何気ない日常。それは始まり

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無物語

どうしてこうも、ギリギリまで我慢して出した小便と言う奴は気持ちの良いものなのだろうか。この解放感たるや、俺の人生に於いて三大快楽の一つに当てはまる程だろう。可能であればずっと出していたい。もっとも、そんな事になればその魅力の快楽も、半減してしまうのだろうが。

 

さて、あまり長く小便の事を考えていても仕方ない。とっとと手を洗い、部活に顔出さなければ。

 

・・・ところで。

用を足した後に手を洗わない奴等は、一体何なのだろうか?俺には理解出来ん。自らの陰部を触った手をそのままにするだ何て。百歩譲って、小便はまだ分かる。いや分からないが分かろうとしよう。だが、大便ですら洗わない奴がいるのだ。これはもはや意味が分からない。何か別次元の存在なのだろうか?この先も理解する事は無理なのだろう。

 

しかしまぁ、こうしてトイレに入ってしまうとついつい考え事をしてしまう。俺の悪い癖である。

 

「あら、こんな所で会うだなんて奇遇ね」

 

・・・・・・。

 

「挨拶一つまともに返せないのかしら?あぁ、そう言えばコミュ障だったわね」

 

・・・・・・。

 

俺が押し黙るのも無理は無いだろう。

今、目の前に居るのは戦場ヶ原ひたぎ。

無駄に俺に毒舌を吐く、クラスメイトの1人である。

 

「それで?私に何か用かしら」

 

コイツは何を言っているのだ?俺は話かけてもいなければ、一言も喋ってすらいない。文字通り、何もしていないのに。

 

・・・いや、それよりもだ。

此処は男子便所の入り口である。

何故その前に彼女がいるのか?

 

「別に私が何処にいようと、それは私の自由。貴方にとやかく言われる筋合いは無い筈よ」

 

まぁ、そうなのかもしれない。

彼女の行動に口を挟む権利は無いのかもしれない。

これでもし、彼女が男子便所の中に入って来たのであれば問題になるだろうが、その一線を彼女は越えていないのだ。

 

そうなんだろうけども・・・。

 

「用が無いならもう行っていいかしら?私、忙しいのよ」

 

別に誰も引き止めていない。

勝手に止まっているだけである。

あぁ、でも一つ確かめたい事があった。

 

何故男子便所の前で、腕を組んで仁王立ちしていたのだろうか?

 

「決まってるじゃない。貴方に用があったからよ」

 

あったのかよ!?

 

「うるさいわね。黙りなさい」

 

あんまりである。

先程までのやり取りはなんだったのか。

時間を返して欲しい。

 

「こんな美少女と楽しく談笑出来たのよ。光栄に思いなさい」

 

何でこんなにも偉そうなのか。

美少女の点は否定出来ないが。

 

「そろそろ本題に入ってもいいかしら?」

俺は気付いた。

彼女のムーヴはありとあらゆる全ての事柄に対し、10-0で俺が悪くなる様になっているのだ。つまり、どうあがいても俺が悪いらしい。

 

「あら、何て事かしら。こんな所に偶然映画のチケットが2枚・・・」

 

・・・・・・。

 

「ほんと偶然ね。いや、もはやこれは必然よ」

 

・・・・・・。

 

「・・・映画に行きましょう」

 

大根役者もビックリの小芝居である。

そもそも最後の一行で事は済んだのではなかろうか。

 

「細かい事はいいのよ。そんなだから、貴方は短小包茎で早漏なのよ」

 

なんてこった!!

とんでもない言われ様だ。確かに俺は短小包茎だが早漏は言い過ぎである。どちらかと言えば遅漏だ。

 

「・・・そんな顔しないでよ。言い過ぎたわ」

 

言い返せないのが非常に悔しい。戦場ヶ原の言い分の7割は合っているからである。それにここで言い返せば、息子だけでなく心も小さいと思われてしまう。ダブルパンチは避けなければ。

 

「で?行くの?それとも行くの?」

 

選択肢が行くしかねえ!

 

「当然じゃない。何故私がフラれなければいけないのよ」

 

あっれー。これっておかしくないでござるかー?

 

そもそもだ。俺と戦場ヶ原に交流は殆ど無い筈だが、これは一体全体どういった事なのだろうか。誘われる理由の見当がつかないのだ。

 

「貴方にとって、それは何気無い日常のヒトコマかもしれないけど、私には価値がある物なのよ」

 

一体何の話なのだろうか?

 

「わからなくていいわ。でも、これはそのお礼。だから私と映画に行ってくれるかしら?」

 

何だかよく分からないが、とりあえず感謝されているみたいだ。何対してかも分からない。ただ、感謝をされて、それを無下にするほど俺は無神経ではないのだ。

 

どういたしまして。

 

「・・・当然ね」

 

初めて戦場ヶ原の笑顔を見た気がする。

中々に素敵な笑顔だ。

 

「何ニヤケているのよ。気持ち悪い」

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにもかくにもこれが俺達の2度目の出会いであり、物語の始まりである。

 

 

 

 

 

 


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