めぐねえが好きです!   作:アテナ(紀野感無)

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今回で、レイの地下で何があったか、何をされたかがわかります。

クリスマスなのにこれを投稿するのはなぁ…と思いながらもまあいいか、と思いました

さて、10,000字超えてますが、暇なお方はどうぞお楽しみください


それではどうぞ


5話 地下の地獄の始まりと終わり

「ユウちゃん…!」

 

ユウちゃんからの電話があって、屋上から飛び出した。廊下に出ると、そこにはヤツラ…映画に出てくるゾンビ?のような奴らがたくさんいた。

 

「うっ…」

 

思わず、吐き気を催した。

けど、なんとかそれを飲み込む。

 

「だれか…!たすけ…」

 

所々に、生きた人がいた。窓際に追い詰められていた。

 

「っ!そこの人、助け…」

 

 

でも、何故だろうか。

それらが、同じクラスの人だと、わかった瞬間

 

僕は、その人を

 

見捨てた

 

 

手元にあった、瓦礫を、そいつの方へ無意識に投げ、音を鳴らした

 

すると、ぼくの前にいた奴も、その音がした方へ向かって行った。

 

「なん…で、いや、いやぁぁ!」

 

 

 

悲鳴を背中に受けながら、下へ、下へと降りる。

 

 

所々にも、逃げ惑ってる生徒がいた。

けど、その全てを、確実に助けれるものがあったのに、その全てを僕は見捨てた。いや、むしろ人のいる方に向かうよう、誘導して自分だけ助かるようにしていった。

 

 

驚くほど冷静だった。

非現実的なことに直面しているはずなのに、体はスイスイと動く。

 

正確に、最適なルートでゾンビ達の間を潜り抜けていく。

 

 

「っ…多…」

 

一回まで降りると、そこは上の階以上の地獄が広がっていた。

 

さっきみたいに間を縫って走り抜けるなんてことはできないくらいに、ゾンビがいた。

 

「地下への階段は…向こうか」

 

けど、それをみても驚くほど冷静だった。記憶にあった学校の見取り図を必死に思い出して地下への階段の場所を確認する

 

「廊下は無理…でも、外から回れば…いけそう。うん…急がば回れ…」

 

近づいてきた奴のうち窓際にいた奴の足を払って転ばせて、その隙に窓枠に登る。

 

そして、窓枠を伝って移動した。

 

近づいてきた奴は、その都度蹴り飛ばした。

地下への階段は一番端。だから一旦降りてホールの外を通って、渡り廊下の直前にある事務室のところまで来た。

 

事務所の窓ガラスを蹴り割って入る。

多少擦り傷できたけどどうても良かった。

 

「っ、ユウちゃん!どこ!」

 

けど、そこにはゾンビ以外誰もいなかった。

 

廊下に溜まっているゾンビと、地下へ向かっているゾンビ。その二種類しかいなかった。

 

「ユウちゃん!来たよ!どこ!」

 

そう叫ぶも、ユウちゃんからの返事はなかった。

 

「っ!まず……」

 

叫んだことにより、周りのほぼ全てのゾンビがこっちを向いた。

しかも地下へ向かっていた奴まで僕の方を向いた。

 

 

本能的に、自分の死を悟った。

 

 

「っ…やだ、まだ死にたくない…」

 

 

死ぬのかと思うと、途端に体が全く動かなくなった。

 

「やだ…まだ、慈さんにも何も…」

 

手が目の前に迫った。

 

 

 

その瞬間に、血飛沫が上がった。

 

 

 

「レイ!何してんの!早くこっちに!」

 

突然目の前から血が吹き出てかかってきたかと思うと、そんな声が聞こえた。

 

その方向を見ると、地下の方にユウちゃんがいた。

手には、消火器を持っていた。

 

そして、勢いよく噴射し、ゾンビ達に吹きかけた。

 

「ユウちゃん!無事…」

「あ、レイ!そのナイフ抜いてね!あと感動の再会は後!早くこっちにそのナイフ抜いて走って!」

「え?あ、うん!」

 

さっき僕に手を伸ばしていたゾンビを見ると、ナイフが側頭部に刺さって倒れていた。

そのナイフを抜き、ユウちゃんの方へ向かって一直線に走る。

ここに来るまでにやっていたように、ゾンビの間を縫って走り抜ける。

 

「そのまま地下にむかって!そしたらシャッターあるから、閉める準備だけ整えといて!」

「うん、わかった!」

 

通り過ぎる際に、ユウちゃんにナイフを渡してそのまま走り去る。

 

階段をさらに降りると一本道になっていて、至る所にゾンビの動かなくなったやつがいた。

ざっと20匹くらいだろうか。

 

それらに目もくれず走り抜けるとシャッターがあった。それを思いっきり上にあげ、そばにあった机を置き完全に閉まらないようにする。

 

 

五分くらい経った頃だろうか。時間感覚もよくわからなくなったまま待っていると、ユウちゃんが走ってきた。

 

後ろに奴らを大量に引き付けた状態で。

 

「いくよ!タイミング合わせてよ!」

「わかってる!」

 

そしてユウちゃんはスライディングしてきて、それに合わせるように机を外に蹴り飛ばしてシャッターを下ろす。

 

綺麗にユウちゃんだけ入った瞬間に閉まって、ゾンビ達は1匹たりとも入れなかった。

 

「はぁっ…はぁっ…。レイ、ナーイス。あー疲れた…」

 

「お疲れユウちゃん。…ありがとう。たすけてくれて」

 

「いやぁ、びっくりしたわぁ。てっきりしばらく経った後に来るもんだとばかり。そしたら電話して直ぐに来たんだから。この辺であらかた片付けた後、戻ってたらレイの声聞こえたから慌てて戻ったのよ」

 

「本当に…ありがとう」

 

あれ、おかしい…な。涙が止まらない。

 

いくら虐められても、涙なんて一度も流したことないのに。

 

なんで…。

 

「…ひとまず、色々ありすぎた。ひとまず休も?大丈夫、この中は安全だから」

 

「うん…」

 

そうして、ユウちゃんと地下室の奥の方へ歩いて行った。

 

「いやぁ、すごいよここ。薬もあればお菓子もある。ご飯もあるし電気も水もある。なんでもあるよここ」

 

「そうなんだ…。そういや、ユウちゃんってどうやってここまできたの?」

 

「あたし?陸上部の練習してたら急に悲鳴聞こえてきてさ。周りを見たら人が人を噛んでんだもの。何が何だかわからないまま無事な人を逃すように、立ち回ってさ。んで、校内も手遅れだーって思ってたら地下見つけて、これに行ってダメならダメだ、って思って他の子と入ったのよ。そしたら超あたり。んで、その後は上に行って無事な人を助けて、地下に連れてきて、上に行って、の繰り返し」

 

「そうなんだ…。それで、何人助けれたの…?」

 

「うーん、それが……たった2人ぽっち。本当は最初に陸上部の子達と地下に行ってたんだけど、途中で私ともう1人以外みんな噛まれて…。地下から校庭まで行っても、無事な人なんて5人いたかいなかったか。でも全員は流石に無理だから、確実に助けれそうな人だけを助けたの。

 

ほかは見捨てた。

 

まあ、もし生きてたら私のところに復讐に来るでしょ、きっと」

 

ユウちゃんは、何でもないかのように、そう言った。

けど、不思議なことに僕はそれに何も感じなかった。

 

当たり前だ、と思った。

 

「そういえば、あのゾンビ…?を殺すのにもなんのためらいもなかったよね」

 

「ん?当たり前じゃない。ためらってたら私が殺されてるっての」

 

「ああ…そう」

 

今度も躊躇いなく答えてきた。けどまあ、それもそうか。

 

「逆にレイこそ、どーやってここまできたのよ。あの怖がりなレイがよくここまで来れたわね」

 

「…わかんない。けど、気づいたら地下への階段の前まで来てた。上の階で、生きた人やゾンビ達は見たけど…1階についてからはよく覚えてない」

 

「そ…。まあ、レイの身体能力なら普通に来れそうだねぇ。あ、そいや他に生きてる人はそっちにいた?」

 

「え?えと…慈さんと、陸上部の人と、補習受けてた人と園芸部の人が…」

 

「…ん?陸上部って、だれ?」

 

「え?えと…ツインテールで、大学生?の男の人を担いでた人」

 

「あー、恵飛須沢か。なるほどなぁ。よく男1人担いで屋上まで逃げれたよ、あいつ。んで、他に生きてた人は?」

 

「いたけど…どうなったかは知らない。さっき言った4人は屋上にいて、無事だったのは見たけど…」

 

「どうなったか知らないって…見たんだろ?」

 

「見たけど…見捨てた。邪魔だったし…それに、中に同じクラスの人とかいたから、そっちに石投げて意識向けさせたりとか、した。それでそいつらに向いてる隙に降りたり、間を縫うように走ったりとか」

 

「…」

 

あれ、ユウちゃんが黙った。

 

「なあ、レイ」

 

「なに?」

 

「お前、クラスメイトを見捨てたとき、どう思った?」

 

「え?

 

()()()()

 

「…」

 

「なんでアイツラのようなクズを助けなくちゃいけないの?僕の時は、助けるどころか加担して、虐めてきて。そんな奴らをなんで助けなくちゃいけないの?」

 

「…そ。まあいいわ。んじゃ…はい、ここが私達の避難場所」

 

と、なんか途中で色々入ってるボックスとかいろんな部屋があったけど、その全てを素通りしてすごい広い場所についた。

 

「おう、南雲。ようやく帰ってきたか。てっきり死んじまったかとおもったぞ」

「あんな所で死ぬもんかっての」

「ま、そだわな。んで、そいつが……」

「うん、私の幼馴染」

 

そして。そこには2人いて。

そのうちの1人---男子が一人、女子が一人いた。

 

しかも。そいつらは、とても見知った顔だった。

 

「……っ!」

 

「ん?なんだ丈槍かよ。うーわ。なに、南雲って丈槍と幼馴染だむたの?」

 

「何?なんか文句あんの?」

 

「いーや別にぃ」

 

「あっそ、んじゃほっといてよ。私が誰と幼馴染だろうが関係ないじゃん」

 

ユウちゃんが何かを言い合っているなか、僕は情けないことに、ユウちゃんの後ろに隠れて震えていた。

 

苦しい、呼吸ができない。過呼吸になりそうだ。

 

吐き気がする。

 

この人間達をどうしても拒絶してしまう。

 

 

非常事態だから協力し合う、なんてことを考える前に、僕は即座にこいつらをゾンビ達の中に放り込みたくなったが、それ以上に拒絶感が勝った。

 

 

「…ちっ、今てめえと対立すんのは得策じゃねえな…。あーはいはい。今は手を出しません。これでいいか?」

 

「今は、じゃなくて今後二度と。それ約束しないなら、この中に遠慮なくゾンビども入れるよ?別に、私はお前らがどうなろうが知ったこっちゃないからね。とりあえず助けて、って言われたから助けただけ。私達も死ぬぞ、って脅しは無意味だよ。悪いけど君たちの知らない安全な隠し通路見つけたから」

 

「…」

 

「そういう訳で、大人しくしておくのが吉だよ?上の階にも生存者いるみたいだし、その人達と合流できたら多少変化あるだろうし。それまでは我慢しときなよ?」

 

「あーはいはい。わかりましたよ。チッ…」

 

そう言って、男は女と一緒に隅の方に移動した。

 

「…レイ。アイツらとどーゆー関係?」

 

「…イジメられてた。ずっと、ずっと。慈さんに見つかるまで、ずっと」

 

「なるほどねぇ…。どうする?レイ」

 

「どうするって…?」

 

「だーかーらー。殺したい?殺したくない?ぶっちゃけると、人はいなければいない方がいい。間引けば、食料もさらに温存できる。ただデメリットとしては何かしら事を起こす時の戦力低下。でも正直アイツらが役に立てることと言ったら囮くらい。…どうする?」

 

突然そんな事を聞かれたから、頭の中では軽くパニックになった。

けど、答えはすぐに出た。

 

「いや…今はいいよ。もし今後、危ない時があったら…()()()()()()()()()()()()()

 

「オッケー。んじゃ、今しばらくは大人しくしてようか。さ、そうと決まればこの地下の案内しやきゃね。何があるかとか分かんないでしょ?ほら、行くよ!」

 

「え、ちょ…」

 

そしてユウちゃんに思いっきり手を引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜約1ヶ月後〜

 

「おい、とっとと起きろ丈槍」

 

「いっ…」

 

誰かに蹴られて、目が覚めた。

 

「ひっ…」

 

蹴ってきた人を見ると、あの男で、一気に体が強張った。

また呼吸ができなくなりかけた。

 

この一週間でだいぶまともになったけど、拒絶感は無くならなかった。

 

近づかれるだけで血の気が引いて、触れたら過呼吸に陥ってしまう。

ユウちゃんができるだけ近づかないようにしてくれたけど、それでも治る気配はなかった。

 

「はっはっ…」

 

「んだよ、めんどくせえ。南雲のやつが呼んでるんだよ。とっととこい、クズ」

 

「っ…」

 

「ちっ…早く来いってんだよ!」

 

「わ、わかった…わかったから…」

 

再度蹴られそうになって、慌てて避けて壁際に移動する。

 

…ユウちゃんの存在が、大きいというのを今これでもかと実感していた。

 

男が何処かに行っているのに、十数メートル離れながらもついていく。

 

上の階に上がって、そこからさらに上に上がる。

 

そして、外と地下を隔てるシャッターの前で男が止まった。

 

「…ユウちゃんは?」

 

「この先だよ、早く行け」

 

「…君といつも一緒にいた女の人は?」

 

「いいからとっとと行け!」

 

そう叫ばれて、慌ててシャッターを開けてその先に行く。

そして男もこっちにきた。

 

「こっちだ」

 

そして、上の階に進んでいく。階段を上がるとすぐに警備室が見えた。

周りをよく見ると、簡易的なバリケードみたいなのを作っていて警備室と地下室にはあのゾンビ達が入ってこれないようになっていた。

 

そして、そこにユウちゃんとあの女がいた。

 

「あ、おはよーレイ。そいつに何かされなかった?」

 

「何もしてねえよ」

 

「お前に聞いてないよ。レイに聞いてんの。んで、レイ。何もなかった?」

 

「…」

 

何かを答える前に、男に睨まれた。何もいうな、って脅すかのように。

 

「だ、大丈夫だよ。なにも…なか、った。ただ、僕が拒絶しかけただけで…」

 

「…そ。ならいいわ。うっし、そんじゃあ今日やることねー。今日は購買のとこまで行って食料その他必要な物の確保」

 

そうして、ユウちゃんはみんなにカバンを渡した。

 

「ゾンビ達の処理は主に私がする。ただ、極力見つからないようにしてもらえると助かる」

 

「別に食料は地下にあるだろ。わざわざ危険を冒してまで上に行く必要あんのか?」

 

「地下のは巨大な冷蔵庫に入ってるようなものだし、保存食のようなものもたくさんある。でも購買部のは荒らされてなければかなりの食料庫。それに加えて購買部のはたべれる期限が短い。わざわざ地下のを消費するよりは先に上の食料をとったほうがいい。そうすれば地下の物資を温存できる。万が一、助けが来るまで地下で籠城する羽目になったときのために」

 

「…なるほどな」

 

「はい、んじゃ目的もはっきりさせたところで行きましょー」

 

ユウちゃんが先導してバリケードを乗り越える。

それに続くようにして男が。その次に僕が。最後に女が乗り越えてきた。

 

 

 

そこからは、普通に進むものだと、思っていた。

 

普通に、ゾンビをユウちゃんが蹴散らして、僕たちは安全に購買部まで行けると、思っていた。

 

 

 

「っ!なんでいつにも増して数が…」

「ユウちゃん!こっちも…」

「クッソ!どういうことだ南雲!夕方になれば数は少ないんじゃなかったのか!」

「きゃ…」

 

一回で、少し進んだ時には、そんなにたいした量はいないと思ってた。

すぐにユウちゃんが蹴散らした。

でも、そこから一匹、また一匹とどんどん現れてきた。

 

最初こそ、数の少なさに調子に乗っていた。

けど、数十匹が複数の方向から出てき始めたら話は別だった。

 

地下への階段付近のバリケードまでも距離が離れすぎてる。

 

 

絶体絶命、だった。

 

 

「っ……無理矢理突破する!付いてきて!」

 

ユウちゃんが近くにあった消火器を一箇所に向けて勢いよく放出し、そこから更に追撃を行なう。

そして先導していってユウちゃんに男と女が付いていった。

 

僕は…

 

「レイ!余計なことしなくていいから!お前もこっちに来い!」

 

「え?う、うん!わかった!」

 

出来る限り、数を減らそうと、バットで首をへし折っていっていたが、ユウちゃんにそんなことしなくていいって言われて慌てて走る。

 

「ちっ…二手に分かれるよ!私と----は外から!レイと----は中!いい具合にばらけさせるわよ!」

 

ユウちゃんに言われて僕は男と校内に。ユウちゃんは女と一緒に外へ出た。

 

「っ…おい丈槍!いくぞ!」

 

ユウちゃんが居なくなったことにより体が一瞬強張ったけど、男の叫びでなんとか体を動かす。

地下までの直通ルートはゾンビが多すぎるため、さすがに無理と判断したのか、別校舎へ向かう。

 

 

 

そこからは、また記憶が曖昧になっていた。気づいたら、別校舎の二階の教室にいた。扉を机とかを全部使って簡易的なバリケードを作ってゾンビを凌いでいた。

 

「はぁ…はぁ…クソが……」

 

二階な為、入り口以外からゾンビたちが来るのを心配する必要はないのは良かった。

 

「…ぃ、おい!聞いてんのか!」

 

「っ!?な、何…」

 

「とっとと何か考えろってんだよクズが!」

 

「痛っ…」

 

思いっきり蹴られた。

 

 

なんで?僕何もしてないのに。

 

 

「くっそ…南雲の奴に仕切られてからだ…そもそもあいつがこいつを連れてこなければ…」

 

何かぶつぶつ言われたけど、よく聞き取れなかった。

 

 

「…。おい、丈槍。おまえ、あの中に()()()()

 

 

「は…?」

 

いきなりこっちを見たかと思うと男はそう言ってきた。

 

「おまえ、ここに来るまでは嬉々としてゾンビどもの首へし折ってただろ。だから、おまえが先導してあの群れをぶっ潰せ」

 

「な、なんで僕がそんなこと…」

 

「あん?適材適所だよ!とっとと行け!」

 

 

 

またけられた。

なんで、そんなことするの。

 

 

 

簡易バリケードの前に来ると、ゾンビ達の群れが数十人ほどいた。

こちらに手を伸ばしてるけど、ギリギリ当たらない。

 

「……」

 

思いっきりバリケードを、蹴飛ばす。そうするとゾンビ達は勢いよく吹っ飛んで、何体かは窓から落ちた。他はその場に崩れたりしたのが10体くらい。あとは周りに立っていて、僕を見た瞬間に近づいてきた。

 

 

まず、崩れた奴らの頭を、的確にバットで殴り潰す。

数発もやってたんじゃ、効率が悪すぎるから一発で的確に。

 

 

次に周りにいたやつ。

バリケードに使っていた机のうち一個をもって、思い切り振り回す。倒れたやつから、一体ずつ頭を潰す。

 

「おい!こっちだ!早く来いクズ!」

 

 

 

黙れ、何もできない癖して。何もしてくれない癖して。

偉そうに命令だけしてくるんじゃない

 

 

 

何かを吐き出すように、目の前にいた一体を、力の限りを尽くして潰した。

返り血をすごい被ったが、特に気にしている余裕なんてない。

また後ろからたくさん近づいてきてる。

 

それを見て舌打ちをして、男の方に向かって走る。

 

階段のところまで来て、ゾンビに向かってまたバットを振るった。一番上いたやつを倒すと、ドミノ倒しのように、連なって倒れた。

 

流石に頭を潰す余裕はないので、顎を蹴飛ばしながら、僕が先導する形で下に降りる。

 

 

「っ…邪魔!」

 

おそらく音が響いていたからだろう。

ゾンビ達が群がっていた。

 

だから僕は、すぐそばにあった教室のドアを、力づくで取って、それを思いっきり振り回した。ゾンビ達の体がいとも簡単に吹っ飛んでいく。

 

「はあっはあっ…」

 

「おい!こっちだ!」

 

男に呼ばれた方向へ、急いで向かう。

男を通り越して、先に行き、ゾンビどもをバットで殴って、蹴り飛ばして、蹴散らしていく。

 

気づくと、警備室の近くまで来ていた。

すぐそばにはバリケードもある。

 

 

けど、突破されかけていた

 

 

「うぁぁあ!」

 

 

そこに向かって、叫んで突撃する。

叫んだことによって、周りに溜まっていたゾンビは粗方こっちを向いた。一体潰して、一歩下がり横から来ていた奴の頭を殴る。そのままバットを振り回してゾンビ達を後退させる。

それを、ずっと続ける。

倒しても倒しても、どこからかゾンビ達が集まってくる。

 

そして数秒、ほんの数秒だけ、ゾンビ達がいなくて、安全に走り抜けれそうなところまできた。

 

 

その瞬間に、その道を誰かが走り抜けた。

 

 

それは、あの男だった。

どこかに隠れていたのだろうか。

 

そいつは、シャッターまで一直線に走り、開けて、その向こうへ入った。

 

 

 

その瞬間に、確かに、男がこっちをみて笑ったのを、みた。

 

 

瞬間、背筋がゾオッと寒くなった。

 

そして、その瞬間に確かに、喋っていたことを、聞いた。

 

 

「ここまで守ってくれてありがとよ、丈槍。お陰様で安全にこれたわ。んじゃあな、丈槍。そいつらと元気でやれよ。

あとな、()()()はお前を同じ人間だなんて思ったことは一度もない。んで、お前なんかに食料を渡すのがもったいない。でも、生きているのならせめて人間(おれたち)の役に立ってから死んでくれ」

 

 

「俺…達?」

 

 

「ああ。そうさ。しっかし、()()()()も、酷いよなぁ。お前が唯一信じていた相手なのになぁ。お前はそいつに裏切られたわけだ」

 

 

は…?え?な、なんて言ったの…?

 

 

ユウちゃんが?僕を…裏切った?

僕が、いま正に、男に()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、ユウちゃんが考えたこと…?

 

 

そんな、そんなわけが…。

 

 

「う、嘘だ!そんな…デタラメ…」

 

「信じる信じないはお前の勝手だ。ま…もう無意味だけどな。じゃあな、丈槍。精々役に立って死んでくれや」

 

 

そう言って男は、シャッターを閉めた。

ロックする音も聞こえた。

 

 

「嘘だ……嘘だ……。ユウちゃんが…そんな…」

 

 

この時の僕は、いったいどんな顔をしていたんだろうか。

見たくもないが、見なくてもわかる。

 

 

 

今まで、必死になって、生きようとしたことは、無駄だった。

 

 

 

この地獄の中、唯一生きる希望だった人に、絶望の底へ叩きつけられた。

 

 

 

なんで僕はここまで必要とされない?

異質だから?

周りに合わせれなかったから?

 

 

なんで?なんでなんでなんでなんでなん------

 

 

「痛っ!」

 

突然、左足首に痛みが走った。

思わず左足を見ると、ゾンビに噛まれていた。

 

 

やばい、多分感染した。

このままだと、僕はこいつらと同じになる。

 

 

 

 

 

 

でも、もうどうでもよくなってきた。

ああ…もう、このままこいつらに身をまかせるのも良いのかもしれない。

 

 

でもこのままだと、ユウちゃんに、あの男に、あの女に、嘲笑われるかもしれない。

 

それに、アイツらの、思う壺。

それだけは嫌で嫌で嫌で嫌で

 

 

 

 

なら、壊しに行けばいい。アイツラが、僕のことを壊しにきたんだ。なら僕もやってやればいい。アイツラを、恐怖のどん底に、入れてやればいい。

報復を、すればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

地下には薬もあったはずだ。もしかしたら間に合うかもしれない。

左足首から、どんどんと痛みが広がってくる。それを我慢しながら、一旦周りのゾンビから逃げる

 

確か、ユウが言うには、隠し通路があるはず…。

 

「あーもう、テメエラ、どんだけ俺のこと好きなわけだ?俺なんかよりイケメンは外に大量にいるだろ」

 

校舎の外へ出ると、少し小雨になっていて、雨に濡れるのを嫌がったゾンビ達が校舎内へ入ってきていた。

 

「チッ…他に入れる場所は…」

 

地下があるであろう場所の近くを、注意深く見ながら、ゾンビから逃げる。

 

 

そして、その途中に、明らかに最近弄ったような、マンホールがあった。

 

それを素早く取り外して、その中に入る。ゾンビどもが追ってこれないよう、ちゃんと蓋も閉める。

 

 

その間にも、左足から広がってくる痛みは続いてる。

あとどれくらい持つ?数十分?それともあと数分?

 

とにかく、まずは薬からだ。

 

 

あの地下までは簡単だった。足跡がついていたから。

 

あとは看板もあったし。

これ、もしもの時の避難通路?かな。

 

足場が悪いけど、とにかく走り抜けた。

 

 

体感で2分くらいだろうか?それくらい全力疾走をした後に、扉が見えた。

 

それを走った勢いのまま蹴って開ける。

 

 

 

…けな…で!レイが……なこと…

…無駄…ぜ?それに……つは、お前…裏切ら…

 

 

 

 

その先にも、また扉があり、その奥からは、よく聞き慣れた、憎悪を向ける対象の声が、聞こえてきた。

何を言っているかはわからなかったが、多分俺が居なくなったことへの喜びの声だろう。

 

とにかく、それより先に薬だ。

ガァン!と派手に音を鳴らしながら入る。

 

そこには、()()と俺を囮に使った男と、それにずっと付き従ってた女がいた。けど、こいつらより先に、薬を、と思っていたのに、体は思わず男の方へ行っていた。

 

男が戸惑っていた中、目の前まで近づいた俺は、腹に一発、拳をぶち込んだ。

前かがみになったところを、無防備な首筋に向かって

 

 

()()()()()

 

 

周りから悲鳴が聞こえる。

だが、そんなものを意に介さず、噛み切らないくらいまで、顎に力を入れた。

そして口を離した後、今度は女を見た。

 

こっちは別段、何かをされた訳では……いや、されたな。よく侮蔑の目を、軽蔑の目を、奴隷を見るような目をしてきたな。

 

それを思い出した俺は、足の、しかも膝を前から思いっきり蹴ってやった。

ボキッという音と感触が感じれたことから、明らかに折れただろう。

 

それに噛み付く気力はあまりなく、喚く二人を放って薬の保管してある場所へ向かった。

 

南雲の奴からは、なんか色々と言われていたが全部無視した。

 

 

 

それにしても、あの男の血肉、なかなか美味かったな。薬を服用したらもう一回噛んでみるか。

 

 

 

 

「あっ…た!」

 

薬の棚の中を乱暴に漁ると、鎮静剤と抗生物質、実験薬と書かれた薬を見つけた。

注射器だったが、それを躊躇わず、かつ慎重に自分の腕に刺した。

 

中に入っていた液体が、体の中に入ると、痛みがほんの少しだけ和らいだ。

 

「はっはっ…」

 

「レイ!良い加減に説明を…」

 

「あ、あー?なんだ、まだいたのか()()。とっととおれの前から消えろ、目障りだ」

 

「え…?」

 

「聞こえなかったか?用がないなら俺の目の前から消えろ。まだ、お前に報復してないだけマシなんだぜ?」

 

「お前…誰よ」

 

「あん?丈槍零だよ。お前が見捨てた」

 

ああ、見捨てた相手のことは覚えてないってか?

 

「ま、そんなこたぁどうでもいい。とりあえずは…」

 

「ちょっ、待って!レイ!」

 

 

 

「…お、おま…え…」

 

「…」

 

シャッターの方へ向かうと、途中に男が血をドクドクと出しながら地に伏せていた。

 

 

…ウマソウ。

 

 

「…」

 

「がっ⁉︎」「痛い、痛いよ…なんで…」

 

男の脇腹めがけ、蹴りを入れた。

女の方には、頭を踏みつけてやった。

 

「…じゃあね、精々、惨たらしく、死ね」

 

男達を放置してシャッターの方へ向かう。

やるべきことは…

 

 

「レイ!お前いい加減に…」

 

「煩いよ、とっとと逃げろ。お前に何もしないのは、せめてもの慈悲だ」

 

「は…?」

 

「よし…よいしょお!」

 

 

シャッターを、思いっきり、()()()

開けた上で、上の方の固定するための器具を使って、開いたままにする。

 

「ちょっ⁉︎レイ⁉︎何して…」

 

「逃げろ、って言ってるじゃん。それじゃ…死なないように気をつけて。これから、上の一階をつなぐ階段のとこにあるシャッターもそうするから」

 

「はっ…?」

 

「これは報復だよ。

 

()()()()()……じゃあね、バイバイ」

 

 

「レイ…痛っ⁉︎」

 

振り返らずに、上の方へ走る。

後ろで南雲の叫びが聞こえた。

 

多分、あの男がゾンビ化して、それに噛まれたか?

 

まあ、どうでもいい。逃げなかったあいつが悪い。

 

 

 

「…?なんで、涙なんて出てんだ?」

 

 

 

とにかく、あのシャッターもだ。あれも開放してやらねえと。

南雲の奴なら普通に生還しかねない。

 

 

「はっはっ……よし、ここで…」

 

あの、僕が締め出されたシャッターのところまできた。

ロックを解除して上に持ち上げ固定した。

外には奴らが結構な数いた。

 

バリケードは既に壊されていたが。

 

「よし…これなら通り抜けれるか。そーれっ!」

 

近場にあった机を、ゾンビの群れの中に向かって投げつける。

それによりできた空間へ向かって走り抜けた。

階段のところから五メートルほど離れた後、階段の中へ向かって爆竹(なぜか物資の中にあったもの)を投げ込んだ。

その数秒後に激しい音がなって、ゾンビ達はそっちの方へ向かっていった。

 

「よし、後は…早く上に行かないと。アイツラが、めぐねえの所に行くかも…」

 

外では、雨が降っていてアイツラは濡れるのを嫌がって校舎内に集まっていた。

なら、上に行っている可能性もある。

 

これで間に合わなかったら、もう生きる意味なんてないしな。

善は急げだ。早く行こう。

 

めぐねえの元へ。

 

 

 

カチャン

 

 

 

「ん…?なんだこれ?…折りたたみナイフ?なんでこんな所に…」

 

向かっている途中、折りたたみナイフを蹴飛ばしてしまった。

何処かで見たことがあるものだった。

 

「…どこで見たんだっけか。まあいいや…とりあえず使えるものは使わせてもらおう」

 

バットじゃ心許ないし。

それよりかは殺傷力のあるナイフの方がいい。

 

「…どんどん上に集まってるな。早く行かないと…」

 

 

 

 

 

 

……ぇ!早……こっ…

…メ、みん…先…

 

上の階に上がると声が聞こえた。

めぐねえの声だった。

あの日に、聞いたことのある声の人もいた。

 

窓からあの人達が見えた。ゾンビ達に追われている。

 

前の方に3人、後ろに1人。

めぐねえが後ろだった。

 

その後ろには、さらに多くのアイツラが。めぐねえが必死に抑えているが、いつ噛まれてもおかしくない。

 

 

足に力を込めて、駆ける。道中にいたアイツラは、ひたすら避けて走る。

 

 

「めぐねえ!」

 

 

めぐねえ達のいる通路にたどり着いて真っ先にそう叫んだ。

 

アイツラもこっち振り向いたし、めぐねえ達もこっちを振り向いた。

めぐねえ以外の3人は、その先にある扉に入った所だった。

 

いや、それよりは先にめぐねえを襲いかけてるアイツラの処理だ。

 

「レイ君!無事で…」

 

「色々あると思うけど後でお願い!ひとまず逃げて!こいつらは俺がやる!」

 

一瞬戸惑いを見せていたけど、めぐねえは直ぐに走ってあの3人がいたところへ向かってくれた。

 

「そこの人!開けたままにしておいてもらえると助かります!」

 

「お、おう!」

 

その叫び声に反応したのか、また少しずつ、めぐねえ達の方へ向かっていった。

 

 

「わっ!」

 

 

思いっきり、声を腹から出した。

同時に、ガラスなんかも割った。

 

これでまたアイツラは全員がこっちを向いた。

音に反応する体質なのは本当に救いだね。

これで目の前の生体だけに反応だったら本当にやばかった。

 

チラッとめぐねえ達の方を見るとみんな避難が終わっていた。

よし、それじゃあ、こいつら殺せば終わりだ。

 

目の前にいた二体の間を潜り抜けて片方の首筋にナイフを突き立て、勢いよく横へ振り抜く。その勢いのまま今度は目の前に来ていた奴の頭に突き立てる。

そいつの体を蹴飛ばしてさらに奥にいた奴にぶつけて転ばせる。

 

転んだ奴を踏みつけて前方に跳んで、まだ先にいた奴の顔にナイフを突き立てた。

 

扉まで後二メートルくらい。アイツラは数体。ならわざわざやる必要はないかな。

 

「そっち入るんですぐ閉めてくださいねっ!」

 

「へ?」

 

倒すことをせず、間を縫って走り抜ける。

それで扉の中に入ると同時に、そこにいた人が扉を閉めてくれる。

 

「あっぶねえな!」

「すいません。でも、ナイスです」

 

ツインテールでなぜかシャベルを持っている人から、スライディングして入ったことに愚痴を言われたが、この際は許してほしい。

 

「ふー、間に合ったー」

「お前…確か…」

「ん?どっかで会いましたっけ?あ、めぐねえ。久しぶりです」

「レイ君…良かった……無事だった…」

「めぐねえこそ、無事で何よりです」

「めぐねえ!良かった…無事で…。あ、そっちの人…」

 

なんか、みんなと会ったことあるらしいけど、覚えてない。

 

「何はともあれ、みなさん無事で良かったです。…少し、休みたいんですが、何か休める場所に行かせてもらえると助かります…」

 

「え、ええ。わかったわ。みんな、この子をバリケードの向こうまで案内しましょう」

 

「「「はーい」」」

 

いつのまにかめぐねえ以外に3人まで揃っていた。こんなに生き残っていたのか。

 

にしても…つか……れた……。




今回でやっと追想編は終わりですね
次で…遠足かな?

よし、頑張って描きますぜ


読んでくださってありがとうございます

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