最近知り合いの高校生から演劇部で使う小物を作ってくれって頼まれた。
なんでも、子供が書いたホラーちっくなストーカーっぽいラブレターってのが必要らしくて、何通か内容の違う文面で書いてくれって言われたんだけど、安請け合いした割にはぜんぜん文書が思い浮かばない。
大体ホラーちっくでストーカーっぽいラブレターってどうしたら書けるんだろ? 何人かの男友達と一緒に昼休みを使って考えてたけど、そもそもストーカーの文章ってのが分からないからなぁ。
あんまり怖くない文面になった便箋を丸めながらそんな事を考えてると、お昼を食べ終わった束達が教室に戻ってきた。
それを見た友達の一人が、『書く相手を想像できないから怖い文章が書けないんじゃね?』と言って、束達を呼びに行ってしまった。
うーん、でも束や千冬に向けてストーカーみたいなラブレターって……書けるのかな?
「おーい、織斑と篠ノ之〜。委員長が困ってるから手伝ってくれってさー」
「はいはいどーせ下らない事で悩んでるんでしょ、君らもこの馬鹿の相手するだけ時間の無駄だよ」
「束……確かにこの男は圧縮言語のせいで時々会話の余地が無い時はあるし、思い立ったらすぐ行動と言う言葉がぴったりなくらい無駄に行動力があるが、何時もその下らない事を真剣に悩んでるんだぞ?」
「なんか褒められてるのに全然そんな気しないんだけど……」
「うん、正直俺達も委員長のその圧縮言語?に振り回されてるからバトンタッチ、力になれなくてごめんな委員長」
「おー、あんがとなー」
両手で謝りながら束達と入れ替わった奴らに手を振った後、改めて束と千冬に強力してもらう事になったんだけど、二人をモデルにして文章を作るのは思ったよりも文章が浮かんで来たから結構楽そうで良かった。
「で? 何で困ってんのさ?」
「ラブレターの文面が浮かばなくってさー」
「…………ラブレター? 誰宛ての物だ?」
「それが分からないから困ってんだよ、千冬」
怪訝な顔をした千冬と束に詳しい説明しながら、俺は新しい便箋を取り出して二人宛のラブレターを書いていく。
意外に喋りながら物を書くのは難しいけど、何となくスラスラと文面が浮かんでたのでとりあえずホラーっぽく仕上がったので、早速二人に読んでもらった。
まぁ書いた本人が言うのもなんだけど、束の添削待ちって感じだからそんなに怖くないはずなんだけど、何故か二人共固まってる。
「どったの? 全然怖くないだろ? だから困ってんだよ、何かいい知恵なーい?」
「……いや、その、十分以上に怖いぞ、これは」
珍しく不安げな目をしながら声を震わせる千冬、中々レアな表情をしてるけど、別に特別な事を書いた訳じゃ無いんだよなぁ……。
ただ普段の千冬の行動とか考えとかを想定しながら、ストーカーらしくずっと監視してるつもりで文章を組み立てただけなんだけど、そんなに怖いのかな?
「なぁ束? 束は怖くないよな?」
「……こ、怖くない。 怖くないんだけど、この束さんが引くくらい不安になる内容なんだけどコレ。君ホラー作家の才能があるよ、絶対に。束さんが保証する。いや全然怖くないんだけどね? どっちかって言うと生理的な気持ち悪さが酷い、例えるなら読めば読むほど背中にナメクジが這い上がってくる様な感じ? いや、怖くないよ? 夜眠れなさそうだとか、暫くカーテン開けられなさそうだとかそんな事は無いよ? 多分TRPGで言うSAN値チェックってこんな手紙読んだりしてなるんだろうね、本当に怖くないからね?」
「いや、涙目でそんな事言われてもなぁ……」
取り敢えず不安になりそうな文体と言葉選びをして敢えて日本語が不自由な感じにしながら、それでも内容が理解できる様に書いて見たんだけど、これは二人の性格を知ってるからってのが大きいと思う。
だからこう、誰が読んでも怖い文章ってのが書きたかったんだけど、中々上手くいかねーなぁ。
「あ、2枚目も……ひっ!?」
「ああそれ? 束はビビらないって思ってたから、昨日の夜にちょっとオマケで書いた眼球の挿絵入れてみたんだけど、書いた甲斐があったみたいで良かった良かった」
「おまっ、お前!! これ、挿絵ってレベルじゃないだろ!? サイコパスの書いた絵みたいな眼球のイラストがどの角度から見ても視線が合うってなんなんだよ!? 君の努力は趣味に全力なのは知ってるけどさ!! 努力の方向音痴過ぎない!? 背後から見たちーちゃんも絶句してるし!!」
「それめっちゃ力作なんだからな? 親父にトリックアートの作り方も教えてもらって作ったからさ」
結局、この昼休みは騒ぐだけ騒いでたら何時の間にか終わってた。
取り敢えず放課後に二人に協力して貰おうと思ったんだけど、二人とも『日が暮れる前に帰りたい』とか言って早足で帰っちゃったから、今日の内には完成しなかったんだよなぁ。
でも次の休みに演劇の内容を教えて貰ったから、それに合わせて手紙を書く事は出来たんだけど、後から聞いたら読んだ女の人が泣き出したらしくて、お蔵入りになったとかなんとか。
…………俺、真面目に書いただけなのになぁ。
主人公の人を見る目と他人の内側にすんなり入り込む事の出来る才能の悪用した結果、的確に人間の恐怖のツボを突いて全体的に人間の不安を増幅する様な書き方をしたストーカーからの手紙が完成し、天災すら恐怖する内容の手紙を書き上げました(震え声
束も千冬も今夜は箒や一夏と一緒に寝てる模様。
原作7巻までがどちらの会社かのアンケート(今後の描写に関わる為)
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MF文庫J
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オーバーラップ