ゼロから始める『ぼくのさいきょうのIS』作り   作:星震

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お待たせしました。代表候補生回です。

新たに高評価を下さった奏羅さん、妙唱さんありがとうございます!


魔改造

「織斑、お前の機体だが準備まで時間がかかる」

 

「俺の機体?」

 

セシリアの宣戦布告から数日が過ぎたある日、一夏の元にそんな知らせが届いた。

 

「なにしろ、突然の決闘で予備の機体がない。お前には男性操縦者としてのデータ収集を兼ねて学園が専用機を用意するそうだ」

 

一夏がわけも分からずポカンとしていると周りがざわめいた。

 

『専用機!?1年のこの時期に?』

 

『つまりそれって政府からの支援が出るってことよね?』

 

「なぁ、七瀬。専用機があるってそんなに凄いことなのか?」

 

「あぁ。ISは世界で467機しかないだろう?この世にいる人間は約60億人超。つまり運だけで言ったとしても60億分の467の確率でしか手に入らないわけだ。そもそも、専用機というものは国家か企業に所属してるものにしか与えられない。世界で467機しかないISはひとつひとつが貴重だからな」

 

「それだけの力を認められないと手に入らないんだな…そんなもの、俺が貰っていいのか?」

 

一夏は千冬に視線を向ける。

 

「なに、政府が勝手に用意したものだ。気にすることはない。それにお前はIS適正値がAだ。鍛練を怠らなければ使いこなせないことはないだろう」

 

勝手に、という部分に皮肉を込めて言う千冬。

それもその筈である。一夏に専用機が用意されたもうひとつの理由は一夏が千冬の弟なら良いデータが取れるだろうという思惑があったのだ。一夏をモルモットのように扱う政府を千冬はあまりよく思っていなかったのである。

 

「何を躊躇うことがある織斑。ここは大いに誇るべきだ」

 

「どういうことだ?」

 

「四六時中、自分の愛機と共に居られる、そして好きなときに自分の好きなように愛機を改造できる。これを喜ばずしてなんとする!」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「それに自分が力不足に思うなら鍛えればいいだけだ。力を手に入れるのとそれを持つ資格を手に入れる順番が逆になった、それだけのことだ」

 

「……そうか。なら俺はその機体に認めて貰えるよう頑張らなきゃな」

 

一夏はそう自分に言い聞かせるのだった。

そんな中、一人の生徒が口を開いた。

 

『あの、先生』

 

「なんだ?」

 

『織斑君に専用機が出るということは東君にも専用機が出るんですか?』

 

男性操縦者のデータを取るなら同じ男である七瀬も例外ではないはずだ。質問した彼女はそう考えたのだろう。

質問に対して千冬は淡々と答えた。

 

「いや、政府からの報告は受けていない。だが、東が望めば喜んで最新鋭の機体を手配してくるだろう。…東、要請をするか?」

 

「そうですか!!それは素晴らしい!では───」

 

七瀬は千冬の質問にいつもは暗い目付きの瞳を輝かせて言った。

そしてすぐにその質問に対する返答を出した。

 

「断固辞退させていただきます」

 

一夏のときとは違う理由で再び教室がざわめく。

一生に一度、もしくは二度と巡ってこないチャンスを七瀬は自分から投げ捨てる道を選んだのだから当然だ。

 

「あ、東君!?いいんですか!?専用機ですよ?これはまたとないチャンスなんですよ?」

 

山田先生が七瀬に言う。専用機が貰えるということがどれだけ希少なことか七瀬は分かっている。だが、それでも答えは変わらなかった。

 

「それでも、自分は辞退させていただきます」

 

「理由を聞こうか」

 

千冬は七瀬にもう一度問う。先程、一夏に散々専用機の素晴らしさを語っておきながら、いざ誘いが来たとなれば断るなど矛盾しているにも程があるからだ。

 

「自分の最終目的は理想のISを1から作ることにあります。それをこのような偶然訪れた機会に潰されては堪りません」

 

「ならば、先程言っていたとおり、受託した機体を自分好みに改造していけばいい筈だが?その方がお前の夢にも早く近づけるだろう」

 

「違いますよ、織斑先生。早く理想に近づくなら近道を探すのではなく、その過程を楽しみながら一歩を進むことですよ」

 

「ほう?」

 

「それに、最初から最新鋭の、最強の機体を貰って採点基準をぶちあげても面白くない。いくつもの試作品を重ねて強い機体にしていかなければ自分のロボット愛に反します。……と、以上が自分がこの件を辞退させていただく理由にございます」

 

七瀬が言い終えると教室は静かになる。七瀬の選択は彼女たちからすれば信じられない選択だったのだ。

国家から専用機がでるということは将来が約束されるのと同じ意味である。だが七瀬はそれを夢があるからという理由だけで捨てたのだ。

クラスメイトたちからすれば七瀬の選択は一時の感情に身を任せ、人生を棒に振るような行為だったのである。

 

「いいだろう、辞退を許そう。試すような真似をしてすまなかった」

 

再びざわつきだしたクラスメイトたちとは対照的に、千冬はそれだけ言うと授業を開始するのだった。

 

**************************

 

 

 

「織斑先生、東君の選択を分かっていて…?」

 

「あんなノートを見せられたら嫌でも分かる。ヤツは本気でISを0から作り上げるつもりだ」

 

「・・・織斑君に訓練機の残存機体がないって言っていたのも東君に貸すのを予定していたからなんですか…?」

 

「あぁ、そうだ」

 

放課後、職員室にて千冬は山田先生が入れたコーヒーを飲みながら言う。

あのとき見た七瀬のノートの夢のページは細かく、まさにさっき七瀬が言っていた『ロボットへの愛』に溢れているということが千冬にも分かった。それでありながらシステムや構造に関してはしっかりと現実的に書かれていた。

そしてそれこそが七瀬の言動が伊達や酔狂でないことを物語っていた。

 

「このくらいで夢を諦めてはくれない、か」

 

「東君の夢が実現したらどうなるんでしょうか…?」

 

「大騒動になることは間違いない。篠ノ之束以外で今までISを1から作り上げた個人など一人もいないのだから」

 

「それでも、私は東君の夢を応援したいと思います。教師として」

 

「そうか…」

 

「・・・ですが、東君の夢を応援するということは大騒動の共犯者になるようなものです。だとすると、私は間違ったことをしているのでしょうか…?」

 

「・・・少なくとも、生徒の夢を応援するということは教師として間違っていないと私は思いたい」

 

そう言うと千冬は残っていたコーヒーを飲み干した。

器を乗せていた皿と陶器でできたカップがカチャンと甲高い音を立てる。

 

「ですが、それは決して簡単なことではない。少なくとも今年一年はお互い苦労することになりますよ、山田先生」

 

そう言うと千冬は大量の資料を机に置いた。異例の入学を果たした一夏と七瀬に関連する書類である。

 

「史上最大の問題児の誕生かもしれませんね……」

 

山田先生はそう確信したのだった。

 

************************

 

 

 

「あの~、あずさん?」

 

「ん?どうかしたのか?布仏」

 

IS学園整備室。そこに七瀬と本音の二人はいた。

 

「いくらなんでもここにある資材だけでこの仕様は無理だと思うんだよ~」

 

七瀬の渡した機体の設計図を見て本音は悲鳴を上げた。

 

「駄目か。せめて訓練機にラファールがあれば幾分かマシに戦えるんだがなぁ…」

 

「ここにある機体を好きに使っていいって許されただけでも奇跡だよ~」

 

初心者である七瀬はISの操縦技術に問題がある。量産型の中でも七瀬の目の前にある機体よりも機動力がいいラファールの方が扱いやすいのだが現実はそう甘くなかった。

 

「しかし…機体が『打鉄』しかない上に、新学期が始まったばかりなために資材も届かないとは…」

 

状況は最悪だった。セシリアとの決戦に備えて機体を用意し始めた七瀬と本音だったが最初から手詰まってしまった。

 

「このままだと、下手したら無改造のままでオルコットの最新鋭機と戦うことになる。実力差だけでもでかいのに流石に機体も月とすっぽんの違いじゃあ話にならないな…」

 

七瀬と本音の目の前にある機体、『打鉄』は日本の量産型ISであり、その武士のような姿と優れた防御力が特徴的な機体だ。

七瀬が出した開発案はその防御力を生かしつつ、遠距離射撃型の機体にすることだった。だが、不幸なことにそれを完成させるための資材がないのだ。技術は本音が手伝ってくれるとのことだったので今回の改造ついでに習うつもりだったのだが、材料がなければ改造はできない。

 

「ちなみにその少ない資材は何があったんだ?」

 

「今は使われなくなった補助筋肉と劣化した装甲、あと武器はいっぱい余ってたよ~」

 

「機体の改造には劣化した装甲くらいしか使えなそうだな…はぁ~………」

 

七瀬はいよいよ打つ手が思い浮かばなくなり、その場に仰向けになって倒れた。すると、たまたま棚の上に片付けてあった補助筋肉が目に留まった。

 

「布仏、何故に補助筋肉はISのパーツの中でもこんなにも余るんだ?」

 

「昔は大型の機体の重量を支えるために多く使われてたみたいだけど今の機体は細身で高機動な機体が主流になったから必要なくなったんだって~。お姉ちゃんが言ってたよ~」

 

「なんと、君に姉がいたのか……」

 

七瀬は補助筋肉の仕様用途よりもそっちに驚いた。

 

「(布仏の姉か…そこまでISのことについて知っているということは整備士志望なのか…?)」

 

IS学園にはいくつかの科がある。IS操縦者を目指す者が入る操縦科、ISの開発企業に入社を目指す者たちが入る整備科などと、この学園でのISとの関わり方は十人十色なのである。

 

「補助筋肉は確かまだISが地面に足を着いていた時代に装甲の重さに耐えながら動けるようにサポートしてくれる、昔はISに絶対必要なパーツだったんだよ~。現代のISは空を自由に飛行できる機体が多くなったからあまり使われる量も減ったんだよ~」

 

「減った…?ということは現行稼働しているISにも使われているのか?」

 

「数はすごく少ないけどね。非固定浮遊部位がある第三世代の機体は武装の重量による負担がないから使われなくなったけどね~」

 

「なるほど。武装が重くて機体にかかる負担が大きいなら武装自体を浮かせてしまえ、ということか。

 確かにそれなら補助筋肉を使わなくとも行動ができるな。

 それに浮遊し続けることが前提ならば地面に足をつけることなどまずないから筋肉なぞいらんわけだ」

 

非固定浮遊部位。ISに取り付けられている浮遊装置『PIC』の技術を本来機体に取り付けられている筈の部位に使うことで武装自体を浮遊させ、機体を操る操縦者の筋肉への負担を減らすための技術だ。先に七瀬が申したとおり、武装が重いなら武装自体を浮かせればいいという考えのもと完成した第三世代技術である。これにより、第三世代機には操縦者への機体重量による負担を減らす補助筋肉を付ける必要がなくなったのである。

 

「ならば、第三世代の機体はPICが稼働を停止したら機体の重量に押し潰されて動けないということになるのか…ならばそこを突けるな」

 

「けどPICが稼働を停止するなんて聞いたことないよ~?何か作戦はあるの~?」

 

策を講じた七瀬に今度は本音が質問する。

 

「質問に対して問題で返すようで悪いが、布仏、現代においてISとはなんだと思う?」

 

「んん?スポーツだよね…?」

 

「そうだ。世間からするISはあくまでスポーツだ。

 ならばその域を越えた戦いは想定していない…いや、できない筈だ。

 さもなくばただの兵器になりかねないからな。勿論、コイツも同様だ」

 

七瀬は目の前のIS、『打鉄』を見てそう言った。

 

「うわ~、あずさん悪い顔してる~」

 

「産まれ落ちてからこんな顔だ」

 

「確かにそうかも~」

 

「で、今後の改造計画なんだが……」

 

七瀬は無理やり話を変えた。これ以上は自分にとって苦しいだけだと理解したためである。

そして黙って一人、何かをノートに書き始めた。

 

「あ、あずさん?これって……?」

 

その内容は驚くべきものだった。本音が見たもの、それはただの骨格といっても過言ではない機体の姿だった。

 

「とりあえず、装甲捨てよう」

 

*************************

 

 

 

『東、聞こえるか?』

 

「えぇ。聞こえてるっすよ」

 

決戦当日、アリーナにて七瀬は千冬からの通信が来たのを確認する。彼の傍らには一夏とその特訓に付き合っていた箒がいた。

 

『どうやら、織斑の機体の搬入が遅れているらしい。先にお前が出撃しろ』

 

「了解っす。自分も早くコイツを動かしたくて仕方なかったもんでしてね」

 

『そうか。ではすぐにカタパルトへ向かえ』

 

「カタパルト!?なんと、学園にはそんなものまであるのか!」

 

『……あまり遅れるなよ』

 

ロボットアニメのお約束の発進シークエンスを学園でも行えることに歓喜する七瀬。そんな七瀬に呆れながら千冬は通信を切るのだった。

 

「よし、行くとするか」

 

「けど七瀬、訓練機でどうやって勝つんだ?訓練機にはフォーマットとフィッティングもない、つまり七瀬の動きに着いて来られないってことなんだろ?」

 

「まぁ、そうなる。だが心配はいらない。俺の動きに合わせて各稼働範囲とスラスターを改造したこの機体ならな」

 

七瀬はハンガーデッキに布を被って鎮座している機体を見て言った。そんな七瀬のISを見て近くにいた箒が何かおかしいことに気がつく。

 

「なんだかこの機体、少し小さすぎないか?」

 

「おぉ、分かるか篠ノ之よ。そうとも、なにせこの機体は──」

 

『あずさ~ん!!』

 

七瀬が機体について語ろうとしたそのときだった。アリーナの管制室から通信で声が響いてきた。

 

「この声……布仏か?」

 

『せっしーが早くしろって言ってるよ~?これ以上は私の手に負えないんだよ~』

 

「それは悪いことをしてしまったな。すぐに出る」

 

七瀬はそう言うと機体に被せてあった布を捨てた。そしてその元の姿を留めていない姿が露となる。

 

「な…なんだこれは!?東、こんな機体でどうするつもりだ!」

 

「なんとかする。時間なのでこれで失敬」

 

「おう、頑張れよ、七瀬!」

 

「ま、待て!私の話を──」

 

箒が止めるが七瀬は機体のハンガーデッキをカタパルトがある方へ移送してしまう。それに乗って七瀬自身もハンガーデッキと一緒に移動してしまった。

 

「自らもハンガーデッキで移送されるなんて何を考えているんだ東は!?」

 

本来、ハンガーデッキとは機体だけをエレベーター式でカタパルトに運ぶものであり、人を運ぶものではない。それに対して箒は驚きを隠せなかった。

 

「けどカッコいいじゃん、アレ。機体を格納しているデッキが自動で動いてカタパルトまで運ばれるなんてさ」

 

「そうなのか…?私に男の趣味は分からん」

 

箒は男の趣味の理解に苦しんでいた。

 

***********************

 

 

 

『あずさ~ん、準備はおっけ~?』

 

「君はさっきからそこで何をしているんだ」

 

何故本音が管制室にいるのか疑問を持つ七瀬。それに対して同じく管制室にいた千冬が答える。

 

『お前の機体の改造に貢献したのは布仏だ。ならば機体の詳細を理解している彼女ならサポーターとして働けるだろう』

 

「ということで~、今日は私がオペレーターを担当しま~す!」

 

「そ、そうか……」

 

実際、本音が機体の改造に貢献したのは千冬が頼んだからであったりする。快く引き受けてくれた本音だったが機体の改造は難航し、ギリギリで完成していたりする。

さらに、本音のお陰で七瀬は少しではあるがISの整備技術や改造技術を習得した。これは七瀬にとってこれ以上ない得であった。

 

「では、行くとするか。織斑先生、カタパルトの用意をお願いします」

 

『了解した。布仏、リニアボルテージの確認を。東は安定域に到達次第、カタパルトに接続を』

 

『こっちはおっけー。あずさん、乗っていいよ~』

 

「分かった」

 

七瀬はハンガーデッキに鎮座していた機体に飛び乗った。しばらく動作状況を確認してから七瀬はカタパルトに乗った。

 

「カタパルトへの接続、完了した。あとはそちらに任せる」

 

『リニアボルテージ上昇。タイミングをあずさんに譲渡しまーす。いつでも発進おっけーだよ~』

 

本音からの発進許可を確認すると七瀬はその改造した機体の名前を告げた。

 

「了解。『打鉄・零』( うちがね・ぜろ)は東 七瀬で出る!!」

 

カタパルトの加速によって七瀬はアリーナへ飛翔した。

………いや、飛び降りたという方が合っているかもしれない。

 

*************************

 

 

 

「遅い!!」

 

「いやぁ、すまなかった。機体の調整が難航してな」

 

勿論嘘である。実際は七瀬がハンガーデッキの移送を楽しんでいたり、カタパルトの発進シークエンスを楽しんでいたりしたのが原因だったりする。

 

「貴方……その機体はなんですの!?」

 

「これが俺の改造した機体、打鉄・零だ!何か文句があるのか?」

 

「大有りですわ!!」

 

セシリアは七瀬に向かって叫ぶ。

 

「そんな、量産型の機体でフレームを露出させているあげく、装甲もほとんどない機体なんて…私を馬鹿にしていますの!?」

 

「馬鹿になどしていない!これが記念すべき正真正銘、俺の改造ISの1号機だ!元が量産機だからって甘く見るなよ!!」

 

「ふざけるのはお顔だけにしてくださいまし!」

 

七瀬の機体は異形だった。一部のフレームは露出しており、他の場所に比べてマッシブとした腕と脚のフレーム。更に打鉄の特徴といっても過言ではない腰と肩のアーマーは外されていた。打鉄本来が持つ侍のようなフォルムは跡形もなく消えており、正に機械だと言わんばかりの姿であった。

しかし、装甲が全く装着されていないその機体は普通のISよりも一回り小さく見えるのが特徴的だった。

 

「一戦目はもう1人の方が相手だと聞いていましたが?」

 

「織斑ならまだ機体の調整が終わっていない。だから俺が来た」

 

「そう。……なら丁度よくてよ」

 

「どういう意味だ?」

 

「あの方をひざまづかせる前に貴方でウォーミングアップさせていただきますわ。貴方もいつまでもわたくしを見上げていないで早く上がってきてはどうですの?」

 

カタパルトで発進してから地上に着地した七瀬に対し、セシリアはそう呼び掛ける。

すると、七瀬はアリーナにいる誰もが予想できなかった返答を告げた。

 

「悪いな、俺の機体、そんな高くまで飛べないんだ。だからここから相手をさせてもらう」

 

「なっ……!!」

 

その七瀬の言葉にアリーナにいた全員が驚愕する。勿論、それは管制室にいる千冬とて例外ではなかった。

試合を見に来た生徒や教師たちがざわめく中、遂にセシリアの堪忍袋の尾が切れた。

 

「貴方はどこまでわたくしを馬鹿にすれば済みますの!?もう容赦致しませんわ!!」

 

「こちとら始めからそのつもりだ!!」

 

セシリアは試合開始の合図を待たずにスターライトMK-Ⅲで射撃する。高出力のレーザーの雨が七瀬に降り注ぐ。

 

「ったく、本当に容赦ねぇな!」

 

七瀬はレーザーの上空から降り注ぐ光の雨を地面を走り抜けて避ける。

その異常な程機敏な動きにセシリアは驚愕する。

 

「ISが地を走っている!?貴方、一体どんな改造をしたんですの!?」

 

ISとは本来、PICの恩恵により、空中を飛行、または浮遊しながら移動するものである。それが走る、ジャンプをするなどといった人間染みた動きをするなど代表候補生徒であるセシリアでさえ見たことがなかった。

 

「敵に教えると思うか?だがこの機体について語りたいから試合が終わったあとでじっくり語ってやる!」

 

七瀬はそう言うとその手に量子変換して拡張領域(バススロット)に収納してあったホーミングミサイルランチャーを展開する。

量子変換とは武装を光の粒子として収納する場合は分解、展開する場合は光の粒子から武器に再構築させることであり、バススロットとはその分解した粒子を保存する、いわば武器の入れ物のことである。

 

「行けよ、ミサイルぅ!!」

 

「そんな小さなランチャーにそれだけのミサイルを!?貴方、本当に無茶苦茶ですわ!」

 

七瀬のランチャーから無数のミサイルがセシリアに向かって飛翔する。

 

「その程度の攻撃がわたくしに通用すると思いまして?お行きなさい、ブルーティアーズ!」

 

セシリアがそう言うと背部のウィングから何か独立飛行する物体が射出された。

 

「さぁ、踊りなさい。わたくしとブルーティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

独立飛行する物体は向かってきたミサイルにレーザーを放つ。独立飛行している物体はビットと呼ばれる兵器だったのだ。

 

「やはり、そいつが一番邪魔になるな。今のを全部撃ち落とすかよ…」

 

七瀬の放ったミサイルは全てビットによって撃ち落とされていた。

 

「貴方、今のミサイルランチャー、普通のものではありませんわね?」

 

「おう、よく分かったな。こいつは山田先生のラファールから借りた教員用の装備だ。丁度整備に出されていたから使用許可なく使えてな。それを改造させて貰った」

 

『な、何を勝手なことをしてくれているんですか!』

 

「先生、整備室にあるものは全部使っていいって仰いましたよね?なら整備中だった先生のラファールも例外ではないはずでは?」

 

『そ、そんなぁ…』

 

涙目の山田先生からの通信に対して七瀬はジャイ◯ン並みに理不尽な理由で返す。

しかしながらこの男、山田先生のラファール自体を改造しようとまで企みかけていたりした。教員専用機とはいえ、初期化は可能。それを利用して山田先生のラファールをNTRしようとしたわけである。

本音が止めていたからよかったものの、本音がいなければ今頃どうなっていたか分かったものではない。

 

「余所見をしている暇がありまして?いきますわ!」

 

「来い、ソリッドバレット!」

 

セシリアはビットを七瀬に向けて射出する。

七瀬はミサイルランチャーを量子変換し、アサルトライフル『ソリッドバレット』を展開する。連続射撃を考慮して設計されているこのライフルは一発の威力は少ないものの、装填できる弾は150発と非常に凶悪な代物である。

……無論、これも山田先生から借りたものだ。

 

「俺のロボット対決法第45条、ビット兵器を持つ相手と戦うときはまずビットからに基づき対処する!」

 

七瀬は向けられたビットに向かってライフルを構える。射撃が開始されたのを確認すると七瀬はレーザーを避けながらライフルを乱射する。

 

「そのような射撃ではブルーティアーズは落とせませんわよ!」

 

「俺は狙い撃つよりも乱れ撃つのさ!」

 

適当に撃っているかのように見えた七瀬だったがその弾はしっかりとビットを捉えていた。4つあったうちの2機が落とされたことによってセシリアも表情の色を変えていた。

 

「ですが、いつまで体力が持つかしら!?」

 

「ぐっ!?流石にフレーム剥き出しだと被害が甚大だな!」

 

七瀬の機体はたった一発レーザーに当たっただけでシールドエネルギーが大きく削られた。更にその部位と連動していたスラスターが大破する。

 

「腰部スラスター大破…こいつはもう使い物にならないな」

 

七瀬は少しでも機体を軽くするために大破したスラスターが装着されている装甲をパージする。

 

「そろそろか。特殊弾を使う」

 

七瀬はビットによる攻撃を避けながらその腕部に取り付けられているミサイルをセシリアに向けて放った。

 

「なっ…!?」

 

セシリアはビットの操作に集中していた中、突然の攻撃に対処が間に合わなかった。

七瀬が放ったミサイルはセシリアに命中し、爆破する。

爆破したミサイルから煙のようなものが吹き出した。

 

「これは…煙幕?笑止ですわ、ISにはハイパーセンサーがありますのよ!」

 

ハイパーセンサー。ISに取り付けられている高感度センサーのことであり、それは如何なる状況下でも相手を見失うことはない。それは七瀬も分かっている筈なのに何故このようなことをするのか、セシリアには分からなかった。

 

「まだまだあるぜ、避けてみせろよ、代表候補生?」

 

七瀬は同じミサイルを放つ。今度は一発ではなく数発のミサイルを。

 

「同じ手は通じませんわよ!」

 

セシリアはビットを収納し、スターライトMK-IIⅠによる、射撃でミサイルを撃ち落とす。すると同じくしてミサイルは煙幕を吹き出す。

 

「……同じ手を食らっているようだが?」

 

「何を言ってますの?貴方のミサイルは私にダメージを与えられませんでしたわよ?」

 

セシリアにとって七瀬の手とは煙幕を噴射してから無数のミサイルで攻撃することだと思っていたようだ。

…だが、七瀬の真の目的は違っていた。

 

「お前、俺がダメージを与えるのが目的だと、本当にそう思っているのか?」

 

「何を言って────」

 

セシリアがそう言おうとしたそのときだった。

自分の機体が何かを表示したのを確認した。

 

「(ブルーティアーズの出力が落ちている…?いえ、それどころか安定値を下回って──)」

 

ガクン。

そんな感覚が自分の機体の異変に気づいたセシリアを襲った。

 

「(え……?)」

 

そしてセシリアは自分が空中から落下していることに気がついた。

セシリアはそのまま成す術なく地面に叩きつけられる。

 

「げほっ…げほっ………」

 

セシリアは脳の処理が追い付かない中、状況を確認しようとした。地面に叩きつけられた衝撃でシールドエネルギーが極端に減っていたことに気がつく。

 

「貴方……一体何をしましたの…!?」

 

「教えると思うか?…と言いたいところだが俺は語りたいから教えてやる」

 

セシリアは目の前の男を恐怖の目で見ていた。さっきまで見下していた男が今はただただ恐怖の対象でしかなかった。

 

「さっきの煙幕は硫黄と硝石、そしてカーボンを粉末状にしたものだ」

 

「どういう……ことですの……」

 

「そして第3世代ISのブースターの仕組みはこうだ。大気中の酸素を入り口から取り込み、爆発のエネルギーから得られる出力を推進力に変換した後、別の出口から排出する」

 

「それがなんだというんですの!?」

 

「まだ分からないか。つまり、お前の機体のブースターは粉末状のカーボンを取り込み燃焼させたことで一時的にではあるが通常では得られない爆発的なエネルギーを得た。その後、得たエネルギーを出口から排出しようとしたが同じく煙幕に入っていた硫黄と硝石が入り込んだことによって出口が塞がり排出に失敗。そのまま得たエネルギーに耐えきれずブースターが爆破というわけだ。空気を入れすぎて風船が破裂したとでもいえば分かりやすいか?」

 

「そんな…馬鹿なことが……」

 

「ある。お前の機体のブースターにはシーリング処置用のフィルターが取り付けられていなかった。BT兵器の試験機だからだろうな。少しでも安く試験して次の機体に金を費やしたかったんだろうな。まぁ、俺としてはこれ以上に煙幕を取り込み易い構造はないから助かったけどな」

 

「そんな方法でわたくしのブルーティアーズを……」

 

セシリアの額を脂汗が滴り落ちる。自分の得意戦術である遠距離戦法が使えなくなったためである。自由に動ける領域がある空ならいざ知れず、動ける領域に制限があるアリーナの地上で戦わなくてはならないとなるとすぐに間合いに入られてしまうからだ。

 

「ですが、まだ私にはPICが──!?」

 

「そういえば、お前の機体はPIC干渉領域がブースターの近くにあったな。さっきの爆破で一緒に壊れちまったか?」

 

ブースターも使えない、その上、浮遊機能であるPICも使えなくなった機体、それは動きの一切が制限されるといっても過言ではなかった。第3世代機の特徴ともいえる非固定浮遊部位は効力を失い、地に墜ちていた。

 

「さ、これで状況は同じ。お互い空を飛べないロボット同士でドンパチしようぜ!!来いよ、『へヴィーアックス』!」

 

「くっ……『インターセプター』!」

 

二人は武器の名前を呼んで武器のイメージを体現する初心者用の方法で武器を展開する。セシリアは近距離の戦いに慣れていないためであるが七瀬は単に『武器の名前呼んで展開した方がカッコいいだろ』、という理由で呼んでいたりする。これが初心者用の方法であることを七瀬は知らないが。

 

「わたくしに近距離用の武器を使わせましたわね…!貴方が初めてですわ!!」

 

「そりゃあおめでとう。近距離でドンパチすることのロマンを知れたんだ。今日は赤飯だな」

 

「初見の相手にわたくしがこうまで押されるなんて!!」

 

セシリアは近距離用ブレード『インターセプター』で、七瀬は近距離用アックス『へヴィーアックス』で応戦する。二人の激しくぶつかり合う武器からは火花が散る。

 

「地に足を着いての戦いは初めてか?本来の自分の機体の重さとパワーを直に感じ、相手と武器をぶつけ合う。どうだ?最高だろう?」

 

「くっ…!!ブルーティアーズがこんなにも重いなんて!」

 

セシリアは地上に足を着いての戦いに慣れていなかった。普段は自由に空を舞いながら戦うブルーティアーズ。だが今だけは翼を折られた鳥のように無力であった。

 

「いいじゃないか。機体の欠点を見つけられたんだ。それはすなわち、改善の余地があるということだ!!」

 

「改善の余地…?私のブルーティアーズに…?」

 

「おうさ、その機体は試作機なんだろう?ならばそれを完成品にするのは国でも企業でもない。その機体の相棒であるお前の仕事だ!!」

 

七瀬はそう言うとセシリアの『インターセプター』を払いのけ、アックスでブルーティアーズの装甲に亀裂を入れる。

 

「まだ倒れてくれないか…流石だ。代表候補生──いや、セシリア・オルコット!!」

 

「……いいでしょう、好敵手と認めましょう東 七瀬!!ですが、だからこそ負けられませんわ!」

 

「ぐっ……!!」

 

セシリアも負けじと『インターセプター』をレイピアのように持ち、七瀬に連続刺突を繰り出す。七瀬は左腕でその刺突を防ぐが左腕の装甲を破壊されてしまう。

 

だが、お互いピンチである筈だというのにその表情は笑っていた。

 

「くそっ!やはり一撃のダメージが大きい…!!」

 

七瀬は一度距離を取る。だが、それはセシリアの布石であった。

 

「掛かりましたわね!!」

 

「しまった!!」

 

セシリアはインターセプターを量子変換させて収納し、七瀬にレーザーライフル、『スターライトMK-Ⅲ』を構えていた。

連射ではなく、その一撃に全てを賭けたような高出力のレーザー。それが七瀬に向かって直進していく。

次の瞬間、七瀬は爆発に呑み込まれた。

 

「これで…!」

 

セシリアは勝利を確信していた。量産型の機体で尚且つあれだけ装甲を削った機体が今の正確で高威力な一撃に耐えられる筈がないと思っていたから。

だが、セシリアは七瀬が言っていたことを思い出す。

 

量産機だからといって甘く見てはいけないと。

 

「ところがぎっちょん!!」

 

「!?」

 

七瀬が爆炎の中からその姿を現す。

フレームは溶解し、立っているのさえやっとの状態の機体。それがセシリアに急接近していた。

 

「(ですが、あの一撃をどうやって…!?)」

 

セシリアは七瀬のISを見てそれに気がついた。

 

「(機体が最適化(フォーマット)されている…!?そんな…学園の訓練機ですのよ!?)」

 

最適化(フォーマット)。それはISが操縦者に合わせて形を変えることである。専用機では初期設定として行われるのが当たり前のことなのだが、学園の訓練機は違う。改造やカスタマイズをすることはできるが、誰もが使えるように最適化のプログラムはされていないのだ。

 

「(まさか、機体が東さんを主と認めたというんですの!?)」

 

いつぞやの山田先生の授業を思い出す。

 

『ISは機械ではなく、パートナーとして認識してくださいね』

 

意思のあるISが操縦者である七瀬の機体への愛に応えることは必然的だったのだ。今、『打鉄・零』は全ての意味において七瀬のパートナーとなったのである。

 

「どこまで常識外れなんですの、貴方は!」

 

セシリアは笑っていた。自分が見下していた男がこんなにも自分の心を楽しませるなど、思ってもいなかったのだから。

 

「貰った!!」

 

七瀬はセシリアの間合いを取っていた。七瀬が溶解しかけた『へヴィーアックス』を振り回そうとしたときだった。

セシリアの腰部装甲から自分に何かが向けられた。

それは七瀬がもう警戒していなかったものだった。

 

「ブルーティアーズは…6機ありましてよ!!」

 

腰に備え付けられていたミサイルビットが七瀬にその銃口を向ける。

 

「ここまで分かっていたとは…流石だな」

 

ビットから放たれたミサイルが七瀬を襲う。

すでに大破寸前だった機体にその攻撃を耐えるだけのエネルギーは残っていなかった。

 

爆発の音と共に試合終了のアナウンスがアリーナに響いた。

 

『試合終了、勝者、セシリア・オルコット!!』

 

しばらくの間、アリーナは二人の健闘を称える拍手と歓声で満ちていた。

 

 

 

 

 

 




次回は零の機体解説と少しストーリー進めます。あと新キャラ。一夏にも仕事させないと不味いですねぇ…

今回もありがとうございました!
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