ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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今回でプロローグ終了です。
次回から学園編に行きます。


プロローグ3:猶予

『それでは再度、入学書にサインと実印を』

 

「分かりました」

 

IS学園入学書。それに七瀬はペンを滑らせる。

ISを動かしたあの日以来、事態は電光石火の如く進んでいった。骨折した腕を治療しに行こうと思えば突然、黒い服を着たサングラスのハゲ(七瀬談)にリムジンに乗せられ、気が付けば今に至る。

男がISを動かしたことはその日の速報となり、全てのテレビ局が我先にと報道を始めた。

 

「腕折れてるんで字が汚いですが我慢してください」

 

『構いません。そのための実印でもありますから』

 

相変わらず目上の者に対しての口の利き方がなっていないのは言うまでもない。

だが、七瀬は罪悪感を感じる中、怒りを感じていた。

 

「あの、そんなに見られてると気持ち悪ぃんですが」

 

半分ギレの状態で七瀬は言う。

だが、七瀬の目の先にいた唯一ハゲではないボディーガードのリーダー格の男はこう返答した。

 

『どうかお気になさらぬよう。我々のことは空気だと思ってください』

 

「できないね!」

 

いくら身の安全が保障できないからといって病院や自室にまで付いてこられては行動しにくい。現にここ、IS学園にまで移動する道もリムジンで行動を共にしているのだから。

 

「逆に目立つんじゃないですかねぇ?容姿がなかなかな織斑一夏ならいざ知らず、いくら二人目の男性操縦者だからって俺みたいな奴、顔を覚えてるわけないと思いますよ」

 

『失礼ですが、貴方は自分の価値を安く見すぎです。本来ならば学園に入学できなければ解剖──』

 

「某家電量販店まで俺に付いてきたとき思い出してくださいよ」

 

『…………』

 

そう。これが一番の七瀬がキレる理由だ。プラモを買いにいくときも同行。よってあまり集中して買い物ができないのである。だが、七瀬も性格が悪く、二度と付いてきたいと思えないように一週間全て店に通い、数時間プラモを見て廻るというプラモを知らぬであろうボディーガードへの嫌がらせを繰り返した。だがどういう訳かお付きのボディーガードは顔色ひとつ変えずにしっかりと七瀬に付いてくるのだった。

それで七瀬は何を思い出せと言ったのか、それは七瀬が二人目の男性操縦者と発覚した次の日だというのに七瀬がいるということに誰も気が付かなかったということだ。これにはお付きのボディーガードも驚きを隠せずにいた。

 

「自分にはハイパージャマーかミラージュコロイドといったステルス機能でも付いてるんですかね?」

 

『返答を控えさせていただきます』

 

「あぁ、そうですか…」

 

七瀬は心の中で涙を流しながら言う。

そんなことをしていると書類を違う部屋に持って行ったIS学園の教師が帰ってきた。

 

『これで手続きは終了です。そして、こちらが入学前に配布している参考書です。無くさないでくださいね』

 

「あ、ありがとうございます…」

 

七瀬は席を立ち上がり、辞書並みに厚みのある参考書を受け取る。いくらロボットを愛する七瀬であっても辞書並みに厚みのあるそれを受け取ったときは顔をひきつらせた。

 

『それでは、迎えが来るまでお待ち下さい』

 

「はぁ…」

 

ボディーガードの彼にそう言われ、七瀬はため息をつく。迎えが来る時間までの間、七瀬は携帯を弄り始める。

 

「(本来ならこのあと遅刻で学校に行く筈だが…サボるか)」

 

普段ならこんなことはしない。だが今回ばかりは仕方なかった。理由はボディーガードの彼がいるからだ。

普段学校で暴力沙汰のような嫌がらせを起こされている七瀬。いつも七瀬に手を出す彼らが学校にまで同行するであろうボディーガードに見つかれば投獄では済まないからだ。

 

『東様、これが終われば我々の任務も終了です。ここまでの監視、お疲れ様でした』

 

「えっ…今日で終わりなんすか?」

 

『いえ、その…政府から見つかる心配のない東様よりも織斑一夏様の方へ優先しろとのことでして…』

 

「自分のステルス機能公認になったんすね」

 

影の薄さだけは一流な七瀬であった。

七瀬と彼は迎えからの連絡が来るとIS学園をあとにする。

 

「来年からここに入学するのか…しかし、女子校に男が二人ねぇ…」

 

『お気に召さないようですな』

 

無駄にデカイ校舎を見つめながら二人は言う。

迎えの黒い車に乗り込むとボディーガードの彼は行き先を運転手に告げた。

 

「当たり前じゃないっすか。今のところ、ここに入学する男は自分と織斑一夏だけなんでしょう?いい比較対象にされますよ、彼と自分は」

 

『お二人とも世界でたった二人の男性操縦者です。比較などしなくとも…』

 

「織斑一夏が全てにおいて自分のスペックを上回っていたら世界にとって自分は彼の代用品、もしくは解剖材料にしかなりませんからね」

 

七瀬は政府を信用していなかった。その理由にはボディーガードの彼から聞いた信じられない事実があった。当初、自分は解剖用として使われる予定だったというのだ。織斑一夏も最初はそうだったらしいが織斑一夏のその後を決めたのは他でもない篠ノ之束だ。彼をIS学園に入れろと言ったのは彼女だったのだ。だが、七瀬に対しては特に指令はなかったので解剖用の媒体として扱う予定だったらしい。

 

「それにあの事実を教えてくれたのは貴方です。自分が代用品にしかならないことは貴方が一番分かっているのでは?」

 

『………』

 

彼は黙る。なぜ自分にそんな事実を教えたのか、なぜ自分の身の危険を侵してまで自分に世界を教えようとするのか、七瀬には到底理解出来なかった。

 

『だからこそ、認めたくないのだ』

 

「と、いいますと?」

 

『君はまだ未来に希望のある子供だ。そんな子供に何故このような非人道的なことが平気でできるのか私には分からん。たかが兵器を使えるという理由だけで人の命を犠牲にするなど、私は認めない。こんなやり方をする政府を、世界を…』

 

「大方、男にもISが使えるようになるかもしれないという人類の発展に繋がるからでしょう。全ては自分ひとりの犠牲で男女の人権を平等にできるかもしれない、この女尊男卑の時代に終止符を打てるかもしれないという希望からくるもの。こんな偉業を成し遂げれば国は更に発展し、世界との関係をリードすることができる。普通の国民からすればそんな素晴らしい計画を止めようとする自分らの方が悪人ですよ」

 

『人殺しの技術で成り上がるなど発展など言わない。私にとっては篠ノ之束だって同じに思える。人を殺めることができる機械を世界中に広めた。一度人の命を救った力とはいえ、使い方を誤ればそれはただの脅威だ。なぜ世界はこうも変わらない…犠牲の上に手に入れた力を使い誤るのだ……』

 

「それが人間としての本能なんでしょうな。…けど、それを知って尚、人は止まるわけにはいかない。それがより良い明日へ繋がると信じ続けるのもまた人間の本能なんですから」

 

『……』

 

「かつて人間の先祖たちが初めて火を見つけたとき、その眩しさと熱さに恐れを抱いたでしょう。ですがそれを乗り越え、後の時代に繋いでくれたからこそ、今の自分たちの生活があるのだと自分は考えます」

 

そんなことを話していると七瀬の自宅に到着する。

七瀬はシートベルトを外し、学園で受け取った資料を手に車のドアを開く。

 

「貴方のような人にお会いできて嬉しかったです。ISを肯定的に考えていない人の意見も欲しかったところでした。では…」

 

『待ってくれ、東君』

 

七瀬によって閉められた車のドアの窓が開く。

任務を終え、今は七瀬の元ボディーガードとなった彼はかつての主に声をかける。

 

『君は自分がそんな扱いだと知って尚、なぜ自ら進む?その道は命を磨り減らす道だと分かっている筈だ』

 

学園に入る以外には解剖される、もしくは保護対象として国に監視されながら生きる道もある。だが嘆くことをせず、七瀬が自ら学園に入ることに対して積極的であった理由がボディーガードの彼には理解出来なかった。

 

「夢があるんですよ」

 

『夢?』

 

七瀬は服の胸ポケットから一枚の紙を取り出して彼に見せる。

 

『これは…?』

 

「まぁ、俗にいう『ぼくのさいきょうのろぼっと』です」

 

端から見たら子供が書いたただの落書きにしか見えないその絵に彼は戸惑う。

 

「そいつは幼い頃に描いた夢の設計図です。そいつをISとして作りたいんですよ。叶わないと思ってた夢に今は挑戦することができる。それが堪らなく嬉しいんです」

 

自分が危険な立場にいると分かっているのにその先の夢を見つめている。元ボディーガードの彼は表情が柔らかくなる。自分の硬い考えも目の前のロボットを愛する男にとっては過ぎたことでしかないのだと思うと阿保らしく思えたからだ。

 

『君はISをアニメのヒーローロボットのように考えているのかもしれないが…』

 

「分かってますよ、兵器だということは。それを身をもって思い知らされましたから」

 

七瀬は包帯で巻かれた腕を見せて言う。

 

「それでも、自分は諦めきれませんでした。ソイツが誰かを助ける力になるか、人を傷つける力になるかは分かりません。ですがひとつ確かなことは俺がソイツを作って操縦したいってことです。ソイツで自由に空を飛びたい。それが今の分かることです」

 

『…後者にならないことを祈るとしよう』

 

彼は苦笑いしながら言う。七瀬というロボット馬鹿は止まらないということを悟ったのだろう。

 

『おっと、そういえば渡し忘れていたものがある』

 

彼は車の中に置いていた鞄から何か箱を取り出した。

それは七瀬がよく知るものであった。

 

「これは…」

 

『これまでの監視のお詫びとついでに布教活動とでも言っておこう。私が一番愛する機体だ』

 

「ジムカスタム…連邦の機体ですか。なかなか渋いチョイスっすね」

 

彼から渡された箱は七瀬の愛するプラモデルだったのだ。

 

『君の部屋はジオン系の機体が多かったな。正直、連邦派の私には居心地が悪かった』

 

「なるほど…貴方にあの嫌がらせが通用しなかった理由がようやく分かった」

 

七瀬は気がついたのだ。目の前の彼もロボットを愛する人間の一人だということに。

プラモコーナーを一週間周り続けるという嫌がらせ、それが通用しなかったのも彼がプラモを趣味に持つ人間だったからなのだ。

 

『ISを作る際にはジムのような機体も作ってみてくれ。是非私も見てみたい』

 

「最善を尽くさせていただきます」

 

七瀬は受け取ったプラモの箱を抱えながら彼の中に残った疑問を投げ掛ける。

 

「そういえば貴方はなぜ政府やIS関係のことをそこまでご存知なんです?いくら学園から派遣されたボディーガードといっても政府の思惑なんて知らない筈では?」

 

『流石に勘がいいようだ。そう、君の言う通りだ。普通は私のようなボディーガードが知ることではない…普通は、だが』

 

彼は付けていたサングラスを外しながら言う。

 

「失礼ですが、貴方は何者なんです?」

 

『…私のコードネームは沖田雄(おきた ゆう)。対暗部用暗部、更識家のエージェントだ』

 

「更識家…?」

 

『いずれまた会うこととなるだろう。夢への健闘を祈る、武運を!』

 

彼は七瀬に連邦式の敬礼をする。咄嗟に返した七瀬であったが彼の言っていた言葉が疑問となって残っていた。

 

「(更識家…何者なんだ?)」

 

残り数ヶ月。その入学までの猶予を使って更識家について調べてみることにした。

 

「ボディーガードの人もいなくなっちまったし、大遅刻だが…学校行くか」

 

七瀬はすぐに用意をして学校に向かうのだった。

 

 

 

 

「(なんだ、この違和感は…?)」

 

学校の教室に入ってすぐ、七瀬は異変に気がついた。クラスメイト数人分の席が空いていたのだ。

 

「(そうか、あの襲撃で…)」

 

稼働テストの日の襲撃、それで命を落としたクラスメイトたちがいることに気がついた。

 

『てめえ、どの面下げて戻って来やがった!』

 

突然、教室に声がこだまする。七瀬が自分に投げ掛けられた声だと気づくのにそう時間は掛からなかった。

いつも七瀬に嫌がらせをしている男子であった。

 

『お前のせいだ!お前がもっと早くISを動かしていればアイツらは死なずに済んだんだ!』

 

「はぁ?」

 

七瀬は思わずそんな声を上げる。それに対して男子は怒ったのか七瀬の襟を掴んで椅子から地面に叩きつける。

 

『アイツらは死んだのにお前は腕一本折るだけで帰ってきたってのかよ!ふざけんな!』

 

「ぐっ!」

 

七瀬の顔に男子の拳がめり込んだ。

男子は同じ動作を何度も繰り返す。だが、それを止める者はいない。むしろもっとやれ、と囃し立てる者もいた。

 

「お前は怪我すらしてないんだな」

 

『何だと!?』

 

「我先にと逃げた腰抜けにそんなことを言われる筋合いはねぇって言ってるんだよ」

 

七瀬は嘲笑する。不気味な笑顔で。

顔を真っ赤にした男子はもう一度七瀬に拳を振り下ろそうとする。だが、拳は届かなかった。

 

『どうして君はそうなんだ!!』

 

「(あぁ、そうだ。お前が来るのを待ってたんだ)」

 

七瀬の前にクラスのヒーロー、太田が現れた。だがこれも七瀬の筋書き通りだということに誰も気がつかない。

 

「君はISを動かせたんだろ!?なんでその力を皆のために使わないんだ!君がやっていれば全部を守れたんじゃないのか!?」

 

「馬鹿を言うな。全てを守る?そんなことは機体を見てから言え。あれが精一杯だったさ」

 

新聞やらニュースやらで七瀬が乗ったラファール・リヴァイヴの状況は最悪だったということが報道されていた。政府や企業の整備が不十分だったということも共に報道された。それを知らない筈がない。現に七瀬がISを動かしたことを知っているのだから。

 

「お前の思ってるISの力は幻想だ。世界最強の兵器だからといって全てを守ることはできないんだよ。その力を振るうことで誰かが傷つき、誰かが何かを失うんだからな」

 

「俺は君とは違う!例えISがなくても、全てを守って見せる!」

 

「感動的だねぇ。けど、お前ら分かっているのか?死んだアイツらのお陰で生きていられるってことを」

 

「どういう意味だ…!」

 

太田が握りこぶしを震わせながら叫ぶ。

 

「お前らはアイツらを見捨ててバスで逃げた。アイツらを待ってあと少しバスが出る時間が遅れたらお前らが死んでたんだ。誰のお陰で生きていられるのか、分かっているのか?お前らが見捨てたアイツらのお陰だろ?俺はアイツらを助けられなかった、お前らはアイツらを見捨てた、つまり俺たちがアイツらを殺しちまったも同然なんだよ」

 

「言わせておけば………!」

 

「いいか、太田。テメェらは所詮クズの集まりだ。起きた現実に目も向けず何かあれば責任転嫁と誰かを犠牲にした傷の舐め合いを繰り返す。そうやって一生生きているがいいさ。俺は現実から目を背けない、前に進み続けてやる。その先に失うものがあったとしても乗り越えて、そして夢にたどり着く」

 

七瀬は淡々と言葉を口にした。普段絶対に口にしないような皮肉を。

 

「東、君というやつは…!!」

 

太田は七瀬に拳を振りかざそうとした。だが、七瀬はその動きを待っていた。ずっと憎かった相手、その相手に仕返しするときを待ち望んでいたのだ。

太田の拳をしゃがんで避けると太田の腹に全力の拳をめり込ませる。偶然ではあるが、綺麗なカウンターに成功した。

 

「待てっ!東…!」

 

「ずっとやり返したくて仕方なかったよ。ようやくそれが叶った。ここで思い残したことはないな」

 

周りのクラスメイトが太田に駆け寄る。そして七瀬を睨み付けた。

そのクラスメイトに対して七瀬はこう言った。

 

「あばよ、同じクズの共犯者たち。せいぜいアイツらの分まで生きてみせろよ」

 

七瀬はクラスメイトと区切りを付けるためにそう言うと来たばかりではあるが学校を去る。

もう二度と戻らないと誓って。

 

**************************

 

 

 

 

 

「束様」

 

「おかえり、くーちゃん。はじめてのおつかい、ちゃんとできた?」

 

「いいえ…『アスクレピオス』は既に被験者の体内に気化注射された後でした」

 

「えー?誰だよそんな面倒なことしやがったの」

 

「既に関係していた研究者は死亡、もしくは自殺してしまいました。手がかりは被験者のみかと」

 

「被験者、か…そいつは誰なの?」

 

「確か…『東 七瀬』という学生だったかと。世間では既に彼がISを起動させたことが知れ渡っていました」

 

「う~ん…めんどくさいし放っておいていいか。適当に監視するなりしておいて」

 

「了解しました」

 

 




ISの原作は次回が最終刊らしいですね…さみしいです。
今回もありがとうございました!
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