ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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今回はISの基礎知識の説明会とセシリアです。
原作で曖昧になっていたISの説明は全て独自解釈なのでご注意ください。


高評価をくださったビグ・ラングさん、sevenblazespowerさん、奏羅さん、ありがとうございます!


代表候補生

「ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発されたマルチフォームスーツですね。当初は宇宙空間での活動を想定して作られていましたが、今は停滞しています」

 

「ふむ…」

 

 七瀬は教科書の山田先生が説明した文を見る。

 教科書には説明された文と共に開発当初のISの写真が載っており、七瀬の目はそれに釘付けになる。

 

「(まるで宇宙服だな。かつては必要最低限のスラスターとPIC領域で動いていたのか?)」

 

 今のISの姿とはまるで違う原初のIS。宇宙空間での活動を目的として作られていただけあって空気ボンベやヘルメットのような面影が目立つその姿はまさに宇宙服と例えるに相応しいものだった。

 

「教科書に載っているのがISのプロトタイプです。ISは誕生するまでにいくつもの試作品が作られており、代表的な例では『EOS(イオス)』と呼ばれるものがありますね。こちらはISと違って女性だけでなく、男性も操縦できます」

 

 教科書に載っているISのプロトタイプ、その中には七瀬が愛する巨大ロボットのようなものもあり、それらが更に七瀬を夢中にさせる。

 

「そんな宇宙空間での使用を長年目的とされてきたISですが、実際には日本が宇宙空間で使用したのはたったの2回です。では東君、その2回の運用目的は分かりますか?」

 

「確か1回目が宇宙服の代用品として使えるか実験するためだったかと。この1回目にはもうひとつの理由があると言われています。それは日本がISの力を世界に知らしめるため、そう聞いたことがあるのですが…自分には真偽は分かりませんね。

 あ、あと二回目の運用目的はシールドエネルギーの実装です。宇宙に漂うアステロイドベルトとの衝突に耐えながら単機で突破できるか、それが実験内容だったと言われています」

 

「凄いですね……1回目の目的は参考書に載っていましたが、2回目は参考書に載っていないから分からないと思って出題したのに…」

 

「先生は意外とドSなようで…」

 

 他の生徒が指されていたらどうなっていたのかが見物である。

 七瀬は中学のクラスと区切りをつけたあの日以来、卒業式以外は学校に戻らず家でISの参考書を読んでいた。

 もちろん、読むだけでなく内容をノートに纏め、分からないことは自分で調べ尽くした。

 クラスと区切りをつけたのが卒業式の一ヶ月前だったからこそできたことである。

 そうでなければ出席日数が足りず、生涯に支障を出すだけでなく、IS学園に入学することも危うくなるからだ。

 

「(まぁ、それが今こうして役にたった訳だが…)」

 

 七瀬は自分の努力が無駄ではなかったことに安堵する。

 

「……ですが、この2回目以降、ISの宇宙進出は急速に勢いを失います。先程、東君が説明してくれたアステロイドベルト突破実験が失敗に終わったからです。原因は精密機械であるISの整備不良です。当時は技術が発達していなかったためにISを確実に安全といえる状態に整備することが叶わず、それが実験の失敗を招いたと言われています。この一件によって信頼を失ったISは開発が一時凍結されることとなります」

 

「(精密機械だからこそ起こりうる事故ってことか。そして世界にISの力を知らしめる筈が危険性を知らしめてしまったというわけか)」

 

「ですがISには別の使われ方が考えられ始めます。織斑君、分かりますか?」

 

「えぇっ!?え~と……」

 

 突然指名された一夏は焦る。そして考えた結果…

 

「な、七瀬~……」

 

 隣の席の七瀬を頼るというに活路を見出だした。

 七瀬はヒントくらいは、と思い一夏に語りかけた。

 

「織斑、思い出してみろ。アステロイドベルトを越えることは理論上可能だった。つまり、アステロイドベルトとの衝撃にも耐えられる防御力が証明されていたってことだ。そんなとんでもない防御力、お前なら何に搭載させる?」

 

「防御力…?戦うってことは……まさか、兵器か?」

 

「正解だ」

 

 一夏の表情が暗くなる。

 宇宙に進出し、人に明るい未来をもたらすために作った技術が、正反対の人を傷つける戦乱の未来を作る兵器になることに虚しさを感じたのだろう。

 だが、それを感じたのは一夏だけではない。クラスの全員がその事実を前に表情を暗くしていた。

 

「そしてISが兵器に転用され始めようとした最中、史上最悪の事件が起こります。それが…」

 

「白騎士事件だ」

 

 山田先生が説明しようとしたとき、山田先生の隣で口を開いた者がいた。

 このクラスの担任であり、一夏の姉でもある『織斑 千冬(おりむら ちふゆ)』だ。

 

「各国が保有する軍事用ミサイル2341発、それらが全てハッキングされ日本に向けて発射された。ISを兵器転用しようとした我々日本人という愚者に罰を与えるかのように」

 

 一夏には心なしか姉である千冬の表情がいつもよりも強ばっている気がした。

 

「絶望の最中、当時では異形ともいえる形をした白銀のISが現れた。

 そのISは発射された全てのミサイルをその手に持っていた剣一降りで撃ち落とすと日没の訪れと共に姿を消した。まるで幻影だったかのように、な」

 

 白騎士事件、まだ七瀬が幼かった頃に起こった事件である。

 当時はまだ七瀬の両親が生きていたが、両親が二人とも絶望した表情を見せていたのを七瀬は覚えていた。

 

「だが、この白騎士事件の一件によってISを兵器転用するなどと考える馬鹿は消えた。そして二度とこのような悲劇を繰り返さぬよう、『アラスカ条約』が締結された」

 

 アラスカ条約。日本が保有するISの基礎技術を提供する代わりにその基礎技術を手に入れた国全てがISの軍事利用を禁止するといったことがその内容であった。

 

「そして条約を締結してまで手に入れた技術をもて余す各国の思惑から、ISはスポーツとして姿を変えた。そしてISは宇宙から地球へとステージを移した途端、異変を見せた。どういうわけかISは男には使えなくなっていたのだ」

 

「(つまり、宇宙で活動を目指していた頃までは男もISを動かすことができたってことか)」

 

 今では男がISを動かせたなど信じられない話である。男であるのにISを動かせる七瀬が言えたことではないが。

 

「そして今、ISは国の一大事業として開発、研究が進められている。既に知っての通り、このIS学園ではIS運用協定に基づいてIS操縦者の育成を目的とした場所だ。…だが、ここは日本が兵器としてのISを作り上げてしまったことに対する責任を取るための場所でもある。諸君らにはそれを承知した上でこれからの勉学に励んで貰いたい。これから先、ISの未来を背負う者たちとして」

 

 千冬がそう言うと丁度授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。

 

「これで今回の授業を終わりとする…が、その前に織斑」

 

「え…はい!」

 

「入学前に貰った参考書はどうした?ノートがあまり進んでいないようだが?」

 

「あの辞書みたいに分厚いやつですか?」

 

「そうだ。必読と書いてあっただろう」

 

「あぁ、あれなら古い電話帳と間違えて捨てましt痛ぁっ!?」

 

 一夏がいい終える前に千冬のその手の出席簿が降り下ろされた。

 

「あとで職員室に来い。再発行してやる。来週までには覚えろ」

 

「えぇ!?一週間であの厚さはちょっと…」

 

「やれ、命令だ」

 

 やらねば殺す、千冬の目がそう物語っていた。

 

「……はい」

 

 仕方なく了承する一夏。一夏が職員室に同行しようと思ったそのときだった。

 

「その必要はありませんよ、織斑先生」

 

「何?」

 

 千冬を引き留めたのは七瀬だった。そして机から自分の参考書を取り出した。

 

「自分、この参考書全部ノートに纏めきったんで。自分のを織斑にやれば再発行なんてしなくとも済むでしょう。さすれば織斑も早期に覚えられます」

 

「……は?」

 

 一夏の口からそんな言葉が出てきた。

 

「待て、七瀬。あれを全部写したのか!?辞書並みの厚さあったぞアレ!?」

 

「知らんな。俺は早くISを知り尽くしたいんだよ。気づいたら終わっていた」

 

 全ては夢と愛するロボットのため、それだけの理由があれば七瀬は時間など気にしなかった。

 趣味であるプラモを作る時間を削ってまで覚えたのだから。

 

「東、そのノートを見せてみろ」

 

「これです」

 

 七瀬は少し分厚めのノートを千冬に渡した。そして千冬は七瀬のノートを捲り始める。

 

「(この程度のページしかないノートに参考書の全文を纏めきることなど…)」

 

 最初こそそう思う千冬だったが、ページを捲るにつれてこのノートの本質が伝わってくる。

 

「(…そうか、このノートの本質はあくまで自分が覚えやすいように参考書の文を簡略化させたということか。だがそれでありながらも参考書にないことまで記述されている…よくもまぁ、ここまで調べあげたものだ)」

 

 千冬は七瀬が参考書を必要としない理由に納得し、ノートを返そうとした。だがそのとき、あるページが千冬の目に留まった。

 

「東、このページはなんだ?」

 

「・・・織斑先生、それは駄目なページです。公開しないでくださいお願いします」

 

「ほう、そうか」

 

「そう言いつつ、なぜしっかりと開いてクラスメイトの前で見せるんですか俺の周りはドSしかいないんですか」

 

 先の箒といい、分かる筈のない問題を出す山田先生といい、現の千冬といい、どうしてこうも無慈悲なのか。

 七瀬の頼みも虚しく、千冬によって七瀬のノートがクラスメイトに公開される。

 

「東、このページの説明をしろ」

 

「……はぁ。分かりました」

 

 七瀬は座ったままノートの解説を始めることにした。

 

「では、このISの絵の脚に書かれている部分について説明してもらおうか」

 

「それは私が考えた武器のひとつ、脚部アサルトナイフです。相手を蹴りあげる、蹴り下ろすの動作の他に簡単な程度の装甲であれば切り裂くことができる武器です」

 

「ではこの背中から出てきている腕のようなものはなんだ?」

 

「背部サブアームですね。バススロットに入りきらない武器をマウントすることができます。ゆくゆくはISのヘッドユニットと連携させて操縦者の意思だけで射撃や打撃を行ってくれるサブアームも開発したいですね」

 

「……この腰についているものは?」

 

「腰部プラズマキャノンです。砲台が大きいわりに連射ができないという欠点がある上、機体そのものの重量も上がるのであまり実用的ではありませんが威力は折り紙つきです。現代のすばらしいISの技術を持ってすればすぐに完成させられるでしょう。もちろん、そんな技術は自分にはないのでどこからか奪うしかありませんが」

 

「……」

 

 千冬はノートを読み進めていく。

 そんな千冬に懐かしい記憶が甦る。大人になっていくに連れて忘れていた記憶。

 

「(そういえばアイツも東と同じように夢を語っていた頃があったな)」

 

 違う形とはいえ夢を叶えた幼馴染みを思い出す千冬。

 そんな幼馴染みの面影を先にある夢を語る七瀬に重ねる。

 

「あー…そろそろ返してもらってもいいですか?」

 

「あぁ」

 

 千冬は七瀬にノートを返した。

 

「何故こんなものを作る?知らんのかもしれんが、今までこんなものをISに搭載させた例など聞いたことがないぞ」

 

「何を言いますか。人類の発展というのはいつもはじめの一人がいたから成り立つんですよ。ないから作るんです」

 

 七瀬がノートに書いた案はほとんどがロボットアニメなどから得た知識を集め、彼好みのデザインにしたもので今までのISの常識とはかけ離れていた。

 

「お前は何者だ?」

 

「は…?」

 

 千冬は常識を外れた知識を持ち込んだ、そして天才と呼ばれる幼馴染みに似た面影を持つ七瀬に問う。

 だが七瀬は千冬が思っているような特別な人間ではない。七瀬の答えは決まっていた。

 

「何者って言われましてもねぇ…自分はただの凡人ですよ。ロボットへの愛の強さ以外は、どこにでもいて誰でも代用が利いてしまう量産型の人間です」

 

「(束とは正反対を名乗るか。だが、コイツの夢への向き合い方はまるで束の生き写しだ…)」

 

 こうしてこの日、世界最強である織斑 千冬は目の前にいる東 七瀬という凡人を知ることとなった。

 

***************************

 

 

 

 

「織斑、お前が初めて乗ったISはなんだったんだ?」

 

「確か日本の量産機だったから『打鉄(うちがね)』でいいんだっけ?」

 

「打鉄…うっ、頭が……」

 

 雑談に華を咲かせる野郎二人。一夏が乗った機体でもあり七瀬を襲った機体でもある打鉄は七瀬にとってある種のトラウマとなっていた。

 

「七瀬は確か『ラファール・リヴァイヴ』だよな?ニュースで見たけど凄い状態になってたけど…」

 

「あぁ。確かに自分でもやり過ぎたとは思っているが。そういや元気にしてるだろうか、アイツは…」

 

 七瀬は本音との会話の話題にも上がったラファールのことを思い出す。

 七瀬はあのままラファールを頂戴しつつ、自分の機体にしようとしたのだが、救護に駆けつけた企業の人間に機体から離されてしまったために以降の機体の行方は分からないままなのだ。

 

「でもカッコいい壊れかたしてたよな。命をかけて何かを成し遂げた、みたいな感じで」

 

「おぉ、あの大破した機体の美しさが分かるか織斑よ。露出したフレーム、そして敵に斬り付けられた傷痕。あれこそが全てのロボットが一度はたどり着くべき姿だと思っている!」

 

『ちょっとよろしくて?』

 

「実物を見てみたみたかったな…俺の家、あの事件が起きた場所の近くにあるんだけど入学のドタバタで忙しかったからさ…」

 

「そうか…それは残念だ」

 

『んんっ!ちょっとよろしくて?』

 

「ていうかあの場所の近くということは、思ったよりも俺の家と近いんだな…そんなにも近くに自分と同じ境遇の男がいたとは…」

 

「そうなのか!?じゃあ五反田食堂って行ったことあるか?俺のオススメの定食屋なんだけど」

 

「あぁ。かなり頻繁に行っていたぞ。あそこの野菜炒め定食は俺の好みの味でな。だが、あのクソ甘いかぼちゃの煮付けはレシピを考え直して貰いたいものだ。料理をあまりやらん俺が言えることじゃあないがな」

 

「厳さんに言っても駄目だから弾にも相談したけど、昔から食べているからかあれが普通じゃないのかと言われる始末だしな。よし、今度一緒に厳さんに抗議に行こう!」

 

「店主だけじゃなく弾まで知ってるのかよ…マジでなんで今までお前と関わりが無かったのか不思議なんだが…」

 

 七瀬と一夏が通いつめる五反田食堂。

 そこの店主が五反田厳(ごたんだ げん)であり、その跡取りの息子が五反田 弾(ごたんだ だん)、偶然にも二人の友人である。

 七瀬は中学3年のころの人間関係の問題などで何度か店主の厳に相談に乗って貰ったことがあった。

 弾とは厳と関わっていくうちに会う機会も増え、気がつけば腐れ縁になっていたのだ。だがそれはさておくとしよう。

 

 …そろそろ彼女にも触れなくてはならない。

 

「あ~、ちょっとよろしくて?」

 

「ん?七瀬、何か言った?」

 

「さっきから聞こえるノイズのような音のことなら俺ではないが」

 

「わたくしは機械ではありません!!」

 

 もはやわざとやっているのではと思うレベルのスルー。

 七瀬はISと自分の知り合いの話に入り込みすぎたために彼女の声など雑音程度にしか聞こえなかったようである。

 

「貴方たちは…!わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですのよ?それ相応の態度があるのではなくて?」

 

「ほう、それは失礼した」

 

「えぇ、気分を損ねましたわ。謝罪の言葉が欲しいものです」

 

「了解した」

 

「お、おい七瀬…謝る必要なんて…」

 

 一夏が止めるが七瀬は目の前の高飛車少女の前に出る。そして『彼なりの』謝罪を述べる。

 

「申し訳なかった。本当にもうめちゃくちゃ反省しているから許せ」

 

「馬鹿にしていますの!?」

 

「そんなことはねぇよ用が済んだなら席に戻りやがれ、です」

 

「ですを付ければいいというわけではありませんわ!!」

 

「なんと…敬語を知らないとは。です、ます、は基本だぞ?」

 

「そんなむちゃくちゃな敬語を使う貴方に基本を語られたくありませんわ!」

 

「そうか…つまり基本を知らない君はむちゃくちゃな敬語を使う俺よりも敬語を知らないということか…」

 

「なんですって!?」

 

 顔を真っ赤にして凄い剣幕で叫ぶ少女。

 初登場ですぐさまネタキャラとしての枠を手に入れた彼女は初めてのツッコミで体力を削られたのか息を切らしていた。

 七瀬の高飛車な相手への有効策、『相手をネタキャラに仕立てあげて体力減らしちゃおう作戦(仮)』が効いているようだ。

 

「と、ところで君は?」

 

 体力を吸われ尽くした彼女を哀れんだのか、一夏が救いの手を差し出した。

 話を反らされたことで威厳を取り戻したのか彼女は二人の前に立ち、腰に両手を当てて声をあげた。

 

「わたくしはセシリア・オルコット。このIS学園で行われた入試の主席にしてイギリスの代表候補生ですわ!」

 

 ドーン、という擬音が似合いそうなほどに自信に溢れた自己紹介。

 だが先ほどの一件のせいでそれさえもネタにしかならないといことを彼女は知らない。

 

「なぁ、質問してもいいか?」

 

「ふん、下々の者の要求に答えるのも貴族の勤めですわ。よろしくてよ」

 

「ほー、それは頼もしい」

 

「貴方は少し黙っていなさい!!」

 

 七瀬に対して叫ぶセシリア。だが彼女の体力が削るのはこれだけではなかった。

 

「代表候補生って何だ?」

 

「なぁっ…!?」

 

 セシリアはそんなすっとんきょうな声を上げる。

 彼女の持つ特権の意味を一夏は知らなかったのだ。

 つまり、一夏にとってセシリアはただの少女と変わらない扱いなのである。

 先ほどから続く自分への酷い扱われようにセシリアは額を押さえた。

 

「信じられませんわ……日本の男子というのはこれほど知識に乏しいものなんですの…?いいでしょう、教えて差し上げますわ。代表候補生というのは───」

 

「そのまんまの意味さ。国家代表のIS操縦者、その候補のことだ。つまるところ、彼女はエリートだと言いたいらしい」

 

「………」

 

「そうなのか。てっきりもう少し捻りのある意味なのかと…」

 

 七瀬に説明され納得する一夏。

 台詞を奪われたセシリアは言葉を失っていた。

 しかし、彼女は諦めなかった。

 

「そう!エリートなのですわ!」

 

 空元気もいいところである。

 

「本来なら私のようなエリートとクラスを共にできるだけでも奇跡、いえ、ミラクルですのよ?その現実を理解していただける?」

 

「おぉ…ついに言動までおかしくなり始めやがった…」

 

 奇跡もミラクルも同じ意味であるのにわざわざ繰り返して言う必要があったのだろうか、それが野郎二人の内心だった。

 

「そうか、それは光栄だ」

 

「嬉しい限りだ。これから先、代表候補生の『IS』を見られるチャンスがあるなんて」

 

「貴方たちは二人揃って馬鹿にしていますの!?」

 

すでにセシリアのプライドはズタズタだった。

 

「といっても、俺たちは具体的に君の凄さが分からないんだよ。国家代表っていっても俺たち素人じゃどれだけ狭い門か分からないし」

 

「でしたら、入試で主席といえばどれだけ大変なことか分かりますわね?貴方も受けたでしょう?」

 

「あぁ、ISを動かして戦うやつか?」

 

「えぇ、本来ならどれだけ教官のエネルギーを削れたかで順位が決まる入試ですが私は唯一教官を倒したんですのよ!」

 

「え?俺も倒したぞ。教官」

 

「……は?」

 

 さらっと答える一夏。これがまたしてもセシリアのプライドを削っていく。

 

「倒したっていうより、勝手に突っ込んできたのを回避したら壁にぶつかって動かなくなったんだけどな。七瀬はどうだったんだ?」

 

「二人に比べては情けない話だが、俺は勝てなかった。やはり学園の教官には及ばないさ。しかしエネルギーを削った数値だけでいえば俺は次席だったらしい」

 

「なんですって……」

 

 そんな二人の前でわなわなと震えるセシリア。よほど驚きだったのか空いた口が塞がっていない。

 

「貴方も教官を倒したというんですの!?わたしだけだと聞いておりましたのに!」

 

「女子ではってオチだ」

 

 七瀬の一言で静まるセシリア。騒いだり静まったり色々と忙しい少女である。

 

「だが教官を倒したというのは確かに凄いものだな…流石は代表候補生ということか」

 

「えぇ、そうでしょう!もっと誉め称えてもいいんですのよ!」

 

「お、おう……」

 

 それ以上七瀬は言わなかった。下手に誉めてもまたセシリアのプライドを削るだけだと理解したからだ。

 

 そして神の助けか、休み時間が終了したことを知らせるチャイムが響いた。

 

「君も座った方がいいんじゃないか?千冬姉の出席簿を喰らいたくないなら」

 

「え、えぇ………」

 

 なんか納得しない、そういった表情でセシリアは自分の席に戻っていった。

 

「(嵐のような娘だったな……)」

 

七瀬は心の底からそう思った。

 

「全員席に着いているな?授業を始めるぞ」

 

 タイミングを測ったかのように千冬が教室に入ってきた。一夏の一言がなければセシリアは出席簿を喰らっていただろう。

 

「この時間は再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表を決める。因みにこれに出た生徒はクラス長を兼任することになる」

 

「(なんだその苦痛しかないシステムは)」

 

 クラス対抗戦に出るだけでも辛いのに委員会の出席や会議に出るという面倒な仕事まで付いてくる。クラス長という名前ではなく人柱という名前に改名した方がよいのではないだろうか。

 

「自薦他薦は問わん。誰かいないか?」

 

「そんな役を自薦する奴などいないのでは…」

 

「東、貴様にしてもいいんだが?」

 

「やめてください」

 

 小声で言っても聞こえる千冬の地獄耳に恐怖しながら縮こまる七瀬。やはり世界最強は伊達ではない。

 

『私は織斑君を推薦します!』

 

『私も!』

 

「えっ!?ちょっと待ってくれ!!」

 

 一夏を推薦する女子たち。

 一夏にとってはいい迷惑なのだが女子たちに悪気はない。この学園では珍しい男子を持ち上げようとしているだけなのだから。

 

「だったら俺は七瀬を推薦する!七瀬だったら俺よりもISの知識あるし、なんだかんだ言ってしっかりしてる!」

 

「お前はなんてことをしてくれたんだ」

 

 空気として溶け込もうとしていた七瀬だが自分と同じ境遇である一夏がそれを許してはくれなかったらしい。

 

「安心しろ東」

 

「はい?」

 

「織斑もそうだが、お前のことは端から候補に入れている」

 

「俺たちの意思は何処へ?」

 

 千冬からの無慈悲な通告に涙する七瀬。やはりこの学園は男子に対して厳しい。

 

『やっぱり織斑君がいいよ。ここで持ち上げておけば文化祭とかの収入面でも私たちが優勢にたてるし!なによりこれを機に近づけるし…』

 

『でも優勝商品の学食のデザート1ヶ月分無料券を狙うなら東君がいいよ。ISのことよく知ってるみたいだったし!』

 

「俺たちは広告塔かよ…」

 

 女子たちの計画を聞いた一夏は額を押さえながら言う。

 

「お前はまだいい。俺なんか商品目当てだぞ?

 負けたら一体どんな目に遭わされるか…」

 

 お前は一体何があったんだ。そう思う一夏。

 しかしそんな中、再び嵐が吹き始める。

 

「納得がいきませんわ!」

 

 一人の少女が叫びをあげた。

 

「納得がいかない、とはどういうことだ?オルコット」

 

「男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!一人は無知無能、もう一人は論外。こんな二人にクラスを任せるだなんて出来ませんわ!」

 

「……ほう?」

 

「(なんかオルコットが織斑のことを無知って言った瞬間だけ先生の目付きがヤバかったんだが)」

 

 生徒と教師とはいえやはり弟のことは大事なのだろう。

 七瀬はそう思った。

 

「(…いや、これはチャンスだ。代表をオルコットに押し付ければ俺は代表を降りられる!そうと決まれば…)」

 

「いやはや、やはりこういったことは代表候補(笑)たるオルコットに任せるのが一番だろう。俺たち凡人とは違ってエリート(笑)だからな。そうだろう、織斑?」

 

「えっ?…あ、あぁ!そうだな!さすがに俺たちにはまだ荷が重いっていうか、なんというか……」

 

 七瀬の考えを察したのか一夏は話を合わせる。

 そのとき、二人に女子たちからの視線が向けられる。

 

『ヘタレ……』

 

 確かに彼女たちの目がそう語っていた。

 

「男なんて皆このようなものですわ!知識に乏しく、その弱さから女に頭を下げる。大体、文化としても後進的なこの国にいるだけでも私にとっては耐え難い苦痛なんです!その上で男よりも下の立場になるなんて屈辱を一年間も味わえというのですか!?」

 

「(何やらおかしな方向に話が進んでいるぞ…)」

 

「……そこまで言わなくてもいいだろ」

 

 セシリアが一人語る中、一夏が口を開いた。

 

「確かに俺たちは君みたいに特別な訓練を受けたわけでも狭い門をくぐり抜けてきたわけじゃないさ。けど、だからって俺たちだけじゃなくて男の全てを否定するのは違うんじゃないのか?」

 

「事実を述べたまでですわ。今まで沢山の男を見て参りましたが結局は女にすがり、自分だけではなにもできない者ばかりでした。それとも…貴方は自分は違うと仰いますの?」

 

「…あぁ」

 

「いいでしょう。なら、決闘ですわ。クラスの皆さんの前でどちらが上に立つに相応しいか教えてあげますわ」

 

「ハンデはどれくらいつける?」

 

「・・・あらあら、あれだけ大口を叩いておいて早速命乞いかしら?」

 

「逆だ。俺がハンデをつけなくていいのかって話だ」

 

 一夏がそう言うとクラスからドッと爆笑が起こった。

 

『織斑君、それ本気で言ってるの?』

 

『男が女より強かったのってもう昔の話だよ?』

 

「むしろ私がハンデを付けなくていいのか悩む立場ですわ。男と女が戦争したら3日持たないといわれているのは知らなくて?」

 

「うぅっ……そうだった…」

 

 現在は女尊男卑の世界。最強の兵器であるISを動かせる女の方が強いとなるのは必然的であった。

 だが、そんな爆笑の中で何も言い返せない一夏を見ていられなくなったのか七瀬はこんなことを言っていた。

 

「何を馬鹿なことを」

 

 それを聞いたクラスは静まった。セシリアが言ったことは事実。それに反論などできるはずがないのに口を開いた七瀬に全員が驚いていた。

 

「東、それはどういう意味だ?」

 

 千冬が尋ねた。

 

「では順に説明しましょう。女はISを使えるから強い、という意見ですがそれは我々というイレギュラーが出たことで変わる可能性があるはずです。もしかしたら他にも男性操縦者がいるかもしれませんよ?つまり既にISは女性だけのものではなくなりつつあります」

 

「ほう?」

 

「そしてもうひとつ。男と女が戦争したら3日持たないという言動についてです。現状、世界の軍の8割を占めているのは男性です。つまり男性の判断だけで兵器を総動員することも可能ということになる」

 

「ですが所詮は旧世代の兵器。女にはISがありましてよ?」

 

「ISは最強と言われる由縁はシールドエネルギー。だがエネルギーが切れた状態で爆弾なんか落とされてみろ。いくらISといえど耐えられまい。それにさっきも言ったはず。既にISは女性だけのものじゃない、と」

 

 七瀬はセシリアの瞳を見て言う。今まで真っ直ぐに見もしなかった彼女を。当然真剣になった七瀬に怯むセシリア。

 

「第一、男と女で戦争なんてすれば人間は生きる道を失う。男と女が手を取り合わなければ次世代に繋ぐことはできないのだから」

 

 それだけ言うと七瀬はセシリアから目を反らした。

 

「…東、お前の言っていることは恐らく正しい。だが、この歪んだ世界に対してお前はその事実をどうやって証明する?」

 

 千冬は七瀬に問う。

 対し、七瀬は普段光のない目を輝かせながらこう言った。

 

「ロボットによるドンパチに決まってます!!」

 

「ろ、ロボット…?ISのことか?」

 

 一夏が疑問を投げ掛けた。ISは確かに機械だがロボットと呼ぶものはいなかったのだから疑問に思うのは当然だ。

 

 だが、七瀬の答えはいつも同じだ。

 

「あぁ、そうだ。そして───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の夢だ」

 

 戦いの幕、それが今、切って落とされた。




次回は七瀬君、初めてのIS改造です。本音ちゃんには頑張ってもらいますよ。
山田先生と本音ちゃんはこの小説での最大の苦労人です…

今回もありがとうございました。
ロボットに対する熱い愛を込めた感想、是非ともお待ちしております!
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