Untold Myth   作:トラロック

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ユーカリン・ナナツタエ
#2-0A プロローグ


 

遭遇

 

 【片翼剣姫】『アイズ・ヴァレンシュタイン』の次なる標的は奇しくも因縁のある【ヘスティア・ファミリア】の団員であった。

 冒険者としての『殺し』の技術が冴え渡る。――というのは些か皮肉めいていて、笑えない。

 最初から敵意をぶつけてくるからこそ――ある意味では――ためらいを必要としなくていい。

 ()()()()()()そういう事にしておかなければ冒険者として続けていられないから。

 強敵と認めた『ポラン・ブーニディッカ』は既に居ない。悪夢は去った筈だ。

 

 あのモンスター共々――

 

 それなのに――悪夢の再来か、と。

 彼女(ポラン)との戦闘は互いの主神の了承――了解の上で執り行われた。それを逆恨みされるとは想定していなかった。

 無視する事もできない。しかし、主神たる『ヘスティア』もお手上げのようだった。

 ならば迎撃するしかない。

 

 向こうが勝手に敵だと判断して襲ってきても()()アイズが本気を出すわけにはいかない。

 その辺りが実にもどかしい。

 本気は出せないが振りとして相手をする。

 こちらは手負いだ。――それと次の【ランクアップ】が控えている。

 

「……君は……何なのかな」

 

 口を尖らせ古傷を気にしつつ相手を睨みつける。

 大人であれば怯むかもしれないが、アイズはまだ十二歳になったばかり――

 敵性クリーチャーこと――名前は確か『ユーカリン』といった――

 冒険者になりたての歳若い少女が仲間の敵討ちとは殊勝である、と。

 ――しかし、冒険者というよりは駆け出しの暗殺者のような姿は何なのか。しかも凄く目立つ色合い――

 極東系とも違うようだが――

 

「……いい加減にしないと……殺し合いになるよ」

 

 不壊属性(デュランダル)細身の剣(デスペレート)を抜き放つ。

 片腕だと引き抜きも不恰好だが――

 顔の傷は()()癒えていない。

 剣を持つ指も()()揃っていない。

 不完全な状態でも負ける要素は感じられないが――さて、どう戦えばいいのかと思案する。

 

「……でも、敗北を知っておいた方がいいかもね」

 

 駆け出しとの力の差を見せ付ければある程度は抑止力となる。

 そう思って体勢を低くする。

 敵の獲物は二本の小剣。ポランとは違う戦闘スタイルは気持ち的にも――少しだけ安心した。

 

 彼女(ポラン)はとても弱く、とても強かった。

 願わくば――真っ当な戦闘が出来れば――もっと良かったのに、と今でも思う。

 ユーカリンも同じ道を辿るとは思えないが――

 ()()がそう何度も起きては困る。

 

「……【目覚めよ(テンペスト)。エアリエル】」

 

 『風』の付与魔法(エンチャント)にて一気に勝負をつけるアイズ。

 駆け出しに奥の手があるとは思えない。けれども()()()()()とも言い切れない。

 頭の片隅に僅かな警戒を置きつつ突進する。

 これで終わりだといいのだけれど――というアイズの願いは果たして――

 

 

 


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