お題を頂いたので書いてみました。

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加賀の松

 

どうしてあの子のことがこんなにも気になるのでしょうか。

 

あの子と初めて会ったのは執務室。ここの秘書艦である赤城さんに頼まれ新しい装備が出来上がったことを報告していた時に着任の挨拶をしにあの子がやってきた。

 

「僕が神風型四番艦、松風だ。君が僕の司令官か」

 

「ようこそ。我が鎮守府へ。こっちは加賀だ」

 

「加賀型航空母艦の加賀です」

 

私は当たり障りのない挨拶をした。冷静に挨拶をしたつもりだったけど、私の胸の鼓動ははやい。理由はわからない。けど、私は一目見ただけでこの子に興味が湧いていた。

 

「秘書艦の赤城さんは別の用でしばらく戻りませんが……私でよければ鎮守府内を案内しましょうか?」

 

「そうか……それなら頼もうかな」

 

私は提督に嘘をついた。

赤城さんに別の用があったのは事実だけど、あと五分もすればここに戻ってくる。たかが五分だ。少し世間話をすればあっという間に過ぎる時間。

けど、私にはその五分がそれよりも短い時間に思えた。はやくこの子と二人になりたい。赤城さんが戻ってくる前にこの部屋を出たい。

 

「わかりました。では行きましょう」

 

私がそう言うと、あの子は私のことをジッと見ていた。まるで値踏みするようにじっくりと。

 

「どうかしたの?」

 

「いや。何でもないさ」

 

この子はそう言うと、私の手をとった。心臓が跳ねあがるのを感じた。

 

「失礼。嫌だったかい?」

 

「いえ、突然だったから驚いただけよ」

 

顔に熱を帯びるのを感じる。私はこの子の横を通り過ぎて、扉の前に立つ。ひとつ深呼吸をしてみた。よし。大丈夫。

 

「行きましょう……どうぞ」

 

私は扉を開けて、振り返った。

あの子は私が開けた扉をくぐるとき、私に笑顔を見せた。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

この時ほど、自分が無愛想でよかったと思ったことはない。

 

ーーーー

 

鎮守府の中を案内しているうちに、この子といることにも少し馴れてきた。といっても、私もあれこれ喋るほうではない。必要最低限しか話さないから会話が短い。退屈していないだろうか。私は少し不安になった。

緊張が解れたからだろうか。私は上空からエンジン音がしていることに気がついた。ここは私と同じ空母の子が多い。本当は駄目なのだけど訓練中の子が鎮守府の上空に艦載機を飛ばす。この日も訓練中の五航戦の瑞の付く方が零戦を飛ばしていた。後で指導しなくてはいけない。そんなことを考えているとこの子が興味深そうに零戦を指差した。

 

「あれはなんだい?」

 

「訓練中の零戦です」

 

私は手短に答えた。

駆逐艦のこの子にここでの艦載機運用の規則について説明しても仕方ない。それにまだ着任したばかりだ。細かいことは追い追い覚えていくだろう。

 

「へぇ……あれが……初めて見たよ。もっと近くで見ることは出来ないのかい?」

 

「私のでよければ見せられるわ」

 

「是非見せてくれないか?」

 

「いいわ。ついてらっしゃい」

 

思わぬ形でこの子の興味を引くことができた。瑞のつく五航戦には後でお茶でもご馳走してあげましょう。今日の零戦はうまく飛んでいた、と褒めてあげましょう。

 

ーーーー

 

整備中の烈風改を見せる為に工廠までやって来た。

私の烈風改を整備している妖精は隣にいるこの子を見るなりニヤニヤしながら私を見てきた。

 

「気にしないで整備を続けて頂戴」

 

妖精が何を言いたいのかはわかった。烈風改はここでは私だけの専用装備。付き合いはさほど長くないけど、運用するのに当たって試行錯誤を繰り返したお陰でお互いのことはよく知っている。

 

「今日からここに配属になった神風型四番艦の松風さ。よろしく」

 

この子が膝に手をつき、覗き込むようにして妖精に挨拶をした。妖精はビシッと敬礼してみせた。でも顔はニヤついている。言いたいことはわかる。「加賀をよろしくね」とでも言いたいのだろう。

 

「残念だけど、さっき会ったばかりなの。あなたが期待している仲ではないわ」

 

私は人差し指で妖精のおでこを軽く小突く。そんな私の人差し指を妖精はパシパシと叩く。「またまた~」と言いたいのだろうか。

確かに、私が他の子を紹介するのは初めてだ。それが空母ではなく、駆逐艦の子。そういう勘違いをされても、納得できないわけじゃない。

 

「なら、これからそういう仲になる可能性もあるってことかい?」

 

この子が私の耳元で囁くように言った。

今までに経験したことがない程に心臓が強く脈打った。

 

「へっ……変なことを言わないで頂戴!」

 

自分でも動揺して声がひっくり返っているのがわかる。妖精は両手を口に当てて驚いている。顔が熱い。咄嗟に顔を背けたけど、耳まで熱くなっているのがわかる。

 

「そうだね。僕たちはまだ会ったばかりだもんね」

 

顔を背けているからわからないけど、この子が……松風が立ち上がったのは気配でわかった。

 

「飛べる子はいないのかい? 僕は加賀さんが飛ばしているところが見たいな」

 

私は答えなかった。まだ顔が熱いからだ。熱が引くまでまだ時間がかかりそうね。

 

「? あの子ならすぐにでも飛べるって?」

 

松風が独り言を言う。いえ、たぶん妖精と話しているのでしょう。私はチラッと妖精を見た。こちらに親指を立て、「頑張れ!」と言いたげな妖精がいる。

後で覚えてらっしゃい。今日のお菓子は梅干し一個にしますから。

 

ーーーー

 

私と松風は艤装を付けて海に出ていた。

本来なら艤装使用許可と出撃許可を事前に取らなくてはいけないのだけど、赤城さんに頼んで事後報告で済ませて貰おう。それよりも、今は落ち着かなくてはいけない。

松風が目を輝かせながら私のことを見ている。やっと少しだけ落ち着いた心臓がまた脈打ち始めた。これで弓を引けるのだろうか。

 

「やりにくいわね……」

 

そう呟くと、持ってきた烈風の妖精が私の肩に乗り、まかせろと言わんばかりの自信に満ち溢れた表情をしていた。おそらく、烈風改の妖精から事情を聞かされたのだろう。少しイラッとしたけれど、松風の期待を裏切るわけにはいかない。

 

「いきます」

 

いつもと同じように構えて、いつもと同じよう弓を引く。何回もやってきた動作なのにぎこちなく感じる。大丈夫。大丈夫。何度も自分にそう言い聞かせて矢を放つ。

 

「すごい……見事だね」

 

私の放った矢はすぐに烈風に変わり、急上昇をした。発艦に少し失敗したけど、妖精がうまく誤魔化してくれた。

私はそのまま二機目、三機目を空にあげる。 烈風達はそのまま綺麗な編隊飛行をして見せた。

こんなものでしょう。安心したことで緊張が解けるとお腹がクゥ~と可愛らしい音を立てた。あちこち歩き回ったからいつもよりも燃費が悪いのでしょう。それ以外の要因も大きいのだけど。

 

「あっ! いたいた! 加賀さ~ん!!」

 

私の腹の音は赤城さんの声でかき消されたでしょう。残念、松風と一緒にいれるのもこれまでのようです。

赤城さんは近くまで来ると、ジッと松風さんを見ました。

 

「あなたが松風さんですか?」

 

「そうさ。僕が神風型四番艦の松風さ」

 

「はじめまして。ここの秘書艦の赤城です」

 

二人が軽い挨拶を終えると、赤城さんはジトッとした目で私を見ました。

 

「なにか?」

 

私がそう言うと、赤城さんは私に顔を近付けました。

 

「提督が珍しく加賀さんが浮かれていたと仰ってましたけど、後でこっそり申請を通す私の苦労もわかってください」

 

赤城さんはそう耳打ちすると、苦笑いを浮かべて私の肩を軽く叩きました。

 

「そうね……申し訳ないことをしたわ」

 

私も苦笑いを浮かべ、軽く頭を下げました。その時、何とも言えない負の感情をぶつけられたような、そんな嫌な感じがしました。

 

「てッ、敵襲ッ!?」

 

それは赤城さんも感じたようで、私も赤城さんも咄嗟に身構えてしまいました。

 

「烈風からは私たち以外何も見えないそうよ」

 

「僕のソナーにも何も反応ないよ? 急にどうしたんだい?」

 

一人だけ、何事も無かったかの用に振る舞う松風。いえ、何事も無かったのでしょう。私と赤城さんの勘違いだったのでしょう。

 

「一応、哨戒機に警戒せよと連絡はいれておきました……そうだ。松風さん。あなたの配属に関する書類に不備がありました。というのは嘘で、こちらから送った書類が空母用のものだったので駆逐艦用のものに書き直して欲しいのですが……」

 

「送る書類そのものを間違えたというの……? 慢心ですよ。赤城さん」

 

私は額に手を当てて溜め息を漏らした。けど、確かにここ最近、私たち空母の出撃記録、飛行記録、その他面倒な書類作成に終われていた赤城さんなら仕方ないとも思える。

 

「それは僕が書かないといけないのかい?」

 

松風も不満そうに言う。当然でしょう。あの手の書類はなかなか面倒だ。一度書いたら二度は書きたくない。

 

「はい。本人が記入しないと偽装書類になってしまうので……」

 

赤城さんがペコペコと頭をさげる。

 

「仕方ないか……まだ加賀さんと一緒にいたいけど、気付かなかった僕も悪い。じゃあ加賀さん。またね」

 

この子は本当にそういうことを平気で言う。赤城さん。なんですか。その優しい微笑みは。あなた、提督と恋仲になってから浮かれすぎじゃないかしら。慢心ね。

 

ーーーー

 

松風と別れ、鎮守府に戻った私は日中の業務をこなし、食事、入浴を済ませて後は寝るだけ。いつも通りの日常だけど、何となく私は松風のことを考えていた。

松風の好みは何だろうか。非番の日は何をして過ごすのだろうか。そんな些細なことが気になって仕方ない。

ただ、そんなことを私が考えていても答えなどわかるはずがない。今度会ったときにでも然り気無く聞いてみよう。

私が自室のドアを開けるとその何となく気になる相手がそこにいた。

 

「やぁ。遅かったね」

 

「……どうしてあなたがここにいるの?」

 

「少しわけがあってね……おいしいお茶を持ってきたんだ。よかったら飲まないかい?」

 

松風はちゃぶ台の上に置かれている見慣れないお茶の缶を指す。一方、私は冷静を装いながら松風の対面に座る。落ち着かない。ここは自分の部屋のはずなのに。

 

「えぇ……そうね、頂こうかしら」

 

「よかった。じゃあ台所を借りるね」

 

「急須と湯飲みは食器棚にしまってあるわ。それを使って」

 

「ありがとう」

 

お茶の缶を手に持った松風は私の横を通り過ぎて台所に向かった。その顔が嬉しいとは別の……妖しい笑顔をしていたような気がした。

 

ーーーー

 

「それで、どうしてあなたがここにいるの?」

 

私がそう尋ねると松風は苦笑いを漏らした。

 

「僕が間違って空母用の書類に記入したせいで、駆逐艦寮に僕の部屋がないらしいんだ。それで、赤城さんが前に使っていた部屋をと言ったんだけど、掃除してないらしくてね。僕はそれでもいいと言ったんだけど、司令官がそれは駄目だと言ってね。それで加賀さんのお部屋にお邪魔することになったんだ」

 

「そこからどうやったら私の部屋になるのよ?」

 

「僕が希望したんだ……迷惑だったかい?」

 

松風は恐る恐るといった様子で私を見てくる。その視線を受けて、私の体温はグッと上がった気がする。

 

「そんなことないわ。元はと言えば赤城さんの落ち度。ここでよければ好きなだけくつろいで」

 

布団は二人分あったかしら。あったとしても、しばらく使っていないから埃っぽいかもしれない。私は確認をしようと立ち上がろうとした。けどうまく足に力が入らない。立ち上がろうとした拍子に倒れそうになった。

 

「大丈夫かい?」

 

いつの間にか近くにいた松風が支えてくれていた。その顔は心配しているという顔ではない。まるで獲物を捕まえた蛇のような、妖しいギラつきが目のなかにあった。それにしても熱い。まだ春、それに夜だというのに。

 

「加賀さん。すごく熱いよ。大丈夫?」

 

松風に触れられている場所がものすごく熱い。おかしい。これは外気温が熱いのではなく、私が発熱している。

 

「大丈夫よ……」

 

私は松風から離れ、押し入れを開ける。布団は二つあるけれど、やっぱり使っていない方は少し埃っぽい。

 

「いいよ。僕がやるから。加賀さんは休んでて」

 

松風はそう言って私を押しのけ、布団を取り出した。私そのままへたりこんでしまう。おかしい。足に力が入らない。体が熱い。

松風が手際よく布団を敷いていく。

 

「ほら、できた。加賀さん。早く横になって」

 

松風に言われるがまま、私は敷かれた布団に横になった。少し落ち着くことが出来たのもつかの間。何故か松風が私の寝ている布団に入り込んできた。

 

「あなたも寝るのなら、自分で布団を敷いて。少し埃っぽいから……」

 

「僕はここで寝たいな。それにさっき好きなだけくつろいでって言ってたじゃないか」

 

松風が私に抱きついてくる。やめてほしい。変な気分になる。

 

「いい匂いがするね」

 

「変なこと言わないで頂戴」

 

私は松風から離れようとたじろいだ。その時、ふとももに硬く熱い何かが触れた。

 

「んっ……」

 

松風がなまめかしい声をあげる。まさかこの子は……

 

「バレちゃったかい? そうなんだ。僕は女じゃない。男に生まれながら艦娘の力を持っている」

 

松風はそう言うと私の首もとに顔を埋め、手で私の体をまさぐる。嫌じゃない。けれど納得がいかない。それに理性ももう持ちそうにない。

私はグッと力を入れて松風との体制を入れ換えた。松風を布団に押し付ける様に上に乗る。松風は驚いた様に、そして怯える様に私を見た。その顔が私の欲情を煽る。

 

「くつろいでいいとは言ったけど、好き勝手やっていいとは言っていないわ」

 

私は松風の目を覗き込むよう見た。先程までの余裕はそこにはない。体の大きさも艦種も私の方が上。

 

「ごめん。やりすぎ……」

 

謝ろうとする松風の口を私は自分の唇で塞いだ。しばらく味わい、唇を離すと、松風は肩で息をしていた。ふとお尻に熱い何かが当たっているのがわかった。松風の顔は真っ赤だ。それがなお愛おしく思える。

 

「上々ね」

 

「かッ……加賀さん……」

 

もう松風の理性も崩壊しかけている。当然、私も。

 

「あなた、私の随伴艦になりなさい。あなたが切り開いた航路を私は突き進むわ」

 

私がそう言うと、松風は目を見開いて顔は更に真っ赤に茹で上がった。しばらく口をパクパクさせると、嬉しそうに微笑みながら私を見た。

 

「いいね……僕の後ろはまかせたよ」

 

「後ろというのはこういうことかしら?」

 

「ちがッ!」

 

散々、この一航戦を弄んだ罰よ。駆逐艦一隻、私にかかれば鎧袖一触よ。

 

ーーーー

 

後悔先に立たず。

朝から松風がべったりとくっついてくる。

 

「松風。少し離れなさい。ご飯が食べられません」

 

「僕は君の随伴艦さ。離れるわけにはいかないよ」

 

朝からこんな感じだ。

私たちを見る周りの目が鬱陶しい。

 

「加賀さん。駆逐艦なんか誑かしていい御身分ですねぇ~」

 

五航戦の瑞の付く方が絡んでくる。

 

「誑かしてなんかいないわ」

 

「そうさ。僕は加賀さんの随伴艦だからね」

 

「あんた……ホストみたいね。随伴の意味が違うように聞こえるわ。それに、加賀さんみたいな小姑みたいにうるさい人によくついていこうなんて思うわね」

 

「五航戦。今日は私があなたたちの教官を勤めます。せいぜい首を洗って待っていなさい」

 

五航戦は睨むように私を見るけど、私も睨み返した。五航戦は首を引っ込めると溜め息をついて食堂を出ていった。

 

「僕たちもはやく食べようじゃないか。あの人の訓練、僕も付き合うよ」

 

「なら少し離れなさい。茶碗が持てないわ」

 

「じゃあ僕が持つよ。加賀さんがお箸で僕に食べさせておくれ」

 

まるで赤城さんが提督と恋仲になったときのようだわ。あのときは見るに堪えなかった。そして今の松風も。

 

「けど、それがいいわ」

 

「何か言ったかい?」

 

「何も。早く食べてしまいましょう」

 


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