抹殺された神の愛し子 作:貴神
仕事にも向き不向きが改めて判り、何が得意なのか不得意なのかも少しずつ判ってきた
型に填まった仕事が好きかも
その中で創意工夫してじっくり考えながらやるのが面白い
達也『(やっぱり、面倒だ。出るなんて言わなければ今頃は。あぁ、空はこんなに青いのに…。)』
ここは森の中
と言っても、鬱蒼と繁っているわけではない
拓けた場所からは青空が覗き、日向ぼっこするには絶好の場所といえるが、そんなことを考えたくもないくらいに憂鬱な達也だった
遡ること約24時間前
達也『(今日は、新人戦の男子モノリス・コードか。漸くの休暇だ、こういうときはのんびりと昼寝に限る。)…平和だ。』
結局、達也の部屋で一晩過ごした結那と加蓮
間違いは起こしていないが、このような状況にならぬように今後気を付けようと思った達也だった
ここまで休む暇がなかった達也
いや、無かったというのには語弊がある
休もうとすれば、試合中は体を休ませることも出来た
しかし、不運なのか幸運なのか摩利の件等で津久葉夕歌や他者に絡まれ、自分の時間を確保出来なかったというのが正しい
そして、今日こそは誰にも邪魔されずに自分の時間を過ごす
ーーー筈だった
深雪『こんなところで寝こけているなんて。散々、私の手を煩わせて、どうなるかわかって?』
ありがたくもない来訪者 司波 深雪
達也『(厄日なのか?いや、違う。この九校戦自体が俺にとっては呪いそのものだ。)…司波さんのエンジニアとしての仕事は終わりましたが、何かおありでしょうか?』
内心、ブルーな気分な達也だが
九校戦に来るという選択肢を選んだのは自身だ
しかし、今日くらいは休ませて欲しいと思うのは我が儘だろうか
水波『生意気ですね。深雪さんが声をかけてくださっているというのに。』
と取り巻きという認識の桜井 水波
達也『…声をかけて欲しいなんて言った覚えはないのだが(ボソッ)』
めんどくさいの一言に尽きるこの状況
思わず本音が溢れる
深雪『水波さん、良いのよ。貴女が怒る価値も無い人間ですから。話が逸れたわね、七草会長がお呼びよ。火急の要件らしいわ。』
減らず口は相変わらずなのかそれとも何か達也を貶めたいのかわからない深雪
しかし、そんなことを言うために達也を探している筈もなく、真由美が達也を呼んでいるらしい
達也『嫌な予感しかしないので、お断りしたいです。』
真由美から呼ばれて良かった試しなど一度もない
素直に行きたくない
深雪『それは、会長に言っていただけるかしら?』
断りを入れるも深雪は只の遣い
真由美本人に言わなければ意味がない
達也『わかりました、後程伺います。会長はどちらに?(二人が居なくなったあと、何処かに逃げておこう。)』
残された手段は一つ
逃げるのみ
しかし、その思いは次の瞬間に消え去った
深雪『何を言っているのかしら?会長に連れて来てと言われているの。あなたが逃げないように。』
達也『…』
何故、バレた
ここ最近の達也の行動を分析すれば、めんどくさい事案を予感すれば、バックれている
それをさせないためには連行させるしかない
まるで受刑者のように達也は項垂れるしかなかった
ーーーー
深雪と水波によって天幕に連れてこられた達也
その中で待っていたのは、少し暗い雰囲気をの一高スタッフ達
真由美『ありがとう、深雪さん。守夢君、すぐ逃げるから助かったわ。』
達也が入って来たことで真由美の暗かった雰囲気が明るくなり、それに合わせて周囲の空気も和らいだのを感じる
だが、達也が逃げるとは心外だ
好きで逃げているわけではない
連れてきてくれた深雪にお礼を言う真由美
深雪『いえ、それでは私はこれで。』
そう言うと、そそくさと天幕から出ていく
余程、達也と居たくないらしい
真由美『さて、守夢君。』
いくらか声音が戻る真由美
達也『お断り致します。』
間髪入れずに、達也は断る
何度も言おう、嫌な予感しかしない
摩利『おいおい、まだ何も言っていないのだが?』
この達也の発言には摩利も苦笑しか出来ない
前科があるため強くはでれない
達也『今日くらいは非番を下さい。只でさえ、ここまで誰かの担当エンジニアとして働いているのですから。』
九校戦にも労働基準法をつくるべきだと思う達也
しかも、上級生が下級生を頼るとはどんな状況だと
真由美『そうしたいのは山々なんだけど。不味い状況というかなんというか。』
真由美も達也の功労と功績は理解しているため、今日くらいは休ませてやりたいという思いは少なからずある
だが、それを優先出来ないほどの事案が発生した
鈴音『新人戦男子モノリス・コードで事故がありました。我が第一高校vs第四高校の試合で、場所は廃ビルの中。試合開始直後に破城槌が当校の陣営の真上に発生し、三人共、下敷きになりました。森崎君以下三名は重症です。状況は以上です。何か感じたことは?』
事情が事情なだけに、早急な対応が必要だ
達也にも情報は共有しておくことに越したことはない
達也『いや、感じるも何も、そうですかとしか言いようがありません。』
強いて言うなれば、廃ビルの中にスタート地点を設定した運営側は慌てていることだろうな、と思った達也
そして、やはり仕掛けてきたか、とこれに関しては他言はしないが
真由美『ちょっと、真面目に考えてちょうだい!』
いつも以上に能天気な発言をする達也に真由美は怒る
こちらの気も知らないで、といったところか
達也『(ハァ~)…人払いを。もしくは、会長と市原先輩は奥に。』
また、めんどくさいことに巻き込まれたと思いつつ、とりあえずは真由美を落ち着かせることにする
合わせて、少し此方の情報も与えておくために天幕奥の小部屋へ促す
真由美『この個室で何を?…まさか、私が鬱陶しいから始末するために…。』
達也『何の話ですか。会長、遮音障壁の魔法を。これからの話は他言無用に願います。』
真由美の訳のわからない狂言を無視し、音が漏れでないように依頼する
あまり、この事は話したくないがそうも言ってられない
これ以上巻き込まれないようにするには此方の事情を説明し、理解を得ることだ
鈴音『では、何故私も呼ばれたのでしょうか?』
他言無用な重要な秘密を真由美以外の者に話して良いものなのか?
率直な疑問を呈する鈴音
達也『会長だけでは秘密を守れないと思ったため、市原先輩にフォローをお願いするためです。』
真由美の口は軽いという認識の達也
以前、表の自分の身分も摩利や十文字、延いては九校戦スタッフ全員にバラしたその前科がある
信用出来ないため、鈴音というストッパーは少なからず必要なのだ
それを聞いた鈴音は少し落胆の表情を浮かべる
真由美『そんなに私の口が軽いっていうの?』
横で聴いていた真由美はそれに憤慨するが達也はそれを無視して話を続ける
達也『それはさておき。まず、本戦バトル・ボードの七高の暴走と渡辺委員長の水面の陥没。あれは事故ではありません。』
あの後、秘密裏に運営からバトル・ボードのコースの詳細を伺い、シュミレーションで得た内容も伝える
真由美『え?どういうこと?』
理解が追いついていない真由美
鈴音の方は無言で考え込んでいるため理解出来たのかは窺いしれない
達也『九校戦前日の夜、不法に侵入した賊がいました。こちらで軍に引き渡しましたが、目的は不明です。(そう、目的は。だが、狙いは第一高校だろう。)』
つまり、九校戦に何らかの組織が妨害工作を行っているということ
真由美『そんな大事をなんで黙っていたの!?』
そんな情報、七草家でも掴んでいない
あり得ないといった表情の真由美
しかも、内容が下手をすれば死傷者が出る
それを達也は飄々と何でもないように伝えるため、真由美は怒る
達也『軍の人から秘密と言われれば、話す訳にはいきません。記憶を消されなかっただけありがく思わなければ。それに、このような状況を話して選手やエンジニアのコンディションが悪くなれば益々悪循環です。』
怒る真由美だが達也は気にする風もない
こちらには正当な理由がある
軍という言葉を出せば、いくら十師族といえど引き下がるしかない
いや、軍と十師族は相容れない関係なのだ
所謂、水と油だろう
もっと言えば、このような事情を聞いておいてスタッフ全員が冷静に平静に試合をしろなど無茶な話だ
鈴音『確かに、守夢君の言う通りです。』
達也のその判断のおかげで試合は順調に進み、期待以上の成果を挙げた
それは感謝するしかない
真由美『でも、それを一人で抱え込んでいたの?』
しかし、一歩間違えれば、達也のエンジニアとしての調整も不調になったはず
それを16歳の高校一年生に背負わせていたなんて、気付けなかった自分を責める真由美
達也『大したことではありません。バスの件も同じで、何処かの犯罪組織が関与しているらしいです。今回もその線が濃厚です。』
真由美の心配も達也にとっては大したものでもない
表現するなら、部屋の掃除で予想外な所に汚れが見つかったというところだ
真由美『あまり無理しないでね?』
まだ達也の事を理解しているわけではないが、謎多き存在の後輩
心開いてくれるのを待つしかないが、心配だけはさせて欲しい
達也『どちらかといえば、会長達からの無理難題に頭を抱えてるくらいですよ。それで?モノリス・コードは中止ですか?』
真由美達の心配も理解はしている
だが、そんな心配よりもこれ以上自分に関わらないで欲しい
その方が悩みの種は減るのだ
おそらくそれは、真由美達が卒業するまで無くならないだろうが
この話は終わりだと、話題を変える達也
真由美『いいえ、当校と第四高校を除いて試合は続いているわ。』
達也『なるほど、第四高校はともかく当校は棄権ですね。』
何より出場出来る選手がいるのか怪しいところだ
事故でないことは確かだが、それを運営が理解出来ているかはわからない
はたまた、運営側が共犯だった場合はお手上げだ
真由美『それについては十文字君が折衝中よ。』
十師族が運営側と折衝など、茶番にしか聞こえない
十文字の一方的な要望になるに違いない
達也『(折衝中も何も選手がいない筈だが。)そうですか。』
最近、ふと左手に着けている腕時計を視線を移すことが多くなった達也
きっかけはあの夢の後から
結局、現実に起きてしまい動揺を隠せなかった
浩也からも指摘を受けたように自分の力は発展途上の力のため、制御が難しい
その補助と制御のための代物が役目を果たせていない
これ以上、何もないことを祈る達也だった
俺は家族の為なら何だってする
例えそれが俺が死ぬことになっても
それが俺の役目だからだ
また、家族を守れない弊害があったなら、それを俺は排除するだろう
それは俺が大切にしている家族を侮辱した同じ行為だからだ
俺は家族のためだけに存在し、それを邪魔をするなら誰であろうとーー
達也『御用件があると伺いました。』
夜、ホテルの第一高校専用の一室に達也は呼び出された
ノックをし、入室の許可があり部屋に入る達也
そこには、呼び出した真由美以外に十文字や摩利、鈴音といった幹部全員と生徒会役員であるほのか達まで揃っていた
真由美を中心として摩利と十文字がわきを固め、机を挟んで真由美の前に立つ達也
真由美『まずは、お礼を。守夢君のおかげで多くの競技で優勝もしくは、上位入賞が出来ました。第一高校を代表して感謝します。』
達也『…。』
真由美からの感謝の言葉など不要だ
手短に用件だけ話せと目で訴える
真由美『当校は現在、次点の第三高校に大差は無いもののこのまま順当に行けば本戦を優勝、新人戦も準優勝は確実というところです。ここからは私事になりますが、高校最後の今年もあり出来れば、総合優勝を目指したいと思っています。そのためには、新人戦モノリス・コードで第三高校に大差をつけられるわけにはいきません。準優勝もしくは、三位入賞でなければなりません。』
要約するとこうである
本戦だけでなく新人戦も優勝して、総合優勝したいということ
達也『…。』
真由美の話に一切口を挟まない達也
本来であれば、それが当然だが今回は違う
黙している達也の雰囲気が恐ろしいのだ
これから言おうとしている言葉が何を意味するか解っているから
真由美『…こんなことを本当は言いたくないの。けど…。』
摩利『真由美』
言い淀む真由美を叱責する摩利
私情を持ち込むな、と
暫し沈黙した後、意を決したのか真由美は口を開く
真由美『…守夢君、新人戦モノリス・コードに出て貰えませんか?』
この言葉を聴いた時、やはりかと思った
もっとも、予感はしていた
午前中に真由美に呼び出された時から
そして、本日何度目かの左腕の時計を見る
達也『…伺うことがいくつかあります。』
頭ごなしに拒否することも一つだが、理論詰めで負かさなければ、今後もこのようなことは起こりうる
感情は感情を呼ぶ
真由美『なにかしら?』
達也『一つ目。第一高校は棄権になったのでは?』
十文字が折衝中といったあの流れでは、おそらく棄権は無くなったのは予想出来ている
それでも確認は必要だ
どのようにして出場出来たのか過程も知りたい
真由美『それは、午前中に話した通り十文字君が掛け合ってくれたわ。』
ちらっと十文字を見ると、目を閉じて腕を組んでいるが、その姿からでも行動は読み取れる
自分がこうと決めたら、曲げない
いや、押し通すが近いか
達也の予想通りだ
つまり、圧力をかけたわけである
達也『では、二つ目。他に一年生で選手がいるのでは?まだ候補がある中、魔法力の無い私を推す理由が解りません。』
魔法力の無い達也に魔法力がメインの競技に出場など理解が出来ない
しかし、問題はそこではないのだ
摩利『実践的と言ったら的確かな?魔法力があったところで応用が出来なければ負ける。そういう意味では、他の選手候補は、重傷の三人と比べても劣る。いや、ギリギリのレベルが今回の三人だったわけだ。理由はそういうことだ。』
真由美の代わりに摩利が答える
モノリス・コードが魔法実技ではなく、実践と考えているようだ
それを体現出来るのは、達也以外いないということらしい
達也『質問の意図を掴めていないようですが。まぁ、いいでしょう。では、最後に。私は選手ではありません。【エンジニア】です。【理解】出来ましたか?』
しかし、達也の謂わんとしているところはそこではない
達也が何故、選ばれる理由があるのかということだ
これ以上質問しても埒が明かないため、限りなく答えに近いヒントを提示する
それと同時に高校生が出せないような雰囲気を醸し出す達也
真由美『!?…それは。』
まるで裏の世界の住人かのような豹変をする達也にようやく、真由美達が思い出す
達也が九校戦にエンジニアとして参加してもらうにあって出した条件を
達也『なるほど、あの時の契約はその場凌ぎだったというわけですか。話になりませんね。私はこれで失礼します。』
達也がエンジニアとしてだけならと渋々承諾したあの時の契約はどうやら、都合良く歪曲されたようだ
今更、忘れていたという表情した真由美達
だがそれは、達也には通用しない
契約、約束事というのは守られてこそ価値が生まれる
例えそれが口約束であっても
本来ならば、理由も無しに拒否することも出来たことをあえて、ヒントまで出した達也
その心境の変化に達也自身は気付いていないだろう
十文字『待て、守夢!』
自分達に背を向け、部屋から出ようとした達也を十文字の障壁が阻む
真由美『十文字君!?』
普段、冷静沈着な十文字 克人
それが突然、怒号と共に障壁魔法で達也を外に出さないようにした十文字
真由美は驚きを隠せなかった
達也『…なんのつもりですか?このまま帰さないおつもりですか?まあ、こんなちんけな障壁で私を阻めるとは……随分と嘗められたものだ。』
驚きもせずに気だるげな表情で十文字を一瞥する達也
そして、右腕を胸の前まで上げると、羽虫を払うかの如く拳一つで障壁を破壊する
『『『なっ!?』』』
事象改変は自身のイメージが反映される
壊されるイメージがなければ、易々と魔法は崩れない
相手が魔法なら魔法同士ということで強い干渉力が克つ
しかし、破壊されることを見越していたのか動揺は無いが、表情は硬く、額から汗が伝う
が、十文字は自分の障壁魔法を意図も容易く破壊した達也に対して臆すること無く反論をする
十文字『甘えるな、守夢。お前は代表メンバーの一員だ。代表である七草が決めたということは幹部の俺達も同意見ということだ。七草が間違っているというなら、俺達が止める。だが、これは決定事項だ。チームの一員である以上義務を果たせ。』
達也が反論をしないことを良いように、さも自分達が正論のように捲し立てる十文字
しかしー
この行為が達也の怒りの琴線に触れる
ズンッ
不意にその部屋に居る全員がえも言われぬ圧力を感じる
達也『………甘えるなだと?義務を果たせだと?』
パキンッー
耳を澄まさなければ、聞こえないような何かが割れる音がした後、更に圧力が増す
そして、誰も気付いていないが、達也の瞳の色が蒼から白銀に変わる
『『『『『!?』』』』』
それとほぼ同時にホテル内で体を休めていた魔法科高校の生徒達含むとホテル内に居る全ての人間が得も言われぬ感覚に襲われる
真由美『も、守夢君?』
突然の達也の豹変
九校戦のエンジニアでの依頼の時に感じたものとも違う異質な気配
達也『甘えているのはどちらだ?十文字。最初に言っておいたはずだ。お遊びみたいな九校戦など興味はないと。今回特別にエンジニアとして協力してやるとな』
達也から放たれる何か
眩く、神々しささえも感じるが、そんな生易しい表現では到底表せない
そう、まるで天罰のような
死という恐怖より、存在そのものが消える感覚
何も抗うことの出来ない
圧倒的なナニか
達也『更には選手としてもだと?お前達の最もらしい言い方で義務を押し付けるとはな。死ぬか?』
一高スタッフは達也の異様な圧力に呑まれて指一本動かすことが出来ない
そして、達也の放つ殺気と別の何かが控え室を満たす
真由美達は自分達の終わりを直感した
バンッ
双子『『達也(さん)!!!』』
突然、部屋の扉が開き、二人の少女が駆け込み達也に抱きつく
それにより、達也から放たれていたナニかが霧散する
極限まで張り詰めていた糸が切れたのか、部屋に居た大半の一高スタッフが次々と倒れていく
何人が気絶しているのかよりも意識を保っている人数を数えた方が早い
真由美と十文字、摩利そして、深雪は何とか気絶は免れているが、膝が笑っており今にも崩れおれそうな状態だ
結果だけみれば、耐えられたのは誰一人いない
達也『!?…結那、加蓮?どうしてここに?』
家族の気配と二人の暖かな体温により、我を失っていた達也が正気を取り戻す
そこで漸く、自分が感情に流されていたのだと我に返る
結那『なんだか、嫌な予感がして。』
ホテルの部屋で寛いでいたが虫の知らせが働いたか、慌てて達也の気配を探してここまで来たのだ
この二人の嫌な予感というのは良く当たる
神夢の血が濃いということではなく、霊的なものが強く、殊達也に対してだと百発百中だろう
加蓮『そのあとすぐに、達也の
溢れてきた、ということは封印が壊れたということ
我を失っていたため、達也自身は気付かなかった
落ち着いて話そうとしている双子だが、その目には今にも決壊しそうなほどの涙を溜めている
達也『(封印が壊れたのか)ごめんな、二人とも。心配をかけた。お前達をそこまで追い詰めてしまったのは俺の責任だな。』
左手首を見やれば、ベルト部分とガラスにヒビが入っており、その割れた細かな破片が足元に落ちていた
達也には解っていた、結那と加蓮がここまで必死に達也を繋ぎ止めようとしているのかを
達也が他人を殺めることではない、秘匿魔法がバレるからでもない
そんなことはいくらでも隠蔽出来る
問題はそこから先だ
理由は達也の出自が関係する
個人的な感情で激情にも近いそれで他人を傷つけてしまったら、達也は即座に姿を消すだろう
護るためにではなく、利己的に力をふるった自分の罰として
護るために自分という存在意義があり、それが破綻したとあっては達也は己を苛むのは明白
そんなことを結那も加蓮も認めないし、家族ひいては一族が草の根掻き分けてでも探し出すだろう
しかし、そんなことが起こらない方が一番良いのだ
何より、この二人は達也が好きだ
理由がどうあれ、苛む表情の達也を見たくはない
逆も然り、特に結那と加蓮に関しては危害が加わりそうになればすぐに駆けつけていた達也
お互いが守り合うというある意味理想ではある
これ以上泣かれるのは達也自身も望まない
二人の頭を撫でながら現在進行形で垂れ流し状態の
真由美『…あ、あの。』
達也からの圧力も無くなり、緊張状態から解放された真由美達
言葉を選ぼうとするも上手く言葉にできない
達也『申し訳ありません。七草会長、先程の話ですが、回答を保留にさせていただけないでしょうか?一時間下さい。』
今はここから離れて冷静になる必要がある
断る云々はその後でもいい
真由美『え、えぇ。それくらいなら、大丈夫。』
達也『では、一度失礼致します。』
結那と加蓮を連れて部屋を出ていく達也
扉が閉まり、空気が弛緩する
三人の足音が遠退いていき、ようやく全身の緊張が無くなる
摩利『な、なんだったんだ?』
何から確認すればわからないが、何かを口にしなければ余計に混乱しそうなのだ
十文字『解らん。だが、事実として俺達は動くいや、何かをしようという思考すら拒否していた。抗いようのない力にただ平伏すような感覚だった。』
十文字は言葉を選びつつも、的確な言葉が出てこない
言葉を選ぶということは、自分の中で理解または納得しようとしていることだ
しかし、それは得体の知らないナニかを拒絶していることに他ならない
その時点で、達也を自分の理解できない領域の認めたくない人物もしくは、敵という
十文字 克人という人間の器の小ささを認めているのだ
しかし、十文字が達也よりも人間としての器が大きい小さいを言っているのではないということは追記しておく
真由美『彼は一体何者なの?』
摩利と十文字も混乱しており、真由美自身も同様だ
一年生ながら、なんとか耐えた深雪は黙したままだ
ブランシュの襲撃後に七草でもう一度調べた達也の情報は何も見つからなかった
しかし、達也には何か秘密があると思っていた
けれども、激昂した達也に恐怖してしまった自分に他人の秘密を暴くという真似は出来なかった
夕歌『(ここ数日、守夢君に会えてないなぁ。隈なく探してるはずなのに。…!あら?)もr…、話し掛けちゃいけない雰囲気かも。それに、あの可愛らしい女の子二人は一体?それに、向こうは…。』
今日の夕歌は少しブルーな気分だった
理由は、達也と実のある会話が出来ないことにあった
だが、想い続ければ通じるものなのか、廊下で達也を見付ける
それも二人の美少女と一緒というおまけ付きで
そして三人は軍の関係者でなければ立ち入ることも許されない場所に姿を消えていく
どうして達也達がそこに入れるのか知りたいが、それを聞こうとも思わなかった
なぜなら、二人の少女を連れ立って歩いている達也の表情には怒り、悲しみ、悔やみ、といった負の感情が見てとれた
しかし、その感情の奥にはもっと違った言葉では言い表せないナニかがあった
数度会話した程度の関係で訊こうとも思わない
何か事情があるのだろうし、自分の身分を考えればこれ以上達也と深く関わるべきではないのだろう
でも出来るのなら、何故達也が苦しんでいるのか知りたい
そして、それを癒してあげたいと思った
ここは、軍から宛がわれた達也専用の部屋
本来ならば、一高の部屋に戻るべきなのだが
ここの方が静かということもあり、落ち着かせるにはベストな部屋といえた
達也『…』
部屋に入り、ベッドに横たわってから十数分
ピクリとも動かない達也
結那『達也さん…』
加蓮『達也…』
達也『…すまない二人とも。情けない姿を見せたな。もう大丈夫だから。』
二人の心配そうな声
これ以上不安にさせてはならない
にこやかな表情をみせるも
はたして、自分は笑えているだろうか
加蓮『達也、無理してる。』
達也『かもな。』
あっさりと見破られ、苦笑混じりに返す達也
明らかに空元気だ
結那『…加蓮、時が来たのかも。』
時が来た、というのはどういう意味だろうか
加蓮『…出来れば、私達で立ち直らせたかったんだけど。仕方ないかな?まぁ、いつかは私の力だけでやってみせる。』
若干だが、二人の表情が悔しそうになっている
加蓮の言葉から何らかの方法で達也を立ち直らせることが出来るのは窺える
一体、どのようなものなのか
達也『どうしたんだ?加蓮、結那?』
自分の知らないところで二人は何かを隠している
それが何なのかは知らない
けれど、心臓の鼓動が早鐘を打つ
まるで、嫌な記憶を思い出した時のようなーー
加蓮『あやめから手紙を預かってるわ。』
達也の今にも吐きそうな表情を無視して、加蓮は淡々と告げる
達也『!?』
加蓮の口から出た人の名前に愕然とする
何故ならば、その人物はーー
結那『嘘だ、といった表情ですね。生きてはいませんよ?』
そう、この世にはいないのだ
達也『…な…ら、どう…して。』
ならばどうして、死人からの手紙があるのか
しかしその答えはすぐに分かった
加蓮『生前、預かっていたものよ。』
自分の死期を予感していたのか、こんな状況で手紙を貰うとは思わなかった達也
結那『もし、自分が死んで達也さんに何かあれば渡して欲しいって。』
達也『あやめが。』
あやめ
達也のもう一人の
血筋は神夢の直系であった人物だ
とある事件で亡くなり、年は生きていれば、結那と加蓮と同い年だ
そして、達也の初恋の人でもある
結那『もっとも、あの時の達也さんに渡しても意味はなかったでしょうし。母がそのようにと。』
あやめが死んで達也の心に大きな穴を空けた
そして、無気力になりかけていた達也だが、何かを決意し強くなろうと修行や勉強等様々な事に打ち込んでいったため、この手紙を渡すタイミングではないと凛が判断したのだ
その時の達也は危機迫る表情で心に余裕はなかったが、今ほどではなかった
加蓮『あやめは自分がいなくなったとき、達也の心が壊れないようにと保険をかけたの手紙というものでね。まぁ、母さんの言う通り幼かった達也にこれを渡したところで効果は不十分だったでしょうし。』
しかし、その無理は何処かで限界を迎える
例えるなら、容量が決まっている箱に物を詰め込みすぎれば、箱が壊れてしまうようなものだろうか
今までの無理が漸く達也に訪れ、一新するには良いタイミングといえた
そして、今このタイミングは高校生という多感な時期であり、達也自身が己を見つめ直す最適な機会なのかもしれない
達也『…』
二人の話した理由はもっともであるし、あの時の自分はそんな余裕すらなかった
ならば、今このタイミングがその時なのだろう
ーーーが、
結那『けど今は、私達も物事をある程度考えられる年齢になりましたから。むしろ、今これを渡すべきだと思いました。…これです。』
結那は薄手の上着の内ポケットから葉書より一回り大きい位の手紙を取り出し、達也に差し出す
小さな花柄があしらわれた可愛らしいそれ
達也『…すまない、今の俺にそれを受け取る資格がない。』
達也から予期せぬ拒絶の言葉
受け取る資格がないとはどういうことか
加蓮『逃げるの?』
達也『逃げてなど。』
容赦のない加蓮の詰問
今の達也にとって、逃げるという言葉は聞きたくない言葉なのだ
聞きたくない
加蓮『今の達也は臆病だわ。激情に流されて我を忘れ、それをバツが悪くて無理矢理何でもないかのように振る舞う。そして、振り返りたくない過去に目を背け前に進もうとしない。まるで、自分の非を認めたくなくて駄々を捏ねる子供よ。いえ、それ以下かもね。』
加蓮の言う通り、達也自身解っているのだ
だが、解っていても受け入れることなんて今の自分には出来ない
結那『加蓮!』
反論も出来ない達也
しかし、言い過ぎだと思ったのか結那が加蓮を窘める
加蓮『そうでしょ?結那だって同じじゃない?今の達也は私達が好きな達也じゃない。』
結那に止められても加蓮は治まらない
結那も思っていることは同じの筈なのだ
結那『…そうですね、今の達也さんは達也らしくありません。』
偽る理由もないと思ったのか、加蓮の意見に同意を示す結那
達也らしくないと、二人に言われては仕方がない
達也『そうだな、お前達の理想とする俺ではないな。むしろ…』
返す言葉もない達也
今の自分には愚か者という文字が似合う
更に、自虐的になりかけた瞬間
バチンッ
両頬に鋭い痛みが走る
達也『え?…結那?加蓮?』
何が起きたのか、数秒の間混乱する
目線を上げると、ヒラヒラと右手を振る加蓮
加蓮『少し、目が覚めた?』
どうやら、加蓮に右手で左の頬を叩かれたらしい
そして、もう一方の頬は結那の左手で叩かれたようだ
両頬がジンジンと痛みを訴えかけてくる
結那『あまり、したくはなかったですけどね。私達は達也が理想の人になって欲しいからこんなことを言っている訳ではありません。悩んだって構いませんし、立ち止まっても構いません。それでも這い上がるのが達也さんでしょう?何かを堪えて苦しむ達也さんは見たくありませんし、してほしくありません。それに、あやめの言葉が今の達也さんに必要だと思ったから渡したのです。私達三人の思い、感じていただけませんか?』
どんな見苦しい格好でも構わない、人間らしく足掻いて藻掻いてでも最後には立ち上がるのが達也であり、
そんな血反吐するような努力を何食わぬ顔で続けて、その大変さを見せないその姿こそが普段の達也だ
でも、それで達也が苦しむならそんな枷は外した方が何倍もマシだ
そんな二人からの懸命な想いを受け止める達也
必死に自分を勇気付けてくれる二人、ならばその想いに応えたい
再び、結那から差し出された手紙を受け取り、封を切る
手紙の字を見ると、幼いながらも流麗な字でしかし、あやめが書く特徴的な字でもあった
そこにはーー
【達也兄さん
この手紙を読んでるということは私はもうこの世にはいないのですね。
けど、気に病まないで下さい。私はこの宿命を呪ってなどいません。
むしろ、幸運でした。この短い7年間でしたが、お父さん、お母さんの元に生まれて来れて幸せでした。
浩也叔父さん、凛さん、結那、加蓮、恭也君に一族の皆さんと過ごした日々は何物にもかえがたい大切時間でした。
そして、達也兄さんと出会えたこと
これも私にとって宿命だったのでしょうね。知っていましたよ?私達と兄さんは血が繋がっていないということを。兄さんはそれを負い目に感じて私達と一線引いてることも。いつ?と思われるかもしれませんが、私も憶えていません。ただ、それがいつかは無くなってくれればいいなとは思っていました。一族の皆さんも気付いていましたよ?
正直、言いますと私は達也兄さん、いいえ、達也さんが好きでした。一目惚れと達也兄さんの行動の一つ一つを見て、益々好きになりました。むしろ、愛しているのかも?話が横道に逸れましたね。
それでは、本題です。
達也兄さんにお願いがあります。
達也兄さん、もっと自分を褒めて下さい。自分を認めて下さい。気楽に生きて下さい。自分を愛して下さい。
そして、家族を守って下さい。
もし、生まれ変われたら、私と出会ってくれますか?
あやめより 】
僅か7年の生でこの世を去ったあやめ
どれほど、哀しい人生だっただろうか
それなのに、幸せな人生だったと
達也と出会えたことが何よりも幸せだったと
隠していたつもりの血筋もどうやらバレていたらしい
そして、その血筋に対して負い目を感じていたことも家族にまで筒抜けのようだ
一番の衝撃はあやめも達也の事が好きだったということだろう
もう二度と叶わないが、結局相思相愛だったということにむず痒さを感じる
達也『ばかだなぁ、あやめは。そんなの決まっているだろう?』
ポタポタと涙が溢れてくる
忘れかけていた心の暖かさが戻ってくる
この先、何が起ころうとも家族を守護者として生きていく
そうあやめに誓う達也
そして、どんなことがあっても来世でも必ずあやめにと出逢う自信はある
勿論、結那や加蓮といった神夢の家族達全員と一緒という条件は必要だが
落ち着いてきた所為か、もう一度手紙に視線を落とすと、二枚目に何か書かれている
若干嫌な予感がしつつも、一枚目と二枚目を入れ替える
【追伸:結婚相手は私か、結那、加蓮から選んでね?
特例として、重婚も許してあげます。】
お約束というべきか
ウチの女性陣は何故、達也と結婚をしたがるのか
やはり、あやめも神夢の血筋であった
達也『…まだ、結婚とか早くないか?』
そもそも、重婚はこの国では許されていない
しかし、達也の立場では特殊で、重婚に近いことは可能なのだが、それは後程説明する
尤も、達也がそれをするかは微妙だ
加蓮『早くもないわよ。達也は天然の超絶タラシだし、フラフラと何処かに行ったらと思ったら、勝手に墜してくるし。これは早急に手を打つべきだと思うわ。』
なんという風評被害だろうか
墜しているつもりは毛頭なく、それにタラシでもない
まだ天然ジゴロの方がマシかもしれない、否どちらも同じか
結那『そうですよ?一高の生徒のみならず、他校の生徒までタラシこんでいるんですから。それに、年上の女性まで。』
二人して達也をまるで素行が悪いように責めてくる
しかも、犯罪を予防するための措置みたいに聴こえてしまう
そして、夕歌と会っていたこと(達也の主観では、絡まれているのだが双子の観点では逢引らしい…)も知られている
達也のプライバシーは一体何処へやら
達也『おい、俺はそんなことはしているつもりはないぞ?』
一応、反論を試みるも
(歪曲された?)事実上では、あまり達也自身に勝ち目はないが
加蓮『そこが天然の超絶タラシって言われるの!…それで?』
どうも許してくれないらしい
後で、何かを要求されるのは明白である
もうこの話は終わりと、不意に問い掛けのような口振りで達也に話しかける
結那『決まったのでは?』
結那も同様に何かを問いかけてくる
その意味を正しく理解した達也
達也『…あぁ、三人のおかげでな。』
神夢 達也としてではない、守夢 達也でもない
一人の人間として今、必要なこと
ーーーーー
真由美『…本当に、引き受けてくれるの?』
きっちり、一時間後に再度部屋に訪れた達也
先程達也を止めた双子はおらず、一人で来ている
再度、怒らせたらと思うと少し恐い真由美
あの時は達也の
例えそれが、一時のものだったとしても
だから、達也の引き受けるという言葉に恐る恐る尋ねた
達也『えぇ。但し、残り二名の選手は私が選びますので。』
摩利『まぁ、仕方ないか。』
只では起きないのは分かりきっていたから達也の提示した条件を飲む
ここで拒否もしくは、渋ると他の選手のあてがない
達也『では、早速ですが。1-Eの西城レオンハルトと吉田幹比古の両名を指名します。』
条件を飲むことは判っていた達也は摩利の言葉が言い終えると同時に要件を伝える
真由美『えぇ!?』
達也の指名した二人の名前に流石の真由美も驚くしかない
一科生ではなく、二科生を指名した達也
そしてその二人は九校戦に来ているものの、二科生でも成績は良い方ではない筈だ
一体何を考えているのか解らない達也
達也『ここまでくれば、特例というゴリ押しでいけるのでは?この二人でなければ私も出ませんので。では、私も二人と打ち合わせがありますので、失礼します。』
理由も説明しない達也
その目線は十文字に向けられており、その目からは【今更、圧力を掛けれないとか言わないよな?】と雄弁に語っている
真由美『ちょっと、守夢君!』
言いたいことを言ってさっさと退出していく達也を真由美は止めるも、あっさりと無視される
いつもいつも、達也に主導権を握られっぱなしで真由美達の先輩としてのメンツは見る影も無かった
レオ『…なぁ、達也。』
幹比古『レオ、言っても無駄だと思うけど。』
何かを言おうと口を開くも声にならず、当たり障りのない言葉を口にするレオ
幹比古の方はレオの言いたいことが解っているのか諦めの表情だ
達也『?なんだ?』
だが、達也の方はレオと幹比古が何を言いたいのか解っていない
もしかしたら、解っているがそれが二人との間に大きな認識の違いがあるからかもしれない
レオ『…マジ?』
やはり指摘をする勇気が無かったレオ
最初に部屋に呼び出された要件を聞くに留まった
達也『こんな嘘はつかない。ルールは知ってるな?』
達也の言では、出場前提で話が進んでいる
レオ『あぁ。言っとくが、そんな魔法力は無いぜ?』
モノリス・コードは魔法力が物を言う競技だ
自分でいうのもなんだが、二科生の中でも下から数えた方が早い成績だ
それは達也も知っている筈
達也『魔法力が高い=必ず勝つではないぞ。』
だが、達也はそうは思っていない
まあ、それを言えてしまうのは達也だからなのかもしれない
エリカ『レオ、目を逸らさない。本当に気になってることを言うのよ。』
焦れたのか、エリカが口を挟む
レオ『けどよぉ。』
エリカに躊躇うなと言われるもレオは渋る
余程のことーー
エリカ『あぁ、もう!達也君、いい加減にその二人を撫でるのをやめなさい!』
ーーらしい?
達也『?なんでだ?』
達也以外思っていたらしい
自分達が部屋に来てからもずっと達也が双子の義妹達を撫で続けるのかと、
ピタッと達也の二人を撫でる手が止まる
何かおかしなことなのか?達也はそう思った
加蓮『達也、手が止まってる。』
その中断も一瞬で終わる
加蓮に再度
達也『あぁ、すまない。』
達也も義妹達の
結那『んふふ~』
双子は公衆の面前で達也を独占出来ているため、満足げな表情をしている
ほのか・雫『(羨ましい。)』
しかし、ほのか達にとってはとても悔しい場面ではある
美月『み、皆さん、落ち着きましょう。ほ、ほら。明日の準備もありますしね?守夢さんも。』
達也の周辺は甘ったるい空気なのに、エリカ達の周辺は殺気が渦巻いている
美月は居ても立ってもいられず、声を上げる
達也『そのつもりなんだが、なんでそんなに怒ってるんだ?…まあ、とりあえずだ。レオは守備で幹比古には遊撃つまりは攻撃と守備の両方だな。』
どの口がそういうのかと言いたいが、漸くミーティングらしくなったのに止めたくはない
レオ『そう言いつつも、撫でる手は止めないのな。』
撫でながらは空気が締まらないため止めてほしい
達也『そんなに気になるか。分かった、結那、加蓮。少し待っててくれ。…よし、続きだ。レオにはこの前渡した小通連のCADを使う。魔法を媒介とした攻撃は禁止されてないからな。そして、モノリスは半径10m以内からの無系統魔法で開く。そして、それを妨害することは反則ではない。』
何度も言われるなら仕方ない
双子達を宥め、本題の続きに入る
基本、モノリス・コードというものは魔法での直接攻撃が許される
つまり、素手や魔法無しの攻撃は原則禁止なのだ
例外として、魔法を使っての間接的な攻撃は可能ということだ
レオ『大丈夫だ、10m以内に入れなければいいか、モノリスを開ける無系統魔法を使われてもコードを読み取らせなければいいわけだろ?例えば、開いた瞬間にすぐに閉じるとかな。』
達也『その通りだ。あとは、幹比古。お前の役目は重要だ。あの晩、言ったことを覚えているか?』
レオもルールを飲み込めているため、作戦の立案がしやすい
幹比古『あぁ、けどまだ理解が出来ていないよ。』
幹比古に言った言葉
現代魔法と古式魔法の違いを考えることだと
数日間考えていたが、よく解っていない
達也『焦らなくていい。考えることが大事なんだ。進化・発展には変化が必要だ。俺の見立てでは、幹比古お前自身に問題は無い。考えられる原因は術式にあるとみている。』
考えを止めるということは現状維持ではない、退化を意味する
どんな些細な事でも良い
考えて進むことだ
と偉そうなことを言う達也だが、家族以外と関り合いを持ちたくないと変化を好まない人種であったり…
それはさておき、幹比古の不調の原因は自身にあるのではなく、家に問題があるという達也
幹比古『なっ!いくらなんでもそれは看過出来ないよ達也。この術式は吉田家が長い年月をかけて編み出したものだ。それは個人ではなく、家同士の問題になるよ。』
そんなことを言えば、幹比古も怒る訳で
その発言は一個人としてではなく、一族を巻き込んだ争いになるのは明白だ
達也『すまない、語弊のある言い方だったな。幹比古の力に対して術式が追い付いていないということだ。それと、この時代とその術式の時代が噛み合っていないということだ。』
失言だと認め、謝罪する達也
だが、問題としてはその辺りにあるため言い方を変える
幹比古『時代が噛み合っていない?』
その言葉があの晩、達也が幹比古に言ったことに繋がるのだ
達也『現代魔法は言ってみれば、速度だ。先に当てた方が勝つ。術式が見られないようにカモフラージュしていた時代はあったかもしれないが、今はそれが足枷になっている。しかし、古式魔法は隠密性と威力には分がある。要は使い方だ。』
達也自らも古式魔法を噛っているため、ある程度の特性は理解しているつもりだ
幹比古の家と八雲とでは古式魔法でも若干異なるため正しくは言えないが、大まかな部分はその通りのはずだ
幹比古『隠密性と威力か、そんなこと初めて言われたよ。でもどうやって、それを取り除くんだい?』
あっさりと、自分の悩みに一条の光を見出だしてくれた達也
出会って僅か数ヵ月しか知らないが、相手を貶めるような嘘は言わない達也
達也『幹比古の術式を見せて欲しいと言ったら、嫌か?』
幹比古『…嫌ではないというのは嘘だけど、背に腹は変えられない。お願いするよ。』
ここまでくれば一蓮托生だ
少し、信じてまかせてみたい
達也『ありがとう、幹比古。』
幹比古が自分の家の秘密を明かしてくれるのだ
その信用に全力をもって応えよう
さあ、ここから達也の本領発揮である
昨晩、何故あんなに張り切ったのか後悔しかない達也
レオ『達也、何を独り言言ってるんだ?』
幹比古『黄昏てもいたよね。』
達也の様子がおかしいことに訝しむレオと幹比古
心配はしてくれているのだろう
だが、少し引き気味なのはやめてほしい
達也『…気のせいだ。』
おそらく、独り言が聞こえていたらしい
それほどに憂鬱な思考をしていた自分を戒める
不意に家族の応援する声が聴こえた気がする
視線をモニターに移すも観客席には家族の姿はない
しかし、見ていることは判っている
そこには響子や風間達もおり、応援にしては相当豪華な顔ぶれである
達也が見ているのが分かったのか加蓮と結那、響子が森の方へ手を振る
一瞬、訝しんだ周囲だが、達也が見ているのだと理解したため同じように手を振る
それを見た達也も心の中で手を振り返す
試合の合図が鳴る
さあ、試合開始である
達也『(どんなに願っても変えられない事もある。しかし、そこで諦める訳にはいかない。叶えてみせるさ。)さて、楽しむとするか。』
自分の夢のためにも
如何でしたか?
この物語では感情のある達也のため、心の葛藤とやらをメインに書きました
①達也から漏れ出たナニかの正体
②夕歌さんとの距離を縮めていきたいと思います
③第一ヒロインの登場でした
というわけで、またお読みいただければ嬉しいです!