ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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最悪にして最強の光が立ち塞がる。
闇の少女は全てを奪う光へ真っ向から抗う。
消え去る前に打ち砕かんが為に……。



光と闇の戦い《Clash of Light and Dark》

 

 "ルオゾール大森林"という場所は過去に数々の調査団を根絶した魔境である。そんな冥界未踏の地を数十万の移民を引き連れて踏破するなど最初は不可能だとシアウィンクスは考えていた。

 しかし、その道のりは意外なほどに順調だ。

 

「渚、深奥に行った時、こんなモノを作ってんだね」

 

 本来なら歩くだけで苦労する森の木々は根こそぎ消し飛ばされており、決められた進行ルートには草木の一本もない更地となっている。

 なんらかの巨大な力で森を破壊したのが分かる。しかも数十万の悪魔が移動しても余裕がある程だ。これは渚が独断で"ルオゾール大森林"の深奥を調査した祭に作った道だ。この手際の良さからして渚が最初から踏破を考えていたのが分かる。

 

 比較的危険性の低い大森林の外周を移動する。

 

 言うのは簡単だが"ルオゾール大森林"は広い。外周なんて歩いてたら数ヵ月は掛かるし、護衛の人数も足りない。しかも背後からはバアルが追い立ててくる。

 問題だらけの計画に渚は解答を導き出してくれた。

 尤も大きな実績は移動方法を確立した事だろう。

 本来、超密度の魔素が蔓延する"ルオゾール大深林"では魔力が上手く機能せず"転移"を出来ない。

 たが渚は"魔拳(ゲペニクス)"と"洸剣(フリューゲル)"の特性を利用した空間歪曲移動術(ワープ)という魔力とは全く別の力を使った方法で転移を再現している。

 

 (いわ)く超自然的な異能でなく科学の果てにある移動術な為、魔力に干渉する魔素を無視できると言う。

 

 加えて確実性を高める為にワープの距離は短く制限している。渚の力で急造された幾つもの"(ゲート)"を入っては抜けるを繰り返せなければねらないが徒歩に比べれば移動距離は雲泥の差がある。

 老若男女が入り混じる領民の負担を出来るだけ少なくしスピードも速いという良い事尽くめだ。実際、移動する距離は万分の一という破格の数字を叩き出しているのだから文句の付けようはない。

 

「渚さんが来てくれて本当に幸運でした。こんな作戦、本来なら成立しませんから」

 

 隣を歩くルフェイは言う。それに関してはシアウィンクスも同意せざる得ない。本来ならこんな数十万人の大移動など成立するはずもなく、彼一人が来た事で可能となったのだ。最早、至れり尽くせりの状態だ。どうすれば渚に恩を返せるか考えも付かない。皆をフェニックス領へ送り届けた後の難題になりそうだが、そういう問題ならば楽しく解決できそうだとシアウィンクスは思う。

 

 このまま辿り着けますように……。

 

 そう願うシアウィンクスを嘲笑うかの如く、それは急に目の前に現れた。

 

──敵襲である。

 

 来るはずのない敵が現れたのだ。

 シアウィンクスは身震いする。

 信じ難い事に"ルオゾール大森林"は魔力による転移が出来ないという常識を覆して襲来してきたのだ。数は三人。バアルの宰相と眼鏡の青年、そして十数年ぶり会う義母弟(おとうと)

 

「お前、ヴァーリだな?」

「一目で分かるなんてすごいな。なら久しぶりと言っておくよ、義母姉(ねぇ)さん。随分と苦労してるみたいじゃないか」

 

 シアウィンクスは成長したヴァーリの登場に思考が止まり疑問だけが支配する。だが、それ以上に驚きの顔を見せたのはルフェイだった。

 

「お、お兄様」

「ルフェイ、やっと見つけましたよ」

「どうして、ここへ?」

家の者から(エレイン)から行方知れずだと密書が届きました。まさか冥界のいざこざに巻き込まれているとは思いもしませんでしたよ」

 

 柔和な声と紳士的な素振りを見せた眼鏡の青年が前に出るや剣を抜いた。それは光り輝く猛毒、名を聖剣。

 シアウィンクスがヤバいと思った瞬間、青年──アーサー・ペンドラゴンが剣を振るう。

 極光が旧ルシファーの人々に迫る。

 

「くッ!」

 

 シアウィンクスが首にかけたアクセサリーに触れると彼女の背に"洸剣"が現れて飛翔する。それは花のように広がり、聖剣の一撃を弾き飛ばす。

 

「カルクス、ククル!」

「応よッ」

「あいよ!」

 

 家臣がアーサーへ攻撃を仕掛けるが義母弟(ヴァーリ)が前に立ちはだかる。

 

「懐かしい顔だな」

 

 ヴァーリを見るなりカルクスとククルの動きが鈍る。

 

「ヴァーリ坊」

「アンタ……」

「覚えていてくれたのはうれしい……が、その隙を逃すほど彼は優しくないぞ」

 

 聖剣が走り、鋭い剣閃が容赦なくカルクスとククルを襲う。

 

「……嘘だろぃ、俺の魔力障壁がこうも簡単に!」

「ちぃ、ウチらを物ともしないとはね。この感じはエクスカリバーかい」

「惜しいと言っておきます」

 

 障壁ごと斬り裂かれたカルクスとククルが苦悶の表情と共に沈む。僅かな隙を狙われたとはいえ、やられた二人の姿に悲鳴を上げそうになるが噛み殺す。今、自分が狼狽えれば民たちの精神にも悪い影響が出る。手に爪を食い込ませながらも冷徹な魔王の顔を維持する。

 どうすれば事態の悪化を防げるか考えているとアーサーが少し不満げにヴァーリを視線を向けた。

 

「……ヴァーリ」

「余計な世話だったかな?」

 

 何かを言い掛けてやめるアーサー。その顔には一人でも充分と書いてある。

 

「……いえ、まともに戦えばそれなりの消耗を()いられたでしょう。尤も次は正面から相対したいものです」

「だから殺さなかったのか?」

「急所を狙いましたが見事に外されましたよ。かなり戦い慣れてる手合いです」

「この二人は大戦でも活躍した古い悪魔だ。アーサーが倒しきれないのも分かる。まぁ聖王剣を持つキミが負ける要素もないと俺は思うよ」

「聖剣があるから勝てると?」

「少し違うな。聖王剣コールブランドを扱えるというのはアーサーが持つ才能、いわばソレも含めて君自身の力と言いたいのさ。俺が二天龍を宿しているようにね」

「貴方には敵いませんよ、ヴァーリ」

 

 緊張感のないヴァーリとアーサーにバアルの宰相──レギーナは冷厳に言う。

 

「聖王剣、契約を果たしなさい」

「動けない者に剣を向ける趣味ではないのですが……」

 

 アーサーが仕方無しとカルクスとククルに刃を向けた。

 シアウィンクスに緊張が走る。コールブランドと言えば最強の聖剣と呼ばれる一振だ。

 

「(不味い不味い不味いッ! あれは厄タネだ。あの剣だけはダメだ!! なんであんなのが来るの……!!)」

 

 あれは"デモン・スレイヤー(悪魔殺し)"とも言われる聖剣の中でも頂点に座する一振りだ。そのオーラに晒されるだけで力のない悪魔は消滅するだろう。実際、非戦闘員である民たちは身体に変調をきたして苦しそうにしている。シアウィンクスも全身の汗が止まらない。死神の鎌が首筋に添えられているような気味の悪さと危機感が常に身体と精神に負荷をかけてくる。

 

「コチラヘ来なさい、ルフェイ」

 

 聖なるオーラを放つ武器を片手に手招きするアーサー。

 

「この人たちは見逃してくれますか?」

 

 ルフェイトの問い掛けにアーサーは一瞬考えて首を振った。

 

「出来ません」

「どうしてですか!?」

「旧ルシファー領の悪魔を狩り、シアウィンクス・ルシファーをレギーナ・ティラウヌスへ渡す。それが彼女との契約です」

「なぜ。……なぜ、そちら側なのです」

「貴女の安全が条件です。レギーナ・ティラウヌスとの魔術誓約によりルフェイ・ペンドラゴンへの害のある行動を禁じると誓わせました。……ですので諦めなさい」

 

 アーサーが鋭くシアウィンクスを睨む。

 彼にとってシアウィンクスは妹をタブらかした諸悪の根源の様だ。きっと逃がしてはくれないだろう。ならばやるしかない。アーサーが最強の聖剣使いというのなら、ただの悪魔をブツけるわけにはいかない。

 空に鎮座する光の刃──"聖天斬界の洸剣(シュベアルト・フリューゲル)"に目をやる。

 アレなら魔を払う聖剣にも対抗出来るだろう。借り物だが存分に頼らせてもらうつもりだ。

 それでも恐怖で泣きそうなのを懸命に取り繕う。

 自分は非力な悪魔だがルシファーなのだ。臣下にだけ命を懸けて戦わせていた頃の辛さと情けなさを思い出せ。もう無力を言い訳にはしないと誓った。

 シアウィンクスは恐怖に抗い、力強く前に歩き出す。

 

「私が相手をしよう」

「まさか魔王の直系と戦えるとは人生とは分からないものです」

「手を抜いても構わんぞ、直ぐに終わってしまうからな」

 

 シアウィンクスが唇を引き釣らせながら懇願混じりに言うとアーサーから膨大なオーラと戦意が立ち昇る。

 心が折れそうになる。少し会話しただけでフルスロットルな英雄の子孫に愕然する。

 

 ──(ちり)一つ残さない。

 

 そんな意気込みすらヒシヒシと伝わり、更に泣きそうになるシアウィンクス。そんなことを知る(よし)もないアーサーは聖王剣を煌めかせて威圧する。

 

「貴女以外の魔王の直系にお会いしたことがあります」

「ほぅ。……で?」

 

 他の直系とは恐らく旧魔王の人たちだろう。

 もしかしてソイツらと戦って酷い目にあったから、こうも全力なのだろうか? 

 

「他の方々からは脅威性は全く感じませんでした」

 

 え、どういうこと? だったらなんでアンタはこうも最強の聖剣の力を高めているの? 蟻だろうと(なん)だろうと全霊で潰すのが性分なのだろうか? 

 数々の疑問が浮かび、混乱するシアウィンクスにアーサーは言う。

 

「だがヴァーリだけは格が違います。彼は間違いなく将来、世界でも最高位の実力者になる」

 

 まるで意味が分からない。ヴァーリが強かったから姉も強いと勘違いしているのか。

 なんだ、その超理論は……? 

 ヴァーリの特別性は知っている。あの子は幼い頃、父親から大変恐れられていた。子供の時点で大人顔負けの魔力。そして人間とのハーフゆえに神器らしき強力な力を持ったまさに奇跡の存在。

 本来なら息子の可能性に喜ぶべきだが、あの毒父は自身の脅威と認識して愛ではなく憎悪を以てヴァーリに接した。実の子を痛めつけて死の淵に追いやるようなクズがシアウィンクスとヴァーリの父親なのである。

 ヴァーリが旧ルシファーの敵になるのは当然の帰結とシアウィンクスは思っている。

 少し話を戻す。

 ヴァーリが普通じゃないのは分かる。だが同じ血筋だからと期待されても困るというものだ。

 

「言っておくが私よりもあっち(ヴァーリ)の方が出来が良いぞ。私は"神 器(セイクリッド・ギア)"なぞ所持してないからな」

「だそうですが、ヴァーリ?」

「謙遜だな。ヤツ()は俺なんかより貴女をずっと恐れていた」

「……なに?」

 

 恐れる? あたしを? 

 目の敵にされていたのは分かっていたが、恐れられるなんて言い過ぎだ。ヴァーリのような暴力こそ振るわれなかったが空気みたいな扱い方をされていたのは事実だ。どうせ政略結婚などロクでもない事に使うから傷物にしなかったとシアウィンクスは考えている。

 

「覚えているかい? 昔、貴女は俺がヤツになぶり殺されそうになった時、よく庇ってくれた。そうなったら決まって暴力を振るうのをやめたんだ。ずっと、どうしてか気になっていたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が歯向かってきたのに何もしないなんてクズであるヤツらしくない。けれど今になって理解したよ」

 

 ヴァーリはシアウィンクスを見据えて嗤う。

 

「──シアウィンクス・ルシファーに手を出したら終わると知っていただけなんだ、てね」

 

 挨拶代わりと言わんばかりに魔力の光弾を放つヴァーリ。我が義母弟(おとうと)ながら凄まじい魔力量だ。威圧感だけしか取り柄のない自分が防げるはずもない。

 だが今日だけは違う。

 強烈な魔力に一本の洸剣が飛来して上から串刺しにして炸裂する。

 あぁ、渚は本当にいいモノを預けてくれた。感謝の念が絶えない。

 

「合図くらいしたらどうだ? 心臓が止まるかと思ったぞ」

「涼しい顔でよく言う」

 

 た、助かった……。

 いきなり攻撃してくるとは恐ろしい子に育ったものだとシアウィンクスは頭を悩ませる。

 分かっていたが感動の再会とはいかないらしい。

 シアウィンクスは五月蝿(うるさ)いくらいに早鐘を打つ心臓を胸に前へ出た。

 

「いきなり王が出るのかい?」

「不満か?」

 

 不遜に返すがシアウィンクスはヴァーリの言葉に少しカチンと来ていた。

 こっちだって出たくて出たわけではないのだ。

 内心でイラつきつつ、シアウィンクスはアーサーを見る。

 聖剣、しかも最強と言われるコールブランドなんてモノがある限り下手な悪魔を戦わせるなんて犠牲を増やす悪手である。

 聖剣に即殺されないだろうカルクスとククルは戦闘不能でアルンフィルは元々ケガ人。他の兵士ではまず滅せられる。現状で対抗できるのはルフェイなのだが彼女は優秀ではあるものの戦いには不向きだ。

 ならば取れる手段は一つ、シアウィンクスが渚の武器で戦うという事だけなのだ。

 

「随分と力を付けたな、ヴァーリ。ならそこの聖剣使い共々、相手になろう」

「へぇ」

「私達、二人を同時に相手すると?」

「そうだ、すぐ終わらないように気をつけるとしようか」

 

 自分を強く見せるためワザと相手を見下すように口調を作る。二人の戦意やら敵意やらがシアウィンクスを突き刺す。

 ここがあたしの墓場になりそうね……。

 そんな後ろ向きな事を考えてしまうには充分な戦力差に辟易する。しかし逃げる気はない。ここで戦わなければ色々な物を裏切る結果になる。それだけは死んでも嫌だった。

 

「面白い方です」

 

 気づけば聖剣が目の前にある。悲鳴すら上げる暇もない一閃を洸剣が弾く。すかさず反撃が始まり、アーサーと剣撃を交わす。まるで生物ように舞う洸剣。

 

「これは聖剣ですか。なぜ悪魔が扱えるか気になりますが、──これはこれで味わい深い」

 

 舞うように洸剣と対峙するアーサー。その表情は何処か楽しそうだ。渚よりも前にアーサーと同じ英雄の子孫であるヘラクレスを呼んだことがあるが、彼も戦いを好んでいた。

 やはり力があると戦いを好むのだろうか。無才な自分には理解できない思考だ。

 

「次だ。……闇の拳よ、打ち砕け」

 

 シアウィンクスの右手に闇が(つど)う。

 轟々と蠢く黒き波動を振り抜く。技術なんてない戦いを知らぬ女の非力な拳打。しかし闇は地表を抉りながら突き進む。その破壊力にヴァーリとアーサーは目を見開く。

 

「やるじゃないか、姉さん!!」

 

 ヴァーリの全身が輝くと光る翼を持った白銀の鎧を纏う。

 

『Divied!!』

 

 闇が小さくなり、白い鎧に弾かれる。

 

「……白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)ッ!」

「ご明察、見せるのは初めてだったね」

 

 またとんでもない代物が出てきた。

 強い神器を持ってるとは思っていた。

 だが、まさか神器の中でも最上級の"神滅具(ロンギヌス)"を所持しているなんて予想外過ぎだ。

 言葉が出ないとは今の状況を言うのだろう。

 

「しかしその力、似ているね」

「なんのことだ?」

「以前、戦った人が"洸剣"と"魔拳"を使っていたんだ」

「そうか。だがそんなことは今はどうでもいいだろう?」

 

 どうする、勝てるビジョンが浮かばない。

 白龍皇に聖王剣、伝説にも語られる存在が相手だ、渚の武具があっても使い手が自分ではダメだ。

 そんな結論を出しつつもシアウィンクスの心は未だに折れない。

 

「旧ルシファーの民よ! 止まるな、お前たちは何故ここにいる! 生きるためであろう!? 案ずることはない。必ず生かしてやる、だから止まらず進め!! ──これは王命であるッ!!!」

 

 シアウィンクスの叱咤に人々が歩みを初めた。

 

「命を懸けるほど彼らが大事なのかい?」

 

 ヴァーリがそんな疑問をブツけてくるが答えなど決まりきっている。

 

「私はこれでもルシファーの名を持つ悪魔だ。民を守る義務がある」

「ルシファー、ね。そんなのは俺にとってはただの記号だ。父も祖父も尊敬に値しない下劣なヤツだったんだが貴女にとっては違うのか?」

 

 違わない。

 初代のルシファーは偉大だったとは聞くが、その血筋を引くシアウィンクスの祖父と父は王というには余りに低俗だった。自分よりも弱きを虐げ、見下し、ソレらで欲を満たす。ヴァーリが毛嫌いするのも無理はない。

 

「しかしルシファーという称号は魔王にのみ許されたものだ。お前の持つ膨大な魔力も恩恵の一つだと自覚しろ。そして与えられたからには相応の責任も発生する」

「大いなる力には大いなる責任が伴うか……。育ての親に言われたことがあるよ」

「わかってはいるのだな。なら記号と吐き捨てる割りには未だに何故ルシファーを名乗る?」

 

 シアウィンクスに対して呆れたような笑みを浮かべるヴァーリ。

 

「ただのヴァーリだけではカッコが付かないだけさ」

「嘘を吐くなら上手く吐け。なら母方の姓でも名乗ればいい。わざわざ忌々しいモノを使う必要もない。どうやらお前は私と似て素直じゃないな。自ら血を誇らしく思っているのだろう?」

「何をバカな──」

「ヴァーリ、お前がルシファーに牙を剥こうとも、私が恨みを抱く事はない。お前を捨てたのは他でもないルシファーだからだ。しかし傲慢なだけの者にはなるな、常に誇りを持ち、凛然と生きろ。それこそがソレを持ち得なかった父と祖父への報復となる」

 

 シアウィンクスは内心で自嘲する。誇りなどから一番遠い自分が何を偉そうに言葉を放っているのだろうか。

 だがルシファーの名が相応しい(義弟)を見てると口が回ってしまう。

 

「勝手な言い分だね、義姉(ねぇ)さん」

「そうだな、勝手だ。久しぶりの再会に舞い上がっているんだろう、許せ。では始める前に言っておこう。──元気そうで嬉しいぞ、ヴァーリ。それからアーサー・ペンドラゴン、謝罪をしておく。すまなかった、そして妹には良くして貰った。私が敗北した時は連れて行くと良い」

「面白い話を聞かせて貰いました。王の血筋でありながら放棄した私には耳の痛い話です」

 

 洸剣を払い除けたアーサーがヴァーリの隣に立つ。

 シアウィンクスの言葉にアーサーからの敵意が薄まる。けれど戦意は下がらない。

 シアウィンクスは直ぐに地面や大木に突き刺さった洸剣を自らの近くに引き戻す。

 

「アーサー王も楽ではないか?」

「そう、とだけ答えておきます」

「王か。ルシファーの名については少しだけ考えることにするよ、姉さん」

「あぁ、そうしてくれ」

 

 シン、と三人の間に音が消える。

 シアウィンクスは防衛の型を崩さない。背後には数十万規模の命がある。ゆえに先手は相手側だった。

 アーサーが忽然と姿を消す。(まばた)きに合わせた奇襲、斬り込む気配を感じるが何処からかはシアウィンクスには読めない。

 

「(お願い、アーサーの剣を(ふせ)いでッ!!)」

 

 だから迎撃は洸剣に全て任せる。光の帯を引き連れた洸剣がコールブランドを受けた。顔面の真横で刃同士が火花を散らす様は冷や汗ものであるが気に留めている場合じゃない。アーサーが来たからにはヴァーリが来る。

 

「貴女の誇りとやら見極めさせてもらう」

 

 正面から光となって突っ込んでくるヴァーリ。

 もし(はね)ねられたらシアウィンクスの肉体などヒシャゲて即死しかねない。

 使い方などわからない"魔拳"に祈りを捧げる。

 

「(力を……力を貸してッ!!)」

 

 両手を前に出して踏み(とど)まる。両手に漆黒の手甲が現れて実態のない闇色の球体を生み出す。空間が歪み、闇が轟く。

 シアウィンクスは推し出すように闇を解き放つと球状のソレは"ルオゾール大森林"を蹂躙しながら彼方へ消えていった。

 

「流石に直撃していたら戦闘不能だったな」

 

 上空から光となった白龍が落ちてきた。シアウィンクスの攻撃を回避したヴァーリの拳が迫る。

 人の頭なぞ簡単に吹き飛ぶ拳打とシアウィンクスの顔の間に洸剣が割り込む。

 六本の洸剣はシアウィンクスを鉄壁なまでにガードする。

 

()ったと思ったのですが、やりますね」

「まさか一歩も動かないで防ぎ切るとは恐れ入る」

「からがらだ。やはり2対1は大見得を切り過ぎたと反省している」

 

 誇張でもなんでもない、命からがらの攻防だ。実際、シアウィンクスはアーサーの動きなんて追えてないし、ヴァーリの突進をいなす事も不可能だ。洸剣や魔拳が騎士の如く守ってくれるから今も生きている。

 

「──もう結構」

 

 戦闘中の三人に割り込む冷徹な声。

 瞬間、暴風が吹き荒れてシアウィンクスを()ぎ払う。弾き飛ばされて大木に身体をブツける。全身の鈍痛に耐えながら立ち上がり、切れた唇から流れる血を拭う。

 

「レギーナ・ティラウヌス……!」

 

 シアウィンクスは冷徹な声の主を睨み付けた。視線の先にいるのはレギーナ・ティラウヌス。女帝のように佇む彼女が手に持った扇子をパチンと小気味良く閉じた。

 

「全く取るに足らない」

 

 何処まで冷たい声を向けられる。

 

「く、まだだ」

「反抗的な目だ、戦意は途切れんとなれば仕方無し。──四肢の一つを斬り捨てなさい」

「それは私に言っていますか?」

「横槍とは感心しないな、レギーナ・ティラウヌス」

 

 アーサーが答えるとヴァーリも口を挟む。

 

「黙りなさい。これは譲歩、誓約を破棄するのは本意ではないでしょう?」

「……分かりました」

 

 アーサーがシアウィンクスに斬りかかる。朦朧(もうろう)とする意識のなかで自身に迫る聖剣から逃れるため洸剣に頼ろうとするが遅すぎた。

 聖剣は既に眼前にある。狙いは左腕だろう。

 これは避けられないわね……。

 腕の一本を諦めたシアウィンクスだったが、ドンッと横から突き飛ばされる。

 

「……えっ」

 

 見なれた魔女の帽子が宙を舞い、蜂蜜色の髪が揺れる。目の前で赤が乱れ咲く。

 それはシアウィンクスを庇い、兄の剣を受けたルフェイの姿だった。

 

「ルフェイ!!」

 

 シアウィンクスが叫び、アーサーが愕然とする。

 倒れるルフェイの小さな身体をシアウィンクスは慌てて受け止める。生暖かいドロリとした不快な感触が手に伝わり、見れば真紅に染まっていた。

 

「……ダメですよ、戦いに不向きなのに前線へ出るなんて」

「どうして住民と行かなかった!! もしもの時は先導を言い渡しただろう!」

「人々の先導はアルンフィルさんがしてくれてます」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら苦しそうに息をするルフェイ。肩から腹に掛けてバッサリと斬られており血が止めどなく流れていく。

 

 どうしよう、どうしようどうしようどうしよう! 

 

 脳内が恐慌状態に(おちい)る。自分の服を破いて傷口に押し当てるが直ぐに真っ赤となって濡れる。

 

 誰か、誰でもいいから、この子を助けて!! 

 

 必死に懇願するシアウィンクスの手を取るルフェイ。ゾッとするほどに力がない。

 

「うっ、計算……通りです。これだけの血を、触媒すれば……喚べます」

 

 血で濡れた手で地面に紋様を描く。激しい呼吸の中でスラスラと描き終える。

 

「くっ……はぁ、はぁ。私の……私たちの"剣"を()びます」

「今はそんなことはどうでもいい!!」

「……ダメです、聞いてください。私はこの術式を最後に脱落します。だからお願いします、お兄様を許して……」

 

 そう言ってルフェイは術式を発動させた。

 血の紋様に光が走り、目映く周囲を照らす。

 

「ルフェイ!」

「お兄様、ルフェイは初めて自分の意思を貫かせて頂きます」

 

 強い決意を最後に手の中のルフェイは力無く意識を失う。シアウィンクスは懸命にルフェイに呼び掛けるが反応しない。

 

「渚ぁあああああッ!!!」

 

 魂の慟哭に光の召喚陣から人影が現れる。

 それは漆黒の長髪を風で流した少女。しかしその瞳はシアウィンクスのよく知る少年に良く似ていた。

 

 

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