月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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待たせたな!(4分の3死に)

捏造設定が噴火するよ
並盛にいるなら、剣士として、この話は逃せないかなぁと。

8ヶ月目の話。


第13話

振り上げて、振り下ろす。

体幹を意識し、指の先まで思うように動くように。

空を縫うように、剣先を置く。

繰り返し、繰り返し、繰り返し……。

 

「な、なあ、最近の独眼竜先生……ガチじゃね?」

「うん……」

「なんか、かっこいい……」

 

気付けば額からは滝のような汗が滴っていた。止めていた息を深く、ゆっくりと吐き出す。

 

「お疲れ様、政宗くん」

「師範代」

 

タオルを渡され、有難く受け取る。

 

「気合いが違うね。何かあったのかい?」

「ああ。……俺も負けていられないな、と思ったんだ」

 

刀と同じ重さになるよう重りを付け、まるで刀を研ぐように、一挙手一投足にまで気を遣り、より鋭く、より速く、より丁寧に。

 

「本気で鍛え直さねば、彼に追い抜かれてしまうやもしれんのでな」

 

今にも思い返せる。

傷はとうに癒えたが、あの最後の鋭き一撃。

あの一瞬、彼は【先生】……プルトーネを超えたのだ。

それが、俺に剣修羅への道を歩ませんとする。

……まあ、俺には主殿がおられるからな。真の意味で鬼となる事はないが。

人は何か守るものがあるからこそ強くなれる。それは物である俺も同じであるのだ。

 

彼はきっと俺を超えるだろう。その才は十分にあった。

だからこそ俺は彼の壁であろう。彼が足を止めてしまわぬように。常に彼よりも上回ってみせよう。

 

「はっはっは。俺も案外負けず嫌いだったようだぞ、師範代」

「えっ。全然そんな風には見えないよ?」

「そうか?」

「うん。……まるで、その子が自分を超える日を、凄く楽しみにしているように見えるなぁ」

 

ああ、そうだな。俺はきっと、次に手合わせする時、勝っても負けても笑うのだろう。

 

「まあ、彼は剣士ではないのだがな」

「へ?!」

 

 

 

 

 

そういえばここ最近忙しくて、この店にも寄る事はなかったな。

昼時、ふと通り過ぎ掛けていた店を見て久しぶりに外食にしようと足を向ける。

井戸端会議によく参加させてもらっているのだが、有難い事に近所の御婦人がよく夕餉のおかずを分けてくれるのだ。その為外食する事はあまりなくなり、嘗てのように自炊していたのだが、月に何回かはとある店で食事をとっている。

 

「邪魔するぞ、ご主人」

「いらっしゃい、!おお、政宗くんじゃねーか!」

 

引き戸を開き暖簾を潜る。

此処は竹寿司。いつかベル殿に勧めた、俺が太鼓判を押す美味い寿司屋だ。

チェーン店ではない個人経営の回らない寿司。回転寿司に比べれば金額は割高だが払えない程ではない、その味は期待を裏切らない。

 

「席は空いているか?」

「おう!カウンターで良かったよな」

「うむ」

 

背負った竹刀袋を隣の席に掛け、椅子に腰掛ける。

ご主人の視線が些か気に掛かったが、お互い口にする事なく"店主と客"の顔で。

 

「最初は……ヒラメが良いな」

「あいよ!」

 

本格的な寿司屋の良い所は目の前で捌いてくれる事よな。

流麗に閃くそれはまさに芸術の域。瞬く間に解体され、大きめに切られた白い身が、ふわりと握られた米の上で煌めくようだ。

 

「ヒラメおまち!」

「ああ、ありがとう。では……」

 

醤油は鮨種に少しだけ。素材の味を味わうにはこれがいい。

箸でそっと口に入れる。

ほろりと米が口の中で解け、噛む度に魚の旨みがじんわりと染み渡る。その合間で山葵のぴりりとした香りが口に広がるのがアクセントになってたまらない。

ゆっくりと味わい、緑茶で後味をさらう。

 

そして一息。

 

「……ふはぁ……」

「相変わらず美味そうに食ってくれるなぁ、政宗くんは!こっちの職人冥利に尽きるってもんよ」

「美味いものは美味いのだ、頬も緩むというもの。ご主人の腕が良いお蔭よな」

「嬉しい事言ってくれるねぇ!ほら、次は何にする?何なら今日あがったばっかりのとっておきも出すぜ!」

「それはそれは、楽しみだ……!」

 

 

 

腹八分目あたりで留め、ご主人と言葉を交わしながら余韻に浸る。

そこで覚えのある気配を感じ、店の入口が開く音がして振り向いた。

 

「ただいまー、……あ、政宗さん!どもっす!」

「おお武か。おかえり」

 

野球のバットを肩に、ご主人似の黒髪の少年が礼をする。

彼の名は山本武。快活な野球男児だ。

俺と彼が会ったのは、気紛れにグラウンドのある公園に訪れた時である。

武と遊んでいた年下の子供たちの中に【独眼竜先生】を知る子がいてな。その繋がりで俺も野球の仲間に入れてもらったのだ。まさか、行きつけの寿司屋の息子とは思いもしなかったが。

いやはや、世間は狭いな。

 

「今日も野球か?」

「はい!オレにはこれしか取柄ないですから!」

「こらこらそんな風に言うものではないぞ。人生まだまだこれからだ。野球程ではないやもしれんが、お主ならばこれから取柄の一つや二つ見つけられる筈だからな」

「へへ……!ありがとうございます!」

 

照れ臭そうに笑った武はふと椅子に立て掛けられた竹刀袋に目がいった。

 

「あれ、今日は【独眼竜先生】帰りですか?」

「ああ、まあな」

「【独眼竜先生】?」

「政宗さんって並盛道場で剣道教えてるんだってさ!」

「教えるといっても俺も我流だからな。構えと振り下ろしと立ち回り程度だ」

「で、名前が政宗だから【独眼竜先生】」

 

持ってもいい?と聞かれ、重いぞと返答。

 

「っうわ!これ普通の竹刀じゃねーの?!」

「重りも入れているのでな」

「へえ!……そういえばオレ政宗さんが剣振ってるとこ見た事ないんだよな〜」

 

見てみたい!と興味津々の武を窘めるように、ご主人が武の名を呼ぶ。

 

「まあまあ、俺は構わんが、場所はあるのか?」

「親父!奥の道場使っていいよな?!」

「はぁ……良いけどよ、あんまり無理言うもんじゃねぇぞ、武!」

「はーい……」

「ほら、とっとと着替えてきな」

「……おう!」

 

慌ただしく階段を上っていく武を微笑ましく思う。

 

「いやぁ、すまんなぁ政宗くん」

「……こちらこそ、俺なんかを神聖な道場に入れて良いのか?」

「自分の事を"なんか"なんて言っちゃいけねぇよ。気にすんな。……もしかしたら、アンタが抱えてる何かが解消するかもしれねぇからな」

 

いや、オレ達、と言った方がいいか。

一瞬鋭い視線を交わし合って、同時に不敵に微笑んだ。

 

「ならば、いっそこちらから頼もうか」

「いいって事よ!」

 

 

 

 

 

袴を借り、手持ちの竹刀を抜く。

半年間振り続けた手に馴染むそれは在りし日の思い出を思わせた。

真剣と竹刀は大きく異なり、剣道に精通すれば真剣を持った時物を両断出来るかと問われれば無理だと答える。

持ち方も重さも何もかもが異なるからだ。

 

 

─────刀を振るには、お前はまだ早い

─────俺達のように戦場に出るなど、まだ考えなくて良い

─────せ、せんすがないとかいう訳ではなくてだな?!……故に落ち込んでくれるな

 

─────……、まあ、なんだ。これは俺の我儘だ

─────例えその身が果てぬものでも、お前が傷付く所は見たくはない

 

 

……嗚呼、朋友よ。

俺は随分遠いところまで来たようだぞ。

……そういえば世界も時間も違ったな、はっはっは。

今や俺の方が年上か?いや、この身体はお前の物故、やはりお前の方が年上か?うん?

 

「政宗さーん!」

「……ああ、今行く」

 

 

 

「ん、ご主人が相手をしてくれるのか?」

 

目の前には竹刀を手にしたご主人の姿。

どうやら昼のピークが過ぎた為、一旦店を閉めて此方に来てくれたらしい。少し眉根を下げて一言謝罪と礼をする。

 

「いいってことよ。相手がいないのも味気ねぇだろ?」

 

……手合せで済みそうもないと思うのは俺だけか。

そう、このご主人。名を山本剛というのだが……実はかなりの剣豪なのだ。

実際に剣を受けた訳では無いのだが、その立ち姿や気配は闘者のそれ。スクアーロ殿や俺に通じる、分厚くなった掌の剣だこ。……間違いなく人斬りの匂いがした。

その歩みは今はもう止まっているが、然し研鑽は未だ終わっていない。

だから実は、少し楽しみなのだ。

 

「試合形式に則って、三本勝負二本先取でいいかい?」

「うむ。……、……ところで、防具はなくても良いの、」

 

か?

 

と、最後まで口にする事なく。

眼前で止められた竹刀の剣先に言葉を止めた。

 

「鈍ったといえど、寸止め位は出来らぁな」

 

そっちもだろう?と挑発めいた視線を向けるご主人に口角を上げる。

 

「じゃ、オレが開始の合図するのな!」

「頼んだぜ武ぃ!」

 

 

 

白線の内側、提げ刀から帯刀に持ち替え開始線まで3歩。

剣を抜き、剣先を交わして蹲踞。

いざ、尋常に。

 

 

「─────はじめ!」

 

 

スパァァァアン!!!

 

同時に踏み込み、同じ軌道を描いたそれは凄まじい音を立てて打ち合い、鍔迫り合った。

 

「恐ろしいな。受け切れなかったら頭が割れていたぞ?」

「どの口が言ってんでぇ。速さで言えばお前さんのが上だったろ」

「そうだったか?っと」

 

摺足で体幹を維持したまま下がり、物打ちを合わせて隙を窺う。生半可なフェイントは相手には通じぬとお互い悟り、距離を保ったまま、タイミングを見計らう。

 

暫しの頓着の後、ご主人の剣先がブレる。

 

「ふッ……!!」

 

鋭い呼気と共に放たれた瞬速の突きが、顔のあった場所を貫いた。顔を傾ければ容易に避けられる、など。有り得ない。

 

その目に宿る眼光が物を言う。

……これは、恐らく誘われているのだろう。

 

「……」

 

浮かぶ笑みをそのままに剣を弾き、上段に振り下ろす。

 

「ハァ……ッ!!」

 

バシィィイイン!!

 

何千、何万と振り上げ振り下ろし続けた迷いない太刀筋は、ご主人の竹刀を重く打ち据えた。

 

「ッ……流石、」

 

構えを直そうとした僅かな間隙を容赦無く突いて、その腕に軽く物打ちを当てる。

どうやら衝撃に腕が痺れたらしい。それでも構えを戻すまで数瞬しか掛からなかった彼は、違いなく達人だ。

 

「次だ……!!」

 

ああ、これは試合だというのに。

……滾ってしまいそうだ。

 

噴き出した闘志。己が呼気に小さく笑声が混じる。

スクアーロ殿にも見せてやりたい。この時代、ぬるま湯に浸かり平和ボケした極東の国に、このような剣豪がいるのだと。

 

 

立合いは急激に熱を増し、尚、燃え上がるように苛烈と化していく。

互いの表情は獰猛、且つ子供のように目を輝かせ、唯唯無邪気にその手の剣を、武を、ぶつけ合う。

彼はこれくらいは受けられるだろう。

彼はこのくらいは流せるだろう。

もっと、もっと、もっと……ッ!

 

抜き放った刃に自身の刃を合わせ、相手の刀ごと斬り下ろしたが、懐に入り込んだ"剛殿"は危険も承知で接近し、刃を上に向けて振り上げる。

 

「ッ、!」

 

二本目は剛殿の逆風に身を刈られた。

 

三本目。

その頃には、型は僅かに崩れ、まさに死合へと変わる寸前であった。

気配は研がれ、より疾く。己が誇る武術を─────と、なり掛けて。

先ず、剛殿の気配が乱れた。

割かれた意識の先に察しが付いた。

成程。……彼が修羅とならなかった理由が分かった気がした。

 

俺は大きく後退し息を深く吐き出す。

 

「っ、政宗くん?」

「熱くなってしまった。……これは剣道であったな?」

 

暗に、これ以上は"しない"という意思表示。

剛殿は気遣いと取ったのか、苦笑して一言謝った。

 

「すまねぇな、」

「はて、何がなにやら。仕切り直しとゆこう」

「ははは……敵わねぇや。……応ともッ!」

 

剣気一喝。

空気は血腥いものではなく、再び神聖なる立合いへ。

 

「親父も政宗さんもすげぇ……!」

 

そう、子供の前でやる事ではなかったのだ。

 

 

 

額に浮かぶ汗を拭い、2人して武の元に歩む。

 

「すごかった!!しぱーんって!すぱぱぱって!」

「はは、そうか。そう言ってくれると嬉しいな」

 

オレにも出来るかなー?と言う武に剛殿は少し眉根を下げる。

 

「そしたらオメー、野球はどうすんだ?腕怪我したらバット持てねぇぞ?」

「あー……、そっか。じゃあムリだわ」

 

けらけらと笑う武に毒気が抜かれたように、2人して顔を合わせて苦笑する。

 

「まあ、お前はお前の道を真っ直ぐ進んでいけば良いと思うぞ」

「無茶だけはするんじゃねぇぞ?」

「おう!」

「では俺は帰るかな。世話になった」

「おう、気ィつけて帰んな!」

 

 

 

 

 

夜半、人目を忍んで昼間に訪れた裏の道場に足を踏み入れる。

しん、と沈み込むような沈黙を明るい満月が照らしていた。

その中、禅を組む1人の男の姿。

 

「来たか」

「ああ、来たぞ」

 

去り際、俺は彼に言われたのだ。

夜半頃にこの道場で、再び会えないか、と。

 

「武は、剣の道には行かぬようだな?剛殿」

「まあなぁ、アイツの忘れ形見だ。こっちの都合で無理矢理歩かせるようなもんじゃねぇよ」

「……そうか」

 

愛した人がいるからこそ、か。

裏側を、屍山血河の道を。歩ませたくはない。

自分の足で、自分の手で、歩き、切り開いてほしい。

そも、剣とは覚悟なくして極められるものではないのだ。

 

「その剣、その研鑽。絶やすのは惜しいが……お主がそう言うのであれば、それで良いのだろうな」

「……それなんだが、アンタ。……継いでみねぇか、この剣を」

 

これには流石に目を見開いた。

 

「……。正気か?」

「オレだって師から受け継いだ剣を、今代で絶やすのは惜しいと思ってんだ。……他の継承者はとうに絶えた。自らを最強と謳い、狙われ、自身を追い込み、研鑽を積み、滅びゆく運命の剣。だが、な。……戦場で絶えるならまだしも、こんな形で終わらせちまっていいのか……ってな」

 

それは自身の全てを明け渡す事に違いなかった。否、それだけではない。これまでのその流派の全てを、捧げる事と同義だ。

 

「このご時世、血に塗れた殺人剣なんて継ぐ奴ァいねぇ。寧ろ継いじゃいけねぇのかもな……」

 

だが。……それでも。

 

「アンタを見て、決めた覚悟が揺らいじまった」

 

この剣の、その先が見たいと。

剣鬼にならなかった事を後悔など……自分の愛する家族すら否定しかねないという事を。こんな思いなどしたくなかったというのに。

彼は深く絶望し、同時に歓喜してしまった。

俺にならばその剣を振るえると。

俺にならばその剣が継げると。

 

「斬った事、あるんだろう?八朔政宗」

「……」

「……楽しそうに剣を振るうアンタに、嘗ての自分が見えたよ」

 

あの頃に戻ったようだった。唯、一心にその剣を振るう、嘗ての自分に。

気付けば同じ顔をしていた。

幼き剣修羅。

人の命を摘んで尚、目の前の全てを斬り捨て、この剣の完成を夢見ていたあの頃に。

剛殿はしかと、俺に目を向けて言う。

 

「アンタになら、託せると思ったんだ」

 

後悔。後ろめたさ。口惜しさ。……再燃した熱意。

 

「オレの代わりに、この剣を……」

「悪いが、それは出来ん」

 

俺は同じ剣士として、その言葉を吐かせる訳にはいかなかった。

目を見開いた剛殿に、目の前まで歩んで座る。

 

「その(流派)のその先は確かに滅びであろう。自身の代で絶やす事の苦痛は、俺の想像以上だろう。だが、お主。他ならぬお主が積み上げてきた"自身だけの剣"を、他者の手に"全て"委ねるのは……それは自身の剣への冒涜に相違ない事だ」

「っ!!」

 

それは、流派の継承とは違う。

師として子を思うというそれではない。

 

──────自分の剣を、自分で積み上げてきた剣を。

此処で終わらせたくはない──────

 

……それは妄執であると、俺は告げる。

 

 

「その剣には確かな信念が宿っている。古よりの確かな歴史。重み。伝えられし技。宿りし業。……そしてそれらは時に重圧となる。自身が別の道を歩むと覚悟したとしても、思い入れが強い程、それを断ち切るのは神でも難しい事だ。……その道を歩む者への羨望も致し方ない。……だが、な。剣への妄執は、他ならぬその剣を腐らせるだけだぞ。山本剛」

 

代わりに、などと。

継承者であるお主が、言ってはいけない。

 

「お主の掌には何がある。愛しい者か、人斬りの剣か。お主の内には何がある。父性ありし男か、後悔に潜む剣鬼か」

 

俺は立ち、"内側から"刀の柄を引き摺り出す。

 

「剣を持て。その内に秘めたる剣鬼、此処で斬り捨てる」

「!」

 

剣に熱中した時、それでも子に意識を遣ったその父の背を。

妄執の剣鬼に渡す訳にはいくまい。

 

……それを引き出してしまった俺の。

立合いにて希望を抱かせ、焦燥を思い出させてしまった俺の、責であると思う。

まあ、身勝手やもしれんが。

 

 

「……お前の技は、この俺が内に留める故。死力を尽くし、全力で来い」

 

それは、そう。確かに継承とは違う。

だが無駄ではない。虚無にはならない。

故に、お前の全てをぶつけてこい。

未だ至らぬ身であれど、俺がしかと受け止めてみせる。

 

刮目し、ほんの少しだけ微笑んだ彼は、暫し瞑目し、今宵ばかりの剣鬼となった。

 

 

「……時雨蒼燕流8代目当主、山本剛」

 

その手に握られた竹刀は、刀身が潰れ、黒鉄の刄金を晒す。

俺は内側より抜きさった刀を腰に携え、鞘から抜刀した。

 

「八朔……、……否」

 

ああ、ボス殿。スクアーロ殿。皆。

今この場で真名を名乗る事を赦してくれ。

尊敬すべき剣豪には、せめて誠実でありたい。

 

「……太刀 銘三条、宗近作、三日月─────三日月宗近」

 

眼鏡とカラーコンタクトを外して放る。

今は、これは要らぬもの。

 

「いざ尋常に……」

 

 

『勝負ッ!!』

 

 

 

 

 

時雨蒼燕流。戦国時代に生み出された殺しの剣。

継承者は自ら最強を謳い、それを狙う刺客から守り抜く事を宿命付けられる。

即ち、その中で技を研鑽し、油断なくあれ、という事。

才能のある継承者が途絶えた時、その技の全てが失われる危険性もある事から、滅びの剣と伝えられている。

継承法は、師による見稽古のみ。

才ある者以外は継承者にはなれない、というのが実態だ。

 

 

気迫、殺意、剣気。

入り混じるそれらは、一般人が触れれば忽ち失神、呼吸困難に追い込まれる程の密度で編まれている。

その中では殺気を読んで後の先を取る事は出来ず、純粋な力技量で首を断ち切らねばならない。

 

金光と黒鋼が幾条にもぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げる。

邪魔するものは何も無い。

初めは苦渋、真剣な表情を保っていた2人は、昼間と同じく、しかしそれ以上の鬼気の中、やはり幼子のような笑みを浮かべて刄金を打ち付け合っていた。

 

楽しいのだ。堪らなく愉しいのだ。

互いに剣修羅の道を歩めぬ身。

 

1人は仕える主の為に、器を形作る朋友の為に、誰にも負けない強さを望みながらも。

1人は愛する家族の為に、命より大事な剣を捨てようとして。

 

今だけは、宿業すら投げ捨てて命を削り合う。

 

 

剛が刀を両手で持ち、三日月に突きを放つ。

 

─────攻式一の型、車軸の雨。

 

三日月はそれに迎撃しようと、左下から右上に刀をカチ上げる。

三日月の迎撃態勢に剛は勢いはそのままに、流れるように身体を捻り上げ、中斬りを放った。それに反応した三日月は目を見開く。このまま刀が合わさる、と思いきや、その感触は空を切ったのだ。

 

─────型接続、攻式五の型、五月雨。

 

剛のその手には刀は無く、逆の手に渡っていたのだ。

後に引くような剣戟が、刀を振り切った後の無防備な三日月を襲う。

身を引くにも間がない。三日月の行動は早かった。

 

手首を回し、床に突き刺すように刀を振り下ろし、その剣戟の軌道上に置いて即席の盾にしたのだ。

盾、だけの為ではない。

 

「っぜぁぁッ!!」

 

深深と突き刺した刀を素早く持ち替え、体を捻りながら振り上げたのだ。

膂力の乗った凄まじい斬撃は本人の技量も相俟って床をするりと斬り、勢いのあった剛の剣閃に応対した。

 

「ぐッ……!」

 

跳ね飛ばされそうになる刀を握り締めた剛は勢いのまま背後に下がり、息を吐く間もなく三日月に飛び掛かる。

型に忠実、且つ柔軟に繋げる戦場の機転。

それを難なく跳ね除ける力とそれ以上の技量。

 

全力を掛けても、それを上回る程の差。

 

「ふ……はは、ははは……!」

 

挑むというのは、此処まで愉しいものだったか。

 

鬼気の宿る刃を悉く跳ね除け、攻めの姿勢にて対する三日月。

彼もまた、ここにきて技量を跳ね上げる剛に舌を巻く。

一種、剣に身を捧げた者の末路。

 

それはあまりにも甘美。築き上げた屍の山をものともせず、自身をより極めんとする求道。

 

その刀、あと10年もあれば、分霊である身であれど千年を生きる自分に届きかねない。

─────それが酷く羨ましい(惜しい)

 

「ははは……はははははっ」

 

剣鬼を斬ると言った手前。自らも剣鬼に堕ちる事は許されない。

だが、剣を嗜む身。……笑みが零れてしまうのは仕方の無い事。

躱すも寸前、互いに大小あれど傷を負い、尚も笑んで刀を振るう。

 

 

 

10、100……何合も刄金を交わせた2人は惜しみながらも、荒くなった息を整え、最後の構えをとる。

 

「……」

 

言葉は不要、最後の一撃に己の剣の道、全てを込める。

 

「時雨蒼燕流 攻式八の型……!」

 

最も自分が信を置く技。

剛は前に出る。

対し、三日月は自然体。刃を上に、右足を1歩前に、迎え撃つ。

 

 

「─────篠突く雨(しのつくあめ)!!」

「─────月明の太刀(げつめいのたち)

 

 

自らが友の窮地を救う為に生み出したという剣と、唯一友より直々に享受された剣。

 

突き上げ、掬い上げるような軌道を描き、2つの剣は重なり合う。

 

 

 

 

その首に突き付けられた刀に、いっそ安らかな程の笑みを浮かべた。

 

「剣鬼。その頸、討ち取った」

 

跳ね飛んだ刀は柱に突き刺さり、担い手の掌から離れた刀は元の竹刀へと変わる。

残心、三日月は刀を納刀する。

 

「その名、この生潰えるまで憶えておく」

「……そいつァ嬉しいね。剣の神様に名を憶えてもらえるなんてな」

 

その言葉に三日月は何も言わず、唯、月のように微笑む。

 

「刀……時雨金時といったか」

 

静かに竹刀に手を伸ばし抜き去ると、三日月は刀身を指で撫ぜた。

 

「これはお前を主として慕っているとみた。……使い手を選ぶのは、代々の継承者の誇りを護る為。……故にこれが最後だとしても、これには悔いなどない」

 

三日月に握られた竹刀が、黒鉄を剥く。

剛はその様子に目を見開いた。

時雨金時は時雨蒼燕流の型にのみ刀身を剥く。それが規定の型以外で刃を晒すという事は。

 

「お前の手の中で終わる事を、この刀は受け入れている」

「っ……」

「無論、新たな担い手を待つ所存でもあるようだがな?」

 

良い道程を歩んだものだ、と。

三日月は竹刀に戻った時雨金時を剛に手渡すと、自らの刀を内側に戻して去っていく。

 

「ホント、アンタが継いでくれればなぁ……」

 

清々しい顔で、冗談めかして笑う彼の目には、薄らと感傷が滲んでいた。

 

「はっはっは。残念だ、俺にはもう師が居るのでな」

 

三日月も、その声に呵々と笑声を上げて、振り向かず、白み始めた町の澄んだ空気に身を預けるのだった。

 

 

 

 

 

「現代の日ノ本にも強者がおったという訳よ。いやはや、久方ぶりに良い剣を見た」

《そういうお前も日本の剣士だろぉ゙》

 

今まで以上に声を弾ませてスクアーロに話す三日月。

スクアーロの声に少しばかり羨望が滲んでいる気がするのは気の所為か否か。

 

《オレと戦う時には、あの時より上を期待していいんだなぁ゙?》

「ああ。……はは、もしかすれば、スク殿は手も足も出んかもしれぬぞ?」

《抜かせぇ゙!その言葉、絶対ぇ゙後悔させてやんぞぉ゙!!》

「良きかな良きかな。楽しみにしているぞ」

 

似合わぬ挑発をする三日月は、やはり、あの時の死合に高ぶっているのだろう。

 

スクアーロは人知れず、この時の三日月と死合えぬ事を惜しんだという。

 

 

 

 

 

観察記録・其ノ捌

 

監視対象に異常無し。

A級戦闘能力を持った人物と遭逢。危険度特A級、対象の近辺での戦闘、諜報は避けるべき。その場合危険度はCまで下がる。

裏社会に変動なし。

少々治安の悪化が見られる。秘密裏に処理を行うか否か、判断を本隊に任せる。

報告は以上、監視を継続する。

 

 

 




ミカさんはマジ狩る★魔法青年(ステッキは刀)(血みどろ不可避)(そもそもじじい)

修羅道!修羅道!(六道にあらず)
なんで私は修羅の道に行くのだよ?!(半泣き)(半狂乱)


刀を内側(体内とは違う?)に仕舞える模様。
そうしないといざって時に取り出せないじゃん?このご時世帯刀してたら即御用よ?

ミカさんの月明の太刀
グラブルから。

山本お父さんの内心
捏造。8代続いた剣だよ?多分後継者は全部死んでるだろうし、自分で終わりにするって結構な覚悟いるよね。
そこに才のあるミカさんが出てきたら希望も抱くよね(尚ミカさんに継ぐ気はない模様)立ち回りの参考にはするだろうけどね。

剣鬼?きっとなるだろうなって。
忘れ形見?……だってお母さん出てないし……

久々に捏造が噴火しましたねぇ(今までの文から目逸らし)
漸く8ヶ月が経過しましたね。11月ですね。


それはさておき、この度お気に入り登録数が60を突破しました。
ありがとうございます(五体投地)
評価、感想も頂きまして、かなりモチベが上がってます
今までの私でしたらきっと、この辺りで挫折してエタってました(切腹)
この場を借りて名前を挙げさせて下さいませ。(敬称略)

かさね 鳳仙花 灯鼠 エキュー アカナ pio メディア ちくわぶ神 零崎毒識 朱那 nakia アリス☆ 黒トキ さらっち よもぎもち もももんがー 残念だったな、トリックだよ 莉愛 stkt 柚咲 水樹 @siesta 八雲朽葉 シオリ ( ̄ー ̄) サボテンアイス ペペサーレ まることバロン カリヤ 草薙剣 好き嫌い S-UG カイリード なりなりなりなりなり tnsn 結結 エナ 眠着鋼厨 雪村千鶴 怠惰な呪鬼 龍見 dragonヤマダ Doujikiri タケヒロ 灰原朔夜 亜衣 REBORN arin コバコバ メルヘム@ ミョー Aona no Kenri しょうゆらーめん

評価してくださった方々(敬称略)

芦屋 幸 柊雪那 しょうゆらーめん nakia 


大変ありがとうございました。
これからもミカさんの復活譚にお付き合い頂ければと思います。


ぬんぬんだって真面目にできるんだぞぅ!(台無し)
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