抹殺された神の愛し子 作:貴神
大分と期間も空いてしまいました。
書く余裕が出来たのが昨年の12月頃からで、どういう風に書いてたか感覚がわからなくなって、リハビリという感じになってます。
暇潰しがてらでお楽しみください。
翌朝、昨日の出来事に納得出来なかったエリカとレオ、幹比古だけではなく、ほのかと雫、美月までもが第一高校の最寄り駅を降りる達也を待っていた
幹比古『エリカ、いい加減機嫌直しなって。光井さん達が怖がっているよ?』
エリカ『…』
レオ『やめとけって幹比古。すぐに切り替えられるんならそうしてるって。俺も切り替えは上手い方じゃねえからこいつの思ってることも理解出来るぜ。』
エリカ『うっさいわね。あんたに思ってることが解るわけないでしょう。もう一つの方よ。』
どうやら、あの場に居合わせていなかったほのか達にも事情は説明していたようだ
しかし、下手に怖がらせるだけな気がするが、どうして教えなかったのかと説明を求められるのも面倒だと思ったのだろうと達也は推測した
本音としては説明の手間が省けたとは思っている
達也『気にしすぎても無駄だと思うが?学校の中にスパイ紛いが居るからといって、自分達に害が及ぶとは限らない。張り詰めすぎていざという時に対処出来なければそれこそ無駄であり、役立ずではないのか?』
しかし、こうもエリカやレオ、幹比古までもがいつもと違うピリピリとした雰囲気を纏っていたのでは周囲も訝しむのも事実
更には相手の策にハマってしまうだろう、それは達也にとっても避けたい
エリカ達がどうなろうと知ったことではないが、こちらにも都合がある
己の正義感だけを振りかざしたところで、その力が世界を変えたり平和になったりするわけではない
それはただの自己満足であり、偽善、欺瞞だ
そもそも、悪が己を脅かす者全てなら全てが悪になる
ある意味ではこの世は全てが悪で偽善者だらけであることは間違っていないが
エリカ『なにそれ?あたしたちの行動が足手まといだというの?』
美月『エ、エリカちゃん。達也さんはきっとそういう意味で言ったんじゃないと思うよ?』
エリカ『ふん。』
達也『(はぁ、めんどくさい。)…今のは語弊があったな、すまない。誤解してほしくないのはだな。見えない敵に振り回されすぎて、己が今やるべきこと、準備しなければならないことを怠ってその状況で何も出来ないなどとエリカ達は受け入れられるのかと言っているんだ。心配しなくても標的の内の一人は俺だ。』
謎掛けのような言葉で逆上するほどに視野が狭まっているエリカだが、真剣に悩んでいるのは確かなのだろう
だからこそ、このような状況こそ相手の目的や自分に何が足りないのか自己分析を行い、何をすべきかを考えなければ意味がない
レオ『そういえば、昨日もあのジローって奴もそう言ってたな。大丈夫なのか?』
達也『昨日の男の言った通りなら、高校内で俺に接触を謀ろうとするなら生徒かこの学校の関係者だ。しかも生徒なら更に絞られてくるだろう?見ず知らずならそれこそ容易いさ。』
昨日のあの場で標的の一人とされていると指摘された達也だが、当の本人は意にも介していない様子だ
レオは直接達也との疑似的な戦闘という名の一方的な攻撃に為す術なくダウンしてしまった経験があるため、達也の強さを少しは知っているつもりだ
拳銃を手にした相手に対して臆することもなく、間合いを詰める技量に凄いという一言に尽きるだろう
ほのか『大丈夫なんですか?その人の言う通り達也さんが狙われている可能性は高いんですよね?達也さんが信じられないわけじゃないですけど。』
雫『うん。いくら達也さんが強くても相手がプロだったら。』
それでも、達也がプロの暗殺者や戦闘のプロ、本気の十師族に絶対に勝てるとは思えなかった
それは相手が武器の扱いを熟知しており、殺すということに長けているからだ
躊躇いもなく【殺す】というを行動の人間相手ではいくら達也でさえ危ういのではないだろうか?
達也『所詮、相手は産業スパイ程度さ。いくら高校生が暗器を持っていたとしても挙動不審になることは目に見えている。教職員関係の人間の中に紛れ込んでいたとしても七草や十文字ひいては十師族が黙っていないさ。』
エリカ『そうかしら?ブランシュの一件と同じで後手にまわるだけじゃない?』
達也『そうかもしれないな。』
レオ『危機感というかなんというか…。気にもしてない感じだよな達也は。』
僅か数ヵ月で警備関係を強化をできるとは考えにくいが達也は楽観的であるため全員は気が気ではない
何を根拠にそう断言できるのかが不思議でならない
達也『そうでもないさ。周りをうろちょろとされれば目障りにも感じるのは俺も一緒さ。…そうだな。少しでも安心材料が欲しいなら今度の野外での実験に来ると良い。お前達のモヤモヤとした気分も少しは晴れるかもな。』
エリカ『どういうこと?何かあるの?』
達也『来てからのお楽しみだ。』
相変わらず謎かけのような物言いをする達也だが、どうやら今回の事件の解決の糸口の一つがあるらしい
果たして、そんな公の場に現れるとは思えないが達也が意味もなく言う訳はなく、訝しむも次の屋外での実験を待つしかなかった
論文コンペは出場者は三名と限られるが、関わる人数は九校戦とは比にならない
選手とエンジニア総勢五十二名の九校戦の代表チームに対して、論文コンペではただただ論文を発表するだけでなく、その実演もプレゼンテーションに含まれる
そのため、論文発表に付随して実演装置の設計及び製作、術式補助システムにそれの制御ソフトの製作
そして、それらを裸のままでは機器のはよろしくない
そのための
論文というものはデータを最低でも数年蓄積し、分析した結果から仮説を立て、多方面から実験を行ってその仮説が正しいという結論を得るのだ
論文の中身はどうあれ分析と実験を行うには人数が必要なのだ
対象としては技術系クラブは勿論のこと、美術系クラブも総動員される
試作機や計測機などの計器や工作機が所狭しと並べられた様は一つの工場の中を連想させるほどで、そこで作業に携わる生徒用に女子生徒の有志による差し入れを行うなどの組織が発足されるなど、第一高校の総力を結集しているようにも感じられる
そして、その中心にはかの悪名高き?一年生がここでも力を奮っていた
エリカ『居た居た。おーい、守夢君!』
美月『エリカちゃん、実験の邪魔になるから!』
堂々と実験に割り込んでくるのは大したものだが、実のところ達也としてはエリカを止める美月の声の方が大きく、邪魔なんだがなぁと口にすると友人を必死に止めようとする美月を責める形となり、非難の嵐が己に向きかねない
その二人の後ろで顔を背けて他人のフリをしているレオと幹比古だが、二メートル程後方にいるだけではただの連れとしか認識されないのは言うべきではないのだろう
桐原『おい、千葉。少しはその場の空気を読めよ。』
エリカ『あれ、さーやも見学?』
鈴音の警護としてここに居る桐原の苦言も見事にスルーして隣の壬生に話しかけるエリカ
桐原『…お前な。』
壬生『エリちゃん…。』
達也『千葉さんは見学という訳ではなさそうですね。柴田さんの所属の美術部がコンペに関わっているからその付き添いというところでしょうか。』
苦笑を漏らす壬生とは対称的に桐原はすぐに逆上することはなかったが、他の上級生達の堪忍袋の緒が切れそうな様子に達也にも原因一端はある
とりあえず、エリカの性格上、目上よりも同学年の達也から窘める方が有効である
それはそれで反感はあるだろうが、守夢達也という人物がそれをさせない
風紀委員でもあり、生徒会役員という役職上、仲間内に甘いということはしてはならない
そして、それを体現してきた実績がある
だからこそ、達也からの忠告は強い抑止力を持つ
エリカ『そういうこと、…にしておくわ(ボソッ)』
達也『でしたら、柴田さんを待っている間はここで見学してはいかがですか?吉田さん達の質問も可能な限りお答えはしますので。』
レオ『サンキュな。』
美月はというと、美術部の先輩達に挨拶していたため、これから手伝いに入るだろうからそれまではエリカ達は手持無沙汰という訳だ
更に言えば、何故エリカ達がこの場に来たのかは達也が登校時の発言があったからだ
でなければ、幹比古はともかくエリカとレオが論文コンペに興味も示さないだろうからだ
そういった経緯を周囲に漏らすわけにもいかず、だからといってここに見学に来る理由付けがないと怪しまれる
まあ、クラスメイトが見学したいと達也が言えば案外通るのだが、権力は必要以上にひけらかすものでもないため別で理由付けが出来るならそれで問題ない
権力というものはここぞという場面に使うことが望ましく、日常的に使っていては次第に弱ってしまう
前置きが長くなったが、これでこの三人がここに居る理由が整ったわけである
幹比古『じゃあ、早速なんだけど。熱核融合炉なのに、電球のようなもので大丈夫なのかい?』
達也『問題ありませんよ。反応の種類が熱核融合なので、本当に核反応をさせるわけではありませんから。これは常温のプラズマ発生装置です。』
レオ『ふーん。』
核、という言葉を聞くとどうしてもそういう思考をしてしまうのも無理はない
それは知識不足や興味の偏りが生んでしまう副産物であるし、全てを把握しておけ、などと言うつもりもない
この世の全ての事象や歴史を把握するには人間の時間など短すぎるのだ
実験までの時間で幹比古とレオの質問を返していると鈴音と五十里らの準備も整ったようだ
レオと幹比古もそれを察したようで黙する
しかし、少し離れた場所で姦しいまでには至らないが静かな場にエリカと壬生の二人の声が聞こえるのは少々いただけない
達也『千葉さん、壬生先輩。始めますよ。』
ふと、見渡せばエリカと壬生以外喋ってはおらず、皆が実験が始まるのを待っていた
達也は二人が静まるのを見計らい、鈴音と五十里に目配せする
鈴音が大型のCADに
直径百二十センチ程度の無色透明のガラス球体の中には高圧の水素ガスが充填されており、それがプラズマ化し、分離した電子がガラスの壁に衝突して発光しているところを見ると、発光ガラスのようだ
外部から高い電圧などのエネルギーを供給することでこの現象を発現させることは容易だが、供給無しで電子を分離し、その電子だけを電気的引力に逆らって
三年生『やった、成功だ!』
二年生『第一段階は成功だ!』
エリカ『うーん、ただの電球にしか見えなかったんだけど。』
幸いなことにエリカの呟いた言葉は歓声に掻き消されたが、誰かに聞かれていれば炎上間違いなしだっただろう
ガラス内の発光は十秒間にわたり継続した
単に一つの大道具が完成しただけで、部品はまだまだたくさんあるのだが、造りあげるということは一つの喜びでもあるのだろう
校庭で皆が歓喜と安堵に包まれる中、この雰囲気の場としては異端と呼べる、冷ややかな視線をある生徒だけが中心へ向けていた
ーーー、その視線に気付いたのは偶然だった
数ヶ月前の出来事からコンプレックスも自分を形作る一つなのだと僅かながら気付いた壬生
一科生とはいえ、万能でも無く出来ること出来ないことがあるのだなと周囲を観察していた
良い例が同じ二科生である達也だろう
魔法力は無いものの、身体面や理論面では一科生を遥かに凌ぐ
壬生だけが実験の中心に近付こうとする一つの影に違和感を覚えた
壬生『?…(あの子、なんか…ま、まさか!?)ねえ、そこの一年生の貴女。』
???『!?』
普通ならば、駆け寄り共に喜ぶところに何故か周囲を警戒しながら慎重に歩を進めるその姿が不審気に見えた
あまりにも不審さに声を掛けるとお下げ髪の女子生徒は慌ててその場から逃げるように駆け出した
壬生『ちょ…ま、待ちなさい!』
桐原『おい、壬生?』
不審に思えば、逃げる相手を追うのは条件反射のようなもの
一呼吸程遅れて壬生が後を追い、次いで桐原も壬生の後を追う
達也『千葉さん。』
エリカ『わかってる。』
達也『…西城さん、フォロー頼みます。』
レオ『りょーかい。』
達也の言う通り、手掛りが目の前に転がってきたのはラッキーと言わざるを得ない
不本意ながら借りを作ったと悔むエリカだが、今は手掛りを逃したくないため応答もそこそこに駆けていく
エリカに任せたと言ったものの、一人では対処しきれない可能性もあるだろう
レオにバックアップを頼むとレオは待ってましたと謂わんばかりの表情でエリカの後を追う
隣りにいた幹比古はほんの少し不満げに見えたが、適材適所という言葉にあるように校内という状況では魔法よりも体術に強いレオの方が望ましい
ーーーと、理屈を並べてみたものの、本音としてはエリカやレオ、幹比古の三人以外でも高校生相手を制圧できる力があれば問題無い
とりあえず、この実験機器の撤収の段取りをするかと達也は思案を始めるのだった
実験していた校庭から約100m程離れた少し開けた芝生の中庭まで
壬生『待ちなさい!』
???『なんですか?』
逃げることをやめると、壬生は距離を詰めてくることはなかった
それは犯罪を犯しているという確かな証拠が無い上に高校生が警察紛いの行動は出来ないし、実体験に基づく行動でもある
急激な運動によって激しく呼吸を落ち着かせながら返答する
壬生『さっきの機械、無線式のパスワードブレーカーでしょう?』
???『何のことですか?ニ年G組の壬生先輩。』
壬生『惚けたところで結果は変わらないわよ。二科生の貴女。』
壬生自身、一科生と二科生という区分は嫌いであり、あの事件以来、差別的とも取れるこの言葉以外も使わないようにしてきた
しかし、この少女にはこういう発言をしなければ知らぬ存ぜぬを通してきそうだったからだ
だから、あえて自分が嫌がるこの言葉には少なからず抵抗感はあるはずだ
???『…平河です。一年G組の平河千秋です。』
壬生『隠さなくてもいいわ、平河さん。私も同じ機種を使ったことがあるから。』
思った通りだと、自分の名前とクラスまで申告してきたのは彼女にとっても受け入れたくない言葉なのだろう
これ関してはどこの魔法科高校のニ科生という分類に入る生徒ならば少なからずある劣等感だ
例外があるとすれば、後にも先にも一科生でさえ羨む守夢 達也という規格外の人間のみだろう
平河『…それがどうしたんですか。私と先輩では立ち位置が違うんです。』
壬生『それでもよ。今すぐ手を切りなさい。彼らは貴女を捨て駒としか見ていないわ。そして、こちらが下手を打てばそれを彼らは許さないわ。それは時間を重ねるごとに重くのしかかってくるわ。』
平河『解ってますよ、そんなことは。マフィアやテロリスト、犯罪シンジケートが末端のことを心配するわけないじゃないですか。あるとしたら、情報の漏洩くらいですよ。先輩はそんなことも判らないまま入ったんですか。ただの馬鹿なんですね。』
自分のようになっては遅いと警告しても平河の耳には届かない
それどころか、自暴自棄に似た発言に壬生は焦りを感じる
警察紛いなことをしてるつもりではないが、見てしまったからには司法にまで発展させたくない
話している僅かな間に桐原とエリカも追いついてきた
壬生『自棄になったって、何も手に入らないのよ?それどころか、失うものしか無いわ!』
平河『構いません。別に何かを手に入れたくてしてるわけじゃないので。』
壬生『貴女だけじゃないわ。身内にも危害が及ぶかもしれないのよ!?』
身内という言葉に然しもの平河も黙ったかのように見えた
ーーーが、
平河『…それでも。』
壬生『?』
平河『それでも、あの男だけが陽の目を見ていることが許せない!だから…!』
引き留められない、と壬生は直感する
自分を睨む彼女の表情はある意味、何が何でも一矢報いてやりたいという、ある意味復讐のようなそんな何かが窺えたからだ
いくら境遇が似ていても自分だけでは何も出来ない
けれども、自分の傍には彼、桐原がいたから立ち直ることは出来た
そして、今も桐原とエリカが傍に居る
だからなのか、今ここで彼女を逃してはいけない気がする
壬生『桐原君。』
桐原『あぁ。』
駆け出す桐原と連携を図ろうと駆け出そうとする壬生は平河が何かを取り出したことに気付かない
次の瞬間、小さな爆発音とガスが桐原と壬生を呑み込んだ
エリカ『さーや!』
唯一、気付けたのはエリカのみだった
それは剣術家として研ぎ澄まされた鋭敏な感覚、追い詰めたとしても相手は素直に大人しくなるとは限らない
壬生は無論のことだが、桐原が気付けないのは素人であり、初速が速ければ速いほど、動体視力が重要になってくるだろう
歩く分には殆ど問題無いが、走り出す瞬間は必ずと言っていい程に高速で移動する景色に眼が追いつかない
正確言えば、視覚は働いているが脳の処理能力が追いついていないという方が正しい
併せて、近距離でその速さに慣れる時間すらない
それらが平河の行動を認識出来なかった要因に挙げられた
エリカ『っ!さーや、大丈夫!?』
壬生『……す、こし、だけ。吸った、けど…。!?桐原君は!?』
幸いにも壬生はガスのおよぶ範囲内でも端にいたこととエリカが爆発した瞬間に壬生の腕を引いて退避させたことで症状は軽い
だが、ガスの中身が不明であるため、迂闊には近寄れない
エリカ『あの距離よ。まともに吸い込んだはずよ。』
だが、桐原の方は避ける吸わないという意識の外側からの強襲により意識を手放しているのは間違いない
空気より僅かに重いだけだったのか、僅かに吹いた風によりガスが晴れていくと、意識の無い桐原が倒れていた
壬生『そんな!?桐原君!』
意識の無い状態の桐原を放っておけるはずもなく、駆け出す壬生
エリカ『さーや、今行ってもガs…!危ない!』
壬生は忘れているようだが、この場には自分達だけではない
ガスも空気中には残っており、何よりもガスを放った張本人がいる
本来なら逃げるが、所詮は高校生のスパイもどき
訓練してもいなければ、感情むき出しであるためそんな思考は持ち合わせてはいないだろう
まだガスにより視界が悪い中、ダーツの矢の一回りほど小さなの矢がエリカ達を狙った
しかし、陽の光りにより金属製の矢が鈍く反射し、寸でのところで壬生を押し倒し回避する
平河『(チッ)』
エリカ『(仕込の矢。どうやら、少し本気で掛からないと危ないかもね。…?…!?)』
まさか、殺傷性のある仕込みの矢で追い打ちを掛けてくるとは思わなかった
この少女が用意したものなのか、それとも背後に何処かの組織でも付いていて用意してもらったものなのか?
判らないことだらけだが、今はこの場を制して少女を捕らえなければその先は調べようがない
己の得物を取り出し、構えを低くとる
次の矢を弾いて、少女の懐に飛び込み制圧する
そう判断した直後、誰かの雄叫びが耳に飛び込んでくる
???『おおぉぉぉ、っらぁ!』
位置を割り出すために聴覚に意識を傾ける間もなく
声の主はエリカの十数メートル後方から更にスピードをあげ、エリカを死角にして陰から勢いよく飛び出した
平河『っ!?』
気付けたのは声のみ
近いと思った瞬間にはエリカの陰から飛び出してきた大きな影からタックルを受け空中に飛ばされた
口は悲鳴を形取っているのに、声が出せない
それは刹那の出来事でもあり、普段は地に足をつけているはずが空中で接地感の無さにより思考と行動がちぐはぐで混乱しているからだ
簡単に言えば、「自分の体の倍以上ありそうな何かが襲い掛かってきて身が竦んで動けなかった」だろう
地が芝生とはいえ、瞬間的な衝撃は徒人ならば簡単に痛みと共に失神させることは可能だろう
更には予期せぬ襲撃によって受け身の取れない体勢だったこともあり、平河の意識をいとも容易く刈り取った
レオ『…ふぅ。ってあり?やりすぎたか?』
エリカ『何を当たり前なことを。多分、打ち所が悪かったことはないでしょうけど。…うん、脈はあるわね。それより、あんた。早く退きなさいよ。この状況だと襲っているようにしか見えないわよ。』
レオ『!?な、な訳ねぇだろ!勘違いすんな!』
いくら硬いアスファルトよりもクッション性はある芝生とはいえ、頭をぶつけたのだ
意識障害や他の後遺症があるかもしれない
保健室に運んで簡易的に診断はしてもらう必要はある
ーーーしかし、
今の構図はクラスメイトである幹比古や美月は理解を示すかもしれないが、達也は真剣な表情で(無論、誰よりも状況を把握している)全力で誂うことは間違いないし、他の生徒もエリカの言う通り誤解が拡がるだろう
エリカ『はいはい。だから、他の生徒とかが見たらって言ってんの。それよりも、倒れてる桐原先輩とあんたが押し倒した女子生徒を保健室に運ぶの手伝いなさいよ。』
レオ『だから、俺は押し倒してねぇ!』
ーーーレオの叫びはエリカに届くことはなかった
達也『(やれやれ、取り敢えずは解決したようだな。)これは部外者の方がお手を触れないように願います、関本先輩。』
エリカとレオの気配が鎮まったということはどうやら、何らかの形で収まったのだろうと結論付けた
おまけとして、気の抜けたレオの声が聞こえてきたからだ
相変わらず漫才しているみたいなやり取りをしているな、と呆れながら実験機器に慎重に近付く影を牽制する
関本『守夢…勘違いするな。俺の基礎理論や術式の改良の研究がどれほどまでに利があるのかを確かめたかっただけだ。』
鈴音『たとえ、そうだったとしても私に許可が必要ではないのですか?』
如何にもといった典型的な嘘にしか聴こえない関本の言葉だが、達也は無論のこと鈴音にもそんな嘘は通じない
関本『市原。』
鈴音『関本君はこういう実用的なテーマには興味がないと思っていましたが。』
関本の実験機器への視線を遮るように背を向け電源を落とす鈴音
関本『興味がないとは言ってない。俺には応用技術よりも根本を重視するべきだと思っている。』
鈴音『基礎理論を軽視するつもりはありませんが、実用化に伴うリスクを軽減するには基礎理論の事象の検証が必要だと考えます。研究してそれが解ったとしてもただの自己満足や応用技術に役立たないのなら意味はありません。』
関本『研究は検証とは違う。研究は創造だ。検証は確認するだけだ。』
鈴音『人類に役立たない理論など不要です。実用化される理論以外興味ありません。それをそこの彼が証明してくれていますよ。』
方向性の違う二人の論争は止まらない
それどころか、巻き込まれる形で達也も論争の一部に加わる始末
関本『守夢が?』
鈴音『えぇ。彼は生粋の実践派の人間です。実用化をするために思考、試行錯誤の繰り返しを行う。基礎は勉強はしますが、それがゴールではない。
関本『それが守夢を推薦した理由なのか?それは自分の意に沿う人間だからではないのか?』
鈴音『畑違いの関本君ならそう思われるでしょう。もし仮に立場が変わっていたとしても今の台詞は変わらないでしょうから、堂々巡りなだけです。この世は結果が全てです。証明が出来なければ、評価されませんから。』
達也『(確かに。当たり前だが、実用化に天秤は傾く。だからと言って基礎理論を疎かにはするつもりも毛頭ない。基礎という土台がなければ些細な変化を理解できないからだ。関本先輩もその考えがあるのだろうが、あくまで机上の空論というところだろう。現実は考えているよりも厳しい。低く見積もっても十倍は乖離しているからだ。本当に基礎理論の研究を成功させたいならば、あの【カーディナル・ジョージ】のように証明しなければならない。どの国でも過程など興味の欠片もない。特に日本は厄介なことに発表の制限が厳しい。世界ではその辺の門戸は緩い。何故か、日本が世界に与える影響が甚だ大きいからだ。所謂、
強引に論争に巻き込まれた達也だが、二人の確執の深さを図りながら、何故自分でなければならなかったのかを分析していた
達也は今回の論文コンペに参加していなかったにも関わらず、なぜ選ばれたのか?
順位として関本の位置は鈴音に次ぐ二番目であり、選出されてもおかしくはない
だが、問題はそこではなかった
論文のテーマの違い
当然これは誰にでも当てはまる
しかし、基本、基礎は皆が通る知識のためメンバーに加わる分は何ら問題ない
では、関本が選ばれなかったのは?
それはコンセプトが全く違うからであり、鈴音と関本の2人の論文テーマでの関係性の悪さだろう
しかも、精神的にも成熟していない高校生であり、感情まかせで己の利益が第一の人間だ
ライバル視する相手に己の成果を見せたり、ましてや手伝わせることなどあるわけがない
達也はサポートスタッフらと機器の片付けをしながら、少々荒れるなと、軽く嘆息した
騒ぎを聞き、保健室に駆けつけた花音
花音『全く、あんた達は。加減を覚えなさいよ、過剰防衛と捉えられてもおかしくないんだから。摩利さんの苦労が少しわかったかも。』
エリカ、レオ、壬生、ベッドで眠っている桐原を順番に睨めつける
そして、ある意味容疑者とも言える女子生徒の顔を確認すると、霞がかった人物像が漸く鮮明になった
起きていないから絶対だとは言えないが、あの買い出しの時に逃げられた人物はおそらくこの女子生徒だろう
人間の記憶というのは存外曖昧なのだと改めて感じたし、達也も憶えていないというのも仕方のないことなのだろう
なぜなら、平河という女子生徒を一番近くで見たのは自分だけだったからだ
エリカ『失礼ですね。私達、悪いことしてませんよ。』
花音『だから、やりすぎって言ってるの。聴いたかぎりでは非合法のハッキングツールを持っていたことだけで被害を出してないじゃない。』
風紀委員長としての責務が改めて大変だと摩利の苦労を理解した花音
エリカ『それで十分だと思いますけど?そもそも、それを持っている事自体が異常じゃないのですか。』
花音『それを言うなら、本人の申告だけで断定するのがおかしいのよ。』
エリカ『疑って欲しくないなら、偽物だと言うと思いますけど。それに、ガスと暗器を所持して攻勢に出てくるんですから反撃もしくは、身を守る行動をするのが当然だと思いますけど?』
武器を持っていたなら反撃する、という言葉に花音は表情を強張らせる
それは先日の買い出しの時に達也から叱責された言葉と今、自分が注意しようとしていた言葉が同じだったから
花音『!?…あー、もう。あー言えばこう言う、屁理屈ばかりね。いい?もし仮に持っていたとしても、使って被害がないんだからあんた達の行動は暴力にも等しいのよ!罪と罰はバランスが取れるようにするものよ。』
あの時の自分と今回のエリカ達の行動、その両方とも正当とは言えない
どちらも「怪しい、疑わしい、武器かそれに付随するものを所持しており、危険と判断して過剰に防衛した」と客観視しても明らかに自分達魔法師が悪いと判断されるだろう
そして、花音の場合は達也に止められたこと、エリカ達の場合は学校内で相手も武器を隠し持っていたということで大きな問題にはされないだろう
しかし、問題はそこでない
疑わしい、命の危険に晒される攻撃をされていない相手に魔法等で外傷を与えかねないことをしたという事実が問題なのだ
今回は心から達也に感謝しつつ、自分にも言い聞かせるようにエリカ達に反省を促す花音
エリカ『別に罪があるから罰を与えようとしたんじゃありませんし。生徒が道から外れそうだったから引き止めようとして、たまたま頭を打ってしまっただけですぅ。』
花音『だからそこが問題だって何度も言ってるでしょう!』
やはりというべきか、摩利とエリカの相性が悪いということは摩利を尊敬する花音にとってもエリカとの相性も案の定悪かった
レオ『わかりました。わかりましたよ、俺もこいつもやりすぎでしたね。すみませんでした。そんじゃあ、後のことは頼んますね。失礼しまーす。』
エリカ『ちょ、あんた。あたしはまだ…。』
レオ『ほら、行くぞ。俺は別に悪を取っ捕まえるなんて興味ねぇんだからよ。守夢や幹比古、美月達から火の粉を少しでも払えればそれでいいんだからよ。』
花音に噛み付こうとするエリカだが、レオは少々やりすぎたと反省はしているらしい
そして、この案件にこれ以上は首を突っ込むのは御免だと謂わんばかりにエリカを連れて退室していった
何だかんだで、達也という人間の凄さが改めて分かった気がした花音
花音『はぁ、守夢君はいつもあんな子達を相手にしてるなんて。それで安宿先生、彼女の様態はどうですか?』
安宿『うーん。後遺症とかは無いと思うわ。芝生がクッションにはなったみたいよ。夕方までには目が覚めるはずよ。』
生体放射を視覚的に捉えて肉体の異常箇所を把握することの出来る医療系の特化型能力者
彼女が大丈夫だというのなら、何よりも安心材料である
花音『わかりました。事情も聴きたいので、目が覚めたら連絡してもらえませんか?』
安宿『えぇ、いいわよ。でも、逃げられたらごめんなさいね。私は戦闘力皆無だから。』
ホンワカと笑いながら告げる彼女だが、花音は苦笑を漏らす
花音『先生が患者を逃がすはずないじゃないですか。』
いつの間にか目覚めていた桐原と壬生を引き連れて花音は保健室を辞した
花音は風紀委員長であると同時に論文コンペのメンバーである五十里の護衛でもある
護衛は一人に対して複数人がガードに付くため、五十里には花音の他にもう一人が現在ガードに付いているため、そこまで不安に感じることはない
しかし、彼女はこの役目をを他人任せにするつもりは毛頭なかった
保健室で眠っている女子生徒が目覚めるまで待たずに戻ってきたのはそのためだったのだが、またしても相性の悪い否、癪に障る人物であるエリカがトラブルを起こしている
花音『またあんた達…と関本さん?何を言い争いをしてるんですか?』
更に風紀委員である関本と言い争いをしているのは、ややこしい予感しかしない
関本『言い争いをしているんじゃない。注意しているんだ、精密機械もあるこの場で風紀委員等の関係者でもないのに、ウロチョロしては実験や護衛の邪魔になると言ったんだ。』
花音は頭を抱えたくなった
現風紀委員会で在籍している卒業を控えた三年生は関本一人しかいない
残っている=頼りになる、役に立つ訳ではない
何かしらの理由があるから在籍しているのであり、摩利や巽のような存在であれば有り難いが風紀委員でも平凡と謂わざるを得ない関本
目の上のたんこぶではないが、代替わりした千代田花音率いる風紀委員会と摩利が率いた風紀委員会は別物である
言いたくはないが、余計な揉め事を起こすくらいなら引退してほしい
花音『関本さん、仰ることはある意味では正しいと思います。ですが、社会を豊かにする新しい技術や研究は一年生にとって初めての経験であり、学びの場にもなります。それに…。』
それ以前に、今回は風紀委員の仕事を逸脱をしているとも言えるのだ
花音『それにもし、実験の邪魔であったり、護衛の支障をきたすなら守夢君か、護衛の者が注意します。関本さんは護衛役に立候補しなかったんですから、風紀委員とはいえ、管轄外ですので、そこは
一旦、言葉を切り何か言いたそうな関本を無視してエリカ達に帰るように促す
花音『ほら、あんた達。さっき、騒ぎを起こしたばかりなのに、今度また騒ぎになったら、注意だけじゃすまないわよ。今日はもう帰りなさい。』
エリカ『はーい、怒られたくないので帰りまーす。…守夢君、またね。ミキ、美月をちゃんと送ってあげるのよ?』
レオ『んじゃあ、俺も帰るわ。』
客観的に見ても今回はこれ以上はお小言では済みそうもない
エリカも花音が嫌いであり、互いが癇に障る者同士で仲良くは出来ない
理由は彼女が摩利を尊敬しているというのもあるし、何処か決め付けて掛かるところが気に食わないのだ
それに、自分に役割をくれたのにこれ以上面倒事や目をつけられるようなことになれば、達也に迷惑を掛けることになり、恩を仇で返すようなものだ
それは自分の意に反する
エリカとレオはあっさりと立ち去り、花音の指摘のように関本も本来の警邏に行ったようだ
花音『…?、はい、千代田です。え、もう目を醒ましましたんですか。わかりました、すぐに伺います。啓、ごめん。保健室に行ってくる。』
エリカ達が帰り、一息つく間もなく、花音の
どうやら、彼女が目を覚ましたらしい
五十里『あ、待って花音。僕も行くよ。』
鈴音と達也への挨拶もそこそこに五十里は慌てて、花音の後を追う
護衛の関係もあるのだろうが、婚約者だからだろう
鈴音『今日の実験も予定通りでした。加えて五十里君も千代田さんと一緒に保健室に向かったので、今日は終了ですね。』
達也『そうなりますね。片付けも殆ど終わっていますし今日は早めに帰宅されては如何ですか?』
鈴音『そうですね、そうさせてもらいます。守夢君はどうされるのですか?』
達也『私は少し図書室へ用事があるので。』
失礼しますと、達也は図書室のある校舎とは別の方向へ歩いていく、その先は保健室やカウンセリングルームのある校舎
疑問を抱きながらも、コンペ参加条件として何も詮索しないと約束をしたため尋ねることはできない
夏休みに入るまでは一線引いてパーソナルスペースに立ち入らせなかったが、新学期に入ってからその距離感が曖昧になっている気がする
やはり、九校戦が原因なのだろうか?
しかし、理由を聴くことは憚れる
それは鈴音や真由美、十文字、摩利を筆頭に彼を無理矢理関わらせたのに手前勝手で蔑ろにしたという事実は変わらないからだ
ーーーーー
校門を出て、駅までの一本道
いつもならさっさと帰宅するレオだが、今日はゆっくりとした歩調だ
それがエリカの歩調と重なり、二人が一緒に駅まで歩いているように見える
エリカ『レオ。今日、時間ある?』
ふと、エリカの歩が止まる
それに合わせてレオも歩を止める
普段とは違った真剣味を帯びた声音と鋼の煌めきを瞳に映すエリカにレオも真剣な表情になる
質問の意図は掴めないが、直感的に茶化すべきではないとわかった
今の状況を鑑みて言葉の真意を図りかねることはしない
それは数日前の達也の言葉がエリカとレオに指針を与えたからだ
レオ『特段やらないといけねぇ用事は無ぇな。』
明日以降もな、と付け加える
エリカ『なら、ちょっと付き合いなさい。』
レオの返答に少し素っ気ない反応はいつものことだが、表情は真剣そのものである
そして、レオに背を向け駅へと歩き出すエリカ
何に付き合うのかは分かりきっているため、レオもその後ろを追いかけるようについていく
ーーーーー
保健室に入室すると、安宿からいつものホンワカな声音で出迎えを受ける
花音『失礼します。安宿先生、彼女が…目、覚め…何をしてるんです?戦闘力皆無じゃなかったんですか?』
安宿『?何って、患者が逃げないように?戦闘じゃないわよ?看護よ、看護。』
そこには、先程までベッドで眠っていた平河を安宿が床に押さえ込んでいるという何とも形容し難い構図が目に飛び込んできた
看護とは一体何なのか?
花音『とりあえすですね。彼女を解放…じゃない、ベッドに座らせてください。』
安宿『わかったわ。』
ほっこりといった表情で承諾しているが、解放という言葉はNGだ
彼女としてはそれでは看護が出来ないのと同義だからだ
花音『事情を聴かせて。まず最初に確認よ。貴女、私達の後を付けていたわね?それと、もうあんな危ない真似はしてはダメよ。』
平河『…』
だんまりを決め込むことは想定内で、気にすることもなく本題に入る
花音『じゃあ、一つ目。前回と今回に使用した道具はどこで手に入れたの?…これも黙秘ね、次よ。貴女がストーキングしていたのは彼、守夢君でしょ。』
これは問いというよりもほぼ確信に近い言葉
守夢という三人称に分かりやすいほどに動揺しているが、変わらず黙秘を貫く平河
花音『それで彼、守夢君をストーキングしてたの?ご丁寧にパスワードブレーカーまで持ってきて、実験を失敗させようと?』
平河『違います!実験を、コンペを台無しにしようとまでは思ってません!ただ、あいつが少しでも困ればと思って。それでも、あいつのことだからいとも簡単にリカバリーをするんだろうけど。それでも何かを、あいつが少しでも慌てふためいたらそれでいいんです。それが積み重なって疲れて倒れちゃえばいいんだって思ってただけなんです。』
平河『…』
花音『どうしてそこまで守夢君を敵視するの?壬生さんに、何かを手に入れたくてしてるわけじゃないって言ってたけど。何かが欲しいだけじゃなくてても、騒ぎを大きくすれば私は貴女を止める義務があるわ。』
彼女の標的となっているのは守夢 達也という人物のみで周りには何も迷惑をかけるつもりはないらしい
だが、彼はコンペの重要人物である
彼が被害被ればすなわち、論文コンペに被害が及ぶ
こんな簡単な図式を理解出来ないはずがない、それすら理解していないところを見ると視野も狭まっている
五十里『君は平河小春さんの妹さんだよね?もしかしてだけど、九校戦の事件が関係してるのかい?』
平河『…だったら、何だって言うんですか?姉さんはあいつの所為で、あいつの所為で!』
アタリだった
彼女が何故執拗に達也を付け狙うのか、その理由も
五十里『それは違うよ。平河先輩だけの責任でも無い。異変に気付けなかったエンジニア、引いてはスタッフ全員の責任だ。それに彼は偶然見つけることができたんだ。彼を責めるのは筋違いというものだよ。』
平河『笑わせないでください。偶然?違いますよ。あいつはあの時わかってたんですよ。だから、自分の担当の渡辺先輩のCADの異変に気付けたんですから。あの人もそう言ってた。出なければ、興味ないとか言いながらそういう時だけ恩を売って評価されようとしたんです。』
あの状況は今でも鮮明に思い出せる
もしかしたら、エンジニアが彼女ではなく、自分だったかもしれなかった
他人事でもないし、もっと周囲に気に掛けるべきだったと全員が悔いたのだ
だが、千秋には届かず、鼻で笑われてしまう
五十里『そんなことは…』
ないと言いたいが、秘密主義の達也は何を隠し持っていてもおかしくない
だが、魔法科高校の実技試験では二科生判定、一科生である五十里達に魔法力は及ばないのは事実
この時点で平河千秋の発言は支離滅裂と言えるが、それ以外の能力では悔しいことに自分達を軽く凌駕しているため、ある意味では矛盾した存在である
だが、CADに紛れ込んだ電子ウイルスを見つけるのは不可能だ
視力の良し悪しで次元の話でもない、検査官が機器上で細工していたのだ
どうしろというのか?
だから、今回は誰にも防げないし誰にも落ち度はないのだ
寧ろ、達也には感謝しかなかった
平河『あんなに何でも出来るのに何もしない。ブランシュやモノリスコードだってそうです。魔法力がないと嘯いて、美味しいところだけを掻っ攫っていく。まるでハイエナのような人間ですよ。皆が出来ないのを嘲笑って自分だけが出来るからって、本当に最低な男です!』
ここまでくれば、ただの妬みにしか聞こえない
流石の花音も声を荒らげようとするも白衣が視界を遮る
安宿『はーい、これ以上は彼女の精神にも悪影響よ。医者ではないけど、ドクターストップよ。彼女には一晩は大学附属の病院に身柄を預かって貰います。親御さんにも私から連絡します。事情を聴きたいなら明日以降にしてちょうだいね。』
花音『…わかりました。だいたいの事情は把握しましたので。それじゃあ、安宿先生、彼女をお願いします。』
異論は聴かないと言わんばかりの表情に花音は食い下がることも出来ない
隣で五十里も何か思うところはあったが、仕方ないですねといった表情で保健室の扉を開ける
花音は少々納得いかなかったが、任せるしかなかった
怜美『いつ入ってくるのかと思ってたわ。さっきの話も聞いてたんでしょう?少し眠ってもらってるから、
達也『…怜美さん、言い方をですね。』
生体放射を視覚的に捉えて肉体の異常箇所を把握することの出来る医療系の特化型能力者
そして、男子生徒には残念なお話で彼女は結婚しており、一児の母でもある
そして、結婚相手が達也の家の人間でもある
所謂、身内である
怜美『昔みたいにお義姉ちゃんでもいいわよ?寧ろ、そう呼びなさい。』
ほっこり笑顔の背後では般若が見える
身内にしか見せないが、校内ではやめてほしい
達也『(怖っ、結婚して子どもできて大人しくなったかと思いきや未だにこの迫力。中学、高校時代の異名は伊達ではない。人呼んで【病院への
怜美『達也?もう一度、女性への失礼な態度と発言を更正する必要がありそうね?』
どうやら心の声が漏れていたらしい、怜美の目が全く笑っていない
達也『…ナニモイッテマセン、オネエチャン。(家族の中でも最も穏やかと言われる従兄弟に正反対の荒々しい怜美が恋人になったときは驚いたが、相性は抜群に良い。とは言え、俺はこの義従姉妹に女性には優しく接しなさいと鉄拳制裁を何度食らったかわからない。)』
達也の従兄弟と怜美は元々は幼馴染でもあったが、恋仲に発展するとは思ってはいなかった、本人達は違ったみたいだが
詳細は記憶違いもあるため割愛するが、きっかけは高校一年の冬に怜美が拐われた事件があり、それを従兄弟本人(とストッパー的意味で二人同伴)が服もボロボロでキズだらけの眠った怜美を姫抱きして帰ってきた
どうやら関連の人物達の中に暴力団もいたらしく、いくら喧嘩慣れしていても女と男では力の差は明らか
一方的な暴行の末、彼女は気絶
容姿は美少女というにふさわしいため、気絶して無抵抗を良いことに彼女を辱めを受けかけたが、すんでのところを従兄弟達が救出した
ーーーが主なあらましだが、実際のところは彼女のあられもない姿に幼馴染である従兄弟は激昂し、室内にいた人間達を瀕死にまで追い込んだらしい(同・上級生の女子生徒もいたそうだが、情け容赦をするわけもなく。
あの出来事から二人の関係が幼馴染から恋人に変わり、怜美も争い事に一切関わらなくなった
怜美『全く。私は今はそんな野蛮なことはしないわよ。今日だってそうでしょう?』
幸いなことにほとんどのキズは残る事はなかったが、金属パイプ等で殴られ、切れた額の傷と連れ去る時に高電圧のスタンガンで首元を火傷した痕は薄くはなっているが、今も残っているらしい(本人談)
穏やかな、優しい人ほど怒ると怖いのは、やはり事実なのだと証明された瞬間でもあった
達也『ソウデスネ。』
どの口がそう言うのか、と突っ込むのは怖いので言わぬが花であった
如何でしたか?
今回は思ったことというか、世の中の状況も薄く取り入れて書きましたので、少々嫌な感じがした方もいらっしゃるかもしれません。
あと、保健室の方はそこまで関わることはないと思います。(ただ、むしゃくしゃして盛り込んでみたかっただけなんです…)
やっぱり、達也を活躍させる話でないと進みませんね…。
特筆して変化点はなかったと思いますので、省略させていただきます。
次の話は早めに仕上げれるように頑張ります!