『5月1日より』
今回登場したエナジーバイパスという単語について言葉選びが不適切でないのかというご指摘をいただきました。
バイパスという単語は血脈に疾患を持っている方々が行う手術の名称であり、ISにおける血管の役割を担わせる部位ならそれを連想させてしまうのではないかということを危惧し、前話から触れていたエナジーバイパスという単語の名称を変更させていただきました。今後はエナジーバイパス→エナジーサーキット(こちらは回路という意味ではありますが)へと変更させていただきます。
今話の私の言葉選びで不快感を抱いてしまった方々には深くお詫び申し上げます。
今後は投稿前にもっと慎重に言葉選びをして執筆していきます。
度重なるようではありますが、今回は誠に申し訳ありませんでした。
「なんなのだ…なんだというのだ奴は!!」
自室のベッドシーツを乱しながら彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒは叫びを上げた。
素行に問題があるとされた彼女は教員たちの計らいによってルームメイトのいない一人部屋である。自分以外誰もいないため迷惑こそかからないが、その孤独さが彼女の叫びをより悲痛に見せていた。
「私を手玉に取るだけでは飽きたらず、情けをかけたとでもいうのか!?
見下したような真似を…」
大衆の前で己を手玉にとって見せた七瀬。そのときの彼が自分を見ていたときの目がラウラの中に強く印象付いた。
そしてラウラは、そのときの七瀬と似たような視線をよく知っていた。
「あれは、あの目は…奴等と同じ目だ」
ギリッ、とラウラは奥歯を軋ませる。
脳裏に浮かぶのは『出来損ない』としての烙印を押され光を失ったときの自分。そんな自分に部隊員から向けられたのは侮蔑や軽蔑といった負の感情。そういったものを宿した目だった。
ラウラには先程七瀬から向けられた目がかつての部隊員から向けられたものと重なって見えたのである。
「私は何も変わっていないというのか!?
あのときから何も……」
彼女が踞るようにしていると制服のポケットから何かぎ落ちた。
それを見たラウラは普段の冷静さを取り戻した。
自分に渇をいれてくれたソレは、彼女にとっての強さの証明であり、敬愛する織斑千冬から授けられた力そのものであった。
「・・・いや違う。今の私には教官から授かった技や言葉がある。
どんな相手だろうと蹴落とし、己を証明できる強さが今の私にはあるのだ…!!」
シュバルツェ・ハーゼ。そう書かれた部隊章をラウラは拾いあげる。
そしてそれを握りしめながら決意を固めたように憎き相手の名を叫んだ。
「教官の汚点を排除する前に、まずは目障りな貴様から排除してやるぞ…東七瀬!!」
彼女は、見るものに対して自分を印象付ける眼帯を捨てる。
そして彼女の深紅の右目とは違う、金色の瞳が露となる。深紅と金色の双眸は色こそ違うが、どちらの瞳にも主であるラウラの憎しみの炎が宿っていた。
──────────
「ほらどうした織斑、俺はまだ一撃ももらってないぞ」
「そりゃあ…白式はッ…そっちより背負いものが多いから…なッ…!!」
戦闘用のアリーナ。そこで二体のISが武器を構え合っていた。一夏の機体『白式』と、七瀬の借り受けた訓練機『真打』である。
だが、二体とも普通のISとは挙動がおかしかった。
普段は宙を舞い大空を翔るような動きをするISが地面に足を着いている。そしてスローモーションのような動きで武器を打ち合っていたのだ。
「そっちがこないなら、こっちから行くぞ。
ここからは補助筋肉をフル稼動させる!」
七瀬がそう叫ぶと先ほどまでゆっくりと動いていた真打が突如身軽になったかのように地面を跳ねる。そして手に持っていたアックスを白式めがけて投擲した。
「武器を捨てた!?うわあっ!?」
投げられたアックスを一夏は白式の雪片弍型で防ぐ。それが最低限の動きで攻撃を守る方法だったためだ。
だが、それこそが七瀬の狙いだったのだ。
「連撃、いくぞ!」
七瀬は一夏が攻撃を防いだ一瞬で彼の目の前まで移動していた。そして体制を低くして一夏の白式にマニピュレーターでパンチを繰り出す。その動きはさながらボクシング選手のようであった。
連続で攻撃を食らった一夏は体制を崩し、後ろ向きに倒れた。
同時に七瀬の勝利を告げるアリーナのブザーが鳴り響く。先に地面に倒れた方が負け、というルールだったようである。
「くっそぉ!やっぱりこのルールで真打を使うのは反則だ、七瀬!」
「常に平等な勝負ができると思ってはならないぞ織斑。
勝負とはお互い常にクソみたいな有利不利がある状況で行われるんだからな」
「少なくともこのルールじゃ真打を相手にしたらどんなISもコールドゲームだよ!」
叫ぶ一夏に対してやれやれと困ったような顔をしながら七瀬は手を差し出す。
お前のせいでこうなってるんだけどな、とそんなことを思いながらも一夏は七瀬の手を借りて立ち上がった。
同時に白式を待機状態へと変換し、自分の脚で地に降りた。
「なんだ、もう辞めるのか?お前が俺のやってるトレーニングを教えてほしいというから付き合ってやってるのに。
死に物狂いでついてこなければこの先のトレーニングにも耐えられんぞ」
「やったんだよ、必死に!その結果がこれなんだよ!」
一夏は七瀬に向かって叫んだ。
と、そのときだった。
「二人とも、やっぱりここにいたんだ。お疲れ様」
「おぉ、シャルル!シャルルからも七瀬に言ってやってくれよ!」
アリーナの入り口からシャルルが二人の元へと駆けてきた。
そして手慣れた動作で二人にスポーツ飲料の入ったボトルとタオルを差し出した。
「ん、すまないなデュノア」
「ううん。いつもは東君が僕たちにしてくれてることだから。
・・・それで、二人はなにをしてたの?ISを起動してるのに苦しそうに見えるけど…」
肩で息をしている二人にシャルルは問いかけた。
「そりゃ、こんな滅茶苦茶なトレーニングしてたらこうなるって…」
「トレーニング?」
シャルルが疑問を持ったのは、一夏と七瀬がISを装着しているというのに息を切らしていたことだ。
今の一夏はシャルルに返答を返すのでさえ精一杯といった様子だった。
「ISのPICを切った状態での戦闘だ。
・・・要は浮遊機能と生体補助機能をオフにした状態での模擬戦だ」
「いや、これは模擬戦なんかじゃない…一方的な蹂躙だ!
PICを切ったISって、動きが制限されるんだぜ?
なのに、七瀬の真打は脚部に補助筋肉が標準装備化されてるからPICを切っても平気で動けるんだ!不平等にもほどがあるぞ!」
一夏は七瀬を指差しながら叫ぶ。
だが対する七瀬はため息をつきながら一夏の肩に手を置いた。
「織斑よ、確かにPICを切ったISは重い。・・・だがその重みがまた心地いいのだよ。重力が掛かった機体で地に足を着く感覚…あぁ、俺も早く理想の機体でこれを感じたい!」
「じゃあ対等の条件で戦えよ!!
そんな子供を説得するみたいに言っても納得できねぇ!」
ISにおけるPICというのは飛行や浮遊といった動作の他に、操縦者の脈拍や呼吸といった生態機能を補助する役割がある。そのため、ISを装着している間は肉体的疲労というものが無くなる。
だが、それをオフにするということは浮遊しないISを着る…鋼の鎧を着て動くようなことなのである。
シャルルは二人が疲弊していたことに合点がいった。
だが、すぐに別の疑問が沸いてきた。
「PICを切っての模擬戦…?聞いたこともないトレーニング方法だけど、これは何を鍛えるためのトレーニングなの?」
シャルルはこれでも代表候補生である。故に、母国フランスでISに関するトレーニングは基礎から積んできた実績がある。しかしシャルルは七瀬と一夏の行っているこのトレーニング方法を、見たことはおろか聞いたことすらなかったのだ。
「そうだな…ISの戦闘の中で精神的疲労に対する忍耐力と集中力をつけるトレーニング…とか?」
「なんで疑問形?」
一夏の曖昧な答えに苦笑いするシャルル。だが一夏は考えるような素振りをしながら言葉を続ける。
「いや、俺も七瀬にいきなり付き合わされたから、このトレーニングの目的をまだ聞いてなかったんだ。だからあくまで推測でしか語れないんだ」
「ほう、ならば聞かせてもうおうじゃないか。お前のたどり着いた答えを」
ボトルに入ったスポーツ飲料を飲みながら、挑戦するようにして意地悪げな笑みを浮かべる七瀬。
対して一夏はシャルルが持ってきてくれたタオルを受け取り、汗を拭いながら語る。
「ISがPICを展開しているときは生態機能補助があるから息切れみたいな肉体的疲労はないだろ?けど、心は違う。窮地に立たされたときや焦ったときはどうしてもメンタルが弱っちまう。
敢えて自分を疲労状態にした中で戦うことで、目には見えない弱点の心を鍛える。それが目的なんじゃないか?このトレーニングは」
「「………」」
「どうしたんだよ?二人して黙って」
一夏の説明を聞いた七瀬とシャルルが面喰らったような表情になる。
「いや、織斑がそこまで考えてトレーニングしているとは思わなくてな。
俺がこのトレーニングの目的を教える前に自分で答えを見出だすとは畏れ入った。
お前もようやくパイロットとしての自覚が目覚めたか。俺は嬉しいぞ」
「今まで何の考えもなしにトレーニングしてると思われてたのかよ!?
これでも勤勉な方なんだぞ俺は!」
「学園の特記事項を57個全部覚えてるくらいだもんね、一夏は」
「そりゃあ自分の身を守るための事項だからな。
保険とかの契約だとああいうどうでもよく見える事項ひとつひとつが大切だったりするんだぜ?」
「高校生がなぜそんな経験をしてきているんだ…」
「・・・あとこれは相手が真打の場合にしか限らないけど、こっちは相手より自由に動けない分、相手の動きを常に予測しながら行動しなきゃいけなくなる。最低限の動きと最適な対処方を考えるトレーニングにはなるかもしれないな」
一夏は七瀬に対して訝しげな視線を送りながら皮肉を溢す。
一夏の性格上、皮肉を溢すということはよっぽどのことなので七瀬はそれ以上言い返さなかった。一夏も模擬戦でこっぴどくやられたことへの仕返しのつもりなのだろう。
「さて、丁度デュノアも来たことだし、今度は技術面の学びといこうか。
どうしてもデュノアがいなければできないことがあってな」
「僕が?」
「あぁ…さっき言ってたやつか。確かにアレは俺も七瀬も苦手なんだよな…
俺からも頼むぜ、シャルル!」
話を進める二人に小首をかしげるシャルル。
言われるがままに、二人の後に着いていった。
────────────
シャルルは七瀬と一夏に案内されるがまま、整備室まできていた。
二人やその周囲にいる面子と過ごすにあたって見慣れてきたこの場所だが、今日の格納庫は普段と雰囲気が違っていた。
「なんだか皆忙しそうだね…
何かあったのかな」
「整備科の生徒たちが来月行われる学年別トーナメントに向けて学園中の訓練機を急ピッチで調整をしているんだ。そのせいでピリピリしてるのさ。
現に俺も機体の調整をするために道具を借りに行ったら門前払いを喰らった。挙げ句の果てには俺たちの作ったビルダーズギアも彼女らに酷使されてしまっているという有り様だ」
七瀬は自虐するように語る。だがそれも無理はない。
彼が開発したIS整備マシン『ビルダーズギア』。それが整備科の生徒たちに独占されてしまっていたのだ。
整備性の圧倒的な向上が見込まれたビルダーズギアはすぐさま学園内で量産が決まった。使われなくなったISのプロトタイプであるEOSに偽装を施すのが主な作業であるためさほど時間はかからずに量産が完了したビルダーズギアだったが、完成して早々開発した七瀬本人にそれを使用する権利は与えられなかったのである。
加えて突如開催が発表された学年別個人トーナメント。機体の整備が必須となるこれの開催によってビルダーズギアはもはや七瀬にとって無縁の存在となってしまったのである。
「・・・心中お察しするよ」
「いや、こっちこそ愚痴を語ってしまってすまなかった」
事情を知っていたシャルルは七瀬にそんな言葉をかける。
だがそれがかえって気を遣わせてしまったのか、七瀬は謝罪の言葉を入れた。
「それで、僕は何を手伝えばいいのかな?」
話を切り替えるようにシャルルは七瀬に問いかける。
すると七瀬はすぐさま表情を明るくし、目を輝かせながら目の前の機体を指差した。
「なに簡単なこと。君のよく知る機体、リヴァイヴの改造を手伝ってほしい」
「か、改造...?このリヴァイヴ、学校の訓練機だよね...?」
「ああ。そうだな」
「学校の機体って勝手に改造していいものなの...?
・・・あれ?このリヴァイヴ、訓練機としての機能をオフにされてるみたいだけど…」
「あぁ。これは山田先生の教員専用機だ。
学年別個人トーナメントに使える機体がなくて悩んでいたところ、親切にも貸してくれたんだ。
そんな機体だから、今回はむやみに外装を弄るわけにはいかない」
「じゃあどこを改造するの?」
「ISの血管となる部分、『エナジーサーキット』だ」
七瀬はそう言ってリヴァイヴのインナーフレームを伝うように設置されている導線のようなものを指した。それこそがISにとっての血管、『エナジーサーキット』である。
「ときにデュノア、君はエナジーサーキットの役割を知っているか?」
「一応理解はしているつもりだけど...ISコアから生成されるエネルギーの伝達だよね?」
「ああ。だが、本機関の調整はISで最も困難となる。この機関の調整次第ではエネルギーの伝達率を大幅に向上させることが可能であり、操縦時のラグや出力の割合を最適な状態にすることができる。
現状俺の周囲でリヴァイヴのエナジーサーキットの最適な調整ができるのは君だけだ。だから君に来てもらったのだが...」
「僕もよく分からないままこの整備方法を覚えさせられたからね…力になれるかはわからないけど、僕にできる範囲でなら協力するよ」
「覚えさせられた...?やはり代表候補生というのは整備の面でも教育を受けるのか?」
「・・・まぁ、そんなところかな」
七瀬の質問に対しシャルルははぐらかすような回答をした。
そんなシャルルの態度を見た七瀬は詮索することを辞めた。
「ではそんな君に伺いたい。ラファールリヴァイヴにとって一番最適なエネルギー伝達割合設定を教えてほしい」
「やり方だけなら僕でも教えられるけど、エナジーサーキットのエネルギー伝達割合の調整は量産機だからといってもこれといった正解はないんだよね」
「そうなのか?」
「結局のところは使い手の戦闘スタイルに合わせて変えなきゃならないから、僕のよく知る調整をしても東君が使いやすくなることはないと思うんだ」
『正解のない設定』とも言われるエナジーサーキットのエネルギー伝達割合設計。
その由縁は乗り手によって正解が変わることだった。
今まで七瀬たちが調整してきた機体は全て学園の訓練機だったため、誰が使っても機体の性能が素直に出せるエネルギー配分を模索していた。
しかし、ただ個人のためにある専用機はその搭乗者によって配分の正解というものが変わるため、自分専用のスタイルにエナジーサーキットを調整するということは七瀬も試したことがなかったのである。
「例えば攻撃の回避運動が苦手な人はパワー型の機体に乗っていても機動力にエネルギーを集中させる人だっているし、回避運動が得意な人でもその長所を活かすために機動力にエネルギーを集中させる人だっているんだよ」
「エネルギー配分か…
俺は白式がフォーマットして以降全くいじってないんだけど、そんなに大事なのか?エナジーサーキットの設定って」
「・・・お前ちょっと白式のデータ見せてみろ」
七瀬はそう言って白式のデータを一夏に表示させた。
そしてそのデータを見て絶句する。
「・・・織斑、この設定はなんなんだ…」
「そんなに酷いのか!?どうしてだよ!」
「・・・そうだな、酷いなんてもんじゃない。織斑、白式にしかない特徴を言ってみろ」
「白式にしかない、か…それなら単一使用能力である零落白夜による一撃必殺のパワー、だよな」
「あぁ、俺もそう思う。
・・・ならなぜエナジーの70%をパワーに配分しているんだ!?
こんなにパワーだけ高めて、お前は何を目指してるんだ?」
七瀬の言葉を聞いたシャルルも同じように渋い表情を
見せた。
一夏はなんのことかと言わんばかりに首をかしげる。
「エネルギーの配分は大きく分けて3つ。火力、機動力、防御力だ。
白式には零落白夜による一撃必殺の火力がある。なら、常時これだけのエネルギーをパワーに割くのは無駄でしかないぞ。なんなら白式に関しては機動力と防御力だけに振ってもいいくらいじゃないのか?
零落白夜を発動させるなら機動力を活かして奇襲するのが一番な気がするんだが…」
「そうだったのか…でも、白式の零落白夜って発動すると自動的にエネルギーがパワーに全部回されちまうみたいなんだよな。自分のシールドエネルギーさえもだ。
だからエネルギー配分がパワーが多いのも平常時でも零落白夜に頼らないで済む、それに近い戦い方ができるように白式が調整してくれてるんだと思ってるんだけど…」
「専用機は操縦者の成長に合わせて自動的にデータを変えていってくれるからあまりいじる必要はないけど、自分の戦いたいスタイルを機体に覚え込ませておくことが大事なんだ。
今までがパワーに振り回されてたりしたのなら、試しに機動力にエネルギーを割いてみるのもいいと思うよ?
零落白夜に頼らずに戦い続けるなら防御力を重視してもいいかもしれないね」
シャルルの話を聞いた七瀬と一夏はなるほど、と呟く。
「確かに試したことはなかったからな。
試しに機動力にエネルギーを多めに割いて、火力を下げてみるか…」
一夏はパネルを操作して白式の設定を変更する。
それに応じるように、ハンガーデッキに鎮座している白式はスラスターを数回動かして動作確認をしてみせる。
「しかし、お前今までよくこんな設定で戦っていたな…
こんなの、ギプスをつけながら動いてるようなもんだったぞ。相当動きも変わるだろうな」
七瀬は一夏に称賛を送る。
「そういえば、さっき防御力にもエナジーを振ることがあるって言ってたよな?
ISにおける防御力ってシールドエネルギーのことだよな。シールドエネルギーにエナジーを割り振るってのはどういう得があるんだ?」
「競技におけるISではシールドエネルギーが0になった時点で負け。それは一夏も知ってるよね?
防御力にエナジーを振ると通常時よりもシールドエネルギーの量を多くすることができる。つまり長時間の戦闘が可能になるんだ。
一夏の場合で言うと、零落白夜がなくても火力の高い白式を長時間稼働させられることになるから相手にとっては厄介になるかもね。防御力に割り振るのもひとつの手かもしれないよ?」
一夏はそうなのか、と溢した後、もう一度操作パネルに触れて割り振りを変えようと考える。
「・・・なるほどな。確かにこれは正解がわからなくなってきたぜ…
正解のない設定って言われる理由がわかったよ」
「確かに最初はどれに割けばいいのかわからなくなるよね…
でもね、最初は皆防御力に振ることが多いんだ。
防御力に割り振られるエナジーは3つの役割の中で一番エネルギーの変換効率がいいんだよ」
「えっ?どうしてだ?」
「詳しい原因はわからん。
だが、ISのコアが生み出すエネルギーは推力や動力に変換されるよりもシールドエネルギーに変換される方がエナジーの消費量が少ないんだ。
確かなのは、防御力と機動力の二つに全く同じ量のエネルギーを割り振っても防御力のほうが大きく向上することが確認されているってことだけだ」
七瀬はそう言いながら設計に使っているノートを開いて見せる。
そこにはISの解体図が記されていた。七瀬はそのページに書いてあるエナジーサーキットを指差しながら二人に見せる。
「恐らく、ISコアの産み出すエネルギーはコアから近い部分に伝達されるほど高濃度のエナジーが貯蔵されるんだ。
シールドエネルギーを発生させる機関はISコアの内部にある。だから直接送り込まれているに等しい。
対して機動力とパワーに振られるエネルギーは、コアからエナジーサーキットを通して他の機関に伝達されるまでの間に僅かながらエネルギーが大気に還元されてしまっているんだろう」
「ISコアってエネルギーを産み出すためだけのものじゃないのか?」
「厳密にはISにおいてブラックボックスになっている部分のことを示すものなんだ。
見た目として分かりやすく言うならISに搭載されている円球状の塊があるだろ?それがISのコアだ。
あの中には少なくともエネルギーを産み出す機関、エネルギーを貯蔵する機関、コアが発生させたエネルギーをシールドエネルギーに変換する機関の3つがあることが予想されているんだ」
「そんなにたくさん!?あんな小さい球に入りきるのかよ…」
「だからこそ現代技術では解明できないブラックボックスなんだ。篠ノ之束はどのようにしてあんな小さな永久機関を作り上げたのか…」
七瀬は一夏の白式の隣に鎮座しているラファール・リヴァイヴを見つめながら呟いた。
「話を戻すが、まずは俺の操縦の癖やデータがわからないことには俺にあった調整はできないわけだな。だが真打の使用できる時間は過ぎてしまったからデータがとれるのは早くて明日になるか。
クソっ。俺にも専用機があればすぐにでもデータがとれるんだがな…
しかも訓練機にはフォーマットとフィッティングの機能がオミットされているから正確なデータがとれるかもわからんな」
「そういえば、東君が訓練機に乗っているときに機体がフォーマットとフィッティングを行っているときがあるけど、あれも東君の改造によるものなの?」
「・・・あぁ、あの現象か。あれは俺にもわからないんだ。
いや、俺のロボットに対する愛情が機体にも伝わっている故のかもしれないな!
まぁ、どんな機体だろうと俺が乗れるのであればそれはもはや俺の専用機といっても過言ではないが」
ふざけているように告げた七瀬。
だが何故その現象が起きているのか、七瀬にはおおよその予想ができていた。
七瀬がISを動かせるようになったのは、ISによる襲撃事件のときに打たれた薬品によるおかげだ。
だとすればそれが理由としか思えなかった。
だが、七瀬は二人に知らぬフリをした。自分のその過去を知られたくなかったためだ。
「専用機、か…」
七瀬の言葉を聞いた一夏はそんな声を溢した。
「なぁ、七瀬ってなんで専用機を貰わないんだ?」
「それなら前にクラスの前で公言したはずだが…
俺が乗る専用機は自分で作った機体にしたいから、と」
「いや、専用機が貰えるってことはISコアも手に入るってことだろ?
だったらそのコアを利用して七瀬の作りたいISを作っていけばいいんじゃないかって思うんだけど…」
「なるほどな。
しかしな、俺にとって専用機を貰うということはメリットがひとつもないんだ」
「どうしてだ?」
「まず専用機を貰うってことは国家の代表候補生になるってことだ。基本は国家の言われたとおりにデータを採取し、戦闘しなければならない。
そしてそこに機体を弄れる自由なんてものはないんだ。
・・・もっともお前の場合は代表候補生にならずに専用機を貰ってるが、それは白式が企業や国からではなくISの産みの親から贈られたものだからだろう」
「七瀬に専用機が作られる場合は違うのか?」
「そうだな。仮に篠ノ之束が俺に専用機を用意してたならお前の白式のときのようにすぐにでも届いてただろうしな。
・・・自惚れかもしれないが、俺は今まで様々な国と企業から専用機や代表候補生の勧誘を受けてきた。どの国も、男性操縦者である俺に首輪を付けたがってるんだろうな。
代表候補生として俺を手に入れれば男性操縦者っていう広告塔が手に入るだけでなく、俺を含めたオーガント開発者たちからの技術協力も期待できるとか考えているんだろうな」
七瀬は皮肉をこめてそう吐き捨てた。
そして一夏とシャルルに背を向けたまま語る。
「一夏、シャルル、俺はお前たちほど国に大事にされていないのさ。
学園からきたボディーガードの沖田さんから聞いた話では俺は元々国に解剖されるか実験体として管理されることを前提で話が進んでたらしいしな。
むしろ大事にするどころかさっさと死んでもらって解剖させろってのが国の思惑らしい」
「なんでそんなこと…俺とお前の何が違うんだよ!?
同じ男性操縦者だってのに…」
「俺はISの開発やらで悪目立ちしすぎているからなぁ。
今の日本政府…いや、女尊男卑の世界において危険な存在だと思われてるんだろう。
女尊男卑の世界のきっかけとなっているのはISが女性にしか使えないからだ。
しかしISを動かせる男が現れてしまった。しかもそいつは己の手でISを作ると言っている、なんてなったから自分たち女性に反旗を翻すのではないかと気が気でないんだろうな。
だからお偉いさんたちは俺を早急に管理、もしくは排除したくて仕方ないのさ。以前俺を煙たがっていた教頭もその部類だろう」
あまりに重い話に、一夏だけでなくシャルルまでもが沈黙した。
「これはあくまで予想だが…専用機を送られなかったってことは俺は篠ノ之束からも異分子扱いを受けている可能性がある。
国はおろか、IS開発者からも排除の対象にされているとなるとこの業界を生き抜くのは中々に難しいだろうな」
「・・・それじゃあ七瀬の願いは最初から叶わないじゃないか…!
ISコアは篠ノ之束博士にしか───」
『作れない』その言葉を言おうとした一夏はハッとした。
目の前の男、東七瀬は規格外すぎる男である。
ないものは己の手で作る。それが彼のやり方であることを今しがた思い出した。
「まさか七瀬、お前は…」
「そうよ!そのまさかよ!」
七瀬は再びノートを広げてみせる。
そしてISコアのことについて纏めてあるページを一夏に見せつけた。
いつもの虚ろな目からは別人のように輝いた目で。
「ISコアの役目は大気中にあるエネルギーを吸収し『ISエネルギー』を生成すること…
俺は今このISエネルギーとやらが何なのか、そして大気中にある何を吸収してISエネルギーが作り出されているのか研究している。
そしてそれがわかったそのときこそ、俺の夢が叶う!」
「俺による、俺のための、俺だけのロボットに他人が作ったISコアなんてモンを使うつもりなど更々ないさ。
俺による、俺のための、俺だけのISコア…それこそが俺の専用機に搭載するに相応しい!
俺の作る専用機に他人の作った不純物を乗せるなど言語道断!1から10まで全部作るんだよ!」
両手を大仰に広げ、二人の前で語る七瀬。
その言葉は端から見れば馬鹿げていると言われるようなものである。だが、彼の手に掲げられているノートの中身が彼の本気さを物語っていた。
「(あと少し、あと少しで新たな機体の構想もまとまる…・・・そのときはシャルルの力が必要になる。ラファールのことに詳しい彼の力が)」
七瀬はシャルルの方を向きながらそんなことを思うのだった。
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「・・・簪」
「・・・何、鈴」
「IS完成させるんじゃなかったの?
アンタのISハンガー、一夏たちがいる隣のとこでしょ?ここでアイツらを監視するみたいにしててもしょうがないでしょ」
「・・・あんな恐ろしい実験をしている中に飛び込んでいく勇気は私にはない」
「はいはい…でもなんならあの二人目に一声かければアンタの専用機の完成も早まるんじゃない?」
「・・・駄目。これは私が自分の手で完成させないと」
「アンタのその使命感はなんなのよ…
わかった。アイツらの帰る時間、調べといてあげる。
・・・事情を話せば絶対食いつくと思うけどね、アイツら」
お久しぶりです。RGガオガイガーの予約戦に敗北した男です。
亀更新な作品であるにも関わらず、休載中続きが気になる等の感想、ロボット愛溢れる高評価をありがとうございました!とても励みになりました!
今回も読了、ありがとうございました!