抹殺された神の愛し子   作:貴神

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およそ、1年と6ヵ月ぶりでしょうか。
お久しぶりと申していいのでしょうか。
前話からすぐにバタバタして創作することもできずでした。

不定期な更新になってますが、何卒ご容赦ください。
では、お楽しみいただければ。




32話

 

ーーー翌日の放課後

 

達也は花音と五十里から昨日の出来事の事情説明があるということで学校から駅までの道すがら、話を聞くことになった。

 

『…という訳よ。』

 

『はぁ。』

 

『はぁ。って君ね、当事者よ?しかも、今も恨みを持たれてるのよ?』

 

気の抜けた相槌に呆れる花音だが無理もない。

 

普通の基準は横に置いておき、理由がほぼ逆恨みで己を害そうとする輩がいれば何らかのアクションがあるはずなのだが、達也にはそれがない。

そもそもの話、達也が廊下でその話を聞いていたから第三者を介しての感情混じりの説明など意味は無い。

 

『そうですよ、ただの逆恨みですよ!達也さんは渡辺先輩の命の危機を未然に防いだんですから。』

 

だが、気にしていない達也よりも周囲の人間が怒り狂っているのはその人望故か。(少しでも興味を持って貰いたいという承認欲求の表れかもしれないが)

達也本人としては名を出されたことに嘆息していた。

 

『まぁ、お姉さんをとても慕っていたからね。なんで姉と小早川先輩を助けなかったんだ?ということもあったと思うよ?』

 

『それでもですよ!たつ『光井さん。』…守夢さんはCADの中身なんて分かる訳じゃないんですよ?』

 

『うん、ただの八つ当たりだと思う。』

 

『あらあら、かばってくださる方が多くて守夢さんは幸せですねぇ?』

 

同情ではないと思われるが、仕方のない部分もあると情状酌量の余地を求める五十里に対して、ほのかや雫達としては許しがたいらしい。

 

その様子に交ざりたそうな深雪が達也をダシに弄りに参戦してくる。

 

『その含みはなんですかね。心配もしていただけないとは。脈なしということだったんですね。結構……タイプだったんですけど…。』

 

しかし、この程度で達也を負かせるわけがなく。

 

『『『なっ!?///』』』

 

情に訴えかける作戦と見せかけての告白じみた発言に深雪は勿論のこと、水波や風紀委員会で関わりが増えるようになった花音と啓、そして九校戦の懇親会と夏休みの件もあったほのかや雫達は気が気ではない。

 

逆に硬派の達也(と思われている)が言わない、似つかわしくない言葉に深雪への嫉妬の感情をむき出しである。

 

『冗談ですよ。それよりも、なんで司波さんと桜井さんまで一緒なのかが不思議なのですが。』

 

『そ、そんなことはどうでも良いです。あ、貴方の、発言、の…そ、その、真意を問うわ!』

 

『み、深雪様。深雪さんの言う通りだ。守夢達也、貴様とうとう言ってはならぬことを言ったな。事と次第によっては…否、絶対に許すわけにはいかない!』

 

小型の巡航ミサイル一発に対してのチャフフレア程度の迎撃のつもりだったが思いの外、効果は抜群のようだった。

 

『いや、そんな感情むき出しで怒らても。皆さん、落ち着いて下さい、軽い冗談なんですから。浮気なんてする気は更々ありませんよ。』

 

その所為で、浮気だの、私達の告白は断ってだの、他にも面食いだの、女の敵だのと散々な言われようである。

まあ、面食いだと言われても気にしない。

 

事実、響子は綺麗だし、双子の結那と加蓮は幼さが残るものの、深雪や真由美、愛梨らと比肩する美貌の持ち主だ。

 

だが、ここに来て更に移り気など、どれだけの節操無しなのか?

流石に自分自身を殺したくなる。

 

『『『…』』』

 

この程度の言葉で達也を諦めるほのか達ではないことは明らかであるため、逆に沈黙した理由が恋心に更に火を着けた可能性も否めなくはない。

 

『脱線しましたね…。平河さん妹には下手な慰めや同情の類いをしても逆効果だと思いますね。また、仕掛けてきたとしてもそんな柔なセキュリティを組んでる訳でもありませんから。私の師匠が誰かお忘れですか?(それに彼女よりもめんどくさい連中が嗅ぎ回っている輩はいる)』

 

まあ、これ以上無駄話に付き合ってやる理由もないため軌道修正に入る。

 

『セキュリティの問題だけじゃなくて、破れないとわかったらエスカレートしないかな?と思ってるんだけど。』

 

『その果てに器物破損で騒ぎを大きくする、ですか?そこまでは出来ませんよ。鈍器や爆発物等を持ち込めば、誰かが気付きますし、彼女の挙動不審さが際立つだけです。産業スパイ等に彼女は恨みを利用されているだけだと思われますよ。』

 

五十里の懸念もあるだろうが、それほどまでに過激に発展する度胸は彼女には無い。

達也の妨害をする程度が関の山だろうし、それが目的なのだ。

それ以上の過激行動は彼女には考えてはいないし、荷が勝ちすぎる。

 

と言っても、組織側は捨て駒であるため、そんなことは知ったことでは無い。

寧ろ、情報漏洩の対象として抹殺されかねない。

 

流石に達也としてもいただけない。

が、赤の他人のために自ら動いて問題解決するなどもっての他であり、逆に(千秋)に油を注ぐ可能性の方が高い。

 

結論、放置する方が達也の被害はほぼ皆無であり、時間稼ぎにもなる。

 

『そうかも知れないけど。誰が君を狙っているのかわからないんだから、用心するべきだと思うんだけど?

それに啓が巻き込まれたらどうしてくれるのよ!』

 

『それが本音ですよね。その時は仕方ないと諦めて下さい。ですが、心配はご無用ですよ。』

 

『え?どういうこと?』

 

達也の本音を余所に五十里は達也を心配してくれているが、彼の恋人兼護衛の花音は八つ当たり気味である。

 

まあ、解らなくもないが高校生ならもう少し客観的に思考してほしい。

 

『安心材料としては相手の今までの行動です。コンペのメンバーは市原先輩と五十里先輩に私です。誤解を承知で言いますと、基本的に狙われやすい人物は、一番は市原先輩で次に五十里先輩です。』

 

『どういうことよ!』

 

花音が達也の発言に食って掛かるが、達也は花音に対して一瞥もせず、まるで居ないかのようにガン無視する。

 

『それは何故か?当たり前の話で今回の論文の主軸となる人物は誰なのかということです。一年生の私が選ばれたからといって論文を書けるほどの実力はなく、そして補助という認識でしかないと仮定するからです。まあ、そもそも論として論文というのは時間とお金が掛かります。ポッと出の論文など根拠となるデータや推論は評価に値しません。昔からそうです。例えば、クスリの研究や開発には最低5年から10年必要です。副作用と馬鹿な皆さんは考えますが、それはただの反応です。生物の免疫の正常な反応で、異物や毒物を排出しようと頑張っているだけです。それを抑えようとする思考が塵以下です。…おっと、話が逸れましたね。話を戻しますと、今回の場合はお二人は眼中にない様子。ならば、消去法で標的は私自身にあるということ。九校戦で悪目立ちしましたからね。』

 

『だったら、尚更危険じゃないですか!』

 

『うん、私もそう思うよ!』

 

『落ち着いてください。もし仮に、という事例を述べただけですよ。そもそも、彼女以外に狙われる心当たりもありません。もし、本当に狙われているなら、これほどにわかりやすいストーキングはありません。私も命は惜しいですから、警察に相談していますよ。』

 

相変わらず、話を理解しないというより出来ないのは何でも与えられ続けてきただけだからだろう。

 

最低限、与えられた情報の中で考察する程度はしてほしい。

更に言えば、噛み砕いて説明する労力を割くほど重要なことでもない。

 

『なら、何らかの組織が君を狙っていると仮定して、ここにいる誰かを人質に取ったりとかはないのかい?』

 

その観点で言えば、今の幹比古はまだマシだろう。

今まで魔法力の無さで卑屈な思考にはなってはいるものの、自分なりに考えている。

 

だがー、

 

『仮定の話をするならば、メリットよりもデメリットが大きいでしょうね。大前提として、一つ目は目的が何なのか?私の何を狙っているのか?データならば、校内にもありますしスパイが奪えば早い話。仮に誰かを人質にした場合、殺せません。死体があがると警察が動いて今までの行動がバレてしまう可能性があるから。そして、行方不明になれば誘拐事件として同じく警察が動く可能性があるから。こういうものは秘密裏に事を運ぶのが定石。まあ、痺れを切らせばわかりかねますが。』

 

『けど、あれだけの代物を彼女自身が用意できるわけないじゃない。絶対に背後に変な連中がいるに決まってるわ!本当にどうするつもりよ。手をこまねいていても何も解決しないじゃない。早く、自白させる必要があるでしょう!』

 

『それは僕も同感だよ。守夢君、君にこれ以上邪魔が入るのはチームとしても見過ごすことは出来ない。なるべく、早めに…』

 

だが、情報が手に入りやすくなっているということは、虚偽の情報若しくは、根拠の無い情報も入り交じっているという裏返しでもある。

 

それは達也が生きている時代からではない。

二十世紀初頭からそれは顕著になっており、情報操作はいくらでも出来る。

 

そう、今の五十里と花音の台詞がそれを物語っている。

 

マスコミ(広報)に化かされた愚者(奴隷)が表現としては的を射ている。

 

『五十里先輩、チーム加入の条件は貴方にも適用される。引いては、第一高校の全ての人間が範囲内です。これ以上の干渉は無用です。』

 

真実を見極められない仲間内での話ならば、傍からみたら馬鹿な人間達の集まりだと思われて終わりだが、それを他人に押し付けるような発言は承認欲求や群れを形成したいだけの弱者だ。

 

分かりやすく言えば、それが弱いものイジメに繋がるのだ。

同調してくれないから、従ってくれないからという自分よがりがこの法則を生む。

 

『!…ごめん。』

 

『ちょっと。何で、啓が謝ってんの?啓は君のためを思って!それにまた条件付き?いい加減にビジネスじみた行動は止めなさいよね。』

 

『いいんだ、花音。これはリーダーである市原先輩が承諾したこと。ならば、メンバーである僕や皆は従う義務があり僕も異論はなかった。それに、この状況を分かってたから手出しするなと言ったんだよね?』

 

五十里達の心配など達也にとっては分かりきっていたことだ。

しかし、高校生が他人間の問題を解決出来ることなど殆どない。

人間の感情や過去の事情、更には家庭問題など様々な事象が複雑に絡み合って人格は形成されるのだ。

高校生活など人生の中では数%の時間で、友人だからと言って全てをさらけ出せるなど無い。

そうなると、更に相手を知る時間など少なくなる。

 

だからこそ、他人が口出す権利も無いし、他人を強要する権利も無い。

それこそ傲慢というものだ。

自分自身の問題は他人では解決出来ない。自分の中で折り合いをつけ、非を認め、他人を理由にせず自分の心に正直に行動するしかないのだ。

 

『さすがは五十里先輩ですね。(この程度なら)冷静に物事を把握していただけたようで良かったです。千代田先輩、私は格好つけたいがために条件等を付けているわけではありません。元々、コンペに参加するつもりはありませんでした。無理矢理押し付けられているだけです。市原先輩や第一高校全体はメリットだけですが、私には殆どありません。ならば、それ相応の対価をいただくことに何か問題があるのですか?何も金銭やモノを報酬に要求しているわけでもありません。私に干渉しないで欲しいと言っているだけです。私も忙しいのです、余計な用事は最小限に済ませたいだけです。』

 

達也としては事実にさえ向き合わず、誰かの所為にし、自分が原因だと自覚出来ない人間など関わりたくもない。

あたかも、自分達は被害者だと謂わんばかりの人間など人間だと思わない。

 

だから、平河 千秋の葛藤や心情など取るに足らないものであり、偽善者の塊である第一高校の面々に解る訳がないのだ。

 

『っ~!あんたねぇ!いい加減にしなさいよ、屁理屈ばかりこねて私達より出来ることが多いからって調子にのってるんじゃないわよ!』

 

激情に任せた放たれた言葉は、誰しもが持つ感情、ニ科生と一科生との差、現実を認めたくない事実、妬みや嫌悪、差別がそう容易くは払拭されないことを一瞬にして示した。

 

そして、その分野においてそれを持っている人物がそれを持たざる人物にぶつけてしまったのは皮肉と言わざるを得ないだろう。

 

『…花音、それは。』

 

幼馴染の啓すら花音の言葉に渋面を作る。

 

しかし、何であれ認めたくない人間というのは必ずいるし、自覚しているフリをして直視していないのが99.9999%の人間だ。

 

その事実を突き付けられたとしても認めることもしない。否、出来ない。

更には、異常者だの周りの人間もそうだと、屁理屈や揚げ足を取ろうと必死で反省もせず、正当化する人間を助けて何になるだろうか?

共に落ちていって欲しい集まりに足を引っ張られるなどご免被る。

 

『千代田先輩の仰る通りです。皆さんは自分の身すらも守ることが出来ない。だから、何か事件に巻き込まれても第三者の助けを期待するしかありません。私も他人を守れる程強くありませんし、助けたくもありません。この意味がお解りですか?足手まといであり邪魔だということです。先日のバイクでの逃走もそうではありませんでしたか?』

 

『…』

 

結局のところ、偽善や正義(同調圧力)押し付けて 仲間(群れ)を増やし、自分より弱者を見付けては自分が上だの如何に自分が奴隷としての()が相手より綺麗だのと、現実を逃避したいだけの人間など相手にする価値すらない。

 

『私自身、何が出来て何が出来ないかを把握しています。己の力量も把握出来ていないのに何でも首を突っ込みたがる。勝手に自滅するだけなら構いませんが、巻き込まないでいただきたい。』

 

『…それほどに厄介な敵ということかい?』

 

『深読みのしすぎです。厄介な相手とは一体誰ですか?私は一言も敵とも言っていませんよ?先程も言いましたが、心当たりすらありません。ここでも皆さんは勝手に被害妄想を膨らませている。実態の無い何かに脅え、あたかも自分達は被害者だと。彼女の背後を考えることも必要ではありますが、それは彼女がブラックリストに入ればの話です。それでは遅いですか?ならば、少しでも法に触れれば敵として認識するのですか?』

 

何も言えなくなった花音を放置すると、今度は達也の言動に勘違いした幹比古は真剣な表情で問う。

マシな部類と言っても、達也からすれば幹比古も同類だ。

 

物事の背景を理解しておらず、発せられた言葉に反応する。

その言動に筋が通っているのか、その人物の過去や思想、立場等様々な要素から分析して何を目的としているのか。

 

全く、魔法師引いては人間というのは何でもかんでも敵を作らなければ生きていけない生物なのか。

 

九校戦以降、煩わしいこと増え過ぎて、少々苛立ってしまったことは自覚している。

この程度は意趣返ししても文句は言わせない。

 

『そんなことは…。』

 

幹比古の想像通り、標的の一人であることは間違いないが、伝える必要性も見当たらない。

というか、今までの言動でどこに敵対者を連想出来たのかが不思議でならない。

 

『向けるべきことに目を向けず、言われるがまま。疑問にも思わず、考えようともしない。誰かが言っていたからそのまま鵜呑みにする。国、マスメディアの放送だから大丈夫。しかし、その根拠は整合性が取れているのか?それすらも考えられないのはただの操り人形でしかない。あのジローという男が言っていたから?プロパガンダならば、あなた方は格好の獲物です。まあ、あの男の言葉はある側面では事実ですがね…話を戻します。もし仮に、私の周りに暗殺者等の危害を加えようとする何者かがいるとしたら?その人物達は障害となるなら殺しても構わないという命を受けていたならば?狙われる可能性は五分と五分です、私か皆さん方か。私は自分の身だけを守ります。皆さんはどうしますか?』

 

世界の人間にも言えるが、特に日本人は特に考えない。

島国という特性もあるかもしれない。

それは大陸から切り離された孤島で人間の行来が少ないために会話するということを忘れたからだろう。

 

ーーーが、長いものに巻かれることが好きな日本人は周囲の目を気にして間違いを間違いと言えず、意思表示も少ない。

しかし、選択したことには責任を持たず、十八番の責任転嫁。

 

会話等で意志疎通をせず、勝手に忖度して自分の思うように希望通りしてくれるだろうという安易な思考。

 

これ程までに傲慢な考えなど無い。

 

思っている以上に人間は自分勝手で自分の都合だけで、他人の事など考えず、そして、強欲であり、保身だけしか考えない生き物だ。

 

だから、己の 正義(偽善)や 保身()だけで他人など何も思わずに誹謗中傷出来るし、簡単に人を殺せる。

 

『今の沈黙が答えです。私に関わりたいのなら何があっても責任はご自身で。皆さんの尻拭いなんて出来ませんから。』

 

達也の言葉に異を唱えたり、言葉を発せないのは、単に正論だからというわけではない。むしろ、達也の私情があからさまに見えるほどだが、根本は何も考えていないことにある。

 

だから、少しの理詰めと反論だけで何も言えなくなり、落ち込んでしまう。その程度の意思と信念で達也の隣を望み、友でありたいというのは口先だけのものでしかない。

 

『酷い物言いよね?守夢さんは。私たちの身が危険に晒されないように距離を置こうとしてるのですから。』

 

『その通りです。流石は私の理解者ですね、司波さん。』

 

今この場で自分の身を守ることが出来るのは、司波深雪と桜井水波の二人だけだろう。

 

達也を妄信はしていないし、逆にその存在を暴こうとしている。

そういう意味においては警戒対象になる。

 

『誰が貴方の理解者ですって?』

 

『おっと、竜の尾を踏んでしまいましたか。まぁ、本当に最近は師匠の手伝いやらで忙しいんです。バイト代は弾みますが、自分の研究もあるので周りに迎合できる余裕もありません。自分の身に降りかかる火の粉は対処できますけど、周りに気を配っての対処など出来ないのです。はっきり言って邪魔です。』

 

簡単な話なのだ。

 

今より強くなって、今起きている事象や事件の情報の真偽を確め、分析し感情抜きに判断する。

歴史の背景を少しでも学び、人間という存在が如何に考えない奴隷のような存在ということを認識すれば良い。

 

これだけだ。

 

『本当に生意気ね。』

 

『…(フッ)、そう言えば、西条さんと千葉さんが休んでいましたね。』

 

最後の足掻きとして花音がポツリと溢すが、達也は小生意気に鼻で笑う。

 

そして、こんな話を投げかけた時点で答えられるはずもなく、人間のレベルを問うても自分自身のことすら理解出来ていない。

それを承知の上で達也は投げかけたのだから、達也も甘いし、期待している部分は少なからずある。

 

『うん。なんかレオがエリカのとこに泊まってるとか言ってたよ。』

 

達也の雰囲気がいつもの調子に戻ると、周囲の緊張した空気が和らぐ。

怒っているつもりはないが、情け容赦ない言動に感覚ではそういう錯覚に陥るのだろう。

 

『ほぉ、そうですか。一体、二人して何をしているんですかね?』

 

だが、達也とて他人の粗を見つけて苛めるような論破野郎ではない。正直、他人が何を心情にしていようとどうでもいい。

 

己の尺度と押し付けが烏滸がましいと言っているだけなのだ。

それこそ、人間のレベルが低いことの表れだ。

 

『それは二人に聴いてみないことには。』

 

『まあ、あの二人は意外と相性は良いかもしれませんね。もしかしたら…。』

 

『『『え?///』』』

 

『(本当に先程まで俺に説教されていたとは思えないな。切り替えが早いと言えば聞えはいいが、いつまで保つかな?頼むから、一時の感情任せで事を起こしてくれるなよ。)何を想像して赤面させているのですか?千葉さんの家は剣術の大家です、西条さんを弟子にしたのではないですか?』

 

年頃の少年少女にはやはり、重すぎる話なのだろうか。

しかし、それが今の日本人のレベルの低さで、十九世紀後半から徐々にそして、二十世紀後半から急激に退化した現在だ。

 

彼等だけに罪はないが、彼等の両親、祖父母、先祖らが招いたものだ。

酌量の余地はない。

 

『そ、そうですよね。』

 

『…うん、私も、そうだと思って、た。』

 

『ま、まぁ。私と水波さんはわかっていましたけどね。』

 

会話には加わってないものの、深雪や水波までもが想像に想像を重ねていたのか、耳も顔も赤くなっていた。羞恥心を隠せていないのは一目瞭然だったが、それを指摘するのも野暮でもあるため、達也は見て見ぬふりを決め込むことにした。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

『ほら!皺が寄ってる!』

 

スパンッと小気味良い音と共にハリセンがレオの頭部を引っ叩く。

 

『イッテェ!お前な、何度も言うが手よりも先に口をだな?』

 

『あんたが何度言ってもきかないから、仕方なしでしょー?』

 

このやり取りも何度目だ?と謂わんばかりにレオはエリカに文句を言うが、エリカとしては指摘することが仕事だ。

技というのは型から繰り出される、その型を会得するために基礎がある。その基礎が疎かになっていては型が未完全でそこから繰り出される技は技と言えない。

 

『だったら、もう少し手加減をだな。』

 

『元から無い脳細胞を活性化させようとしてんじゃない。』

 

『んなわけあるか!』

 

逆に数に乏しい脳細胞が減っていく気しかしない。

 

というより、何故頭を狙う?

 

『まぁそうね。そろそろ、今日の稽古は終わりにしよっか。』

 

レオの響きもしない抗議を右から左へ流し、一息つき窓を覗くといつの間にか夜の帳が降りていることに気付く。

 

時計を見やると、十八時を半分ほど過ぎていた。道理で道場が暗いわけだと納得するエリカ。

 

『俺はもう少し続けるわ。』

 

だが、レオはもう少し自習を続けるようだ。

根を詰めすぎるのは逆効果だが、技を会得しようとするには並大抵のことでは無いとは感じていた。

 

だが、レオの基準とエリカの基準とではまた違うが、それでもやらないよりはマシではある。

 

『わかったわ。…やっぱり、九校戦の時と勝手が違う?』

 

『ん?…あぁ、マントには補助術式が組み込まれてたからな。それに、ある程度拡がれば遮蔽物や盾としての役割は問題なかったからな。精度はそこまで必要じゃなかったな。』

 

ふと、九校戦のレオのマントを思い出すエリカ。

やはり剣術の大家とはいえ、術式は完璧ではない。

否、術式の練度の違いだけである。

 

その意味では、達也の実力は化け物以上ということだ。

 

『家のも補助術式は組み込まれてるはずなんだけど。やっぱり、達也君に相談してみる?』

 

『それは駄目だ!これはあいつの力を借りることはしちゃだめだ。あいつは関わることを嫌うし、これは俺の自己満足の世界だ。(俺は俺の立ち位置を確立するだけだ)』

 

エリカとしても千葉家の術式に不備は無いと自負している。

しかし、それと同時にこれ以上先は望めないとも感じていた。

 

家の術式を他人にしかも、それを意図も容易く超えてきそうな達也に見られることは業腹だが、それもやむ無しとも思わなくもない。

千葉の自身の剣の進化のためなら、使えるものは何でも使う。

それが達也であろうとも。

 

『ふぅん。なら、気の済むまで続けなさい。(やっぱり、男の子だね。)』

 

だが、エリカの考えるよりレオの思惑はそれを遥か先にあったようだ。

レオの瞳の奥は闘志が燃えたぎっており、その姿勢に満足げなエリカは部屋をあとにした。

 

 


 

 

『お待たせして申し訳ありません。』

 

とある雑居ビルでもなく、横浜の中華街でもないその個室は両者の中間辺りの街中にある料亭。

 

そこで二十代過ぎの痩躯の青年と二十代中盤あたりの筋骨隆々とした青年と四十代の恰幅の良い男性のコンビが向かいあっていた。

傍目には顔の作りは日本人に近いと感じる。

しかし、

 

『いえ、我々も先ほど来たところです。』

 

たった今、到着した年若の青年に嘘偽りはない。

悪びれるわけでもなく、ただ恐縮している態のみ。

しかし、それでいながら卑屈さもなく丁寧な物腰と容姿が相まって貴族的な雰囲気を醸し出す。

 

対する最年長の男の返答は素っ気ない

 

『早速ですが、 (チョウ)先生。』

 

『御用件はわかっております。彼女ですね?』

 

『そうです。情報漏洩の可能性が高いと思われますが。』

 

『チェン閣下のご懸念は理解しております。ですが、ご心配は無用です。彼女には私の名以外一切の素性等の情報を与えておりませんので、情報漏洩の可能性は無いと思われます。』

 

『ほう、それは。よく知りもしないのに、協力者に仕立てることができましたな。』

 

ひたすらに尋問口調で青年を問い詰めていく二人組の男達だが、テーブル越しで相対する青年は気にした風もない。

 

『あの年頃は多感で情熱的でもあります。多くを聞くよりも多くを語り、如何に自分自身の価値が高いかなど、自分を理解してほしいという時期なのですよ。』

 

『そこまで仰るのでしたら、我々も安心です。ただ、【万が一】だけは無いようにお願いします。』

 

『心得ております。近日中にでも様子を見て参りましょう。』

 

恭しく頭を下げる青年だが、相変わらず何を考えているのか不明ではある。

この青年と自分達の考えるリスク管理は乖離がある。

 

だがそれは始めからわかっていたことだ。

 

この男と我々では立場や目的が違う。

今回は利害が少しだけ一致したというだけの関係に過ぎない。

 

恰幅の良い男は隣に座する部下である男に目配せをすると、部下である若者もその意味を理解し頷きを返し、呂 剛虎(リュウ・カンフウ)は対面の青年へ鋭い視線を向ける。

 

しかし、青年はその視線に気付いているのかいないのか、涼しげな表情を崩すことはなかった。

 

こうして、若者と強面の男達との会談は幕を閉じた。

 

 

 


 

 

 

平日の授業を終え、待ちに待った休日である土曜日がやって…は来なかった。

魔法科高校は週休2日制を採用しておらず、土曜日であろうと授業および実習があるのだが、達也は学校をサボって、九重八雲の下を訪れていた。

 

その理由と言うのも、八雲より「遠当て」の練武場を改装したため、試しに来ないか?という達也にとっては有難い申し出だったからだ。

 

魔法射撃の練習ならば、学校でも可能ではある。しかし、達也の力は公に出す訳にはいかない。

 

練習するならば、軍の敷地内で行うしかない。

言葉にするのは容易いが、その軍の敷地は駅から徒歩で行けるような場所ではない。

近場としても土浦の基地まで行く必要があるのだ。

 

物理的距離もさることながら、達也はまだ高校生で風貌も年相応であるため誰かの目にも留まるだろう。

無論、授業もあるし、頻繁に土浦に行けば監視カメラの記録にも残り、達也を探る輩にとっては格好の餌を与えてしまう。(監視社会などクソ喰らえと内心は毒突いている)

そういう諸事情もあり、訓練場所に苦慮していた達也には渡りに船というわけだった。

 

達也が行くついでというわけではないが、感覚が鈍くなっているとのことで双子姉妹の結那と加蓮、弟の恭也も参加することになった。無論、自発的にではなく三人の両親他多数からのお小言を貰ったということだからなのだが。

達也としては、三人を存分に甘やかす役が誰か居ても良いとは考えているし、サボって怒られるくらいがちょうどいいのではないか?と思っている。

 

達也自身、大学程度までは様々なことを見て、学び、遊び、経験しておくのは良いとは思っているが、家族達としては十分甘やかしているとのこと。

 

その甘やかしすぎている元凶が達也なのだが、本人に自覚はない。

 

そして、その甘やかされている双子姉妹と弟は遠当ての練習に苦戦していた。

 

『っ!はっ!…、!?くっ!』

 

『ふっ、はっ!っ!?うっ!』

 

『チッ!い゛!…くぅぅ~!んっの!』

 

予想通りと言うべきか、魔法を使用する際の身体の反射速度に遅れがみてとれた。

術および体術ならば、理想的な位置取りが出来ている(家族視点では無駄がありすぎる)ため、魔法のみだとタイムラグがあるように感じるらしい。

達也の初見では、術の詠唱の時間の方が一呼吸分ロスしている。そのため、一流の魔法師相手では苦戦は免れないだろう。

しかし、能力値が低いということではない。

そこに関しては追々、わかってくるだろうからアドバイスはしない。それは割り切る思考、感情よりも理論、効率というものが嫌々ながらも出てくるから、そこには達也も踏み入ることはしたくない。

双子姉妹と弟に甘々な感情丸出しで庇った達也だが、初の訓練としては上々ではあろう。

 

また、理想はあくまでも理想であり、本人達よりも第三者の感想で言えば、実戦はベストよりもベター。

そして、ベターには程遠い。

 

『やるね〜、結那君は背面から加蓮君には間髪入れず、恭也君にはリズムを崩しつつ、利き目である左目の死角を。あの子達自身、苦手ということに気付いてないということは身近な人物が悪意ある分析をしているからかな?ね?達也君?』

 

『そうみたいですね。ここまで愛情溢れる身内がいるなんて、あの子達も果報者ですね。』

 

三人の訓練をどこか愉しむように見ている八雲と達也だが、課した内容は本人達にとってはトラウマもしくは、ストレスの溜まる訓練になりそうである。

 

『で?本当のところはどうなんだい?』

 

意味もなくこのような訓練を課すわけでは無い達也だが、それを考慮しても今回は家族達も荒療治過ぎると苦言を呈した程だ。

だが、とある者達からは賛成されたのは意外だった。

ある意味では過保護なのはその者達だからだ。

 

『最近、きな臭い動きが頻繁になってきました。狙いは俺のようですが、一緒に居ない時に襲撃を受けないとも限りません。無論、指一本触れさせないよう駆けつけますが。万が一、間に合わなかったり最悪の状況としては、一人の所を狙われる場合です。三人とも、並の軍人よりは動けるでしょうが、力や状況把握は半人前以下です。危機察知と状況把握、一番重要なのが逃走能力を身に付けさせれば、何とかなります。』

 

『ヒットマンに囲まれたら、不味いんじゃないかい?』

 

魔法と銃火器の危険度は段違いに変わる。

それは精神的な問題ではなく、人の生命を容易く奪うからだ。

魔法の威力および殺傷能力は確かに高い、正確性もそれなりにある。だが、それは当たればの話。

 

しかし、銃火器は威力、殺傷能力は比べるまでもなく、魔法より速さもある。

そして、何よりも大量生産可能の上に扱い易さが段違いである。

魔法師は確かに強い、だが、その慢心が命取りになる。

 

『たしかにそうですが、拳銃武装の二、三人程度でしたら対処は可能です。無傷ではすまないでしょうがね。アサルトライフル類にマシンガン類、スナイパーライフルといった乱射型や中長距離には経験値もそうですが、身体能力が追いつかないでしょうね。』

 

と、まあ。

ここまでは一般論の話である。

達也が猫可愛がりする結那と加蓮、恭也はそういった慢心、傲慢さは一切無いとまでは言わないが、少ない。

達也自身がそれを体現しているからだ。

 

『無茶言うなぁ達也君は。ライフル弾を避けるなんて、君以外に出来る訳ないじゃないかい。しかも、この前の一件で確実に回避出来るようになっただろうからね。』

 

『ライフル弾は家族の中でも俺だけでしょうね。全盛期の浩也さんなら遮蔽物が少ない気配が掴みやすい状況であれば1000ヤード近くなら、引き金引く時の殺気で反応出来ると言ってましたけどね。俺も戦闘モードで一発ずつ避けるだけが関の山ですよ。そもそも、そんな鍛え方は家族も俺もしてないですからね。』

 

『謙遜の意味合いが違うからね。嫌味にしか聞こえないよ。そもそも、君の意識の範囲外から狙撃できる人間が世界に何人いると思っているのかな。殺気をギリギリまで隠せるスナイパーなんて、片手で数えれる程だし。』

 

八雲でさえ、達也の能力は把握出来ていない。

八雲自身、殺気や視線と言った感知出来る範囲は常人をはるかに凌ぐ。しかし、達也には遠く及ばない。それはそういった生命のやり取りをする環境に身を置いていないからだ。感知範囲を数値に表すとしたら、半径500m程度だろう。だからと言って、八雲が劣っている訳ではない。寧ろ、流石と言えよう。

 

そもそもの話、達也が異常過ぎるのだ。

ヒト科でありながら他の生物よりも感知能力に筋力、回復力そして、精神力は通常ではあり得ないほどに高い。

もし、この世に神や精霊という存在があるとしたら、達也はそれに連なる存在なのかもしれない。

 

『この前居たじゃないですか。』

 

『あれはスナイパーまで用意してくるとは思わなかったからだろう。』

 

『それも含めてです。相手が誰であるかを認識していたのに、何をしてくるかを想像しきれていませんでした。半年前なら対応出来ていたと思うんですけどね。』

 

一体、どこまで謙虚なのやら。

その思考と性格は美徳かもしれないが、危うさも孕んでいるのは達也自身は気付いていないのかもしれない。

満足しない、慢心が少ないのは成長過程では良いが、裏を返せば、自身を追い込み続けている。

 

その根底にあるのはおそらく…あの出来事だろう。

 

『そうかな?おそらく、半年前の君なら、片肺を撃ち抜かれていただろうね。』

 

自身を俯瞰して見ているつもりでも、他人からの客観的な分析の方が的を射ていることも往々にしてある。

 

『?それはどういう…』

 

『じきにわかるさ。ほら、君の番だよ。』

 

八雲の言葉を反芻しているうちに妹達の鍛錬が一区切りつき、次は達也の番がきた。

おそらく、鍛錬が終わってもさっきの疑問には答えてくれそうにないだろう。頭を切り替えて、三人の鍛錬の参考になれるように集中することにした。

 

 

 

 

 




如何でしたか。

今回は地の分多めです。
ここ数年の現状の欝憤(本音)をここ(達也のセリフ)で吐き出しているような感じです。

前回の保健室での話のアレンジの延長です。
一応、
①深雪らとの絡みは増やした感じです。
②原作での鍛錬は深雪→双子と弟に変わっているだけです。

そんなところでしょうか。

昼間はまだ暑いですが、夜は冷えて体調崩しやすいですから風邪にはお気を付けください。(風邪ひいて休みたいです。笑)

では、次回もお会いできますように。




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