とある技術者の邂逅【短編】   作:皇我リキ

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下:───い、か……わか、る

 竜を造る技術があった。

 

 

 継ぎ接ぎの命。人造の竜。龍に等しい兵器。

 

 自らの手中に収める為に。力の象徴として形造る為に。天災に等しい力を手に入れる為に。

 

 

 それを造り上げた青年は走る。背後で響く轟音に手を強く握りしめて、眼前に映る竜を見た。

 一体どうしてこんな事になってしまったのか。どうして走っているのか。全部分からなくなって、頭の中はぐちゃぐちゃで。

 

 それでも青年が走るのは───

 

 

 

「……フラム」

 ───この国の責任者だからか? 違う。

 

 ───妻との約束を果たす為か? 違う。

 

 ───造り上げた竜への責任か? 違う。

 

 

「……フラム!」

 ───ただ、一人の技術者(父親)として。

 

 継ぎ接ぎの命。人造の竜。龍に等しい兵器。その親として。

 

 

 

「……フラム!!」

 ───大きな音が響いた。

 

 崩れる巨体。継ぎ接ぎの身体はバラバラになって地面に落ちる。

 力尽きたように横たわる龍。青年はその脇を駆けて、竜の元へと向かった。

 

 

 

 脚は潰れているか、バラバラになっているか。翼は片方が捥がれ、身体は生き物の形を留めていない。

 そんな竜に近寄って、青年は頭部を覗き込む。中には(少女)が居て、苦しそうな表情をしていた。

 

 

「フラム、良くやった。繋がったままじゃ苦しいだろ? 一旦出て来い。……これは命令だ」

 途端、竜の頭部が開いて少女の全貌が青年の視界に映る。

 外傷はないが、苦しそうな表情の彼女は間を置いてから瞳を閉じて彼の命令に従った。

 

 脊髄から伸びる管が外れて、彼女と竜を繋ぐ物がなくなる。

 脱力したように転げ回って落ちてきた少女を、青年はなんとか落とさずに抱き抱えた。

 

 

「……痛かったか?」

「……ぅぁ」

 少女()は首を縦に降る。

 

 手を離すと、彼女は上手く立てずにその場に崩れ落ちた。

 青年はそんな小さな身体を支えて、ゆっくりと地面に下ろす。

 

 

「……良くやったな」

 しゃがみこんで視線を合わせ、少女の頭を撫でる青年。

 龍の素材を掻き分けて、髪の毛を優しく触る姿はまるで父親のようだ。

 

 

「……た、ぉ……した?」

 首を横に傾けながら、少女は慣れない言葉遣いで問い掛ける。

 

「……さぁ、な」

 人間の言葉。それを理解して、人の意思を汲み取る事が出来る兵器()

 一部に人の身体を使ったのは、その機能が必要だったからだ。しかし彼女はそれでも竜である。

 

 

 竜造技術によって作られた生命。

 

 

 しかし、それは兵器だ。青年もまた、彼女を兵器として作った筈である。

 だから理解が出来なかった。どうしてあの時、命令を聞かずに攻撃を躊躇ったのか。

 

 

 

「どちらにせよ、俺達は終わりだ」

 少女の横に座り込んで、青年はポケットに手を入れるが、思い出したように動きを止める。

 癖というのは治らないな、と。そんな下らない事を考えた。

 

 

「……一つだけ聞いて良いか?」

 青年のそんな問いに、少女は首を横に傾けるも少し間を置いてから頷く。

 思えばこんな風に話した事はなかった。命令すればその意味を捉えて、実行する。ただそれだけの存在だと思っていた。

 

 竜なんて、そんな存在だと思っていた。

 

 

「……なぜ、攻撃を躊躇った」

 叱責する訳でもなく、ただ淡々と問い掛ける。

 

 それでも少女は俯いて、罰が悪そうに口を閉じた。

 

 

 

「……なか、ま……まきこむ、から」

 少し間を置いてから。それが当たり前とでも言うように、少女は口を開く。

 

 青年の問いは──なぜ仲間を攻撃で巻き込むことを戸惑ったか──であった。

 しかし、そもそも少女からしてみれば仲間を傷付ける事こそが疑問だったらしい。

 

 ならば、それは何故か。

 

 

 青年はそこから考える。

 

 

「……竜ってのは、そもそも敵を倒す為に仲間に攻撃するなんて考えがないのか」

 辿り着いた一つの答え。

 

 そもそも人間以外の動物は、種として生きる為、合理的な理由でしか同種の生き物を殺す事はない。

 嘴付きと呼ばれている竜は群れで行動するが、敵と戦う時に仲間まで殺してしまう事はしないのだ。

 

 

 相手が憎いから殺すだとか、そんな生物として非合理的な理由で同種を殺めるのは人間くらいだろう。

 それこそが心という物だ。だから、もしフラム・ロワに心がないのなら彼女の行動にはなんの不自然もなかった事になる。

 

 

 

「いや、それでも竜なら……必要なら仲間も殺せる筈だ」

 しかし、合否的な理由があれば他の動物や竜だって同種を殺める事を青年は知っていた。

 

 

 幼体の内に同じ親から産まれた同胞を食い尽くす生き物もいる。交尾が終わった後に雄を雌が食べてしまう事も自然界では良くある話だ。

 縄張り争いや、子孫を残す為の競争。文献によれば、とある龍は一匹が成体になると辺りの同種を殺しつくしてしまうらしい。

 

 

 だから、竜は必要なら仲間だって殺す事が出来る。

 

 

「いや、それじゃ結局フラムのこころを否定する事になる」

 しかし、青年はそこで一度考えを切り替えた。

 

 

 竜は心を持っているのか。その疑問を今から問い詰めるのは難しいだろう。

 

 

 少なくとも青年の中で、竜は感情的な同種殺しはしない。しかし合理的な理由があれば、同種を殺める事は多々あった。心なんてないのかもしれない。

 

 しかし竜達には少なくとも、怒りという感情がある事は知られている。ならば、心があったとしても不思議ではない。

 

 

 なら、どちらなのか。

 

 

 その答えを今ここで見定めるのは、あまりにも時間が足りなかった。

 

 

 

 

 竜に心があるのか。そもそも心とは何か。

 

 そんな事を考える時間は青年には残されていない(・・・・・・・)

 

 

「───だから、竜に心があると仮定して」

 ───だから、青年はその考えを飛ばす。

 

 

 

 頭を撫でると、少女は気持ち良さそうに目を細めた。

 根拠も理屈も何もないが、青年にとってはその反応だけで充分である。

 

 

 

 

 

 彼にとって一番の問題は、竜──造られた竜──に心があったとして。

 

 

 造られた(兵器)としてそれが間違っていたか、正しかったのか。それだけだ。

 

 

 

 

 

 だから大前提。竜に心があったとして。造られた竜に心が宿ったとして。

 

 

 

 

 

「なんだ……その、お前は分かってた訳だ。そのまま攻撃すれば、俺達や街の奴が死ぬって事が」

 それが正しかったのだと。ただ、それだけの答えが欲しい。

 

 それが間違っていたと。ただ、彼女のあるかも分からない心を否定する事だけは出来ない。

 

 

「……」

 小さく頷く少女を見て、青年は満足そうに微笑む。

 

 

 

 正しかったか、間違っていたか。それを決めるのは結果だ。

 

 

 きっと大半の人間が、それは間違っていたと言うだろう。

 龍を倒す為に甚大な被害を被り、一国は滅びたと言ってもいい状態だ。

 

 きっと被害を最小限に抑える事が出来た筈。それが仲間の命をどれだけ犠牲にしても、この街を守りきる事は出来た筈。

 

 

 第三者ならば、きっと大半がそう言うだろう。

 

 

 

 

「お前は、それが出来なかった。……まぁ、兵器としては欠陥品だ。それだけは認めるしかない」

 そう言われると、人の言葉を理解する竜は黙って俯いた。

 そんな少女の頭を撫でながら、青年は言葉を繋げる。

 

 

「兵器なら、国の為に造られた物なら、どんな犠牲を出してでも国を守らなければならなかった。その為に造る物だからな。……それが、この有様だ」

 視界には見渡す限りの瓦礫と龍が映った。彼女が攻撃しなかった事によって救われた民は今頃街の外で絶望しているに違いない。

 

 

「だけどな、お前は救ったんだよ」

 手を退けずに、青年はそう続ける。

 

 その街の外で絶望している民だって───本当ならもう生きてすらいない可能性だってあった。

 彼女が躊躇せずに攻撃をしていれば、きっと今生きている民は半分にも満たないだろう。その何百人もの命を救ったのも、確かに彼女だった。

 

 

「国なんて形の決まってないものはな、何回だって造りだせる。……でもな、命は造り直すことは出来ないんだ。どう似せようと造っても、身体をそのまま使ったって。……失った命だけは、また造り直す事なんて出来ないんだ。全く同じ命を作る事は、出来ないんだ。……それは本当に、文字通り、掛け替えのない物だから」

 少女を抱き締めて、青年はそう語る。

 

 

 

 本当は、自らの子供を生き返らせるつもりだった。

 

 妻にも内緒で。どれだけ非人道的な事をしてでも、竜を造る技術で娘を取り戻す。それが彼の本当の企みだった。

 龍を倒すために民の命を使って、人の機能として足りない物を補う為に民の命を使って。そんな事をしてまで造った竜。

 

 

 

 それこそ、誰が聞いても間違いだと言うだろう。

 

 自分が最低な事をした事くらいは分かっていた。心がないのは自分じゃないかと、そんな事すら思う。

 

 

 

 

「だから、お前の行動は……お前が救った命は……本当に掛け替えのない物なんだよ」

 だけどその竜は、青年が自らの企みの為に奪ってしまうような命を救った。いや、救おうとしたのだ。

 

 どれだけ兵器として間違っていようと。その行為だけは、心だけは否定してはいけない。

 

 

 

 

 ───否定させるわけにはいかない。

 

 

 

 

「お前は、俺が無くしてしまった大切な物をきっと持ってるんだ。確証はない、確かめる時間もない。……でも、きっといつか分かるから。───だから、お前のその行動を……心を、否定させるわけにはいかない。お前は間違ってなんていない」

 青年は少女を強く抱き締める。

 

 

 しかし、少女は眼前に映る龍(・・・・・・)を見て眼を見開いた。

 

 

 

「……ぁ、ぁあ…………な」

 瓦礫を翼で払い除け、四本の脚と翼を一つ支えに金色の龍が立ち上がる。

 

 血走った瞳は二人を睨んだ。

 この命に代えても───そんな感情が龍にあるかは分からない。しかし、龍はそう感じさせるような瞳を二人に向ける。

 

 まるで、彼等に対して怒っているようだ。

 

 

 

「やっぱり、お前ら化け物にも感情があるかもって思うね」

 ゆっくりと少女から離れて振り向いた青年は、冷静に呟く。

 ポケットに手を入れて歩くと、少女が彼の服の裾を掴んだ。

 

 

 

 行ったら殺される───

 

 

 ───そう言うかのように、少女は力を込める。

 

 ───そんな事は分かっているから、青年は歩みを止める。

 

 

 

「……龍の回復力は凄まじいからな。アイツが回復したら、逃げた民も全員殺されるかもしれない。……民を救うには、ここでコイツを殺すしかない」

 振り向かずに。青年は少女が聞き取りやすいように、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「俺は、お前の取った行動を否定したくない。お前が間違っていたと、そんな事を思いたくない。誰かにそう思わせたくもない。……だが、アイツを殺さないとお前の行動は本当に全部無駄になる」

 かの龍をここで逃せば、生き延びた民の命はないかもしれない。

 

 

 そうなれば、彼女が何百の命を助けた事も意味がなくなってしまう。

 あるかも分からない彼女の心が、ただ国も民の命も奪った物になってしまう。

 

 それだけは、耐えられなかった。

 

 

 

「フラム、粉塵を大量に撒け。この周囲を覆い尽くすくらい、大量にな」

 振り向いて、彼はそう言う。

 

 自分が何を言っているかくらいは理解していた。むしろ、引き金だけは自分で引こうと心に決めている。

 彼女に引き金を引かせる事だけは、どうしても忍びない。そもそも彼女では引き金を引く事が出来ないかもしれなかった。

 

 

「……そ、な……たら、パパ……ん、じゃう」

 少女は俯いてそう言う。青年が何をしようとしているか、分かっている様子だ。

 それを見て、青年はふと微笑む。

 

 

 

 彼女は正しい事をしたと、確信出来た。

 

 同時に自分は間違った事をしたと、確認する。

 

 

 

 

「フラム。……俺はな、兵器を作る筈だったんだ。いや、確かにアンファを生き返らせようとした。だが、建前上はやっぱり兵器を作ろうとしていたんだよ。……それで出来上がったのは、俺なんかよりよっぽど人の事を考えられる竜だった」

 少しだけ歩み寄った。もう一度だけ抱き締めようともしたが、そんな権利も時間も無いとその手を戻す。

 

 

「俺は完璧に失敗した。間違えた。……でもな、お前は正しいと思って行動した筈だ。その心があった筈だ。それを信じろ。自分が思った事を、信じるんだ」

「……む、ず……しぃ。わか、ない……よ、パパ」

 少女が手を伸ばすと、青年は一歩下がった。

 

 その手はただ空で寂しく泳ぐ。

 

 

「いつか分かる。龍ってのは、千年以上生きるらしいな。……お前は考えられる筈だ。こんな時代じゃ、お前の心を証明する事は出来ないだろうが。……もし、いつか、戦争が終わったら……旅でもしてみろ。……商人とかでもやって、色んな人と交流を持って、自分の事を考えてみると良い。……いや、無茶苦茶言ってるな、俺」

 本当はサラと彼女と自分とで、そんな夢を見ていた。

 

 

「……でき、い。……とり、に……し、いで」

「もう少しお前と話せば良かったと後悔してるよ。……フラム、命令だ。この周囲に粉塵をありったけばら撒け。そうしないと、お前が守った民は全員死ぬ。もう一度言う───これは命令だ」

「……っ、ぁ……ぁあ……ぅう」

 酷な事をしている事くらい、分かっている。

 

 

 

 彼女の心を肯定しておいて、その心を踏み躙るような事を言った。

 

 

 きっと彼女に心があるのなら、その命令には従えない。

 しかし彼女に心があるのなら、その命令には従うしかない。

 

 彼女に心があろうがなかろうが、その命令に従う以外の選択肢はない。

 

 

 

「俺はな、お前にはこころがあると思ってるよ。だから、そんな顔をしてるんだよな。……悪かったよ、フラム」

 (兵器)から吊るされた管に、彼女が繋がれる。

 

 頭部に潜る少女()はその視界に青年が映る限り彼を見詰めていた。

 己の目で、大切な物を最後まで。

 

 

 

「……さて、それでこそ俺が作った最強の兵器だ。地獄への土産話にはもってこいのスケールだろ。今でも笑いが止まらねーよ。これを俺が作ったってんだからな」

 巨体が持ち上がる。

 

 

 全長は竜二体分を遥かに超え、全高ですら成体の竜の全長に匹敵する巨大な竜。

 

 それ一つだけで人の身体を超える質量を持つ脚。そして巨体に釣り合う長大な翼。頭部のような物に、尻尾。

 まるで巨大な龍を模したようなソレは、竜の身体の一部や龍の身体がまるで継ぎ接ぎのように繋げられて形を成していた。

 

 

 

 

 

 竜を造る技術があった。

 

 

 継ぎ接ぎの命。人造の竜。龍に等しい兵器。

 

 

 竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)

 

 

 

 

 ソレが燃えよと願えば、全てが燃える。

 

 この世界の理───龍の力を持った人造の兵器。

 

 

 放出された粉塵は、火に触れれば忽ち辺り周辺を消し飛ばす筈だ。

 龍もそれに気が付いたのか、動かない身体を無理にでも動かして───まるで焦っているようである。

 

 

 

「こころってなんだろうな」

 そんな龍を見ながら、青年は呟いた。

 

 

 

「お前ら化け物だって、怒るし焦る。悲しくて泣いたりするのか分からんが……お前はアレだ、俺を憎んでるようにも見える。それか、アレを造った人間を憎んでいるのか。……それすら分からないけどな」

 いつでも引き金を弾けるように、彼はポケットの中で指を添える。

 

 ふと思い出したように、もう片方の手で筒状の物を取り出した。

 

 

 今これに火を付けたら、その瞬間全てが終わる。そんな事を考えると、また笑いがこみ上げてきた。

 

 

 

「俺はな、そもそも心なんてそんな難しい物じゃないと思った。……命の事を考えるとか、それが心か? 感情を表に出すのが心か? 他人の事を思いやるのが心か? 知らん。……ただ、生きて何かを思うってだけで良いじゃねーか。自分で考えて、自分で行動出来る。それだけで良いじゃねーか」

 その声が聞こえていたのか、竜は身体を軋ませる。

 

 

「……フラムはな、それが出来たんだよ。それをしたら、沢山の仲間を殺してしまう。自分でそれを嫌だと考えて、自分でその行動を抑制した。……俺が造った兵器が欠陥品だってのは認めよう。だが、アイツの───フラムのその気持ちを否定する事だけは誰にもさせない」

 眼前の龍は完全に立ち上がり、その瞳と牙を青年に向けた。

 

 

 時間か、と。青年は短く笑う。

 

 

 

「お前の事は知らんが、きっとお前も心があってなんらかの事を思ってるんだろうな。……その眼じゃ、俺の命が欲しいって感じか。良いねぇ」

 龍は咆哮を上げて、周囲に黒い煙を放出した。

 

 

 これも粉塵のような物らしい。周囲に黒い小さな粒子が舞う。

 なるほど、これを爆発させたのか。なんて、下らない事に納得した。

 

 コイツも炎王龍と同じような事をするんだな、と。

 

 

 

 

「───さて、取り引きをはじめよう」

 青年は煙草に火を付けるための着火機(・・・)を龍に向けて、そう語り掛ける。

 

 龍はその言葉を理解していない。しかし竜は、青年の言葉を理解していた。

 人の意思を理解する竜を造る。その点だけで言えば、成功だった。

 

 

 

「俺が欲しいのは、彼女が助けた数百の命。お前が欲しいのは俺の命って事で良いな? 対等じゃないだと? だったら俺達の言葉で俺の納得する対価を要求する事だ───無理だろうがな」

 龍は翼を持ち上げて、青年にその先の爪を向ける。

 

 

 

「……パ、ぱ……ッ!!」

 無意識な声。

 

 

 自分でも何故か分からない。そもそもあの青年が言っていた事の大半を理解するには、彼女はまだ生まれてからの時間が短過ぎた。

 それでも、なにが起きるかは理解出来る。理解出来てしまった。

 

 

 

 その声が聞こえて、青年は少しだけ考える。

 

 

 

 しかし、それは意味がないと向かってくる爪を見て笑った。

 

 

 

 もし、彼女と妻とこの戦争が終わるまで生きていたら。

 

 三人で旅をして。商人でもしながら、他愛もなく色んな人と関わって。

 商談は上手く行ったり、いかなかったり。ひとの心は難しいなって、笑い合う。

 

 

 そんなありもしない未来が見えて、瞳を濡らした。

 

 

 

 

 そんな一ページを夢見て、青年は引き金を引く。

 同時に口に加えた筒状の物を吸い───

 

 

「───交渉成立だ」

 ───爆炎。

 

 視界は一瞬で爆ぜた。彼の身体も、周囲の瓦礫同様に瞬きする時間もなく消し飛ぶ。

 

 

 

 街を業火が包み込んだ。

 

 

 

 竜だけは、焔に飲まれても灰にならずに。

 

 

 

 人と龍だけがその場から消えて。

 

 

 

 

 竜は瓦礫の山に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 城だった物がそれを覆い隠した。

 

 

 

 

 竜が瓦礫の下敷きになってしまうのは、青年も誤算だっただろう。

 

 

 

 

「……わ、らない……よ」

 瓦礫の中の、竜の中で、少女は呟いた。

 

 

 確かに彼女は、国を守って龍を殺す事が出来ただろう。

 それが正しかったかなんて、彼女には分からない。

 

 

 

 ただ、嫌だった。生まれてきて、目の前にいた両親とも呼べる二人やその仲間を傷付ける事が。

 その為に結局彼等の縄張りをダメにして。その二人の命も結局ダメにして。

 

 これが正しかったかなんて、彼女には分からない。

 

 

 

「……だ、か……おし、て……よ」

 誰にも聞こえない場所で、静かに問う。

 

 ──お前は間違ってなんていない──

 そんな彼の言葉を理解するには、彼女はあまりにも幼かった。

 

 

 

 

 そのまま、その答えを理解する時間もなくて。

 

 

 

 

 ただゆっくりと、小さくなっていく意識の中で、少女()は夢を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 見た事もない世界で、笑い合う三人の姿。

 

 

 

 それが誰なのかも分からなくて。

 

 

 

 

 ただ、小さくなって。

 

 

 

 

「───い、か……わか、る」

 ───途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 竜を造る技術があったらしい。

 

 

 なぜその技術が必要だったのか、なんのための技術だったのか。

 その本質はきっと、今生きている者は知らないだろう。

 

 

 語り継ぐ物語でもなければ、何かが残り得る世界でもなかった。

 

 

 

 そんな時代の、小さな国の小さなお話。

 

 

 

「そんで、竜は街を破壊して龍を倒しましたとさ。……おしまい」

 いつかの時代の、小さな村で。

 

 

 とある商人の青年が、村の子供達におとぎ話を聞かせている。

 

 

 

 おとぎ話の内容は、大昔に龍と戦った竜のお話。

 

 小さな国をモンスターが襲って、そんなモンスター達を突然現れた竜が追い払った。

 しかしそこに龍が現れて、そんな龍を倒す為に、街を破壊する。そんなお話。

 

 

 明確な記録は残っていないし、嘘か真かも分からなければ、事実が違う解釈をされているのかもしれない。

 ただ、言い伝えによればそんなお話がこの村の周りでは語り継がれていた。

 

 

 

「さて、国を滅ぼしたこの竜は正義の味方か悪者か。……君はどう思う?」

 青年は読み聞かせを終えてから、話を聞いていた少年を一人指差して問う。

 少年は少し考えてから、大きな声でこう答えた。

 

「街を壊しちゃったんだから、悪者だ!」

 そんな答えに青年は「うんうん、なるほどね」と頷く。その答えを否定する理由はない。

 

 

「俺はそうは思わねーなぁ」

 ただ、青年は口角を吊り上げながら青空を見上げて呟いた。

 

 

「なんで?」

 と、少年が不思議そうに問い掛ける。

 

 

「この話、国が一つ滅びてるなら……誰が語り継いでるんだと思う? 誰か……いや、その国の人が生き残ってなきゃこんなおとぎ話は語り継がれない」

 青年の話に、少年は頭を横に傾けた。子供には難しい話かもしれない。

 

 

 

「俺はこう思うんだよ。……その竜は、なんらかの方法で国民を守る為に街を破壊したんじゃないかってな。……だから、きっとこのおとぎ話の竜は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───正しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、お話が楽しかった奴はゼニーを置いてけー」

「……子供からもとるのか」

 そう願われて。

 

 

「俺は商人だからな」

「……今だ、逃げろガキ共」

「おいぃぃぃ!!」

 そう願って。

 

 

 

「……取引先は村の大人達だろ」

「あー、そうだった。なんでも竜みたいな女の子を売ってくれるんだっけ。……人身売買とはこれいかに、だが」

 生きていたんだと思う。

 

 

 

 

「───さて、取引をはじめよう」

 これは、ただそれだけ(竜とこころの)の物語。




特に語ることはないです。ただ、勢いとノリで書いて最後のシーンが書きたかっただけ……かな。


割とこの手の作品にあるテーマ(兵器や機械の心)を、兵器を生き物(竜)にしてすっ飛ばした。
そしてその先にあるのは、それが正しいか間違っているかだと思います。そして、私なりの答えを書いたつもりです。

短編ですが、あとがたりを活動報告で書く予定。宜しければ、除いてやって下さい。



それでは、読了ありがとうございました。
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