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決闘から一夜が明けた。七瀬は朝、目を覚ますと昨日ISを動かしすぎたせいであろう、体中の筋肉が悲鳴をあげていた。
されどいつも通り東七瀬の朝は早い。
「はぁ、はぁ……たった5キロ追加しただけでここまで辛いとは...」
七瀬はいつも通り、朝のランニングに励んでいた。その息はいつも以上に上がっていた。
というのも、学園に入学してから七瀬は訓練において自分が他の生徒に比べて体力がないということを思い知らされた。そのため、普段よりも朝のランニングの距離を増やしたのである。
「訓練受けた後に部活できる奴はどんな鍛え方しているのか…」
七瀬は心底そう思った。七瀬は学園に入る以前、普段は部屋に籠ってプラモばかり作っていたが、毎朝のランニングは欠かさなかった。故に体力には自信があったのだ。
だが、それでもIS学園というIS操縦者の育成機関を目指して日々鍛練を積み重ねてきた者たちに比べれば雀の涙程度の努力だったのだ。
「とりあえず、クールダウンをするか…流石にいきなり負荷を掛けすぎたかもしれない」
七瀬は段階を踏んで挑戦しなかったことを後悔しながらクールダウンのジョギングを始める。
「(明日からはサーキットトレーニングも始める予定だったが…先伸ばしにするしかないか…)」
七瀬がそんなことを考えていたときだった。
「息が上がってるよ?東君」
「相川か」
相川清香(あいかわ きよか)。七瀬の隣の席、つまり出席番号1番のクラスメイトである。
「東君は今日もランニング?」
「あぁ。ISを長時間動かすには気力と体力が必要になるからな」
そう、これもあくまでISのため、自分の理想に近づくためである。知識や技術も大切だが操縦者の腕も必須能力となるのがISなのである。
「といったものの、この通りたった10キロ走っただけでこの様だ」
「ランニングで10キロも結構な距離だけどねー…」
二人はジョギングをしながら話を続ける。だが、七瀬はランニングをした後なのであまり余裕がない。
「東君ってもしかして、地元が高地じゃなかった?」
「それはどういうことだ?」
七瀬は質問の意味が分からずに聞き返した。
高知県に住んでいるのかと聞いているのであれば違うが。
「東君の走り方って坂とかヒルクライムのときに使われる走り方だから。IS学園の敷地はほとんど平地だからそれじゃあ走りにくいと思うんだよね」
七瀬の走り方は歩幅を小さくして走る走法である。これは山や高い地形の場所で使われることが多い走法であるのだが、七瀬は平地である学園でその走法で走っている、つまり走り方に無駄があるというのだ。
「東君はもう少し歩幅を広げて走ってみると疲れが減ると思うよ。体力づくりを目的にしたランニングなら尚更だよ」
「そうなのか…ではやってみるとしよう」
七瀬はそう言うともう一度走り出した。思ったらすぐに行動してみる、それが東七瀬という人間なのだから。
「なるほど…歩幅をほんの少し変えるだけでも効果は覿面だ。闇雲に距離だけを変えても駄目だったのか…」
七瀬は違いを実感する。
「(これだけのことでこうも変わるものなのか…いや、こういう基礎が備わったからこそ変化できたのか)」
陸上に関しては全く知識のない七瀬にとってはこれだけのことと言えるが、陸上の大舞台で戦う人々にとっては走りのフォームというのは他者と差を付けるために必要な一種の要素といえるだろう。先の見えない長い距離の中でいかにその走りのフォームを維持できるか、それが重要になる。
「しかし…俺の走りのフォームなんてよく分かるな。君は陸上部だったか?」
後ろから追い付いてきた清香に七瀬はそんな質問をする。
「私はハンドボール部だよ。けど、ジョギングが趣味で毎朝走ってるんだ。だから東君のことも毎朝見かけたよ!」
「そうだったのか…走りについてやけに詳しいからつい…」
「趣味でやってたらいつの間にか詳しくなってたんだよね~。気がついたら駅伝とか球技の試合なんかも観戦するようになってたし。…周りの子には男の子っぽいって言われたことあるんだけどね」
「だが、趣味だからこそ全力になれる。君が詳しくなったのも、好きなことに全力で打ち込んだ証だろう。俺が言うのも変だが、それは誇っていいことなんじゃないか?」
かくいう七瀬もロボットが好きで色々なことを調べていたらいつの間にか科学部でロボット部門賞を貰う程度になっていたという過去がある。
その情熱ぶりから『無機物に恋してる人』などと呼ばれるようになったのだが。
「本当に?何もおかしくない?」
「あぁ。それにスポーツが好きな女子がいておかしいことなんてない。中学にせよ、高校にせよ、部活をする女子なんて沢山いるからな」
「…そっか。なら、よかった……」
七瀬は、不安そうな表情が消えた清香と共に朝のトレーニングを終えるのだった。
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「…すまない、遅れた」
「あずさ~ん、こっちだよ~」
放課後、七瀬は整備室の一角で手を振っている少女、本音の元に駆け寄った。
「それで布仏、機体のダメージレベルは……」
七瀬は目の前に大破した状態で鎮座している機体、『打鉄・零』を見て言う。
「う~ん。レベルで言うとDといいたいところだけど操縦席周りの骨格から歪んじゃってるからね~。この子の性質上、1から作り直さなきゃ駄目かも~…」
「そうか…二人で直したとして掛かる時間は?」
「元通りにするなら早くて1ヶ月かな。フレームだけなら一週間もあれば直ると思うよ~」
「…ふむ、ならば学園に届け出したことだし、思いきってオーバーホールするか」
あの決闘以降、ようやく学園が物資の申請を出してくれたようで補修ができるようになった。だが、一年生ということもあり、使える物資は限られてくるが。
「じゃあ今日はフレームを直そうね~」
「あぁ。いつもすまない…埋め合わせはする」
「大丈夫だよ~。あずさんいつもお菓子持ってきてくれるし~」
二人は整備の用意をし始めた。七瀬も最近は本音の教えもあり、ISの整備の手際が良くなってきていた。
そして二人がいざ整備を始めようとしたそのときだった。
「話は聞かせていただきましたわ!」
準備をしていた二人の背後から声が聞こえてきた。
「あ、せっしーだ~。やっほ~」
「せ…せっしー…?まぁ、いいですわ…ごきげんよう、東さん、布仏さん」
七瀬と本音が振り向くとそこには、いつもどおり腰に手を当てて仁王立ちしているセシリアがいた。
「オルコットか。今日はどうしたんだ?」
「東さんが機体の修理をすると聞いて立ち寄ってみましたの。なにやら人手不足でお困りだとか」
どこからそんな情報が漏れたのか気になる七瀬だがそんなことは今はどうでもよかった。
「あぁ。この通り、俺と布仏しかいないものでな」
「それは大変ですわね……ですがご安心を!このセシリア・オルコットが来たからにはすぐに改修が終わること間違いなしですわ!」
「お~、せっしー手伝ってくれるの~?」
「いえ、そうではありません!東さんは私の好敵手、ライバルなのです!早期に機体を直していただかなければ前回の決着が──」
「よーし、人数も増えたし頑張ろ~」
「って、聞いてますの!?」
長そうなので無理やり話題を変えた本音。やはりどう足掻こうとセシリア・オルコットはギャグキャラである。
「なら、次にオルコットと戦うときまでには新しい装備にしなければな」
「東さんと布仏さんにブルー・ティアーズの整備を手伝っていただいたときにブースターのシーリング処置もしましたからあの煙幕対策は万全でしてよ?」
あの決闘の日、七瀬と戦った後でセシリアは一夏とも戦わなくてはならなかった。本来はそっちが本題であったのだが、七瀬の介入によって後回しになってしまったのだ。
七瀬との戦闘にて中破したセシリアの機体は予備パーツがあるとはいえ、修復するのに必要な時間が足りなかった。人員が足りなかった中、同じく戦い終えた七瀬と本音が機体の修復を手伝ったのである。
今回、セシリアが手伝いに来たのはそのときの恩返しの意も含めてなのだが七瀬が知ることではない。
ちなみに試合の結果は七瀬と同じくあと一歩のところで一夏が負けてしまった。だが、セシリアは一夏に対して以前のような高飛車な態度を取ることはなかった。むしろ自分から積極的に接するようになったようにも見えた。
「そのためにも頑張って終わらせようね~」
「あぁ。ではまずは残った装甲を斬り落として行くか」
「ではわたくしはハイパーセンサーの動作チェックを行いますわ」
「じゃあ私は使えそうなフレームの予備パーツがないか確認してくるね~」
三人は各々、作業を始めた。
愛するロボットを友人と共に修復作業ができることに七瀬はいつも以上に気持ちが昂っていた。
*************************
「この機体のフレームはどうなってますの!?」
セシリアは、装甲を外されフレームが露出した機体をみてそんな声をあげた。自分の仕事を終えたセシリアは歪んだフレームの部品の交換を行っていた。だが、機体のフレームはセシリアの持ってきた部品を受け付けず、さすがのセシリアも手に負えなかった。
「ほとんどの予備パーツが使用不可なんて…一体どのタイプのフレームですの?」
「ああ...こいつがフレームの修理に時間が掛かる所以だ。間接部に補助筋肉を多く設置するためにほとんどの打鉄のフレームを新規パーツに取り替えてある」
本来は量産機である打鉄は量産機用の共通フレームを使用しているため、各部位をそのまま取り替えるだけで修復が完了する。だが、七瀬が改造した本機は現行あまり使われなくなった補助筋肉の導入に加えてそれを導入するにあたり邪魔になる部分を排除していたりと、もはやオリジナルのフレームになったといっても過言ではないのだ。そのため、他のフレームパーツを全く受け付けないのである。
「これを東さんが…貴方、本当にIS初心者ですの?」
「俺は設計しただけだ。取り付けや調整をやってくれたのはほとんど布仏だ」
「私でも設計なんてやったことないけどね~…」
本音は主に整備や開発専門であるが、それは企業や国家によって基礎設計されたデータを元に行われる。企業や国家でもないただの学生が設計をするなど、今までになかったことなのだ。
「こいつが設計図だ。これを元に1からパーツを作り直すしかない」
「って、紙に書いたんですの!?どうしてこのような手間の掛かることを?」
「決まっているだろう。コンピューターに頼って楽してロボットを設計するなど怠惰以外の何物でもない。なぜこのような悦楽を短縮する?勿体ないだろう」
「・・・貴方はそういう方でしたわね……」
普通コンピューターを使えば設計の時間を短縮し、より鮮明に機体の姿を描ける。だが七瀬はただ自由でありたかったのだ。コンピューターの決められた動作から形を選んで作るよりも、自分の理想に忠実にたった一枚の薄い紙に描くことを選んだのだ。
そんな七瀬の執着心とこだわりに呆れセシリアは額を抑えた。
と、そのときであった。
「お~い、七瀬!」
「ん…?織斑か」
七瀬が声のした方を振り向くとそこには一夏がいた。
その後ろには箒の姿もあった。
「おや、今日は篠ノ之も一緒だったか。仲がよろしいようで何よりだ」
「からかうなよ。ただの幼馴染みだって」
一夏が七瀬にそう言うと後ろで無言を貫いていた箒が不機嫌そうな顔になる。
「どうしたんだよ?」
「なんでもない………ふん」
そう言うと箒はそっぽを向いてしまった。
すると七瀬は何かを察したような顔をする。
「(篠ノ之が手に持っているのは弁当箱か…?なるほど、何かあると思ってはいたが篠ノ之め、そういうことか…)」
七瀬はこれでも人間観察は得意である。箒の表情、そして手に持っていたひとつの布で包まれた箱、その2つから箒の心情を悟った。
「(織斑に気があるのか、篠ノ之は。いいねぇ、これは面白いことになってきたじゃないか)」
そう考える七瀬。
七瀬の見立てでは恐らくセシリアも一夏に気がある一人であった。そんな二人が今の状況で遭遇したらどうなるか、七瀬には予想がついていた。
「篠ノ之さん、これはどういうことですの?」
「どう、とは?」
「今日の放課後は剣道の練習があると聞いていましたが?」
「あぁ、そうか。一夏と、とは言っていなかったな。それはすまなかった」
「抜け駆けは感心いたしませんわよ!」
「お前が言うか、この夜這い女め」
「なっ…!?」
箒は以前にセシリアが夜、一夏の部屋に忍び込んでいたことを知っていた。…というより、目の当たりにしたのだ。
一夏の部屋は同室である箒の部屋でもあるのだから。
「なんで喧嘩してるんだ?あの二人…」
「はぁ…」
お前が原因だ、とは言えなかった。
そして七瀬はそんな二人と一夏を見てただ一言、こう呟いた。
「これが若さか………」
************************
「……なるほど。じゃあ七瀬たちは機体を直していた最中だったのか」
「あぁ、そうだ」
話が脱線したが、なんとか修復の話に戻ることができた。
箒とセシリア、そして一夏が一悶着している間、七瀬と本音は作業をしていたがようやく三人も戻ってきたらしい。
「というわけで見られた以上はお前ら二人にも修復に協力してもらおう」
「俺はいいぜ」
「何故私まで…」
快く承諾した一夏とは相反するような態度をとる箒。
だが七瀬は二人の答えを待たずに二人分の椅子を用意した。
「椅子に座る必要があるのか?ISの整備をするんだろう?」
「いや、それはあとだ。まずはこの機体、零の機体の各部を説明しようと思ってね。修復するにもこれがわからなければ話にならないだろうしな、この機体の場合」
「そうなのか。じゃあ説明よろしく、七瀬」
「了解した。まずは今の修復状況の報告からさせてもらう。現在、零は左腕のフレームを残してほとんどが大破した状態だ。布仏、オルコットは修復している過程で疑問に思ったことがあれば遠慮なく言ってほしい」
「では…」
「おう。なんだ、オルコット?」
「そもそもこの機体のコンセプトはなんですの?このような複雑化したフレームであるからには何かわけがあるのでしょう?」
「よくぞ聞いてくれた。こいつのコンセプトは『稼働範囲の拡大とフレーム構造の詳細を知る』ということだ」
セシリアの問いに七瀬は細かく書かれたフレームのみが描かれた設計図を見せる。ご丁寧に近くにあったホワイトボードに張り付けて。
「フレームの構造だと?そんなものを知って何とする?」
「愚問だな、篠ノ之。ロボットにおいて内部フレームは基本。こいつの構造が分からなければ理想のロボットを作るなど、夢のまた夢というものだ」
「…はぁ」
普段とは違うテンションの七瀬に着いていけずため息をつく箒。
「あずさんってロボット作ってるときと乗ってるときは普段と性格変わるよね~。乗ってるときは目もキラキラしてるし」
「確かに…それは俺も分かる気がするよ」
「何、性格が変わったとしてもどちらの意志も俺のものだ
。ロボットを愛する心は変わらん」
本音と一夏にそう答える七瀬。
「話を戻すぞ。この機体、打鉄・零のデータを見せるとこんな感じだ」
七瀬はそう言うとホワイトボードに機体のスペックデータを書いていった。
【打鉄・零(うちがねぜろ)】
和名:打鉄・零
型式:強化外装・零
世代:第2世代
国家:IS学園訓練機
分類:陸戦用機動型
仕様:新規フレームによる稼働範囲の拡大
装備:
アサルトライフル『ソリッドバレット』
ホーミングミサイルランチャー『ボルガニック・レイン』
腕部ミサイルランチャー×2(弾頭は切り替え可能)
近接戦闘用アックス『へヴィーアックス』
「……と、まぁこんな感じだな」
七瀬はホワイトボードにデータを書き終えた。
するとそれを見てセシリアが手を上げた。質問があるようである。
「この最新式のライフルとミサイルランチャーはどうしたんですの?いくら学園といえど新学期早々最新式装備を支給してくれる筈はないでしょう?」
「それならあずさんがまややん先生から貰ってきちゃったんだよね~」
「も…貰った?」
七瀬の代わりに本音がセシリアの質問に答えた。
「悪く言えば盗んだ、もっと悪く言えばNTRしたというところだ」
「寝とっ…!?お、お前は何を言っている!!」
七瀬が口にした言葉に過剰なまでに反応する箒。
「でも、あの試合のあとで先生に返しに行ったら本当にくれちゃったんだよね~。まややん先生は優しいよね~」
七瀬が盗んだ2つの武器は山田先生自身あまり頻繁には使わなかったらしく、七瀬が武器を使いこなしていたことに敬意を表して譲ってくれたのである。尤も、零が学園の訓練機であるからこそ武器を譲っても問題なかったということもあるが。
「型式番号は打鉄と同じ、『強化外装式』なんだな」
「あぁ。一応、元は打鉄だからな」
七瀬が一夏に言った通り、あくまで一応である。フレームが違う以上は別物といっても過言ではないのだから。
「しかし…少し前までISに無関心だったお前の口から型式番号などという言葉を聞くとはな。そんなことまで覚えたか織斑」
「セシリアと戦う前に勉強したからな。箒には剣道の練習してもらったし」
「それはISの練習になるんですの…?」
「あぁ。お陰で雪片を使うときの感覚にも困らなかったし」
「まぁ、お前がそう言うならそれでいいが…」
竹刀とISの武器では重さが全く違うので練習になるのか不安なところだが二人からすれば似たようなものなのだろうか。
「世代は変わらずか…だが、この仕様に書いてある『新規フレームによる稼働範囲の拡大』とはなんなのだ?」
「そうか。篠ノ之と織斑はまだ実際見たことがなかったな。いいだろう、お見せしようじゃないか」
そう言うと七瀬は機械を操作し、大破していない方の零の腕のフレームを取り外し、セシリアが持ってきた打鉄の腕のフレームと並べた。
そして七瀬と本音は手早い作業で並べた二つの腕のフレームを訓練機体として置かれていた別の打鉄に取り付けた。
「勝手に訓練機体に別のフレームを取り付けていいのか…?のほほんさんまで……」
「知らんな。だが、フレームの違いを見せるにはこれが一番手っ取り早いんだ」
取り付けが終わった二人はそれぞれ違う機械の前に立つ。
そして打鉄の操縦席を開閉させた。
「篠ノ之、試しに乗ってみろ」
「わ、私が乗るのか!?」
「あぁ。そのあとは織斑だ」
「俺もかよ!?」
二人は七瀬の実験台となったのだ。
「だが、見た目だけで判断するよりも体で体験した方がいい。違いに驚くだろうがな」
自信有りげに言う七瀬の姿が二人をより一層不安にさせる。
「な、なぁのほほんさん、本当に乗って大丈夫なのか…?」
「大丈夫だよおりむー。試験操縦で何回かあずさん乗ってるけど一回しか爆発してないからね~」
「いや、駄目だろ!!」
本音の言葉で二人の乗ろうという意志は消沈した。だが……
「…わたくしが乗りますわ」
「お、おい正気かセシリア!?」
一夏が止めようとする。だがセシリアは静止を聞かなかった。
「わたくしが苦戦した機体、その実力のほどを見たいのです。東さん、よろしいでしょうか?」
「乗ってくれるってなら誰であろうと大歓迎だ」
「ありがとうございます」
七瀬は知らないことだが、あの決闘以来、セシリアは七瀬の機体に興味を示していた。第三世代機をも翻弄する人間の動きを正確に再現する、もしくは増幅するIS、その実態が気になって夜も眠れなかったのだ。
「それでは、アリーナに行くとするか。布仏、この打鉄を腕部のフレームだけを露出させたままにしておいてくれるか?俺がアリーナまで機体を運ぶから」
「分かったよ~」
「七瀬、アリーナの使用許可は取ってあるのか?」
「こんなこともあろうかとな。とはいえ、時間は有限だ。急ぐぞ、全速前進DA!」
「どこまで先を読んでるんだよ……」
一夏たちは彼のロボットが関わるときの行動の速さに呆れながらアリーナへ向かうのだった。
**************************
「それじゃあオルコット、機体に乗ってみてくれ」
「分かりましたわ」
七瀬が指示するとセシリアは打鉄に乗り込んだ。フォーマットとフィッティングのない訓練機体のそれはセシリアが乗り込んだのを確認すると全てのシステムを立ち上げた。
「一応確認しておくと左手が零の腕フレーム、右手が普通の打鉄の腕フレームだ。違いは感じられるか?」
「そうですわね…率直な感想を述べますと、左手は軽い気がしますわ」
「そうか。なら問題なく差別化できてるみたいだな」
「どういうことだ東?」
箒が七瀬に問う。
「零のフレームには補助筋肉と呼ばれる繊維状の筋肉が取り付けられている。そしてこの補助筋肉の使い方こそがこの機体の真骨頂なのだよ」
「補助筋肉?昔は大型の機体の重量を支え、その重量に耐えながら操縦できるように取り付けられていたパーツのことだよな?」
「あぁ。つまり、昔は大型の機体には必須ともいえるパーツだったのだ」
一夏の勤勉ぶりに関心しながら七瀬は答えた。もっとも、補助筋肉は授業にも単語すら使われないほどに今ではマニアックなパーツなのだが。
「だが、現在のISの主流は細身で高機動な第三世代型だ。今はあまり使われなくなっているパーツの筈だが…」
「流石だな、篠ノ之。君の言う通り、今は全く使われなくなったパーツだ。だが、その原因は高機動な機体に対して大型の機体はいささか相性が悪いために大型の機体の開発が停滞したからだ。ならば、そのパーツを現在主流となっている細身の機体に使ったらどうなると思う?」
「大型の機体重量を支えるだけの力を機体のパワーに回せるということですの?」
「そうだよ~。そして補助筋肉は普通の金属パーツよりも軽い素材で出来ているから機体の重量も落ちるんだよね~」
乗っている本人であるセシリアの問いに本音が答えた。
「つまり、死角がないということですの?」
「あはは~。そうだといいんだけどね~…このフレームは稼働範囲が増えた代わりにこのフレームに対応している装甲しか装備できないんだよ~」
「つまり、稼働範囲に合わせて装甲にも稼働範囲がないと装着できないんだ。俺が乗ったときもほとんど装甲を着けないで戦っていただろう?あれは稼働範囲に合わせた装甲の完成が間に合わなかったためなんだ。なにせ、フレームを複雑化したせいで時間が足りなくてな…」
「そうでしたの…」
セシリアは自分を見下して装甲を着けないで戦いを挑んできたのだと最初は思っていた。今のセシリアはそんなことを考えたりしないが、完成が間に合わなかったというのが理由だとは思わなかったようだ。
「それに補助筋肉という軽いパーツが増えたことによって耐久性も落ちちゃったんだよ~。だからあんなに簡単に装甲も壊れちゃったんだよね~…」
「おまけに複雑化したフレームと装甲によって整備に長い時間を必要とする。それも悪い点のひとつだ」
「機動力は上がったが耐久性が落ちた、か…東の戦いを見たからに地上戦は強そうだが空中での戦いはどうするのだ?確かこの機体は空を飛ぶことができないんだろう?ISは空で戦うのが普通なんだぞ?」
箒の質問の答えをセシリアはわかっていた。
地上戦に特化した機体でどのようにして空中にいる相手を倒すのか。
自分がその恐怖を一番知っているからだ。
「そのために用意したのがオルコットに使った特殊弾だ。相手のスラスター系のみを使用不可にして無理矢理地上に落とす、それが空中にいる相手の倒し方だ。まぁ、一度見せた相手には二度と通用しないがな」
現にセシリアは特殊弾対策のフィルターを取り付けたので同じ手は通用しない。二度目はない奥の手なのだ。
「だが、悪いことづくめではないぞ。オルコット、バススロットに収納してある武器を展開してみてくれ。どれから使うかは気にしなくていいぞ」
「では…これを」
セシリアは打鉄のバススロットから近接用のアックスを展開した。七瀬の『へヴィーアックス』とは別物であるが威力は折り紙つきである。
「よし、ではまずは打鉄のフレームの方の右手で出現したターゲットを切り落としてくれ」
「分かりましたわ」
セシリアはそう言うと七瀬がアリーナに出現させたターゲットに向かって直進する。
「はぁっ!」
セシリアがアックスを振り下ろすとターゲットはポリゴン体となって消滅する。
ターゲットを切り終え、セシリアは七瀬たちの方に帰還する。
「重いですわね…東さんはいつもこんなものを振り回しているんですの?」
鋼鉄製のアックスは近接戦闘に慣れていないセシリアにはとても重く、扱い辛かったようだ。
「まぁ、その理由が今から分かるさ。次は零の方の腕でアックスを持ってターゲットを切り落としてみてほしい。ターゲットの数も増量していくぞ」
七瀬がアリーナのシステムに指示を送るとアリーナはターゲットを出現させた。それもさっきとは違い、無数に。
「参りますわ!」
セシリアは先ほど同様にひとつ目のターゲットに接近する。そして同じ動作でアックスを振り下ろした。
刹那、遠目で見ていた七瀬たちの横をポリゴン体の破片が霞め飛んでいった。
「なっ!?」
七瀬の横で見ていた一夏が遅れて声を上げた。
一同がターゲットのあった場所に目を向けると、残りのターゲットも残らずに消滅していた。
「一体何が起きたのだ!?」
箒も目の前で起こったことに対する驚きを隠せずにいた。
しばらくして未だに何が起こったのか分からずにいるセシリアが戻ってきた。
「東さん…これは……?」
「これが、補助筋肉の恩恵により、パワーが上がった打鉄・零の真の力だ。布仏、力の計測は?」
「お、おぉ~…これは凄いかも……さっきの打鉄の方と比べると力が1.5倍にも跳ね上がってるんだよ~…」
「1.5倍!?補助筋肉が搭載されるだけでこんなにも変わるものですの!?」
七瀬を含んだ一同が驚きを隠せずにいる中、更にセシリアは零のフレームが装着されている左手を見ながらこんなことを言い出した。
「わたくし、利き手は右手ですのよ…?その力を省いても1.5倍の力を得ているなんて……」
「おいおい、マジかよ。ということは利き手で扱えばそれ以上のパワーが出るということか。俺も既に使っておいて言うのも変だが、ここまで変わり果てるとはな…」
「あずさん…何か追加したパーツがあるの…?」
「あぁ。補助筋肉周辺に油圧式のシリンダーパーツを追加したんだ。支点となる骨格の補強のために着けたんだが、まさかパワーまで上がるとはな。いやはや、驚いた」
「それ、どこから持ってきたの~?」
「ISの部品を運搬するときに使うパワーリフターがあるだろ?あれの交換部品を使ってみたんだ」
今回の修復は性能の強化、安定も視野に入れたものだったので七瀬は壊れていなかった方の零の腕に補強パーツを追加していたのだ。だが、それはあくまで補強のためであり、パワーを向上させるためのものではない。
「・・・俺は今、猛烈に感動している!!」
「「「「!?」」」」
突然叫びだした七瀬に一同が驚く。その声は普段の七瀬からは想像もつかない、怒号とも呼べる程の音量であった。
「突然どうしたというんだ東!」
今度は箒が七瀬に怒鳴る。
「今や零は打鉄を大幅に超えたパワーを得た!これがどういうことかわからんか篠ノ之よ!!」
「し、知らん!それより近い!離れろ馬鹿者が!!」
「ぐふっ……」
箒は咄嗟に七瀬を突き飛ばす。
「す…すまない……大丈───」
「あぁ…今だけは痛みさえも快楽に感じるかのようだ…!」
「ひっ…!!」
倒れたまま空を仰ぐ七瀬の気持ち悪い言動に箒は立ち上がらせようと差し出した手を咄嗟に引っ込めた。
「それで七瀬、パワーが上がったことの何が凄いんだ?」
一夏がそう尋ねた。すると七瀬は勢いよく立ち上がる。
「何を言う!!既存の技術のブラッシュアップだけで打鉄のパワーを上回ったんだぞ!?これは革命だ!!」
「か、革命ですの…?」
「そう!!今この瞬間、俺たちの手でロボットの世界が新たな一歩を踏み出したんだ!」
「まだ完成してないけどね~?」
本音のその一言が再び七瀬に火を点火した。
「おっと…そうだったな。まだこれはフレームの片腕。両腕にシリンダーを取り付ける前にまだ修復も残っている…やることが山積みだな。なら、こうしてはいられないな…!」
「あ、東さん!?どこに行きますの!?」
「決まっている!戻って機体の修復だ!新しい装甲の案も思い付いたしな!」
そう言うと七瀬は走り出す。整備室に向かって。
「あ、東さーん!?肝心の機体を忘れてますわよー!!」
セシリアはISから降りて叫ぶが七瀬の姿は既になかった。
「せっしー、機体は私が先にトレーラーで運ぶから大丈夫だよ~」
「そ、そうですの?では…布仏さんにお願いしますわ」
「のほほんさん、トレーラーの免許持ってるのか?まだ入学したばっかりなのに凄いな」
「うん。機体運ぶのによく使うからね~」
セシリアは機体を運ぶ小型トレーラーを運転できないために本音に機体を任せることとした。ちなみにISを運ぶ小型トレーラーの免許を持っているのは本音を除いて一年生では片腕で数えきれる程度しかいない。トレーラーというが、形は軽トラのような形をしており、速度もあまり出ないものだ。
「だが、私には分からないことがある布仏」
「ん~?」
「何故そこまで苦労して東に協力するんだ?その…考えすぎかもしれないが、私には東は機体を完成させることが優先で疲れた布仏のことを気にも止めていないように見えるんだが…」
箒は本音の気持ちが分からなかった。なぜそんなにも他人のために頑張れるのか。それも一番疲れているであろう本音を置いてきぼりにしている人間のために。
「あずさんは心配してくれてるよ~?毎回手伝う度に」
「だが、今回東は───」
『おーい、布仏ー!!』
二人が話している中、声が聞こえた。
声の正体は今、二人が話していた人物であった。
「トレーラー持って来たぞ。あ、あと昨日夜こっそり作業してただろ?いかんぞ、きちんと睡眠は取らなければ。そんな状態でトレーラーを運転なんてしたら事故起こすぞ?いくら学園内だからといって車は車なのだから…」
七瀬も無論、トレーラーを動かせる人間の一人である。
ロボットが初めて大地に立つときはトレーラーに乗った状態から、というのが七瀬の掟である。
「えへへ~、バレてたのか~」
「あぁ。俺も夜整備室に行ったからな」
「あずさんも駄目だよ~寝ないと」
「布仏がきちんと寝たらそうするさ」
「この間もそう言ってたよ~?」
「そうだったか?とはいえ、今日は設計図を書かなければならないからな…」
「え~、でもー、私も脚のフレームを直さないと……」
「お前ら二人とも寝ろ!!」
「「は…はい………」」
じれったくなった二人に箒が怒鳴った。箒に渇を入れられて縮こまる二人。
「まったく…お前たちはどこまで阿保なのだ!」
「心外だな。ただ夢を追っているだけだろう」
「夢ばかり見てないで周りのことや自分のことに気を配れと言っている!」
箒は母親が子供に怒鳴るようにそう言う。
「(篠ノ之、オカンかよ。こりゃあ)」
「明日からは私と一夏も来る!今日は寝ろ、いいな?」
「え?お前明日も来るのか?」
「私たちとしてもISの整備技術を覚えられるのは得になる。それにこれは、お前たちがこんな馬鹿なことをしないよう監視するのを兼ねてだ!!」
「私たちって…あぁ、織斑もか」
「俺はいいぜ。整備の知識はからっきしだからありがたいぜ」
手伝うことを一夏も承諾しているようである。
「そんじゃ、お願いするわ。明日からよろしく頼む」
「あ、あぁ…」
考えずに結論を出した七瀬の投げやり感が気に入らなかったのか箒は少し不機嫌そうな顔になる。七瀬としては一人でも多く人員が欲しかったために即決したという理由があるのだが、箒がそんな七瀬の心情を知ることはない。
「オルコット、片腕に負荷が掛かりすぎただろうからきちんと解しておいた方がいいぞ。俺も初めて零に乗ったときは体中バキバキになったからな」
「そうですの?では気を付けますわ」
七瀬はそう言うとセシリアにタオルを渡した。運動後の飲料水も忘れずに。
「あ、それと布仏。今日は『シャトー・ドルチェ』のケーキを買ってきててな。革命祝いも兼ねて、といっては変だがこのあとどうだ?」
「えっ!?午前中には完売すると言われるあのケーキ!?すぐに食べるよ~!」
「そうか、それはよかった。洋菓子は早く喰わんと鮮度が落ちるからな。君がきちんと寝るように追加でホットミルクでも用意するとしよう」
だがこの男、今日そのケーキを買うために昼休みに学園を抜け出し、次の授業をギリギリ遅刻していたのである。
七瀬は本音の返事を聞いて機体をトレーラーに積み始めた。
「はぁ……」
箒はしばらく七瀬のことを見ていた。何を考えているのか全く分からない彼を。だが、その夢に向かって死に物狂いになる姿は一番身近である筈の家族の姿に似ていた。
「(姉さんは今どうしているだろうか……)」
この頃は連絡すら取っていなかった。
身近であるはずの家族がこんなにも遠く感じることに昔から箒は不安を抱いていた。
だが、姉に似た夢への姿勢を持つ彼を見て箒の心は更に姉のことが気になって仕方なかった。
「(部屋に戻ったら電話くらいしてみるとしよう)」
箒がそんなことを考えていたそのときだった。
誰かが箒の制服の袖を引っ張っていた。
「心配、してくれてるでしょ?ちゃんと」
本音は機体をトレーラーに乗せている七瀬の方を見てから箒を向いてそう言った。
「……さっきはすまなかったな、布仏」
「ん~?」
「……まぁ、少しは心配していたようだな東も。だが、それ以上にお前も東を心配し過ぎだ。睡眠くらいは取れ」
「えへへ~。そーだね~」
そんな返事を返す本音に箒はため息をついた。だが、これが彼女の素の返事なのだ。
「…お前たちの先が思いやられる」
「おーい、積み込み終わったぞー」
丁度七瀬も機体の積み込みが完了したようだ。
「うわっ!ヤバい、アリーナの使用時間過ぎてるぞ!千冬姉に見つかったら不味い、早く出よう!」
出席簿の恐怖を一番知っている男、一夏がそう言うと一同は急いでアリーナを出る支度をする。
気配を消して彼らを監視していた者がいることにも気付かずに。
『うん、この光学迷彩装備なかなかにいいわね。おかげで気づかれずに監視できちゃった♪機体の情報もご丁寧に喋ってくれちゃったし、今日はツいてるわね』
その手に持っている扇子には『有益』と書かれていた。
『あれが沖田さんの言ってた彼ね。でも、あんな規格外の技術どこから持ってきたのかしら…引き続き監視を続けた方が良さそうね』
監視をしていた人間は光学迷彩を切り、その姿を現す。
ナノマシンで構成された装甲に機体ほどの大きさの槍。水のヴェールに身を包んだかのような姿はさながら『淑女』のようであった
『さて、あの子、次は何をやらかしてくれるのかしら?』
先を楽しみにするかのように笑みを浮かべる彼女だが、それは後々の後悔となる。
次の被害者が自分であるなど、考えられるはずもないのだから。
「(例えるならミラージュコロイド…あるいはハイパージャマーか?まぁ、ステルス機能ならどちらでも構わんがな)」
七瀬はトレーラーで邪悪な笑みを浮かべていた。
だがそれは、欲しいものをようやく見つけた子供のように無邪気さも混じってそれが更に見る者を恐怖させる。
「(今回は迂闊に手を出せなかったが…他人の情報を盗むということは自分が何かを盗まれることも了承していると見てよさそうだな。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、とどこかの皇帝も言っていただろう?)」
七瀬は気がついていたのだ。アリーナで稼働テストをしていたときに影から自分が監視されているということに。
「(こんな晴れの日にステルスを使っても影が見えるんだよな。それにあの機体の操縦者、人を見下すのが趣味なのかねぇ?あんな高いところからなら尚更影ができるっての)」
これでも七瀬は敵意に敏感である。今回の場合は敵のミスのおかげで気づけたが。恐らく相手も初めて使用した装備だったのだろう。
ならば、七瀬がそんなミスを犯した
「次はその装備も、技術も、全部俺の物だ」
七瀬はバックミラーに写るアリーナを見ながらそう呟いた。
会長さんの機体、NTRの危機…全てはミラージュコロイド実現のために!!ステルスが追加されると闘いの幅が広がりますね!
今回もありがとうございました!
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