抹殺された神の愛し子   作:貴神

29 / 37
2月…ハッピバースデートゥーミー?
1ヶ月で書けた…(汗)


24話

真由美『…守夢君。申し開きはあるかしら?』

 

達也『いえ、何もありませんが?』

 

試合が終わり、体を休めようかと考えていたところ真由美達より天幕に呼び出されていた

 

只でさえ、試合後で疲れているところにおかしなインタビューのようなものに出くわし、軽くあしらって来た後がこの様とは

 

我ながら厄介事に好かれ過ぎではないかと呆れる達也

 

 

摩利『そうか。だが、お前が何もないだけで我々は思うところはあるぞ?特に真由美はな。』

 

優勝を果たしたというのに素っ気ない達也だが、前言通り九校戦に興味がないからだろう

 

だが、此方は言いたいことが山ほどあるのだ

 

真由美『ちょ、摩利!』

 

こんなときにまで茶々を入れる摩利に達也は何故、そこで会長の名前が?と表情は変えずに考える

 

鈴音『そうですね、会長は守夢君のことを達也君と呼ぶほどに親しい間柄になったようですから。』

 

しかしその疑問は真由美の隣にいた鈴音によって解消される

 

よりにもよって、公衆の面前で自分の名を口にするとは

 

これではまるで、自分が他人に気を許しているようではないか

 

そんなことをさせるために名を呼ぶ許可をしたわけではない

 

達也『(これだから、十師族、魔法師というのは嫌いなんだ)ボソッ』

 

若干ではあるが、苛つく達也

 

名を呼ぶ許可をしたのも達也自身であるため、怒り全てが真由美に向くのは筋違いというもの

 

この状況を終息させるには原因を排除するのが最短距離だ

 

対処療法など何の役にも立たない

 

鈴音『?何か仰いましたか?』

 

どうやら独り言(毒舌)に気付かれたようだが、内容まで聴かれなかったようだ

 

達也『何もありま…いえ、一つありましたね。』

 

この際、ちょうどいい

 

一つ、釘を差しておこう

 

摩利『なんだ?真由美に愛の囁きか?』

 

真由美『摩利、いい加減にしないと…』

 

まだハイテンションな摩利は真由美を誂おうとするが、半分キレかけの真由美に気圧される

 

摩利『お、怒るな真由美。すまない、つい親友に春が来たか?と思ってしまってな?』

 

流石にCADを持ち出されては降参するしかない

 

それでも、真由美に気になる人物が出来て、感情的になってくれるのは素直に嬉しいのだ

 

真由美『はぁ~。次はないわよ?それで守夢君、何か相談したいことがあるなら言ってね?怪我の具合も診ないといけないし。』

 

素直に謝られては引き下がるしかないだろう

 

この話は終りと、達也に向き直す

 

達也『では、遠慮無く。これ以上皆さんと関わりを持つと面倒事が増えそうなので、魔法師、特に十師族やナンバーズとは距離を…いえ、これ以上の干渉を止めていただければと思います。怪我に関しては問題ありませんので。肋骨骨折と肝臓が少しやられている程度ですので。一晩…いえ、九校戦が終了するまでの間は不要な接触は止めてください。その間には治しますので。』

 

全員『!?』

 

なんと傲岸不遜な物言いなのだろうか

 

しかも、あろうことか十師族やナンバーズの人間に喧嘩を売る始末

 

実を言えば、ほのかや雫もこの場にいた

 

その状況も考えて達也は言い放ったのだ

それを聴いていた彼女達にとっても衝撃を受けたのは間違いない

 

十文字『それは聞けない相談だ。皆、お前が一条からのオーバーアタックに死にかけたと思っているからだ。すぐに病院にでも…』

 

悲しみや怒りといった負の感情が渦巻く中、十文字は異を唱える

 

十文字の場合は、達也の怪我の具合を心配しているための言葉といえる為、真由美やほのか達とは異なる

 

普通の人間なら、重傷どころか重体になっていたかもしれないのだ

いくら達也が人間離れした力を持っていたとしても、心配なのは変わらない

 

達也『だから、それが不要だと言ったはずだぞ?十文字。』

 

相変わらず我の強い発言に昨日の今日で懲りていないというか、反省すらしていないらしい

 

服部『貴様、また会頭に対して。』

 

昨日と同様な達也の言葉遣いに服部は達也に詰め寄る

 

達也『あぁ、申し訳ありません。つい、皆さんのお節介が過ぎるなと少し苛ついてしまいました。モノリス・コードに出れば優勝しかありません。そもそも、皆さんからの要望は総合優勝では?ならば、三高特に、一条選手を潰…失礼、抑えなければ、完全な勝利とは言えない。』

 

明らかな棒読みな謝罪

 

そして、達也もそれを隠そうとしない

昨日の一件以降、達也は言葉遣いは丁寧語は努めているものの、チラホラと見える容赦の無い言葉の数々

 

入学初期と比べてもあまり変わらないが、最近の言動は明らかに棘のある言い方をしている

 

摩利『それはそうなんだが。』

 

達也の言葉に摩利も反論は無い

 

寧ろ、感謝しかない

 

だが、頭ではわかっていても感情は違うのだ

 

達也『そして、私が優勝を諦めても残りの二人が負けるために出場するとでも?』

 

更に達也は畳み掛ける

 

達也やスタッフ全員が優勝を断念する理由があったとしても、一緒に出場したレオと幹比古がそれを受け入れるとは限らない

 

真由美『それは守夢君が説得を。』

 

達也『出るからには優勝を目指す。それが当然では?実際、勝ったのでこれ以上の説教は止めてください。私が肋骨を骨折しているのをお忘れで?こうして立って、話しているのもしんどいのです。では、部屋に戻りますので誰も部屋に近づかせないでください。明日は、渡辺先輩の最終調整もありますので。吉田さん、西城さん。ゆっくり体を休めて下さい。西城さんは一条選手の圧縮空気と吉田さんは吉祥寺選手の加重魔法を、外傷は無いとはいえ、ダメージとしては相当の筈ですから。』

 

真由美達は一体何を達也に求めているのか

 

戦術や戦略、CADの調整等は何とか出来ても人間を意のままに操ることは不可能だ

 

それに、やる前から諸手を挙げて降参しますなど愚かに等しい

第一に目標が無ければ前には進めないのだ

 

何も考えずに行動しても中途半端に終わる、それこそ真由美達の要望の総合優勝など夢のまた夢だ

 

力及ばず優勝を逃すのは仕方がないが、実力があってもいい加減な気持ちで試合に臨んでも勝てるわけがない

 

これ以上、不毛な各々の主張を張り合ったところで歩み寄りがなければ理解し合えないのは達也は解っていた

 

しかし、達也は理解してやる理由も無い

 

こちらの要望と二人を休ませるため達也は天幕から出ていく

 

摩利『待て、守夢!』

 

無理矢理肩を掴もうとするも空を切り、殺伐とした空気だけ残った

 

 

 

レオ『なぁ。俺達、場違いな所に来てないか?』

 

幹比古『…』

 

一連のやり取りを傍観していたレオと幹比古は何とも言えない表情をするだけに止めた

 

 

 

 

 

 

 

将輝『待ってくれ、守夢。お前に聞きたいことがあるんだ。』

 

将輝は達也を問い詰めていた

先程、達也が言っていた言葉だ

一体、何を思って向けられた言葉だったのか

 

しかし、姿は達也のようで達也ではない

それは過去の記憶が見せる幻影と達也が合わさったもの

 

将輝の静止の言葉も届かず、達也(幻影)は歩き去っていく

 

……き……さき…

 

将輝『頼む、待ってくれ。守夢、待て。…待てー!!』

 

何度も呼び止めようと叫ぶもその姿は小さくなっていき、ついに見えなくなった

 

…て、……き…

 

…お…て、…き……さき………まさき…将輝…

 

まるで、自分では手の届かない場所にいるかのように錯覚してしまう

 

暫くして、自分の名を呼ぶ声に気付く

 

しかし、その声はどこか遠くに聴こえる

 

将輝『?ジョージ?何処だ?』

 

周囲を見渡しても相棒の姿が見えない

 

それどころか、辺り一面が暗闇で何も見えない

 

 

起きて、将輝…!

 

そして、先程よりも大きな声と共に眩い光が将輝を覆った

 

 

 

吉祥寺『将輝!』

 

将輝『!!…ジョージ。…そうか、俺達は…いや、俺は敗けたのか。』

 

相棒の声でようやく覚醒する将輝

 

どうやら、夢を見ていたようだ

 

しかも、一番見たくない光景で

魔法力の無い達也とある人物が被るとは

 

ふわふわと実感がなかったものが、今頃になって敗北という将輝としては有り難くない苦しみがようやく襲ってきた

 

吉祥寺『将輝だけの所為じゃない。僕もたった一人に負けた。』

 

まさか将輝が負けるとは思っていなかったため、動揺が敗因に繋がったわけではない

 

純粋な力比べかといえばそうでもない

 

しかし、負けは負けだ

 

将輝『気に病むなよジョージ。』

 

膝の上で拳を力の限り握る吉祥寺を励ます

 

愛梨『そうよ、私達も彼、守夢達也に敗けたのよ。貴方達だけが気に病む必要はないわ。』

 

将輝『一色か。結局、お前以外、優勝出来た人物はいないのか。』

 

そう、現段階ではエンジニアを含め、達也と戦って唯一の勝利者が愛梨なのだ

 

十師族である将輝でさえ、達也に敗けたのだ

 

誰も責めることは出来ない

 

先程の観点から言えば、十師族に勝つという所業を為した達也はどうなのだろうか?

言葉だけでは表現するのは不可能だろう

 

 

一色『結果だけを見ればね。けど、私の場合も一杯食わされたと表現すべきかもね。』

 

愛梨自身、優勝したことは一安心だが、満足のいく結果とは思っていなかった

 

平凡な選手に全力を出さないといけないとは師補十八の家の者として恥ともいえた

 

吉祥寺『それにしても、大分魘されていたけれど大丈夫かい?』

 

将輝『!…そうだった。(…まさか、あいつが?…いや、そんな筈はない。あの時の最年少は俺だけだ。軍がそんな徴兵をする筈がない。…だが、あいつの言葉はあの時の俺を知っている口振りだった)…親父と奴に問い質す必要があるな。』

 

さきほどまで魘されていたとは思えないほど、ハキハキと話す将輝に吉祥寺も安心したようだ

 

その言葉を聞いた将輝は、ハッと我に返る

 

試合を決定付けた達也と将輝の攻防中、自分に達也が呟いたのだ

あの言葉の真意が聴きたい

 

 

吉祥寺『将輝?』

 

ブツブツと呟き、将輝が何を思っているのかが窺いしれない

 

将輝『いや、何でもない。』

 

これは他言無用だ

十師族間でさえ、周知すべき内容ではない

 

秘密裏に行う必要があるだろう、仮に取り越し苦労だったとしてもだ

 

三年前のあの作戦に自分以外の二十歳に満たない人間が参加していたなどあり得ないと信じたい将輝

 

 

愛梨『…(一条君が彼、守夢達也に戦闘不能にされる間際。彼は一条君に話し掛けているようにも見える間があった。そして、それに反応して一条君が問い詰めようとしていた。)…一体、彼はどれ程の秘密があるというの?(ボソッ)』

 

その様子を少し離れて見ていた愛梨は第三者視点から試合を観ていたため、吉祥寺ではわからない将輝の思考が僅かだが理解出来ていた

 

将輝と達也の間に一体何があったのか、正確には将輝が知らない何かを達也が知っている可能性があるということ

 

一般家庭の出身というにはあまりにもあり得ないほどの能力の数々

 

古式魔法に怪力ではなく、剛力と言って差し支えない筋力に自己加速術式以上の駿足さ、そして、十師族である一条将輝の本気の魔法を受けてさえ、吐血するだけに止まった頑丈な身体

 

頭脳面においても、エンジニアとして選手を優勝に導いた実績と今年に発表された飛行魔法を選手に使用させた手腕

 

文武両道という言葉では言い表せない

 

魔法力が無いというだけで、天は一人の人間に対してここまで愛するのかと嫉妬してしまうほどに

 

それほどまでに達也はこの九校戦いや、魔法師という存在が生まれて以来、史上類を見ない存在であることには間違いなかった

 

 

 

 

 

 

 

浩也達の部屋を訪れると五人以外の気配が複数あったが知った気配のため、何気無しにノックをして入室したのだがー

 

 

達也『…ただい…m…。』

 

ただいま、と言いかけた達也だがそれを止めた

 

それと同時に冷や汗を額から一筋垂らす

 

凛『あら?遅かったわね…それで?』

 

達也が入室してすぐに口を開いたのは凛だった

 

その口調は愉悦混じりであるものの、声のトーンが低いのは気の所為ではない

 

おまけに、達也に問い掛けているような台詞であった

 

 

達也『(完全に忘れていた。不味い、非常に。結那に加蓮、響子さんまで。)……給料三ヶ月分で良いだろうか?』

 

そして、達也に関しては珍しく、目が泳いでいた

 

そんな理由は一つしかない

 

それは、結那、加蓮、更には響子までが涙腺を崩壊させて達也を睨んでいるからだ

 

本当は、今すぐにでも抱き着きたいのを必死に堪えている三人

 

もし、まだ達也が怪我を治していなかったら、その衝撃で更に怪我をさせてしまうかもしれない

 

それにあの試合で、もしかしたら死んでいたかもしれないのだ

 

そんな浅はかな行動をした達也に笑顔で迎えるなんて出来ないのだ

 

そんな三人の心情は手に取るようにハッキリ解っているつもりの達也

 

持ち前の頭脳をフル回転させるもこの状況を凌ぎきれる妙案等も無く、全ての原因は達也自身であるため申し開きもない

 

そして、泣かせたくて出場した訳ではない

 

もし、逆の立場なら生きた心地がしない

 

そう考えると、一つしか考えれなかった

 

 

結那・加蓮・響子『!!』

 

まさか、達也からそんなプロポーズに近い言葉をこんな場所で言われるとは思わなかった

 

嬉しいやら悲しいやら複雑な心境だろう

 

 

風間『…達也。』

 

真田『…達也君。』

 

柳『達也、お前は阿呆か?』

 

部屋に居た男達は達也の言葉に呆れた表情をする

 

達也『いや、泣かせないと約束していたのに、裏切ってしまったので。』

 

そんな非難の表情に達也はらしくない言い訳をする

 

山中『…なんというか。』

 

もう少し違った慰めはあったはずなのだが、山中は眉間を揉む

 

凛『ようやくね、嬉しいわ。』

 

恭也『母さん…。』

 

一方、神夢家はというと

言質を取ったと満足な表情の凛に対して息子の恭也は呆れている

 

浩也『(やはり、達也にはこの娘達の存在が必要不可欠か…)響子は兎も角、家の娘二人は早くないか?というよりも、飛躍し過ぎてる気がするのだが。』

 

父親である浩也は嬉しいながらも達也の危うさに一つの歯止めが出来たと安堵していた

 

 

 

 

浩也『それで、具合はどうだ?』

 

一息ついたところで浩也が達也に問い掛けた

 

あれほどの威力は流石に浩也も心配してしまった

 

山中『使っていないのだろう?』

 

何をとは言わない、あまり外に漏らすわけにはいかないからだ

 

達也『いえ、ここに来る途中で。おそらく、一週間程度だったでしょうけど。何かあっても困りますので。』

 

一言付け加えるとするなら、敢えて怪我を負ったが正しい

 

まさか、あれほどの威力とは思ってはいなかったが

 

浩也『あまり、今回のような無茶はするなよ?』

 

一歩間違えれば、死んでいた可能性もある

 

達也『はい、すみませんでした。少し意地になっていたようです。』

 

風間『一条か?』

 

達也が意地になっていたとそんな言葉を聞くとは思わなかった

 

達也『はい。流石と言うべきでした。あの時よりも魔法の発動速度、規模も成長していました。油断していました。』

 

ここまで達也が他者を評価するとは明日は雨でも降るのかもしれない

 

真田『珍しいね、達也君が油断とはね。』

 

真田の言葉に渋面の達也

 

自分だって油断するくらいはあるとでも言いだけな

 

柳『いや、達也の場合は興味本位で体験したいという欲が勝ち過ぎていたのだろうさ。本来ならば、14発しか吹き飛ばすことが出来なくても、そこから避けることは出来たはずだ。…手を抜いた若しくは…』

 

半分は油断であったとしても、もう半分は違う

 

また、行動の意思決定の根底には魔法を受けるという意識があった筈だ

 

達也の悪い癖が出たと柳は達也を叱る

 

風間『一条からの魔法を受けることも勝つための手段だったか。それにしては杜撰な方法だったな。』

 

避けようと思えば出来たし、当たっても怪我をしないようには出来ただろう

 

が、隙を突くために少し無茶をしたというのが今回の事の顛末だろう

 

達也『はい、鍛えているという自負が原因です。危うく、気を失いかけました。』

 

それは即ち、達也が将輝の本気を引き出したということに他ならない

 

並の魔法師の魔法では傷を負わすことすら出来ない達也に重傷近くの傷を与えたのだ

 

風間『まぁ、反省会はこれで終りとして…。』

 

浩也『…三人とも、そろそろ達也から離れなさい。』

 

風間からアイコンタクトで浩也に何かを投げ掛ける

 

それを正しく理解し頷くと達也、いや達也に抱き着いている響子、結那、加蓮を窘めるように言い放つも

 

結那・加蓮・響子『嫌!!』

 

一刀両断で拒否をする

 

先程からこの三人、達也に抱き着いたままなのだ

 

抱き着かれている達也は先日もこんな状況があったなと振り返っていた

 

 

 

 

 


 

とある中華街の一角

 

『…これでは、第一高校の優勝は最早確定だ!』

 

『諦めるというのか。それはつまり、座して死を待つということだぞ!』

 

もう手遅れだと、諦める一部の人間もいれば死にたくないという人間とで言い争いが激しくなる

 

結果だけなら第一高校の優勝は揺らぐことはないだろう

 

『そうだ。このままでは第一高校の優勝で我々の負け分は一億ドルを超える!しかも、ステイツドルでだ。』

 

『これだけの損失は組織にとっても大きすぎる。いくら今期のノルマを達成するためとはいえ、負けた場合の損失の額が大きすぎるために組織は渋ったのだ。それを無理に押し通したのだ。』

 

しかし、このまま第一高校に優勝をさせてはこの人間達には都合が悪すぎる

 

これでは、ノルマさえ達成出来ずマイナス計上の上、そのマイナスを補填すら出来ないのだ

 

元々、勝算が低かったこの案件を安易に考えていたツケがここに来てようやく姿を現したのだ

 

しかも、あり得ないほどの負の遺産を抱いて

 

 

『その通りだ。このまま楽には死ねんぞ。良くて、ジェネレーターに変えられるか、もしくは…。』

 

自分達のこれから先は予測出来るのに、リスクの高すぎる賭けには勝つ気でいたという浅慮な考えを見つめ直すべきではあるが、この状況では手遅れとしか言いようがない

 

『なりふり構っていられる状況ではない。こうなっては、最終手段しか…。』

 

ある一人の言葉に全員が沈鬱になるしかなかった

 

 

 


 

 

 

本戦女子ミラージ・バッド

 

空中にホログラムとして光を映し出すため、晴れ晴れとした天候ではなく、曇り空のほうが視界的には良い

 

本日の天気は曇りがかった空のため、それなりに良い舞台と言えた

 

しかし、条件と同様に人の心もまた曇りがかっていた

 

摩利『お前、本当に体は大丈夫なのか?』

 

昨日の大怪我から一夜明けた今日、摩利のエンジニアである達也は何食わぬ顔表情と昨日の怪我を感じさせない颯爽とした姿を見せていた

 

だが、周りからすれば言いたくなってしまうのだ

 

一度、診察をするべきだと

 

達也『問題ありません。』

 

摩利の心配をありがた迷惑と言いたげな達也

 

一応、形だけのコルセットは服の下に着けている

 

摩利『昨日の夕食と今朝の食事の席にも居なかっただろう?食べないと早く治らんぞ?』

 

外部との接触を断っていた達也に食事を運ぶことは不可能であるため、達也自らが食事の場に赴かなければならない

 

達也『心配無用です。…良い機会ですから、渡辺先輩も知っておいて損はないでしょう。』

 

摩利の心配も一理ある

 

これ以上、お節介も面倒であるため信条とするものだけは述べておく

 

摩利『…また、上からの物言いとはな。それでなんだ?』

 

不遜な物言いに呆れてしまいそうになるが、それはこちらの過干渉もあるのだと自覚はしている

 

だから、達也からも心配しすぎなのだと突っぱねられてしまう

 

達也『食べるだけが傷を早く治すとは限らないということですよ。』

 

一体、それはどういうことなのか

 

摩利『?…守夢よ。説法を聴いてる訳じゃないぞ?』

 

しかし、達也の顔色を窺えば血色は問題無さそうだ

 

だが、雰囲気は違う

触れれば、切れるような刃物を纏ったような雰囲気がある

 

まるで、野性の獣のようだ

 

達也の言葉は高校生での思考力しかない摩利には難しいものがある

 

達也『これ以上はご自身で見つけるべきものです。他人に指図を受けたから実践してみて、効果が解らなければ他人の所為にするのは目に見えていますので。』

 

何故そうなるのか原因は一体何なのか、そういった事を考えなければ、偏った思考しか出来ない人間になるのは目に見えているのだが、最初からそんなことを出来る人間はいない

 

ヒントだけ伝えて後は考えさせる

 

摩利『いつもお前には、はぐらかされてばかりだな。…全く。仕事だけはしてくれよ?』

 

全ての答えを明かさない達也の言葉遣いに少し馴れてきていた摩利

 

こういう時の達也には自分達は勝てないのだ

 

達也『無論です。仕事(と家族の為)だけは手を抜きませんよ。』

 

摩利『…よ、宜しく頼むぞ?』

 

仕事という言葉以外にも何か聞こえた気がしたが、突っ込みはしてはならないと悟る

 

請け負った仕事に一切手を抜かないのは解っているためあれこれとは言うつもりはなかった

 

 

 

???『…』

 

そんな二人の様子を眺める女子生徒がいた

 

名前は小早川 景子

彼女もまた、本戦女子ミラージ・バッドに出場する選手だ

 

???『どうしたの?』

 

そして、もう一人

彼女のエンジニアである平河 小春が小早川に問い掛けた

 

小早川『ううん、何でもない。』

 

平河『少し、不安?守夢君を見ていたようだけど、彼の調整は凄いからね。』

 

言葉では否定するものの、表情は少し暗い

 

推測としては、達也と摩利の方を見ていたからそれ関連だろう

 

小早川『ううん、違うの。昨日、彼と一高幹部の間で一悶着あったのに、今朝はそれをおくびにも出さなずに普段通り出来るなんて凄いなって。』

 

正直、達也のお陰で新人戦男子モノリス・コードも優勝できた

そして、総合優勝の目処も立った

 

けれども、無傷ではいられなかったのは確かで

 

優勝後に達也と幹部達の間で言い争いもあり、ピリピリとした雰囲気になるのが嫌だった

 

平河『羨ましい?』

 

まるで、プロのように昨日の事は蒸し返さず

 

気持ちを切り替えているようにも見える二人の関係は自分達も目指すべき形だろう

 

小早川『そうなのかな?…でも、もし仮に守夢君に調整を頼んでいたら、完璧だろうけど何もかも暴かれて試合どころじゃなかったかも。』

 

妬みはない

けれども、純粋に凄いと感じてしまうのだ

高校生にしてその意識があるということに

 

そして、いつかは自分もそうなりたいとは思う

 

しかし、自分は摩利や達也ではない

小早川景子が少しずつでいいからその域に辿り着きたいとは思う

 

敢えて付け加えるなら、達也とは馬が合いそうに無い

 

平河『悪かったわね、私の調整能力不足で。』

 

達也の調整には遠く及ばないが、彼女もまた優秀である

 

小早川『ち、違うから!私が言いたいのはね?』

 

不貞腐れた表情をする平河に慌てる小早川

 

平河『ふふっ、大丈夫よ。気にしなくていいわ。貴女が言いたいのは、あの時の守夢君の言葉でしょ?』

 

そんな小早川の事がおかしく笑ってしまう

 

彼女が言いたいのはわかっている

 

 

小早川『そ、そうなの。確かに守夢君の腕は凄いとは思うけど、安心してCADを預けられるような関係ではないの。彼の言う通り、心から信頼出来る小春にお願いして良かったとは思ってるのよ?』

 

例えるなら、平河の調整は優しく、母親のように包み込んでくれそうなそんな調整をしてくれる

 

達也の場合は徹底的な合理主義だろう

 

平河『ありがとう。』

 

全幅の信頼をおかれていると言われると少しムズ痒いが素直に嬉しい

 

その期待に応えられるように頑張ろうと強く思った平河だった

 

 

 

 

三高側も試合前の最終調整に入っていた

 

愛梨『先輩はどういう方向でいかれるのですか?』

 

初めは水尾が出場し、その次に愛梨の順で試合に出る

 

水尾『うん、跳躍魔法一本で考えているわ。』

 

愛梨『飛行魔法は使わないのですか?』

 

愛梨は水尾が飛行魔法を使用するつもりでいるのだと思っていた

 

飛行魔法、先日新人戦女子ミラージ・バッドで第一高校の二人の選手が使用していた

 

その一人が司波 深雪で愛梨が最も強く意識している人物だ

 

ルールに抵触はしていないものの、各校から異常なほどの批判が殺到したため大会委員会も妥協案として一高側のCADを検査という名の術式を他の八校に提供をした

 

無論、エンジニアの達也と代表である真由美の承諾済みである

 

水尾『そうね、一高の光のエレメントの家系のように微弱な光の振動を捉える方法も考えたんだけど。それも効率が悪いかな?と思って。でも、一色は使うんでしょ?』

 

水尾自身、提供された術式を使用してみたが自分には不向きだと直感した

 

消費する魔法力と想子(サイオン)も少ないが、短期間で使いこなすことは出来ないと

 

そこまでの理由ではないが、第一高校の、しかも一年生が調整したということに自分がその年齢の時にそんな技術もなかった

 

これは素直に尊敬と自分の力で正々堂々と戦うという決意の表れだった

 

愛梨『はい、あの試合で僅かも息が乱れなかった彼女に負けるわけにはいきませんから。それに私なら使いこなしてみせます。』

 

そんな選手が飛行魔法を使いこなしたというなら負けてはいられないという

 

対抗心剥き出しの愛梨

 

やはり、師補である意地なのか

 

水尾『…期待してるよ、愛梨。』

 

普段は苗字で呼ばれている愛梨だが、水尾の熱い期待に力強く頷くのだった

 

 

 

 

 

 

 

達也『…』

 

達也は無表情で小早川と平河を見ていた

 

摩利『守夢、小早川の方を見てどうした?』

 

何が達也の興味を抱いたのか気になった摩利

 

しかし、そこには同級生の二人しかいない

更に言うなれば、小早川は最初の試合に出るからあの場にいるから何ら問題はないのだ

 

達也『いえ、特段何も。』

 

不思議そうな摩利を余所に達也は素っ気なく返す

 

摩利『まあ、あいつもムラッ気があるが大丈夫だ。心配するな。』

 

エンジニアであれば、出場選手の調子が気になるところである

 

達也もそこは同じだろうと摩利は問題は無い筈だと答えた

 

達也『…(今日しかないな。)さて、どうやってバレないようにするかな(ボソッ)』

 

ーー普通であれば

 

摩利の言葉は右から左へと通り過ぎる

 

そして、少し眉間に皺を寄せると誰にも聴こえないように呟くのだった

 

 

 

 

 

 

予知の夢は視なくとも予想は出来るわけで

 

小早川『ひっ…キャァァァァ』

 

連中の狙いは変わらず、我が校をターゲットにしてきている

 

そのため、小早川という選手のCADが機能しなくなり、10m近くの高さから落下していく

 

間一髪でスタッフの魔法が間に合い、大怪我をすることなく救助される

 

摩利『小早川!!』

 

慌てて駆け寄るも気を失っているようで無事なのか判断のしようがない

 

 

平河『そ、そんな…。』

 

担架で運ばれていく姿を見ていることしか出来ない平河

 

自分の調整に不備が起きてこんな事故に繋がったのではと、そんな考えが頭を支配する

 

摩利『平河も落ち着け、お前の所為じゃない。深呼吸するんだ。』

 

平河を落ち着けようと目を見るもその目は焦点も合っておらず、何も映していない

 

平河『(…ハッ、ハッ、ハッ)』

 

摩利『(不味い、過呼吸に!)平河!平k…』

 

落ち着けるために深呼吸を促すもそれが逆効果しか生まない

呼吸をするために吸うも吐くということが出来ないため過呼吸になる

 

目も虚ろで摩利の声も届いていない

 

焦ってしまうだけでどうすれば良いのかさえ判らない摩利

 

達也『…渡辺先輩、七草会長を呼んで来て下さい。』

 

焦る周りを無視して達也は平河の肩を掴んでいる摩利に呼びかける

 

摩利『…守夢?何を…』

 

何故、真由美なのか

 

普通ならば、すぐに医療班に診てもらうべきだ

 

達也『(スッ)』

 

無理矢理摩利を動かした達也は座り込んだ平河の正面で片膝をつく

 

 

左手で彼女の眼を隠すように覆い、瞼を閉じさせる

 

さらに彼女の額に手を当てた数秒後、達也は平河の後頸部に右の手刀を落とした

 

摩利『!?』

 

その一連の行動を見ていた摩利達は驚きで声が出ない

 

達也『平河先輩も医務室で休ませて下さい。あと、小早川先輩を医務室に運ぶように七草会長に伝えてください。』

 

周りの批難の視線を気にせず、淡々と要望だけを伝える達也

 

摩利『お前な!気絶させる必要はあったのか!?』

 

果たして、先程の達也の行動に意味はあったのか

 

あのまま医務室に連れて行けば良いものを気絶させる理由が見当たらない

 

達也『これ以上、先程の衝撃的な瞬間を見続けさせる必要がありますか?』

 

摩利の言うことは一見、当然のように思えるが達也はそれに異を唱える

 

誰も気付いてはいないが、達也の起こした行動には意味があり、更にそれは達也にしか出来なかった

 

摩利『…』

 

達也の言葉に摩利も何も言えない

 

もし、自分が平河と同じ立場なら、例え事故であっても自分を苛むだろう

 

ある意味では命を預かっているのだ、責任は重大でもある

 

そして、あのような場面をいつまでも無限のループのように見続けていたくはない

 

達也『では、小早川先輩の事を七草会長に伝えてください。私は、医務室とCADを最終検査に出して来ますので。(…ここまで放置していたのは俺のミスだな。…仕方がない。サービスしておこう。)…?吉田幹比古?…守夢です。』

 

摩利も渋々ながらも納得したため、達也も自分の仕事に移る

 

しかし、達也も何も感じていない訳ではないのだ

 

魔法というのは、存外脆いものだ

精神的に弱い少年少女が抱えるリスクは魔法の失敗による恐怖体験だ

 

それにより芽生える魔法に対する不信感は根強く残る

 

魔法とは世界を偽る力であるが、それと同時に理からはみ出たものでもある

 

達也にはそれを視る眼があり、そこに存在する力だと信じることが出来る

しかし、その魔法の本質たるものが世界の大半が理解出来ていない否、その情報が魔法師全員に知らされてもいないし知ろうともしないのが現状だ

 

また、今回は自分の立場に胡座をかいた失態でもあった、貴重な将来の戦力となるかもしれない魔法師を失うわけにはいかない

 

そこにタイミング良く達也の電話が鳴る

 

ディスプレイには吉田 幹比古の文字、用件は判っている

 

幹比古『あ、達也?急ぎでごめん。柴田さんが達也に伝えたいことがあるって。』

 

美月は電話を持っていないから幹比古に頼んだのだろう

 

達也『えぇ、構いません。』

 

美月『あ、達也さん。急いで言わないとって思って。さっきの小早川先輩のCADなんですけど。…なんていうか、古い電化製品がショートしたみたいな火花が散って、あの…。』

 

少々、美月の声音が堅いというかしどろもどろに聴こえるのは、あの衝撃的な場面を視てしまったからだろう

 

仕方のないことだ

 

達也『はい、それは私も見ていました。大丈夫です。当たりはつけていますから。貴重な情報ありがとうございました。』

 

とは言え、達也も美月と同じ、いやそれ以上の情報は得ていた

情報という情報でもない

 

摩利『?おい、守夢。さっきの会話はどういうことだ?お前、何か知っているのか?』

 

電話を切るとその会話を聴いていた摩利がいた

正確には、先程の達也の言葉だが内容がとんでもない

 

簡単に言えば、小早川の落下の原因が判っていましたとでも言うべきか

 

達也『それは後程で。先輩は何も心配せずに精神統一していれば大丈夫ですよ。』

 

また後で釈明を求められるな、と思いつつも優先すべき事案がある

 

摩利『…わかったよ。私に最適なCADの調整もしてもらっている。今回はお前に任せるとするよ。』

 

達也に問題無いと言われればそれ以上何も言えなくなる

 

それは信用でもなく、何を言っても無駄だからだ

 

少し前真由美に聞いた話だと、バスの事故と自分のバトル・ボードの試合や新人戦のモノリス・コードの事故はある犯罪組織が関わっていると達也が知っていたらしい

 

ここまで、誰にも知られずにそんな情報を抱えていたのだ

 

精神は相当に強い

 

それならば、全てを達也に任せていた方が此方の精神的にも安心する

 

達也『ありがとうございます。では、医務室と最終検査に出してきますので。』

 

もう少し粘られると思ったが、すんなりと諦めてくれたため無駄な労力を使わずに済んだ達也

 

了承してくれたのなら、あとは自分の成すべきことに集中させてもらおう

 

 

 

 

 

 

検査のテント前

 

達也『…はい。……それでは宜しくお願い致します。…失礼します。(ピッ)…さて。』

 

プライベートの電話から何処かに電話を掛けていた達也

 

運営スタッフ『…次の方どうぞ。』

 

どうやら、前の人間の検査が終わったようだ

 

残るは達也のみ

 

達也『はい。…お願いします。』

 

運営スタッフ『はい、それではここにCAD置いて下さい。』

 

達也『…』

 

スタッフの指示された台に摩利のCAD二台を乗せる

 

乗せると直ぐ様、検査が行われる

 

待たせないようにスピーディーに検査を行う様子は流石と言えるかもしれない

 

そう、表面上はーー

 

運営スタッフ『…はい、終わりましたよ。どうぞ。』

 

十秒も経たずに終わり、にこやかな表情を見せるスタッフ

 

CADを手に取り、達也に渡そうとする

 

達也『…ありがとうございます。』

 

しかし、達也の眼は誤魔化せない

 

達也『おっと。』

 

達也の左手がCADを通り抜け、スタッフの右手首を掴む

 

運営スタッフ『落とさないように気を付けてくださいね。』

 

視界がブレたのだろうと勘違いしたスタッフ

 

達也『すみません、少し手許が狂いました。…というのは嘘ですが。』

 

運営スタッフ『?…どうい…!?』

 

今、達也が言った言葉はどういうことなのか?問い掛けようとするも何故か、体が重い

 

全身が痺れ、声もうまく出せない

 

達也『…漸く、尻尾を出してくれましたね?少し、此方でお話しという名の尋問をしましょうか?』

 

秘術【合気】

俗称では、相手の力を利用し技を掛けると謂われる

 

やっと、達也の目の前で犯行に及んでくれたのだ

見逃す理由が見当たらない

 

逃げられるのは面倒のため表に出てもらう

 

左手の親指を立て他の指は右手に触れているだけ

 

そして残っている右手で後方を指す

 

運営スタッフ『な、何だ!?体が勝手に…!?ガハッ!』

 

達也が言い終えると同時に、触れている右手首を支点に体が宙に浮く

 

そして、達也は投球のフォームで運営スタッフを床に叩きつける(※気絶させないように気を付けて)

 

達也『おや?お話しましょうと言ったから観念して来たのかと思いましたよ。』

 

周りの運営スタッフに聴こえるように白々しく呟く達也

 

しかし、その言葉だけでは周囲のスタッフを黙らせるには至らない

それを無理矢理、闘気で黙らせる達也

 

運営スタッフ『ヒィッ!ち、力が入らない!…こ、こんな場所で魔法を使うなんて!』

 

どうやら、運営スタッフ自身を投げ飛ばしたのは魔法だと勘違いしているようだ

 

この世界は魔法だけではない

身体技術を駆使したり、氣と呼ばれるものを操れば人を殺めることなど容易い

 

達也『?魔法なんて使っていませんよ?まあ、端から見れば、魔法のように見えるでしょうけどね。それより、先程のCADに何を細工をしたのですか?』

 

言い逃れなどさせるつもりは毛頭ない

 

こんな下っ端要員に情けを掛けるつもりもない

 

運営スタッフ『!?』

 

達也の言葉に僅かだが表情が強張る

 

達也『只のウイルスではありませんね。詳しくは知りませんが、前回のバトル・ボードのものと同じものですね?…効果は術式を無効もしくは、発動を遅らせるといった類いの代物でしょうか?』

 

早々に決着はさせたいが、周囲のスタッフを納得はさせたい

 

少しずつ証拠を出して、逃げ道を塞いでいく

 

運営スタッフ『そ、そんなものは知らない!』

 

明らかに動揺してはいるが、首を縦に振らせるまでは手は抜かない

 

達也『あくまでもシラを切るつもりですか。…まぁ、私は構いませんよ?貴方が喋ろうが否かなど興味ありませんから。直接脳を覗けば良いだけのこと。(ボソッ)』

 

意外と強情なようだが達也の表情は愉しげだ

 

地道に追い詰めることも良いが、近道という手もある

 

内容は少々恐ろしいが

 

運営スタッフ『!?』

 

脳を覗くと言われると嫌でもその場面を想像してしまい、蒼白くなる

 

達也『…ああ、でも。雇い主はもう見つかっているので、貴方は用済みですから消えて貰いましょうか?(ボソッ)』

 

そんな表情をされると更に苛めたくなるではないか

 

まあ、この尋問という名の茶番劇にも少々飽きた達也

 

さっさと済ませてしまおう

 

運営スタッフ『ひっ、ひ…人殺し…!』

 

達也『失礼ですね。だから、選択肢を…!来ましたか。』

 

間接的に人を殺そうとしていた人間が良く言えたものだと逆に感心する

 

しかし、ようやく騒ぎを聞きつけたらしい

 

ある人物が近付いてきた

 

九島『何事かね?』

 

幾人かの大会委員の人間を引き連れた九島 烈が姿を現した

 

運営スタッフ②『九島閣下!』

 

九島『一体何の騒ぎかな?』

 

運営スタッフ②『それが…。』

 

辺りを見やれば、第一高校のエンジニアが検査スタッフにマウントポジションをとり、右手で頭を掴まれている状態だった

 

一体、どういう理由があってこのような状況になったのか

 

しかし、周囲の運営スタッフ達は言葉を濁す

 

それはそうだ、CADにウイルスを紛れこませたなどと誰が信じるのか

 

達也『CAD検査のスタッフが当校の選手のCADに細工をしまして、その容疑の確認と使用した術式の詳細を尋問していました。』

 

スタッフが黙り込むのは範疇の内だ

 

言わないならば、此方の与えた情報に信憑性が増す

 

九島『君は確か、守夢達也君と言ったかな?』

 

達也『はい。こんなしがない魔法力も無い私めを覚えても閣下の為にはならないかと進言致します。』

 

どうやら達也自身、九島 烈の印象に強く残ったようだ

 

当然だろう、あの一条 将輝を破ったのだから注目を浴びるのは仕方がない

しかし、それ以外にも理由はあるだろう

 

大会委員スタッフ『閣下になんと失礼な!』

 

日本魔法師界の頂点に立つ存在である九島 烈に対する先程の達也の物言いは本人ではなく、周りの人間を怒らせる結果となった

 

九島『良い。確かに君の言う通りかもしれんな。しかし、有能かどうかは私の主観で判断している。そこは眼鏡に適ったと思ってほしい。…さて、本題に移ろう。今、君が尋問している者がCADに細工をしたと?』

 

しかし、本人は気にした風もなく

 

評価は人それぞれで、それが今回は達也が素晴らしいと感じたらしい

 

達也からすれば、面倒くさいことこの上ないが

 

達也『その通りです。…こちらを。』

 

九島『……確かに異物が紛れ込んでおるな。これを君は知っていたのかね?』

 

達也の言葉が烈の証言により真実となった

 

これは何よりも強い味方だ、細工をしたスタッフを公式に尋問も行うことが出来る

 

達也『いえ、何も存じあげません。私が調整したCADに異物が入り込んだということに関してはすぐに判りましたので。』

 

烈の問いに達也は棒読みに近い声音で返答する

 

本音としては、知っていたとして素直にYESと返す馬鹿が何処にいる?と言いたい

 

九島『…そういうことにしておこう。これは電子金蚕というものだ。昔、私が現役だった頃だ。東シナ海諸島部海域で広東軍が使用していたものだ。』

 

電子金蚕は有線回線を介して電子器機に侵入し、高度技術兵器を破壊するSB魔法

SB魔法とは【Spiritual Being】の略語

精霊を含む自律性の非物質存在を媒体とする魔法の総称

 

プログラム自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉して改竄する性質を持つ

OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子器機の動作を狂わせる遅延発動術式

日本軍はこの電子金蚕の正体が判るまで随分と苦しめられたらしい

 

 

達也『そうでしたか。…もし仮に九校戦が始まってからの一連の騒動の発端がこれだとすれば…。』

 

九島『…君はこれを何処で手に入れたのかな?併せて、ここまでの騒動を見抜くことが出来ずに工作員を紛れ込ませていた大会委員会の怠慢。…あとで、じっくりと理由を聴かせて貰うとしよう。』

 

達也の推測を受けて、烈は取り押さえられているスタッフを一瞥すると、大会委員長を睨む

 

その姿は歴戦の魔法師であり、世界最高峰の魔法師の一人として威厳のある様だった

 

九島『さて、守夢達也君。この際だ、検査は必要なかろう?不正を見抜いて貰った礼もある。』

 

スタッフを別室に移動させ、事件も収まった

 

残るはCADの検査だが、必要もないだろう

 

達也『ありがとうございます。』

 

九島『うむ、君にもいづれ話をしてみたいものだ。』

 

達也『…機会がありましたら。』

 

どうも自分は十師族に関わることが多いようだ

 

何度も言うが、達也としては一度たりとも関わりたくもない

 

九島『では、その機会を楽しみにするとしよう。』

 

社交辞令的に返した言葉も烈にとっては満足のようだった

 

 

 

 

 

 

真由美『守夢君!』

 

摩利『守夢!』

 

天幕に戻ると、真由美と摩利が怒りの形相で達也を睨んだ

 

達也『何をそんなに血相を変えてどうされましたか?』

 

相変わらず、僅かな情報だけで他人の行いの善悪を決めたがるものだ

 

しかしそれは、この二人だけではない

天幕に入った時にこちらを見た一高スタッフの表情を見れば、直ぐに判った

 

魔法師の卵だからではない、人間としての教養が足りなさすぎる

 

摩利『それは、お前が大会委員会の前で暴れたと聞いたからだ。』

 

真由美『どうしてそんな真似をするの!』

 

あからさまに達也を批判する態度に呆れるしかない

 

達也『どうしてと言われましても。CADに細工をされたりしたら問い詰めるのは当然でしょう。』

 

何故そのような行動をしたのか、理由も無くそのような行動をしたのか、今までの達也の行動からそのような行動を取るのか

 

固定観念を捨てて物事を見れないのは信頼どころか信用すら値しない

 

全員『!?』

 

細工をされたとはどういうことなのか?

 

それをどのようにして見破ったのか?

 

疑問は山ほど湧いてくる

 

真由美『それは本当なの?』

 

達也『嘘を言う場面ではありません。見つけたのはたまたまですけどね。』

 

驚愕の色に染まった真由美に淡々と達也は答える

 

犯行を見つけたのはたまたまだが、当たりはつけていた

 

摩利『では、今までの騒動の発端は。』

 

達也『十中八九これが原因でしょう。これで安心して試合出来ますね。』

 

今まで第一高校が災難に近い出来事に巻き込まれていたのは人為的に起こされたものだった

 

原因を取り除くのは当然のことだが、それすら見つけるのは容易ではない

 

真由美『そうだったのね、ありがとう。貴方が来てくれてから私達は助けられてばかりね。』

 

その容易ではない事をやってのけた達也に感謝しかない真由美

 

思えば、ブランシュの事件では壬生の件や図書室での攻防等と要所要所で活躍していた

 

そして、この九校戦でも知らない内に様々な重荷を抱えさせていたのだ

 

思い起こしていると、いつの間にか涙腺が緩んでいた真由美

 

ぼやけた視界で達也の両手を取り、小さな手で包み込むと達也に微笑む真由美

 

達也『渡辺先輩、準備をしましょう。』

 

一般男子がそんなことをされれば、イチコロのような場面だが達也は表情の一つすら変えない

 

さっさと手を振りほどき、摩利に試合の時間を伝える

 

摩利『…そうだな。真由美、勝ってくるから用意しとけよ?』

 

真由美『えぇ。お願いね、摩利。』

 

達也に手を振りほどかれた真由美も分かっていたかのように何も言わない

 

その様子を隣で見ていた摩利は悔しそうな表情をする

 

だが、今はその感情は不要だ

試合に悪影響を及ぼしかねない、それこそ真由美を悲しませてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

摩利『…守夢。この試合で私が優勝したら一つ、私の言うことを聴いてくれないか?』

 

試合会場へ向かう廊下の途中で摩利は達也に向き直る

 

達也『お断りします。』

 

摩利の頼み事に仁瓶も無い拒絶の言葉

 

達也としても頼み事にはうんざりしていた

 

摩利『頼む。』

 

しかし、摩利には拒絶されようと諦める訳にはいかないのだ

 

再度達也に頭を下げる

 

達也『………内容次第です。』

 

摩利『すまない。』

 

どれほど、そうしていたのか

 

達也は摩利の頼み込む姿にやがては折れた

 

達也『ヘタな精神状態で試合にも挑まれても困りますからね。私もやるからには優勝はしてもらいたいですから。』

 

自分が折れることにより、摩利の硬かった表情が和らいでいた

それほどに何かを思い詰めてはいたのだろう

 

全く興味はないが

 

摩利『無論だとも。お前の調整技術で負けろという方が難しい話だ。』

 

完全なYESではないが、何とか折れてくれた達也に摩利は感謝した

 

これで、優勝してみせると更に決意は固くなった

 

達也『この世に絶対はありません。相手は一色選手もいますから、油断は禁物です。』

 

摩利『大丈夫だ、任せておけ!』

 

里美のように楽観視は無いが、伝えておく必要はある

 

けらども、何か決意をしたような目を摩利はしていたから心配はないだろう

 

 

 

 

 

 

達也『(凄いな。あの水尾という選手、あの三巨頭の一人と呼ばれている渡辺 摩利に食い下がっている。)流石は水のエレメントの家系か。』

 

二試合目

本戦というだけあって、レベルは高いものの摩利に真っ向から立ち向かえる選手は少なく

 

唯一、三高の水尾 佐保という三年生の選手がこの試合でら摩利と良い勝負をしていた

 

 

 

 

摩利『(流石といったところか、水尾佐保。なるべく、次の試合のためにも体力は残しておきたい。それに、飛行魔法も使いたくはない、どうしたものか。)』

 

第二ピリオドも終わり、残るは第三ピリオドのみ

 

点差的には余裕はあるが、ふとした流れの変化で逆転される可能性は少なからずある

 

更に点を離すことも出来るが、次の試合の為に体力は温存しておきたい

 

達也『お疲れ様です。渡辺先輩。』

 

摩利『あぁ、すまない。』

 

流石の摩利といえど、この競技は疲れるのだろう

 

額から流れる汗の量がこの競技の凄さを物語っている

 

達也『浮かない顔ですね。悩まれる心配はありませんよ。』

 

摩利に冷やしたタオルを差し出す達也

 

十分なリードがあるのに難しい表情をしている摩利に達也は心配無用だと助言する

 

摩利『…私はお前のこういう状況での度胸が羨ましいよ。』

 

達也『こればかりは一朝一夕では身に付きませんから。ある程度は経験で補えますよ。それよりも、休憩はしっかりお願いします。ドリンクです。』

 

この九校戦に来て分かったことが、達也は異常なほどに肝が据わっているということだ

 

あらゆる困難な状況でも分析して対策を練る

負けるという劣等感を抱いていない、やる前から諦めないというのは当たり前のことだが実は、それは当たり前ではない

 

達也の見解では場数だと言う

 

摩利『ありがとう。…!おい、これスポーツドリンクではないぞ。水だ。…けど、今までの水より美味しい?』

 

こちらは冷えたとはいかないまでもそれなりの温度だ

 

冷えた飲み物は体を冷やす、本当は夏場でも常温が良いのだが

 

達也から手渡されたのは甘いスポーツドリンクではなかった

 

【水】だった

 

しかし、それも唯の水道水ではない

僅かに臭うカルキ臭もなく、舌でころがすと軟らかな感触がするのだ

 

なによりも、今まで飲んだことがないほどに美味だ

 

達也『流石、女性の味覚は違いますね。その通りです。それは神前に供えるお酒用の水に限りなく近いものです。本来であれば、それ専用の水を持ってくれば良かったんですが、難しかったものですから。濾過する道具は持ってきてますので、ある程度の澄んだ水を作れます。』

 

摩利の反応に達也も満足げな表情をする

 

自然の山から涌き出た天然の水とまでいかないが、しっかりと濾過した水なのだ不味くはない筈だ

 

摩利『…そうなのか。にしてもこれは先程までの疲れもなくなるな。』

 

達也『…併せて、ミネラル補給もどうぞ。この世全ての人に言えますが、栄養不足のエネルギー過多ですから。これは天然の岩塩を砕いたものです。精製された塩にミネラルはありませんから。』

 

真に本物の食材は少量で満腹になる

水も同様だ、良い水というのは体に良い影響を与える

 

しかし、濾過した水だけでは不十分だ、何故なら今回の水自体には栄養・ミネラルが含まれてないからだ

 

摩利『何から何まですまないな。サポートまで完璧とは、引く手数多だな。』

 

達也『調整も体作りも手は尽くしたつもりです。あとは、これくらいしか出来ることはありませんので。』

 

差し出された小石程度の大きさの岩塩を噛み砕いていく摩利

 

塩特有のしょっぱさもあるが、僅かに苦味や甘味もあり栄養補給には十分であった

 

本当に、何でも良く知っておりそれを実行出来るのはとてつもない強みだ

 

摩利『十二分にあるよ。…あと一ピリオド、勝ってくるぞ!』

 

完全復活とまではいかないまでも先程までの疲労は大分解消されていた、しかも水と塩だけでだ

 

これなら何の不安も無く戦える

 

達也『ご存分に。』

 

 

 

 

 

愛梨『…水尾先輩の力が及ばない(力は五分と五分、いえ水のエレメント家系だから能力は上の筈なのに、ここまで差が出るものなの?)』

 

この試合、渡辺 摩利という強力な選手がいるのは分っていた

実力的には拮抗している筈が否、エレメントという家系等を含めれば僅かに有利だと思っていたからだ

 

仮に七草と十文字と並ぶ程の実力者だとしてもそこまで圧倒的な実力があるとは思えなかった

 

沓子『そうじゃな。この最後のピリオドになって一高の渡辺選手とやらの動きが格段に上がりおった。』

 

どうやら、沓子も同じことを思っていたらしい

 

栞『そうみたいね。まるで、第一ピリオドのような動きだわ。』

 

愛梨『…まさか、これも?』

 

沓子の指摘に愛梨と栞も摩利の動きを注意深く観察する

 

確かに、第一ピリオドのような動きだがその調子をこの場面になって持って来れるのはどうしてなのか?

 

考えられるのは一つしかなかった

 

 

 

 

水尾『…くっ!(どうして、そこまでのパフォーマンスを続けられるの?実力は五分と五分なのに。それなのに。)』

 

第三ピリオドになって、普通ならば運動量も低下してくるはずが摩利にはそれがないように思えた水尾

 

それどころか、気持ちの入りようがこの試合で一番強い感じがした

 

摩利『(本当に、運が良かった。これまでの高校生活もそうだが。今年は特にだ。守夢(アイツ)一高(ウチ)に入学して学校の雰囲気も変わりつつある。そして、この九校戦でエンジニアとしての数多くの功績を残し、選手としても十師族の嫡子に勝った。)ならば、私がやることは一つだ!』

 

一方で、摩利は今年に入っての出来事を振り返っていた

 

勿論、その主役は達也だ

 

守夢 達也という人間がこの第一高校に入学して様々なことが変わりつつあった

達也自身、不本意ながらも我々の無理を何度も聞き入れてくれたのに対して感謝しかなかった

 

 

 

 

 

 

あずさ『…どうして?(ボソッ)』

 

真由美『どうしたの?あーちゃん?』

 

あずさ『!か、会長。』

 

天幕にある一室で中条 あずさはモニターに映る摩利を見

 

しかし、呟いた相手は摩利ではない

 

いつの間に来ていたのか、真由美があずさを心配する

 

 

真由美『あ、驚かせてしまったかしら?ごめんなさいね?それで、あーちゃんは何を悩んでいるの?…もしかして、守夢君?』

 

あずさ『!?…そうです。』

 

たまにモニターに小さく映るある人物をチラチラと見ていたあずさの頭の中を占めるものが達也だと推測する真由美

 

自分の考えていることをいとも容易く見破った真由美には隠し事は出来なかった

 

 

真由美『たしかに、あんな調整技術の腕を持たれていたら反則よね?あんな子がなんで二科生なんだって思っちゃうわよね?』

 

あずさ『そ、そんな。』

 

あずさの考えることは尤もだ

 

あんなの二科生だなんて詐欺に等しい

 

しかし、あずさは何故か真由美には気おくれしている

 

おそらく、真由美が守夢君と呼ばずに達也君と呼んだことで片想いをしている真由美への悪口になっているのではないか?と思っているからだ

 

真由美『でも、気にする必要は無いわよ?だって、あのエンブレムに大して意味はないもの。』

 

あずさ『…え?』

 

そんなあずさを知ってか知らずか真由美はとある秘密を暴露する

 

真由美『知らなかったのは無理もないかな?私も知った時は驚いたし。あのエンブレム無しはね?刺繍入りの制服が足りなかっただけなのよ?』

 

あずさ『…ほぇ?』

 

理由はこうだ

もともと教師陣も足りず一学年百人で運営していた魔法科高校だが、海外の魔法勢力に負けないために年度の途中からではあるが、追加募集して初年度は理論から次年度に実技を行うということで第一高校から順に行われることになったのだ

しかし、蓋を開けてみると教師の数を増やすことが出来ず、あろうことか学校側が制服まで誤発注で刺繍無しの制服が配布されることになったのだ

それが切欠となり、エンブレムの刺繍無しが二科生(補欠)というなんとも下らない差別意識が出来上がったのだ

 

もっとも、それはただの言い訳ではある

 

人間というのは常に自身より弱い立場の人間を求めたり、他人よりも上の立場に居たい等という心の弱さがあるためそれが誤発注の制服から面に出てきただけのことだ

 

真由美『だから気にしなくて良いのよ?彼は理論が得意分野の一科生と思っておけばいいんだから。…あ、頭でっかちのひねくれ者かもしれないわね。』

 

あずさ『ぷっ、なんですかそれ。』

 

片想いしているはずの相手をひねくれ者等と言えるのは真由美くらいだろう

 

そんな真由美が可笑しくて笑ってしまうあずさ

 

真由美『ふふっ、ようやく笑ってくれたわね。』

 

あずさ『!…ありがとうございます。』

 

先程から思い詰めた表情をしていたあずさにほっとする真由美

 

そんなに思い詰める必要もないのだ

 

ヒトにはそれぞれ得意不得意があるのだから

 

それが凝り固まった社会に適合するのかしないのかの違いだけで

 

真由美『いいのよ。あんな子なんか、百年に一人現れるかどうかの傑物。寧ろ、私達は運が良かったのかもしれないわ。彼は不本意でしょうけど、CADを調整してもらえて優勝にも貢献してくれたし。』

 

あずさ『そうですね。』

 

今、真由美のが言った言葉が一番気持ちが楽になったあずさ

 

そう、自分達は幸運なのだと

 

 

 

 

 

 

水尾『(負けたわ。でも、不思議な気分。私達は打倒一高を掲げていたけど、彼女達は。いえ、少なくとも彼女、渡辺摩利は楽しそうにも見えたわ。もちろん、勝つということは考えていたでしょうけど。…これは彼女だけの力ではない。エンジニアと二人三脚だからこそかもしれない。)少し、羨ましいな。』

 

試合の終了のブザーが鳴る

 

結局、水尾は摩利と開いた点差を詰めることが出来なかった

 

何がいけなかったのか?それは分からない

 

だが、自分と摩利と決定的な違いはこの試合を【愉しんでいたかどうかだろう】

特に、第三ピリオドは摩利は迷いも無くこの競技に全身全霊を掛けていたように思う

 

おそらく、そうさせたのは紛れもなくエンジニアである達也のおかげだ

 

摩利『?何か言ったか?』

 

水尾『ううん。完敗よ。』

 

摩利『水尾こそ、流石だよ。強かったよ。』

 

水尾『嫌味にしか聴こえないわ。』

 

少し摩利が羨ましく思うも、清々しい気分なのだ

 

けれどももし、もし達也が第三高校に入学していたなら、自分も調整をお願いしていただろう

 

そうなった場合、結果は逆になっていたのは間違いない

 

そんな摩利に謙遜されると悔しくなる

 

 

摩利『いやいや、アイツがいなければもっと追い詰められていたさ。』

 

アイツと指を差された達也本人はボーッと空を見上げている

 

水尾『そっか、ありがとう。それにしても彼、守夢君だっけ?一条君にも勝つし凄いね。』

 

摩利『水尾も気になるのか?アイツはモテモテだな。』

 

聞けば、達也は魔法力は無いらしい

 

そんな人物が一条を倒したというのは前代未聞だろう

 

しかし、他校である水尾がそこまで達也を称賛するとは意外だ

 

水尾『ち、違うわ。ただ、純粋に尊敬よ。…多分(ボソッ)…でも三高なら愛梨がもしかしたら…。』

 

摩利に疑いの目を向けられて慌てる彼女だが、満更でもなさそうだ

 

まぁ、自分よりも達也を気にしている人物が一人心当たりがあるのは確かだ

 

摩利『一色か。それは此方としては応援してやれないな。此方にも恋煩いをしている親友がいるからな。』

 

水尾の話を聞く限りでは達也は一高だけでは飽きたらず、三高の生徒もタラシこんだようだ

 

水尾『七草さんのこと?』

 

摩利『あぁ。家柄もあってか、そういうことに諦めはあったんだろうが。守夢と会ってから恋する乙女だよ。』

 

しかし、こちらも油断はしていられない

 

あれほどまでの優良物件は中々無い

 

水尾『それは強敵が現れたかしら?』

 

一色の家柄であれば、大丈夫かと踏んでいたが七草がライバルとなれば引き締めて掛からねばならない

 

摩利『なら、次は守夢の右隣を勝負だな。』

 

摩利も自分と同じように考えていたらしい

 

七草と一色のどちらが達也を射止めるのか勝負だと

 

水尾『!…えぇ!今度こそ、負けないわ。』

 

さっきの試合は負けたが、別で【勝負】と言われれば引き下がる訳にはいかない

 

ーーーそれが、恋の勝負であろうと

 

 

 

 

 

 

 




また、長くなってしまった…
如何でしたか?
前話の最後が無理矢理すぎたなと反省はあるものの、あの場目をどう表現すれば良いのか悩み、結局ぐだってしまいました。
①どうやら、将輝と達也は面識?があるようです
②そろそろ、達也も身を固めるべきなんでしょうかね?
③老師は相変わらず達也君がお気に入りな様子です
④ミラージ・バッドでの摩利ですが、達也の調整と栄養補給だけで勝てるのではないか?と思いました
⑤さてさて、二十八家の中で達也を射止めるのは誰なのでしょうか?

また、次話も読んでいただければ嬉しいです。
それでは!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。