抹殺された神の愛し子 作:貴神
里美『お、やっと来たね。守夢君、レディを待たせるのはどうかと思うよ?』
試合開始時間の一時間前来たにも関わらず里美の訳のわからないボヤキをもらう達也
レディと自身を称する里美に達也は何を言っているんだこいつ?と思うも心の中だけに留める
達也『すみません。』
遅いということに関してだけ謝罪を述べる
里美『ん?何の弁明も無しかい?』
達也『必要と判断したならしますが、この場合、里美さんはそんな薄っぺらい言葉を並べたところで納得はしないのでは?』
そもそも達也は遅刻はしていない
自分の調整能力と時間を考慮しても十二分に時間はある
補足するならば、最終調整にしては他のエンジニア以上に時間はとっているつもりだ
里美『駄目だよ、守夢君。そこは、申し訳ありません、お嬢様。ティーセットの準備に手間取りまして。とか社交辞令も言うべきだよ?そこは空気を読んで答えないとモテないと思うよ?』
彼女は軽く嘆息し、自分の考える男性像を達也に押し付けようとする
そんなものに対して暖簾に腕押しや糠に釘を体現したように達也は軽くスルーをする
達也『…そうですか。では、最終調整に入りましょうか。』
おそらくだが、彼女が言いたいのはコミュニケーションをもっと取るべきだということなのだろうが
そんなもの調整が終わった後でも良いもの
選手のモチベーションも保つこともエンジニアとしての仕事の一つかもしれないが、選手の試合中にCADに不具合が出るようなら本末転倒である
里美『おいおい、その…よろしく頼むよ。』
達也の素っ気ない一言にもの申しかけたが、さっさと作業に入ってしまっては言いたいことも言えない
彼女の独特の雰囲気というか、口調は生来のものではない
それは彼女の魔法特性に由来するものだ
BS魔法
通称:Born Specialized(ボーン・スペシャライズド)
の略で、BS能力者、或いは先天的特異能力者、先天的特異魔法技能者とも呼ばれる
里美スバルは更に、魔法力も備えているため珍しい魔法師といえた
ーーーーーー
愛梨『(栞、見ていなさい。貴女と高めあった日々のおかげで今の私があることを。それを優勝して証明してみせる!)行ってくるわね、沓子。』
おそらくだが、決勝の相手はライバル校の一高
さらに言うなれば、エンジニアはあの守夢 達也
挽回のまたとない好機
三度も煮え湯を飲まされてなるものか
沓子『うむ、わしの分もよろしく頼むぞ!』
沓子もそれを解っているため、愛梨に望みを託すのだった
ーーーーー
順当に勝ち進み、残るは決勝戦のみ
里美のBS魔法と魔法力で現在のところは苦戦という苦戦もない
達也『調子はいかがですか?』
達也の目から見ても悪くはなさそうだが、本人からのフィードバックは重要だ
里美『うん、問題ないよ。君のおかげでCADの調子も最高さ。』
友人であるほのかや雫がこの男子生徒に執着していると聴いていたため少し興味があった
それはどういう人物像なのかということであり、エンジニアとしての腕とは別物だ
蓋を開ければ、エンジニアとしての腕前は自分達とは比べ物にならないほどだ
プロのエンジニアと遜色がないほどに
人間的にはイマイチ好ましいとは思わないがーー
達也『そうですか。今回の相手は優勝確実と言われる一色 愛梨選手ですが。その前に里美さんに謝らなければいけません。』
里美『ん?なにかな?』
と、神妙な面持ちをした達也が里美に謝りたいと言い出す
達也『里美さんが優勝できる確率は僅かです。』
突拍子もなく貴女は優勝することが出来ませんと大変失礼すぎる言葉が達也の口から飛び出る
達也という人間を理解している人物なら何か理由があるのだと判るのだが、里美は知り合ってまだ僅か
達也もそこまで親しくしようとは思っていないため、このままの関係で良いと考えている
里美『…理由を訊いてもいいかな?そうなると、君と練習した時間は無駄だったというわけかな?』
達也の失礼すぎる言葉に罵声を浴びせたいところだが平静を努めながら理由を尋ねる
しかし、嫌味は言っても許されるだろう
それくらい、衝撃のある言葉なのだ
達也『そういうことではありませんが、彼女の魔法特性からすると、このクラウド・ボールは相性が抜群に良いことです。眼から入ってくる情報を素早く脳へそして、運動神経に伝達出来る彼女にほぼ死角はありません。』
一という名の付く家の研究テーマは「対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法」
そこでの一色家は自身の肉体を魔法によって稼働限界を超えること
つまり、魔法によって物体への事象改変はしない
里美『おいおい、そんなに相手を誉めるのは良くないと思うけど?』
達也の口から次々と言葉が出てくるため、里美も反論したくなる
達也『事実です。里美さんが、自身の特性を活かしたところで彼女は力技で潰してきます。ですから、里美さんがやることは一つです。私との練習で体験したスピードとパワーがこの試合は確実に活きるはずです。』
嘘を言っても仕方がない
小細工したところで通用する相手ではない、かといって何もしないわけにはいかない
しかし、素直に敗けを認める達也ではないためあのような練習をしたのだ
里美『君が言うならそうかもしれないけど、そんな弱気では勝てるものも勝てないよ?』
気持ちで負けていては試合開始前から負けていると同義だと里美は告げる
達也『師補十八家を嘗めてかかると痛い目を見ますよ?そもそもあの練習、私とのラリーをしてもらったのは彼女と少しでも善戦するための苦肉の策です。一色選手の反応速度を分析して貴女と練習をしました。しかし、魔法からくる運動速度は視覚的に速く見えます。何しろ人体の限界を魔法というドーピングで強化していますから。』
二十八家は伊達ではない
並みの魔法師とは一線を画する存在だ、何も対策を考えていなければ一瞬でやられてしまう
一色 愛梨のスピードとパワーを分析して里美が対応できるよう練習したつもりだが、達也の超人的スピードと魔法からくる運動スピードは異なる
達也のスピードは古来から伝わる人間とっては理に叶った方法で鍛えている
そのため、その人間の素質が高ければ高いほど強くなる
達也の場合は、素質も然ることながらもう一つの要因
その二つが今の達也を作っている
しかし、弱点もある
それは同じ鍛練をした者同士が相対すると行動のシグナルが読めてしまうこと
もう少し補足をすると上級者同士か腕前に差があるときに限るが…
しかし、愛梨の場合はその言葉通りに肉体をドーピング強化して運動能力を飛躍的に高めている
ただ違うところは魔法のため人体には影響はないということだろう
里美『…』
魔法特性を里美に事細かに説明すると黙り込んでしまった
漸く、自分と一色 愛梨との間にどれ程の差があるのか自覚したのだろう
彼女の表情は堅い
達也『悲観させるような言葉を並べてしまい申し訳ありません。しかし、楽観視して手酷くやられるなら気を引き締めて掛かってやっと一対九です。得点はある程度出来ますが、彼女が牙を剥いた瞬間に里美さんがどこまで対応できるかが一色選手に一泡吹かせることが出来るか否か決まります。』
魔法師という人種は何処までも甘いなと考える達也
これだけの情報を与えなければ、自分の立ち位置と相手の実力を測ることすらも出来ない
あとは、その事実に対してどう向き合うかを確かめさせて貰おう
里美『…なるほどね。ならば君の言う、一泡吹かせるためだけに試合に望もうかな。並みの魔法師でも脅威になるのだということを。ねぇ、守夢君。もし、君が一色選手と対戦していたら、勝てたかい?』
数分の時間をおいて、達也の言葉に自身を納得させる里美
時間はかかったものの事実を受け入れることが出来たようだ
しかし、まだ試合していない相手に対して捻くれたというか負け惜しみ発言はどうにかならないものかと思うが
達也『面白い質問ですね。しかし、答えはノーですね。』
やはりというかの質問に達也は嗤うしかない
魔法力の無い自分に対する当て付けなのか
里美『即答とはね、理由を訊いてもいいかい?』
益々、興味津々になる里美
達也『そうですね。まず、根本的なものとしてこの九校戦は魔法を競い合うもの。この時点で微々たる魔法力しか持たない私には出場出来ませんので。』
既に答えは出ているのに試合に出られる理由が見つからない
それこそ、やる前から判りきっていること
里美『いや、魔法力無しでも出場可能な状況だったなら?って訊いたんだけど?』
そんなたられば話に付き合うつもりはない
そんな状況があったところで、達也は九校戦に興味もあるはずがなく
達也『さあ?ご想像におまかせします。』
想像は個人の自由だ
存分に脳内で膨らませてくれればいい
里美『ふっ。まあ、僕の想像によれば多少手こずるかもしれないけど一色さんにストレート勝ちするね。』
無い話ではないが、これ以上彼女とも関わりを持ちたくない
しかし、随分と自分を買ってくれた試合内容だ
達也『高い評価をありがとうございます、しかし、それは想像というより妄想なのでは?』
里美『そうとも言うね。』
妄想なら自分と彼女が試合しても問題はない
男子と女子での試合は問題は無いのだから
ーーーーー
新人戦女子クラウド・ボール決勝
開始直後は様子見を含めた緩いラリーになるかと思われたこの決勝だが、見事に外れて激しいラリーの応酬となった
里美『(速いね、守夢君の言う通りということか。しかも、これが全力じゃないって?)勘弁して欲しいね。』
里美は一色 愛梨のスピードが達也の分析通りだということを改めて目の当たりにした
達也との練習のおかげで今は対応できるものの、これ以上速くなるなんて反則に近い
実際のスピードとなると、達也の方が速いだろうが視角的からくる愛梨のスピードは達也を上回る
あとは、里美が愛梨のスピードについていけなければ敗北が決まる
愛梨『(おかしい、相手のいない場所に打ち返しているはずなのに打ち返されている。どういうこと?…これも彼の仕業?)』
決勝戦の相手が一高でその担当エンジニアが達也ということは予選から判っていたため気を引き締めていた愛梨
そこに油断は無かったとは言えないものの、真剣には違いなかった
しかも、コースも際どく、返球スピードも普通の魔法師なら返せないほどだ
それがどうだ、里美は愛梨のスピードに対応して返球してくるし、彼女の対応しきれないスペースへの返球も対応してくる
里美『(流石にすぐには見破れないようだね。僕のBS魔法の特性に…。)』
里美スバルのBS魔法は認識阻害(自分の存在を気付かれにくい)という特性の魔法だ
そのため、何気無く街中を歩いていてもこの特性の所為で気付かれにくい
それは色々な意味でメリットだが、デメリットも必ずある
何しろ、歩いていても他人がぶつかって来る可能性もある
そういったこともあるため、里美は自身のことを【僕】と呼んだり、話し方も他人に記憶されるようにしている…らしい
愛梨『(…流石は、一高というところかしら?けど、舐めてもらっては困るわ。私は一色家の娘、名の上がらない凡人に負けるわけにはいかないの!今のスピードに着いて来れるならば、更に上げればいいだけのこと!)』
素直に里美の実力を認める愛梨
しかし、愛梨にも一色家の誇りがある
エリートの一高とはいえ、手こずる訳にはいかない
手を抜いてはいなかったが、彼女がここまで出来るとは正直思っていなかった
愛梨はギアをもう一段階引き上げる
里美『!?(本当にスピードを上げてきた!彼の言う通りだ。此方はそれなりに対応出来ているけど、点数は嘘をつかない…少しでも追いつくしかない!)』
じわじわと広がっていた点数だが、愛梨がギアを一つ上げたことで一気に点数が開き出す
里美は達也の言葉を噛み締めながら、一泡吹かせるということのみに集中する
それが出来るのも達也と練習した時間が里美に精神的な余裕を作らせているのは間違いない
三点差が開いたならまず、一点を
四点差が開いたなら一点、出来るなら二点を
そういった積み重ねが奇跡を引き寄せるのだ
がーー
愛梨『(これは彼女を誉めるしかないわね。これだけのパフォーマンスをされたら、全力で相手をするというのが礼儀。誇りなさい、里美 スバル。貴女はこの一色 愛梨の全力を出させた数少ない人間。…例え、それが彼のおかげでだとしてもね。)』
一の名を冠する家柄は伊達ではない
高校生とはいえ、二十八家の生まれの魔法師は並みの魔法師とは違う
全力を出してしまえば、並みの魔法師では相手にはならない
だから、二十八家は全力ではなく、力を制限した状態で試合するのだ
里美『う…そ…?(守夢君、話と違うよ?さっきのが全力じゃないよ!)』
愛梨の紛れもない全力に里美は成す術がない
二、三球に一球程度返球出来ていたものが一気に返球不可能になる
達也『(とうとう、本気を出したか。それはつまり、彼女の実力を認めたという証。彼女には申し訳ないが、一泡吹かせるという意味は少し違う意味になる。)…あとで文句の一つでも言われそうだな。』
達也が里美に話した、一泡吹かせるというのは
愛梨の全力を出させるという意味であり、手こずらせるという意味ではない
おそらく、里美は後者の意味で理解していたのだろうがーー
結果、新人戦女子クラウド・ボール決勝は愛梨が里美を2セットストレート勝ちで下して優勝となった
最後だけを見れば、二十八家の嫡子のため当然という見方もある
しかし、内容的には里美が善戦してそれに応えた形で愛梨が全力を出した結果がストレート勝ちという観戦していないと解らないものだった
そのため、愛梨の全力を引き出した里美を称えることも忘れてはならない
里美『守夢君は嘘つきだね。』
控え室に戻るや否や里美は達也に物申す
達也『否定はしませんが、私と里美さんの一泡吹かせるの意味をはき違えているということだけは確かです。』
達也自身、信用すらしていない人間に正直に話すことはしないが、今回は何とも言えない
里美との間で齟齬が生じたのは判っていたため、誤解を解こうと思えば出来たが、目標は変わっていなかったので敢えて、そのままにしたというのが正しい
里美『全くとんだ災難だよ。まあ今回は、自分の実力がまだまだということを知ったよ。』
此方は目一杯だったのに対し、相手はその一歩二歩以上先をいっていた
これは素直に自分の実力不足しかなかった
達也『そうでしょうか?確かに、一色選手との点差は否定出来ませんが、それは里美さんが一色選手の全力を引き出したことに他なりません。私はそういう意味で一泡吹かせると表現しました。』
里美『…解りにくすぎるな。守夢君はあれかい?詩人でも目指しているのかな?ともあれ、僕の課題も見えたことだし。来年は魔法力で戦ってみせるよ。』
次は負けるつもりは毛頭ない
魔法力の底上げを行って、彼女と正々堂々と戦う
達也『…』
ーーと、まあこんな勘違いな思考をしているから達也の言葉の意味を知ろうとしなかったのだろう
二十八家は他の魔法師の家とは一線を画する存在だということをすでに忘れてしまっている里美に達也は何も言わなかった
愛梨『栞、聴こえてる?今日、クラウド・ボールで優勝したわ。水尾先輩もバトル・ボードで優勝を果たしたわ。まだまだ九校戦は始まったばかり、優勝するためにも私たちはここで立ち止まってなんかいられない。そうでしょう?…明日、アイス・ピラーズ・ブレイクの試合が始まるわ。朝の6時に天幕で待ってるわ。』
栞達のためにも優勝すると誓って望んだクラウド・ボール
この勝利をきっかけに栞が少しでも立ち直ってくれればと思う愛梨
栞『…』
しかし、今の栞には愛梨を祝福出来る余裕もなく、愛梨の励ましも効果は薄い
嬉しいという反面、あんな試合をした後の自分とでは愛梨の隣に立つ資格なんてない
栞はベッドの上で座りこんで項垂れるしかなかった
ーーー
どれ程の時間が過ぎただろうか
カーテンの隙間から射していた陽がいつの間にか夜の帳が下りていた
部屋の扉が開き、同室している水尾が戻ってくる
水尾『十七夜、体調はどう?』
明らかに憔悴しきっている栞を気遣う水尾
理由は解っているが、立ち直って欲しいと願うのは傲慢なのか
気休めな言葉しか掛けることの出来ない自分に歯噛みする
栞『…大丈夫です。』
試合が終わってからも、その次の日も同じ言葉での返答
あの日の試合、栞は当然の如く優勝出来ると確信していた
それは、モニター越しに見ていた自分達も同じだった
しかしそれは、第一高校の選手とエンジニアによって覆された
完璧な予定調和の世界
苦戦の上の勝利ではなく、必ず逆転するという展開での勝利
全ては第一高校否、達也の掌の上で踊らされていたと言っても過言ではない
水尾『そう、良かった。でも、駄目よ?食事も摂らず、一睡もしてないんでしょう?身体にも精神にも悪い影響しかないよ?』
しかし、今更それを議論したところで何も変わらない
負けたことは事実なのだから
なんとかして栞を立ち直らせるきっかけが欲しい
何でもいい、今だけはどんな手段を使ってでもと思うも何も浮かばない
栞『…』
だが、いくら水尾が気休めの言葉を掛けても変わらず、栞は黙りこんだまま
これでは、明日のアイス・ピラーズ・ブレイクに代役を立てるしかない
それは、自分にとっても嫌であり、三高にとっても望ましくない
ましてや、愛梨が悲しむ
水尾『…そういえば、十七夜は一色とは中学のリーブルエペーの大会からの仲なんだっけ?』
ふと、愛梨の事を思い出す
愛梨と自分、そして、愛梨と栞との関係をみつめると立ち直ってくれるかもしれない
そんな気がする
栞『…はい、でもこんな私なんて、足を引っ張るだけでただのお荷物です。』
二日ぶりに栞から大丈夫の言葉以外を聴いた
この機を逃すわけにはいかない
栞が再び立ち上がってもらうためにも
少し気が引けるが、愛梨をダシに使わせてもらう
今の栞には愛梨の力が必要だ
水尾『…少し、昔話をしようかな。私はね、一色を幼い頃から知ってるんだ。二十八家の嫡子ということで家からも周りからの期待という名の重圧を一身に背負って生きていたわ。彼女自身もそれを逃げることなく、正面から向き合って努力をしてきた。でも、そこには家のためだけで。彼女自身の意思っていうのかな?それが無かったよ。でもね、彼女が中学生の時に同じ目標を目指す仲間(親友)が出来たって嬉しそうな表情で言ってきたの。…もう、わかってるんじゃないの?長い付き合いの私でさえ、あんな表情をさせるのは中々出来なかった。』
幼馴染みというほどではないが、愛梨を妹のように見守る姉のような立ち位置で自分はいた
そこには、愛梨の喜怒哀楽を垣間見ることもあり、それをどうにも助けることが出来ない自分の不甲斐なさもあった
それをやってのけたのが、栞や沓子なのだ
正直、愛梨と共にここまで来てくれたことは嬉しい反面、羨ましくもあった
栞『…けど、今の私には。』
栞自身、愛梨は遥か高みにいる存在で羨望する人物であった
しかし、そんな彼女は自分以上に家柄というものに縛られ、それを背負っている
苦しくない筈がない
だが、それを助けられるだけの実力はない
あんな無様な敗北をして、愛梨の横に立つ資格なんてない
水尾『そうかな?貴女や四十九院が一色をここまで引き上げてくれた、おそらく、彼女一人では駄目だったと思うよ?そして、これからもね。…十七夜、今の私には、じゃないよ。精一杯頑張ったんなら、次はどうしたいかを考えるの。喋り過ぎたね、じゃあ、私は寝るから。おやすみ~。』
栞が愛梨を引き上げた
その言葉が、少しだけだが栞の心の扉がひらいた気がした
きっかけは与えた
後は、栞自身の行動に委ねるだけ
どうか、まだまだ続く魔法人生を強く生きてーー
栞『(私が愛梨を高めた?それはこちらの方よ。愛梨が居てくれたからこそ今の私がある。…ならば、その恩返しをしなくちゃね?)』
水尾の言葉を聴いて呆然とする栞
当然だ
愛梨が栞を引っ張って助けてもらったことはあるが、栞が愛梨を助けたことなど記憶に無い
ならば、これから愛梨を助けていけば良いだけのこと
無いならば、作ればいい
そう決意すると、急に気力が湧いてくる
明日も早い、身体を休めることに越したことはない
ベッドに潜り込み目を閉じる
昨日まで、目を閉じればあの試合と元家族との嫌な思い出が浮かんできたのが、今は無い
あるのは、疲れた身体を癒そうとする睡魔のみ
栞はその睡魔に身を委ねるのだった
ーーーーーーー
九校戦4日目
栞の再起を信じ、三高の天幕で待つ愛梨
愛梨『(あの日、栞と対戦したとき、私は素直に思ったことがある。それは、彼女となら更なる高みに行くことが出来ると。無論、友人としてもかけがえのない存在。そして、沓子と三人でならどんな壁だって乗り越えられる!…ここに来ると信じてるわ。)…おかえり、栞。』
目を閉じ、栞と出会った日のことを思い起こす
彼女と共に魔法の世界を歩んでみたい、そう願った日の事を
沓子とも出会って、今の自分がある
何一つ欠けていいものなんてない
早朝特有の静けさの中に軽やかにもしっかりと地を踏む音が近付く
誰とは思わない、判りきっているのだから
栞『ごめんなさいね。』
何がとは言わない
そんなこと挙げていけば、いくつもある
そんなことを気にする愛梨ではない
愛梨『…全くよ、どこのお寝坊さんなのかしら?…おかえり、栞。』
二日、正確には一日と数時間程会えなかったのが一日千秋のようで長かった
愛梨は栞とこうやって言葉を交わせたのが何よりも嬉しく、何よりも替えがたいもの
愛梨は万感の思いを紡いだ
ーーーー
九校戦4日目
競技種目はアイス・ピラーズ・ブレイク
自陣営12本、相手陣営12本の氷柱を巡って魔法で競い合う競技
先に相手陣営の12本の氷柱を全て倒すまたは破壊した方の勝利(時間は無制限)
クラウド・ボールと同じく24人で予選トーナメントし、上位3人で決勝リーグを行う
本選のアイス・ピラーズ・ブレイクは男女共に第一高校が優勝を決めた
男子は十文字 克人は多重障壁で、女子は千代田 花音は地雷原によって優勝を勝ち取った
これから、新人戦が始まる
達也『(さて、いよいよ新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクか。まあ、結果は目に見えているが。優勝は間違いなく…)』
ちらっと深雪を盗み見る
基本、アイス・ピラーズ・ブレイクでは服装は自由
と言っても、試合に支障がないものに限るが
彼女の服装は有り体に言えば、巫女装束
白の単衣に緋色の女袴で白のリボンで髪を束ねている
彼女の美貌とスタイルがこの服装と相まって神聖視させる
エースと言われても過言ではない彼女、勿論実力は折り紙つきである
口外しないが、達也もその実力は認めるところ
深雪『何かしら?担当エンジニアさん?』
達也の視線に気が付いた深雪
声音が低くなり、達也を牽制しているようだ
達也『失礼しました。体調に問題は無さそうだなと思っただけですから。』
達也のこの上から目線のような発言
達也は別に、自分の方が実力が上のため嘗めている訳ではない
魔法師としてなら、深雪はそこらの魔法師よりも圧倒的に格上だ
それこそ、七草、十文字おそらく、あの一条でさえ敵わないだろう
嘗めているわけではないが、相手にもしていない
というよりも、関わりたくもないが担当エンジニアのためそうも言ってられない
深雪『当然です。貴方ごときに心配されるなど私の恥ですから。』
なんとも可愛くない発言
体調を確認するのもエンジニアの仕事、それを不要とするなら何故、達也にエンジニアを依頼したのか
矛盾した彼女である
達也『そうですか。なら、そのごときに足元を掬われないように。』
普段なら、彼女の言葉などスルーする筈が今回は売り言葉に買い言葉で言い返す達也
もし、達也が本気を出したら、掬われる処か天地をひっくり返されるだろうが
深雪『どういう意味かしら?二科生さん?』
足元を掬われないようにと言われて、カチンとくる深雪
彼女から冷気が洩れ出る
周囲は、その冷気に当てられ凍えている
達也『さあ?ご想像におまかせします。』
深雪から冷気を向けられている当の達也は涼しい顔をしていた
ーーーー
明智と深雪の最終調整を終えて、雫の控え室に入る
すでに振袖を着ており、準備も万端のようである
達也『準備はいいか?苦戦する相手でもないから心配はしてないが。』
初戦の相手は雫にとって問題のない相手
いつも通りで勝てるだろう
雫『まかせて、…。』
当の雫も適度の緊張を保っており、何時でも大丈夫なようだ
気持ちの入った応えの後、何かを訴え掛けるように達也を見つめる雫
達也『どうした?』
突如、弱々しい雰囲気になる雫
普段の彼女では珍しい
雫『達也さん、勝てると思う?』
誰にとは言わない、それは達也も解った
思い浮かべるのは一高の一年生エースと呼ばれる司波 深雪
彼女は雫とは別の予選ブロックのため、決勝まで当たらない
達也『何とも言えないな。彼女、司波 深雪さんの魔法力は一年生の中でも飛び抜けている。おそらく、今年、九校戦に参加している選手達の中でも頭一つは抜けているだろう。』
敢えて明言を避け、淡々と事実だけを述べる達也
不安を払拭するのは意外と難しい
どのような人間でも持っているもの
しかし、それを別のもので覆い隠すことは出来る
雫『…勝てないのかな?』
達也『…勝負というのは時の運でもある。その前に目の前の試合を勝たなければ、彼女と対戦出来ないぞ?』
兎に角、勝つ
勝って、次の試合へ
勝ち癖を付けて、精神をフラットにする
どのような勝負事にも絶対は無い
強い者が勝つのではないが、強ければ勝つことも多い
雫『わかった。』
その事を理解出来るには、後数年は必要かもしれないが
ーーーーー
真由美『北山さんの得意魔法、振動系の魔法で共振破壊か。』
鈴音『守夢君の調整と北山さんの魔法力の前には並大抵の選手では歯が立ちませんでしたね。』
雫の試合結果は相手に反撃をさせない程の素晴らしい試合運びと言えた
自陣の氷柱を振動魔法から守りつつ、相手の氷柱を振動系魔法で破壊していく
情報強化で自陣の氷柱を防御し、敵陣の氷柱を共振破壊で攻撃
摩利『その超一流とも呼べる守夢の調整で
真由美『確かに反則よね。模擬戦だって、私達何も出来なかったもの。』
上には上がいるとは良く言ったもので、実技では雫を凌ぐ深雪
理論でも達也に次ぐ二位
雫と深雪のどちらが勝つかなど火を見るより明らか
鈴音『さあ、どうなんでしょうか?彼の話だと、決勝は第一高校同士になると予測していますのでそれに準じた試合結果になると思われます。…始まります。』
そういった計算の下、達也は鈴音に予想を説明していた
話している時間に、次の試合の準備が出来たようで
アナウンスが流れ
二人の選手が台に上がる
すると、どうだろうか?
選手を出迎える拍手や歓声がない
否、ないのではない
深雪『…』
深雪自身がそれをさせなかったというほうが正しい
只でさえ、絶世の美女と呼ばれている深雪
加えて、巫女装束では呑まれるのも仕方がないのかもしれない
摩利『凄いな、北山の時は歓声が沸き上がったのに、司波の場合は纏う雰囲気もあってか静寂が支配したか。』
雫の時はワクワクとした感じで目を輝かせていた摩利
しかし、深雪には引き攣った笑みだけに止めた
それほどまでに深雪は恐ろしいと言えた
真由美『そうね。異様なほどの静けさに相手選手が呑まれてるわね。』
真由美の言う通り、相手選手は深雪を怯えるような表情で見ている
しかし、驚くのはまだ早い
巫女装束よりも更に全員を驚愕させる秘密を彼女隠しは持っていた
試合開始のシグナルが鳴り響く
その瞬間、会場全員目を疑う光景が全面に広がる
深雪から放たれた魔法は冷気と熱気が入り混るソレ
真由美『なっ!まさか、アレなの?』
摩利『それしかないだろう、自陣を冷気で守り、敵陣を炎で焼き尽くす魔法なんて一つしか無い。』
深雪は自陣を冷気で守る
そして、敵陣を炎で攻める
『『
一見、理にかなった魔法だが、その極とても高難易度の魔法なのだ
運動エネルギーを片方からもう片方に移動させる魔法
冷気と熱気
その両方を同時に操るのだから、出力にしろコントロールにしろ困難を極める
それを一介の高校生が操るというのが前代未聞なのだ
相手の反撃は一切効果無く、深雪の勝利となった
摩利『はぁ~、とんでもないな司波は。』
真由美『末恐ろしいとしか言えないわね。』
真由美や摩利はアイス・ピラーズ・ブレイクの選手ではないものの、出場しようと思えば出来る実力はある
向き不向きや相性もあるため一概には言えないが、彼女達が出場しても優勝圏内には入るだろう
しかし、優勝は出来ないということは解っていた
ーーーーー
達也が担当する選手三人共に初戦を危なげなく突破し、順調に二回戦も勝ち進む
これから、三回戦が始まる
達也『…明智さん、一応身体は休めたようですが気分は如何ですか?』
今朝、明智の体調がイマイチというのは一目瞭然だった
声に覇気もなく目元には隈が出来ており、何よりも調整時にそれが如実に表れていたからだ
明智『いや~、やっぱりアレは慣れないね。身体を休めれることには良いとは思うんだけど。』
アレというのは
伊達に数十年の歳月を人類は過ごしていない
睡眠を効率良く摂るにはどうすればいいのか、その研究成果がこれだろう
達也『そもそも、貴女が寝ていないのが根本の問題です。因果応報というものですよ。』
遠足気分の小学生かと聞きたくなるほどだが、言っても仕方ないことだ
明智『あぅ、ごめんなさい。』
素直に謝れるのは彼女の美徳だろう
少々、緊張感が無いのは玉に瑕だが
達也『全く。…次が正念場です。相手は第三高校の十七夜選手です。北山さん勝ったからといって油断は出来ません。』
起こってしまったことを蒸し返すのは達也の本意ではない
反省しているなら、次にそれをしなければいいのだから
明智『…強いよねぇ。…わかってる。全力で挑まなきゃだね?』
雫がスピード・シューティングで勝ったとはいえ、自分は雫ではない
自分の持ちうる全てで戦って勝つ
達也『はい。実力的には五分ですが、技としては不利です。明智さんの持ち味と相手の武器を計り間違えないで下さい。』
決意を新たにする明智
達也も頑張ろうとする人間に対して冷たくはないが、優しくもない
しかし、むやみやたらに頑張っても意味はない
明智『?』
達也のアドバイスに疑問符を浮かべる
達也『ヒントはパワータイプかコントロールタイプかということです。』
エンジニアとして、最低限のサポートはしておく達也
どう捉えるかは里美と同様に明智次第である
ーーーーー
明智『(うーん、彼の言っていた言葉がイマイチ要領をつかめないんだよね。いや、納得もあるんだけどはっきりしないというか…)兎に角、今はこの試合に集中だね。』
思考に霞がかってスッキリとしないこの状況
どんなに考えても見えてこない
考えているうちに試合開始の合図が近付いてくる
試合開始のシグナルが鳴り響く
明智『とりあえず、先手必勝!いっけぇ!』
自陣の氷柱を一本倒すと、それをローラーの要領で敵陣の氷柱に向けて転がし倒しにかかる
氷同士がぶつかりあい、鈍い音を立てながら氷柱三本を倒していく
栞『なるほどね、氷柱を動かすという事象改変があるためその物自体の事象改変は受け付けない訳ね。』
明智『さあ、どんどん行くよ!』
再度、自陣の氷柱一本を倒してローラーのように転がし敵陣栞の氷柱三本に向けて進撃を開始する
栞『甘いわね。』
明智の氷柱が栞の氷柱に当たると思われた
がーー
明智『ん?あれ?』
一つ目の氷柱が明智の転がした氷柱に当たった瞬間に後ろにスライドする
正確には、氷柱が氷柱を奥に押し込んだと言うべきか
しかし、これで明智の攻撃が終わったわけではない
三本目を倒すまでは氷柱は突進は続くのだが、二本目も押し込まれて不発に終わる
最後の三本目なら今までの衝撃で倒せる筈が見事に明智の攻撃を最後まで凌いだ
明智『うそ、そんな。』
自分の攻撃を防がれたことに驚きを隠せない
一方、控え室で観戦していた達也
一連の流れを素直に称賛すると、共に観戦していた真由美達が問い掛ける
達也『(やるな、カーディナル・ジョージ。)流石ですね、そこまで計算出来るのは彼女ならではということですか。』
真由美『?どういうこと?』
摩利『説明してくれないか?』
代表として、二人が質問するも
他の生徒達も同様のようで知りたいらしい
細かく説明しても解らない可能性も高いため解る者には解るように簡潔に説明する
達也『簡潔に言いますと、氷の摩擦係数を極少化、極大化させて明智さんの氷柱を防いだということです。』
真由美・摩利『『??』』
鈴音『そういうことですか。』
益々、解らないといった感じだが、唯一鈴音は理解出来ていた
達也『はい。そして、最後の仕上げに摩擦係数をもう一度変化させ、三本の氷柱を一本の氷柱と見立てて、明智さんの氷柱を止めたという訳です。』
とりあえず、一人でも理解出来れば上々だ
理解の追い付いていない者は一旦、隅に置いておく
鈴音『そこまで細かな計算を十七夜選手は行っていると?』
あり得ないといった表情だが、忘れてもらっては困る
スピード・シューティングでのあの連鎖の凄まじさを
達也『北山さんとの試合でお分かりの筈です。彼女ならば、可能だと。』
そうだった、と納得する鈴音
緻密に計算された移動魔法によるクレーの破壊
今、思い起こしても凄まじいの一言に尽きる
真由美『ちょっと、二人で話を進めないでよ!どういうこと?』
達也とまるで通じあっているように見える鈴音
嫉妬にも似た真由美の説明を求める声
達也『皆さんの解るように説明するとですね…』
学校の先生の講義のように懇切丁寧に説明する
摩利『…そんなのありか。』
緻密な計算に思わず下を巻く
摩利はどちらかと言えば、パワータイプだ
達也『実現出来るからこそ魔法です。不味いですね。このままだと、明智さんは負けます。』
モニターの方に向くと明智の氷柱が次々と壊されていた
それなのに危機感を全く覚えない担当エンジニアの達也に周りは苛つく
真由美『ちょっと、不味いじゃないわよ。何の策もしてないわけ?』
このまま何も出来ずに負けるなんてあってはならない
真由美は達也に何とか出来ないのかと問い詰める
達也『策はないですね。切り札が彼女の可能性ですから。』
彼女の力が唯一の勝利条件だと達也は言う
しかし、それで納得出来るほど現在の戦況は芳しくない
摩利『謎かけは止めてくれ。明智自身が切り札?どういうことだ?』
どうやったら勝てるのかが知りたい
達也ならこの状況を覆せると信じているが、不安は若干残る
達也『これ以上は話せません。これは、彼女のプライバシーに関わるものですから。(ここに居る全員が魔法の本質がどういうものか、今知る時だ。)』
明智のプライバシーとなると、立ち入るのは難しい
見守るとはどういうものか、そういった面も成長していく必要がある
選手だけでなく、チーム全員が必要なことだ
しかし、真由美達以上にパニック状態の明智
明智『(お、落ち着かなくちゃ。で、でもどうやったら、あの氷柱を壊せるの?守夢君の調整でCADは大丈夫、でもどうしたら…!あの時、守夢君は何て言ってたっけ?)』
試合をしている当人が焦るのは当然だろう、落ち着こうと考えるもそれこそがどつぼに嵌まる
しかし、思考を止めるのは愚かに等しい行為
それでも、この悪循環の中に希望を見出だすのも必要な力だ
【『ヒントはパワータイプかコントロールタイプかということです。』】
【『アメリア、魔法というのはねーーー』】
達也の言葉と同時に懐かしい記憶が甦る
それは、イギリスに居た時の記憶
偉大な祖母と過ごしたもの、魔法とは何たるかを教わった日々
彼女の眼に
明智『!!(グランマ!)』
栞『(あと、六本。このまま、一気に決着をつける…?)』
ここまで、自分のペースで試合を運んで来た栞
波の合成で氷柱を破壊
勢いは緩めない、相手を圧倒して勝つ
気持ちを新たにし対戦相手である明智を見ると、先ほどまで慌てていた彼女の様子がおかしい
やけに大人しい
大抵の選手は一矢報いるために何かしら仕掛けてくるのだが、それが無い
だが、それがかえって不気味である
栞の脳内に疑問符が浮かび、気が弛む
その時だったーー
明智『(負けたくない、勝ちたい。)いけぇ!』
怒号にも似た叫びに呼応して、明智の自陣にある一本の氷柱が射出される
その氷柱は敵陣の縦に並んだ氷柱三本めがけて飛んでいき、見事に倒したのだ
その氷柱はまるで、ミサイルを連想させるものだった
栞『なっ!(これほどの余力をどこに残していたというの?これは、早々に決着をつけるべきね。)』
突然の反撃に驚きを隠せない栞
成す術がなく、只敗北にひた走っていた筈の明智から思いもよらぬ圧倒的な攻撃
長引かせる訳にはいかない
明智『!(…漸く、解ったよ。守夢君の言葉が。そして、グランマが言ったあの言葉の意味が!)もう一回!翔んでいけ!』
彼女の声と共に氷柱がまた射出され、三本並んだ氷柱に命中する
栞『!?(強い!くっ、防御を突き破られた。)』
明智『やった!ラストさ…b…n…ア、レ?(な、に?急に目の前が真っ暗に。)』
勝機が見え始めたはずが、急に体が言う事を聴かなくなる
膝の力が抜け、咄嗟に床に両手をつく
達也『…しまった、忘れてた。』
その様子をモニターから見ていた達也は素直に不味いと感じる
その言葉が不覚にも口から零れる
摩利『おい、明智の様子がおかしいぞ!守夢、今の言葉はどういう意味だ!?』
傍に居た摩利は達也の言葉と明智の尋常でない様子に達也を問い詰める
達也『すみません、私のミスです。明智さんですが、寝不足気味で体調は万全ではありません。それを踏まえて調整したつもりでしたが、限界かもしれません。申し訳ありません。』
自分の計算ミスと素直に認め、謝る達也
そして、周囲が知りたがっている彼女の状態を簡潔に述べる
真由美『守夢君!』
悲壮感たっぷりの声で達也を呼ぶ
何とかならないのか?と
達也『今の状況を私にどうにかしろと言われましても、不可能です。規模の大きな魔法を連発して
試合をしているのは明智自身
達也ではないし、現状をどうにか出来るものでもない
真由美『そんな…。』
後は、本人の頑張りに懸かっていると言われれば不安でしかないらしい
所詮、達也はエンジニア
CADからでしか選手をサポートは出来ない
達也『(過保護すぎる、これくらいを乗り越えなければ彼女に成長は無い。正念場だな…。)見守るしかありません。』
栞『(今が最後のチャンス。相手は残り4本此方は3本、壊すしかない。)』
明智の反撃が止まり、再度攻勢をかける栞
真由美『あぁ!』
2本の氷柱を破壊され、残るは2本
絶体絶命の危機ーー
達也『会長、いえ、皆さんに伺います。魔法の本質とはどう言ったものが挙げられますか?』
にも関わらず、場の空気を壊す発言をする達也
周囲は何をほざいているんだ?、責任逃れをしているのか?等と思うのも仕方ない
摩利『こんなタイミングで質問するか?』
しかし、非難轟々の中でも気にした様子もない達也は更に続ける
達也『私的な見解の一つとして、現実をどう塗り替え、捩じ伏せるものなのかと考えています。』
魔法とは現実を上書きすることが目的の一つとしてある
真由美『…明智さんにそれが出来るの?』
今の彼女の状態で、この土壇場でそれを可能にするのか
達也『勝負は時の運ですが、想い続ければ実現します。』
出来る出来ないではない、やるかやらないかが勝負の鍵になる
明智『(もう一度アレを出来るほどの体力はないかも。このまま、負けるしかないのかな。雫や深雪みたい凄い魔法師でもないし、二人と比べたら仕方ないよね?…本当にそう?)』
Aランク魔法師でさえ、難しいとされる
防御と攻撃の両方が完璧な雫
この二人を比べれば、自分なんて大したことはない
心の奥底でそう思っていた
栞『あと、2本。これで、おしまい。…?(おかしい、破壊出来ない。…まさか。)』
破壊出来ると思った氷柱、波の合成が外れ不発に終わる
自分の計算ミスかと思ったが、僅かに氷柱が動いていた
それをしたのは動けないでいた明智
明智『い、やだ。負けたくない。』
今、脳裏に浮かぶのは過去の自分
無意識の内に手を抜いて、相手を勝たせていたあの頃
負けることに苦しさを憶えるも、相手の笑顔を見るともういいかと、無理矢理自分を納得させていた
そんな思いは二度としたくない、全力でやりきってそれでも勝てないなら仕方がない
でも、手を抜いて負けるのはもう嫌だ
明智『(最後の一撃を放てるだけ分の力があればいい、お願い。)…いっけぇぇぇ!』
栞の陣にある氷柱は明智の不発に終わった氷柱と一つにまとめた三本の計四本
しかし、一本の氷柱に見立てると、圧倒的に大きな質量になる
それを破壊しようとするなら、それ相応の力が必要だ
明智は全霊を籠めて氷柱を飛ばす
栞『(嘘、そんな力どこに残っていたというの?負けたくない、この一撃を守りきれば勝ちよ。)はあ!』
明智の氷柱から自陣の氷柱全てが全損のイメージをさせるほどの強大な
しかし、これを防げば自分の勝ちは決まったも同然
ありったけの
ドゴォッッ
氷同士がぶつかるだけなのに、その音はコンクリート同士なぶつかったような音が出る
ピシッ
次いで、明智の飛ばした氷柱に無数のヒビが入り、粉々に砕ける
真由美『う、そ。駄目だったの?』
達也『いいえ、彼女の勝ちです。』
真由美の言うように明智の飛ばした氷柱は砕け、栞の氷柱は無傷といって問題なかった
モニターで見ていた一高のスタッフ全員が落胆の表情をする
しかし、達也の眼には明智の勝利が視えていた
バキッ、ビキッ
と、栞の氷柱の一本にはっきりとした割れが突然現れる
それは、あっという間に三本全てに現れた
内部まで割れが入ったものと推定され、この試合の勝者が決まった
栞『(なんて、子なの。凄まじい、破壊力ね。)…か、んぱい…よ。』
最後の明智の飛ばした氷柱はまるで、ミサイルと言っても過言ではない威力だった
精根尽き果てた栞
だが、その前にすでに力を使い果たしていた明智
台の上で伏している状態だ
摩利『…勝ったのか?』
達也『えぇ、一本を残して。』
これが勝ったと言えるのかどうかはさておき、ルール上では、先に氷柱をゼロにした方が勝ちに則ると明智の勝ちである
真由美『やった!』
真由美をきっかけに周囲は喜びの声をあげた
ーーーーー
達也『明智さんの体調は芳しくありません。決勝は難しいでしょう。』
決勝戦を前に達也は真由美の元を訪れていた
理由は明智の棄権の提案である
それとは別に達也の担当である深雪と雫、明智の三人が居た
真由美『そうよね、あれだけ無理をしたんだし。それこそ、全身全霊を懸けて勝利したんだから。という状況を運営は把握しているのかどうかは判りませんが、提案がありました。』
三人は疑問符を浮かべているだけだったが、達也は合点がいっていた
達也『三人の同立優勝ということですね?』
真由美『その通りです。これはあくまで、運営からの提案ですので。』
選ぶのは選手である当人達
明智『あの、守夢君の言う通り私は棄権します。さっきの試合で限界だったので。運営の提案はありがたいです。』
達也の言う通り、自分の体力の限界があったため運営からの提案はありがたかった
はっきり言って、彼女にとって天の助けといえた
真由美『わかったわ。』
一人の了解が得られ、残るは二人
雫『…私は深雪と試合をしたいと思います。』
真由美『…そう。でも、司波さんの了解がなければ、出来n…』
予想は出来ていた
大人しそうな表情の雫だが、闘争心は人一倍強い
それを見越してそれを削ぐような発言を考えていたのだが、見事に深雪に遮られた
深雪『構いませんわ。』
真由美『え!?』
深雪『私も彼女と試合をしたいと思っていましたから。』
真由美は深雪ならこの提案を受け入れてくれると信じていたのだが、彼女もまた闘争に目覚めたというのか
真由美は頭を抱えたくなった
摩利『これは当てが外れたな、真由美?』
真由美『他人事だから好き放題言って!』
真由美の後方で様子を見ていた摩利
好戦的である彼女はこの状況を楽しんでいた
達也『…(やはりこうなってしまったか。)』
予想していたこととはいえ、あまり実現して欲しくなかった対戦
これから起こる事は誰にも止められない
例え、誰であってもーー
如何でしたでしょうか?
最近、思うことが台本形式じゃなくても書けるのかな?とか名字で表記していた人物も名前にするほうが良いのかな?とか
今回は、ほぼ優等生と劣等生のままで少しだけ弄ってるだけです。
次回は、私なりに考えた魔法を出したいと思います。
それでは、また次回お会い出来ればと思います。