になっちゃいます僕ちゃん! ま、お金と物資がいっぱい貰えるからやるけどね!!」

 

 一枚の用紙を渡されるカラワーナ。両腕がないので異能で浮かして覗き見る。

 

「わあ、可愛らしい子。アーシア・アルジェントちゃんかぁ。何々、"悪魔を癒す堕落した信徒である。抹殺されたし、報酬いつもの方法で支払う"。内容酷すぎて引くわー。教会が金で"はぐれ神父"を使ってるのにも引くわー。いい便利屋扱いだねフリードくん」

「だしょ? 駒王の悪魔に殺させるのが一番だけど、教会さんは確実にアーシアちゃんには死んで欲しいみたいなのよ。それでちょうど駒王にいる俺に殺れってさ。なんでかねー」

 

 フリードがオーバーなリアクションで首を傾げた。

 

「さしずめ戦争を始めるための生け贄だな。冷戦下の現状、魔王の血族が治める領土でシスターが死ねば大きな問題になる。教会は"冥界に戦争の意思あり"として動く可能性が高い。しかも仇討ちを正当な理由にした正義を語るだろう。この正義は大義となり、陣営の志気と団結力を肥えさせる餌となる。腹の膨れた状態で戦い望める奴等は強い」

 

 クラフトが低く答える。

 

「一人の人間の"死"が多くの戦火を産む、か。それってボクらの目的が完遂しない?」

「ああ、ヤツの思惑通りになる」

「そっか。じゃあアーシアちゃんには可哀想だけど死んでもらうとして。……フリードくん」

「あ、なんすかカラワーナ(仮)ちゃん」

「この子、頂戴♪」

 

 アーシアの写真が写る用紙を首で指しながらカラワーナは微笑む。

 

「幾らで買う?」

「教会が払う額の10倍」

「よし、売った」

「はい、商談成立ね」

 

 悪辣な商談を前にクラフトは詰まらなさそう問う。

 

「そんな娘をどうするつもりだ?」

「この子、面白い神器を持ってるんだ。フリードくん、クラフトに見せたげて」

「あいよー」 

 

 用紙を渡されて渋々といった感じで読み進めるクラフト。

 

「これは……愚かが過ぎるな」

「同意かなー」

「えー何がっすかね? 俺を仲間外れにしないでくださいますぅ?」

「"聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)"。回復系の神器では最上の代物だ。これ一つで戦況を有利に進められる」

「多分、信仰を優先したんだね。教会はそういうのを重視するから」

「へぇそんなスゴい"神 器(セイクリッド・ギア)"なんだー。それでコレを手に入れてカラワーナ(仮)ちゃんはヒーラーに転職するの?」

「なわけないでしょ」

 

 フリードの質問を笑い飛ばすカラワーナ。

 

「当然、レイナーレ様に献上するのだよフリードくん」

「ハハ、()()()すんねぇ。アレ以上は中から破裂しちゃうよ、あの堕天使ちゃん」

「面白そうでしょ? じゃあボクは少し顔を見てこようかな」

「行くのは構わんが、その姿と素は戻しておけ」

 

 クラフトの指摘にカラワーナが「おっと、いけない」と足を止めると損傷したままだった肉体を瞬く間に修復。そして咳払いをする。

 

「ん、んん! ……では私はレイナーレ様の下へ行ってくる、二人とも勝手な行動は慎んでくれ」

 

 妙齢な外見に似合う大人びた声音になると近くにあった建物に入って行った。

 

「うへぇ~。俺も色々見てきたけど、アンタら二人はとびっきりにクレイジーだ。一体何者なんすかね?」

「知ったところで何も得られん」

「それもそうか。ま、雑魚シスターを高く買ってくれたんだから良いんだけどねー」

 

 神父の哄笑が駒王に木霊する。 

 深い夜の闇は悪意すらも隠しながら()けていくのであった。

 





クラフトはオリジナルですが、カラワーナはアニメにも少し出てきた堕天使です。中身は改造しましたが……。


*誤字を修正しました。
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