第1話
艶然と、笑う男。
その濃紺の髪は銀を反射し、月の薫りを孕む。
しゃらりと髪飾りを揺らし、三日月のような瞳を細めて。
「俺はな、偽物なんだ」
姿を借りて、生きている。
麗しく声が空気を震わせる。
「彼らの言葉を借りるなら贋作か。まあ、真の意味では彼も俺と同じというか、ははは。曖昧で悪いな。……只な、姿を借りている、という言葉通り、斬れ味は御墨付きだぞ」
老齢した雰囲気をまるで服のように纏い、美しい刃紋の刀を抜く。
「名乗ろう。俺は三日月宗近。天下五剣が内の一振」
太刀 銘三条、宗近作、三日月。
「──────推して参る」
*
闇の中に月が浮かぶ。
俺は月が好きだ。
あの頃共に見上げた、あの月夜を思い出すから。
ざり、ざり、と土の上。ゆらりふらりと気侭な足取り。
俺も"彼"も、散歩は日課だった。
風を感じ、夜の静かな冷たい空気を身に受けて、地を踏み締めて、歩く。
昼間、色々な場所を散策するのも好きだ。人の声は安心する。
それでも、それよりも空に浮かぶそれに惹かれるのは、この身がその名を賜わっているからだろうか。
「……ん、」
唐突に足を止める。
風が変わった。
俺が"俺"になる前から、馴染みのある感覚だ。
「月下の散歩も此処までか。些か残念ではあるが、まあ、それも良いだろうよ」
何事も終わりがあるからこそ。
少しばかり名残惜しいが、この目にもう一度だけ月夜を焼き付けて、1歩。
一変する。
欠片の他の光もない月の世界は、とある高台へと繋がっていた。
足元は土ではなくコンクリート。
眼下には人の営みを感じさせる光が、煌々と照る。振り向けばそこは階段だった。
びゅう、びゅうと、冷たい風が吹き荒ぶ。
時を超え、世界を超える。
随分前から持っていた力。魂の性質と言っていいのだろうか。
今の俺にもぴったりだ。
「此処は……どんな世界なのだろうな」
腰に刀を携えて、俺はまた、歩き出す。
*復活の譚*
どうやら、この町ではこの装束は目立つらしい。
世界を渡れば金銭も違う。故に懐には常に貴金属を忍ばせていたのが幸いした。
腰の刀に布を掛け、現代の装いに身を包む。
「うむ。やはりお洒落は分からんな……似合っているか?」
「ええ!すっごくお似合いですよ!!」
黒のジャケットにベスト、白のシャツ。秋に入りたてでこれから寒くなると聞いた。
「そうか。金子はこれで足りるか?……ではな、世話になった」
「また来てくださいね!!」
元気がいいな。よきかなよきかな。
着物はバッグに詰めて肩に背負う。
……さて、これからどうするか。髪飾りを取った為に軽い頭を傾げる。
「……!」
くぅ……、と腹がせつない音で鳴いた。
……腹拵えして、何処かに宿をとるか。
徐ろに財布替わりの袋を取り出して逆さにする。手元に落ちる金銭の残りは僅か。宿の代金を抜くと明日の食うに困る、か。ふむ……。
「明日の事は、明日考えるとしようか」
まあ、なんとかなるであろうよ。
此処は日ノ本……日本ではない。
先日の服屋も宿屋も、皆外国語を話している。
俺は幾つもの世界を渡ってきていたから、言葉を学ぶ機会はこと、多かったのだ。
此処は外つ国イタリア、それの北部にあたる町である。
「お兄さん、観光かい?」
「ああ、まあ、そんなところだ」
「……悪いこたァ言わねぇ。夜外に行くのはオススメしない」
「ふむ?」
内密話をするように声を潜めた宿屋の店主に俺も顔を寄せる。
「物騒なもんで、最近人攫いが遭ってるんだ。子供だけじゃない、大人も行方不明になっていたりする。アンタは綺麗な顔をしているからな。攫われるぞ」
「……穏やかではないな。人攫い、とは……何処の誰が?」
「さあなぁ。そこまでは分からんよ……あの大マフィア、ボンゴレも動くって話だ」
「……」
思案。
「忠告、感謝する。然し心配はいらないさ、こう見えて腕は立つ方だ」
「あっ、おい……!」
「夜更けには戻る」
息遣いは苦しく弾んでいる。
少女は見てしまった。眠らされた小さな兄弟が仰々しい車に運び込まれていくところを。
後ずさった時に転び、彼女は口封じと後を追われる。
「待て!」
「こっちだ!」
「……っ、」
両親と仲違いしたから、罰が当たったのだろうか。
言いつけを破って、外に飛び出したから?
息遣いは荒く心臓が痛い。恐怖で涙が溢れる。
「ごめ、なさい……っごめんなさい、いい子にするから、ごめんなさいするから……っ」
助けて……!
どんっ。
角を曲がった時、何かにぶつかって尻餅をついた。
「おっと……すまんな、大丈夫か、」
「っ助けて……!!」
「!」
誰でもよかった。もう、走れそうになかったから。
足音が近付いてくる。
「少女よ。暫しそこに隠れていろ」
「あ……」
美しいかんばせ。
その瞳には、三日月が浮かんでいた。
……風が向きを変えた。
逆らわず流されてゆく。光の少ない路地裏は、吐き気のするような爛れたにおいがした。
「1人の少女を大の大人が追い掛けるとは……如何なものか」
携えられた銃。視線の先、男達は視線を交わし、俺に下卑た視線を向けた。
「……ふむ、名すら語らぬか」
"彼"の姿を象った俺も、それなりに見れるからな。うむ、天下五剣一のうつくしさというのも、まあ、罪作りよな。はっはっは。
「よい。なればまた、守る為」
布の剥がれた刀に目が集まる。
「この刃、振るうとしよう」
一振。その軌跡は三日月。
人には虚というものがある。
それを突けば簡単に、それこそ普通に歩いて懐に忍ぶ事が出来るというもの。
ゆらゆら、忍び寄りて刀を振るう。目に見える程に鈍いそれに反応出来ない男どもは、無防備に背を向ける俺を漸く視線で追い掛け始めたところだった。
ばらばらばら。硬質な音が、薄汚れたコンクリートに散らばった。
「なっ、!?」
「銃が……!」
「……柔いな」
ちん、と刀の鍔がおさまる。……ふむ、慣れぬ洋装でも身体は動くものだな。
服を浅く裂き、腰に下げたもの、懐のものも、一緒くたにばらばらとなって落ちた。
「化け物め、」
「今去るならば命までは取らぬぞ?」
「く……!覚えていろ、我々の邪魔をした事……我々の敵に回るという事を後悔させてくれる……!」
「……。
ゆけ、二度同じことを口にするのは好きではないのだ。まして、気を遣う必要の無い敵にはな」
「っ?!ひィ……!」
脱兎。去っていく音に肩を竦める。
ちと奴らには殺気が強かったらしい。
「少女よ、もう大丈夫だぞ」
「あ……」
立てるか?と言えば、少女は俺の手を取って立ち上がる。
「あ、ありがとう、ございます、っ!あ、あの、!」
「む?」
「通りで、小さい子が、!」
「……そうか、あい分かった」
名を聞かれ、三日月と口にする。
俺の名は聞かれて恥じるものではないのでな。
「ミカヅキ、さん……」
「うむ。女人のひとり歩きは危ないぞ。これからは気をつける事だ」
時間をとってしまったが、さて。急ぐとしよう。
これも縁だ。
男達の向かった方へ走る。
壁から突き出た杭に手を掛けて、建物の屋上やベランダの鉄柵を足場に、跳ぶ。
「アレか」
それらしい車は、中々大きい屋敷へ入っていった。
入っていった建物をぐるりと見渡し、門を壁沿いに回り込んで、2階の外側に鍵の開いた窓を見つける。
助走を付けて外壁を踏み、手を掛ける。
……潜入成功。
「はは、迂闊よな」
人の子には些か高い場所だったが、うむ。
「子ども、といったか。無事であれば良いが……」
屋敷は見立て通り広い。洋式で、部屋が幾つもある。
霊力で造った物見……式を放ち、地下に人が集まっていると知る。これは斥候の役割を熟す、"我ら"が使える小技である。
「行ってみるか……む、」
その時、正面玄関が俄に騒がしくなる。
「討入か……?」
なんと間の悪い……いや、いいのか。
屋敷の者の目がそちらに向けられれば、人質の救出も容易になるだろう。
俺が気を付けるべきなのは遭遇する敵と、討入してきた組織の者。前者は接敵し次第排除し、後者は見つからないように隠れる。
もしや味方やもしれぬからな。勘違いでもされて襲われれば、誤解を解くのも一苦労だ。
「うむ。よし、では往こうか」
階下に降り、見つからないよう隠れながら敵を斬り伏せる。
入口付近にもなれば争いの気配は程近い。倒れた者にも原因がある。何か細く鋭い何かで刻まれたような者、弾丸で貫かれた者、刃物に斬られた者。ひどく荒い気を感じる。
所詮刀は人を斬るもの故、こういった手合は嫌いじゃないが。
とある壁に刃を剥けばそれは膾切りにされ、口を開くのは地下への道だ。
「暗いな」
まあ、俺には関係ない。
目を閉じ、ひとつ、壁に軽く柄を打ち付ける。
かァん……!
……─────!
音の反響の通り、足元に気を付けながら降りていく。
案外浅いようだ。
一本道を進み、重い扉を開く。
「誰だッ!」
焦燥の滲む男の声だ。
「邪魔するぞ」
男と、女子供に分けられた地下牢。恐らくシェルターの役割を持っているのだろう、壁は屋敷のものとは違い、硬そうだ。
でっぷりと肥えた、高級そうなスーツの男は恐怖している。
脇には数人の護衛らしい黒服がおれに銃口を向けている。
「そう怖い顔をしてくれるな。なに、取って食いはしないさ」
「な、何を言っている!であれば貴様、何が目的だッ」
「ははは、俺は粛清などとは言わんよ」
暗闇から、戸の向こうへ。光へ。
「紡がれた縁を手繰りに来た」
如何にも一般人といった姿の俺に暫し呆然とした男は俺の姿形を見て、欲を宿らせた。
突入直後にはなかった筈の、地下へ続く隠された鉄扉。それは豆腐のように切り刻まれていた。
「……」
斬鉄。
芸術的なまでに鮮やかに鉄扉を斬り伏せたその太刀筋は、屋敷の敵対者の一部に刻まれたそれと同じ。
検分を終えた男は、鋭利な眼光を闇に向け、獰猛な笑みを浮かべる。
「う、美しい……、」
「……」
三日月は変わらず笑みを浮かべたまま、その眼を左右に揺らす。可哀想に怯える姿。僅かに宿る希望に縋るように、顔を上げる檻の中の人の子。
老若男女問わず魅了する、滴るような美しさを持つ三日月宗近。この男も例外ではなかったのだろう。欲の孕んだ目を隠さず、男は三日月に近づいて行く。
灯に誘われる蛾のように。
「幾つか聞きたい。……彼らは何故拐かされた?話を聞くにまだ攫われた人間はいた筈だが……それらは何処へ?」
三日月は常変わらぬ口調で問う。
「こいつらは商品だぞ?売ったに決まっているだろう」
「……」
至極不思議そうな言い分に三日月の目が細まる。
売買先の事は知らない言い草だが、三日月は既に売られた者の命はないと悟る。
「そんな事などどうでもいい。お前は雇われか?迷い込んだ一般人とは言うまい。金なら払う……此方に付け!」
「……醜いな」
「……、……なんだと?」
「あいや、俺が清い等と宣う訳では無い。人を斬り捨てるだけの刀ゆえ、寧ろ血煙に塗れ、耀かしき命を奪う、鋭きもの」
間合いには遠く、それでも三日月は刀を抜く。
「人は好きだ。脆く儚く、強かで華やかだ」
反り高い細身の刀身が剥かれていく。
特徴である三日月の打除け、刃長二尺六寸四分の、美しい刄。
「醜く枯れ腐るのであれば……いっそ斬り捨ててやるのも手向けやもしれぬ、とな」
「やれ!なるべく傷は付けるなよ!!」
正眼に構えられた刀は、撃ち放たれた弾丸をも見切り弾き、卓越した技により両断される。
「弾を斬っただと……?!」
「ぼ、ボス……!どうすれば、」
「ち……仕方あるまい!手荒になっていい!生かして捕らえろ!」
「……さて、次はこちらの番だぞ」
一転、三日月は打って出る。
敵は銃を構えた3人と、ボスと呼ばれたあの男。
ザンっ!!
瞬く間に距離を詰めた三日月は下方から掬い上げるように切り上げる。人外の膂力と技により銃は銃口から輪切りにされて、その勢いのまま、柄が鳩尾に打ち込まれた。
すぐ様肘鉄がもう1人の男に叩き込まれる。
苦し紛れに放たれた銃弾は牢に蹲る者に目掛けるが、瞬く間に切り落とされた。
「……遡行軍とは比べ物にならんな。いや、知っていたが」
三日月は視線だけ一瞬扉の方に目を向けるが、それをなかったかのように、最後に残った男に刀を突き付ける。
───────怒りが冷えた。
この男に、殺す価値はない。
「……生きて罪を償うがいい」
「ひぃぃ……!!」
為された施錠を切断して、牢に閉じ込められた者を解放する。
手枷を解き、地下から出るように言い含めて。
「……何故殺さなかった、と言いたげだな」
男達を縄で縛り、軽く伸びをする。
「先も言った通り、俺は粛清しに来たのではない」
全く、夜更かしは苦手だ。老体には些か厳しいものよ。
「──────────
……気付いていやがったかぁ゙」
「ああ。隠れるにしては、あまりに気を荒立てていたからな」
男の気配には覚えがあった。鋭き刃のような気配。
「すまんが手合わせならばまた後日にしてもらえるか」
剣客。
その腕の剣、立ち姿。全てが並より外れたもの。
真っ直ぐな目は現代にしては珍しい、真摯な覚悟があった。
黒い衣装は制服だろう。左手には両刃の剣、銀の短髪、少しばかり大きな声が特徴の男だ。
「ゔぉお゙い゙、そいつァ出来ねぇなァ゙。敵勢力の拠点にいた得体の知れねぇ奴を、関係ないからさようなら、で帰せる訳がねェだろォ゙!」
「あなや」
さて、それは困った。宿の主人に夜更けには帰ると言ったのだが。……それに戦装束も刀装も宿に置きっ放しだ。うむ。
「避けられる戦いならば避けるのみ、だ。帰さぬと言うならば、俺と宿まで着いてきてもらえるか?」
「……、
はあ゙!?」
「も、戻ってきたのかアンタ……!無事だったんだな!」
「おう、今戻ったぞ店主殿。何、じじいの散歩だ、何が起こるという訳でもあるまいよ」
「じじい……ってアンタまだ若ぇだろ……?!」
「はっはっは」
どうやら店主殿は俺を心配してくれていたらしい。悪い事をしたな。
急だがチェックアウトをして、荷物を抱えて外へ出た。また来る、と口にして。
「もう人攫いは無くなるだろう。また何か不穏な事があれば言ってくれ、店主殿」
「いやはや、すまぬ。待たせたな」
壁に背を預けるは、地下で会ったあの男だ。
今は腕から剣を外し、町に馴染むシャツとパンツ姿である。
朝日に照らされて男の銀髪はきらきらと輝いて見えた。
「スクアーロ殿」
「……ああ゙」
鮫のような男だ。血の匂いを辿る様、今にも喰らいつかんと言わんばかりの眼光。
名は体を表すとはよくいったものよ。
「では案内を頼む」
彼には、俺は流れの傭兵だと伝えた。この地には踏み入れたばかりで名は知られていない、と。
「ジャッポーネかぁ゙?」
「日ノ本の出であるのは確かだぞ」
俺は刀だからな。先の発言に嘘はない。
飄々と笑いながら横並び。
背後を取らせるにはあまりに危険な手練。理解しているが為の距離感。足運び。
良い、剣士だ。
「よきかな」
「……あ゙?何か言ったか?」
「さてな。……此処から車に乗るのか?」
「ああ。目隠しをしてもらうが、文句は言わせねぇぞぉ゙」
「うむ」
拠点の場所がバレるのは危険なのだろう。しきたりには従うとも。
大人しく目隠しと手の拘束を受けた三日月を連れ、黒塗りの車は走る。
膝には腰に下げていた、布に覆われている刀が置かれている。
「……見るか?」
「!」
「視線を感じてな。先も俺の刀を見ていただろう?」
ゆるりと弧を描く口元に少し気不味げに視線を逸らしながら、差し出された刀を手に取った。
「……オレが言うのも何だが、そう簡単に自分の得物を人に手渡すんじゃねぇ゙」
「ははは、怒られてしまったか。……まあ、お主ならば心配は無用だろう?……純然たる剣士なのだから、正面から打ち破る事を望んでいる」
「……」
やりづらい奴だ。好々爺然とした、肝の据わった男。
鍔を押し上げて刃を抜く。
キィン、と澄んだ音ともに芸術品とさして変わらない美しさの刄が現れ、思わず暫し見蕩れた。
否、芸術品というには、この刀はあまりに鋭過ぎたが。
「……薄いな」
「刀とはそういうものよ。叩き斬る、というよりも斬り裂く」
湾曲したそれは、太刀といったか。
嘗て見たカタナの数段上をいくだろう斬れ味を、見ただけで感じさせた。
「銘は、あるのかぁ゙?」
「ああ。……三条、三日月宗近。それがその刀の
「!」
その名は、男にとって重要なのだろう。明らかな気配の変化に視線を一瞬這わせる。
「三日月と三日月宗近、か」
「俺にぴったりだろう?」
刀に触れた事の無い者すら手を伸ばさせる魔性、それを扱う卓越した技を持つ美貌の剣士。
飄々と笑う三日月に、オレは得物を返す。
「おお、ありがとう」
「……精々大切にしやがれ。その剣を奪われないようになァ゙」
「心配してくれるのか?スクアーロ殿は優しいな」
「っ?!
ゔぉ゙ぉおおい゙!!?頓珍漢な事言ってんじゃねぇ゙!!!」
少なくともそれは、泣く子も黙るヴァリアー暗殺部隊の幹部に言っていい言葉じゃねェッ!!
車から下ろされ、森を少し歩いた先。
「此処が拠点か」
拠点、というより悪の根城と言っていい気もするが。
洋風の屋敷は豪奢ながら全体的に黒く、そこらじゅう血の匂いがした。よく見れば壁にも血痕が残っている場所もある。
俺の表情に何を思ったのかスクアーロ殿は鼻で笑う。
「行くぞぉ゙」
「うむ」
内装も、無駄を省きながらも品があるように見受けられる。置かれた絵のひとつ。不思議と割れ物は少ないが。
今更だが、正装しなくていいのだろうか?
「格好なんざ気にする奴は……1人居るが。大丈夫だろォ゙」
お前はあくまで被疑者……そして"候補"だからなァ゙。
「候補?」
「開けるぞぉ゙」
スクアーロ殿から連絡が入っていたらしい。その部屋には幾人かの強者が俺に視線を向けた。只人ならば身体を竦ませかねない、恐ろしいばかりの冷徹な観察の視線。
「ム……彼がスクアーロも認める剣士かい?」
「ししっ!刻みがいありそー」
「中々イケメンじゃなぁい!」
うむ、面妖な。
強面はともあれ、赤子やら少年やら、女人の言葉遣いの男等、キワモノばかりか?
「お初にお目にかかる。俺は三日月と申す者だ」
「……、……報告通りだね」
周りの反応が興味本位から微妙なものになる。
なにか間違えたか?スクアーロ殿に振り返る。
……そういうところだそうだ。
「……私達の殺気を受けてその様子なら、一般人ではなさそうねぇ」
「うむ。日ノ本の田舎の田舎の方で傭兵をしていた。見識を広めよとの事でな、こうして外つ国までやってきた次第よ」
故に情勢などさっぱりだ、と笑って言えば彼らの間で何かしら視線でやり取りがあった。
「……ボンゴレファミリーに聞き覚えは?」
「下町で少しばかり。何でも規模の大きなまふぃあと聞いている」
実の所、"規模の大きい"程度ではない話というらしいが、この時の俺は呆れたような彼らの様子に、ただ疑問符を浮かべるだけだった。
紆余曲折あって暫しの間食客として屋敷に滞在する事となった。俺も無知ではない。体のいい拘留だろう。今後何か大きな事を起こすという予兆のようなものを、屋敷の者から感じた。
こと、その意志が強いのは、幹部だろうあの強者のいた部屋の奥、強き気配だろう。
荒々しく、支配し染め上げるような、燃える斜陽。紅き炎。
「あのような、自身をも燃やしかねない気を持った者の末路は知った事だが……」
ゆるりと用意された部屋の椅子に腰掛けて、微笑。
「あの輝きを失うのは、少し惜しい」
あの卓越した剣を持つ男を野放しにすれば計画に支障が出る。
そう判断したスクアーロにルッスーリアは問う。些かの私情もなかったとは言わないが。
「彼、貴方が警戒する程のものなのかしらぁ?」
私今回の任務は別任務だったから何も知らないのよねぇ、というルッスーリアにベルフェゴールは特徴的に笑う。
「王子力量とか知らねぇけど、厚さ10cmの鉄壁ぶった斬るなんてフツー出来ねぇって。馬鹿力かよ」
「間違いなく達人級だぁ゙。力だけじゃあんな傷は出来ねぇ゙」
「あらまぁ」
2人がそう言う程なのね、ルッスーリアは驚きに口を手で覆う。その陰でレヴィが先の三日月の態度に強者の威厳を感じて眉間の皺を深くさせた。
「ム……僕も一瞬だけ見たよ。直ぐ見失ったけど」
資料になかったから逃げ出した一般人だろうと思ってスルーした。
……。
「スルーすんじゃねぇ゙!!今回の任務は一般人の救出だっただろぉ゙がぁ゙!!」
「知らないね、それはスクアーロの仕事だっただろ」
仕事の範囲外の事はしない主義なんだ。金にならないからね。
マーモンはそっぽを向いた。
「怒られてやんの」
「そういうテメェもだベルぅ゙!!!誰が味方にも斬り掛かれと言ったぁ゙!!」
「げ。とばっちり……。……知ーらね。だってオレ王子だもん。しししっ」
「ゔぉ゙ぉ゙おおお゙い゙!!……ッがぁっ!?」
突如飛来したウィスキーの瓶がスクアーロの後頭部に衝突した。
「てめっ……ザンザス!!何しやがるっ?!」
「黙れ」
奥の部屋の扉が音もなく開き、その主がゆっくりと姿を現したのだった。
怒りを宿し燃え盛る紅い目の男。
「おい、奴を雇え。金なら言い値で出す」
「!」
「はっ、承知しました!」
「了解よぉボス」
その男、ザンザス。燃ゆる紅き斜陽の男。
男は止まらぬ。男自身が全ての頂点に立ち、全てを支配するその時まで。
取り敢えずここまで考えた。
お前雲の幹部な!!!ぴったりだろ!!!
雇われだから飄々と日常編に顔出せばいいと思うよ!!!
雲雀さんハピバ!!!(ついで感)
20180721/連載化したので前書きを訂正しました