抹殺された神の愛し子   作:貴神

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お久しぶりです。
中々、投稿出来ず申し訳ありません。
人の心の機微って表現しづらいですね。
今回はそれをテーマにしました。
お気に召されるか分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


25話

『第一高校の渡辺選手が予選を通過したと連絡が入った。』

 

重苦しい雰囲気が漂う中、ある一人が口を開く

 

『馬鹿な、不正工作がバレたというのか!』

 

『それはどうかは不明だが、工作員が見付かったと解釈すべきだろう。そうなると、こちらもなりふり構っていられる状況ではないが、どうする?』

 

『…それしか方法がないか。』

 

『これには客も不信感を抱くだろうな。』

 

『致し方あるまい。我々が何よりも畏れなければならないのは組織からの制裁だ。客には後で何とでも説明出来る!』

 

その一人からの言葉により次々と不安の声が広がる

 

しかし、そんな不毛な言葉を並べても何も解決はしない

 

早急に対処をしなければ自分達の命が危ういのだ

 

 

『『…』』

 

最終手段を使わざるを得ないこの状況に苦しいのか、無言の肯定しか出来ない

 

 

『応援は必要ではないのか?』

 

『問題無い。一人のジェネレーターでも百や二百人は素手で屠れる。』

 

『…では、あの会場に配置しているジェネレーターのリミッターを解除する。』

 

 

果たして、この選択が吉と出るか凶と出るのか

 

しかし、この選択をしたことによってこの人間達の運命は決まったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の観客席への通路に不気味に佇む一人の男

 

その男はサングラスで目元を隠しており、その所為で表情や人相といったものが確認しにくく、近寄りがたかった

 

しかし、本当の理由は別にあり、そういう意味ではこのサングラスは効果は絶大といえた

 

ジェネレーター『…!?』

 

そして、常人には見えない魔方陣が男の頭から足先までくぐり抜ける

 

すると、今まで1mmも微動だにしなかった男がゆっくりと動きだす

向かう先は観客席にいる数百人の人間

 

通路を抜けた先に一人の人間が横切る

 

男はその人間の首に狙いを定め、右手で手刀を作り襲いかかった

 

しかし、その行動はその人間によって阻まれた

 

首を切ろうとした右手首を掴まれると背負い投げの要領で会場の外に投げられたのだ

 

普通ならば、訳も分からず混乱しそのままコンクリートの地面に落ちていくはずが減速魔法で辛くも難を逃れた

 

 

 

柳『あの状態から間に合わせるとはな。…何者だ?いや、答えを期待しての問いではない。…その身のこなし、強化人間(ジェネレーター)か?』

 

手もつかず、壁を飛び越えてスタジアムの外に降り立つ人物

それは先程、男が手をかけようとした人間だ

 

しかし、それは普通の人間ではなく、達也の上司の一人である柳であった

 

柳は男の特殊性は判っていたが、敢えて言葉にする

 

真田『答えを期待していないと言ったのは柳君だよ?』

 

柳の問い掛けを遮る形で男の背後に現れたのは同僚である真田

 

ジェネレーター『…』

 

状況としては挟み撃ちなのだが、ジェネレーターと表される男は狙いを再び柳に据える

 

不利だからという思考は無い、そんなことを考えることが出来ないといった方が正しい

 

強化人間(ジェネレーター)というのはその人間を人形にするという言葉が意味合い的に近い

そのため、状況が不利という認識すら無いのだ

 

柳『唯の独り言だ。気にするな。それよりも、こいつを捕らえる。手を貸せ。』

 

再び、向かってきたジェネレーターの顔に右手を当て、後方に吹き飛ばす柳

 

真田『では、そうしようか。それにしても見事だね、今のもまろばしの応用かい?』

 

柳『(まろばし)ではない。(てん)だ。(てん)が表の技なら(まろばし)は裏の技。魔法を使わないのが(まろばし)だ。そら、来るぞ。』

 

柳のカウンターに称賛する真田だが、その緊張感の無さに柳は呆れる

 

ジェネレーター『…』

 

殺ることが難しいと判断が出来たのか、背後の真田に狙いを定める

 

数瞬の後に、真田に向かって駆けるもその判断は正しいとは言えない

 

 

真田『なるほど、柳君より僕が弱そうだと判断した訳だね。その判断が誤…『貴様らは本当に俺を苛つかせるのが得意だな。』…僕の獲物を取らないで欲しいな、達也君。』

 

戦闘面では柳に劣るものの真田は軍人だ、弱い訳がない

 

もっとも、真田よりも厄介極まりない人物が介入してきた

 

真田とジェネレーターの間に割って入るとコンマ一秒以下の時間にジェネレーターの首を掴み、持ち上げる達也

 

達也に掴まれたジェネレーターはジタバタと達也の手から逃れようとするも小揺るぎもしない

両手で達也の頭を掴んでも痛がる様子もない

 

それどころか、更にジェネレーターの首を掴む握力は更に増していく

 

一方で、(達也)に油揚げを攫われた真田は拗ねていた

 

響子『あら?貴方、来てたのね♪』

 

そして、いつの間にかこの場に来ていた響子

 

達也とは別行動だったようだが、達也を見付けるなり新婚さながらの雰囲気が漂う

 

柳『…藤林』

 

真田『もう、達也君の奥方になってるね。それで、達也君はどうするつもりなのかな?』

 

響子の言葉に柳は呆れ、真田はホケホケと笑う

 

あのときの達也の言葉と心は変わることはないが、あれ以降双子の義妹の結那と加蓮は予想していたが、響子のタガの外れようは予想外だった

 

達也『鬱屈した気分を解消に来ました。』

 

真田『いや~殺すのだけはやめて欲しいな。貴重な情報源なんだから。』

 

達也『殺しませんよ。ボコボコにするだけです。』

 

柳『人はそれを殺すというぞ。』

 

真田の質問に隠すこともせずに答えた達也だが、真田と柳の表情は引き攣っていた

 

達也の言うボコボコとは他人が想像するものを遥かに超える

 

確かに言葉通りにボコボコにはなるのだが、それは対象物ではない

ボコボコになるのは、対象物を介してコンクリートの壁であったり硬い地面がだ

 

そのため、対象物は原型を留めておらず、動物なら肉塊に無機物は粉々になる

 

以前、空中でならどうか?と試したところ数十メートル先のコンクリートの壁に直径30cm程の凹みが無数に出来ていたのだ

空間を介してそれほどまでの威力に達也の身体能力が恐ろしく高いのだと改めて認識した出来事だった

 

そんな訳で今回は響子の避雷針でジェネレーターの身柄を確保したのだった

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ホテルの屋上にて

愛梨はある人物と連絡をしていた

 

愛梨『…はい。………はい、必ず優勝して見せます。…では、お気をつけて。』

 

電話の相手は母親からだ

どうやら、本戦ミラージ・バットに観戦に来るようでその連絡と激励の言葉を愛梨に送っていたようだ

 

水尾『…今のはご家族から?』

 

愛梨『!?…先輩。』

 

突然の自分以外にこの場所にいないはずが背後からの呼び掛けに驚く愛梨

 

振り返れば、先輩であり、姉のような存在でもある水尾の姿があった

 

水尾『やっほ。ごめんね、勝てなかったよ。』

 

明るく振る舞っているものの、その表情は暗い

 

愛梨『…慰めにもならないかもしれませんが、あの渡辺 摩利に守夢 達也というエンジニアなら仕方がないのかもしれません。他のエンジニアでしたら、負けてないと思います。』

 

励ましたい気持ちはあるが、上手い言葉が見付からない

 

水尾『ありがと。確かにそうかもしれないね。でも負けたのは事実だから。』

 

愛梨『先輩…。』

 

水尾『今の私の実力はここということ。なら、次のステップに進むのみだと思うの。…愛梨、勝って。勝って、私の思いを繋いで。』

 

悔しい思いでいっぱいだが、絶望した訳ではない

 

後輩が頑張っているのに自分も負けてはいられない、一度や二度負けたところでなんだ?負けたのは現在だ

 

未来は自分の行動次第で変わるのだ

 

負けるかもしれない、けれども何もしなければ差は埋まらない

 

失敗や変化無くして、何も生まれないのだから

 

 

愛梨『勿論です。』

 

水尾から託された想いを胸に愛梨は決意を新たにするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子本戦ミラージ・バット決勝

 

 

達也『とうとう、決勝戦ですね。感慨深いものがありますね。』

 

小早川と摩利への妨害工作以降、パタリと何も起こらなくなったところをみると、あの工作員が鍵だったことが窺えた

 

これでまともな試合になりそうだと達也は考えていた

 

摩利『お前のその棒読みとのんびりとした雰囲気さえなければな。』

 

しかし、試合直前だというのに似つかわしくない達也ののんびりした言葉に摩利は嘆息する

 

達也『おや?緊張しているようでしたので、その解消をお手伝いしたつもりだったのですが。絶対勝たなければならない、というプレッシャーが見えましたので。』

 

摩利『なんで、そこまで見透かしながらそれを茶化すんだ。』

 

どうも、摩利自身は緊張しているのかその表情は硬い

 

しかし、摩利にとってその硬さは命取りと言えるため、達也は敢えて茶化す真似をしたのだ

 

そのおかげで摩利の緊張は解れてきた

 

達也『それが、先輩のパフォーマンスを下げるからです。他人のために頑張るなんて烏滸がましいですよ。…ましてや、親友のためになんてね。』

 

このまま、摩利にとって良い方向にモチベーションも保てればよかったのだが、達也はその摩利の心境を許さなかった

 

摩利『!?…お前。』

 

親友と言われて、摩利は達也に振り返る

 

その表情は、まるで自分の心の内を覗かれて驚きと恐怖に彩られているようだ

 

達也『あ、怒りました?ですが、事実です。他人のためになんて、自分自身で責任を取れない人間が使って良い言葉ではありませんよ。年齢関係なくね。貴女は他人の人生まで背負うつもりですか?…まあ、遠慮なく言えば、他人を理由にする人間は卑怯な人間だ。』

 

摩利『…そんなつもりは、ない。』

 

今までの達也はここまで他人の心情に興味はなかったのが、今日に限って言えば違っていた

 

 

何故なのか?

 

 

達也『渡辺先輩を責めている訳ではありません。その考え方も素晴らしいとは思いますよ。しかし、この場合は親友のためという笠を着ているだけです。その前に貴女自身がこの試合をどう思うかですよ。優勝はそのオマケみたいなものです。』

 

摩利『…』

 

達也の言葉は端から見れば、とても責めていないとは言えない

 

寧ろ、叱っていると捉えられてもおかしくはない

 

しかも、この試合前というモチベーションを上げなければならないときに何を考えているのか

 

達也『すみません、苛めてしまいましたね。エンジニアとしての私が伝えたいのはこの試合をどう感じて自身がどうありたいかを考えて欲しいということです。他人の事を考えて面白くない試合をされては悲しいですから。』

 

先程から俯いたままで黙り込んだ摩利に達也も言い過ぎたか?と思い謝罪するも、その声は届いていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『…摩利の動き、精彩に欠けてるように見えるわね。』

 

試合開始早々に摩利の動きに精細が欠けていることに気付く真由美達

 

動きもそうだが、ここで着目したのは表情だ

 

鈴音『何かあったのでしょうか?』

 

十文字『判らん。何とかリードは保っているが、少しでも躓けば逆転は必至だろう。』

 

普段の摩利は好戦的な性格のためか、笑ったり、僅かに相手を見下すような余裕のある表情をしている

 

それが今は、どこか暗く、泣き出しそうな表情になっているのだ

 

真由美『…なんで、守夢君は気付かな…!?もしかして摩利の不調の原因って守夢君?』

 

選手の不調であれば、エンジニアも気付くはず

 

しかも、そのエンジニアは達也であるため気付かないほうがおかしい

 

そう推理していくと何故か、達也が怪しく思えてきてしまうのだ

 

鈴音『…どういうことですか?摩利さんの調子がおかしいのは彼の所為だと?』

 

真由美『それは判らないけど、彼が摩利の調子がおかしいことに気付かない筈がないわ。』

 

いくら達也に好意を寄せている鈴音といえど、試合に関しては厳しい目を持っているため達也に疑いを向ける

 

だが、これはあくまで真由美の推測に過ぎない

 

確かめる必要がある

 

十文字『なるほどな。確かに奴が渡辺の不調に気付かない訳がないか。しかし、何が原因で渡辺ほどの人物が調子を狂わせる要因があったのか。』

 

十文字も真由美の意見に賛同する

 

そして、気になるのは摩利を不調に追いやった原因が何なのか

 

 

 

 

 

 

摩利『(解らない。なんで、真由美のために頑張ることがいけないんだ?真由美の想いが報われて欲しいと思うことは駄目なのか?)』

 

天幕での真由美達の心配は的中していた

 

摩利は達也から言われた言葉に大きく動揺していた

 

大抵の人間に何を言われても聞き流すところを、何故か達也の言葉は残る

それは良い悪いに拘わらずだ

 

そして、気持ちを切り換えようにも僅差の試合状況のためその余裕がない

 

摩利の思考は泥沼化していた

 

 

愛梨『…?(どこか渡辺選手の動きにキレがない?体調の問題かしら?それにしては、僅かではあるけどリードされてるから違う。流石といったところかしら?では、精神的な問題?それなら、彼が何かしらの対策を施しているはず。)今のうちに逆転しておきたいわね。』

 

試合が始まって数分後、愛梨は摩利の動きに気付いていた

 

いくら、自分が優れているからといって自惚れてはいない

素晴らしいと思えば相手を認めるし、だから相手の挙動も見えてくるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『(少し、言い過ぎたか?だが、事実だ。誰かのためなど偽善だ。目標の為という名目に他人を使うなど自己満足に過ぎない。…確かに優勝したいとは思っているのだろう。だが、そんな甘い覚悟ではふとした拍子でその思いは根底から覆される。相手には一色家の嫡子もいるんだ。…仕方がない、呼ぶか。)…いつから、俺はこんなにもお人好しになったんだ?』

 

試合が始まってから気持ちをすぐに立て直すことが出来ていないことは解っていた

 

しかし、ここまで脆いとは思わなかったというのが正直なところだった

 

 

 

 

 

 

 

 

達也や一高のスタッフ達が見守る中、摩利自身も葛藤していた

 

摩利『(あと半分で第一ピリオドが終わる。私はまだこの精神状態を立て直すきっかけが掴めていない。寧ろ、悪化しているかもしれない。だが、アイツの所為ではない。アイツの言う事も解っているんだ。けど、立ち直r…!?)しまt…。』

 

試合をしている中で達也の言わんとしていることは少しだけ理解出来た

 

 

摩利は気付いていなかっただろうが、愛梨との点差は徐々に失われていた

 

当然ながら、他の選手との点差も縮まっている

 

それにも気が付かなかったのは摩利の失態と言えた

 

愛梨『(こんな状態を狙うのも卑怯かもしれないけど、これは真剣勝負。恨むなら貴女の不調を見抜けなかった彼を恨みなさい。)』

 

そして、摩利の死角を突き愛梨は彼女が狙っていた光球を奪い取った

 

 

 

 

 

 

当然、モニターでもその瞬間は映し出されており、スタッフ達が衝撃を受ける

 

あずさ『あぁ!』

 

悲壮感漂うあずさ

 

一高スタッフ①『何をやっているんだ、あの二科生は!』

 

一高スタッフ②『渡辺の不調を見抜けないで何がエンジニアだよ!』

 

それに同調したのか、口々に摩利のエンジニアである達也を責め立てる

 

この場に居ないためか、今までの鬱憤が一気に爆発する

 

 

十文字『やめろ、お前達。』

 

しかし、それを十文字は止める

 

一高スタッフ③『しかし!』

 

十文字『それも一理あるが、不調をきたしたのは渡辺だ。全ての責任が奴にある訳ではない。』

 

十文字の一喝により鎮まるも、不満は無くならない

 

それはそうだろう

 

嫌いどころか憎くも思われている達也の僅かなミスさえあれば、非難したくてたまらないのだ

 

今まで、達也の言う事は正論であり、渋々ながら納得しなければならなかった

 

しかし、いつかその余裕を崩してやりたいと思っていたのだ

 

その理由を解っているのか不明だが、全ての責任が達也にある訳ではないと形状では擁護する

 

服部『しかし、先程の会長の話を聴く限りではあいつが渡辺先輩に何かを吹き込んだかのように思えます。』

 

十文字『そうかもしれん。』

 

十文字の言葉に異を唱える服部に十文字も理解は示す

 

それは少なからず、達也に非があると思っているからだ

 

服部『なら!』

 

十文字『…それでもだ。守夢をエンジニアとして選んだのは渡辺だ。』

 

服部『…』

 

十文字『…見守るしかない。』

 

服部の意見はもっともだが、この場で議論しても本当の理由が何なのかは判らない

 

ましてや、達也をエンジニアとして選んだのは摩利自身

 

本当は摩利を責めたくはない

何故なら、三年間共にこの第一高校を引っ張ってきた仲間だからだ

 

だが、その理論だと達也を悪人と決めつけてしまう

 

それは人間としてやってはいけないことだ

 

解ってはいるものの、それでも誰かの所為にしたいのだ

それは無意識に自分達を守ることだと解っているからーーー

 

 

 

 

 

摩利『(必死に保ってきたリードがここで逆転されるとは。後、5分。離される訳にはいかない!)』

 

愛梨に隙を突かれ、逆転されて摩利は更に焦りが増す

 

気持ちを切り替えることが出来ていないのにこの状況は芳しくない

 

ーーーだが、どうやって?

 

 

 

 

 

無情にも時は過ぎ、第一ピリオドが終了する

 

 

達也『(十五分程度で立て直せるかと思ったが、無理な話か。)お疲れ様です。まずは、体を休めてください。』

 

達也の予測は大きく外れ、今だに思い詰めた表情をしている

 

摩利『…』

 

達也『(所詮は高校生か…。)渡辺先輩。』

 

摩利『うん。』

 

達也『渡辺風紀委員長。』

 

摩利『うん。』

 

達也『…千葉 修次。』

 

摩利『うん。』

 

達也『……1+1は?』

 

摩利『うん。』

 

達也の呼び掛けにしっかりとした反応もない

 

ただ、相槌をするだけ

 

達也『(重症にもほどがあるだろう。)…俺の所為か?…あの人に頼んでおいて良かったかもな。(ボソッ)』

 

達也はここまで摩利が打たれ弱いとは思っていなかった

別に達也は摩利の全人格を否定しているわけでもないし、考え方も否定はしていない

 

中途半端な気持ちで試合に挑むなと叱っただけなのだ

 

大きな嘆息を堪え、達也は天を仰ぐに留めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

…り、……ま…り、摩利!

 

摩利『(どうしたらいいんだ。どうしたらいいんだ。どう、したら、いいん、だ?勝ちたい、優勝したいのは当然だ。最後の年だからな。真由美、私は間違っているのか?…!?、真由美の声?とうとう幻聴まで聴こえて…?)真由美!?』

 

第一ピリオドが終了したのは憶えているものの、どうやって地面に着地したのは憶えていない

 

達也の言葉が摩利を惑わし続けていた

 

真由美の事を考えていたからか、いつの間にか真由美の幻聴がすると思ったら目の前に当の本人が自分の肩を揺すっているではないか

 

真由美『やっと、気付いた。守夢君から、連絡があって、摩利の調子もおかしいと思ってたから来たら、本人は上の空だし。一体、どうしたっていうのよ?いつもの摩利らしくないわよ。』

 

あの時、達也が呼んでいたのは摩利の親友である真由美だった

 

やはり、摩利のカンフル剤は真由美が最適だった

 

男性である達也は理性や理論だ物事を見るが、女性は感情で物事を見る

 

落ち込んでいるこの場合は、感情を呼び覚ます方が適当なのだ

 

摩利『言ってくれるな。その理由はそこの(守夢)が原因だ。』

 

真由美『えっ、やっぱり?ちょっと、守夢君。摩利に何を吹き込んだの?』

 

真由美の予想が当たっていたらしく、摩利の不調の原因は達也だった

 

どうして試合に影響を与えるような不用意な行動をしたのか

 

 

達也『大したことは言ってませんが?優勝をする自信が無いから親友の為という大義名分を笠に着て、負ける前提で試合に臨むエンジニアとして調整のやりがいの無い愚かな選手を遊んでいただけですが?』

 

真由美の詰問にあっけらかんとした表情で容赦ない言葉で摩利を酷評する達也

 

摩利『守夢!その言い方はないだろう!私はな、真由美とお前が…!』

 

達也に負け犬根性丸出しの意味と同じだと理解した摩利は達也に喰って掛かる

 

真由美『…どういうこと?摩利、もしかして守夢君に何か頼んだの?』

 

摩利の口から自分と達也の言葉で考えられるのは、一つしかない

 

お節介が過ぎる摩利のことだ

 

自分(真由美)が達也にお願いを聞いてもらったのを摩利もしようと考えたのだろう

 

達也『自分が優勝したら、私にお願いがあるそうですよ。』

 

案の定、達也が是と答える

 

そして、この場に居るのは不快に感じた達也はそう吐き捨てるとこの場から離れていく

 

真由美『…摩利、ありがとう。でも、それは私自身の問題。摩利が背負う事はないわ。』

 

真由美は達也が廊下に姿を消したのを確認すると摩利に向き直る

 

摩利の思いに素直に感謝するが、これは真由美自身が解決しなければならない問題なのだ

 

摩利『真由美まで、同じことを言うのか?』

 

しかし、摩利にとっては自分の思いを否定されたと捉えたようだ

 

真由美『? 守夢君と言葉が同じかもしれないけど、私はその摩利の思いだけで十分よ。摩利まで苦しくなる必要はないわ。摩利はこの試合で優勝して。私は摩利が全力でこの試合に挑んで他の選手を寄せ付けない姿を見たいわ。』

 

摩利のショックを受けたような表情に真由美は首を傾げる

 

真由美が言いたいのはあくまで摩利の重荷を少しでも軽くさせてあげたいだけ

 

 

摩利『…!』

 

真由美の言葉に摩利の表情に生気が戻る

 

真由美『大体、なよなよしている摩利なんてダサいだけだわ。』

 

摩利『…言ってくれたな。見てろよ、一色なんて足元にも及ばないくらい大差をつけて勝って来てやるからな。』

 

ここまで真由美に言われては、凹んでもいられない

 

真由美『それでこそ、摩利よ。それに、達也君は私自身で落とすって決めたんだから。』

 

流石、親友というべきか

本当に困っている時に元気づける方法が解っている

 

摩利『そこまで言うならお前に任せるとしよう。なら、私はこの試合を優勝することだけに集中するか。』

 

真由美『頼んだわよ、摩利!この試合次第で早くも総合優勝が決まるんだから!』

 

信頼しているからこそ任せられる

 

二人の仲はそれほどまでに強いものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『ありがとうございました。真由美さん。』

 

競技場手前の廊下で達也は真由美に感謝の言葉を述べる

 

真由美『…どうして、あんなことを摩利に言ったの?』

 

しかし、真由美はそれに対して応えずに達也に問い掛ける

 

雰囲気はいつも通りだが、声音は達也を非難していた

 

達也『…』

 

真由美『ねぇ、答えて?確かに、そこまで他者と関わりを持とうとはしていない。けど、貴方は人の思いを踏みにじるような、そんな人間ではないはずよ?』

 

しかし、達也はそれに答えず無言を通す

 

それは気まずさからではなく、答える必要の無いことという意味だが、真由美はそれを良しとしない

 

達也『踏みにじるですか。随分と優しい人間ですね私は。』

 

暫し、二人を沈黙が支配するも仕方無しに達也が口を開く

 

真由美『達也君、真面目に答えてちょうだい。』

 

達也『エンジニアとして、いい加減なパフォーマンスはするなと言ったまでですよ。』

 

達也の茶化すような口振りに真由美は苛立ちをぶつける

 

その様子に面倒臭いと思いつつも、本音という名の建前を口にする

 

普通の人間ならば、ここで素直に答える

 

達也の場合は、魔法師なんぞに誰が腹の中を見せるかと言ったところだろう

 

真由美『その思いが摩利自身を苦しめるから?』

 

達也『さあ?心ここに在らずの状態で挑んでも勝てる試合も勝てないですから。それに、仮に親友が喜んだとしてもその相手は迷惑かもしれませんよ。』

 

摩利の思いは素晴らしいものだろう

しかし、それが本人にとっての足枷になるならば不要なものだ

 

摩利の真由美の為の行動は当の真由美は喜ぶかもしれないが、その相手は違う

 

何故なら、人間だからだ

 

感情があるから好きも嫌いもあるし、喜怒哀楽を表現出来る

 

当然ながら、それは達也にも言えることだ

 

寧ろ、常人以上に好き嫌いに関しては顕著だ

 

真由美『それは…。』

 

達也『昨日もお伝えしたように、これ以上の干渉は不快です。どうも魔法師(あなた方)は私が気になる様子だ。だが、私は魔法師(あなた方)に興味の欠片も無い。…ああ、訂正です。何かを極めようとする魔法師は例外です。』

 

基本的に達也は魔法師という人種が嫌いだ、それは己も含むが自分を魔法師と思ったことは毛ほども無い

 

しかし、例外も存在する

 

 

真由美『…』

 

達也『ですから、これからは私に関わらないでいただきたい。只でさえ、不本意な試合出場までしたにもかかわらず拘わらず怪我をしているから診てもらうべきだ等と自分達の知識の範疇で命令する。検査場で暴れたと聞いて非難の嵐。そう、実際に何があったのかを知ろうとせずに、他人から聞いたことを鵜呑みにしてその人間を評価する。流石は魔法師、一般人を超越したためか。まるで、神様気取りだ。否、神様でもそう容易く人は裁かないというのに。』

 

段々と口数が多くなってきている達也

 

それは本音が漏れているのか、牽制の為のものかはわからない

 

真由美『…違うわ。』

 

先程まで達也の言葉に反論せずに聴いていた真由美が重い口を開いた

 

達也『一体何が違うというのでしょうか?自分たちの欲望の為に他人を巻き込む、嫌と言っている人間を強制的に協力させておいて、それが少しでも危うくもしくはミスをすれば罵倒する。自分たちの顔に泥を塗るような行為をする二科生(ウィード)は排斥する必要があるんでしょうね?何か否定したらどうですか?十師族、七草 真由美さん。』

 

真由美が否定の言葉を口にしても達也は止まらない

 

達也の表情はとても愉快そうで相手を馬鹿にしているようにも見受けられた

 

真由美『…』

 

達也『沈黙ですか。私は構いませんが、少しでも否定しないと私からの皆さんの評価はこれに準じることになりますよ?』

 

真由美の反論を封じ込めた達也は真由美に追い打ちをかける

 

真由美『…否定はしないわ。だって、それが現実だもの。でも、私と摩利はそれだけじゃないわ。あの時、達也君が暴れたと聞いたとき。確かに怒ったわ、だって穏便に済ませることも貴方なら出来た筈だから。それと同時に心配の気持ちがあったわ。何故なら、達也君貴方は誰とも仲良くしていない。西城君や千葉さん達と仲良く話しているけれど、まだ本当の友人、親友とまではなってないわ。だから、少しでもこの場で一高のみんなと交流を深めてほしいと思ってる。一科生全員が二科生を見下している訳ではないことは解っているでしょう?そのためには悪目立ちしてほしくなかったの。彼らに少しでも貴方を引いては二科生の皆を認めてもらえるように…?』

 

先程までと同様に沈黙を続けるかと思われたが、真由美はゆっくりと言葉を紡ぎ出す

 

真由美はどうして達也がいつも独りであろうとするのかずっと気になっていた

 

そして、それは達也ともっと関わることで何か判るはずだと

 

もっと、達也の事が知りたい

 

達也『…フッ…ククッ…。』

 

真由美の必死の弁に達也も俯いて顔を手で覆い、肩を震わせる

 

それが、真由美には自分と向き合ってくれたのだと勘違いする

 

真由美『?どうしたの、達也君?』

 

だが、それにしては何かがおかしい

 

そう、声だ

 

声が聞き違いでなければ笑いを噛み殺している

 

訝しむ真由美

 

達也『…クッ…ハハハハハハハッ!…認めてもらえるように?どこまでもあなた方の思考はお花畑なのでしょうか。その言葉自体が既にあなた方一科生が二科生を見下していると解りませんか。前にも言ったはずです。一科生と二科生の違いは魔法が満足に使えるかどうかだけです。確かに、魔法科高校であるため大なり小なり魔法が使えることが必要条件です。事象改変する力が強ければ強い程良いでしょう。…だが、それだけです。二科生は満足に魔法が使えないことは解っている為、自分には何が出来るかを考えてその武器を磨こうとするでしょう。一科生の場合、大抵の魔法は使えてしまうため自分が他人より優れた人間だと勘違いする。そう考えれば、一科生は大したこともありません。もっと言えば、一科生も二科生も魔法という力があるだけで他は一般人と何も変わりませんがね。それに私は誰かに評価されたいからやっているわけではありませんから。』

 

突如、大きな笑い声をあげる達也

 

真由美は達也が笑う事など見たことがなかった

 

しかし、それは面白おかしいから笑っているのでない

 

達也の場合は真由美の言葉に整合性が取れていないことや浅い物事の捉え方に嘲笑っているのだ

 

それを裏付けるように達也の纏う雰囲気が酷く冷たいものに変わっている

 

そして、何度でも言おう

 

達也は誰かから評価されたいために技術をそして、力を身に付けた訳ではない

 

そこが他の人間と一線を画すところだ

 

 

真由美『そんな言い方は…。』

 

あまりに酷い物言いに真由美は苦言を呈する

 

だが、それが事実であるため否定が出来ない

 

達也『それに、貴女の心配というのも唯の体裁にしか聴こえません。』

 

そして、達也は追い打ちを掛けるように真由美に言い放った

 

ーーパシンッ

 

次の瞬間、乾いた音が廊下に響いた

 

真由美『わ、私は!…私は、こんな、こんな気持ち初めてなの!今まで生きてきて、他人に、ましてや異性に興味を持つことなんてなかったわ。それが達也君。貴方と出会ってからよ。…どうして良いかわからないの…。』

 

音の原因は真由美が達也の頬を引っ叩いたものだ

 

涙ぐみながら真由美は達也に思いの丈をぶつける

 

人生初めての告白がこんな状況になるとは真由美も思ってもみなかっただろうが

 

達也『私にはその感情が、どのようにして押し付けるような感情に変わっていったのか知りたいですね。…ですが、貴女のお陰で渡辺先輩が調子を取り戻したので感謝します。ありがとうございました、真由美さん。観戦ですが、天幕に戻る時間を考えると、ここで観ていかれてはいかがですか?』

 

真由美の必死な告白にも達也は動揺するどころか、呆れ果てていた

 

自分の感情を理解出来ないのに、何故それを他人に押し付けるのか

 

まるで幼い子どものように見える

 

否、子どもの方が相手の事も考えて行動出来るから子ども以下と言えるだろう

 

だが、それとは別に達也のミスを真由美にフォローしてもらったため彼女に感謝する

 

真由美『…そうね。そうさせてもらうわ。』

 

達也『では、私は最終ピリオドの準備がありますのでこれで。』

 

先程の雰囲気と打って変わって穏やかな達也のこの切り替わりようは目を疑いたくなる

 

普通の人間なら、必ずと言って良いほど言葉と裏腹に声音や表情などが違う

 

それが達也にはないため、それはそれで恐ろしく感じてしまう

 

切り替えもきっちりしていることは当然だが、もしかしたら、然程、真由美たちに対して何ら感情を抱いていないのかもしれない

 

 

真由美『…諦めないから。例え、独り善がりの好意だとしても。…決して。』

 

自分の背を向け、会場に戻っていく達也に真由美は聞こえるか聞こえないかの声で呟く

 

聞こえなくてもよかったのだろう、それは真由美自身の決意の表れにも近かった

 

達也『…』

 

真由美の声は届いていたのかもしれないが、立ち止まることも振り返ることもせずに達也は会場に戻っていくのだった

 

 

 

 

 

 

第三ピリオドも終盤に差し掛かり、誰もが一人の優勝を確信した

 

愛梨『くっ!(どうして届かないの?そんなはずはないわ。この競技の相性は私の方が上のはず…なのに。)』

 

それは神経の伝達能力を向上させ、目から入った情報を脳へそして、各運動神経へ伝達し反応速度と身体能力を向上させる第一研究所の出自を持つ一色 愛梨ではなかった

 

 

栞『そんな…あの愛梨が負ける?』

 

エンジニアである栞はある意味、愛梨以上に絶望に満ちていた

 

沓子『大丈夫じゃ、まだ時間はある。この点差なら…!』

 

そんな栞を励ます沓子だが、心境は栞と同様に諦めに近い

 

 

水尾『…愛梨。』

 

それは、第三高校の天幕でも同様だった

 

周囲は大きく騒ぐ中、水尾は必死に追い縋る愛梨の姿を見ていた

 

 

 

 

 

 

 

達也『(ギリギリ間に合ったか。まあ、あの人なら普通の精神状態なら勝てるのは判っていたことだ。しかし…これは後程、何か文句を言われそうだな。)厄介な宿命(ほし)の下に生まれたものだ。』

 

真由美のおかげでいつもの調子を取り戻した摩利は第二ピリオドでは快調に得点を重ね、開始五分も経たずに逆転を果たした

 

つまり、いつもの調子ならば、師補の一色家の嫡子である愛梨でも遅れは取らないということだ

 

今回は、達也が原因の一端で摩利にとってはイレギュラーすぎたのだ

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響き、それと同時に歓声が上がる

 

それは、見応えのあった試合でもあったということと第一高校の総合優勝を指し示すものでもあった

 

 

 

 

摩利『なんとか、勝てたか…。真由美のおかげで第一ピリオドよりも第二ピリオド以降の方が良い気持ちで動けたな。』

 

大きく深呼吸をする摩利

 

そして、高校最後の試合でもあったため、悔いは残したくなかった

 

全力を尽くすという思いが第二ピリオドよりも第三ピリオドの自分のパフォーマンスを引き上げていた

 

達也『お疲れ様です、渡辺先輩。』

 

摩利『あぁ、ありがとう。って、違うだろ。お前が余計な事を言わなければ。』

 

そして、摩利の不調の諸悪の根源である達也は飄々とした表情でタオルとドリンクを差し出す

 

摩利はその飄々とした表情に再び怒りが湧き起こる

 

 

 

達也『何のことでしょうか?』

 

摩利『素っ惚けるとは言い度胸だな。守夢、あの時の約束を果たして貰うぞ!』

 

真由美に気負わなくても良いとは言われたが、何も忘れろとは言われてはいない

 

摩利は強気の姿勢で達也に詰め寄る

 

達也『内容を伺って吟味します。履行するかはその内容と私の気分次第です。』

 

だが、その言葉に効果は無い

 

そもそも、達也は摩利の願いを叶えるとは言っていないからだ

 

摩利『…全く、何で真由美はこんな男を…(ブツブツ)』

 

あまりにも可愛げのない、自分ならこんな男願い下げな摩利

 

 

 

真由美『摩利!おめでとう!』

 

摩利『!真由美!?…まさか、ここでずっと見ていたのか?』

 

横から衝撃を覚え、その衝撃の方を見ると嬉しそうな親友の表情が見える

 

どうやら、この場で観戦していたようだ

 

 

真由美『えぇ。天幕に戻る時間で摩利の勇姿を見れるでしょ?』

 

摩利『ありがとうな、真由美。(…本当に、真由美は望んでいないのか?…いや、望んでいなくても、望めなくても私は…私の善意(お節介)を押し付けて、楽しむとしよう。)』

 

ここまで、自分を想ってくれるのはやはり親友と呼べるこの真由美だけであり、本当に感謝しかない摩利

 

だからこそ、幸せになってもらいたいと思ってしまうのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞『…愛梨』

 

愛梨『そんな顔しないで、まだまだ私達の道は始まったばかりよ。』

 

自分よりも栞と沓子二人の落胆の表情が大きくて、思わず苦笑気味になってしまう

 

栞『でも…。』

 

愛梨の言うことも一理ある

 

が、今勝たなくては意味が無いのではないか?

 

愛梨『平坦な道じゃつまらないわ。山あり谷ありの方がやりがいがあると思わない?』

 

沓子『…そうじゃの。簡単な道なんてつまらんわ。超えるべき壁が高ければ高いほど燃えるのぅ。』

 

負けて悔しい筈の愛梨の表情が今まで以上に輝いているのに自分達が落ち込んでいるばかりはいられない

 

愛梨『そういうことよ。栞、沓子。私達三人で乗り越えていきましょう。』

 

一人では出来ない事も三人でなら乗り越えられると信じて

 

 

 

 

 

 

 

その夜、摩利のおかげで一日早い第一高校の総合優勝を果たした

 

そして、ささやかながら祝勝会が行われていた

 

真由美『では、改めて。摩利のミラージ・バット優勝と一高の総合優勝を祝して、乾杯!』

 

『『乾杯!!』』

 

真由美の掛け声と共に一同は第一高校の総合優勝を祝った

 

 

 

エリカ『あ~あ、明日で九校戦も終わりか。』

 

なぜか、選手でもないエリカがこの場にいるのかは、おおよそ当たりはつく

 

大方、真由美あたりが呼んだのであろう

 

もちろんだが、美月もだ

 

そして、急遽選手として出場したレオと幹比古もこの場にいる

 

ほのか『そうだね。色々とあったけど、楽しかったね。』

 

雫『うん。特に守夢さんにはお世話になったね。』

 

特に女子の選手達は達也に多大に助けて貰っている

 

とは言っても、結果的には第一高校という括りになるため、全員が感謝しなければならない

 

英美『そういえば、その守夢君はどこに?』

 

雫『一条選手から受けた怪我が治ってないから、部屋にいると思う。…ここ数日の守夢さんは何か怖い。』

 

本来は達也もこの場に来ている筈なのだが、先日の新人戦モノリス・コードでの怪我が完治していないため居ない

 

当然といえば当然なのだが、怪我の具合に関しては普通とは異なる

 

達也の怪我は重傷で重体一歩手前の大怪我であるため、普通の人間ならば直様病院のベッド行きだ

 

ほのか『うん。最近、けど、なんか野生の獣?のようで近寄りづらいっていうのかな?モノリス・コードの日も前日の事もあってか少し話しかけづらかった。』

 

しかし、達也はそれを跳ね除け自力で治すという始末

 

この場合、誰が悪い云々ではないが今朝の達也を見ると本当に重傷の人間か?と疑いたくなるような普段どおりの行動に驚いてしまった

 

しかし、よく観察してみると負担の掛かりそうな重い荷物は荷車に載せたり、声も微かに小さかったのは確かだ

 

エリカ『…ふーん、獣ね。』

 

それよりも大きく変化していたのは、達也の雰囲気だろう

 

新人戦モノリス・コードの前夜から少し変化はしていたが、試合が終わってからむやみに近づけないのだ

 

試合中ならばピリピリしていても仕方がないと思えるのだが、その逆であり

 

試合が終わってから、触れれば切れる刃物のような、もしくはジャングルに住む野生の獣のような雰囲気が達也にはあり普段の穏やかな達也を疑ってしまうのだ

 

雫とほのかの言葉にエリカも少し気になってしまうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝から何も食べず問題無かった達也だったが、漸く体が栄養補給を求めてきたため夕食の席には顔を出した達也

 

真由美達に挨拶もそこそこでさっさと食事を済ませると部屋に戻った達也は一時間程仮眠を取り、シャワーを浴びると鞄の奥底に隠していた黒尽くめの服と装備を取り出し着替える

 

時刻は午後八時十分を過ぎたところ

 

午後の八時から祝勝会が始まっているため、このフロアには誰も居ない

 

念のため、全員の気配を探れば、問題なくある大きな部屋に集まっていた

 

部屋に来るなと伝えてはいたものの、相手は人間だ

間違えて来たり、余計なお節介を掛けてくる人種もいるため、用心に越したことはないとドアノブに就寝中と掛けて部屋を出る

 

 

達也『御足労いただきありがとうごさいます。それで、約束のものは?』

 

今日の午後、検査用テント前で達也は弟弟子である小野に依頼をしていた情報が手に入ったと連絡があった

 

達也はそれを受け取るために自分たちの宿泊施設ではなく、基地の士官が使用する地下駐車場に来ていた

 

小野『慌てないの。その前に、これはあくまで保険という認識で間違いないのよね?』

 

ある一台の助手席のドアを開け、乗り込むと前置きの言葉も無く、本題に入ろうとする達也を窘める小野

 

女性を待たせたことに対して一言文句でも言ってやろうかと考えるも、敢えてもう一つの確認すべき言葉を口にする

 

達也『ええ、保険ですよ。』

 

保険という言葉で間違いないが、意味合いは違う

 

小野『じゃあ、端末を出して。』

 

形式上ではあるものの、ある程度望む言葉が返ってきたため概ね満足ではある

 

達也『構成員の名簿もお願いしますね。』

 

小野『分かってる。』

 

まるで、あることが判っているかのような口ぶりで少し恐ろしく感じてしまった小野

 

しかし、頼まれた仕事はきっちりとこなすのが自分の心情だ

 

達也『では、報酬をお送りしますので。』

 

小野『…!こんなに?』

 

達也『足りませんか?』

 

小野『いいえ、十分よ。』

 

送られてきた情報を確認し終え、対価である報酬を提示すると驚く小野

 

驚くのは無理ないが、この金額は口止め料という意味合いも含まれている

 

達也『では、これで。』

 

長居は無用のため、助手席から出る達也

 

小野『…本当に保険?』

 

その際、光の加減で胸の辺りで存在を見せつけるかのような膨らみが二つ

 

見て見ぬ振りをしようと考えたが、思わず口から零れる

 

達也『はい、貴女の考えている保険の言葉通りですよ。』

 

背後で小野が小さく呟くのを無視せず敢えて答える

 

これにより、これ以上の詮索はするなと釘を刺したも同然だからだ

 

小野『…』

 

その言葉を言われてしまえば何も言えないため、達也を黙って見送るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響子『先程の妙齢の女性は誰かしら?もしかして、浮気?』

 

達也『ただの公安のオペレーターですよ。副業としてのね。本職は第一高校のカウンセラーですが。…浮気って、響子さん。』

 

小野の車が駐車場から出ていくのを確認すると、十m離れた別の車に乗り込む達也

 

乗り込むと浮気現場発見と謂わんばかりの響子に達也も苦笑を返すしかない

 

響子『冗談よ。達也君に限って、それは無いしね。…それにしても、彼女には報酬を出したのに私には無いのかしら?』

 

冗談にしては、これは精神的にダメージを受ける代物だ

 

達也『…仕事ですよ。』

 

これも仕事の内だが、他人に報酬を支払ったのに自分には無いことに若干の不満がある響子

 

響子『解ってるけど。それでもね?』

 

達也『分かりました、考えておきます。』

 

どうも、三人の涙を見てから三人のお願いには更に弱くなった気がしないまでもない

 

響子『ありがとう あっ、あの二人も含めてね?』

 

こんなに喜んでもらえるならそれも良いかなと考えてしまう達也

 

達也『ありがとうございます。』

 

そして、双子の加蓮と結那と四人でと言ってくれると家族としても嬉しい達也だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、響子に仕事を命じた人物も突然のお呼びでない人物の来訪に対応していた

 

風間『…今日はどのような御用件でこちらに?』

 

時刻は午後九時

この時間帯に訪れる人物といえば、それなりに重要な人物だ

 

烈『ふふっ、そう警戒することもなかろう?まだ、十師族嫌いは健在か?』

 

その人物とは、日本の魔法師界の頂点に立つ存在である九島 烈

 

また、世界でも指折りの実力者でもあり、現役時代は日本軍に所属し最終の階級は少将まで登りつめた男だ

 

しかし、それが良い彼自身にとっては良い事ではなく、様々な軋轢や苦い経験であったため以後、十師族は高官に上がってはならないというある意味では沈黙の掟が作られたのだった

 

風間『それは誤解だと…』

 

烈から何もしないから安心しろと言われても、そう簡単に受け入れられる訳がない

 

言ってみれば、軍と十師族は水と油だ

 

歩み寄るということは無い

 

だが、風間自身はB級ライセンスの魔法師で十師族の率いる魔法師のコミュニティのメンバーではある

 

分類は古式魔法であるため、現代魔法を主とする十師族とは相容れないのも事実である

 

烈『冗談だ。今日は彼に興味が、いや出来るならスカウトをと思ってな。』

 

茶化したつもりではあったが、意外にも真剣に答えられてしまい有耶無耶にする烈

 

そろそろ本題に入らなければ、この部屋に来た意味がない

 

風間『彼、とは?閣下の御眼鏡に叶う人物が我が軍におりましたかな?』

 

烈『惚けることもなかろうに。守夢 達也君だよ。いや、大黒 竜也君かな?』

 

素知らぬ顔で惚ける風間だが、烈は誤魔化されないようにはっきりと口にする

 

風間『…』

 

そこまで答えられているにも拘らず、眉一つ動かない

 

それは動揺を抑えるためなのか、将又、驚愕に支配されているのか

 

或いはその両方でも無いのか

 

烈『あれほどの逸材は百年に一度かそれ以上だろう。古式魔法に一条の魔法を受けても砕けないあの肉体。しかも、頭脳明晰というのは素晴らしい。更に言うならば、儂の魔法を一瞬で見破りそれを悟らせずに周囲の人間に知らせたその手腕。そして…七年前の…おっと、そこまで殺気立つこともなかろうに。』

 

そう、誰もが認めざるを得ない実力を持つ達也にこの人物が目をつけない訳がないと思ってはいた

 

風間『達也をどうするおつもりで?』

 

七年前と口にした瞬間、風間から烈に殺気が放たれる

 

烈には敬意を持っているものの、これだけは許せなかったのだ

 

努めて、言葉を選んではいるもののその表情は相手を射殺さんばかりである

 

烈『言ったであろう?九島に養子として貰えないかと言っておる。もしくは、四葉以外の家に養子をと考えておる。』

 

だが相手は歴戦の魔法師だ

 

そう易易と怯まない

 

風間『閣下は四葉の対抗手段として達也を宛がいたいと仰る訳ですか?』

 

やはりかと、風間は思った

 

あの家の情報網で十師族が達也を調べていると知ってからこの可能性は十二分にあった

 

そして、四葉に対抗するためという事も

 

烈『そこまでは言うておらん。しかし、現在でも四葉は十師族の中でも頭一つ抜けた存在だ。彼の力を四葉が欲するやもしれん。その前に手を打っておきたいのは事実だ。そして、一条や十文字、七草といったこれからの日本を守る素晴らしい魔法師になってほしいのだ。』

 

四葉家は病弱とはいえ、双子の姉は健在で妹は世界最強の魔法師の一人だ

 

そして、今年の第一高校に入学している司波 深雪という人物

 

一条 将輝でさえ、彼女には勝てないだろう

 

そんな四葉家が達也を取り込めば、十師族が束になったかかっても太刀打ちは出来ないだろう

 

その前に手を打っておきたい、欲を言えばこの日本の魔法師界を支える一柱になってもらいたい

 

風間『…閣下の仰ることは良く理解しているつもりです。そして、そのお気持ちも。しかし。』

 

烈の悲痛にも似た思いを受け止めた風間だが、表情は変わらない

 

烈『しかし、なんだね?』

 

風間『…』

 

ここではっきりと言わなければ、この人物はまた来るだろうということは判っていた

 

口を開こうとした瞬間ーー

 

凛『そこまでですよ?ご老人。』

 

風間の背後の扉から出てくる二人の人間

 

烈『…何者かね?』

 

気配も悟らせず、声を聴くまでその存在を認識出来なかったのは現役の頃からでも数える程だ

 

しかも、それが立て続けに二回もあると少しショックがある

 

浩也『凛、もう少し堪えて欲しかったのだが?』

 

風間『確かに。というよりも、二人に出てもらうまでもなかった気がするが。』

 

烈の存在を無視するかのように三人の中で完結しているのは、おそらくそういうことなのだろう

 

浩也『いや、俺の勘ではここら辺りで釘を差しておく方が後々良い気がしてな。お邪魔して申し訳ない、九島烈さん。私達は守夢達也の両親です。今の会話を聴かせていただきました。』

 

悪友である風間が渋い表情をしているのは、まだ自分達が出てくる場面でも無いと言いたかったのだろう

 

だが、烈が欲しているのが達也の本人となってくるとここでその望みをへし折っておくのもありかと考えたからだ

 

家族としても最適な場面だろう

 

凛『単刀直入に言いますわ。達也をあなた方十師族、引いては魔法師に達也を渡しませんわ。』

 

浩也『…バッサリというかなんというか。…あぁ、失礼。もう私のことはご存知ですかな?』

 

喧嘩腰で一方的に話を終わらせる妻に自分と風間は苦笑を浮かべる

 

感情論で断ることも大切だが、この老人には別の方向で攻撃した方が効果は大きい

 

烈『…君は、あの場では森城と名乗っていなかったかね?…そういえば、あの方が仰っていたな。ある一族を敵にまわせば、全世界が敵になると。』

 

自分を前にして萎縮せずに堂々とした立ち振る舞いに烈は僅かながら緊張と動揺を隠せない

 

このような事は数少ない人物にしか抱いた憶えがない

 

その数少ない人物を思い起こすとその人物から珍しい言葉を聞かされたのを思い出す

それはその人物らしからぬ相手の名を口に出さなかったからだ

その人物の傲慢な振る舞いはその実績と権力があったからで、本気になれば敵などいないだろうと思っていた

 

そんな人物から畏れや警戒といった類の言葉を聞いた時は暫く呆然としてしまったのは記憶に新しい

 

浩也『なんだ、あの男を知っていたのですか。それならば話は早い。それで?』

 

烈『今回ばかりは分が悪いの。』

 

自分ですら敬意を払う人物を「あの男」と呼ぶとなると、やはりこの二人はある一族と見て間違いないだろう

 

調べたいところではあるが、おそらくそれはあの方が明言を避けた時点で、するなか出来ないかのどちらかになる

 

風間『この場限りではありませんよ。達也に関しては、例え世界が相手でも我々は容赦しない。』

 

まだ諦めていない口ぶりに風間も苦言を呈する

 

本来、風間の立場から九島烈に喧嘩を売るようなことは言えない

 

しかし、達也に関しては例外だ

 

烈『だが、彼自身が求めれば私は快く受け入れるつもりだ。そのことを憶えていてもらいたい。』

 

風間の言葉に不快感を感じた様子も無く、淡々としている

 

浩也『面白いことを仰る御仁だ。これは達也の意思です。達也は十師族や魔法師が嫌いですからね。勝手に接触しても良いですが、何をされても責任は負いませんよ?ご自分で蒔いた種はきっちりご自分で摘んでくださいね。』

 

烈『…』

 

烈のその姿勢に予測していたのだろう、浩也は誂いの表情で烈に視線を投げる

 

その裏には、絶対の自信と憐れみが含まれていたことは妻である凛と風間しか読み取ることは出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩也『うーん、これはまたどこかで達也に接触するかもな。』

 

烈が退出した後、ポツリと溢す

 

風間『だな。あの時のことも知っているようだしな。しかし、もう一人は知らなかったようだな。』

 

風間から見てもあの目はまだ諦めていない様子だった

 

七年前の事は、おそらく達也が九校戦に出場したことで少し気になって調べて当たりをつけたところだろうが、あの時どのような事情が隠されていたかまでは調べられない

 

まさか、もう一人いるとは誰も思うまい

 

浩也『当たり前といえば、当たり前だけどな。アレは世の理を覆しかねん。面倒な人間達に好かれるな達也は。』

 

達也の心情とは裏腹に厄介事に巻き込まれることに同情するしかなかった

 

凛『けれど、これで一つ判りましたね。九島家ではなく、九島烈が達也に興味を持っていることに。けれど、養子に迎えたいという時点で九島家も興味は示しているということになるのかしら?』

 

今日、九島 烈がこちらに接触してきたことは良かったというべきだろう

 

やはり、四葉の力は強大で烈がそれに苦心しているということは周囲もその気持ちは少なからずあるということだ

 

浩也『そうだな。しかし、まだ断定出来たわけではない。あとは、他の九つの家がどう動くかだ。(達也、この事を知ったら怒るだろうなぁ。二人には内緒にしてもらおうか。)』

 

今後は、少し十師族に気を配っておいた方が得策だろう

 

これで一つ、達也の重荷を降ろすことが出来るかと考えるもその達也が今晩の事件?を知れば、必ず怒るに違いない

 

それでは意味がないため、凛と風間と二人に秘密にしてくれるよう頼むのだった

 

 

 

 


 

 

 

横浜の中華街の一角の高級ホテルの最上階で複数の中年の男達が慌ただしく動き回っていた

 

『くそっ!まさか、日本軍の特殊部隊がしゃしゃり出てくるとは。』

 

一人の小太りの男が如何にも高級ですという指輪をいくつも嵌めた指でスーツケースに荷物を仕舞い込みながら呟く

 

『これで、計画の全てが台無しだ。組織の制裁もある、我々がこんな夜逃げの真似事をしなければならないとは。』

 

それに端を発し、別の細身の男が愚痴を溢す

 

『それもそうだが。あのガキ、守夢 達也とか言うらしいが。あのガキの始末はどうする?ごく普通の家庭らしい。両親があのエリシオン社に勤めているだけだ。』

 

『しかし、普通の家庭のガキがそこまでの力を有しているとは考えにくい。』

 

その原因を作った達也本人の名前が挙がる

 

プロ顔負けのエンジニアとしての腕に一条 将輝を戦闘不能にする

 

更には、不正工作を見抜く人物が普通の家庭にいる訳がない

 

 

しかし、そんな実にならない会話をしている間にも外側でじわりじわりと自分達の首が締まっていくのを男達は知る由も無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後十時三十分を五分程過ぎた頃

 

横浜ベイヒルズタワーの屋上に達也と響子は居た

 

ここ横浜ベイヒルズタワーは表向きは民間施設という建前だが、実際は東京湾を出入りする船舶を監視する為に国防海軍と水上警察が民間会社と偽装したオフィスを構えている

 

また、魔法協会の支部(本部は京都)があるため警備は相当厳しい、のだがそれを難無く突破してみせた響子は電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)という二つ名に相応しかった

 

響子『準備は出来たわよ。どうするの?』

 

真田の方での措置も終えているらしく、達也に声を掛ける

 

達也『そうですね。まず、守りを消してそこからじっくりと聞き出していきます。ジェネレーターが四人に幹部構成員が、二…三……五人。情報通りか。…やるか。』

 

小野の情報通り無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の東日本支部の幹部構成員がホテルの最上階で慌てた様子で動いているのが確認出来た

 

理由は不明ではあるが、その姿は夜逃げそのものだった

 

だが、そんなこと達也にはどうでもよいことだ

 

目下の行動指針は早く帰って寝る、これだけだ

 

達也は左胸のホルスターに収まっているダークシルバーの拳銃型CADを抜き、照準を合わせることなく引き金を引いた

 

 

 

 

 

『?…何だ…!?』

 

異変に気が付いたのは偶然だった

 

守夢 達也という人物の不気味さに幹部全員が深い思考に入ってしまったことで荷物を纏める手が止まり、その静かな空気の中でくぐもった声が部屋に響く

 

その原因を探ると一人のジェネレーターが苦しげに蹲る姿が目に入る

 

次いで、苦しむジェネレーターが一瞬にして消え去る

 

『何があったというのだ?…!?、壁が!』

 

一連の状況を説明出来るものはいないが、この場にいる者全ての人間は魔法師だ

 

摩訶不思議な出来事に戦々恐々としている訳ではない

 

状況を整理するために周囲を見回せば、壁に直径約2m程の大穴が空いていた

 

これほど大きな穴を穿てば、誰かが気付く筈

 

なのに、誰も気付けなかったとなると、相手は相当手練れの魔法師に違いない

 

幹部全員の額に冷や汗が流れる

 

すると、壁に設置してある電話が鳴る

 

『…』

 

突然の電話に緊張が走り、誰もが応答を躊躇する

 

だが、応答しなかったからといって電話が切れることはない

 

ダークスーツを身に纏った中肉中背の如何にもといった強面の一人の幹部がタッチ式の受話器を上げる

 

『Hello、無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の東日本支部の諸君。』

 

すると、愉快そうな若い男の声が部屋中に響く

 

『…何者だ?』

 

威嚇するように問いかけるが、僅かに声音は震えている

 

当然だろう、ここの部屋に通じる通話回線は幹部用だ

 

下部構成員は使用出来ない、その秘匿回線とも言えるこれに繋いできているということはそういうことなのだ

 

達也『富士では世話になったな。ついてはその返礼に来た。』

 

言い終わると同時にもう一人のジェネレーターが消え去る

 

響子『…トライデント。(あの時、まだいなかったからデータでしか見てなかったけど。これほどの力を有しているのよね。更には…。)…本当に深い業ね。(ボソッ)』

 

ダークシルバー・ホーン・カスタム 【トライデント】

 

軍事機密指定にされている達也の魔法の一つである【分解】

 

その分解の術式はコンクリート壁を原料であるセメント・水・骨材等、更に水に関しては水素と酸素に、骨材である小石等は1mm以下の微粒子にまで変貌する

 

そして、魔法の干渉を妨害する概念まで分解し、また一人のジェネレーターが焼失するかのように消失した

 

そこには三つの工程が組み込まれており、

 

一つ目は標的(この場合はジェレーター自身)を守る領域干渉を分解

二つ目は標的の肉体を守る情報強化の分解

三つ目は標的の肉体を分解

 

この工程を独立魔装大隊では【トライデント】と認識している

実を言えばこの言葉は魔法大全では違う意味で載せられており、達也の行うこの【トライデント】は非公式なのだ

 

全てを目に見えない分子レベル、イオンレベルにまで

 

達也の談では原子レベルにまで出来るそうだが、信憑性も薄く、すぐに分子に結合してしまうためあまり効果は無いのではないかと考える

 

『(馬鹿な。この場所が数日も経たずにバレたというのか!)十四号、何処だ。何処から狙って来ている!』

 

これほどの協力な魔法ならば、近距離に魔法師がいるはずだ

 

そう確信して十四号と呼ばれているジェネレーターに居場所を特定させるよう指示する

 

十四号と呼ばれたジェネレーターは緩慢な動きで大穴の空いた方を向き、その先に見える一番高い建物であるベイヒルズタワーを指差した

 

指差された場所にスコープで魔法師を探す

 

あんな遠い場所にいるのかとありえないと感じつつもジェレーターの感知は正確だと言い聞かせ、照準を合わせる

 

『!?…?ぎゃっ!』

 

偶々なのか、スコープの直線上と建物の少し開けた場所にバイカーズ・シェードで人相を隠した一人の青年に近い少年を確認する

 

スコープ越しに見ていることに気付いてるのであろう、口元は嘲笑うかのようにつり上がっていた

 

何かが光ったと思った瞬間、右目にとてつもない痛みが襲った

 

スコープが砕け、その破片が覗いていた右目に突き刺さったのだ

 

痛みに呻く小柄で小太りの男は悲鳴を挙げる

 

『十四号、十六号やれ!』

 

遠距離からの正確無比な狙撃に恐怖を憶えると自分達の盾とも言えるジェネレーターに敵の排除を命じる

 

しかしーー

 

『ムリデス。』

 

『トドキマセン。』

 

機械が喋るかのような口調で答える

 

そもそも、感情の無い人形のようなものは出来ることと出来ないことは明確になっているため頑張って死にものぐるいでなどという行動は不可能だ

 

それは始めからわかりきっている筈がその思考は恐怖によって出来ないのだ

 

『口答えするな、やるんだ!』

 

その回答に癇癪を起こした幹部

 

達也『やらせると思うか?』

 

その命令に応えたのは電話越しからの声だった

 

『『!?』』

 

自分達を守る残りのジェネレーターが一瞬にして消え失せる

 

達也『道具に命令するのではなく、自分でやったらどうだ?』

 

そう、まだこの場には五人の魔法師がいるため反撃の方法は探せばあるだろう

 

もっとも、それをやろうとする気があればの話だが

 

一人が携帯の端末を出し、外部に応援を頼もうと試みるもーー

 

達也『無駄だ。その場から通話出来るのは俺だけだ。』

 

携帯端末から聞こえてくる声は有線の電話の声と同じ

 

『ひっ!』

 

『馬鹿な一体どうy』

 

果敢にも通話の声に反抗する一人の男は言い終えない内に跡形もなく消え失せ、片目を失った男も次の瞬間には消え去った

 

達也『電波を収束した。どうやってかはお前たちが知ったところでどうにもならないがな。逃げようにもそこの警備システムは銃火器では壊せない。唯一はそこの壁の穴から飛び降りることだが、その高さでは生きてはいまい。…まあ、俺も逃がす気は無いがな。』

 

達也の言葉に男達は理解は出来ていた

 

しかし、それは希望からくるものではなく、絶望を意味していた

 

達也の言う通り扉は解錠不可能に近い

 

元々、この部屋はVIP仕様であるため銃火器等でもびくともしないように造られているため逃げ場は達也の空けた穴から飛び降りるのみだが、それは死と同義

 

達也『では、本番だ。』

 

『ま、待ってくれ。』

 

残された道は許しを得ることだけだった

 

一人の男がプライドをかなぐり捨てて叫ぶ

 

達也『何を待てというんだ?』

 

助かるためにはこの悪魔の甘言にも似た声に取り入るしかない

 

『我々はもう九校戦に手出しはしない。』

 

達也『九校戦は明日で終わりだ。』

 

命だけでも拾わなければと、醜い思考が読み取れる

 

『そ、それだけではない。明朝にはこの国を出ていく。そして、もう二度とこの国に戻って来ない!』

 

達也『仮にお前たちがそうしても、別の人間が来るのではないか?』

 

悪人の常套句とも言える言葉に呆れるしかない

 

『いや、我々無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)は日本から手を引く。西日本総支部もだ。』

 

達也『お前にそれだけの権限があるのか?ダグラス=(ウォン)?』

 

言葉だけなら何とでも言える

 

有言不実行ではなく、有言実行が出来なければ意味はない

 

黄『!?私は、ボスの側近だ。ボスも私の意見は無視出来ない!』

 

自分の名前を知られていたことに恐怖が体を支配する

 

だが、言い澱んでいると消されかねない

 

(ウォン)は必死に叫び続ける

 

達也『お前にそれほどの影響力があると?』

 

証拠を示せと達也は問う

 

『私はボスの命を救ったことがある。命の…』

 

達也『命の借り、救われた数だけ望みを叶えることで返す掟。だったか?』

 

(ウォン)の発言に重ねるように達也は同じ言葉を口にする

 

黄『…ど、どうしてそれを。』

 

何故、その掟を知られているのか

 

達也『その借りは自分の命の為に必要なんじゃないのか?』

 

助かるためにはその借りで命乞いをするほか無い

 

自分だけその借りで生き残るのは裏切りでしかない

 

残った二人が憎悪と殺意で黄を睨む

 

黄『違う。そんなことをしなくてもボスは私を見捨てたりしない!』

 

達也『…無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の由来は自分達で名付けたものではなく。お前達のリーダーが部下の前に姿を現さないことから敵対組織によって名付けられたもの。リーダー自身で制裁、粛清する時も意識を奪って自分の部屋に連れて来させる徹底ぶりだと聞く。』

 

黄『そ、そこまで…。』

 

どれほどまで自分達の事が知られているのか

 

最早、この声の主に従っても助からないのではないか?そんな思考が脳裏を掠める

 

そうなると、いつ自分達は龍の尾を踏んだのか

 

達也『お前にその影響力があるのならば当然、ボスの顔を見ているはずだな?』

 

だが、それを探る余裕はない

 

黄『私は拝謁を許されている。』

 

この男の気まぐれに賭けるしかないのだ

 

達也『ボスの名は何という?』

 

ーーーが、この問いには押し黙るしか無かった

 

それは組織の中で最高機密

 

この長年にわたり刷り込まれてきた恐怖が回答を拒否した

 

その時間はごく僅かな時間であり、躊躇ったにも見受けられるが達也はそれを是としなかった

 

黄『!?ジェームズ!』

 

有無を言わさぬ、人として、動物としての死を許さない

 

消滅だけの終焉(終わり)

 

達也『ほう、今のがジェームズ=(チュー)だったのか。手配中の国際警察には悪いことをしたかな?』

 

黄『…て。』

 

達也『さて。次はお前にしようか、ダグラス=(ウォン)?』

 

黄『待ってくれ!』

 

達也『それは聴き飽きたぞ?』

 

その言葉に一体どれほどの価値があるというのか

 

黄『…ボスの名はリチャード=(スン)だ。』

 

膝をつき、ポツリと呟いた

 

達也『表の名は?』

 

黄『孫 公明だ…。』

 

達也『住まいは?』

 

聞かれるがままに洗い浚い全てを話していった(ウォン)

 

 

黄『これが私の知っている全てだ。』

 

達也『こちらも先程で訊きたい事は終わったようだ。』

 

あらかじめ小野からボスと思しき数名分のリストを貰っていた、そしてその中に該当する人物があった

 

あとは、詳しい情報を自白させるだけだった

 

黄『では、信じてもらえるのか?』

 

達也『あぁ、お前はリチャード=(スン)の側近のようだ。』

 

この言葉は(ウォン)にとって絶望の中で天から降りてきた細い細い蜘蛛の糸ように感じた

 

 

最後の仲間が消え失せるまではーーー

 

 

黄『グレゴリー!』

 

それは慟哭にもにた叫び

 

黄『な、何故だ!?我々は命までは奪わなかった。我々は誰も殺さなかったではないか!』

 

それは自分達だけが殺されるという理不尽

 

それは恩着せがましくも面の皮だけが厚い愚かな思考

 

達也『…勘違いするなよ。』

 

それは結果論に過ぎなかった

 

偶然にも達也が近くにいたから防いだ、偶然にも達也の意思とは無関係に体が動いたから防いだだけのこと

 

大量虐殺の場面にも響子や真田、柳が現場に居たおかげで阻止出来ただけのこと

 

黄『なに?』

 

達也『お前達が何人殺そうが何人生かそうが関係ない。』

 

いい加減この茶番にも飽きている

 

達也『お前達は入ってはならない領域に足を踏み込んだ、触れてはならないものに手を出した。ただ、それだけがお前達が消える理由だ』

 

更に言えば、組織の情報を漏らした今、この男もただでは済まない

 

組織を裏切ったのだから、組織と仲間に殺されても文句は言えない

 

もっとも、その組織と仲間が存在していればの話だが

 

黄『あ、悪魔め!』

 

達也『その【悪魔の力】を使わせたのはお前達だ。逆に感謝しよう。最近、鬱憤が溜まっていたからな。良いはけ口になった。…いや、元々の要因を作った内の半分はお前達だから、当然の結果だな。』

 

この九校戦は達也にとっては散々な日々だったが、来年の為の良い掃除も出来た

 

そういう意味では意義があったのだろう

 

黄『【悪魔の力】だと?…ま、まさか。この魔法、Demon・R(デーモン・r)…』

 

漸く気付いても遅し、言い終える前にダグラス=(ウォン)は存在不証明という形でこの世界から消え失せたのだった

 

 

 

 

 

達也『…響子さん、すみません。あまり気持ちの良くないものを見せてしまいましたね。』

 

ダークシルバー・ホーンをホルスターに収め、響子に謝る

 

自分の魔法は他人に見せて良いものではない

それは最高機密という側面もあるが、見た人間は大抵体調不良を訴える

理由は明白だろう、人間が物が跡形もなく消滅してしまうのだから

 

だから、響子含め、結那や加蓮、恭也はもちろんのこと家族にも見て欲しくないというのが達也の本音だ

 

まあ、好きな人にこんな醜い魔法を見られてたくないのもあるだろうが

 

響子『ううん、そんなことないわ。達也君のおかげで今の私達があると言っても過言ではないから。…それに将来、妻になるんだから夫の活躍は目に焼き付けておきたいじゃない(ボソッ)』

 

そんな達也の悩みも杞憂であり

 

これは達也の一部に過ぎず、この力を含めて達也を好きなのだ

 

達也『?何か言いましたか?』

 

ボソボソと顔を赤らめる響子

 

響子『何でもないわ。さあ、帰りましょう。不規則な生活は体に悪いから。』

 

顔を覗き込まれて慌てる響子

 

こんなニヤついた表情を見られる訳には行かない

 

首を横に振って達也に何でも無いと誤魔化す

 

達也『響子さん、疲れているのでしたら運転しますよ?免許証は持ってきているので。』

 

達也の年齢は十六歳

 

だが、軍では戸籍が別に作られているため免許証も存在している

 

知識も頭に入っているし運転技術に関しても浩也、風間達からお墨付きも貰っているため問題はない

 

響子『大丈夫よ。』

 

達也『そうですか?無理はいけませんよ?』

 

少し顔が赤かったが、すぐに元に戻ったから体調不良ではないのだろう

 

念には念を押しておく

 

響子『…なら、少しだけここから夜景を見て帰らない?』

 

その言葉に響子は暫し考え込むと

 

ポツリと達也にお願いをしてみる

 

達也『ロマンチストですね。』

 

確かに、こんな場所に何度も訪れることはない

 

仕事も一段落したのだ

 

少しくらい帰りが遅くなっても問題はないだろう

 

海と港、それを彩るオレンジ色の光に船を見守る灯台達、町を飾る様々な光をこんな高さから眺めることが出来るのは滅多に無い

 

響子の嬉しそうな表情に、少しだけサボるのも有りかと考える達也だった

 

 

 

 

 




如何でしたか?

高校生で精神が完成されている訳はないと思うんですよね。
年齢的に大人と言われている二十歳でもそんなことは難しいと思います。
何歳になっても成長・修行ではないかなと思いますね。
でも、小学三年生位までの子達には思考は勝てないなと私的には感じますね。
よく見てますから。

①摩利さんには苦戦してもらいました?…最後は圧勝でしたが。
②愛梨さん、達也君の事認めて、意識までしてます。
③真由美さんガチ告白!
④摩利さん、何か考えてそうですね。
⑤九島烈さんとうとう尻尾を出しましたね。オリキャラによる釘も刺しましたが。
⑥達也君、響子さんとドライブデート!?

皆さん、免疫力高めていきましょう。

私的にはインフルの方が死亡率も感染力も高いと思います。
理由は色々ありますが、お亡くなりのとある◯◯◯◯の方の本とか自称日本一◯◯に嫌われている◯◯の方ですが。

※◯はあまり名前を出したくないので。

不快に感じられた方はすみません。


次回もご愛読よろしくお願いします。
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