ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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もはや何も語るまい…


誓い

「それで、どうして男子のふりなんてしてたんだ?」

 

 一夏は淹れた茶を渡しながら、ルームメートのシャルルに問い詰める。

 その際、一夏は湯呑みを渡したシャルルの手が震えていたことに気がついた。

 

「シャルル。俺は別に怒ってるわけではないし、シャルルに男装趣味があっても気にしないぞ?」

 

「ち、違うよ!」

 

「隠さなくたっていいさ。俺の周りにはロボット相手に発情する変態がいるくらいなんだから、そのくらいの性癖持ってる奴がいても気にならないって」

 

「だから違うんだってば!!」

 

 子供を優しく叱る親のように言う一夏に涙目になりながらそう訴えるシャルル。

 そんなシャルルの反応を見た一夏は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる。

 

「ごめんごめん。冗談だって」

 

「うぅ…一夏、イジワルだよぉ……」

 

「悪い。・・・けど、少しは落ち着いただろ?

 あんな状態じゃ話せることも話せないだろ?」

 

 そう言って一夏はシャルルの手に自分の両手を重ねた。

 シャルルは戸惑いながらも、優しく暖めるように包まれた自分の手と一夏を交互に見る。

 

「シャルル、ここのところ何か思い詰めたような顔をしていたよな。話し辛い理由があるのはわかってる。

 けど、ルームメートが辛そうにしているのを放っておくほど薄情な奴じゃないぜ、俺は。

 辛いことがあるなら相談してほしいし、何より友達には元気でいてほしいからさ」

 

「・・・じゃあ、僕も感情的になっちゃうけど、最後まで聞いてね」

 

 一夏は頷き、ベッドの隣に椅子を置いた。

 そしてシャルルと向き合う。

 

「僕の実家がフランスのIS企業だってことは前にも話したよね?

 その社長をしている父からの命令で僕は学園にきたんだ。都合よく1組に入ったのも根回しがあったんだと思う」

 

「デュノア社の命令?けどなんのために…」

 

「今のデュノア社は経営危機に陥っているんだ。

 だから何がなんでも第三世代機を開発しなければならない。そのためなら他国の第三世代機のデータを奪ってでも、ってね」

 

「待てよ…じゃあシャルルが俺に関わってきた理由は──」

 

「うん。わざわざ男装までして転入して君と接触したのはそういうこと。

 君のデータとその専用機『白式』のデータを盗んでこいって言われてるんだよ。僕はあの人にね。

 ・・・ううん、こんなの言い訳にしかならないよね。僕は君に嘘をついていた。」

 

 自分の予想と現実が当たってしまったことに哀感する一夏。

 一夏はこれまで、目の前にいるシャルルと友人として向き合ってきた。

 しかしそう思っていたのが自分だけかもしれない、そんな恐怖に駆られていた。

 

「それと、デュノアの家の人からすれば厄介払いでもあるのかな」

 

「厄介払い…?

 なんだよ、それ…なんで家族なのに娘のことを厄介者扱いするんだよ!」

 

 感情的になって立ち上がる一夏。

 シャルルは一瞬、驚いたような表情を見せたがすぐに表情を曇らせて語る。

 

「違うよ、一夏。僕はあの人の本妻の娘じゃないからね。きっと家族だとは思われてないよ」

 

「わかんねぇ…!!シャルルの言ってること全然わからねぇよ!!」

 

「・・・そうだね。きっと理解されないよ。

 でもさ…おかしいのは僕と環境、一体どっちなんだろうね?」

 

 最後に嫌味のように付け加えるシャルル。

 そんな彼女を見た一夏は面食らったような表情になる。

 

「・・・驚かせちゃったかな?

 でもこれが僕の本性だよ、一夏。

 僕だって暗い感情のひとつくらい吐き出すんだよ?人間なんだからさ」

 

「・・・ごめん。」

 

「叔母さん、本妻の人には『泥棒猫の娘』なんて呼ばれてさ。困っちゃうよね。

 望まれて産まれてきたわけじゃない、なんて言われても僕にはどうすることもできないんだから。

 僕は望んでデュノア家に産まれたわけじゃないのに…!」

 

「・・・っ!!」

 

 望まずに、ただ訳もわからずに与えられた状況。一夏はそれをよく知っていた。

 望まずしてISが使えるという理由だけでISの世界にわけもわからずに連れてこられた一夏。望まずにデュノア家に産まれただけでISの世界に連れてこられたシャルル。

 自分がそうであったように理不尽な現実を受けとることしかできない彼女に一夏が親近感を抱いたのは必然的だったのかもしれない。

 

「僕は、居場所がなかった僕を温かく迎えてくれた君を騙してた。

 許されることじゃないって分かってる。それでも一夏と、皆といた時間が楽しかったのは本当なんだ…今まで心からこんなに楽しいと思えた日々は初めてだったよ。

 ・・・けれどそんな日々さえも、あの人の命令があってIS学園に来たから感じられた幸せだって考えると嫌になるんだよ…

 一夏を、皆を騙して自分だけ幸せを感じていることも。

 おかしいよね。やっと感じられた幸せなのに、なんでこんなに悲しいのかな…」

 

 俯いたまま、苦しそうな声で呟くシャルル。

 そしてその苦しみは表情にまで現れていた。

 

「シャルル...お前、泣いてるのか...?」

 

「え..?」

 

 無意識のうちに頬を伝う雫。

 シャルルはそれが自分の涙だと気づくのにそう時間はかからなかった。

 

「あれ…どうしてかな…?

 皆に酷いことをしているのは僕なのに、なんで僕が…

 なんで僕の方が泣いてるの…?」

 

「・・・なぁ、お前はこれからどうするんだ?」

 

「・・・わからない。それは僕じゃなくてあの人が決めることだから。

 本国に連れ戻されて代表候補生を降ろされて…あとはよくて牢屋行きかな」

 

 そう言ってシャルルは微笑んだ。

 その笑みを見て一夏は絶句する。

 

「(なんで…なんでそんな顔するんだよ)」

 

 一夏がシャルルの笑みから読み取った感情は喜びでも絶望でもなかった。

 『無』。そう表すのが一番正しいものだった。

 

「(お前のことなんだぞ…?なんでそんな自分のことじゃない、他人事のように片付けられるんだ?)」

 

 彼女が発した言葉は全て自分に起きることのはずなのに、それを自分のことのように思っていない。他人事のような冷たさがあった。

 突きつけられた役目を背負い、突きつけられた咎を受ける。

 受け身な生き方しか知らなかった彼女はそうすることが当たり前になってしまっているのだろう。

 

「(じゃあなんで体はこんなに怯えてるんだ?どうして口ではこんなに苦しそうに話すんだ?)」

 

 一夏はシャルルが怯えていることも、発せられた苦しみも嘘と片付けることはできなかった。

 ならなぜこんな他人事のように片付けてしまうのか、一夏にはそれがわかっていた。

 

「(決まってる。シャルルは今までも望むことはしていたんだ。突きつけられた状況に抗う力がなくて、それに従い続けて生きてしまった。だからこんな諦めたような目をするようになってしまったんだ。・・・だとしたら──)」

 

 かつて自分もそうであったから。IS学園に、ISの世界に入るしかなかったそのときに。

 だからこそ一夏は彼女のことを自分のことのように考えていた。

 

「───そんなのは…違う!!」

 

「・・・え?」

 

 一夏は立ち上がり、シャルルを見つめた。

 

「シャルル、お前はどうしたいんだ?」

 

「え…?」

 

「俺が聞いてるのはお前の親父の意見なんかじゃない。

 お前がこれからどうしたいかを聞きたいんだ。シャルル」

 

 自分には、一夏には選択肢などなかった。

 IS学園に入らなければ国によって解剖され、死ぬところだったからである。

 突きつけられた状況をただ受け止めることしかできなかったのだ。

 しかし彼女、シャルルは違う。まだ自分の意志で未来を選択し、自分の道を決めることができる。

 そんな彼女を一夏が放っておくことなどできなかった。

 

「ここには俺以外の奴なんていない。

 お前がこれからどうしたいのかお前自身の言葉で聞かせてくれ!

 どんなに我が儘でも、どんなに無理なことでもいい。お前の心の中からの声を聞かせてくれ!」

 

「僕は…僕は──!!」

 

 今まで心の中に押し込めていたものを絞り出すように、彼女は口を開いた。

 

「僕は生きたい!!誰かに押し付けられた役なんか捨てて、自分のために生きたいよ!!」

 

 涙ながらに発せられたシャルルの叫び。それが一夏を決意させた。

 

「それがシャルル・デュノアの…いや、お前の本音なんだな?」

 

 一夏の言葉に頷くシャルル。

 シャルルが顔を上げるとそこには一夏の顔があった。

 

「なら、俺が守ってやる!!」

 

 シャルルは、一夏が『守ってやる』というその言葉を軽視して言ったわけではないということが彼の表情から受けとることができた。

 一夏の目は真剣そのものであった。

 

「IS学園には特記事項があるから、学園にいる間はいくらフランス政府だろうが、お前の父親だろうが干渉できない。

 三年間はお前は自由なんだ。その間にどうしたいか決めるのはお前だ。俺が決めることはできない。

 けどお前の望むものの先に障壁があるってなら、そんなものからは俺が守ってやる!

 お前自身が望むことを叶えられるように…だから──

 

 

 

 

 ──だから、もうそんな悲しい顔するなよ…」

 

 溢れ落ちた涙が地に弾けた。

 しかし、それはシャルルのものではなかった。

 

「どうして一夏が泣いてるのさ…

 ・・・それこそ、一夏にとっては他人事なのに」

 

「え…」

 

 一夏はシャルルがそうだったように、無意識のうちに溢れていた涙に気がついた。

 

「・・・ふふっ…」

 

 シャルルは先程までの自分の動作を写し見ているような気持ちになり、思わず笑みが溢れた。

 

「お人好しなんだから」

 

「そうだな…悪い癖、かもな」

 

 涙を拭い、今度は一夏がシャルルに微笑んだ。

 

 

 

******************

 

「(オーガントの予備機は未だ完成ならず、教頭のおきみやげのタイラントは修復したとて使いものにならないか…

 学年別個人トーナメント参加は訓練機になりそうだな。リヴァイヴ辺りの申請を出しておくか)」

 

 七瀬は学園の廊下にて、タブレット端末を見ながらそんなことを考えていた。

 

「(しかし上層部はなぜ今更オーガントの予備機を完成させろなんて言い出したのか…指示された制作期間もこんな短期間では完成するはずがないだろうに…)」

 

 無人機襲撃事件の際の功績を讃えられたオーガントは学園上層部にも目を配られるようになった。

 枯れた技術で作られた機体でありながらもそのパワーのカタログスペックはアメリカの第三世代IS『ファング・クウェイク』にも劣らない。それでありながら量産態勢に入った『真打』とのパーツ互換性があることでメンテナンス性も高い。そんな機体が今まで放置されていることの方が不思議だったのだ。

 

「制作期間の短さもあるが、なにより制作チームの人数不足もある。どうにかならんものか…」

 

 悩みながら廊下を歩いていた最中、人だかりができていた。

 その人だかりに通行を妨げられた七瀬はそこで立ち止まった。

 

「なんだ?また織斑辺りが騒ぎでも起こしてるのか?」

 

 そう思い、七瀬は騒ぎの中心になっている場所に足を運んだ。

 すると、そこにいたのは七瀬の予想していた人物とは全く別の人物だった。

 

「貴様があの鬼の子(打鉄・零)を作った布仏本音だな?」

 

「う~ん、らうらうの言ってることはちょっと違うかも。

 確かに私は作業を手伝ったけど、作ったのはあずさんだよ~」

 

 転校生ラウラ・ボーデヴィッヒ。そして相対しているのは本音であった。

 

「惚けるな。

 お前が開発の作業の全てを担当していたという情報がある。

 ・・・なに、私は無能な大人たちのように奴に協力したお前を責めているわけではない。私は貴様のその腕を奴以上に活かす用意がある」

 

 そう言ってラウラは一枚の紙を取り出した。

 そしてそれを本音に見せつける。

 

「国家専用機整備士の申請書だ。

 貴様ら整備士はこれが喉から手が出る程欲しいのだろう?」

 

 国家専用機整備士。

 その名の通り、代表候補生の持つ専用機を整備できる資格だ。

 本来、国家の技術の粋を結集して制作されている専用機は国家機密であり、他国の者が機密を整備することは一歩間違えれば情報漏洩に繋がるため禁止されている。

 しかし、IS学園にいる間はあらゆる国家や代表に帰属しないという事項がある。そのため、学園と国家の審査が通ったメカニックであれば専用機の整備が許されるようになるのだ。

 万が一、情報が漏洩した場合は全て学園の責任ということになるため学園と国家もその者の経歴を必死になって探る。その功名なのか現時点ではこの資格制度を悪用した情報漏洩が発生したことはない。

 

「喜べ、お前を今日から私の専属メカニックにしてやろう。

 我がドイツの第三世代機を整備できるのだ。光栄だろう?」

 

「い、いや~。

 私はそういう難しいのは遠慮したいかな~、なんて…」

 

「次のトーナメントまで時間がない。

 さっさとサインをしろ」

 

 本音を壁に追い詰めるラウラ。

 そして本音が逃げられないよう彼女の後ろにある壁に手を叩き付ける。俗に言う『壁ドン』という奴である。

 

「マジで何してんだアイツ…」

 

 遠目から見ていた七瀬はそんなことをぼやいた。

 そして転校早々、異性にはビンタ、そして同性には壁ドンという奇行に走る彼女は生徒たちからあまり良い印象を抱かれていなかった。

 ここに野次馬として集まっている生徒たちからもそうなのだろう。

 

「あんなことして…変な噂立ったりしたら居心地が悪くなるだけだぞ…」

 

 七瀬は面倒事だと思い、その場を引き返そうとした。

 しかし、七瀬の行く道を妨げる者がいた。

 

「お、織斑先生…!?」

 

「どこへ行くつもりだ。

 お前に転校生のことは全て任せた筈だが?」

 

 仁王立ちをして七瀬の行く道を塞ぐ千冬。

 弁慶なんぞより力押しで通ることのできない相手に七瀬は一歩後ずさる。

 

「そうは言いましてもね…生徒間に起きた問題の面倒を見るのは教師の役目であって生徒の仕事じゃないでしょう。

 それにあんなに野次馬がいる中で二人に介入して目立つのは後免です」

 

「あぁ、私に気力が残っていたなら対処はしたさ。

 だが、どこかの馬鹿が次から次へとISの整備計画を持ち込んでくるせいで私はこんな些事を解決する気力すら残っていないんだ。

 なぁ、どう思う?どこかの馬鹿」

 

 千冬は目の下にできた隈を指差しながら七瀬に言った。

 それもその筈である。

 IS学園における整備というのは手順が決まっており、常に学園が統合、管理している。

 そのため、たったひとつ手順を変えようとするだけでも学園の上層部に報告しなければならない。

 更に、今回七瀬が提示した手順変更の申請はかなり大規模なものであるため報告内容も回数も多く、七瀬と学園の上層部の仲介役をする千冬にかかる負担が多くなっていた。

 

「EOSの改造機を利用した整備マシンの開発の申請、それの導入に伴って手順の完全変更…これを報告する私の労を労う気持ちが貴様にはないのか、この鬼畜め」

 

「(それを話題に出されるとマジで何も言い返せないな)」

 

 しかも七瀬の場合、こんな大規模計画が『ちょっと喉乾いたな』程度の感覚でポンポン出てくるのだから千冬にとってはたまったものではない。

 おまけにこの計画は確実な作業効率の向上が見込めている上、整備科の生徒たちからは多くの支持を得られているというのだからタチが悪かった。

 

「もういいだろう、頼むから私を寝かせろ。

 なるべく大事にはするなよ」

 

「先生、しかし──」

 

 七瀬の言葉に耳を傾けることなく、千冬はその場を去っていった。

 ・・・いや、度重なる疲労のせいで本当に聞こえなかったのかもしれない。

 

「どうしろというんだ…この状況を」

 

 ふらふらと去っていく千冬の後ろ姿を見送りながら七瀬はそんなことをぼやいた。

 状況は最悪である。先ほどよりも野次馬の数は増えており、今出ていけば目立つことは免れない。更に言うなら相手が七瀬がいい印象を持たれていないラウラであったため素直に話が通じるとも思えない。今よりも大事になることは明白であった。

 

「(布仏の奴、俺がいることに気づいたのか。助けてと言わんばかりにこっち見てきているな…)」

 

 本音のその行動が更に七瀬を困らせる。

 しかし七瀬は普段から本音に世話になってる手前、流石に無視するというのは良心が痛んだ。

 七瀬は覚悟を決め、野次馬をかき分けて間に入っていった。

 

「そのくらいにしとけ、転校生」

 

 その場にいた野次馬の視線が七瀬に集まるのと同時に、騒動の原因であるラウラが振り向いた。

 

「貴様は…あぁ、織斑一夏のスケープゴートか」

 

「違うな。間違っているぞ転校生。

 あれは俺が勝手にやったことであって織斑に頼まれてやったことではないからな」

 

「黙っていればあんなことにはならずにすんだものを」

 

 あんなこと、とはラウラが七瀬のことを叩いたことであろう。

 しかしそれもラウラの言うとおり、七瀬が自分自身を一夏だと嘘を言わなければ起こらなかったことなのだが。

 

「織斑があんな目にあってれば今度は周りの候補生たちが君と面倒事を起こすからな。

 そうなればクラスメイト同士で争いが起き、クラスの雰囲気も悪くなる。今のクラスはそれなりに居心地がよくてな。徒に壊されては困る。

 自分のためにそれを防いだまでのことだ」

 

「そうなっていれば他の代表候補生も一掃できたものを…余計なことをしてくれたな」

 

 ラウラは七瀬を鼻で笑う。

 七瀬は彼女の言葉から他の候補生のことも目の敵にしているのであろうことを読み取った。

 

「まぁいい。

 今はお前に構っている暇などない。次の戦技大会の類いが行われるまでにメカニックを手にいれなければならないからな」

 

「おっと、うちのメインメカニックを勝手にヘッドハンティングされては困るな。

 学園から指示されている開発もある。いくら君の意志があろうと学園発案の開発の中心を引き抜くのは学園が許さないだろう」

 

「だがそんなことをしてこの者になんの得がある?

 貴様と一緒にいても無能な大人たちから浴びせられる罵声が増えるだけだ。

 しかし私は違う。この者に確かな名誉を送ることができる。国家専用機整備士は整備士希望の者にとってこれ以上ない名誉となるはずだが?」

 

「(さて…織斑先生を労って、ここから一芝居打ってやるか)」

 

 七瀬はそんなことを考えながらラウラに歩み寄った。

 

「そうだよな…

 君の言うとおりだ。ボーデヴィッヒ。

 俺は長らく布仏に手伝ってもらうことを当たり前のように思っていたのかもしれない…」

 

「何?」

 

 突然口調が変わる七瀬。

 その変化にラウラはおろか、本音までもが動揺する。

 

「俺は君に注意されるまでこんな簡単なことにも気づけなかったんだ。なんて馬鹿なんだろうな…」

 

「おい、貴様はさっきからなんの話を───」

 

「確かに俺は君のように布仏に名誉を送ったりすることはできない。

 ならば今日まで布仏が俺を手伝ってくれていたのか何故か?いや、答えは決まっている。学園からの命令があったからだ。

 大人たちから罵声を浴びせられながらも俺を手伝ってくれていた布仏に感謝の気持ちも、言葉も足りなかった。

 ・・・最低だよな」

 

 嘘である。

 七瀬自身は本音にいつも感謝の気持ちは伝えているし、お礼と題して本音の気になっていたスイーツショップに連れて行ったりもしていた。

 無論、七瀬もそんなもので釣り合いが取れると思っているわけではない。

 しかし七瀬が今言ったように本音に全く感謝の気持ちを伝えていないわけではなかった。

 なら何故そんな嘘を言ったのか、それは周囲の野次馬がラウラに悪印象を抱かないようにするためであった。

 

「なぁ、布仏」

 

「ん~?」

 

「こんな言葉しか送れないが…いつもありがとう。

 それと、今まできちんと感謝を伝えられなくてすまなかった」

 

 七瀬が本音にそう告げた途端、周囲がざわついた。

 

『え?つまりボーデヴィッヒさんは布仏さんをいいように使ってた東君を注意してたってこと?』

 

『布仏さんを国家専用機整備士に勧誘してたのも東君から助けるためだったのね…』

 

 周囲の反応を見た七瀬は心の中で不適な笑みを浮かべた。

 

「(よし、これでボーデヴィッヒに向けられていた悪印象は俺に集まった。これであとは俺へのヘイトを払拭するだけだ。まぁ、それも布仏の返答次第なんだがな)」

 

 そんなことを考える七瀬の元に、ラウラの拘束から抜け出した本音が歩み寄った。

 そして言葉を紡ぐ。

 

「違うよ!!あずさんはいつも気持ちを伝えてくれてるよ?」

 

「え…?」

 

「ありがとうって気持ちも、私を心配してくれる気持ちも、いーっぱい、いーっぱい言ってくれてるよ?

 きっと、あずさんはそれでも足りないって思っちゃってたんだよね?

 でも、私にはちゃんと伝わってるんだよ?」

 

「布仏…」

 

「それに、私は学校に命令されてるからあずさんのお手伝いをしてるんじゃないよ。

 あずさんといると新しい発見とか楽しいことがいーっぱいあるからねー。

 私が一緒にいたくてあずさんと一緒にいるんだよー」

 

 七瀬にそう言うと、本音はラウラに向き合った。

 

「だからね、らうらうが心配してくれるのは嬉しいけど、それをもらうことはできないよ。

 私はまだ、あずさんたちとISを弄ったりすることを楽しんでいたいから」

 

「だからお前たちはさっきからなんの話を──っ!?」

 

 ここにきてようやくラウラは七瀬が何をしたかったのか理解した。

 

『これって東君と布仏さんのチジョーのもつれってやつ?

 つまり東君は布仏さんに対して感謝してたってこと?』

 

『ボーデヴィッヒさん、それを勘違いしちゃったのね…

 全く、この二人は人騒がせなんだから…』

 

 この一連の会話でラウラは七瀬に嵌められたのだ。

 それも最初は自分に向いていた悪印象を利用されて。

 

「くっ────」

 

「(布仏のおかげで俺へのヘイトも消えた。これで誰も悪印象を抱かれずにすむ。織斑先生、これでいいんでしょう?)」

 

 七瀬はばつが悪そうに去っていくラウラの後ろ姿を見送りながら、ここにはいない千冬に心で語りかけた。

 

「あずさん、あずさん」

 

 七瀬は自分の制服の裾を引っ張られていたことに気がついた。

 本音だった

 

「なんだ布仏?」

 

「あずさんは私の返事をわかっててあんなことしたんだよね?」

 

「いや、確信はなかった。正直賭けだったな。

 しかし君ならあんな返事をしてくれるんじゃないかと期待してしまっていた」

 

「ふーん。つまりあずさんは、らうらうを助けるために私の純情を利用したんだね~」

 

「聞こえ方は悪いが…まぁ、そうなるな」

 

「・・・ふ~ん。そっかー」

 

「お、おい…布仏…?」

 

 いつもどおりのほほんとした雰囲気で告げる彼女だが、七瀬には普段の彼女と様子が違うことに気がついた。

 

「ところで、あずさん」

 

 そして何を思ったのか突然七瀬の手を握り、周囲に聞こえるような声量でこう告げた。

 

「次のデート、いつにしよっか~?」

 

「は?」

 

 今までにないくらい盛大に周囲がざわついた。

 それはもうラウラが騒ぎの中心になっていたときとは比較にならないくらいに。

 

「それとー、前回と違ってちゃんと休憩できる場所も予約したいよね~」

 

 火に油を注ぐ行為でしかなかった。

 それを聞いた各々が奇怪な行動に走り始める。

 

『私はモブ子Aだ。ロボット狂により学園の風紀が破壊された。緊急事態につき、私が臨時に指揮をとる。

 ロボット狂は布仏本音を(性的に)狙っている。

 姿を表した瞬間を狙って仕留めろ。砲弾から信管を抜け、少女を傷付けるな!』

 

 あるものは携帯で何者かに風紀を乱した七瀬の暗殺を依頼していた。

 

『撃て!撃ち続けろ!銃身が焼け付くまであの変態を撃ち続けるんだ!』

 

『あそこにぃ! あんなもの残しとくワケにはいかないんだよ!なにが「女同士の危険な恋」だ! あそこからでもじれったさを感じる! 奴らのこのとんでもない関係の方がはるかに危険じゃないか! 』

 

『みんなの命、俺に預けてくれ! 宇宙に必要なのは、おまえたちの爛れた関係じゃない! 俺たちのあつい勇気だ!』

 

 どこか共通点のある彼女らは七瀬を己の手で始末せんと奮起していた。

 そんな光景を見た七瀬はやりやがったな、と言わんばかりに本音の方を見た。

 

「あれー?あずさん、男女が二人で出かけるからデートって言っただけなのにみんなに勘違いされちゃってるよー」

 

「嘘つけ絶対わざとだろ。

 あとなんだ休憩できる場所って」

 

「カフェのことだよ~。みんな何を想像したのかな~?」

 

「さっきから何もかも聞こえ方が悪いんだよなぁ」

 

 皮肉の意味を込めて、七瀬はそう呟いたのだった。

 

 言うまでもないが、一連の騒動による悪印象は七瀬にのみ残ることとなってしまった。




 乙女の純情を弄ぶ者は馬に蹴られて(社会的に)死ねばいい。
 これで本音ちゃんを怒らせてはいけないと七瀬君も理解できたでしょう…
 今回は人間関係メインになってしまったので次はロボット成分マシマシでお送りしますよ!

 今回もありがとうございました!
 ロボット愛に溢れた感想、評価お待ちしております!
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