抹殺された神の愛し子   作:貴神

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ようやく、仕事が一段落

出張で赤穂へ…のどかでした。

それでは、楽しんでいただければと思います。


28話

ほのか『達也さん、論文コンペに選ばれたって本当ですか?』

 

その日は委員会・生徒会の仕事もなかった

 

研究の資料漁りも今日は無しに家でゆっくりとするかと考えた矢先、狙っていたかのようなタイミングで達也に声を掛けたほのかと雫達

 

アイネブリーゼでお茶をしないかと半ば強制に連れていかれ、近況報告会が開かれた

 

達也『あぁ。一人メンバーに欠員が出てな、数合わせという形で市原先輩のサポートとして選ばれた。』

 

幹比古『数合わせじゃないと思うよ?だって、校内選考会に参加して選ばれるわけで。その選考会に参加していない達也が選ばれるということは九校戦でのエンジニアとしての実績と試験での理論が凄かったからだと僕は思うよ?それに論文コンペは文の九校の対抗戦とも言われているし、実力があっても選ばれるものではないから達也には何かがあるからだよ。それにスーパーネイチャーの目にも留まる可能性だってあるんだから。』

 

何故幹比古がここまで熱く語るかと言うと

 

スーパーネイチャーとはイギリスの学術雑誌が主な理由だ

 

現代魔法学関係で最も権威があると言われ、全国高校生魔法学論文コンペティションの優勝論文を毎年取り上げているらしい

 

また、優勝しなくても素晴らしい論文ならば学会誌に取り上げてもらえるため生徒にとってもモチベーションは上がる

 

レオ『そうだぜ?でも、どうして達也に白羽の矢が立ったんだろうな?』

 

雫『うん、それは私も思ってた。』

 

美月『どうしてでしょう?』

 

達也『さあ?廿楽教諭もいらっしゃったから校内の教師陣からの推薦ということじゃないか?』

 

皆が首を傾げる中、理由を分かっている達也は敢えて知らないフリをする

 

理由を言えばほのかや雫達から小言を言われるのも目に見えているが、言ったところで何が変わるわけではない

 

エリカ『それにしては達也君。今までの君ならこんなイベントなんて面倒だから辞退します、なんて言う筈なのにどうしたの?もしかして、市原先輩みたいなのが好みなのかしら?』

 

達也『そうだ、と言ったら納得するのか?しないだろう?少しだけ俺にメリットがあったため引き受けただけだ。』

 

相変わらず、剣術家の娘であるためか勘は悪くはない

 

それに同意してかほのか達も頷く

 

しかし、達也だって人間だ

 

ふとした拍子に考えだって変わる

 

だから、理由を言ったところでそれは彼女達が納得する理由ではないのだ

 

達也の本音としては一々突っかかって来ないで欲しいというのが大きな理由だ

 

幹比古『エリカ達、最近達也に突っ掛かるよね。どうしたの?それで、今年の開催日は十月の三十一日だよね。今からで間に合うのかい?』

 

達也から邪見に扱われるエリカを見て不思議に思った幹比古はエリカに問いかけるも押し黙るエリカに幹比古はいつもの不機嫌かと諦め達也に向き直る

 

達也『生徒会と部活連の協力を仰ぐと市原先輩は仰っているから、問題は論文発表までの時間だろうな。添削して修正の時間を除くと約九日間しかないのが少し厄介だな。まあ、俺はサポートだから市原先輩の腕の見せどころになるだろう。』

 

レオ『タイトルは何なんだ?』

 

初めて達也から厄介と聞くと少しばかり論文のタイトルが気になったレオ

 

こういう嗅覚を持つレオは中々に侮りがたい

 

達也『【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】だ。』

 

幹比古『それって、加重系魔法の三大難問じゃなかった?』

 

エリカ『そんな難問に挑むなんて。』

 

案外、戦線復帰するのが早かったエリカだが、理由を言いたくなかっただけでその問い掛けが無くなれば問題はないのもある

 

ほのか『凄いね、雫。』

 

雫『うん、凄い。でも、てっきり達也さんが選ばれたのはCADのプログラミングかと思ってた。』

 

エリカ『確かに。啓先輩と達也君がいれば完璧な論文が出来ると思うんだけど。』

 

達也『もし仮にCADのプログラミングなら市原先輩が選ばれてはいないがな。』

 

達也の表層しか見ていない(見せてもいない)ほのか達では何故、選ばれたのかまでは知る術もない

 

巧妙に隠しているつもりもない、調べようと思えば先日の鈴音のように達也の閲覧履歴を調べることも可能だ

 

達也は、ただ黙っているだけなのだ

 

それだけしかしていないのに達也の事が知りたい、教えて欲しいというのは筋違いであり、それは烏滸がましいというものだ

 

受け身で得られるものなど一つもない

 

一つ一つに行動してこそ、結果が得られるのだ

 

そしてそれが自分の望むような結果が得られなかったとしても決してそれは無駄ではなく、次のステップのための糧となるのだから

 

 

 

 

 

今日は生徒会の方で引き継ぎがあった達也

 

引き継ぎと言っても風紀委員会と兼任であるため業務量は多くはないだろうーーー

 

と考えていた達也の予測は大きく外れ、庶務の仕事だけでなく元生徒会長である真由美の仕事つまりは現生徒会長のあずさの仕事の一部もやらなければならないらしい

 

まだ、仕事量にも馴れていないあずさだけでは流石の真由美も不安だったようで事務処理速度の速い、かつ口の堅い達也にならあずさが馴れる間の期間限定という形で引き継ぎを依頼したのだ

 

達也『…?(義父さん?…あれか。)』

 

真由美『?どうしたの、守夢君?電話なら、生徒会室の外だったら出て貰っても構わないわよ?』

 

突然、自分のポケットで振動を感じる達也

 

ポケットから取り出し、呼び出し先を確認すると義父である浩也から

 

普段は電源を切ることも多い達也だが、最近はマナーモードにしていることにしていた

理由は浩也や家族からの連絡が入るためだ

 

真由美も突然何処からか振動音が聴こえたため、その音の出所を探ると達也の手に携帯が握られていた

 

達也『申し訳ありません。義父から呼び出しがありまして。今日は早退させていただいてもよろしいでしょうか?』

 

真由美『う、うん。それは大丈夫だけれど、急用なの?』

 

達也『はい。では、お先に失礼します。』

 

急用の連絡なら真由美も咎めもしないし、寧ろ応答するべきだ

 

それにしては達也は先程の連絡に応答せずに早退の申し出をしてきた達也

 

珍しいと思いつつも、引き継ぎは今日だけでないし達也の事務処理速度なら二、三日間の数時間あれば事足りる為早退の承諾をした真由美

 

摩利『…あそこまで急ぐ守夢を初めて見たな。』

 

真由美『私も。いつもなら、理由やもっと穏やかに話すのに今日はやけに事務的というか淡泊すぎるというか。』

 

鈴音『…どのような用事なのか、知りたいところではありますね。』

 

真由美の承諾直後に颯爽と退室した達也に生徒会の元役員と現役員達は呆気にとられていた

 

普段と比べると今日の達也の行動はあきらかに違う

 

一同は首を傾げるしかなかった

 

 

 

 

 

 

急いで自宅に帰宅し、挨拶もそこそこに身支度を整えるとバイクをかっ飛ばしエリシオン本社に到着した達也

 

その所要時間は三十分ちょっと

 

社長室に一直線に入室すると浩也が待ち構えていた

 

達也『失礼します。』

 

浩也『来たか。状況は言わなくてもわかるな?』

 

達也『えぇ。FLTの人間が来ているのですね?誰が対応を?』

 

何故、達也が来客者の情報を知っているのか?というと墓参りの後、浩也からある情報を聞かされていたからだ

 

その情報には近々CADメーカーのFLTがエリシオン社を訪れるというもの

 

なんでも、国防軍から極秘の依頼らしい

 

しかし、それを自分達だけでは完遂出来ないと判断したのか縁浅からずのエリシオン社に協力の依頼をするために来訪するためだ

 

そんな極秘をよく他人にしかもライバル会社に話に来るか?と心の中で毒を吐きつつも応対している人物が気になる達也

 

浩也『牛山君と営業部長だ。』

 

達也『牛山主任が?火に油を注ぐようなものでは?』

 

浩也『水と油の方が適切じゃないか?彼がどうしても対応すると言ってな。まぁ、言いたいこともあったのだろう。箱は?』

 

牛山と聞くと人選ミスではないか?と考えるもどうやら本人の申し出のようであるため、仕方ないかと苦笑するしかない

 

達也『こちらに。上手く事が運びますかね?』

 

会社に行く直前、浩也の書斎から持ってきたそれは大きさが約二十センチメートルの立方体の宝石箱

 

色合いとしては重厚感ある赤で如何にも貴重または重要と思わせるには十分だった

 

そして、中身はというと瓊勾玉が一つ収まっているだけ

 

浩也『そこまでは思ってないが、国をひいては自分達を守るためだ。策は多いに越したことはないさ。』

 

達也『そうですね。』

 

国を守るとは一体?

 

そして、これを一体何に使うのか?

 

 

 

 

 

 

 

浩也『おっと、失礼しました。…FLTの椎原本部長と奥方様がいらっしゃるとは。何かご用がありましたかな?』

 

用事を終えたのか、出口に向かうFLTの社員二人と廊下でぶつかってしまった達也と浩也

 

一人は本部長でビジネスネームは椎原 龍郎、本名は司馬 龍郎という男性でもう一人はその妻の小百合というらしい

 

椎原『!?これはお世話になっております森城社長…特に元社員達が。今回は社長様に話せるような大した案件ではありませんから問題ありません。…それに今日は君もいたのか。』

 

達也『はい。あ、すみません、お荷物を散らかしてしまい。』

 

ぶつかった際、男性の方は何も問題無かったようだが女性の方はこけた拍子にバッグの中身をぶちまけてしまっていた

 

小百合『!触らないで!大事なレr…何でもないわ。私達で片付けますので。』

 

その女性と一緒に拾おうとするも声を荒げて牽制される

 

相当大事なものなのだろう

 

椎原『…森城社長、折り入ってお願いがあります。今からでも構いませんので、彼らを返していただけないでしょうか?』

 

全て拾い終え、椎原が浩也に向き直る

 

浩也『彼らとは?』

 

椎原からの言葉に浩也は惚けるように返す

 

椎原『数年前にわが社から引き抜いたメンバーです。彼らの力が必要なのです。』

 

浩也『ははは、面白いことを仰る。そのような戯言にふたつ返事をするとでも?彼らは私達の家族も同然です。私が家族を売るような真似をするとお思いで?そんな自分本意な要望などお断りです。』

 

少しだけ浩也の声音が低くなっているのは気の所為ではない

 

ちらりと達也は浩也の横側を盗み見ると、僅かに目を細めている

 

どうやら浩也の怒りの琴線に触れたらしい、原因は【彼らの力が必要】という言葉だろう

 

椎原『…』

 

浩也『今更になって彼らの功績が出てきたから、惜しくなって返して欲しい?ご冗談を。もし仮に戻ったところで働かせるだけ働かせて功績はご自分達のものにするのは目に見えています。…もっとも、彼らが素直にはい、と言いましたかな?先程、牛山主任に一蹴されたのではないですかな?』

 

今更になって牛山達が必要なのかは今回の飛行魔法の功績が大きいからだろう

 

あれは世の常識を覆した

それを発表した人物と会社の中に牛山達も含まれているのは直ぐに分かったため、ようやく事の重大性に気付いたのだろう

 

しかし、惜しむくらいならぞんざいにしなければ問題はなかったろうに

 

まあ、それが出来ていれば転職話など出てこないのだが

 

椎原『…失礼します。』

 

流石の椎原も浩也が怒っていることに気が付いたのだろう

 

反論しようにも図星であるため何も言えない

 

二人はいそいそと退散するしかなかった

 

 

 

 

 

 

一応は客人であるため、出口までお送りした達也と浩也

 

コミューターに乗り込み、会社の敷地から出たのを確認すると浩也は達也に問い掛ける

 

浩也『おととい来やがれ。…それで?』

 

達也『なんとか。』

 

達也の手には、先程社長室で見せた重厚感ある赤の宝石箱でその蓋を開けるとそこには瓊勾玉が収まっていた

 

だが、それは先程達也が浩也に見せたものと同一のもの

 

一体、どういうことなのか?

 

浩也『嘘つけ、俺でもやると分かっていなければ見逃していたぞ?』

 

達也『手癖の悪さは誰に似たんでしょうね?』

 

見逃す?手癖の悪さ?

 

浩也『八雲じゃないか?…え?もしかして、我が家系?』

 

達也『その両方かと。…それで?』

 

今度は達也が浩也に問い掛ける

 

今日は何故かこの親子から犯罪臭がするのは気の所為ではない

 

浩也『…精巧に出来てるから時間は稼げるが、かといって盗まれたとあっては体裁は保てないだろうし。けど助けた場合、繋がってるのでは?と思われたくはないな。』

 

詰まるところ、この親子は盗みをはたらいたということだ

 

ご丁寧にそう簡単に見破られない精巧な偽物を用意し、FLTの社員二人に接触を装い本物とすり替えるという徹底ぶりに思わず賛辞を送りたくなる

 

ということは、今回の流れとしては

 

①国防軍で聖遺物(レリック)が出土したこと

②FLTは国防軍からの依頼が無理難題と分かっていながらもプライドもあり引き受けたこと(他のメーカーやエリシオン社にも来ていたが、エリシオン社(表の顔)としては断った)

③結局出来ずにエリシオン社に泣きついてきた

④FLTからの協力依頼を断りつつも、本物とすり替えた

 

ということになる

 

しかし、何故本物と偽物をすり替えたのか?

 

その理由は後日判明するのだがーーー

 

そして浩也の言葉を鑑みるとあまり関わりたくないのが本音のようだ

 

それでもやらなければならないことでもあるため、何とも言えない

 

達也『この際、面目も丸潰れで無くなって欲しいのですが。』

 

達也としても関わってほしくないが正直なところだ

 

情報を掴んでも実害がなければ、放っておくが一番良いのだが今回はそうも言ってられない

 

FLTが聖遺物(レリック)を国防軍から預かったという事実はその事象が発生した時点で漏れるのだ

更にそれをエリシオン社に持って来るという情報などその筋の者が調べればあっという間だろう

それに神夢家は全ての情報が手に入るといっても基本的には静観するか最低限の自衛のみだ

 

自分達家族ひいては国に大きな損害がなければ放置することもあるし、世界を支配したい訳でもない

 

あくまで自分達は仕え、支える人間達だ

 

まあ、本気になれば世界をあるべき姿に戻そうと思えばタイムリーに情報を覗き見して世の膿を取り除くことも朝飯前だろう

 

それほどに影響力は桁外れな家ではあるが、他人のプライバシーまで筒抜けであるため最早こちらが気持ち悪くて見たくないのが本音でもある

 

もはや、筒抜けというより筒すらないかもしれないが

 

浩也『バランスがな?』

 

達也『分かってますよ。少し言いたかっただけです。変装して行きます。』

 

浩也『頼む、気を付けてな。』

 

口では簡単に言えるが、一つの会社が、しかも貴重なCADメーカーが消えることの重大性は理解している

 

だから、あまり口にしないように気を付けてはいたのだが椎原の言動に怒りを覚えてしまったのだ

 

だから、助けるのも最低限しかやるつもりもない

 

 

 

 

 

 

達也『!(大分、手の込んだ真似をしてくるものだ。まあ、あれほどの代物をほいほいと持ってくるんだから。狙われて当然か。)』

 

二人の乗ったコミューターを精霊の眼(エレメンタル・サイト)から追跡しながら、交通状況を観察していた達也は公道を走る車の数が異様に少ないことに気付く

 

時間帯的にはまだまだ車通りは多いはずだが、案内ではこの先で故障車があるため迂回するように告げられていた

 

この時代、自動で動く車、通称コミューターが普及しており目的地を入力するだけであとは何もしないで良いという大変進化した乗り物が出来ていた

しかし、メジャーの中にもマイナーはあり、交通管制システムを切り自分で運転する自走車も存在している

 

かくいう達也も自走車派だったりするしかも、全自動が当たり前のこの時代ではレトロと評されてもおかしくないMT車である

 

それはさておき、管制下に置かれた二人の乗るコミューターのパネルに自走車が接近してきていると警告音が鳴る

 

しかし、中の二人はいつものことだと警告音を切る

 

周囲を自走車は確認されないが、突如としてT字路から飛び出してくる

 

黒の自走車は達也のバイクの前に割り込むと二人のコミューターの数メートル後方に張り着き、煽り始めた

まるで、事故を狙っているかのように

 

達也『(さて、どう来るか。)』

 

煽り運転以上の行動をとることには違いないが、何をしてくるのかは不明だ

 

達也が身構えた瞬間、自走車が二人の乗るコミューターを遮るように前に出た

 

その瞬間、コミューターは接触すると判断したのかスリップのような形で急ブレーキをかけた

 

それと同時に搭乗者を護る為の安全装置が発動しエアバックが二人を保護する

 

コミューターの進路を塞ぐ形でかつ、スライドドアがコミューターの正面に止めるところを見ると只のチンピラという訳ではなさそうだ

 

スライドドアが開き、二人の男が降りてくる

 

達也『!(変装もせずとは。やはり奴らか、ならば。)』

 

市街は監視カメラが数多く点在する

何か不信な行動や犯罪行為をすればすぐにカメラがそれを捉える

今回の場合もそうだ、にも関わらずこの大胆さは市民や正規の入国者ではない

 

考えられるのは密入国者しかない

 

登録されていないのならば素性がバレることもない

 

武装した男達を牽制するのようにバイクのライトを上げ光の蒸発の効果に紛れ距離を詰める達也

 

あまりの光量に怯むもそれは数瞬のことで、相当訓練された人間なのか直ぐ様左の中指に納まっている真鍮色の指環から魔法妨害のサイオンの波動が放たれる

 

だが、達也には効果は無い

空かさずシルバー・ホーンを抜き、男達の武器を分解すると男達はあり得ないといった表情をする

 

キャスト・ジャミングと口走っているところを推測すると十中八九、あの国だろう

 

だがそのような反応をする暇があるなら次の行動を考えれば良いものを呆けているようではただの的だ

 

元々達也はあの国は嫌いだ

あの出来事の諸悪の根源なのだから

だから、滅ぼして良いのであれば滅ぼしてやりたいが、世界のバランスを考えるとそう簡単にはいかない

 

だが、末端程度ならば問題ないだろう

 

ちょうど良い見せしめにもなる

 

達也『Addio』

 

引き金を引き、男達の心臓を消し去る達也

 

不自然に動きが止まり、倒れる男達を尻目に自走車に他の仲間が乗っていないか気配を探りつつコミューターの中の椎原夫妻の状況を確認する

 

どうやら二人は割り込みによるコミューターの急激な回避動作により気絶しているようだ

 

外傷もなさそうだと確認を終えた 

 

ーーー刹那

 

首筋の後ろ辺りが妙にチリチリと得も言われぬ感触が全身を支配した瞬間、ナニかを避けるように身体が反射的に横へ数十cmズレる

 

しかし、そのナニかを完全には避けきれず左腕を掠めたその直後に音が追い付きアスファルトの地面を抉った

 

達也『!?(殺気!それにこの感触とアスファルトの抉れ具合、尖頭被甲弾か!)』

 

引き金を引く際の殺気でなくその前の照準の視線に気付いた達也

 

回避を考える前に身体が先に動いたのは僥倖だったのだろう

避けなければ、肺を貫通していた

左腕と服の接触部分を確認すれば直撃は免れているものの、ナイフで切られたように切り口から血が流れていた

しかしその流血も次の瞬間には癒え、否、傷口も塞がり破れた服も無かったかのようになっていた

 

音を置き去りにしたこの軌道、更には遠方に届くように作られたこの低伸性の高い弾丸が尖頭被甲弾と判るのには時間は掛からなかった

 

次撃を遅らせるために、コミューターの陰に潜む達也

 

その際、死体となった二人の男達が浮き上がり、黒の自走車の中に吸い込まれるように消え走り去っていくのを見逃す

 

本来ならば、爆弾の積まれた車だろうと爆弾ごと分解する達也だがあまり使用は控えたかった

理由は、街中という状況や変装しているとはいえこの魔法を少しでも記録させておきたくないという本音があり、もし仮に爆発したのなら他にもやりようはいくらでもある

また、自走車の中に隠れている人間もいないため放置しても問題ないと判断したのが正直なところである意味では達也の職務怠慢と言えるかもしれない

 

そして、精霊の眼(エレメンタル・サイト)で腕を掠めた痕とアスファルトを穿った弾丸の角度や風速など様々な要素を分析し現在から過去を見通す

 

達也『(…いた。)』

 

達也が精霊の眼(エレメンタル・サイト)を発動させ、弾が発射された位置を特定するのにおよそ0.1秒足らず

それと同時に懐からシルバーホーンを抜き取ると遙か彼方に照準を合わせる

 

その照準は1km以上先

 

達也『(驚くべきは魔法を使わずに成功させたその腕前だな。)だが、こちらもそう簡単にはやられるわけにはいかないからな。』

 

スナイパーが通常弾から貫通性の高い弾に装填し再度、スコープから達也を認識するも時すでに遅し

 

スナイパーが視認すると同時に達也は引き金を引き、スナイパーはこの世界から存在が消えていた

 

 


 

目を覚ました二人を駅まで見送る際、聖遺物(レリック)(偽物)の入った宝石箱を押し付けられそうになったが、丁重にお断りをして持ち帰らせた達也

 

すでに本物はこちらが持ってますとは言えないが、FLTには囮になってもらう必要があるからだ

 

帰宅早々、再び浩也に呼ばれ浩也の書斎に赴くと凛とモニター越しではあるものの風間が達也を出迎えた

 

簡潔に報告を済ませる達也に達也自身の懸念事項をあらかじめ払拭していた風間

 

風間『監視カメラは早急に対処しておいた。』

 

達也『ありがとうございます。』

 

いつもそうだが、風間や真田達独立魔装大隊のメンバー含む我が家族は自分を大切にしてくれる

 

一日でも早く皆を守ることでその恩を返したいと思うも中々それが実現しない

 

浩也『しかし、魔法も使わずに千メートル級の狙撃か。あの国も相当躍起になっているようだな。そして、それを躱すとは流石だな。』

 

風間『そうだな。そこまでの腕前を持つスナイパーは達也の他に十人といない。しかし、かすり傷だけとは。感知能力を上げたな達也。』

 

達也『いえ、油断していたのは否めません。幸運でした。』

 

いつもは厳しいこの二人に手放しで褒められると少しむず痒い

 

しかし、言葉とは裏腹に表情は固いのは一歩間違えれば、危うい状況だったからだろう

 

だからこそ達也は反省しているのだ

 

浩也『そりゃ、気を張っていれば避けれるさ。言いたいのは、危機察知に磨きがかかっているということだ。』

 

風間『そう思うなら修行だな。藤林も少し泣いていたぞ?』

 

達也『…しまったな。(ボソッ)…それで、奴等の目的は?』

 

確かに八雲の下で修業をして十年以上経つ

 

それに最近は少し気持ちの整理がついたためか感覚が以前より研ぎ澄まされているのは気の所為ではない

 

だが、響子が絡めばそれとこれとは別問題だ

 

要修行という烙印以上に女性を泣かせるという最低な男という烙印が付く

 

まあこの問題は後できっちり解決すると決め、咳払いを一つして本題に入る

 

浩也『それがなぁ。彼ら、国を侵犯するのではないと言い張っているようでな?あくまで目的は魔法施設や魔法師が狙いというわけなんだが…。』

 

風間『無論、そんな戯言を赦すわけにはいくまい。一般市民が巻き込まれるのは目に見えている。』

 

浩也『トップ連中は家の怖さをよく知っている。けれども、日本に魔法も技術も力も負けているのは嫌らしくてな。…後ろに魔法関連の連中が何枚か絡んでいるようだ。(ボソッ)』

 

どうやら、日本国を攻め、領土侵犯をするわけではないということらしい

 

表向きは魔法関連の施設及び魔法師に敵対する行動すると言い張るが、それでも国が灼かれるのはいただけない

 

いくら正当のように理由を並べても所詮、国のトップ連中も欲に塗れた愚か者ということだ

 

だから、利用されるのだ

 

達也『…なるほど。では、魔法師の幾人かを差し出すというのは?』

 

浩也『その幾人の中全て十師族だろう?というか、最近隠さなくなってきてないか?』

 

浩也と風間の説明にふむふむと頷き、名案だと言わんばかりの達也に浩也は何とも言えない表情をする

 

浩也の言う通り、最近の達也は魔法師特に十師族に対しては辛辣だ

 

凛『それは彼らが達也の神経を逆撫でするからですよ。』

 

風間『達也、冗談はそこまでにしておけ。』

 

義母である凛は苦笑交じりに風間にあってはもはや恒例だなと嘆息する

 

達也『すみません。それで、その聖遺物(レリック)の持つ性質というのは一体何ですか?』

 

こういう家族の会話も大事だが、今日はもう一つ協議しておく議題があるのだ

 

浩也『魔法式を保存する機能だと言われているようだ。一応、仮説の段階だが、十分な確度の観測結果は得られているそうだ。』

 

凛『…つまり、これを解析して複製(コピー)して欲しいということよ。』

 

一番達也が知りたかった情報はこれだ

 

少し前に浩也から聖遺物(レリック)が出土し、それをいくつかの国が嗅ぎつけてという情報を聞いていた

 

が、どのような性質かまでは知らされていなかった

 

そして、その嗅ぎつけた国の一つがそれを奪おうと画策しており、それを阻止すべく浩也らが動いたのだ

 

達也『そういうことでしたか。しかし、それを成そうとするには技術等で何とかなるものではないはず。』

 

浩也『それでも、業績を省みれば火中の栗を拾う必要があったのさ。』

 

FLTの業績としては途轍もなく悪いというわけではないが、良いかと言われれば良くもない

 

解析部門とはいえ牛山達の腕は相当だ

 

陽の目を見ることは無かったが、技術的側面を鑑みれば彼らの手によって助けられた抜けた部分は大きい

 

その穴を埋めるのは厳しいものがある

 

過去のツケが徐々に業績悪化という形で首を絞めたのだ

 

まさに因果応報だろう

 

達也『そして、泣き付いてあわよくば功績を独占をと。捕らぬ狸の皮算用を考えていたがいつのまにか聖遺物(レリック)を盗まれているのにも気づかずに、か。お笑い種ですね。』

 

浩也『言ってやるな。こちらにコンタクトをしてくれたから。合法的に(盗むことが)出来たんだから。』

 

達也『………。』

 

凛『浩也さん、達也が呆れてますよ。』

 

嘲笑う達也に対して浩也はそこまで興味を抱いていないように見受けられる

 

それなりには怒ってはいるのだが、浩也の目的はあくまで聖遺物(レリック)の奪取なのだ

 

そして、達也は国を、家族を守る為に了承はしたが、結果を見ればFLTを守ったことになる

 

二人の思惑が少々違うのは立場上仕方がない

 

浩也『あ、ごめん。』

 

達也『いえ、義父さんの考えの方が効果は抜群なのは間違いないですから。…では、あの国に関連することは個人で問題ならない程度で対処してよろしいですね?』

 

浩也の考えも解らなくはないし、別に浩也はタダでやったわけではない

 

後に何倍にもして返すつもりでいるのだ

 

その考えの方が達也自身の精神衛生上よろしい

 

その時に今までの貸しを何倍にもして返してもらえば良いのだ

 

風間『あぁ。能力がバレない程度ならな。もう一つ、十師族には用心しておけ。更に監視を厳しくしている筈だ。』

 

浩也『あとは感情的になるなよ。なっても良いのは、合法的な立場の時だけだ。』

 

制限付きでの独断で動いて良いという風間からの許可が下り、一安心と思いきや真剣な雰囲気の中に茶化す浩也

 

しかし、言葉とは裏腹に表情は真剣そのもの

 

そして、義母である凛や風間まで真剣な表情

 

達也『それ、どちらも感情的になれないのでは?』

 

浩也『そうとも言う。』

 

一体、どのような意図があるのやら

 

明言を避けるあたり達也が知るべきではないのだろう

 

やはり、まだまだ俺は子なのだろうなと顔を僅かに顰めるしかなかった

 

 

 

 




如何でしたか?

最後の方はなにを言ってるんだ?と思われるかもしれません。
うん、自分でも解ってるような解っていないような半分半分です。

①レリックは原作どおりFLTです。が、コソ泥しました。
②例のあの国の工作員二名…

今回はこんなところでしょうか。

また、次回も暇つぶしに見てください。

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