これは、メルトが恋しき者を手を掛ける物語ではない。
これは、メルトが岸波白野とイチャつくだけの物語だ。
※オチ無し
※意味無し
※続く予定も一切無し
※この作品は岸波白野とメルトリリスのCPを全力で推すだけの話です。
※それだけです。
「……ん」
目蓋越しの日光に、意識が覚醒させられる。
程よい眠りから引き揚げられ、微睡みを味わうというのは、悪い感覚ではない。
私の生まれた場所では、味わうことのなかった心地良さだ。
――また、目が覚めた。
このふざけた場所に来てから何日経っただろう。
まだ全貌が理解できた訳ではない。
とりあえず分かったことは、この場所の支配者はBBではないということ。
月の裏側で、大して変わり映えのしない時間を過ごしていたある時。
突如聞こえてきた鐘の音をきっかけとして、その日常であった非日常は壊れた。
それをBBは甘んじて受け入れ、ここでの生活を当たり前のように送っている。
まあ、それは構わない。
問題はその他、多数ある。
その一、この場所の支配者たるあの珍生物……生物? は一体なんなのか。
……まず、あの外見をどう例えればいいものか。
なんというか、四つくっつけると消えるコンパイルな感じの黄色い生き物に丸い手足を生やし、取ると残機が増えるきのこの笠を被せた、珍妙極まりない菌糸類。
男か女か、そもそも性別があるのかも判然としないきのこは状況を掴めない私に言ってきた。
「君を召喚したのは他でもないこのきのこでちゅ」
「ここは
「君には今日からこの学園で過ご」
ここまで聞いた時間の浪費を後悔し、これ以上聞く理由もないと私はこの時点できのこを刺した。
だが……現在進行形で私はここにいる。
そんなことを誰が(あのきのこだろうが)何のためにやったのか。
全て不明のまま、しかし判明の目処すら経たないまま、私――私たちはこの学園で暮らしている。
勿論、私――メルトリリスはそんな下らないままごとに従うつもりはない。
よって、早々に反逆、元の世界への帰還を試みた。
――だが。
問題その二、私の能力が弱体化している。
きのこを刺した時、その説明は受けた。
私の棘できのこには傷の一つさえ与えられず、それどころかドレインスキルも大して必要のないものになっていた。
他者を経験値に出来ず――そもそもこの場所にはレベルの概念すらないらしい――利点といえば喉を通さずとも栄養が摂取できるくらい。
例えばリンゴを膝の棘に刺せばそこから栄養を摂取できる。優雅も支配性の欠片もない、いい加減にしろとばかりの怪能力となり下がっていた。
id_esであるメルトウイルスも、以前のような能力はない。
精々が注入した毒で体調を崩したり、ごく僅か、毒にも薬にもならない些細な情報を吸収できるくらい。
絶対回避能力に関しては破棄した。これには海より深い事情がある。仕方のないことだ。何故この能力だけ無駄に不必要な強化がされていたのか。
そして戦闘能力も失われ、今の私は人間を凌駕する敏捷性がある以外は殆ど人間と変わらないくらいになっている。
問題その三、外見。
ショックで暫く言葉も出なかった。まさか、およそ二頭身のデフォルメ体になっているなどと。
いい加減にしてほしい。なんという狼藉か。
私を含め、ここに来た者は全て、まるで某フィギュアシリーズが如く、美しさの欠片もない全体的に丸い容姿になっていた。
確かに近年、二.五頭身のフィギュアが一つのジャンルとして定着していることは分かっている。
リアルさはないものの、コンパクトさとキャラの丸みを両立させたことによる愛らしさの追求はフィギュアの可能性を広げるという意味では大きな革新であっただろう。
私もスケールモデルほどではないが好んでいる。スペースをさほど取らないことから多くを一か所に並べられるのは大変な長所だ。
そういえば、一作目のモデルとなった目の大きい人型のネコがこの学園にいた。是非とも一度話を聞いてみたいものだ。話が通じれば、だが。
部位の交換が可能というのも特徴だ。完成形をわざわざ崩しバランスを悪くするというのはナンセンスだが。
何にせよフィギュア文化の発展は喜ばしいことなので今後とも頑張ってほしい。グッドスマイル!
…………閑話休題、ともかく、私はそんなフィギュアのような姿でここ数日を過ごしている。
せめてこのアンバランスさはどうにかならなかったものか。
頭は重いのもあって脚具でバランスがとりにくい。既に慣れたが、初日は歩くだけでも苦労した。
とまあ、問題だらけの非日常が、今の日常である訳だ。
無理矢理に今の状況を解釈するならば、無差別に選ばれた者たちが軒並み『学生』ないし『教師』の
こんな場所でのうのうと過ごすのは、まったくもって私らしくない。
ゆえにこそ、帰還が出来ないならばせめてこの学園を乗っ取るくらいしようと思う。
唐突? そんなことはない。私は存在意義からして、支配者であるのだから。
だが、今は。
「…………まだ、眠っていていいわね」
眠るということの心地良さ。睡魔に身を委ねることとする。
馬鹿馬鹿しい授業など、受ける気はない。
完成されたAIに、元より知識を新たに手にする授業など必要ないのである。
「――ト」
「――メルト」
「――メルト、入るよ?」
「――ほら、メルト。起きて」
「っ……」
二度寝から多分、一時間と経っていない。
だというのに、眠りは何者かに体を揺さぶられることで妨げられる。
「おはよう、メルト」
「……何よ、ハクノ」
「だから朝だってば。遅刻するよ」
律儀なものだ。この人
目を開けると、私を覗き込んでいる二人が目に入る。
「……いい身分だこと。それに悪趣味ね。人の寝顔を覗き込むなんて」
「そんなつもりじゃ……」
「確かに、見ていて飽きないものではあるけど」
「……」
そんな、後で省みて何とも思わないのかと感じるほどに恥ずかしい言葉を当たり前のように言える男女。
――岸波 白野。
私が何より焦がれるひと
断言しておくが私は浮気性でも尻軽でもない。ただ、この学園に来たらハクノが増えていただけである。
……ああ、言いたいことはわかる。意味不明なのは私も同感だ。
ハクノは男だったか、女だったか。思い出せないというよりは、どちらの記憶も存在する。
恐らくはそれらは別の可能性で、しかしこの場所にその両方が召喚されてしまった、ということだろう。
…………まあ、彼らと学園生活を送れるというのは、悪い気はしない。
「さ、早く着替えて」
「……分かったわよ。当然、手伝ってくれるのでしょう?」
「はいはい」
私は神経障害を負っており、そのせいでだいぶ不便を覚えている。
こうした日常に落とされると、この体質が特に牙を剥きやすいことを知った。
着替えもそうだ。寝間着から学園指定の制服に着替えるというだけのことでも、私一人では難関である。
たかが着替えを手伝ってもらうというのも、どうにもプライドに差し障るが……しようのないことだ。つくづくあのきのこは許せない。
「……」
「……」
「……あ。お、俺BBとリップを起こしてくるから」
察しの悪い男の方のハクノを部屋から追い出し、女の方のハクノに着替えを手伝ってもらう。
……呼び方がややこしい。何かしらの区別をつけたいところである。
「どうなると思う?」
「どうせ何かしら誤解を生むわね。BBの部屋でも、リップの部屋でも」
「同感。というかそうなってほしい」
この二人がどういう感情で互いを見ているのか興味は尽きない。
だが、少なくともこの女の方のハクノは随分と良い性格をお持ちのようだ。
私と同じ性質を持っているなら、是非とも語り合いたいものである。
「……ねえ、メルト」
「なによ」
「なんでパジャマも下履いてないの?」
「変態」
「……」
そういう意図でないと分かっていつつも、パッと頭に浮かんだので言っておく。
仕方ないではないか。
貞淑に隠すという私の高等な考え方を抜きにしても、下を履くということは私にとってどれほど難しいことか。
この体質に加え、鋼の足は衣服など簡単に引き裂いてしまえる。
よってこれまで指定の制服も下を履いていなかった訳だ。
「ちょうどいいわ。お願いね」
「……うん」
この後、他者の助けがあっても私が下を履くというのは難しいことが分かった。
とは言え、この日初めて、私は人間の価値観で言う「まともな恰好」で登校したのである。
食堂の騒がしさは好きではない。
何故朝からこんな喧噪の中に放り込まれなければならないのか。
「メルト、食べないの?」
「朝は食べない主義よ」
というか、そもそも食事自体、私は嫌いだ。
栄養の摂取の仕方として非効率。そのうえ、手が碌に使えない私は食事も満足に出来ない。
もともと食事など必要はなかったのに、此方側では当たり前のように空腹がやってくる。
一応、朝に空腹感はさほど感じないのだが……。
「はい、リップ」
「は、はい!」
合流した男のハクノ。そしてBBとリップ。
加えて何人か増えることもあるのだが、本日はこの五人のようだ。
「あっ、センパイセンパイ、私にもお願いします!」
「BBは一人で食べられるんじゃ……」
「えー、可愛い後輩のお願いくらい聞いてくれても良いじゃないですかぁ」
「……」
手のせいで食器を扱えないリップは、ハクノに食べさせてもらっている。
これももう一度や二度ではない。そしてそれを見る度にBBは羨み、後に続いている。
あまりにも順応しすぎている二人は、既にこれを当たり前のこととしていた。
平和ボケしすぎである。今なら簡単にBBを超えられるのではないだろうか。
「んー、アーチャーさんのごはんは中々です。やたらに栄養バランス徹底されているのが小癪ですね」
アーチャー――ハクノと契約していたサーヴァントの一人は、この食堂の食事係に任命されている。
どうやら例のきのこにより、料理長の
シロウなる人間と共に料理を作り続ける様子は、正直戦いより向いているのではと思う程に洗練されている。
「まあ、SGになるくらいにはひそかに料理好きだしね、アーチャー」
「え、
「うん」
男のSG……まあ、あってもおかしくはないだろうけど。
気になるほどのものではない。というか、興味がない。
ハクノがいなければ悪くはないだろうが、生憎あのサーヴァント以上に魅力的な者が目の前にいた。
「ほら、メルトも」
「は?」
ハクノに差し出された箸。どういうことかと目を向けると、逆に首を傾げられた。
「二人ともやったし、そういうノリじゃないか」
「……貴方、そんなに馬鹿だった?」
なんというか、ハクノはこんな、その場の勢いで動くタイプだっただろうか。
いや違うとは言えないけれど、ここまでだっただろうか。
だから、朝はいらないって。
――――とは、言えない空気である。
羨ましそうなリップと、ニヤニヤしているBBの視線がそこはかとなく苛立たしい。
妙な居心地の悪さを感じ、仕方ないとそれを口に入れた。
「……悪くないわね」
……まあ、色々な意味で、悪くはない。
今の私は、人を遥かに超える力を全て振るえない不完全な状態である。
その力はいつか取り戻すとして、今は多少、この人間らしい生活を味わってみるのも良いかもしれない。
いつかハクノに“世界”をあげるその時が、少し先延ばしになっただけ。
美味しいものは最後に残しておくものだ。
それまでの繋ぎを、出来るだけ良く、愉しみながら過ごすというのは、実に合理的だろう。
複雑怪奇、平和かどうかも判然としないカオスな学園。
これは、私が多くの人間や非人間を利用しつつ、学園の乗っ取りを目指す物語……
ではなく、妙に世話を焼いてくるハクノと私の物語である。
これを読んだあなた。どうかザビメルをかいてください。それだけが私の望みです。