抹殺された神の愛し子   作:貴神

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寝苦しくなってきましたね。

昨日、少しだけエアコンつけました。
涼しかった。

今回は原作の番外編も混ぜ込んだ横浜騒乱編にしてみました。

それでは、楽しんでいただければと思います。


27話

達也『ただいま。義父さん、義母さん。』

 

浩也『おかえり、達也。』

 

凛『あの子達は?一緒に九重寺に行っていたのでしょう?』

 

今日は8月14日

 

昨日九校戦の全日程が終了し、懇親会では一悶着があったものの復路では問題もなく帰ってこれた

 

達也含む一高一向が第一高校に帰ってきたのは正午間際

 

時間も時間なためいくつかのグループは昼食をとってから帰ろうかという算段を立てている

 

そのグループの中にはほのかや雫、深雪といった一年生のグループも出来ていた

 

その輪の中に入ろうとする男子生徒もいたが、ほのかと雫が達也を誘った為に別にグループを作って早々に離れていった

 

参加するつもりもなかった達也は断りを入れ帰宅の途につく

 

少し待てばいいものをと思いつつも、自身もそこまで御膳立てしてやるつもりもないためお互い様だ

 

断る理由はいくつかあるが、大きな理由の一つとしては修行だ

この九校戦に参加していなければ八雲の下で修行をしていた

 

また、この十二日の間あまり体を動かしていないため体が鈍っているのは明白

 

それを一刻も早く解消したいのだ

 

そんな訳で前置きが長くなってしまったが、帰宅早々に勉強に行き詰まっていた恭也と結那、加蓮を連れて九重寺を訪れていた

 

達也『夕暮れと言えど夏ですからね、暑かったので先にシャワーを浴びてます。』

 

達也も汗と砂埃にまみれているため流したい

 

浩也『そうか。ところで明日の予定は何かあるのかい?』

 

達也『いえ、特に何も。』

 

浩也『そうか。なら、今年はうちの家族の誰も行ってないから少し遅いけれど、兄さんと未来さん、あやめちゃんに会いに行かないか?』

 

達也『…そうですね。』

 

日本の盆というのは13日に迎え火をして15日に送り火をして返す習慣があり、この数日は特に先祖を敬い共に過ごす日だ

 

達也は数年の間、8月に入ると修行やCADの開発という名目で家に戻らなかった

 

今年は様々なイレギュラーが重なり家にいる達也

 

逃げることも時には必要だが、だからといって逃げ続けても向き合わなければならない時は必ず来る

 

 

逃げてもいい

 

その逃げは向き合うための準備期間なのだから

 

そういう意味では結果的に達也は向き合えるだけの勁さを手に入れたのかもしれない

 

 

8月15日

 

今日が共に過ごせるお盆最後の日だ

 

この時代は墓という概念は薄れつつある

 

理由は様々あるだろうが、一番は先祖を敬うことをしなくなったことだろうか

 

魔法は本人による資質も大きく、一般の人々もその恩恵を受ける

 

そうすると、人々の生活を豊かにしてくれた過去の偉業も現代の魔法の前には及ばないためそれらを忘れ去っていく

 

結果として過去という名の歴史や人を忘れていくのだ

 

そんな時代の中でもこの家は先祖を敬い、大切にしている

 

また国家機密は墓一つにして最高レベル

 

場所は一見どこにでもありそうな寺なのだが、裏では歴史ある名家でなければ入れない場所がある

 

そこに墓は存在する

 

木を隠すなら森の中

 

墓を隠すなら多く墓に紛れる

 

 

浩也『もう七年も前になるのか。』

 

凛『そうね。』

 

寺の人間や神夢の人間が定期的に清掃をしてくれているが、この時期は雑草等が生えるのが早い

 

それらを取り除き、雑巾等で拭く

 

花を供え線香を炊き、読経する

 

深く追求すればもっと正しい作法があるのだろうが、大まかにはこのような流れだ

 

達也『遅いと怒られている気がしますね。』

 

言葉とは裏腹に達也の表情は少しだけ柔らかくなっていた

 

 

 

浩也『達也、一つやってもらいたいことがある。詳細は追って知らせる。』

 

達也『わかりました。』

 

凛と子供が先に歩いていく

 

一定の距離が開くと浩也は達也に声を掛ける

 

声音に僅かな暗い感情を感じ取り、達也も素直に頷いた

 

 


 

夏休みも残すところあと数日

 

達也は雫の家が所有するプライベートビーチを訪れていた

 

何でも雫の家族は夏休みに離れ小島にある別荘に行くらしいのだが、今年は雫が九校戦の選手になったため日程を変更していたらしい

 

そして、訪れるなら大人数の方が良いという雫の父親の言により達也にも声が掛かったという訳である

 

深雪『あら、奇遇ね。それとも私のストーカーか何かかしら?』

 

もっとも、毛嫌いされている深雪(+水波)も来ていたのは予想外ではあったが

 

達也『いえ、貴女に興味はありませんので悪しからず。』

 

深雪『…』

 

ストーカーと罵る彼女に嫌いなら無視して欲しいと思ってしまう達也だった

 

 

 

島を少し探検していた達也

 

帰ってきたところにほのか達が駆け寄ってくる

 

ほのか『達也さん。一緒に泳ぎませんか?』

 

雫『うん、私も達也さんと泳ぎたい。』

 

達也『ここまで連れて来てもらったからな、構わないよ。』

 

心なしかあの懇親会の後からほのか達が更に積極的なってきているのは気のせいではない

 

エリカ『へぇ、やっぱり相当鍛えているのね。けど、あの膂力は一体どこから来ているのかしらね。』

 

達也『あぁ、そんな大した修行はしてはいない。(やはり体中の傷は隠しておいて正解だったな。見せる気もなかったが、見られたくもない。恭也に咒を施してもらっていて良かった。)』

 

ウェアを脱ぐとより近くなるほのか達

 

鼻息が荒くなっているのは気のせいではない

 

 

 

 

 

日も暮れ、雫の家のメイドが用意した夕食をとったあと昼間泳いでいた浜辺で達也は魔女裁判紛いを掛けられていた

 

ほのか『あの達也さん。あの懇親会のことなんですけど、あれは嘘ですよね?』

 

雫『私もそれの真偽を聴きたい。』

 

達也『捉え方はそれぞれだ。判断は任せる。』

 

実はこの島にはレオや幹比古はおらず達也だけが呼ばれていた

 

男が達也だけというのはこのためだったのだろう

 

美月『もしあれが本当なら達也さんと妹さん達は血が繋がっていないということになりますね。つまり、達也さんか彼女達の誰かが養子ということになるんでしょうけど。』

 

エリカ『おそらく達也君が養子ね。双子や弟は面影が似ているけど貴方は違う。』

 

美月はあの場には裏方で居なかったのにこの事情を知っているということはエリカか誰かから聞いたということだろう

 

おそらく彼女達は秘密を暴きたいのだ

 

守夢 達也という人間をもっと知りたいがために

 

美月は達也と家族のオーラが違うことに興味を抑えられなかったためこの場に来ているにちがいない

 

イギリスから来た諺を使えば、「好奇心は猫を殺す」とはよく言ったものだ

 

日本の諺に変えれば「藪をつついて蛇を出す」だろうか?

 

その安易な行動が自分達の首を絞めることにも気づかずに

 

達也『そうなると、俺は彼女達と結婚出来るということになるが?』

 

エリカ『誰もそんなことは言ってないわ。』

 

雫『ねぇ、どんな意図があってあんな芝居を打ったの?』

 

美月は好奇心、エリカは怒りや諦め等様々な感情が入り混じった表情

 

そしてほのかと雫に関して言えば、悔しいという表情が滲み出ている

 

達也『言う必要性を感じないな。そもそも、俺と義父が何かの策を講じた処でほのかや雫達にどんな不都合が生じるんだ?』

 

そう、すでに達也はほのかと雫には答えを示しているのだ

 

言ってしまえば、すでに外野の立ち位置に等しい

 

それはエリカや美月にも言えることだが

 

ほのか『…雫。』

 

雫『…解ってる。』

 

ほのかと雫は互いに頷く

 

達也『つまりは…。』

 

雫『…不都合は起こらないけど、気分は悪くなるよ。』

 

達也の言葉を遮る雫

 

達也『何が言いたい?』

 

雫『それは達也さんで考えることだよ。それに私達は諦めた訳じゃないから。』

 

言いたいことだけ告げてほのか達四人は建物の中に消えていった

 

その後ろ姿を一瞥するもその瞳には無機質が写っていた

 

彼女達は諦めていなくてもこちらは相手にすらしていなければ無駄なんだがなと達也は嘆息するのだった

 

 

 

 

一泊二日の小旅行であったものの貴重な島の自然を堪能でき、満足気な達也

 

達也『今回は私のような者までお誘いいただいてありがとうございました。北山さん。』

 

昨日は早朝でもあり、軽い挨拶程度であったため雫の父親である北山 潮(財界では北方 潮と名乗っているらしい)にお礼を言う

 

潮『いやいや、こちらこそ急な誘いにも関わらず雫やほのかちゃんの為に来てくれて感謝するよ。それに森城さんのご子息ならいつでも歓迎するよ。何せ、あの人は中々表には出て来てくれないからね。』

 

達也『それに関しては直接言っていただく必要があるかと。』

 

潮『無理難題を言ってくれるね。表に出て来てくれないから君に頼んでいるんだよ。まあ、家の娘かほのかちゃん、両方でも構わないが貰ってくれればそれは万事解決なんだがね。』

 

どうやら、潮は達也をとても気に入っているようだ

 

技術屋としての腕もあるのだろうが、半分は浩也の表の顔と繋がりが欲しいからなのだろう

 

そして、あわよくば自分の娘である雫やほのかのどちらかと縁を結べば娘達と自分の望みが一石二鳥で手に入る

 

捕らぬ狸の皮算用とは良く言ったものだ

 

達也『それは叶わない望みですね。結婚をするつもりはありませんので。』

 

潮『どうしてだい?血の繋がりがあるのなら結婚は出来ない。それは変えられない事実だ。』

 

流石は魑魅魍魎とまではいかないまでも欲にまみれた財界で一財産を築いただけはある

 

一般人にはない雰囲気がこの潮にはあった

 

しかし、九校戦の懇親会での出来事により焦れているのか

 

声音も些か険しさを帯びている

 

達也『えぇ。しかし、いつ私が伴侶を望みましたか?残念ながらこの身はあの家を護る為に捧げると誓ったので。髪の毛一本たりとも赤の他人に渡すつもりはありませんので。』

 

潮『…本気なのかい?そんな人生は悲しいだけだ。』

 

達也『なんとでも。己で選んだ道です。それに家族を誹謗中傷するのは家族が許しても私が許しませんので。』

 

何の鍛練も行っていない一般人であるならば、怯んでしまうだろう気迫

 

だが、その程度の気迫で達也が屈服するなど大間違いだ

 

家柄や容姿、達也を恋い慕うことでもない

 

生憎、今の家に勝る家等存在しないし容姿も桁違いだ

そして、互いに想い合っている

 

だから、少しでも言質を得ようとしても無駄なのだ

 

 

 

 

なぜなら、これはすでに終わっている出来事(勝負)なのだから

 

 

 

 


 

 

夏休みも最終日の今日

 

研究の資料が欲しく駅前の書店で書籍を購入した達也

長年続く書店は普通なら入手困難な本も入手可能な太いパイプを持ってあるため達也にとって貴重だ

また紙でなければ手に入らない資料もあり、息抜きがてらに足を向けることもしばしばだ

 

目当てのものは無かったが、替わりにとても古いが日本の歴史に関して書かれた貴重な本が手に入ったため気分は上々だ

その気分もあってかカフェのオープンテラスが一つ空いていたためそこで少しだけ読んでみたいという欲が出てしまい、定番のエスプレッソで読書を洒落こむ達也

 

だが残念なことにそんな幸せな時間は三十分も続かなかった

 

真由美『あら、達也君じゃない。こんなところで一人どうしたの?』

 

達也『息抜きですよ。』

 

真由美『そう。なら、私も相席させてもらっても構わないかしら?』

 

珍しく真由美の隣には誰もいない

 

いつも摩利と共に居ることが多いため、少し意外だった

 

しかし、こんな場所で真由美と遭遇するとは天に見離されたか悪魔にでも憑かれているのか

 

達也『それは構いませんが、何か危険が差し迫っても助けたりはしませんので。』

 

しかし、逃げ道だけはなんとかして確保するあたり流石というべきか

 

真由美『少しくらいいいじゃない。』

 

達也『ボディーガードがいるでしょう。それともガーディアンという存在になるんですかね?』

 

真由美『どうしてその呼び名を知っているのかしら?』

 

達也の席は少し小さめのテーブル一つにチェアがテーブルを挟む形で二つ

 

真由美は達也と向かい合って座れたのが嬉しいのか表情は柔らかい

 

が、達也の次の言葉でその愛らしい表情は緊張感を孕む

 

達也『こちらの周りをうろちょろとされていれば嫌でも気づきますよ。数字落ち(エクストラ)の名倉という人間でしたか?他にも多数。』

 

真由美『…いつから気づいていたの?』

 

達也『最初からですよ。真由美さんの家の者が調べていることはすぐに判りましたから。』

 

達也の言葉を信じるとするなら、自分達が達也の身辺調査に気付いておりそれを見て見ぬ振りをしていたことになる

 

だから、自分のボディーガードである名倉まで知っていたのだ

 

おまけに数字落ちということまで解っているということは十師族の事を少なからず知っているということ

 

もっとショックが大きいのは真由美達が達也を調べていたのは無駄骨だったと言っていい

 

真由美『…他には?』

 

達也『回答を拒否します。それを答えることに俺のメリットがありませんので。』

 

しかし、どうして分かったのか知りたい

 

けれどもそれを素直に教えてくれる訳もなく、これ以上は達也を怒らせるだけだと諦めるしかなかった

 

 

 

真由美『達也君。少し手伝ってほしいのだけどいいかしら?夏休み明けに生徒会選挙があってね、そこにある子を出したいの。勿論、会長として。内容としてはその子を後押しして欲しいの。』

 

達也『中条先輩ですね。しかし、彼女はその気ではない。いえ、自分には力不足だと思っているのでしょう。』

 

店員に注文していたアイスティーで渇いた喉を潤す真由美

 

最近の一高の生徒は達也を頼り過ぎている

 

いくら達也が突っぱねても最後の最後には折れてくれると勘違いしているようだ

 

その理由の一つは達也が相手の言いたいことを相手自身より理解しているからだろう

 

そこにつけ込んで無理矢理押し付けているのだ

 

真由美『その通りよ。司波さんには来年お願い事したいし、かといって他の生徒が出来るとは思っていないの。』

 

達也『中条先輩以外務まる人間はいないと仰るわけですね。中々容赦の無い。』

 

しかし達也は何も頼みを受ける前提で理解をしている訳ではない

 

相手の矛盾点や依頼を受けたくないから悉くを潰して拒否するためなのだ

 

ーーー相手の頭がお花畑だった場合、効果は薄いが

 

 

真由美『当たり前よ。そこに感情をいれる訳にはいかないわ。あーちゃんは性格こそ臆病に捉えられがちだけど、芯はしっかりしてるわ。成績も学年で首席だし実技も次席よ。』

 

達也『そして、実技トップの服部副会長を次期会頭の座に据えれば磐石の体制が整うというわけですか。しかし、選ぶのは彼女自身であり俺の言葉程度で態度を変えるくらいならそれは責任感が無いのではないですか?そのような中途半端な気持ちの方に生徒の代表を任せるなどお断りです。』

 

真由美『それは分かってるわ。これは達也君達二科生がもっと過ごしやすく考えてのことよ。』

 

達也『それは真由美さんや渡辺先輩、十文字先輩の自己満足です。魔法科高校は魔法力が重要視されて当然。二科生を特別視するような行動は差別意識が悪化しますよ。そもそも人間は弱い、誰かを貶めて自分が上に立たなければ満足はしない。』

 

この会話も二度目だと真由美は気づいているだろうか

 

別に達也はこの現状を助けてほしい等と言った憶えもないし、むしろいつでも資料を閲覧出来る状況に満足しているのだ

 

魔法科高校にこれ以上望むものは全くと言って良いほど無い

 

真由美『…達也君はどうして現実と向き合えるの?』

 

人間の真理を理解しそれに不満を抱いていない達也に真由美は恐ろしく感じてしまう

 

達也『いろいろありましてね。けど、今は絶望はしてません。過去と未来、現実…これは常に一つだ。』

 

真由美『?どういうこと?さっぱりなのだけど?』

 

時々、達也は自分達では理解出来ない発言をする

 

達也『これは魔法力と同じで才能に近い。真由美さんと俺とでは立っている次元が違うだけですよ。別に見下している訳ではないですから。』

 

真由美『まるで人間じゃないみたい。』

 

本当によく分からないと言いたげな真由美

 

まどろっこしいのはやめて欲しいのだが、才能と言われてしまえば何だか良い気分ではない

 

しかし、その感情が二科生が一科生に抱く感情に近いのだが真由美が気づいたかどうかは知らないが達也にとってはそんな事はどうでも良い事だった

 

 

 

 

 

 


 

 

 

二〇九五年十月現在、二十四時間完全自動化が実現した港湾諸施設

 

通関は日中に行われ荷役や接舷、上下船も深夜においては不可能になっていた

 

それらは完全自動化と無人化によってできた弊害なのかもしれない

もしくは、隣接する他国との緊張状態がこの状態を造り出したのかもしれない

 

いずれにしても、夜になれば港には入れないため沖合で一夜を過ごす必要があるのだがーーー

 

横浜山下埠頭

 

入港が出来ないはずの湾内に一隻の船によってこの地域一体が慌ただしくなる

 

『五号岸壁に小型貨物船が接舷し、不法入国者が上陸。至急応援に向かって下さい。』

 

???『やれやれ、あんなところとは。まあ、あそこだからこそとも取れるけどね。どう思う?』

 

???『そんなことをぼやく暇があったら、脚を動かしてください警部。』

 

???『しかしね?稲垣君。』

 

稲垣『文句は賊を捕らえてからです。千葉警部。』

 

千葉と呼ばれるこの男は多くの門下生を警察や軍に輩出する名門千葉家の長男である千葉 寿和

 

一見やる気のないように見受けられるも一応職務は全うはしている

 

千葉『俺は君の上司なんだが…。』

 

稲垣『年は自分の方が上です。』

 

なんだその年功序列はと突っ込みたくなるが抑える

 

しかし、なんだかんだいって自分を慕ってくれている稲垣警部補に強くも出れない

 

現在、二人が居る場所は三号岸壁付近ここからだと約七百メートル程ある

 

一つバースが空いただけでこれだけの距離があるのか?ということを疑問に思うかもしれないが、この港は四号と五号の間に船が接舷出来る場所が設けられているためその分、距離が遠くなっているのだ

 

とは言ってもこの二人にとってはそれほど距離を感じることはない

普通の人間ならば全力でも二分以上は掛かるが、この二人は魔法師であるためものの三十秒足らずで現場に到着した

 

 

 

千葉『やっぱり人手不足だよな。』

 

不法に上陸した人間の数をコンテナの陰から確認しながらボヤく

 

圧倒的という程でもないが十人程を数えた

 

稲垣『仕方ないでしょう。魔法犯には魔法警察ですよ。』

 

千葉『いや、実際はそうでも、ないん、だけどね!』

 

魔法による跳躍は肉体のみでの跳躍とは異なる放物線を描くため狙いが定めにくく賊を翻弄する

 

そしてそれに目がいけば狙撃が待ち受け、かといって狙撃を警戒しても木刀にしては反りが少ない一メートル程のものが賊を殴り倒していく

 

稲垣『警部、船を押さえましょう。』

 

数分も掛からずに全員を戦闘不能にし終える二人

 

他の場所でもこの場所のような戦闘が繰り広げられており、それを終息させるには大本を断つしかない

 

千葉『俺が?』

 

稲垣『我々でです。』

 

どうもこの上司は必要最低限の事しかしたがらないのに対し、部下は勤務意欲が旺盛である

 

ある意味良いコンビである

 

千葉『…分かった。じゃあ、稲垣君。船を止めてくれ。』

 

稲垣『自分では沈めてしまうかもしれませんが?』

 

自分で船を止めようという割には止める為に上司である千葉を頼るのは如何なものか

 

千葉『問題ない、何かあれば責任は課長が取るだろう。』

 

稲垣『…自分がとは言わないんですね。』

 

しかし、湾内から離脱しようとする船を沈めればその港を封鎖しかねない

 

沈んだ船をサルベージするにも時間や金は掛かるのだ

 

それをよく後先考えずに湾内で対処しようとするものだ

 

だが、現行犯を取り押さえるには時間との勝負であるため仕方ないのかもしれないが

 

稲垣の拳銃のグリップの底にあるスイッチを押しこむとバレル上部に取り付けられた照準補助機構の作動ランプが点灯する

 

続けて武装一体型CAD、リボルバー拳銃型武装デバイスのグリップに組み込んだ特化型CADの本体が起動式を展開する

 

引き金を引くと同時に魔法式が作動

 

移動・加重系の複合魔法により軌道を固定し貫通力を増大させたメタルジャケット弾が魔法式の設定した軌跡を描き、離岸しようとする小型貨物船の船尾を貫いた

 

数発の銃弾だけでエンジンとスクリューのギヤボックスを破壊する手腕は見事なものである

 

しかし、船は一箇所に穴が開いただけで沈まないようにいくつかのブロックで区割りされているのだ

 

それを各ブロックを貫通し、更には船底にも穴を空けるほどの威力はどれほどのものなのか

 

 

千葉『お見事。』

 

そんなことは一切考えていないような呑気な声を出しながら、千葉の手元で止め金具が外れる音がする

 

木刀と思われたのは、その実、仕込刀だったのだ

 

そして、牛若丸の八艘飛びもかくやの跳躍で船舶に単身で飛び込む

 

着艇と同時に船室の扉を袈裟懸けに切り裂いた

 

千葉一門 秘剣「斬鉄」

刀を鋼と鉄の塊ではなく刀という単一の概念として定義し、魔法式で設定した斬撃線に沿って動かす移動系統魔法

 

千葉『チッ(やはりもぬけの殻か、となると向かった先は。)やれやれ、厄介事が増えるね。』

 

再度、「刀」で切り裂き侵入経路を確保し船内に飛び込むもそこはすでに無人

 

船体をくまなく探るも賊の姿は無く、あったのは船底のハッチが開いていたことだけだった

 

 

 

 

 

元々、船底のハッチが開いていたため徐々に沈んではいた船舶に稲垣と千葉の追い討ちで沈む速度が早まったためか密入国の船はすでに沈んでしまっていた

 

と言っても水深は-十メートルのため高い場所から湾を望めば沈んだ船が僅かに見えていた

 

 

 

稲垣『お疲れ様です、警部。』

 

結果的には他の場所でも同じような小競り合いはこのための陽動であったためその実働部隊が抑えられなかったのは苦しい

 

それは互いに分かっているため口には出さない

 

千葉『とんだ骨折り損だよ。本当に、奴さん達は一体何処に消えたんだろうね?』

 

責任転嫁まがいの発言をしつつ、千葉はとある繁華街のある西の方角を睨むのだった

 

 

 

 

 

千葉が睨んでいた僅か数キロ先、横浜にある有名な繁華街

 

表通りからは見えない、奥の路地にとある飲食店がありその店の庭には古びた井戸がある

 

その傍らには上着、チョッキ、ズボンの三つ揃いを着こなした若い貴公子風の男が立っていた

 

容姿は雄々しくはなく、見目麗しいといった風貌と肩を越える長髪は威圧感を全く感じさせない青年

 

 

 

何故、夜明け早々にこのような場所にいるのかといえば

 

待っているからだ

 

一体、誰を?と疑問に思うもそれはすぐに判明する

 

この男が見ている井戸、飲料用ではなく防災用の蓋をされた井戸が前触れもなく内側から崩れたのだ

 

 

その中から這い出て来たのはスクーバ式潜水服を着た男十六名

 

その男達の中の一人をみとめると青年の方は微笑みながら右手を左胸に当て最敬礼を取る

 

???『先ずはお寛ぎを。朝食を用意させております。』

 

???『(チョウ)先生、ご協力感謝します。』

 

大して感謝もしていないような感情の籠っていない言葉を並べるも青年はその笑みを崩すことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

夏休みも明け少しずつ勉強のリズムも戻りつつあった頃、達也はまたまた真由美と摩利に拉致されていた

 

理由はあずさの生徒会会長の立候補の為だが、夏休みにそれを達也は断っていた

 

しかし、諦めの悪いところが、ある意味では彼女たちの長所かもしれない

帰宅間際の達也を強引にあずさの前に引きずり出し、立候補に消極的なあずさを改心させてくれるよう頼み込んできたのだ

 

あずさ『会長から私を勇気付けてくれると聞きました。お願いします、私に勇気を下さい!』

 

真由美『お願い、守夢君。』

 

が、なぜかあずさにまで立候補する勇気がほしいと懇願される始末

 

そんなことは達也にとっては知ったことではない

 

達也『お断りです。そんな面倒くさいことを何故私がしなければいけないのですか?七草会長にもお伝えしましたが、私の言葉一つでやる、やらないなどとそんな薄っぺらい決意なら立候補しないでいただきたい。私が言ったから立候補したと言って、責任の所在の一部ですら此方に持ってきてもらっては困りますので。』

 

あずさ『…』

 

真由美『…』

 

摩利『…』

 

達也『リーダーというものは部下を引っ張っていくものです。貴女(中条先輩)が新生徒会長になった場合、周りの意見に振り回されるのが目に見えています。もし私でしたら、そのようなふわふわした人物に従うなど御免です。本当に助言が欲しいのならば、「立候補に他人を理由にする程度の決意のようですので、立候補しない方がよろしいと思います」以上です。』

 

一方的な達也の展開に反論も出来ない真由美達

 

あずさもここまで情け容赦のない言葉を掛けられたのは初めてだったのか瞳には感情の海が溢れ出していた

 

その後のことは知らないが、あずさが生徒会長に立候補していたということは真由美達が何とかしたということだろう

 

 

 

 

あずさ『あれは守夢君なりの激励ですよね!私、守夢君に認められるように頑張ります!目標は彼がより良い学校生活を送れるようにします!』

 

それを横で聴いていた真由美は苦笑いするだけに止めた

 

 

 

 

 

そして新年度の生徒会の発足式

 

そこでもお約束の一悶着があった

 

お題は同じく達也の生徒会役員の加入である

 

元々、真由美が公約と掲げていた二科生の生徒会役員の加入は不可能であったものを任期満了時に投票で多数の賛成票により可決されたのだ

 

達也もこんなふざけた案が通ったことに驚きを隠せなかった

 

それは二科生である達也が九校戦で確かな功績を上げたことに他ならない

しかしそれだけではプライドだけは一人前の一科生が達也の功績を認めて賛成の票を投じるわけはない

 

一部の声としては

 

達也だけが特別であり、他の二科生は平凡であるため認められない、や真由美や摩利、十文字などの委員会のトップの過大評価と贔屓ではないか、更に酷かったのはそれら全てを買収したからではないか?更に更には、真由美と達也が恋仲であるためにいつでも会えるように優遇したのではないか?等々

 

最後の憶測には達也も何も言う気もなかった

 

真由美に関しては顔を真っ赤にしていたが

 

様々な憶測が流れそれらを否定するも焼け石に水

 

そして最悪なことに魔法が飛び交う一歩手前まで発展しかけた

 

しかし、それを止めたのは意外な人物であった

 

 

 

深雪『静まりなさい。』

 

その人物とは達也を特に毛嫌いしている司波 深雪だった

 

彼女の言葉と同時に放たれる冷気が講堂を支配したのだ

 

深雪『彼、守夢達也が評価されるのは当然であり、それほどの功績を残したことに他なりません。それは九校戦スタッフ全員が認めるところ。誰も贔屓、過大評価等はしていません。皆様方の異議は論理的ではなく、ただの感情論。二科生の役員への加入に反対であるならば、メリットよりもデメリットが高いということをこの場で提示して下さい。無論、差別的根拠が無い前提ですが。無いのであれば、先程までの発言は妨害と見なし、退場していただきます。』

 

深雪の発言に誰もが開いた口が塞がらなかった

 

達也も例外ではなく、というよりも一番呆気に取られていたのが達也だった

 

深雪『訂正します。退場していただく必要はありません。但し、これ以上の発言は打ち切らせていただきます。それでは、他に異議のある方はいらっしゃいますか?尚、モノリス・コードで一条選手を倒し、三高の女子生徒からのアプローチを受けていた一名の二科生からの異議は認められませんので。』

 

生徒会役員の二科生加入に賛成の一科生は勿論のことだが、反対派の一科生達は反論出来ない

 

この講堂が司波 深雪という一人の生徒に支配されている状況に一人が異議の挙手をするも、それすらも封殺する深雪

 

いつものお約束で挙手をしたのは達也なのだが、あっさりと却下されてしまった

 

敢えて、名前を出さずに嫌味の如くその人物を特定させ、尚且つブーイングの嵐に曝す深雪の容赦のなさは健在であった

 

この出来事により達也は(モテない)男の敵に認定されたのだった

 

 

 

 

そのような過程を経て二科生が生徒会役員の加入が認められたわけだが、問題はここからだ

 

生徒会が任期を終えるならば、風紀委員会や部活連の他の委員会の任期も同時に終える

 

各々の委員会の長は生徒会長に任命権があるためこの生徒会選挙がとても重要なのだ

 

深雪のおかげか、生徒会会長は荒れることもなく中条 あずさの生徒会長就任が決まった

 

それに伴い、各委員会の長もあずさによって指名される

 

それは風紀委員会も例外ではない

結果としては、千代田 花音が風紀委員長に選ばれた

元々、摩利が後任として推薦していたこともありあずさも摩利の推薦ならばということで指名していた

 

また、風紀委員長は実力主義でもあるため十師族に引けをとらない彼女ならと安心はしていた

 

ーーー花音があずさの申し出を断るまでは

 

申し出というのは達也を生徒会役員に任命したいというもの

 

強ち生徒達の憶測は間違ってはいない、なぜなら達也を生徒会役員に任命したいというのは事実だからだ

 

真由美が公約に掲げていたとはいえ、達也が居なければこんなに早く実現することはなかっただろうからだ

 

だからこそ、二科生の生徒会役員第一号を達也に担ってもらいたい

 

そう考え、花音に達也が欲しいと申し出たのだが

 

 

花音『駄目。守夢君が居ないと事務が回らないから駄目。』

 

取り付く島もなく断られるあずさ

 

しかし、達也に容赦のない説教を受けたにも関わらず役員に指名するとはあずさも中々の強心臓である

 

達也『誰の所為で回らないとお考えですか、千代田委員長?前風紀委員長もそうでしたが、少しは自分達でやりなさい。…ちょうどいい機会ですね。やはり、風紀委員会を退会させていただきます。貴女のような脳筋上司よりも働く意欲のある方々が集まる組織の方が私も楽ですから。』

 

花音『ちょっと!何を勝手なことを言ってるの!?』

 

達也『特段、問題は無いかと。元々、前生徒会長と前風紀委員長、前部活連会頭にほぼ強制的に加入させられていますので。そのお三方が居なくなれば私がこの委員会に在籍しなければならない理由はありません。千代田委員長の事務処理を手伝えば私の資料を探す時間も減ります。この意味、お分かりですか?』

 

花音の怒りを余所に達也は尚も続ける

 

達也の主張とすれば、あくまで摩利達三人の要望で風紀委員会に加入した為その三人が居なくなれば達也が風紀委員会に在籍する必要もない

 

更に言えば、花音の事務処理速度に摩利と同じものを感じたのは内緒だ

 

花音『ウッ…。』

 

達也『私の主張を理解していただいて何よりです。しかし、自分の事務処理の無能さとそれを理由に自分の仕事を他人に擦り付ける行為は同じではありません。』

 

花音『だってそれは摩利さんも…』

 

達也『言い訳は見苦しいですよ?他の人が、尊敬する先輩がやっていたからといって自分も同じことをしても良いという理由にはなりません。それは虐めにも通じているということを理解出来ていないようですね。緊急で時間が足りないから手伝うのは仕方がありませんが、それはあくまで一時的です。』

 

論破されて言い返せない花音だが、まだ不満な表情をしている

 

その表情を知ってか知らずか達也は追い打ちをかけていく

 

花音『…うぅぅ…グスッ。』

 

端から見れば、一般論に近いことを述べているものの所々にオブラートにも包まれてすらいない棘のある言葉に花音の涙腺は崩壊していた

 

ーーーしかし、

 

達也『泣いたところで何の解決にもなりませんよ?千代田委員長はご存知ないかもしれませんが、私の加入の際に出した条件は入館手続き等の時間短縮です。しかし、今はどうです?資料を探す時間すら貴女に押し付けられた事務処理に費やしている状況です。これは明らかに契約違反です。何の罪悪感もなく反故にされるのであれば私もこのような組織に在籍する理由はありません。というわけで退会させていただきます。』

 

もしかしたら、鬼、悪魔の権化とは達也のことを指すのかもしれない

 

一応、この場には真由美達が居るのだがもはや、空気と化している

 

というよりも、怒ってもいないのに達也の纏う雰囲気が恐ろしく、助け舟を出そうにも出来ないのだ

 

花音『………さ…い。』

 

達也『何か仰いましたか?』

 

花音『ごめんなさい!』

 

達也『一体、何に対しての謝りですか?私にだとしたら足りませんよ?まあ、今回の場合はズレています。』

 

花音『え?だって、私が守夢君に迷惑を掛けているから…』

 

一体、何が達也の気に障ったのか?

 

責められ過ぎて頭が真っ白な花音

 

達也『そのような事は百も承知です。私は呆れているだけです。見限り、とでも言いましょうか。』

 

花音『…それ、も、止めて…欲しいん、だけど…。』

 

これ以上は怒られたくない

 

けれども、何が達也の怒りの琴線に触れたのか?

 

達也『私がお伝えたいのは謝る相手が違うということです。中条会長の申し出を断ったのは千代田委員長の都合です。しかも、一方的に。それは違うのではありませんか?確かに、取り締まる人間が少なくなることはデメリットですが、それは募集すれば済むこと。生徒会と風紀委員会、互いの要求を擦り合わすことが今ここでは大切なのではないですか?』

 

花音『…はい、その通りです。』

 

達也『ならばこの場合、それらを伝えるべき相手はどちらですか?』

 

別に達也は怒っているわけではない、言うなれば花音の言動を叱っているのだ

 

あずさも風紀委員会の実情を理解している

 

だからこそ、花音に理解を示して欲しいとわざわざ足を運んだのだ

 

それを頭ごなしに否定するだけではあずさも解らない

 

それを達也は指摘したのだ

 

怒るのではなく、花音の行動の何が駄目なのかを墾墾と言い聞かせたのだ

 

花音『…中条生徒会長です。』

 

達也『では、お願いします。また、擦り合わせには私の主張もありますのでお忘れなく。』

 

この場に居た、真由美と摩利、鈴音他にも服部を除く生徒会の面々は達也の淡々とした理論詰め?に他人事であるのに自分が責められているように錯覚してしまった

 

怒っているわけではないのに、只々一般論を並べ叱る達也に自分達も泣きそうになってしまっていた

 

元々、真由美達が蒔いた種ではあるため花音の非を少しでも緩和させてあげたかったのだが、それをしてしまうと達也からの攻撃がこちらにも飛び火してしまうため花音を身代わりにするしかなかった

 

結局、達也の打診で風紀委員会と生徒会を兼任という形で収まったのだった

 

 

 


 

 

 

10月某日

 

生徒会の引き継ぎと風紀委員会の仕事、研究の資料漁りと忙しく動き回っている達也に新たな災厄が訪れることになった

 

達也『もう一度言っていただけないでしょうか。廿楽助教授。』

 

廿楽 計夫

 

現在、国立魔法大学付属第一高校で魔法幾何学のオンライン講義と2-Bの実技指導を担当

本職は魔法大学の講師でこの第一高校には在籍出向という形で赴任している

若くして助教授という地位にあるものの、その自由すぎる研究姿勢が災いしてか上から「教育者として経験を積んで来い」と出世街道から少々外れ、回り道をさせられているのだ

 

しかし、当の本人は全く気にしていないのか

 

気兼ねなく研究に勤しめると嬉しそうらしい

 

そのようなマイペースな人物であるためこの高校に根付く一科生と二科生の溝を気にすることもなく、気に入った見込みのありそうな生徒に声を掛けて指導をしてくれるのだが、生徒達のペースは考えてくれないため少し厄介ではあるが

 

廿楽『助教授ではなく今は教諭ですよ。守夢君、貴方に市原さんのサポートをお願いしたいと思いましてね。』

 

達也『理由が明確ではないのですが?』

 

地下二階の資料室で他の生徒では閲覧しないような文献を二週間以上閲覧し続けていた達也

 

理由は7月に発表した飛行術式関連で、フィードバックを貰う条件付で術式を公表し、日本の各方面とUSNA等からその利用と購入が相次いだ

 

そして、フィードバックのデータが十分に取れたため次の段階に進もうという算段でいたが、順風満帆にいかないのが世の中だ

 

エメラルド・タブレット、つまりは錬金術の類の文献を閲覧していた達也に鈴音という珍しい来訪者はまたもや厄介事を持ち込んで来たのだった

 

廿楽『うーん、論文コンペのメンバーに欠員が出たためにその補充として君が選ばれたという理由では駄目ですか?』

 

廿楽の言う論文コンペとは

 

日本魔法協会主催の論文コンペティション

 

通称「魔法科高校論文コンペ」だ

 

全国の高校生が魔法学・魔法工学の研究成果を発表する場で学習結果発表会などではなく、学会などの発表機会を持たない高校生が自分たちの研究を世に問うための場所である

 

世間の注目度も高く、発表チームの代表が魔法研究機関からスカウトされるだけでなく、発表論文がそのまま魔法大全に収録され、大学や企業に利用されることもある

 

「全国高校生」と銘打ってはいるが、正規の教育課程で魔法理論を教える高校は国立魔法大学付属高等学校以外には無いため、実質的には九校で競う催しであり、九校戦が「武」の対抗戦であるならば、論文コンペはこれと双璧を成す「文」の九校間対抗戦であると言える

 

長々と口上したが、こちらも達也にとっては参加もしたくない、めんどくさいイベントだった

 

達也『そこに何故私が選出されたのかの理由。そして私を納得させられるだけの理由が無いということがおかしいとは思いますが?』

 

鈴音『残念ながら、貴方に納得してもらえる程の理由は用意出来ていません。更には、時間がありませんのでこちらの都合で推薦させていただきました。』

 

達也が納得出来る理由がないとは一体どういうことなのか?

 

自分の意思を無視した行動に感情が失せてしまう

 

達也『…この論文コンペは構内の論文選考会で決定されたもの。そして、選ばれる人数は三名。もう一人はどうされましたか?』

 

しかしここで感情的になってもいけない

 

九校戦の二の舞になる

 

鈴音『平河さんは体調を崩して最近、退学届を持ってきました。なんとか廿楽先生の説得のおかげで退学は取り止めてもらえましたが、コンペに出られる精神状態ではありません。』

 

達也『でしたら、次点もしくは次々点の方が選ばれるべきではありませんか?サポートにも十分なはずです。』

 

鈴音『関本君は拒否させていただきました。彼と私ではコンセプトがまるで違うので。他の人達の協力でこの短い期間で完成させることは出来ないと判断しました。』

 

一つ一つ穴を突くと、簡単にボロを見せてくれたのは助かった

 

達也『であれば何故、私でなければならないのか。その理由は答えることが出来るのではありませんか?』

 

自分が納得出来ない理由で選ぶ前に納得してもらえるように理由を作るべきなのだが、その努力を怠るのはいただけない

 

鈴音『…』

 

廿楽『君は噂以上のやり手ですね。いつの間にか誘導され、君の掌で転がされている。ここからは、二人に訊いてください。それでは失礼しますよ。』

 

至極まともな指摘に鈴音は黙してしまい、机の上に肘を置き、組んだ手の甲に顎を乗せた格好で廿楽が達也を称賛する

 

達也『貴方のそのマイペースぶりも噂以上ですよ。(ボソッ)…それで、私を選んだ理由は何でしょうか?市原先輩のことです、貴女の論文に私の何かが必要だから選考会にも参加していない私に白羽の矢を立てたのではありませんか?』

 

言いたいことだけ言い終えるとさっさと退室する廿楽

 

生徒達の才能を見出だす点は流石だが、まだ精神的に幼く能力的にも土台作りの高校生の面倒をみてやる能力はからっきしなのだなと達也は落胆する

 

基本属性は研究者だから仕方ないかという面もあるがー

 

廿楽が居なくなったのであれば、鈴音に理由を聞くしかない

 

鈴音『その通りです。…私の論文テーマは【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】です。』

 

達也『なるほど。誰にも話していないのにご存じということは私の検索履歴等を覗いたわけですね。』

 

春に壬生に会っていたとき、一人鈴音だけが自分達を窺っていた

 

自分の研究を知って欲しいから、こんな事を研究している自分は特別だという気持ちすら全く無かった

 

それに他人に自分のプライバシーを覗かれて喜ぶような変態趣味は無い達也はさっさと切り上げていたが、まさか閲覧室の検索履歴を見られているとは思わなかった

 

履歴を消すことも出来たが、まさかそんな調べるような輩がいるとは夢にも思わなかったが本音だが

 

鈴音『それは申し訳ありません。しかし、この論文コンペに参加していただくことで守夢君にメリットはあるかと思います。』

 

怒っていると思われたのか謝罪と弁明する鈴音に若干困惑する達也

 

達也『確かにそうですね。それは市原先輩の論文を重力制御魔法式熱核融合炉のアプローチの仕方を拝見出来ますから。しかし、それでは根拠が足りません。何故、私の検索履歴を見たのかという動機です。』

 

同じコンセプトを持っている鈴音の思考に興味もある

 

この際だ、参考に出来そうなものはいただこうとは考えているが、果たしてそこまでの域に到達しているかどうかーーー

 

それに達也は怒ってはいない

 

何故守夢 達也という選択肢が生まれたのか、それが一番の謎なのだ

 

 

鈴音『…それは。』

 

視線を反らし頬を赤らめる鈴音

 

その表情はまるで恋する乙女のそれだ

 

達也『(おいおい、まさか貴女もですか?そんなに俺は天然ジゴロではないぞ?ないぞ?)…判りました、微力ながらお手伝いさせていただきます。但し、条件があります。』

 

九校戦以来、達也自身が意外と好かれる人間なのだと僅かながら自覚した

 

それは響子や結那、加蓮のおかげだろう

 

だが、この三人だけでなく、夕歌や真由美、ほのか達に好かれても嬉しくはない

 

更には鈴音までとは、その影響で響子達に嫌われたらどうしてくれるのだ

 

鈴音『構いません。』

 

達也(イコール)条件付きで助けてくれると勘違いが多いが、それは違うのだ

 

あくまで達也が条件を提示するのは達也自身の保身のため、何か問題が起きても自分とは無関係という証明になるからだ

 

達也『一つが退学届を出された平河先輩を必ず復帰させることと小早川先輩も必要であればサポートをお願いします。二つ、私の仕事はあくまでサポートです。市原先輩の指示に従います。三つ、七草先輩は中条生徒会長にもお伝え下さい。今後、私に用があるのであれば事前に説明と了承がなければ全力で抵抗しますので。有効期間は来年の三月までです。…最後に、これから何かが起こり万が一私に何かあっても詮索せずに放置すること。サポートはきっちりいたします。以上四つを何も訊かずに了承していただけなければ引き受けません。』

 

鈴音『二つ目は了承しました。三つ目も努力します。しかし、一つ目は貴方の所為ではありませんから気に病む必要はないかと。最後の一つはどういうことですか?』

 

達也『詮索するのであれば参加はしないとお伝えしましたが?』

 

どうして魔法師というのは自ら厄介ごとに首を突っ込みたがるのか?

 

鈴音の雰囲気はほのか達と同様の「好きな人のことは何でも知りたい」という匂いがしてならない

 

鈴音『…分かりました。…まあ私は守夢君と共同作業が出来るだけで嬉しいですけどね(ボソッ)』

 

達也『何か、仰いましたか?』

 

鈴音『いいえ、何でもありません。』

 

なにか碌でもないような言葉が聞こえた気がしたが、何でもないと言われれば引き下がるしかない

 

もう一人のメンバーである五十里 啓は仕方ないかと苦笑いを浮かべている

 

達也『(なるべく、事務的に対応していこう。こういうのは必要最低限が一番被害が少ない。)では、決まりですね。十月三十一日までよろしくお願いします。』

 

どうしても関わらなければならないのならば、最低限の対応していくしかない

 

諦観の境地でこれから起こりうる出来事に対処していこうと決めるのだった

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?

どうも、言葉遣い選び方難しいと語彙力が弱いと感じざるを得ないですね。
本を読んだりして学んでいるつもりですが、なかなか…。

①ご先祖様や身内は大事にしたいですね。
②達也、魔女裁判ならぬ嫉妬の嵐裁判を受けています。
③奥さんはどう思っているかは不明ですが、旦那さんの北山潮さんは達也がお気に入りのようですね。
④達也が生徒会会長選挙に興味があるとでも?(笑)
⑤中条先輩にトラウマを植え付けようとしたが効果薄っぽい。
⑥千代田先輩って相手のことを理解しようと努力や自分の短所や欠点を補う努力はしたことあるのでしょうかね?
⑦達也LOVE勢に正式に鈴音先輩が加わりました。

なるべく、一ヵ月を目処に更新は続けたいとは思いますが延びた場合はご容赦下さい。

では、次回も暇つぶしを提供出来ればと思います。
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