無限に等しい死を味わう。
なら、生き返っては死ぬの繰り返しだろうか。そんな考えから書きなぐったもの。
「いや、いやいやいやいや…!私、まだ誰にも認められていないのに」
「死にたくない、死にたくない!いやぁあああぁ──!!」
視界が一瞬だけ、紅く染まる。
その光景に驚き、目を開けば…そこは先程まで居た特異点とは違う。
クラシックな木造の造り、やや硬いクッションを利かせた長椅子。目の前にも、自分が座っているのと同じ長椅子が設けられている。隣で、何やらチカチカと光っている…覗いてみることにした。
目に映ったには、今にも消えそうで燈すのがやっとといったガス灯とこの場所を示す看板、奥の方には改札口…駅と思わせる建物がこぢんまりと立っている。
どうやら此処は駅の様で自分以外の乗客は、誰も居ない。
この駅を示す看板も、何処か雲がかったかのように名前すら確認できない。
近くの扉は開いている。同じように開いているドアはいくつかあり、此処が列車だと思わせる。
「え、何よ…私、カルデアスに……」
自身の今置かれている状況に間をさすかのようにSL列車でよく耳にする蒸気を吹き出す音が、耳に響いた。
その音に驚くと同時に反射的に降りようと立ち上がる、が…すでに扉は閉められ列車は走り出してしまった。待って、の声すらも出させないように無慈悲にも…列車は何処へ行くのか分からないまま、走る。
走り出してしまった…その答えだけが残った。
力を無くし、先ほど座っていた椅子に再び座った。この列車は何処に向かっているのだろう、何故自分が此処に居るのだろう。答えが出ない疑問だけが、グルグルと忙しなくめぐり巡る。
だが、一つだけ知りたくもなかった事実がある。
私、…私が信じてしまったレフ・ライノールの裏切り。
あの時の顔は忘れることは出来ない。私をカルデアスに放り込んだ時の、あの顔は忘れられない…忘れたくても、それが出来ないほど焼き付けられた。
思えば、私自身がおちる所まで堕ちていったのは…父が没してから。突然、父の自殺を受け何の準備も無いまま、私はアニムスフィア家の当主としてカルデアの責任者、所長として就いてしまった。
我が身だけで放り出され、手探りで当主として所長としての仕事を懸命に熟そうとした。悲鳴を上げる身体に鞭打ち寝る間も惜しみながら周りから認められるような上司として、私は砂利だらけで、岩が危なっかしく転がる道を走っていった。
……──だが、結果はどうだ。
全ての行動は空回りし、職員たちの不信や不満も募らせ影で叩かれる。
追い詰められる、追い詰められている…私は自身を追い詰めていただけ。
泣き言も言えず、自分の空回りする様子に苛立ち、声を荒げる。そして、一番ショックだったのは…魔術師でありながらマスター適性が皆無であったこと。この時、私の中でナニカがあっさりと音も無く、壊れたのだと今更ながら知った。
コレを機に拍車が掛かり、…底まで堕ちる。
そんな私に手を差し伸べた…いや、つけ込んだのがレフだ。
彼は私の欲しい言葉を贈り、それでいて私を擁護してくれる。けど、彼はあるモノだけは私に送らなかった。
彼は私を認めていなかった。とは言え、周りも認められていないけれど。
憎悪に似て、私の落ちぶれた姿を心の底から愉しみ、蔑む様子を見れば私はこの男にとって価値を見出さない存在、だと。だから、認める事は無かったし何より認めるつもりはない。
「私、一体何やってきたんだろう……」
…けど、思えばロマニは私を見ていたのかもしれない。
あの男は、まだ物心つく前からずっと近くで、私を見ていたような気がする。父の友人だから、友人の一人娘だから…そんな、よくある小さな関係。けど、そんな小さな関係でも…もしかしたら、その関係を少しでも進歩させていたら、変わっていたのかもしれない。
だが、もう遅い。
もう、遅すぎるのだ。
「…この列車は、何処へいくのかしら」
今も走る列車の中で、窓から覗く景色をぼんやりと見つめる。
先ほど、停車していた駅の姿はとっくに見えなくなっており在るのは幾多の小さな光が散らばり、時々一筋の光の道が走っては消える。
そこは宇宙、銀河のような外。
宇宙であることを示すかのように丸い形をした星、惑星の姿が見える事も。また、月に似た衛星を侍らす惑星も見かける。
外には音は無い、けど列車の中ではエンジン音と炉を燃やす音が聞こえるだけ。それを除けば、この空間は静寂に等しい。
ふと、頬に冷たい感触を覚える。指でなぞると、湿っぽいのがわかる。
私は、泣いているのだと理解した。
それに気づいた瞬間、押し込んでいたナニカが吹き出し…まるでダムが決壊したかのように、目から涙が溢れる。止めようにも止められず、はしたなく惨めな気持ちが一杯に成り声を押し殺して泣いた。
誰も居ないのなら、大きな声を出して泣いても良かった。でも、ゴミ箱にでも放りこめばいい小さなプライドが邪魔し、思いっきり泣けるに泣けなかった
ふと、視界に白い布、ハンカチのようなモノが映る。
そのハンカチを手にしている腕は青い毛で覆われ、まるで動物の足を思わせた。涙を流し続ける目は腫れ、鼻水も流れ至る所で洪水が起きて、みっともない顔を上げる。
「よかったら、どうぞ」
目の前には青と白の毛を持った一匹、…いや一体の猫が紅いチェック柄のベストを着て二足歩行で立っていた。尻尾は緩やかに天井を指すかのように伸び、時々揺れている。その様子を見て、少し気持ちが晴れやかになった。
「……あり、がとう」
渡されたハンカチで涙をぬぐう。見知らぬ存在、猫にこのような顔を見られて恥ずかしく思う。けど、不思議と嫌という思いは感じなかった。
「差支えなければ、聞いても良いかい?…いや、君が言いたくないのならそれでも良いんだ!」
金色の瞳がこちらを映す。
吸い込まれそうなほど、美しく妖しい色で私を見つめる。下手をすれば、私はこの瞳に魅入られそうだ。
「…」
「……うん、無理に言う必要はないよ」
「ごめんなさい、恥ずかしい所を見せちゃって…おまけに、ハンカチまで」
「いいんだ。男ってのはね、泣いている女の子の前ではカッコよくありたいんだから」
その猫はあどけない笑みを浮かべ、私の前の席に座る。
「ところでさぁ、君なんて名前?」
とぼけたような声で、自分の名前を聞いてきた。
「オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア…。好きに呼んで頂戴」
「ん。なら、──オルガって呼ばせてもらおうかな」
一瞬だけ、…一瞬だけだが彼の顔が少しだけ哀しそうに見えた。
なぜ、そのような顔をしたか分からない。聞いても、きっと彼によってはぐらかされてしまうだろう…そう思った。何故、そう思ったのかはわからない。自分でも、よく分かっていないのに。
「そうだ、オルガはこの列車は初めてかい?」
「え、えぇ…」
「この列車には名前はないんだけど、それは些細なこと。この列車は見ての通り、宇宙、銀河を走る珍しい列車なんだ。僕も、この列車には何度か乗った事あるけど…うん、やっぱりこの車窓から覗く景色は格別だね」
銀河を走る列車、…普通ならこのように宇宙を駆ける列車なんてありえない。
魔術的要素があるのか、調べようにも目の前の彼は魔術なんて知るはずもない。本来、魔術師は表立って術を駆使するのは避けたがる。面倒という理由でもあるが、境界線を越えるという行為は少なからず抵抗があるようで。
とは言え、彼の言っての通り車窓から覗く景色は見るモノを感動させるには十分。
「あ、見て!南十字星だよ」
「え…」
彼が身を乗り出し、まるで子供のように無邪気な笑みを浮かべ興奮している。興奮気味な声に押され、窓を覗く。車窓か見えたのは紛れもなく、十字架を模した星々のきらめき。その真下には小さな教会と駅が佇み、その光を一身に受けている。ただ、よく目を凝らしてみるとその建物と駅は廃れた印象を受ける。
「あの駅は、ずっと昔に廃線になったんだ。理由は分からない、でも…不思議と寂しいとは思えないんだよね」
「どうして?」
「だって、こうやって車窓から覗く僕らをあの十字架はずっと見てくれてる、って思うと寂しいとは思えない。また逢えた、って嬉しくなるんだ」
彼の言っている事に偽りを感じられない。
明快な理由も無い、けど…何処か理解できる自分が居る。
あまり、単純な理由と言うモノに慣れない。物事には必ず、裏があるっていう事を身に染みている…。
レフの時と、同じように。だから、私は彼の言っている事は理解が出来ないけれど、それが羨ましいと感じてしまう。
私も、もう少し余裕を持てばこんな風に笑っていられるのかしら。
「ねぇ、この列車は何処へ向かっているのかしら?」
「んー、わからないな。この列車って、結構気まぐれなんだよねぇまるで猫みたいに」
それは自分のことを言っているのと同じでは。
そう言おうにも、彼に失礼だと思い胸の内に仕舞う。しかし、目的地の無い列車なんて見た事も、聞いた事も無い。けど、そんな列車に乗っているのだから、どうもわからないもの。
南十字星をしり目に、外の景色はまた宇宙の空へと戻ってしまった。しばらくして、場内に音楽が流れる。
クラシック、…それもどこかで聞いたことのある名曲。
「…そろそろ、オルガ、君は降りた方が良いね」
「どうしてよ」
「切符を見せるんだ。君の切符は無くならない、
彼の言っている事が解らず、切符なんてものを持っていないと言い切った。言いきってはみたものの、彼は静かに笑みを浮かべ首を横に振る。私は何故、彼がそんな顔をするか分からず、ポケットの中を探れば…紙の感触が指に伝わった。
ポケットから引っ張り出し、目の前に持ってくると文字通り切符であった。
なぜ、自分のポケットに切符があるんだろうか。その疑問を彼にぶつけようとするも、背後に気配を感じ振り向く。そこに立っていたのは、車掌と思わしき格好で帽子を深々と被った小柄の存在。
「…まもなく、──駅です。切符を拝見します、……ご利用ありがとうございます」
「いってらっしゃい、オルガ。大丈夫、君は強い子だ…君が信じる事を貫けばいい」
「まって、貴方は何を言っているの。それに、あなたの名前…聞いていないわ」
なぜ、この期に彼の名前を聞こうとするのか。普通なら、もっとあるはずだ…次に止まる駅のこと、この車窓の存在…いろいろあるはずだった。
「…ぼくは」
彼が口を開き、名前を言う途中でドアが開く。車窓はその体型に見合わず私を横に担ぎ上げ、私はそのまま外へと放り出されてしまった。車掌から覗く彼の姿は、とても暖かくまるで母親の様だと感じた。
オルガマリーロスで、真面目にゲームから引退したしょうもないオタクが書いたもの。
突発的な短編。見切り発車とはよく言った。
気が向けば続きを書くかもしれないし、書かないかもしれない。
それはそれとして、サーヴァントに愛でられるオルガマリーが見たかった。
誤字修正 5月2日