ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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遅れて申し訳ありませんでした!
教頭との対決回です。
久々ということもあり、今回は酷い文章になってるかもしれません…
それでもいいという方はどうぞ…

今回の話のテーマは一夏と七瀬の相違点でもあります。そこにも注目していただければ嬉しいです。


断罪

 『無人機襲撃事件』。

 ゴーレムと呼ばれる無人機がIS学園を襲撃した事件である。

 IS学園にはその事件の爪痕が一際大きく残っている場所があった。

 IS学園第二アリーナ。襲撃してきた無人機によって壊されたそのアリーナは、襲撃時の激しさを物語っていた。

 今やそのアリーナは立ち入り禁止とされ、電気すら通っていない。

 

 そんな場所にひとつ、人影があった。

 

「おう、やっと来なさったか。

 教頭さんよ」

 

『貴方が突然決闘の場所を変更だなどというから出向いて差し上げたというのに、なにを偉そうに…!!』

 

 アリーナの地面に座っていた人影、七瀬に怒鳴りつける教頭。

 決闘の場所を当日に変更された教頭は苛立っていた。

 

「それにしても…一体どういうおつもりですか?

 よもやこのアリーナを決闘の場にしようなどと」

 

 七瀬が新たに決闘の場に指定した場所。それは無人機『ゴーレム』の襲撃によって崩落したアリーナだった。

 試合をするための地には穴が開き、地下の施設が剥き出しになっているアリーナは試合ができるような状態ではなかった。

 そんな場所を指定した七瀬の考えが教頭には理解できなかった。

 

「まだ分かっていないようだな」

 

 その場に座っていた七瀬はようやく立ち上がった。

 

「こっちは端から試合も決闘もするつもりはない」

 

「・・・それは試合を放棄するということでよろしいのですか?」

 

「何を馬鹿な。

 これから頭の悪いアンタに『ISの本当の姿』を見せてやろうと思ってな」

 

 教頭は七瀬に訝しげな視線を送る。

 

「それに言ったはずだ。その機体をいただくと。

 端から目当てはその機体、『タイラント』だけだ。要は機体以外はどうでもいいんだわ」

 

 教頭が待機状態にしていた機体、『タイラント』を指さしてそう語る七瀬。

 教頭が扱うその機体は、七瀬達が作り上げた機体『オーガント』を原型として作り上げられた機体である。

 アポイントを取らずに改造された機体だとしても、『オーガント』を改造して作り上げられたその機体に、原型機の製作者である七瀬が興味を持つことは必然的であった。

 

「オーガントを強化した、そう言うからには余程いいものに仕上げてくれたんだろう?

 だからどうか─────俺たち(製作者)を失望させないでくれよ...?」

 

 教頭にそう言いながら七瀬は隣に鎮座していた機体、『アサルト・ソルジャー』に飛び乗った。

 そして、そのまま崩落したアリーナの地下に飛び降りて行った。

 

「ま...待ちなさい!!量産機などで私と戦うつもりですか!?」

 

 七瀬が飛び降りていったアリーナの大穴に向かってそう叫ぶ教頭。

 しかし教頭の声は、地下の階層まで穴の空いたアリーナにはただこだまするだけだった。

 

「・・・この学生風情がッ!」

 

 教頭の叫び声と共に待機状態になっていたISが光を放つ。

 そして光は教頭を包み込み、IS『タイラント』の姿を構成した。

 タイラント(暴君)の名にふさわしい、普通のISよりも一回り大きい本体に武装。そして胸部装甲に装飾された『鬼面』と各部のスパイクアーマーが見るものを圧倒する威圧感を放っていた。

 

「必ずこの手で二度とISに乗れない身体にしてさしあげます…

 タイラント、行きますよ」

 

 機体に語りかけた教頭は崩落しているアリーナの穴に降りていった。

 それが罠の張り巡らされた死地だともしらずに。

 

*************************

 

 

 

「しかしなぜこんな薄暗い場所を戦いの地に…

 暗闇に隠れないと私とは互角に戦えないと見込んでのことでしょうか?」

 

 崩落したアリーナの地下、その暗闇の中で教頭は敵である七瀬を探す。

 崩れきっているアリーナの瓦礫をタイラントの巨体が踏み潰し、その地響きが暗闇にこだまする。

 

「暗闇に隠れているつもりでしょうけど、ハイパーセンサーからは逃れられませんよ」

 

 教頭はISが提示してくる情報を元に七瀬を探す。

 しばらくしてハイパーセンサーが熱源で感知した敵の居場所を表示する。

 

「そこですか…いきます!」

 

 教頭は量子変換していたランチャーメイスを手に、センサーが捉えたポイントに向かう。

 オーガントから改修された際に増設された背部ブースターの加速で暗闇を疾走していく教頭。

 普通のISでは比べ物にならないほどのGに耐えられるのは、IS学園の教頭としての実力によるものなのか。

 

「機体とは別の熱源反応…?」

 

 教頭の機体、タイラントの熱源センサーが敵機以外の熱源を捉えたことを知らせる。

 しかし、タイラントの殺人的加速力を生むスラスターの制御に気をとられていた教頭は、センサーの反応に気づくのが遅れた。

 

「(おかしい。熱量が低い…まさかこれは──!?)」

 

 教頭がその熱源の正体に気づいたが、そのときにはもう遅かった。

 そして教頭は機体の脚部に何かが引っ掛かったのを感じた。

 

「ワイヤートラップ!?くっ!?」

 

 教頭の脚に掛かったワイヤーが引き金となり、周囲に爆発が起きた。

 

「一体どうやってこの短時間に…

 ・・・いや、この決闘の事前に準備していたということですか」

 

 七瀬の策に填められたことを知った教頭は歯ぎしりする。

 

『楽しんでるか?教頭先生よぉ!!』

 

「この忌々しい声はッ…!」

 

 どこからか七瀬の声が聞こえる。

 教頭は声が聞こえた場所にランチャーメイスを向けた。

 

『この崩落したアリーナは時期に埋め立てられるんだ。

 どれだけ壊しても問題ないらしいから、存分に楽しんでいってくれ』

 

「このッ!!」

 

 教頭は声の聞こえた場所にランチャーメイスに搭載されているグレネードを発射した。

 

「・・・これもダミーですか」

 

 ランチャーメイスのグレネードが爆発した場所、そこにあったのは音声発生機だった。

 

「(破損箇所は…無しですか。流石に頑丈ですね。『本国』が研究に熱中するわけです)」

 

 教頭は爆発によって受けた被害を確認しながら、タイラントの並外れた耐久力に感心する。

 普通のISならば爆発でもスラスターが誘爆する恐れがある。それでありながらも被害がほとんどないのは、原型機であるオーガントの頑丈さがあるからだろう。

 しかし、いくら頑丈でもシールドエネルギーが減ることは変わらない。

 

「(まんまとシールドエネルギーを減らされましたか…しかし、あの男はどこに──)」

 

 ハイパーセンサーの熱源探知で七瀬を辿るがどこにも反応はない。

 教頭は足元を警戒しながら瓦礫の中を進んでいく。

 

「(ハイパーセンサーから逃れる術はない筈…どんな小細工で機体を隠しているのでしょうか…)」

 

 教頭がそんなことを考えていると、立て続けに機体のアラートが鳴った。

 爆発により損害確認をしていた直後のため、教頭は頭がまわらなかった。

 

「(ロックされている!?しかし、奴はどこにも─)」

 

 刹那、背後から銃声が鳴り響いた。

 銃声の発生源であるソレは、教頭に無数の弾丸を撒き散らしながらその存在を主張していった。

 

「自動砲台!?次から次へと!」

 

 教頭はランチャーメイスで自動砲台を叩き潰した。

 地に散らばっていた空薬莢の数から自動砲台がガトリングガンであることを理解する教頭。

 

「(あくまでも私と勝負する気はありませんか…ならば)」

 

 教頭はタイラントに特殊装備発動の指示を送った。

 タイラントの鬼面の形をした胸部装甲の口が解放される。その開いた口からは砲台が現れた。

 

「この一帯を焼き払えばどんな罠だろうと!

 いきなさい!『インフェルノ・アンガー』!!」

 

 オーガントの特殊爆炎砲『インフェルノ・アンガー』。オーガントの強化改修と称されて作られたタイラントにおいてもその装備は健在だった。

 一瞬にして周囲を火の海に変えるその装備。

 

 しかし、その一撃は放たれなかった。

 

【 Error : Lock Trigger 】

 

 タイラントから教頭に伝えられたのはその一文だった。

 インフェルノ・アンガーのセーフティが外れないために発射されないのだ。

 

「どういうことですか!?何故発射されないのです!?」

 

 タイラント最大の武器である『インフェルノ・アンガー』を使えない教頭は苛立ちを募らせる。

 

「・・・『インフェルノ・アンガー』の使用をキャンセル」

 

 教頭は渋々ながらもそう告げた。

 教頭の指示を受けた機体は爆炎砲を再び装甲内に収納した。

 

「(まだ修正が必要なようですね。まだあの忌まわしい男の呪縛に縛られているとは、滑稽な機体です)」

 

 教頭はランチャーメイスを構える。そしてランチャーメイスのグレネードを全弾発射した。

 グレネードの爆発によって周囲に仕掛けられていたものであろう爆弾が誘爆した。

 

「まだ姿を見せないのですか!奴は!」

 

『教頭、このままだと俺の勝ち越しだぞ。

 せいぜい、血眼になって探してくれよ』

 

「(まだダミーが残っていましたか。本物はいつになったら…)」

 

 教頭がそう思った矢先、ようやくハイパーセンサーが熱源を捉えた。

 

「(この熱量、間違いない。IS反応確認、行きます!)」

 

 ランチャーメイスを構え、熱源に向かって突き進む教頭。

 

「(見つけた!!)」

 

 目の前のISに勢いよくメイスを振り下ろす教頭。

 しかし、目の前の機体は教頭の方を振り向かずに、いとも簡単に避けて見せた。

 

「今のを避けますか。その機体、アサルト・ソルジャーに今度はどんな改造をしたのですか?」

 

 めり込んだ地面からメイスを持ち上げながら、教頭は目の前のISに問いかける。

 

「今の俺は技術者ではなく操縦者だ。言葉で語るよりも、機体で語ってやろう。

 ・・・いくぞ!」

 

 七瀬は教頭にそう告げる。

 そして近接装備である刀を展開し、教頭に斬りかかる。

 教頭はそれをメイスで防いだ。

 

「膝部ドリルブレイカー展開!突貫!」

 

 教頭はメイスで刀を防ぎながら、膝部に装備されたドリルで七瀬の機体の装甲を抉る。

 七瀬は危険と悟ったのか、教頭から距離をとった。

 刀を量子変換して収納した七瀬は鎖のような武器を量子展開した。

 

「逃がすとでも!」

 

「さぁ来い!戦い方を教えてやる!」

 

 鎖のようなものでいくつもの爆弾が繋げられているその武器『チェーンマイン』を、距離を取りながら教頭の機体に巻き付けた。

 しかしそんな武器を見たこともない教頭は戸惑っていた。

 

「これは一体──!!」

 

 教頭は振り払おうとするが間に合わず、七瀬がチェーンマインを起爆したのを見ていることしかできなかった。

 教頭を中心に爆発が起きる。

 

「ほとんどのスラスターが大破…!?こんなことが…」

 

 機体のダメージレベルが高いことを知らせるアラートが鳴り響く。

 そして教頭は目の前にいたはずの七瀬がいないことに気がついた。

 

「(あの男はどこへ──)」

 

「これで終わりだ」

 

 教頭が気づいたときには遅かった。

 背後に回っていた七瀬がその刀を自分に振り下ろしていた。

 その一振りが当たると同時に、タイラントは動かなくなった。

 

「馬鹿な!シールドエネルギーはまだ残っていたはず!!

 たったの一太刀でシールドエネルギーが0に!?」

 

 タイラントはシールドエネルギーがなくなり、その場に煙を吹かして倒れこんだ。

 その瞬間、教頭は自らの敗北を実感した。

 

「私が…負けた…?

 IS学園の教頭である私が…?」

 

「よう教頭さんよ、気分はどうだ?」

 

 いつの間にかISから降りていた七瀬は動けなくなった教頭に近づきながらそう告げる。

 

「この卑怯者がッ!!自分で戦うこともせず、それにどうやってハイパーセンサーから逃れていたんですか!」

 

「なぜ敵が戦いの場所を指定してきたか、考えなかったのか?最強の兵器とやらを使ってるわりには、戦いのことは疎いんだな。

 戦いは試合の前から始まっているのだよ。トラップの設置も苦労したんだぞ」

 

 肩を動かして疲れたような素振りを見せながらそう言う七瀬。

 

「それと…どうやってハイパーセンサーにも引っ掛からずにアンタを攻撃したか、だったか?」

 

「一体どんな小細工を…」

 

「なにもしてないさ。俺は今回、一度も機体に乗っていないからな」

 

「馬鹿な!ISを使わずにISに勝つなど、そんなことできる筈がありません!

 それに貴方は私と戦ったでしょう!」

 

 ISの力を誇示してきた己だからこそ教頭はそう言いきれた。

 その力で今まで何人もの男を恐怖させ、そして同性の女性さえも蹴落としてここまで成り上がってきたのだから。

 

「ISを使っていない、というのは語弊があるぞ教頭。

 俺は機体に乗っていないだけであって、ISは使ったさ」

 

「乗っていないのにISを使った…?」

 

 七瀬の言葉に教頭は違和感を覚えた。

 七瀬と戦っていたときの光景がひとつひとつ教頭の頭にフラッシュバックする。

 何も見えない暗闇の戦場、ハイパーセンサーに反応しない敵、幾重にも張り巡らされた罠、いつもとは違い刀を使って戦っていた七瀬。

 そしてエネルギーが減らされていたとはいえ、たった一振りでタイラントを行動不能にした最後の()()()()()()

 

「まさか…私が今まで戦っていたのは…」

 

「あぁ…俺じゃないんだよ」

 

 七瀬がそう告げたと同時に、七瀬の背後から足音が聞こえる。

 足音の大きさからしてISのものだと悟った教頭。

 そして七瀬の横に立つとその着けていたヘルメット型のヘッドセンサーを外した。

 

「お疲れさん、織斑」

 

「・・・これでよかったんだよな、七瀬?」

 

「あぁ。完璧だったぞ。見てみろ、この教頭の情けない面を」

 

「戦ってたときもそうだったけど、ここ真っ暗でよく見えないんだが…」

 

 発声装置を牽引していたヘルメット型のヘッドセンサーを外した一夏はそんなことをぼやいた。

 

「織斑一夏…?貴方が?

 何故…?貴方は私に、女性に逆らえなかった筈!」

 

「アンタに敵対心を持っている男性が俺だけだと思ってたのか?

 それに、いつから織斑がアンタの言うことをホイホイ聞くだけの優等生だと錯覚していた?

 授業中にアンタの理不尽に反抗しなかったのだって、自分の感情的な行動で織斑先生の評判を下げることを避けるためだそうだぞ。全く、泣かせる話だよな」

 

「そ、その話はやめてくれって!!」

 

 自分のシスコンを暴露された一夏は七瀬を咎める。

 

「それと、俺は何もしていなかったわけじゃない。

 俺はアリーナ中に設置しておいたダミー熱源を遠隔操作で起動させてアンタを機関砲や爆発地点まで誘導していた。

 スラスター等の操縦系にある程度ダメージを受けさせてから、白式を待機状態にして待ち伏せさせていた織斑の場所に誘う。待機していた織斑が白式を展開してようやく交代ってわけだ。

 つまりアンタは前半は俺と、後半は織斑と戦ったってわけだ」

 

 教頭はハイパーセンサーの熱源で機体を追っていた。しかしハイパーセンサーといっても大きな熱源体でなければ捉えられない。はじめから機体に乗っていなかった七瀬と一夏を見つけられる筈がなかったのだ。

 

「突然熱源反応が現れたのはそのときに白式を展開したからですか…!!」

 

「おうよ。そのときにはもう頃合いだっただろうしな」

 

「頃合い…?」

 

「あぁ、操縦系を破壊できる頃合いだよ。

 あれだけアンタが加速を重ねればいくら頑丈なスラスターでも壊れやすくなっていただろうからな。

 チェーンマインで破壊しやすくなるときを待ってたのさ」

 

 普通のISよりも巨体なタイラントが移動する際にはスラスターに尋常ではない熱量が発生する。使っているうちにスラスターが熱量に耐えられずに溶解してしまっていたのだ。

 さらにそこに外部からのダメージが重なれば、いくら頑丈でも耐えられない。

 七瀬はそこを狙ったのだ。

 

「説明も済んだことだ。

 さて、そろそろお楽しみの解体ショーと行くか!!」

 

 七瀬はそう言うと動けなくなった教頭の前に出た。

 

「織斑、アレを」

 

「あ、あぁ」

 

 呼ばれた一夏は白式で持ち運んできたソレを地に下ろした。

 そしてソレは教頭が最初に見たものだった。

 

「アサルト・ソルジャー…

 戦いは織斑君に任せて、とどめだけは自分でするつもりですか!」

 

「うん?あぁ、そうか。まだ偽装を着けたままだった」

 

 七瀬はそう言って機体に指示を送った。

 七瀬の指示で機体の装甲が外れる。IS、アサルト・ソルジャーであった筈のその機体の真の姿が露になった。

 

「一体なんなのですか…ソレは・・・!?」

 

 アサルト・ソルジャーに化けていた偽装を外した機体の姿を見た教頭は口を半開きにして目を見開いていた。

 教頭の目の前に現れたソレはISに似た形をしたロボットであった。

 その機体が背中に背負ったコンテナには何が入っているのか、動かなくなったISに乗った教頭には恐怖でしかなかった。

 

「ISの試作機とも言われるモノ、EOS。それを改造して作り上げた整備用マシン『ビルダーズギア』だ。

 ・・・いや、安っぽい名前だな。あとで考え直すとしよう」

 

「ふざけていないで説明しなさい!」

 

「・・・自分の置かれている立場を理解できないほど馬鹿だとは。これ以上俺たちを失望させないでほしいものだ」

 

 七瀬は整備用EOSに乗り込むと機体の背負っているコンテナを降ろした。

 そしてそのコンテナから高周波カッターを取り出した。

 

「何を…」

 

「強化したとはいえ、俺たちの機体を勝手に持ち出したんだ。

 相応の報いを受けてもらう」

 

 七瀬の言葉で高周波カッターのスイッチが入り、カッターの振動する音が響く。

 その甲高い音が教頭を更に震えさせた。

 

「さて、まずはその装甲からいただこうか!!」

 

 高周波カッターがタイラントの腕部装甲から刺し込まれた。

 腕部装甲の、コックピットから一番近い位置に刺し込まれたカッターは歪な形に切り込みを入れていく。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

 

 教頭はコックピット付近に差し込まれたカッターの音に恐怖しながら絶叫する。

 さっきまで爆発音ばかりが響いていた戦場に教頭の声だけがこだまする。

 

「ん…?切れ味が悪いな。どういうことだ?」

 

 いい終えると同時に高周波カッターで腕部装甲を切り終えた。

 

「ほう、こいつは複合装甲か!どうりで切り辛かったわけだ。

 ・・・しかし、これはアンタみたいなやつが使い回せる代物じゃないだろうな。さしずめアンタはどっかの国からの使いってところか?」

 

「それってどういうことだ?」

 

 教頭が叫ぶ姿をただ見ていた一夏は七瀬に問う。

 

「こいつはどっかの国のスパイとしてこの学園に潜入していたんだろうな。

 IS学園の教師っていう仮面を被ってな」

 

「そうか…複合装甲は国家管轄の試験機にしか使われない筈。いくらIS学園の教師とはいえ、持っているのはおかしい。

 説明してもらう必要があるみたいだな教頭先生」

 

 複合装甲。それは開発が進められている第三世代機やその試験機にのみ使われる特殊装甲である。

 複合素材で出来た装甲を幾層にも重ねて作られたソレは、量産機に使われる素材よりも頑丈かつ軽く作られており機体に合った特性を持つ。

 代償として装甲の整備をする際には同じ素材を用いなければならないため、国家から学園に届く予備パーツを用いて丸ごと交換される。その費用も馬鹿にならないために専用機を持つ代表候補生は機体自体にダメージを負わないよう注意がされている。

 

「ハッタリですね。

 例えそれが複合素材として、貴方のような生徒がそれを持っただけで判別できる筈がない。何故なら貴方が自分で言ったとおり、複合素材は国家で管理されているのですから。

 それに、国家の代表でもないは複合素材の実物を見たことすらないはずです」

 

「・・・確かにそうだぜ。何で七瀬はこれが複合素材だって判別できたんだ?」

 

「こいつが見たことも触れたこともない複合素材だったら俺でもわからなかっただろう。

 ・・・だが、俺はこれと全く同じ素材に触れたことがある」

 

「いやいや、触っただけで素材を判別できるってのがまずおかしいだろ…」

 

「そいつはサードグリッド装甲。イギリスで作られ、その試験機に使われている複合素材だ。

 その特徴は異常なまでの軽さと、耐熱性にある」

 

 一夏の持っているタイラントの装甲を指指して言う七瀬。

 そして一夏もようやく核心にたどり着いた。

 

「つまりそれって…」

 

「そう。セシリアの機体『ブルーティアーズ』と同じ素材なんだよ。

 なんならスキャナーを使って確認してもいい」

 

「つまり…教頭先生はイギリスのスパイってことか…?」

 

「複合装甲の技術はISの機体データと同じくらい厳重に管理されている。どこかの国がイギリスに責任を押し付けるために作ったとも思えない。

 つまりまぁ、イギリスが絡んでいるのは確実だろうな」

 

 七瀬は教頭を見下ろしながら言った。

 

「しかし、オーガント系統の機体にこの素材を使うとは愚かにも程がある。

 オーガントは重装備ばかり使うからしっかりと地に足を着けられるように重い素材の装甲を着けているんだ。それなのにこんな軽い素材でオーガントの重心を支えられるはずがないだろう。

 ・・・あぁ、そうか。だからやたらとスラスターや浮遊機能であるPICにエネルギーを割いてたわけか」

 

「へぇ…最新の機体だからって複合素材を使えばいいってわけじゃないんだな」

 

「ドイツの機体なんかはレールガンみたいなデカイ装備を持っていることが多いから、わざと古くて重い装甲を使っている機体だってある。しっかりと地面に足を着けるためにな。

 機体のフレームや戦闘タイプ、使う武器によって、装甲の素材も考えなければ最大限の力を発揮できないのさ」

 

 七瀬はおもむろに刃の欠けた高周波カッターを捨てる。量産機用の高周波カッターでは複合装甲を切れないようだ。

 

「コンテナに入れているものでは複合装甲を剥がせないな。自力でやるしかないようだ」

 

 七瀬はEOSの腕部をタイラントの装甲の切り込みを入れた部分に手を突っ込んだ。

 そして装甲を無理矢理引き剥がそうと力を込める。

 

「EOSごときでISの装甲を壊せるとでも!」

 

「できるさ。EOSは元はISと同じパワードスーツとして開発されていたんだからな。

 搭載されている人工筋肉を駆動させれば──」

 

 刹那、タイラントの複合装甲がフレームを巻き込みながら引き剥がされた。

 金属の曲がるような音と共に教頭は悲鳴を挙げる。

 

「いい音だ…この装甲を無理矢理引き剥がすときの音、そして元は自分で作った機体を壊しているという背徳感!

 あぁ、いい!実にいい!」

 

 そのまま七瀬は狂ったようにタイラントの装甲を引き剥がしていく。その狂喜に満ちた七瀬の顔を見せられている教頭は目に涙を浮かべていた。

 まるで人間ではない何かを目の当たりにしたような、そんな恐怖が教頭を襲う。

 

「EOSに負けるなんて…こんなの、私の知るISじゃない!

 ISは女性だけが使える力、最強の兵器の筈!」

 

「いつまでそのチープな思想に囚われ続ける」

 

 装甲のほとんどを剥がし終えた七瀬がそう告げるが、教頭は顔を青ざめながら首を横に振るばかりだった。

 

「そんな悲劇のヒロインみたいに泣きじゃくられても気分が悪いから、そろそろこの解体ショーもお開きにするか。

 今からフレームをぶったぎる。さっさと機体から降りないと、フレームの中のアンタの腕までミンチになるぞ?」

 

「ま…待って・・・」

 

 不適な笑みを浮かべながらそう言う七瀬。

 教頭の静止も聞かず、タイラントの腕部フレームに手を掛けた。

 

「降りないということは、機体と最期を共にする道を選んだか。

 ・・・その意思だけは嫌いではなかったぞ」

 

 七瀬は機体が背負っていたコンテナから高熱カッターを取り出す。

 

「装甲は耐熱性が高いが、フレームはそうはいかないだろうな。

 アンタの腕ごと焼くことになるがな。

 ・・・勝手に俺たちの機体を劣化させたんだ。楽に逝かせないからな?」

 

 七瀬は高熱カッターを押し当てた。

 七瀬の言ったとおり、装甲とは違い、フレームはいとも簡単に溶断されていく。

 

「嫌…!!嫌嫌嫌!!死にたくない!!死にたくない!!死にたくない!!いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 フレームが溶断されていくのを見つめながら悲鳴を挙げる教頭。

 いや、悲鳴ではなく断末魔ともいえるだろう。

 その光景に一夏は思わず目を背けた。

 

「・・・あ」

 

 教頭は電池が切れた玩具のように声が出なくなり、動かなくなった。

 

「七瀬!!お前まさか本当に…!?」

 

「・・・そんなわけあるか。

 見てみろ、この情けない面」

 

 叫んだ一夏に対して教頭を指差した七瀬。

 そこには白目を剥いて気絶していた教頭の姿があった。

 

「織斑、この馬鹿を機体から下ろすの手伝ってくれ。

 こいつがコックピットフレームにいたら解体できん」

 

「あ、あぁ…」

 

 七瀬が本当に教頭を殺害していなかったことに安堵する一夏。

 しかし、一夏の心にはしこりが残っていた。

 

「・・・なぁ七瀬」

 

「なんだ?」

 

「今回、もし教頭先生が本当に機体から降りなかったら…その…」

 

「殺していたか、か?」

 

 一夏は黙って頷いた。

 七瀬はため息をつきながらそれに答える。

 

「こんなロボット乗りの恥さらしみたいな奴で手を汚そうとは思わん。

 それに今回はコイツに肉体的傷を負わせないって約束でお前に協力してもらったんだ。約束は守るさ」

 

「・・・そうか、ならよかっ──」

 

「だが」

 

 一夏の言葉を遮って言いかける七瀬。

 その口から信じられない言葉が出た。

 

「もし相手の機体が俺の夢の機体を作るのに必要な機体で操縦者がコイツだったなら、計りにかけていたかもしれん。

 ・・・いや、機体を取っていただろうな」

 

「・・・なんでそんな風に割りきれるんだ?」

 

「今のは俺にとっても究極の選択だった。

 だが自分の夢とどうでもいい他人を計りにかけたとき、俺は夢を取りたいと思った。

 俺は必ず夢のロボットを作る。はじめてISを動かしたあの日にそう決めたからな」

 

 七瀬の答えにうつむく一夏。

 一夏には七瀬の考えが理解できないのだろう。

 

「・・・なぁ、一夏。今度は俺が聞きたい」

 

「えっ?あ、あぁ」

 

 はじめて名前を呼ばれたことに困惑する一夏だったが、反応を返した。

 

「もし、お前の周囲の人が二人捕らえられたとする。一人はお前の恋人、そしてもう一人はただのクラスメイトだ。

 一人しか助けられないと分かったそのとき、お前はどちらを助ける?」

 

「っ!!」

 

 その質問は表現は違えど、一夏が先程した質問と同じであった。

 七瀬の場合は他の命を奪って夢を叶えるか、夢を捨てるか。

 一夏の場合は他の命を見捨てて恋人を助けるか、ただの知り合いに等しい人間を助けて恋人を失うか。

 

「俺は……」

 

 命が賭けられた選択をするとき、自分の大切な方を取るのは簡単だ。そのために他をすぐに切り捨てられるか、そう聞かれたとき自分はどう思うのだろうか。

そんな考えが一夏を押し潰していた。

 

「俺は…決められない…

 七瀬みたいに簡単に割りきれねぇよ…!」

 

 一夏はひざまづいてそう答えた。

 しかし、自分の選択ひとつで命が消える。そんなことをすぐに決断してしまう七瀬が異常なだけであって、一夏のような反応が普通なのだ。

 

「・・・織斑」

 

「俺は弱い。本当は分かってるんだ…

 自分の大切なものを取るのなんて簡単で、自分にとって一番幸せなんだって

 けど、それでも俺は…」

 

 震えながら言葉を紡ぐ一夏。

 自分がした質問に自分で答えられない。その不甲斐なさを噛み締めていた。

 

「・・・お前は優しいんだな」

 

 うずくまるようになってしまった一夏の背中を擦る七瀬。

 

「どうか、お前にどちらか一方を取る日がこないことを切に願う」

 

 優しすぎるが故に、守りたいものが増え続けるであろう一夏に七瀬はそう呟くのだった。

 

 

 

*****************

 

「(俺はどうしてあんなことを七瀬に聞いたんだ…?)」

 

 部屋の前のドアで立ち止まりながらそんなことを考える一夏。

 

「(目の前で七瀬が人殺しになってしまうことが怖かったから…?

 ・・・いや、違うな)」

 

 自問自答をするようにしながら部屋のドアに手をかける一夏。

 

「(俺はきっと、アイツみたいな心の強さがほしいんだ。

 何があっても夢を追い続けられる、あんな信念が)」

 

 気恥ずかしさを覚えながらもそんなことを考える一夏。

 気がつけば一夏はドアを開けて部屋に入っていた。

 

「色々と考えすぎたかな…少し頭を冷やすか」

 

 一夏は喝を入れるため、顔を洗おうと洗面所に向かう。

 脱衣所と一体になっている洗面所のドアを開ける一夏。

 そのときだった。自分のドアを開けた音と別の音が重なった。脱衣所の奥にあるシャワールームの扉が開いた音だった。

 

「え…?」

 

 そしてシャワールームから脱衣所に出てきたのは、箒に代わって新たに自分のルームメイトとなったシャルルであった。

 だが何かがおかしい。

 シャルルは男。そのはずなのに男にはない腰のくびれと胸があるのだ。

 一夏も健全な男子である。頭では視線を逸らさなくてはならないと分かっていても、目は釘付けになってしまっていた。

 

「あ……あ……」

 

 目の前のシャルルはというと、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。

 そして状況を理解した二人は…

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 二人揃って叫んだのだった。

 後の一夏曰く、そのときの叫びは教頭の断末魔よりも大きかったそうな。

 

 




投稿するまでの間にいろいろありましたね。

ギアスの監督さんが「ロボットアニメはもう必要とされていないようだ」と苦痛の発表をされたり、ISの原作最終巻が発売されなかったり、仕事に殺されかけたり、コミケに行ったり…
あとはデート・ア・ライブにはまったりと。折紙の乗るホワイトリコリスはいいぞ~。ミーティアみたいなクソデカ変態装備最高!ときどき挟んでくるガンダムネタもおもしろいし。ちなみにヒロインは鞠亜と狂三が好き。

それと、これはくだらないことになりますが、オリキャラである七瀬や沖田さんのイメージCVって皆さんの中ではどうなってますかね。七瀬のイメージCVがキャラ像と違うと友人に言われまして(笑い)。
私の中では七瀬が杉田智和さん、沖田が子安さんなんですが…
やはり絵がないとキャラのイメージも伝わりにくいんですね…誰か書いてくれてもいいんですよ…?(|д゚)チラッ

その辺も感想で教えていただけると励みになります!
ロボット愛のこもった感想、評価、是非よろしくお願いいたします!
今回もありがとうございました!
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