そもそも俺に話しかけてくる女子の大半は御幸とどうにかなりたいっていう本心が丸見えで、そのなかでもこの子はきっと俺のことを…なんて期待した子に限って俺に御幸との橋渡しをさせようとする
何度失恋したか、もう数えるのはやめた
俺がいいなと思った子はもれなく御幸を好きだった
そもそも俺に話しかけてくる女子の大半は御幸とどうにかなりたいっていう本心が丸見えで、そのなかでもこの子はきっと俺のことを…なんて期待した子に限って俺に御幸との橋渡しをさせようとする
何度失恋したか、もう数えるのはやめた
そんなことが続くと憎くもなる
確かに見てくれはいいし、名門野球部の正捕手で4番
俺も女子なら一度は気になっただろう
そして今、自主練でその男と二人でいるわけだが
「ちょっとさ、いい?」
打率上げねぇとなぁ…と飛んでくるボールをイメージして内角外角に振り分けていると不意に中断させられた
なんだよ、と向き合うと御幸は爪先で土を蹴りながら落ち着かない様子で、それから何かモゴモゴと言っているようだが全く聞き取れない
話しかけておいてなんなんだコイツ…とは思いつつも、弱音をうまく吐けず孤立するタイプの御幸が俺に愚痴ろうとしてるだけでも相当な進歩だ
仕方ないから自分から何か言えるまで待ってやろうと、ヒマな俺はうじうじする御幸を眺める
まだ伸びてるらしい身長に腹が立つ
なんだそのスカした髪型は
メガネ男子なんていい言葉があるが、ただの目の悪い男ってことだ
まぁしかし何より顔だな
性格なんて多少悪くて面倒でもこの顔だ
見れば見るほど腹が立つぜ
なんとなく一発蹴りでも入れてやろうと思ったとき、大きく息を吸った御幸がやっと俺に聞こえる声を発した
「好きだ…から、付き合ってほしい…です」
「は?」
思わず瞬間的に出た間抜けな声
俺のその声にびくりとして
「えっ、ご、ごめん!」
咄嗟に謝る御幸
様子からしてマジっぽいな
お前、俺のこと好きだったのか
男もイケたのかよというショックもあるが、今まで御幸目当てに俺を踏み台にしていった女子の顔を思い出し、残念でしたこのイケメンのメガネ男子は俺のことが好きなんだぜ、という優越感もわいてくる
どう声をかけようか悩んだが、ふと悪い自分が出てきて
「考えてやらんこともねぇ」
曖昧な返事を返す
「えっ、まじ?!」
「ま、頑張って俺に尽くせよ」
自分でもいったい何様だよという感じだが
「っしゃ!マジか!えー!えーー!」
満塁サヨナラでもしたかのように喜ぶ御幸に、このスタンスでいこうと決めた
せいぜい頑張って俺に尽くすんだな
尽くしたあげく振られることになるが、許せよ御幸
今までの俺の虚しさを味わってもらうぜ
男の嫉妬は醜い
ニヤリと上がる口角を隠すように、ぶんぶんとバッドを振り回すイケメンを横目に俺も自主練を再開した
◆ ◆ ◆
ヤバイ、御幸の本気をナメてた
「一人で出歩くなよ、危ねぇだろ」
「…まだ明るいだろーがよ」
こいつの過保護っぷりなのか彼氏力というやつなのか、もしかして俺って華奢で可愛い女の子だったの?と錯覚する程
こっち側を歩けだの肌寒いからこれを着ろだの、コンビニ行くだけでも一大事だ
しかも、なんだか声が違う
俺にだけ今まで聞いたことない声色で話しかけてくる
朝なんか顔を洗おうとしたら
「おはよう倉持、まだ眠そうだけどちゃんと寝れたか?」
キラキラキラ…と効果音でもつくんじゃないかって甘い声で俺に話しかけてきやがった
周りからゴフッと吹き出す音も聞こえてくるし沢村はあまりの出来事に一日鳥肌がおさまらねぇし俺も白目剥いてた
きしょくわるい
めちゃくちゃきしょくわるい
そんなこんなで、気色の悪い御幸が俺にあからさまな態度をとるもんで周りからは既に「察しました」という感じで遠巻きに見られている
ゾノから「野球に支障のない程度に、な」とゾッとする言葉もかけられたし、練習終わりに俺の荷物持ったり風呂ん時は迎え行くとかなんとか語り出す御幸を見た監督はグラサン越しでもわかるほど動揺して目を泳がせ、スウッと何も見なかったことにした
バッチリ目が合っていた俺にはわかった
御幸はヘンになってからすこぶる調子がよく、あっおれ生け贄にされた…そう悟った瞬間だった
それでも二ヶ月我慢したんだ俺は
だがもう学校中が俺たちを容認して見守る体制になってしまい、ことあるごとに二人きりにされたり気を遣われたりして、このやり場のないストレスはある日最高潮に達した
「いい加減にしろ!!なんだこれ!?俺はか弱い美少女かなんかか?!ピーチ姫か??!クッパもいねぇのに?!!」
移動教室の度に荷物持つのは当たり前、さらに俺が自慢の足をどこかに引っかけてコケたりしないようにいちいち段差だのなんだの注意され、少しでも目が離れると危ない危ないと何かから守ろうとする
「ど、どうした倉持…俺は…」
「それ!そのヘンな声なに?!どっから出てんの?!」
「えっ、の、のど…?」
「っかー!!このっ、このぉー!!!」
いきなり爆発した俺に、なに…痴話喧嘩?とざわつく教室
「前みたいにしろ!!戻せねぇの?!」
「…ちょっと、わかんないけど、倉持は前の俺の方がいいの?」
「ああそうだよ!!普通のお前の方がいい!!!」
「そっか…、わかった!やってみる!」
眉毛を下げて困ったように笑う御幸に毒気を抜かれてしまう
「お、おう…わかればいいんだよ…」
え、なに急にイチャつきだした…と更にざわつく教室
ちがうっバカか俺は!なんか普段の気取らねぇお前が一番だぜ的なことになっちまった!!
頭を抱える俺に、大丈夫か?つぎ体育だけどお前出れんの?と今までよりは頑張ってよそよそしく話しかけてくる御幸
なぜお前は女子ではない…
こんな風に俺に尽くして俺のために頑張ってくれる可愛い彼女が俺はほしい…
とにかくこのヤバイ状況をどうにかしねぇとな…そう考えながら急いで着替えていると、御幸がもたもたしてるのが目に入った
「オイ、急げよ」
「あっ、うん…」
「お前メガネ外してっからもたついてんだろ、ほら」
何してんだか、とメガネを渡す
「今日おれ外しとくし…そこまで目悪くないから」
「は?怪我したらどうすんだよ、意味わかんねぇお前」
謎に頑なな御幸にイライラしてると、そんな俺に気付いたのか渋々話し出した
「だって体育してる倉持かっこいいし…見てたらまたヘンになるかもだし」
もじもじとぶっきらぼうに呟く
「しかも今日サッカーとか、おれかっこわるいじゃん」
そして膨れっ面で俺を見て言う
「倉持も目悪かったらいいのに」
くーーー…
「御幸、付き合おうか」
このあと、俺のものになってくれるの?と喜ぶ御幸に
「ちげぇ、お前が俺のもんになんだよ」
と純さんに読めとすすめられた少女漫画から引用して返し、嬉しすぎて泣く御幸とお前らまだ付き合ってなかったのかよとざわつく更衣室で一騒動ありたっぷり遅刻して一時間ランニングさせられたが、そんなのは問題ない
俺には女子が羨む名門野球部正捕手でイケメンメガネ男子の、俺のことが大好きすぎて可愛くなっちゃってる恋人ができたんだ
噂はすぐ広まり、学校中で「え?知ってた。」ムード漂うなか、遠い目をしながら教室に監督が入ってきて次の現国の授業が始まった
「それでは問三を…倉持」
「はい!」
授業中の監督は比較的穏やかだが、野球部は一瞬たりとも気が抜けない
この時ばかりは他の授業と違って居眠りなんてありえないし、パブロフの犬のごとく、習性なのか返事も声を張り上げてしまう
[問三]
この物語を書くにあたり、作者が伝えたかった
『人はよい行いをすればよい報いがあり
悪い行いをすれば悪い報いがある』
という意味を現す四字熟語を答えよ。
「因果応報、です」