ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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今回は七瀬たちは出ません。
大人たちの話です。ロボット愛は爆発しているのでご安心を!
そしてプロローグで登場し、反響の多かったあの人が再び登場します。




新たに高評価をくださった
くとぅるふさん、魔乙さん、ALPHA-117さん、チャン根田さん、テルミンさん、 流離う赫毛の剣士さん、karassさん、マルタスさん、つんさん、ありがとうございます!!


戦後処理

『これより、報告会を始める。

 事件の報告は君からお願いできるかな、織斑千冬君?』

 

「はい」

 

 IS委員会。そこの本部ではIS学園で起こった『無人機襲撃事件』についての追及が行われていた。

 事件の当事者として、学園から召集された千冬は説明を求められ、それに応じる。

 

「クラス代表戦第十三戦目、織斑一夏VS凰鈴音の試合終了直後にアリーナのバリアが破壊、同時にアリーナ内の全システムがハッキングを受けました。

 アリーナのバリアを破壊して侵入してきたIS…我々はこの機体を『ゴーレム』と呼ぶことにしました。

 ゴーレムはアリーナに侵入し、試合後の織斑機、凰機と交戦。最後には沈黙しました。

 そして、これがそのゴーレムです」

 

 千冬は空間投影ディスプレイに、襲撃者『ゴーレム』の画像を表示した。

 すると、話を聞いていた委員会の役員たちがどよめいた。

 

『操縦者がいない…!?』

 

『織斑君、これは一体なんなのかね!?』

 

 大破したゴーレムの画像を見てそんな声を上げる委員会側の人間たち。

 それもその筈である。

 表示されたゴーレムの画像のコックピットの中には熱で溶解しかけていた人型のナニカがいたのだから。

 

「これがこのIS、ゴーレムのコアたる部分です。

 この人型のコアが自分で考え、自分で行動する。無人のIS、それがこのゴーレムです」

 

『人の形をしたISコアだと…?ではコア以外の機体はなんだ?』

 

「機体はもはや器にすぎません。

 例えるとすれば、パイロットとコアの役割を兼ねた人型のコアが命、機体が肉体でしょう」

 

 そう。これが無人機の正体である。

 本来コックピットに乗っているはずのパイロットはおらず、その代わりに『人の形をしたISコア』が乗る。

 ISコアの形自体を変え、パイロットに見立てているのである。

 

『だがISコアの形を変えるなど、そんなことできる筈が…』

 

「現に起こっていることです。

 ですが、それだけの技術を持っている人物でなければ、この機体の異常な性能の説明がつきません」

 

『ビーム兵器か…未だに開発のメドがたたないこれを作れる人間がいるとはな…』

 

 現在、世界ではビームよりも出力の低いレーザー兵器の開発ですら停滞している状態である。

 だというのに、それを作り出し、あまつさえISの腕部に内蔵できるほどに小型化できるなどという技術を持っている企業は世界中のどこを探しても存在しない。

 故に、その場にいた全員が同じ結論にたどり着くのは必然的であった。

 

『篠ノ之博士の差し向けたものなのか…だが何故…』

 

 分からないのは自分の作り出したISをこのようなことに使用した理由だ。

 こんなことをすればISに対する世間からの風当たりが強くなるのは当然。そうまでして自分が心血を注いで作り出したものを悪用する理由があるのだろうか。

 

『ISを悪用したテロは多い。エリア61事件もそのひとつだ。

 我々は天災の逆鱗に触れてしまったのかもしれないな…』

 

 エリア61事件。ISの稼働試験会場から試験用として用意されていた数機のISが強奪された事件である。

 その事件には稼働試験にきていた七瀬も関わっていた。

 中学時代の七瀬は、辛うじて強奪を逃れた『ラファール・リヴァイヴ』を使ってこの勢力と対峙した。

 七瀬がはじめてISを動かせると判ったのもこのときであり、このエリア61事件は世界で大きく知られている。

 

『だが、待ってもらいたい』

 

「?」

 

 委員会の役員たちが嘆く中で、一人だけ力強い声を上げた者がいた。

 その声に他の役員たちも反応する。

 

『今回の問題、本当にこれだけだと思っているのかね?ミス織斑』

 

 そう千冬に問い詰める役員。

 

「いえ。織斑たちの交戦を止めなかったこと、そして何より我々教師が何も尽力できなかったことは自覚しています。委員会からの命であれば懲罰も受ける覚悟でこの場に立っているつもりです」

 

『そうでなければ困るんだよ。

 仮にも君は生徒の命を預かる立場なのだから。

 ・・・それと、こちらに送られてきた情報では訓練機で無人機に挑んだ生徒がいたそうだが…』

 

「はい。東七瀬という生徒です」

 

『布仏本音から手柄を奪って真打の原型を作ったと称する男か。

 また彼は学園を騒がせたようだね』

 

「ですが、今回ばかりは彼らの行動を称賛せざるを得ません。

 何もできずにいた我々の代わりにアリーナに監禁された生徒の解放、無人機の討伐…これらを成したのは全て彼を含む周囲の生徒です」

 

『ふん、どうせまた他者の手柄を横取りしただけだろう。

 確か今回のアリーナ解放の参加者に代表候補生がいたな。その者がいたからこその成功だろう。

 君の弟も彼の周囲の人間だそうだが、同じく手柄の横取りが目的で今回の解放に参加したのではないか?』

 

 男が語っていく言葉を聞き流していく千冬。

 そうでもしなければ怒りの感情を抑えれないと分かっていての行動なのだろう。

 

『自分の弟の成長を確かめたいのは解るが、それで鎮圧が遅れては困るんだよ。

 そもそも、世界最強(ブリュンヒルデ)の君が最初から出ていればいち早く鎮圧できたはずだ』

 

「ですからそれは──」

 

 無人機によってアリーナが閉鎖されたから。そう千冬が答えようとしたときだった。

 部屋のドアが開き、何者かが入室してきた。

 

『誰だ?今は立ち入り禁止にしていたはず──』

 

「いやぁ、ごめんねー。七瀬君(ロボット廚)の作った技術集大成(変態の集大成)を研究してたら時間が掛かってさー。いやぁ、反省反省」

 

 そんな場違いな口調で入室してきた白衣の男。そのポケットには先程研究していたものであろう資料が大量に詰め込まれており、収まりきれないのであろう資料がポケットから落ちていた。

 そして千冬はそんな滅茶苦茶な格好をした男のことを思い出した。

 

「バラム・エレック…総技術長」

 

「おぉ、ブリュンヒルデに名前を覚えてもらえるなんて光栄だねぇ」

 

 バラム・エレック。七瀬に『打鉄・零式』の技術公開交渉を持ちかけたIS委員会の総技術長である。

 機体譲渡の際に千冬と面識を持っており、そのときも今のような服装だったために印象強く残っていたのだ。

 

『おや、総技術長がなんの用ですかな?ここは貴方のような技術屋が踏み入っていい場所ではない。さっさと立ち退いていただきたい。貴方にはこのような場所ではなく薄暗い部屋がお似合いだ』

 

「うん?」

 

『技術屋には技術屋の仕事があるだろう。そっちに戻れと言っている。あとなんで入ってきた』

 

「はぁー、これだからお堅い頭の奴と話すのは嫌なんだよねぇ。議長も僕にこんなこと任せないで欲しいよ全く」

 

 そう言って彼は手に持っていた資料の束を役員たちの机に置いた。

 

「IS委員会議長は今回の件に対し、より厳重な警備と対策が必要と見た。

 より円滑な任務の遂行の為、IS学園の警備と技術開発を目的とした特務隊の編成を要求する。…だってさ。大変だねぇ」

 

 エレックは役員たちに資料を渡し終えた後に千冬にも同じ資料を渡した。

 

「私にも、ですか?」

 

「うん。なんたってこの特務隊の指揮官は君だからね。

 それと、特務隊の選抜の中には君の弟さんも入ってるよ」

 

 千冬は選抜の名簿を見る。そしてその中に一夏の名前があったことを確認した。

 

「ちなみにこの特務隊の役割は今回みたいな襲撃があった場合の学園の護衛とIS学園の技術成果の報告ね」

 

「つまりは本隊が到着するまでの威力偵察という名の犠牲と次々に新たな技術を作り出す問題児たちに首輪を着けておくということですか」

 

 千冬の言葉に役員全員が黙った。

 皮肉混じりに言われたその言葉に、千冬からの殺気を感じたからだ。

 

「うん、そうだよ」

 

 殺気の混じった千冬の言葉にあっさりとそう答えるエレック。

 そしてそんな彼を見て役員たちは腰を抜かしていた。

 エレックが千冬の怒りを買ったと思ったからである。

 

「ま、でも君ならそんな隊にすることもないでしょ。

 だから君を推薦したんだからね。感謝してよ?」

 

「しかし何故ですか?貴方には何の得もないことでしょう?」

 

「流石にこっちだって生徒の血でまみれた技術を世界に公開するのなんてごめんなんだよ。

 生徒がその身を犠牲にして守った技術です、なんて言われて渡されても胸糞悪いからさぁ」

 

 エレックは眼鏡を人差し指でくいっとあげる仕草を見せながらそう語る。

 

「だからさ、綺麗な技術を血で汚さないでねー?

 僕たち技術者の誇りが傷つくからさぁ。

 どうせ渡すならこんくらいピッカピカのやつを渡してほしいなぁ」

 

 そう言ってエレックはポケットから七瀬の『プロト・オーガント』の写真を取り出す。

 

「こいつはいいよ~。作った者が素晴らしい未来を見据えて作っていることが一目で分かる。

 もともと僕たちの作った『真打』をベースに作られてるから新たな技術を使って作られていないんだよねぇ。

 そのせいで『世界に技術を公開する義務』が成立しないんだよねぇ。残念残念」

 

 彼が言っているのはIS学園の特記事項のことだろう。

 『開発された技術を世界に公開する義務』。だがそれは、新しい技術が開発された場合にのみに限る。

 以前の『打鉄・零式』の場合は新型フレームに骨格を支えるためのシリンダー等、七瀬が新たに開発した技術で作られていたために特記事項が成立した。

 だが、今回七瀬が改造した『プロト・オーガント』は『真打』をベースとし、既に開発されている技術を使って改造されているために特記事項が成立しないのである。

 

「僕たち技術屋だって作るものは選びたいのさ。

 ま、どっかのお馬鹿さんたちは薄暗い部屋なんて言ってたけどさ、僕たちにとって技術室は未来を作る場所なんだよ。そんな場所に血で汚れたものを持ってきたくないんだよねぇ」

 

『おい、誰が馬鹿だ』

 

「はい、これで報告会は終了ー。

 ミス織斑、もう帰っていいよー。伝えることは伝えたからねぇ」

 

『何を勝手なことを!!それにこの件は我々役員が──』

 

「あぁ、そうだった。もうひとつ議長から伝えておけって言われてたことがあるんだよぉ」

 

 叫ぶ役員を無視して、彼はまたポケットをまさぐり始めた。そしてしばらく時間が経った後、一枚の紙を出した。

 

「これより、IS学園との一切の事業はこの僕が取り仕切ることになったから。

 というわけでミス織斑、これからもよろしくねぇ」

 

 あっさりとそんなとんでもないことを告げるエレック。

 それを聞いた役員たちはたまらずに立ち上がる。

 

『ふざけるな!技術屋が政治だと!?

 ならば、我々はどうなる!?』

 

「君らは今日から僕の部下だよ。

 交渉が下手くそな君たちに変わって世渡り上手な僕が上司になったからよろしくー」

 

『技術屋ごときが我々に指図だと?いくら議長の決定とはいえ、私は──』

 

「ふーん、上司の僕に向かってそんな態度とるんだ…

 ならもういいや、君クビねー」

 

『なっ…!?』

 

「どうしたの?自分より下の立場のものに権力を振りかざすのは君のやり方じゃないか。わざわざ君のやり方で君を裁いてあげたんだから感謝してよぉ」

 

 呆気に取られている彼を小突くエレック。

 

「他の皆も、それでいいよね?」

 

 その問いに異論を唱える者はいなかった。

 もしこの場で異論を唱えようものなら、それは自分から職を失いに行くようなものだと判断したからだろう。

 

「さ、ミス織斑。君の役目は終わりだよ。ほら、行った行った」

 

 そう言って急がせ千冬を帰すエレック。

 IS学園との関係を取り仕切ることとなった彼には、これからやらねばならないことがあるからだろう。

 

「(以前の無能よりはマシな人間になったか)」

 

 責任者の交代した委員会を背に、千冬はそんなことを思うのだった。

 

************************

 

「随分苦労したようだな。世界最強とまで吟われた君が」

 

 IS委員会の本部から出てきた千冬を見て、そう語る一人の男。

 

「そんな肩書きがあるくらいで人間を辞められるわけではないのさ。

 …もういい、さっさと出発してくれ」

 

「了解」

 

 普段であればもっと反論に時間を費やす彼女だが、今回ばかりはその気にならなかった。

 委員会での報告会が千冬の体力を削っていたからである。

 

「…飲むか?」

 

 自分の車のエンジンを掛けながら、助手席に深く腰かける千冬に缶コーヒーを渡す男。

 それを向けられた千冬は彼のその手慣れた行動に疑問を抱き、質問を投げかけてみた。

 

「お前はこの車内でその気遣いを何人の女に向けて来たんだ?

 なぁ、沖田」

 

「生憎だが仕事の立場上、女を作る予定などない」

 

 淡々と語る男の名は沖田 雄(おきた ゆう)

 IS学園に入学する前の七瀬と一夏のボディーガードを務めた人物でありながら、対暗部用暗部、更識家のエージェントでもある。

 

「…気遣いには感謝するが、今はそんな気分ではない」

 

「そうか」

 

 そう言って沖田は自分の分のコーヒーの缶の封を開け、一口すすった。

 苦味の強いブラックコーヒーは疲労困憊した今の千冬には受け付けられなかったのだろう。

 

「成果を聞いても?」

 

「今は話しかけるな」

 

「なるほど、余程お相手が酷かったと見た」

 

 千冬の態度から察した沖田は車のペダルを踏み込もうとしたが、隣の千冬の行動に気づき、出発するのを辞めた。

 

「シートを倒しすぎだ。

 万が一にでも事故に遭ったらどうする」

 

「なに、そのときはお前をあの世から恨むだけだ」

 

「理不尽だな。…出すぞ」

 

 沖田は千冬に一言掛けてから車を出発させた。

 既に時刻は午後の7時を過ぎており、学園での千冬の勤務時間も終了していた。

 助手席でリクライニングシートを限界まで倒しながら目を閉じている千冬は時間さえも気にしている余裕はないようだが。

 

「君を降ろす場所だが、学園の付近でもいいか?

 君を乗せたことをお嬢に勘づかれれば何を言われるか分からん」

 

 沖田の言うお嬢とは更識楯無のことである。

 彼の家は代々更識家に使えており、今の任務に着く前は彼女の世話係をしていたために面識があった。

 堅物とまで言われる沖田が自分の車に女性を、それも千冬を乗せていたとなれば楯無もこれをからかいのネタに使わずにはいないだろう。

 

 それを未然に防ぐ為に考慮したことだったのだが、千冬がそれを許さなかった。

 沖田は、さっきまで閉じられていた千冬の目が自分に突き刺すような視線を送っていたことに気がつき、諦めてIS学園に進路を向けた。

 

「車の免許は持っていないのか?」

 

「そんなものを取っている時間はなかった」

 

「…すまない。失言だった」

 

 沖田は千冬の言葉の意味に気がつきすぐに謝罪を入れた。

 高校を卒業してからは自分のことの他にも一夏の生活費を稼がなくてはならなかったために、余計なことに金を使っている余裕がなかったのである。

 

「最近知ったことだが、ISの世界大会『モンド・グロッソ』には特別な制度があるそうだな。

 なんでも、優勝者はIS学園の教師の免許を取れるとか」

 

 沖田の言葉で千冬の閉じられていた目が開く。

 

「モンド・グロッソで優勝しようと必死になる者がいるとする。

 つまりそれはIS学園の教師という年収の良い職務に就くためなのだろうか?」

 

「突然何を言い出すかと思えば…他人のことをよくそこまで調べる。

 訴えてもいいんだぞ?」

 

「たまたまモンド・グロッソの特殊制度について調べていただけだ。

 そしてその真偽を身近にいるIS関係者に聞いた、ただそれだけだ。

 君のことを聞いた覚えはないが?」

 

 沖田がそう言うと千冬はチッと舌打ちをした。

 そして、リクライニングシートを倒したままで口を開いた。

 

「私には弟がいる…いや、お前は知っているんだったな」

 

「昔から聞かされてきたからな。

 それに一夏君には学園から派遣されたボディーガードとして一度会っている。無論、同じ男性操縦者の七瀬君とも」

 

 最初はIS学園からの任務で七瀬の護衛に着いた沖田だったが、学園側が一夏の方の護衛を優先したために一夏の護衛に移動した。

 そのため、男性操縦者である二人と面識があるのだ。

 

「親も親戚もいない私達は自分たちで生きていく他なかった。

 一夏には私と違ってやりたいと思ったことをさせてやりたい。

 第一回モンド・グロッソで優勝し、IS学園の教師となって一夏を食わせてやれるようになったところまではよかった。

 …だが、私はその間一夏に家族の暖かさを教えてやれなかった。

 そして極めつけには第二回モンド・グロッソでの誘拐事件。

 そのときになってようやく私は自分の行いの愚かさに気づいた」

 

 沖田は、自分の隣で過去の無念を語る千冬に掛けられる言葉を持っていなかった。

 

「なら、第二回モンド・グロッソに参加した理由は…?」

 

「単なる賞金稼ぎだ。

 少しでもアイツの将来の足しになればと思ってのことだったが…あんな結果を招いただけだ。恨まれても仕方がないことを私はしてしまった」

 

 千冬は一夏が誘拐事件のとき何を思ったか、自分のことをどう思ったのかを知らなかった。

 

 だが、沖田はその答えを持っていた。

 

「…こんなことを言っても君の気持ちは変わらないかもしれないが、一夏君は君が助けに来てくれたことよりも君に会えたことが嬉しかった、とそう言っていた」

 

「何故それをお前が…」

 

 沖田の言葉を聞いた千冬がそんな声をあげた。

 

「ボディーガードとして一夏君の家に行ったとき、君の話をしてくれた。

 …だから私も知っていることを全て話した。学生時代にお互い両親がいないことから始まった悪友関係であり、何かあれば弟弟とずっと話す生徒だったと。

 …そして今のように何かある度に私をタクシーのように扱うとね」

 

「だが、見ず知らずのお前に一夏が家族の話をするとは思えん」

 

「見ず知らずではないようだぞ。

 何処かの誰かが一夏君に学生時代の写真を見せながら話をしたことがあるそうだからな。

 それに一夏君のボディーガードに私を推薦したのは他でもない君だ。一夏君に連絡のひとつくらい入れていたんだろう?ボディーガードに就く者は自分の知り合いだ、と」

 

 千冬は今になって一夏に連絡を入れていたことを後悔した。

 そして額を抑えたまま、千冬は沖田に質問した。

 

「…お前に聞くのもおかしいかもしれないが、一夏は私のことをなんと言っていた?」

 

「言っていたことが多いために纏めるが『優しくて不器用なたった一人の家族』、そう言っていた」

 

「…あいつ、あとで覚えていろ」

 

「いい意味だと思うぞ。

 そうでなければ、自分の命の心配よりも姉に会えたことが嬉しかった、なんて言わないだろう。

 全く、これ以上ないブラコンとシスコンだよ、君たち姉弟は」

 

「皮肉か」

 

「誉め言葉と受け取ってくれて構わない」

 

 千冬にそう語る沖田。

 

「本当は一夏君の気持ちを私が語っていいことではないはずだが、君がそうまであのときのことを引きずっているとは思わなくてな。

 …そうだな、戻ったら家族会議でもしてじっくり話してみることも一つの手だろう」

 

「検討してみるとする。それと…」

 

 千冬は一連の会話で目が覚めてしまったのか、倒していたリクライニングシートを起こした。

 

「私がお前をタクシーのように使うと言ったな。

 あれはどういう意味だ。アイツにおかしな入れ知恵をするな」

 

「おや、本当のことだろう。

 あの誘拐事件のときも突然『すぐにドイツまで行く足を寄越せ』等と抜かすブラコンのせいで私は一度更識家の組織から名前を消されかけているのだからな」

 

「言っておくが私は強制はしていない。タクシーは職務であるためクライアントのためなら何処であろうとたどり着かねばならないが、お前のそれは強制されていないぞ」

 

「電話越しに涙声で頼んでくることを強制と言うんだ」

 

「それはお前の勝手な判断だろう」

 

 勝ち誇った顔でそう言う千冬に舌打ちする沖田。

 

「あとで一夏に言い直しておけ。

 自分はタクシーではなく手足だと」

 

「同じだということに何故気がつかない。

 言い直す意味がないぞ」

 

「そう思うか?」

 

「逆に聞こう。なぜその二つの言葉に違う意味を見いだせる」

 

「…まぁいい」

 

 そう言うと千冬はシートに腰かけたまま再び目を閉じた。

 

「私はもう一眠りさせてもらう。

 学園に到着したら一声掛けてくれ」

 

「結局学園まで入らなければならないのか」

 

 沖田は諦めてカーナビの目的地をIS学園に設定した。

 

「…ん?」

 

 そんな中、千冬が行きの時には持っていなかった紙袋を持っていることに気がついた。

 

「おい、それは何だ」

 

「お前は私を寝かせないつもりか」

 

 話しかけられた千冬は目を閉じたまま答える。

 

「委員会の総技術長のバラム・エレックとやらが東に渡せと言って訊かなくてな。

 確か布教活動とか言っていた」

 

「布教…?」

 

 丁度信号で停められたところで沖田は中身を確認した。

 すると、とんでもないものが入っていたことに気がつく。

 

「これは……!?」

 

「何だ?」

 

 普段見せない沖田の反応に千冬は閉じていた目を開いた。

 

「まさか、こんなものを渡してくるとはな…」

 

「なんなのだそれは?」

 

 千冬が問いかけると沖田は紙袋を片手で開いてみせた。

 

「これは…プラモデル……?」

 

「そう。

 ティターンズ配備機『マラサイ』。

 こんなものを布教しようなど…万死に値する!!」

 

 生粋の連邦派である彼にとって、IS委員会の総技術長バラム・エレックが薦めたこの機体はお気に召さなかったようである。

 

「ルート変更だ。

 君は少しの間車内で待っていてくれ」

 

そう言って沖田はカーナビの目的地を変更し、某家電量販店に向けて車を走らせる。

 

「おい、教師にも門限のようなものはある。

 あまり時間を伸ばされると…」

 

「3分で戻る。

 七瀬君にその機体だけを布教するくらいならば、私も連邦の機体を布教しよう。

 ザクやグフといったジオン軍の機体を好む七瀬君には受け入れがたいかもしれん。だが、連邦の機体のロマンは伊達ではない!」

 

 千冬の声が耳に入っていないのか沖田は一人叫ぶ。

 

「私の目の前で他の軍の機体を布教するとはいい度胸だ総技術長とやら。

 その名、覚えておくとしよう。

 いや、それよりも七瀬君に布教する機体の考慮が先だ。ジムは以前に薦めた。ならばジェスタかジェガンか、それが問題だ」

 

「(持って帰る私の身にもなれ)」

 

 そう思う千冬であったが、彼女は知らない。ロボット好きにとってプラモデルの箱の重みは至福のものであることを。

 

 

 

 

 

 

最後、沖田によって千冬までプラモデルを買わされたことは言うまでもない。




千冬さんと連邦ボディーガードこと沖田さんの話でした。
そして新たな派閥、ティターンズ派登場と。

たまには主人公たちから外れて他キャラクターの話を書くのもいいですね!

年内投稿はこれが最後になります。

今回も、いえ、今年もありがとうございました!
ロボット愛を込めた熱い感想、高評価、是非是非お待ちしております!!
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