抹殺された神の愛し子 作:貴神
言い訳もしたくないくらいお待ちいただき申し訳ありません。
グダグダと長引くのも嫌なので、30話目です。
暇つぶし程度でもなれば幸いです。
翌日、五十里と花音、達也は昨日の出来事を報告するために鈴音と摩利、真由美の下を訪れていた
鈴音『そうでしたか。皆さんに怪我は?』
五十里『いいえ、ありませんでした。ロケットの爆風も彼、守夢君に助けてもらいましたので。』
達也『大したことはしていません。五十里先輩の適切な魔法がありましたから。しかし、身の危険でもないのに魔法はあまりおすすめは出来ませんがね。』
達也本人は本当に大したことはしていないという認識なのだろうが、あのロケット噴射に気付き二人を守ることは中々出来ない
それよりも達也自身が他人に忠告などすること自体が達也らしくないかもしれないが
花音『何よ、啓の魔法が駄目だったというの?あっ、分かった。君、自分に魔法力が無いから啓に嫉妬してるんだ!』
五十里『違うよ花音。彼は僕達の事を思って注意してくれているんだよ。思い返してみれば、僕達は何も身に危険は無かった。ただ、見張られていただけでね。あのあと、あの隠し球が無ければ僕達の方が処罰されていたかもしれないんだから。』
鈴音『その通りです。だから、守夢君は千代田さんに魔法を使うなと言ったのでしょう?もっとも、守夢君は貴女の魔法で相手が何らかの怪我を負わないように止めた可能性は高いでしょうが。』
が、そんな
他人を蹴落とそうとしたり、守ってくれたと感じたり
ーーーその警告も花音にとっては恋人の五十里からの言葉の方が優しくとも大ダメージを受けたのだろうが
摩利『市原、その辺にしといてくれ。花音も悪気があったわけではないんだ。花音、今回は守夢に感謝するんだぞ?五十里の魔法もそうだが、守夢は捻くれすぎてはいるが筋が通ったことしか言わないし、やらない。こういう時は私情は挟まずにきっちりしている。』
花音『…はい、摩利さん。』
真理としては鈴音の言葉が達也の行動に最も当て嵌まっているのだろうが、それを肯定してしまっては花音も暫くは立ち直れないだろう
しかし、達也が捻くれているのは真由美や摩利達の間では否定のしようのない事実なのか
花音を慰めている中、摩利の言葉に達也は渋い顔をする
摩利『うん、それで花音はその女子生徒?の顔は憶えているか?』
花音『ごめんなさい。一瞬のことだったので詳しくは。啓と一緒に名簿は確認したんですけれど。』
摩利『気にしなくていい。私もその状況ならば憶えていないだろうからな。』
どうも、脱線した感は否めないが本題はそこだ
近距離で接触した花音がそのストーカーとおぼしき人間の特長を第一高校の制服以外で憶えているかどうかだ
だが、いくら接近したとはいえ、あの僅か数秒で憶えられるわけがない
それも第一高校の女子生徒、数百人の顔を見分けられる程の情報量をだ
真由美『じゃあ、一緒にいた守夢君は?』
ならば、達也ならどうだ?
一瞬で魔法式を見分ける眼を持つならばその女子生徒?とおぼしき素顔の特長を捉えていても不思議ではないだろう
達也『私も覚えてはいません。何しろ、千代田先輩の行動に目を光らせていましたから。それにあの状況下では相手の行動に気を配っていたので。』
そう期待するも返ってきた言葉は【ノー】だった
自分ですらその余裕がなかったと
真由美『…まぁ、そうよね。スクーターにロケット噴射装置で逃亡を図るくらいだもの。吹き飛ばされないようにグローブに細工してるし、他に何か隠し球を持っていても仕方ない状況よね。』
鈴音『そうですね。では、守夢君の。いえ、小野先生の助言通り記憶媒体でデータを渡すことでいきましょう。』
そのストーカーが一体何を隠し持っているかは不明であるため、むやみにネットワークを利用するのは得策ではない
それには同感である鈴音達
対策というほどではないが策を講じておくことに越したことは無い
真由美『それでは、そのストーカーの件も含めて注意して行動していくことでいいかしら?』
達也『はい。それと校内の実験の時には少し警備を増やしても良いかもしれません。(探さずとも必ず姿を現す。気になるのは彼女がどれだけ相手の情報を知っているのかだ。何故、高校生にスパイの真似事をさせるのか。その目的が何なのか。それに、高校生よりも業者に扮したスパイの方が確実だろうに。何とも杜撰な計画だ。また、面倒事に巻き込まれるな。)』
摩利『了解した…。』
真由美『…』
一見、解決策も見出だせず不明点だらけの会議
達也ですら本心からお手上げですといった仕草に納得するしかなかった
だが、本当にそうなのか?と疑問が擡げてくるも追求したところで誤魔化されるに違いない
それに今回鈴音から達也の論文コンペの出場条件の中に詮索をしないと釘を差されている
だから、あとは達也が自発的に報告してくれるのを待つ他ない
もしかしたら、本当に憶えてすらいないのかもしれないが
エリカ『あ、戻ってきた。おーい、守夢君。』
達也『どうかされましたか?』
教室に戻ると、何やらエリカやレオ達の視線が自分に集中している
エリカやレオは普段からだが、美月までもが何かを尋ねたいように見受けられる
美月『…』
幹比古『ねえ、守夢。君は見張られている感覚はあるかい?』
達也『というと?』
美月は上手く切り出せないのか同様に感じている幹比古が達也に問う
美月『…その、何て言うのでしょうか?吉田君の言う見張られているではなくて、見られているの方が適切でしょうか。隙を窺っているというかなんというか。それに見ている範囲も大きな…。すみません、曖昧で。』
幹比古『ううん、柴田さんが気に病む事ではないよ。僕もそれは感じているんだ。校内の精霊が不自然に騒いでいる。誰かが式を打っているんだ。』
レオ『シキって、式神とかって
幹比古『僕たちが使う術式とは違うみたいで上手く捕まえられないんだけど。どこかの術者集団が探りを入れて来ているのは間違いないよ。』
幹比古の言葉に美月も自分の言いたいことが出て来たのか幹比古の言葉を補足する
要するにこの第一高校に
それが美月と幹比古の感覚に引っかかったというわけである
エリカ『それなら別にこの高校だと毎回来ても珍しくないんじゃないの?』
幹比古『そこなんだ。普通なら外塀沿いに張り巡らされた防御術式に一度阻まれるとその日は仕掛けてこない。けれど…。』
エリカの言う言葉ももっともである
ここは魔法大学付属第一高校、魔法文献の集まる宝庫であるため狙われるのは日常茶飯事と言える
ーーーしかし、
達也『今回の相手は何度もしつこく仕掛けて来ている、ということですね。』
今回のその術者は結界に何度撃退されてもしつこく仕掛けてくるらしい
幹比古『そう。分かるかい?』
達也『えぇ、おそらくですが。柴田さんの言葉を借りるなら、一週間以上前からですね。そして、吉田さんの補足をすれば術者はこの国の人間ではありません。大陸かr…語弊がありましたね。元々この国は大陸からの人間が多く来ています。最初の日の本をつくったと言われ、神の血をひくと謂われる神武天皇も大陸の人間という説が有力です。そして、この日本という国の歴史も書き換えられています。弥生時代からですね。ですから、日本の歴史は2095年より更に600年以上あるということは知っておいて損はないでしょう。純粋に日本の血を引く人間、即ち縄文時代の血がこの世にはおそらくいないでしょう。そして、術なども。修験道はわかりませんが、陰陽道も…話が脱線しましたね。今回のその古式魔法の術式もおそらくは別の大陸のものでしょうね。気になるのでしたら自分で調べることをお勧めしますよ。私が虚偽を言っているかもしれませんからね。』
幹比古『さ、流石だね。』
幹比古も達也から自分も知らない情報をもらうとは思っていなかったのか、どう反応すれば良いのかわからず当たり障りのない返答しか出来ない
エリカ『…守夢君って、どれだけの引き出しがあるの?』
実際、現代の古式魔法と家の術は全く違うため、否定する材料はいくらでも出せるのだが、それは他者と自分とを根本から違うと決めつけ区別ないし差別をしてしまう
それは自分が正しい行いや考えをしているのに他人が間違った道にいることを見下すといったことになりかねない
それは義父である亡き昌也や浩也、八雲、そして家の人間達はそれを是とはしない
多様性や何を信じるのかはその人間次第なのだ、例えそれが悪や愚かでも、間違いのあるものでも否定はしない
しかし、否定はしないが肯定もしない(もっとも、間抜けで洗脳されすぎな人間には更に洗脳してしまえというのは亡き両親と浩也、凛と更には家の人間の言葉で、その言葉に自分も開いた口が塞がらなかったのは今でも憶えている)
心がけてきたつもりがこれに関しては誤認されるのは嫌だという見下す感情が先んじたようで反省する達也だが、論理的に否定はしたが正確な知識は教えたつもりもないのも確かである
幹比古『守夢の言う通り、僕の使う術式は魔法用に昇華されつつあるから術とは言えない。魔法は魔法で対抗できるんだけど、魔法は術には対抗出来ない。それに比べ術は魔法にも対抗出来る。けど、少し発動に時間が掛かるから現在では魔法の方が良いとされているんだ。』
達也『古式魔法に関してはその通りです。』
レオ『で?その大陸の術式がどこのもんなのかは判らないのか?』
達也の言葉で一番の疑問点はそこである
いつから見られていたかなど議論しても疲れるだけであり、建設的な話としてはどこの誰が見ていたのか?である
エリカ『あたりまえでょ。そう簡単にに判れと言う方が無茶な話よ。』
レオ『でもな、こんなに好き放題されちゃあな。』
エリカ『全くよ。一体警察は何をしているのかしら。』
普通なら、達也が大陸からと答えればどこの国かも判っているのでは?と勘繰られてそうなものだが、どうやらその前にエリカの感情の爆発先があったようだ
そして、エリカの口振りからどうやら警察という公機関ではなく警察にいる誰かに向けられているのだと気付いたのは達也だけだった
それと同時期に一人の男がくしゃみと共に視線を感じるのか、何処からか見張られているのではないか?と視線を彷徨わせていた
稲垣『警部、風邪という名の仮病ですか?』
千葉『いや、どうも悪寒がね。』
稲垣『間違っても頭痛が痛いや腹痛が痛いなどと仮病の病に冒されないでくださいね。』
千葉『…君ね。』
さんざんな言われようである
自分としては別に仕事が嫌いではないが、否仕事が面倒な時もあるためそんな時はサボったりはするが基本的にはキッチリと仕事はこなす方だとは思っている
まあ、勤務態度を四六時中見られていては真面目とは結びつかないのは仕方のないことだとは思っているため軽く睨めつけるだけにとどめた
稲垣『それはさておき、まだ聞き込みを続けますか?目撃者は出てこないように思うのですが。』
千葉『うーん、それは少し違うな。まあ、やり方は変えるべきだとは思うけどね?』
先日の不法入国の事件に関してめぼしい箇所を捜査しているものの一向に手懸かりが掴めない
稲垣の言葉に千葉はもっともであり、やり方は変えるべきだろうとは考えていた
稲垣『警部、まさかとは思いますが…。』
千葉『おいおい、そんなおっかない顔をするなよ。何も違法捜査をしようってわけじゃないんだ。』
稲垣『では何を?』
千葉『…蛇の道は蛇ってね。』
上司である千葉からこの言葉を聞くときは必ず何か悪巧みをしている
何年も相棒を務めているためこの後の行動が読めてしまう
釘を差そうとするも違うと言い張る千葉
一体何をしようというのか?
稲垣『…警部。先程の言葉を蒸し返すようで悪いのですが、違法捜査は…。』
千葉『分かってるさ。しかし、四の五の言っていられる場合でもないだろう?』
稲垣『それはそうですが、ここが?ただの喫茶店としか…まさか、捜査と託けて。』
千葉『おいおい、ここがその蛇…じゃなかった。情報の集まる場所だぜ?まあ、ここのマスターは犯罪歴は無いから安心しな。』
車に乗り込み走らせること約三十分程、横浜・山手の丘の中程に位置する喫茶店
一体、ここに何があるというのか?寧ろ、何をこの周辺で行おうというのか
いや、上司である千葉のことだ
拗ねて職務放棄する可能性もなくはない
そんな思考を巡らせていたが、本当にこの喫茶店が千葉の考えていた何らかの方法のようだ
稲垣『なるほど。我々にも尻尾を掴ませないほどの。』
しかし、このような場所で法ギリギリの所業が行われているなど言語道断
千葉『いや、大物ではなく。職人と言った方が適当だろうね。』
稲垣の言葉に苦笑気味の千葉だが、誤解は解いておくべきなのだろう
ーーーが、このお堅い部下がそれを受け入れられるかは別として
カランコロンと昔ながらのベルの音とともに店内に入る
店内はいたって普通というべきか、平日の昼間を過ぎたこの時間帯
人気の観光スポットが近辺にある為か客の入りは多かった
しかし、それは閑散とする喫茶店と比べてという意味合いであり、賑わっているとまではいかない
店の雰囲気と物静かなマスターのキャラクターがそうさせるのか、客は静かにカップを傾けている
全体的にも客層の年齢層は高く、この店の雰囲気が好きなのだろう
時間の流れも緩やかに感じられ、通好みな店なのだろう
二人はカウンターの端の方に座り、マスターが顔をこちらに向けるとブレンドを二つ注文する
この店のマスターは
コーヒーが出てくるまでは話は出来ないため、手持ち無沙汰の時間で店内を見渡す
建物は木造で、仄かに木の香りが漂ってくるが、何の木の種類なのかは分からない
しかし、少し薄暗い店内と木の色は絶妙に合っている気はする
ふと、視線をカウンターに移すと二つ程空いた席に飲みかけのコーヒーが置いてあった
マスターがカップを下げないところを見ると、一時的に席を外しているだけのようだが旨いコーヒーも冷めてしまっては台無しであり、もったいないだろうとお節介のような思考をしてしまう
が、どうやら自分がコーヒーを傾けている間にその席の人物は戻ってきていたため何故か一安心していた
そして、カウンターに戻ってきたのは若い妙齢の女性
年齢を訊くのは野暮だが想像するのは許してほしい、おそらくだが、千葉と同じくらいだろうか?
珈琲がまだ来ないため千葉は何度もその女性を盗み見てしまうのはその女性の容姿にある
容姿としては、可愛いという感じではなく綺麗なという言葉が似合いそうなほどに気品と佇まいがある
更には、あえてそうしているのかは不明だが、化粧の具合が控えめであり服装も平凡な色のブラウスとスカートでわざと目立たなくしているようにも見受けられるからだ
千葉『…(チラッ)』
稲垣『…(オホン)』
仕事でここに来ているにも拘わらず女性に目を取られている我が上司を戒めるように咳払いを一つする
千葉もばつが悪かったのか、慌ててカウンターでマスターの淹れるコーヒーに視線を戻す
???『クスッ。』
千葉・稲垣『!?』
???『失礼しました。女性は苦手ですか?千葉の
不意に、隣からクスクスと小さな笑い声が聞こえ振り向く
ひとしきり笑い終え、満足そうなその人物は先程の女性だが、驚くべきことに自分の正体が判っていたのだ
千葉 寿和という人物が千葉家を背負う人物だということは隠しているわけではないが、広めているわけでもないため自分の正体に気付くということは警察関係か犯罪者を除けば魔法の特に実戦魔法の経験者のみ
もっとも、弟の方が名も知られているため自分にスポットライトが当たるのは珍しくもあったため少々警戒してしまう
千葉『!?貴女は。』
だが、彼女の自己紹介でその警戒は驚愕に彩られることになる
???『そういえば、名乗ってはいませんでしたね。初めまして。私、藤林響子と言います。』
藤林 響子
古式魔法の名門の藤林家の令嬢であり、日本魔法界の長老である九島烈の孫娘が千葉の前で屈託ない笑顔を向けていた
ほのか『達也さん、今回の論文コンペの準備は終わったんですか?』
達也『一先ずは形に出来たというところかな。添削をしてどれだけ修正が出るかだな。あとはデモ機やその術式の調整諸々が残っているからな。一応は一段落と言っても良いだろう。』
ここ最近、達也はほのか達とは放課後一緒に帰ることが無かった
というのも、鈴音、五十里と共に論文コンペの準備で多忙を極めていたからだ
エリカ『へぇ、大変そうね。そういえば、美月の部活でデモ機の模型を製作してるんだっけ?』
美月『う、うん。でも私は何もしてないよ。二年の先輩が主導してやってるから。』
エリカ自身論文はあまり触れたくはないのか、次の話題に逃げる
美月はエリカの心情を知ってか知らずかエリカの質問に答えているが幹比古とほのかは苦笑と雫とレオは同情するような表情をしている
達也『まあ、五十里先輩がその模型作りを担当しているからな。二年生が主導になるのも仕方ないさ。』
レオ『で?達也は何を担当してるんだ?』
達也『俺はデモ用術式の調整だ。』
雫『…普通、逆だと思う。』
達也『得意分野が違うだけだ。俺は型を作るのが得意ではないから、そっちの方面で長けていたのが五十里先輩であっただけだ。』
雫の言い分も一理あるが、特段達也は不満に思ったことはない
得手不得手があるように五十里の方が模型(ハード面)が得意だけだったため達也も得意な方を選んだだけなのだ
エリカ『まあ、そうかもね。【魔法使い】というよりは【錬金術師】がしっくりくるしね、啓先輩は。達也君の言う通り適材適所な気がする。』
うんうんと達也を除く全員が頷く
確かに五十里はそういうイメージかもしれない
それと同時に、ならば達也は何に喩えられる?と不謹慎にも興味が湧いてくる
達也『そういうことだ。間違っても俺はとある国の暴君や陰の支配者、支配を目論む魔法使いといった立ち位置でもないからな?罷り間違ってもRPGに登場しそうな人物ではない。』
しかし、その思考を達也が見透かしていないわけがない
全員『!?』
達也『…おい。』
ギクッと如何にも擬音が付きそうな反応に達也もツッコミをいれる
エリカ『そ、そんなこと思う訳ないじゃない。』
ほのか『そ、そ、そ…そうですよ。』
代表して誤魔化そうとした二人だが達也を相手にその誤魔化し方は更なる墓穴を掘りかねない
達也『そうか、なら安心した。まあ、俺としては森の奥深くでひっそりと暮らす木こりだと思うがな。』
レオ『確かにな!でも俺としてはマッドサイエンティストとか考えちまうぜ。』
美月『私も達也さんは勇者とか賢者ではない気がしました。』
と、わいわい再びはしゃぎ始めたエリカ達
誘導されているとも知らずに挙句の果てには「大魔王」とまで例えられては少し説教が必要である
達也『…ほう。ならお前達はその大魔王に支配される村人といったところか?』
全員『!!』
地を這うとまではいかないまでも冴え冴えとした達也の(故意的)声音と気迫に冷や汗が止まらないほのかや雫達
達也『雫は悪ノリする癖はあると思っていたが、幹比古、お前までとは。』
幹比古『うっ。ご、ごめん。』
雫『ごめんなさい。』
ほのか『ごめんなさい。』
達也『全く。まあ、歩きながらも何だから、いつものとこでお茶にしないか?』
怒っているつもりは全くないが、調子に乗ると後々面倒な展開にはなるのは予測出来るため抑止は時折必要だ
だが、それとは別に今回の行動には意味があったがーーー
エリカ『…賛成!』
ほのか『行きましょう!』
マスター『やあ、達也君。いらっしゃい。今日もモテモテだねぇ。』
達也『いつも誰かを侍らせているような発言はやめてください。それにマスターも髭を剃ればモテモテですよ?』
マスター『いやぁ、ごめんごめん。』
カランカランとベルを鳴らしながら入店する達也達を出迎えてくれるのは髭を蓄えたアイネブリーゼのマスター
今時死語であるモテモテなどという言葉を遣い冗談混じりで達也を揶揄うと達也も冗談で返す
エリカ『え?違ったの?こんな美少女達をいつも侍らせてさ。』
達也『おい、その言い方は語弊があると思うが。』
雫『達也さん、私達というものがありながら浮気?』
達也『またその
本当にいい加減にしてほしいと内心愚痴る
達也自身としてはほのかや雫、真由美を筆頭に男女の関係になりたい等と考えたことは一度もない
イレギュラーがなければあの九校戦での出来事も参加していなければありえなかったであろうし、また、本来ならば、自身の役目を遂行するだけで三人の思いを受け止めず、結ばれることも結ばれようとも思わなかった
マスター『え?、達也君。もしかしてだけど、彼女とかいるの?』
これには初耳だったようで、マスターの表情を表現するとすれば青天の霹靂か
達也『恋人じゃありませんよ。こn…』
ほのか『婚約者という名の妹です!』
マスター『!?達也君、それはいけない。近親婚は禁じられてるからね!』
達也『違います。確かに婚約者とも呼べる人はいますから。』
別に隠す必要もないためある程度は公にしておくべきだろう
ーーーまぁ、その暴露しなければならない根源がほのかや雫、真由美達であることは間違いないが
マスター『(ホッ)良かった。』
(義理の)妹と聴いてマスターもあの達也が、と僅かだが疑ってしまったものの、真面目できっちりとした性格の達也が(義理の)妹とそのような関係になるわけもない
何かしら達也の家の事情があり、もしかしたら別に婚約者がいるのかその(義理の)妹とは血縁でも何も無い可能性が高いため達也からはっきりと否、と回答をされてホッと安心したマスター
ほのか『え?誰ですか!』
雫『誰なの?』
エリカ『一体、どこの誰よ!』
達也の言葉のニュアンスから自分たちの知らない達也の婚約者が居ると直感するほのかと雫にエリカ
ほのかと雫は明らかだが、エリカに関して言えば達也に好意があるのか怪しく、半分誂いがありそうで微妙なところである
達也『教えるわけないだろう、秘密だ。』
ここまで諦めずに食いつくとはもはやある意味では尊敬してしまうと達也は厭きれ交じりに三人を突っぱねる
レオ『…』
幹比古『…』
その様子をほぼ外野の立ち位置のレオと幹比古は達也に対する三人の勢いに引いていた
マスター『へえ、達也君論文コンペに選ばれたんだ。』
達也『無理矢理座らされた助手という立場ですよ。』
マスター『いやいや。その助手に選ばれるということがどれほど凄いか。僕は一般人だけど、それはなろうと思ってなれるものではないからね。きっと得難い経験になると思うよ。』
このマスターは魔法の世界には属していない一般の人間である
だが、魔法の世界に関してとても興味を抱いており、普通の魔法師より知識はあるため、よほど勉強しているのだと達也でさえ舌を巻いたものだ
達也『ありがとうございます。』
マスター『今年は横浜で行われるんだよね?僕の実家も横浜で喫茶店を営んでいてね。開催場所が国際会議場だったら、すぐ近くだね。』
美月『そうなんですね、横浜のどちらなんですか?』
てきぱきとそれでいてカップに丁寧に注がれるコーヒーを眺めながら美月は尋ねる
マスター『山手の丘の中程にある【ロッテルバルト】って名前の喫茶店だよ。詳しくは達也君が知ってるから彼に連れて行ってもらってね。』
レオ『そうなのか、達也?』
達也『あぁ。横浜に用事があった際、時間があれば寄っているな。』
達也の言葉に全員が何故か納得の声を上げる
入学当初、達也から己の名前を呼ぶことを許さず姓で呼ぶように言っていたにも関わらずこの喫茶店のマスターは名前を口にしていたからだ
これで謎が一つ解けた
マスター『そういうわけだから、親父と僕のコーヒー、どちらが旨いか忌憚ない意見を聞かせてほしいな。』
雫『マスター、商売上手。』
マスター『ありがとう。あと、達也君。親父が近々顔を見せて欲しいと言っていたから。論文コンペの帰りにでも寄ってあげてくれないかな?』
達也『近々、世間話にでも伺いますよ。』
そう応えるとマスターは満足そうに頷いた
エリカ『ごめん、ちょっとお花摘みに行ってくる。』
談笑すること十分程、エリカがカップに三分の一残ったコーヒーを傾け一気に飲み干すと席を立つ
レオ『おっと、すまん電話だわ。』
それに倣ってかレオも携帯を片手に店を出る
そして、幹比古は何やら一枚の和紙の紙片と墨を取り出していた
達也『…幹比古、
幹比古『…了解。』
三人が何やら慌ただしくしたしたためか、ほのか達は不思議そうな表情をする
達也はのんびりとカップを傾けながら、釘を差すだけに留めるのだった
エリカ『おーじさん、あたしと
???『おいおい、お嬢ちゃん。自分を大切にしないといけないよ。』
この閑静な住宅街で物陰に潜むようにしていた男はこの美少女と評しても過言ではないこの少女の言葉に思わず手に持っていたテイクアウト用のドリンクカップを落としそうになった
ニコニコと笑みを浮かべる少女は男が尾行していた男の連れだったからだ
エリカ『?一体、何を勘違いしているのかしら?イイコトをどう意味に捉えたのかしら?』
エリカ、レオ、幹比古が気付いたのは偶然だった
店に入る前、達也が住宅街にも関わらず殺気を放ったからだ
その行動に対してエリカ達は身構えた時、センサーに引っ掛かった気配が一つあった
その気配の主は喫茶店に入ってからも自分達を監視しているかのようだった
ならば、学校で見ていた人物はこいつなのではないか?
そう疑問が湧いてきたため三人はこの気配の主をおびき出し正体を暴こうと動いたのだ
???『!?…ははは、大人をからかうんじゃない。最近は物騒だから、こんな時間から出歩いたら通り魔に出会ってしまうじゃないか。』
両手を背中に隠したまま放たれた少女の闘気に身構えそうになるも鋼にも似た理性でそれを抑え込む
おそらく、殺気であったならば臨戦態勢か逃走行動に移ったであろうことは間違いない
【バレてはならない】
男の思考に占めるこの言葉はプロとして大人をからかう少女を軽くあしらわなければならない
平常心を取り戻すために距離を取ろうと一歩引こうと重心をずらそうとした、その時だったーーー
レオ『通り魔って言うのはこんなヤツのことか?』
エリカ『通り魔って言うのはね、通りすがりの魔法使いを言うのよ。』
レオ『おーおー。怖いねぇ、この女は。』
自分の背後にもう一人近付く気配の主は体格の良いもう一人の少年
前後を挟み、更なる攻勢を掛けるエリカとレオ
???『…助けてくれ!強盗だ!』
ーーー逃げられない
そう判断し、様々な状況等を踏まえて導き出した男の行動は大声で叫び、助けを請うことだった
しかし、男の声に反応する者は誰一人居らず
違和感を憶えた男は周囲の住宅街を見やれば、何かとは言えないものの明らかに空気が変わったことを悟る
エリカ『大の大人が情っさけなーい。』
レオ『そうか?俺としては適切な判断だと思うぜ?』
エリカ『ふん、そんなこと周囲を確認すれば判るじゃない。』
レオ『!おっと、言い忘れてたけどよ。大声だしたところで無駄だぜ?ここ周辺は人払いの結界を張ってあるからいくら騒ごうと誰も来ることはねぇぜ。』
男の違和感はどうやら杞憂ではなく、当たりだったようだ
男とこの二人を囲う結界は確かに存在していたようだ
男の大声で叫び、助けを請うという判断に少女は肩透かしを食らった気分のようで、少年の方は気が殺がれるものの男の素早い行動に称賛をおくる
エリカ『こいつの言葉を補足すると、この結界は私達の【認識】を要に結界を作り上げてるから。此処から出たければ私達の意識を奪わなければ脱出出来ないわ。』
しかし、構えは解いておらず警戒したままである
なぜなら、男の目はどこか諦めた、しかし雰囲気は一般人では出せない迫力がある
ドリンクカップを放り投げ、ステップを踏み両腕を頭まで上げて頭部を守るようにする
防御一択か?と考えるもすぐに左腕を下げ、脇を締めて肘を直角に曲げる
更に正対させていた体を右半分を隠し左半分だけ視認させ、被弾箇所を減らし的を小さく防御は最大限に、攻撃は最速を放てるように左腕はジャブの構えで臨戦態勢を取っている
男の纏う空気が一気に変わり、肌がピリピリとするとはこの事かとレオは一人納得していた
レオ『ボクシングのヒットマンスタイルってやつか?見たところ、武器は無さそうだな。』
エリカ『バカ。今持ってないから絶対に持っていないなんて安易すぎるわよ。』
エリカの忠告に男は隠そうともしない舌打ちとは裏腹に焦った様子もない
先程の情けなく悲鳴をあげて助けを請おうとした男とは思えないほどだ
触れれば切れそうなほどの殺気にも似たその気迫はエリカとレオに構えを取らせた
それと同時にレオに男の拳は人間とは思えないほどの速度と威力が襲った
レオ『!?』
レオは油断はしていない
寧ろ、警戒心剥き出しでいつでも応戦出来る態勢でいた
しかし、男の繰り出す鞭のようにしなる腕と鉄のような拳に防御しか出来ない
エリカが助力しようにも男はそれを牽制するかのように視線がかち合う
レオ『カハッ!』
エリカ『レオ!』
数十発以上のパンチにさしものレオも防御しきれず、鳩尾に深く突き刺さる男の拳
くの字に折り曲がるレオに男は回し蹴りを横顔に見舞い、数メートル先の住宅の壁に吹き飛ばすと直ぐ様エリカに強襲する
エリカ『!?』
振り返ろうとする遠心力を利用してダガーを死角からエリカに投擲するのをわかっていたエリカは警棒で払い落とす
しかし、その内側から外側へ払ったために正面で構えていた防御が解かれることになる
そんな絶対的な隙を見逃すはずもない
左のジャブが顔面を襲うも難なく避けるエリカ
次々と襲いかかってくる拳に長年の修練により鍛えた体が先に反応し、警棒が男の顎を狙ったが危険を察知したのかバックステップで距離を取る
一呼吸おき、体勢を整え再びエリカに仕掛けるはずだった男の体はがら空きだった脇腹にショルダータックルをまともに喰らい、地に叩き伏せられた
レオ『…おぉぉ痛えぇ。流石にさっきのは効いたぜ、機械仕掛けっていう感触でもねぇし、魔法を使ってなかったところを見るとこいつはケミカル強化か?』
エリカ『あんたこそ、普通なら数発で延びてるわよ。』
あれだけの猛攻に大したダメージを受けていないようなレオのタフさに若干引いてしまうエリカ
レオ『そりゃ、少なくとも四分の一は研究所がルーツの魔法師だからな。自分の遺伝子が百パーセント天然モノって強弁するつもりは、ね、え、よ!』
自分の出自を後ろめたくは感じないが、あからさまに表情に出されては突っ込みを入れつつ起き上がろうとする男の鳩尾に爪先での蹴りを入れるレオ
???『グフォ!』
レオ『おっと、大人しくしとけよ。別に命まで取ろうって訳じゃねぇんだ。俺達が聴きてぇのは、どうして俺達を尾行していたのかっていうことだ。』
レオの口から出てくる言葉とは裏腹に行動は過激なものである
???『…ぁ…ま、待て。…分かった、…話そう。…こんなところで踏み潰されては…たまったものではない。…それに私は君達の敵でもない訳だからな。』
レオ『よく言うぜ。アンタの攻撃、俺とこいつじゃなけりゃ死んでるぜ?』
???『…それは君も同じだろう。先程の蹴りも肉体を強化している私でなければ内臓破裂しているだろう。』
ゴホゴホと先程の蹴りがまだ効いているため、息を整えてダメージの回復に努めながら男は答える
レオ『当然だ。強化していると踏んでなきゃあんな真似はしねえよ。それよりもだ、あんたはなんで敵でもない俺達を尾行してたんだ?』
???『…』
レオ『だんまりか?此方もいつまでも結界を張らせてる訳にはいかねえし。人目に付かないとも限らねえからな。こっちもそれ相応の…』
???『分かった、こちらも人目に付くのは避けたい。』
最初の質問に答えないことは想定済みだったのか半ば脅す形で吐かせようとするレオの姿は悪人そのものな気がするのは気の所為ではない
レオ『なら、まずは自己紹介をしてもらおうか?』
???『ジロー・マーシャルだ。』
エリカ『どうせ、本名でもないでしょうし。それで?どっから来たの?』
???『詳しく身分は言えないが、どこの国にも属しない組織だ。そして、さきほど述べたように君達と敵対するものではない。』
エリカ『つまりは
スパイとしてはありがちな言葉に聞こえるが、嘘を言っているようには見受けられない
また、男も馬鹿でないためイエスともノーとも答えない
レオ『なるほどね。なら、何を聴いてもまともな情報なんて出てこねぇだろうし。目的とその行動に至った経緯とやらを聴かせろよ。』
ジロー『…いいだろう。私の任務は日本の魔法科高校の生徒達を経由して先端魔法技術が東側に盗み出されないように監視、軍事的脅威となりうる高等技術が盗み出された場合はこれに対処することだ。』
東側、これは先の大戦後で使われた用語で西側つまり、
寧ろ、わざとローカルな用語を使いミスリードさせる可能性もある
レオ『東側な、でもあんたUSNA側でも無いんだろう?それにこの国の誰かが雇い主という訳でもなさそうだ。こんな手間暇掛かることをするんだよ?』
ハッキリと言って、信用出来ないといった風のレオとエリカ
ジロー『(ハァー)この国の擬似平和ボケも治ったと思っていたが、そうではなかったか。…いや、君達ティーンエイジャーにそれを求めるのは酷というものか。良いかね、軍事的問題は一国の問題ではないのだ。新ソ連はこれまで魔法式の改良に注力してきた。大亜連合は現代魔法ではなく、前近代魔法の復元に注力してきた。それがここに来てエレクトロニクスを利用した魔法工学技術の軍事利用へと急速に傾斜してきている。USNAでも西ヨーロッパ諸国でも魔法工学技術を狙ったスパイが急増している。君達の学校も東側のターゲットになっているんだぞ。更に言えば、数というのは強力な武器なのだ。いくら質を上げてもそれを使う者がいなければ物量には勝てない。東側の国は技術こそまだまだ低いが人口は圧倒的だ。革命というのは簡単に言えば、物量が勝れば成功するのだ。そこに技術が入れば西側と東側のパワーバランスが無くなる。そこからは君達でも解るだろう?つまりは戦争になる。』
だが、現代はそうならないようになっているのも確かである
何故、支配者層に勝てないのか?それは支配される側が団結出来無いように操作されているからであり、また今回の場合、軍事的技術が漏洩しないように対処するのがこの男の任務でもあるからだ
そういう意味においてはこの男が属している組織というものは真の平和というものから一番かけ離れているのだろう
平和というのは話し合いだけで解決はしない
弱者に物言わせないように強者が押さえ付け、反抗させなければそれも平和でもある
また、平和だと嘘をつき続ければそれもいつかは偽りの真実として塗り替えられるのだ
それが洗脳とも言えるのだ
だが、もっと卑劣なのは暴かれたくない真実から目を逸らせるために外部から攻撃を受けているという如何にもな偽善な愛国心を掲げさせ、戦わないことを悪と認識させることだろう
そして、その言葉に乗せられる人間もまた偽善者であり悪なのだろう
エリカ『失礼ね。私達だっていつだって戦闘モードよ。現にあんたの尾行にも気付いてたしね。』
ため息混じりのジローに心外なと謂わんばかりのエリカだが、問題視すべきところはそこではない
更に深く掘り下げれば、勘の良い人間なら尾行など気付くし、油断もしない
ジロー『あくまでも私達はスパイではない。それを阻止する立場であり敵ではない、故に利害の対立もない。そのため、それに油断して易々と敵の術中に嵌まり、後手にまわることも憶えておきたまえ。』
服に付いた埃を払う仕草を見せながら立ち上がるジローの手には一丁の拳銃
その銃口はエリカに向けられていた
レオ『っ!てめぇ。』
ジロー『先程、これを使わなかったのが君達の敵ではないと言った証拠だ。』
エリカ『…白々しいわね。単に銃の使用がまずかっただけでしょ。弾痕だったりとか痕跡が残るしね。』
狙撃の態勢ではないものの構えには隙はない
引き金には指は掛けられており、下手に動くのは望ましくない
そして、エリカは理解していた
CADの急速な発達でいくら魔法の発動速度が上がっても拳銃等の弾丸の速度には勝てないことを
魔法は万能ではない
確かに銃火器に比べて威力や速度、柔軟に対応出来る力ら圧倒的に上がったが、銃火器に匹敵するものを手にいれたとは言えない
命のやり取りをする上でコンマ秒を分ける瞬間には引き金を引き弾丸を発射する速度と魔法式を読み込み、構築し発動する魔法の速度では弾丸が先に肉体に穴を穿ち致命傷を負わせることも可能だ
だからこそ、戦況を読み先手を取り有利に持っていく必要があるのだ
しかし、今この状況では後手に回っている二人
ジロー『それもある。さて、君達の望む情報は話したと思うがどうだろうか?そろそろ退散させていただきたいからお仲間にこの結界を解くように言ってもらえないか?』
エリカ『…』
レオ『…』
結界を通して視ているであろう幹比古も結界の解除に動くだろう
ジローという男の言う通り、現在の状況は少し掴めたのは確か
ーーーしかし、敵ではないと言い張るこの男をみすみす逃して良いのか?
達也『その必要はありません。何故なら、すでに解かれていますから。』
エリカ『達也君!?』
レオ『どうやって入ったんだ?というか解かれているって。』
達也『結界に入るには解除するか入れてもらうか。この二つです。今回は前者の解いてというか壊して入った、になります。まぁ、その方法についてもいくつかありますがね。』
後手に回っているこの状況に苛立ちを隠せない二人の後ろに現れたのは、店内で静観を決め込んでいた達也
それと同時にとんでもない爆弾を投げ込んできたのは怒るべきだろう
ジロー『…守夢達也。』
ジローは混乱していた
普通なら気づくはずの人間の気配を本人である達也が言葉を発するまで気配を掴めなかったことに軽くない衝撃を受けていた
視界に入っていないならまだしも、エリカとレオの背後におり、更に言えば自分の真正面にいたにもかかわらず気付けなかったのは失態だった
そして、ゆっくりと歩を進めエリカとレオを庇うように前に出た達也
達也『さて、彼等が来ているのは知っています。それを監視、情報漏洩の場合は阻止するのがあなた達の役目ですが、些か覗き過ぎでは?』
ジロー『…ならどうするというのだ?』
達也『何もしませんよ?私達に害がなければ放置するだけです。』
達也の言う彼等はエリカとレオには判らない
しかし、少し頭を働かせれば判る単語ではある
そして、その単語にジローは眉を僅かに動かすだけに止めたのは、それよりも疑念が生まれたからだ
ジロー『敢えて言おう。今回は守夢達也、君が狙われていると言っても過言ではない!君も気付いている筈だ、論文コンペに選ばれてから更に見られていることに!』
この男、守夢達也は自分が忠告したことを理解していないというより動こうとしないことに苛立ちを募らせてしまう
この現状を作り上げている元凶の一端が達也自身であることに一ミリも危機感や焦燥感、罪悪感が無いのだ
そして、それすらも解っていながら対岸の火事だという認識を変えようとしない
否、ジローが行おうとしていることにも気付きながら、それを勝手にしてくれと言わんばかりであり、達也自身に実害が及ぶ可能性はゼロではない
それなのに、この男はーーー!
激情に流され、思わず銃口を達也に合わせたジロー
達也『それで?』
ジロー『!?(い、いつの間に!)…敵対する者でもない私をどうするというのだ?』
決して油断や隙を見せてもいない
それなのに瞬き一つにも満たない時間で自分の間合いに入られ、拳銃を抑え込まれる
1センチにも満たない引き金の隙間に小指が入り、引くことも出来ない
学校やこの登下校の間から気になっていた
この男は他の誰よりも何かが違うと
それが住宅街で見せた殺気と今の刹那の間合いを詰める動きがその証拠だ
達也『勘違いするな。お前達が敵対しようとしまいと敵と判断するのは此方側だ。…喋り過ぎたようだな。俺がお前を潰す前に失せろ。』
横暴な、と反論したいが現実はそう甘くはない
先程の二人も敵ではないと油断していたが、達也のように信じない人間もいる
寧ろ、後者が大半を占めるだろう
口では何とでも言えるが、行動が伴わなければならない
しかし、それを黙って見ていてくれるほど甘くもない
敵と認識すればやることは一つ、排除のみだ
だから、達也の行動は至極当然である
そう考えると自分自身も平和ボケしていると言える
ジロー『…失礼する。』
達也が結界を解いた後すぐに逃走を謀れば問題なかったが、任務を忘れて感情的になっていた
達也の言うように周囲の住宅街からこの喧騒を窺うような気配がいくつもあることに気付く
これ以上この場に居ては任務どころではなくなってしまう
ジローは拳銃を懐に収めると帽子を深く被り直し、強化した脚力で早々に去っていった
エリカ『達也君、ありがとう。』
達也『気にするな。まあ、油断し過ぎたな。』
レオ『すまねえ。でも、逃して良かったのか?』
油断してしまったため返す言葉も無いが、みすみす逃してしまったのは心残りではあった
達也『何を勘違いしているのかは知らないが、あの男の組織は謂わば中立よりもこちら寄りだ。それに捕らえた処で吐く訳でもない。それよりも、だ。』
スパイ映画の観すぎか、レオやエリカの目にはあの男が拷問や何らかの方法で自白するものだと勘違いしているようだ
いくら、利害関係が無くても組織を売るわけはないのだ
そんな口の軽い人間を組織は入れないし、そのような行動に至った場合は即座に抹殺だろう
ーーーまあ、達也にとっては興味の無い話ではある
レオ『?』
エリカ『派手にやり過ぎたってことでしょ?』
達也『いや。もうすぐ日が暮れるから帰らないか?お前達はともかく、ほのかや雫、美月は自衛の手段も少ないからな。まあ、エリカの言うこともあるがな。』
達也の帰りたい宣言に呆れるエリカとレオ
エリカ『…本当に、達也君は危機感が無さそうね。あの男の言う事は嘘では無かったと思うんだけど?』
レオ『まあ、それが達也らしいといえばそうだけどな。それよりも、彼等って誰だ?』
ジローの言っていた言葉は信憑性は高いのだが、達也にとっては鬼気迫る話でもなかったようだ
それに、ジローに話していた言葉には達也を狙う人物または組織に心当たりがあるようだった
達也『それは追々な、近々話すことも出てくるからその時だ。』
今は話せないと言われれば、引き下がるしかない
いつの間にか来ていた幹比古とレオ、エリカ達は渋々ながらも頷く
特段、三人や他の人間が狙われているわけではない
その狙われているであろう達也が知る必要のないことだと言うならば無関係であった方が良いのかもしれない
もしくは、来たるべき時のために準備をしておけ、ということなのかもしれない
思わぬ落とし穴ならぬ美女に出会い、当初の目的を忘れている千葉
隣にいる稲垣はそんな千葉を見ながら、やきもきしていた
無論それは響子の話術によるものだが、意図的に行っているため彼女を止めなければならず、千葉が全て悪いわけではない
そんな二人の会話に割ってはいる一つの電話
響子『…!、すみません、警部さん。少し席を外しますね?』
上司である風間から定期業務連絡かと思いきや、達也(旦那?)からの連絡もあり、千葉に向けていた作り物の笑顔から本物の花がほころばんとする笑みに変わる
その笑顔が影響してか、千葉に向ける笑顔もまた少し違ったものに変わり、千葉と稲垣さえも頬を僅かに朱に染める
千葉『えぇ、どうぞ///』
店外へと出る響子の後ろ姿にも熱い視線を送る千葉に再び嘆息する稲垣だが、彼もまだ顔の朱みが戻らない
ーーーもし、ここに達也が居たならば千葉と稲垣は殺気に呑まれるか店外に出たところで闇討ちされているところだろう
響子『珍しく
滅多に連絡を寄越さない達也からの風間経由での自分への連絡
プライベートナンバーではないが、業務連絡での達也からのお願いに少し嬉しくなる
まあ、上司である風間も達也と自分の間を取り持つような行動と達也の義父という立場から業務連絡の中で個人的なやり取りをしても咎めることはしないだろう
それほどまでに愛されており、自分も愛している達也からの頼みとあらば喜んでする
更に今回は特に些細なことでも達也の身の周りでは起こってほしくはない
理由は簡単で達也を囮として誘き出したい標的があるためである
響子『?(このアドレスは…発信器?)データを改竄するついでに発信器の追跡と何か問題があればたれ込みってところかしら?』
相変わらず仕事が早いというか、やることに抜け目がない達也
達也から吉田幹比古という縁を辿って魔法の痕跡を消すついでに、ひそかに仕込んでいた発信器を追跡させて何をしたいのか?
響子『本当に達也君の思惑って私の想像を越えて来るのよね。今回はアレ絡みでしょうけど。』
響子が乗っている小型の電動車は一般のそれとは異なる
と言っても、外観では全く認識は不能である
中身は判る者が見れば、恐怖で失神するほどの代物をこの自走車は積み込んでいる
ハンドルの無いこの自走車はコントローラーでアクセルやブレーキ、バンドル等のすべてをコントローラーで操作する
そのことにより、ダッシュボード、インストルメントパネル(略称:インパネ)をコンソールパネル(コンソールボックスとインパネを兼ねた多機能ディスプレイ)として使用することが出来るようになった
また、カスタム次第では家庭用情報端末に匹敵する機能と使い勝手を組み込めるのだが
響子の愛車にはそれ以上の何倍ものターミナルユニットが詰め込まれており、戦闘指揮車両並の処理能力を有しているのだ
そこに響子の魔法が加われば電子戦車と言っても過言ではない
そして今、響子はその戦力を解き放とうとしていた
名前とは実体の象徴であるためそれを特定することでもある
しかし、これは元々魔法の無かった時代から言われていることでもある
名前はそのものが呪であり、その者の存在である
そのため、魔法が特段優れている訳ではなく新たな解釈が出来たということだけなのだ
言霊を操るのは修験者や陰陽師、神職など昔から存在するのだ
その者達から言わせれば、その認識は当たり前であり、言葉一つで人を簡単に殺せるからこそ慎重に言葉を選ぶ、そしてそれらを言霊と呼ぶのだ
その歴史が現代に継承され、その一部が魔法に応用されてようやくその事実に追い付いただけなのだ
響子『隊長や達也君自身から問題ないから自分を囮にするようにとは言われてるけど、やっぱり心配は心配なのよね。(こんな乙女心を解ってる上で言ってるんだから、たちが悪いわ)少しは私や加蓮ちゃん、結那ちゃんのことを考えてよね。』
数分も経たずに記録に残っていた魔法の痕跡の改竄と発信器の追跡を終えた響子は頬を膨らませながらつぶやくのだった
強化された強靭な脚力にものを言わせて、数駅程の距離を十数分で駆けていたジローは路地裏に差し掛かったところで足を止めた
ーーー付けられている
そう確信しながらもいくら気配を探ってもそれを認識出来ない相手にジローは先のアイネブリーゼで対峙した達也が脳裏をよぎった
しかし、ふと疑問に思う
もし、達也ならば、気配は気取らせないはずであり、自分に興味すら抱かなかったのだ
あの言葉通りなら、今自分を付けてきているのは別の人間ということになる
そうなると、自分の組織かはたまた、別の組織の人間になるが、前者ではないのは確かだろう
何故なら、組織の人間同士がバッティングするなら事前に連絡があるはずだ
ーー刹那、
全身が総毛立つ感覚に襲われた
気配は無い、しかし視線を感じる
五感全てを総動員して気配の主を探る
五感の中でも視覚は約8割を占める
次に聴覚だが、これは約1割程度
つまりは無意識の内に人間はこの視覚に頼っていることになる
いくら、訓練された人間でも気配がわからないのならばこの五感に頼らざるを得ない
違和感を憶えたのは、音だった
気配を探るのに気を取られ、緊張からくる心臓の拍動も聴覚を鈍くさせていたことは否めないが外部から聴こえる音の警戒は怠らなかったはずだった
しかし、どのような人間でも感知能力には限界はある
気配も無く路地裏の出口を塞ぐ形で現れた一人の人間
大柄だが、服装からでも筋骨隆々だと推察出来るほど
顔は東アジア系統だろうか、見た目は青年か壮年に見えなくもないくらい
だが、一目見れば脳裏に焼き付いて離れない獰猛な肉食獣のそれ
ジローはその男を知っている
会ったことがあるということではなく、一方的にこちらが知っていたが正しい
組織の中で今回の任務において重要人物とされているリストのトップを飾っていた男
大亜連合 特殊工作員エース
ジロー『
驚愕に満ちた言葉とは裏腹に訓練によって染み着いた反射的行動により銃口が男に向けられる
ーーーが、
ジロー『!?(いつの間に。)』
瞬き一つにも満たない時間のうちに間合いを詰められ、拳銃を持つ右手とそれを支える左手が関節では曲がらない方向に曲げられ、大量に出血し銃が手からこぼれ落ちる
痛みよりも更なる驚愕に支配されたが、次の瞬間には視界も思考もすべて黒く染められた
驚くことに埋まっていた指を引き抜いたにもかかわらず、一気に血が吹き出すこともなかった
決壊した堤防のように大量に血が流れるかと思われたがドス黒い血と真っ赤な鮮血が入り交じりながらゆっくりと溢れ、ジローの服を汚していく
男
紙はジローに覆い被さるように纏わり、触れた瞬間先程の鮮血よりも紅い炎となり、燃え広がる
しかし、炎は紙を燃料に燃えてはいなかった
否、燃えているのではなく、炎が死体を喰らっているのだ、しかも、喰らっているのは死体だけではない
拳銃までもが紅い炎に飲み込まれていき、その証拠に炎がなめた跡には何も残っていない
ジローという存在全てをを喰い尽くし、役目を終えた炎が消えるのを確認すると
辺りに
そう、誰かが話す声や足音もなく、野良の動物でさえいない
ーーー唯一あったのは、原型を留めないほどに破壊された監視社会特有の監視カメラのみだった
如何でしたか?
ブランクとまではいかないまでも大分、表現する言葉がすぐに出てこず手こずりました。
①調べて判りましたが、弥生時代は縄文時代よりも文明は低いみたいです。
②達也はクレクレ君は嫌いです(笑)
③実はロッテルバルトのマスターとは知己の仲だったり?(詳細はどこかで)
④最近の響子さんには隠さなくしてもらってます。
達也が絡むとただの案件が厄介事になるのは運命ではなく宿命なんですかね(自分で創ってるからというのもありますね(笑))
明日からボチボチと次の話を書いていこうかなとは考えてるので、出来上がったら暇つぶしにでも来ていただければ嬉しいです。
それでは。