月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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11ヶ月目の話。

再戦の誓いが今、果たされる……!


第16話

 

町を歩いているとざわめきが静まり返る一角を見つけた。

平穏な町には似合わぬ、重く頭を垂れさせるような威圧感。

誰も彼も視線を逸らし息を潜め、それが過ぎ去るのを伏して待つ。

その様はまさに、腹を減らした肉食動物の標的にならぬよう、巣穴にて息を殺す草食動物だ。

 

真っ直ぐこちらに歩んできている姿が、漸く見えた。

 

黒い髪。黒い服。

棚引くように学ランを肩に掛け、刃物のように鋭い眼光を散らして歩く、1人の少年。

彼の学ランの腕には風紀の文字が掲げられ、手には鈍く輝く血濡れのトンファーが一対。

 

この並盛に住む者が誰しも、その名を知っている。

風紀を乱す者、群れる者。全てを叩き伏せ、鋭き牙にて噛み砕く。

この町の殆どを統べる風紀委員会の長。

 

風紀委員長、雲雀恭弥。

此処に復活と相成ったのだ。

 

 

 

……まあ、俺がやったのだが。

白いシャツの下に見えた包帯、擦れ違う時に香った血霞と消毒液のにおい。

どうやら先月の新年の挨拶が、入院期間を切り上げる程に気に食わなかったらしい。あなや。

……今までの不満がそれを機に爆発したと言っても過言ではないだろうな。

 

「これは、再び(まみ)える機会が近付いているという事か」

 

……ああ、あの者を相手に己が刀を振るいたい。

それは許されぬ事。ならば仕方の無い。

その時振るえる力を、最大限に引き出すのみ。

 

《はい、西川です》

「今日あたり、来るぞ」

《!》

「私は手を出さぬ。貴様ら、私に価値を示せ」

 

ぷつん。

携帯端末を胸元に仕舞い、俺はポツリ呟く。

 

 

「……、……今日は肉じゃがにしよう」

 

となれば買い物だ。

 

 

 

 

 

雲雀は内心の昂りのまま、風紀委員に調べさせた桃巨会の事務所に殴り込みを掛けた。彼は場所を聞かされた時点で思い出した。そういえば、此処の群れを咬み殺した事がある、と。

町に巣食うチンピラにしてはそこそこ強かった気がするが、雲雀にとっては誤差の範囲。あの黒ずくめが所属するにしては小さ過ぎる鞘だ。

雲雀は興味を失ったように嘲笑を零す。

雲雀の目にはもう桃巨会という群れは見えていない。その先、群れを隠れ蓑にしたあの男への足掛かりとしての物。踏台。そのような意識だ。

 

それを改めたのは事務所の扉を開けてからの事だ。

外装は変わらない、コンクリートの安っぽい四角い小さなオフィス。しかし中はそこそこ高価な調度品が揃えられている、品のある部屋だったのだ。

全体を洋風且つシックに。そこに待ち構えた男達の様相も、スーツ等に一変している。

チンピラヤクザ、ではなく、正統派マフィア。

構成員の纏う空気も、それに相応しく研がれている。

 

雲雀は多少、評価を変えた。

群れなければ外も歩けない弱者以下(狩る価値もない散らされるだけの存在)から、群れる事で身を大きく見せる草食動物(咬みごたえのある獲物)へ。

 

「此処、桃巨会ってヤクザの事務所であってるよね」

「ああ。間違いねぇよ」

「此処のボス、呼んで」

「言われずとも直ぐに来られる。暫く待て」

 

どうやら既に情報がいっていたらしい。

不愉快そうに鼻を鳴らし、勧められたソファーに腰掛ける。

 

「それ、アレの指示かい」

「……先生の、ご助言だ」

 

どうやらプルトーネは存外慕われているらしい。

雲雀の物言いに眉を寄せる男達を、雲雀は興味なさげに一瞥した。男達はあんまりな雲雀の態度に青筋を立てながら抑え込む。元来手の早い荒くれ者だ、今までならば彼我の差等投げ捨てて殴り掛かっていた筈。

それを抑えるのは、偏に会長である西川を思っての事だった。

 

─────容易に喧嘩をふっかければどうなるか……分かっておろうな?

 

そしてプルトーネのありがたいお言葉あっての事だった。思い出した男達の顔色はとても悪い。

 

 

 

数分後。雲雀は気配を感じたのか扉の外に意識を向ける。

 

「……待たせたようだな」

「君が草食動物達のボス?」

 

値踏みするような視線を意に介さず、堂々とした覇気を持って雲雀を見下ろす2人。副会長と会長、同貫賢治と西川智だ。

構成員は背後に回り仁王立ちしている。

 

「何用あって再び此処に来た?」

「分かってるんでしょ。……此処の特別外部相談役、出して」

 

お前達に用はない、と。そう言外に言う雲雀だったが、その目は確かに西川を見ていた。

嘗て、その目に映される事もなく、まるで埃を払うかのように無造作に散らされた彼からすれば、それは確かな進歩にも思われた。

 

「断る」

「なら、力ずくでも」

 

トンファーを手に立つ雲雀に、西川は表に出ようと背を見せる。

 

 

 

 

平穏な町の公園にて、構成員が出入口や周辺を固め、その中央で西川と雲雀は向かい合う。

 

漸く、この時が来た。

雪辱を晴らすこの時が!

この半年、西川は臥薪嘗胆の意志で自身を鍛え直してきた。

それは全て、この時の為だ。

 

─────恐らくお前は奴には敵わんだろう

─────経験はまだしも、お前と奴では戦闘の才が天地程の差がある

 

それでもやるのか、と。

 

 

「儂は、この時を半年前から待ち侘びとった」

 

この男に付けられた傷が、敗北を忘れるなと言うのだ。

この無念を晴らさずにいられなかった。

これは意地だ。男として、一矢報いてやらねば気が済まない。

それについて来てくれた組の者に、自身も漸く組の長としても生まれ変われたと思う。

……そして、どうしようもない自分達を導いてくれた先生の為にも。

 

「儂は報いねばならんのじゃァ……!」

「……そういうの、僕には理解できないね。……だけど、」

 

まるで肉食獣が牙を剥いたかのように、うっそりと獰猛に笑んだ雲雀は、確かに目の前の男を獲物として見たのだ。

 

「咬み殺し甲斐がありそうな、草食動物だ」

 

肩慣らしには丁度いい。

呟くようなそれは、確かに喜色の滲んだものだった。

 

「往くぞォ!!」

「……来なよ」

 

 

 

 

 

西川の戦闘スタイルは素手喧嘩(ステゴロ)。恵まれた体格を利用したそれは、彼が若い頃のそれを生かしたものになる。

 

当たらなければ意味が無い。機動力も直感も相手側に軍配が上がる中、それは何よりの関門になった。

ならばどうする。

 

「おおおぉぉぉぉッ!!!」

 

─────お前に戦闘の才はない。皆無だ

─────ハッキリ言うのぉ先生ェ……

─────故に、だ

 

相手に何かをさせる前に、させる間もなく、只管に打ち込め。

一撃一撃を必殺級に押し上げ、切れ間を無くす為に体力を付けろ。……限られた時間で鍛え、一矢報いるにはそれしかない。

 

 

愚直なまでに拳を放つ西川に、さしもの雲雀もやりづらそうに眉を寄せる。

 

1度西川の拳をトンファーで受けたのだが、身体全体をバネのように使って放たれる拳は、プルトーネの蹴り程では無いにしろ只管に重い。両腕で受けていなければトンファーを跳ね飛ばされていただろうという程だ。

 

それよりも、何よりも。

西川の鬼気迫るような気魄が、軽い気あたりを雲雀に与えるのだ。

 

雲雀は終始西川の拳を弾き、隙を窺う。

象と黒豹。まさにその図。

西川は自身が傷付く事を気に止めず、唯相手を打ち倒さんとする。

短時間だというのに、彼には浅い裂傷と滂沱の汗が流れ落ちた。

 

対する雲雀は─────無傷。

 

それはこの勝負の行く末を如実に表していた。

それでも、諦める事はしない。

 

「はぁ……っ!は、ぐ……ッラァ!!」

「……」

 

西川の体力はとうに底を尽き、殆ど気力だけで動いていた。

雲雀はひとつ、深く呼気を吐くと、鋭くトンファーで拳を下からカチ上げる。

 

「ぐっ……?!」

「沈め」

 

ガラ空きになった右側に、雲雀は大きく身体を捻らせて鳩尾にトンファーを叩き込んだ。

 

ドゴォッッ

 

「ぐぁ……?!」

 

強烈なボディーブロー。西川は遂に膝を着く。

それを見た雲雀は構えを解いてただ見下ろす。

西川は腹を抱え、尚、雲雀を血走った目で睨む。

 

「ま、まだじゃ……!まだ、儂は……ッ!」

「……中々楽しめたよ、」

 

……確か、西川智とか言ったね。

 

「ッ!」

 

悔しいと、そう思ったが。その言葉に西川は目を見張る。

今、己の名を呼んだか、此奴は。

 

「だけど君、才能ないね。……あの男に此処は不相応だ」

「ぐ……ッ」

 

そのような事は、西川が1番良く理解していた。

 

プルトーネは西川達桃巨会を利用しているに過ぎない事など。

気紛れに手を貸してやったに過ぎないという事など。

いつでも自分達を切れる事など。

初めは西川自身、利用してやるつもりで契約したのだ。

……だが、今は少なからず彼に感謝し、慕っている。

 

「……お前は、先生に会って何をしようとしちょる」

「咬み殺すんだよ。ぐちゃぐちゃにして、地を舐めさせて……僕の下で精々扱き使ってあげる」

 

プルトーネ。

底知れない闇を思わせる、死神のような男。

殺意だけで人を殺せるような埒外の存在。

その身でその力を味わったにも関わらず、ギラついた目でそう言う雲雀に、西川は確かに恐れを抱いた。

 

「……、く、はははは……成程、儂らが敵わんのも無理もない事じゃったか……」

「どうでもいいから早く呼んでくれる?じゃないとこの組、本当に潰すよ」

「全く、最近の若いもんは……。……同貫、先生を、」

 

 

「その必要は無い」

 

『!』

 

 

傍に控えていた見届け人の同貫の横に降り立つ黒衣。

 

「せ、先生っ?!」

 

公園に枝葉を伸ばしていた木の上から、彼らの戦闘を見物していたのだった。

 

「気が済んだか、西川」

「……はい」

「ふん……負けた癖に清々しい顔をしおって。……同貫、」

「はい!」

「撤収」

「はい。……先生は、」

「此処に残る」

「承知しました。ご武運を……」

 

 

 

去っていく桃巨会らを横目に、雲雀はトンファーを握り直す。

漂う冷気は気温が低いからだけではないだろう。

静まり返った公園、プルトーネは口火を切る。

 

「この私をぐちゃぐちゃにして地を舐めさせる、だったか」

 

以前そうなったのは誰だったか?

鼻で嗤いながらの言葉に、雲雀は眉根を吊り上げる。

 

「前とは違う」

「ほう?ならば見せてもらおうか。─────……などと。言うとでも思ったか?」

「!!」

 

今に戦闘が始まる、という所でプルトーネはそのような事を宣った。よく見れば一切の武装をしていない。その両手に手甲鉤はなく、鉄板入りのブーツは普通の革靴だ。

雲雀が目を据わらせる中、プルトーネは出来の悪い子に説明するように、いっそ優しく言い聞かせる。

 

「私は無意味に嬲る趣味はない。まして、弱者に対してはな」

「誰が、弱者だって?」

「貴様に決まっておろうが」

「っ」

 

無挙動で手が届く場所に近付いたプルトーネは、反射的身を引いた雲雀の腕を掴みあげる。

 

「怪我は治ったようだが、リハビリが足りんな。その上ここ最近の無理な動きの所為で炎症が起こっている」

「っ、離せ」

「運動に必要な筋力と戦闘に使う筋力はまた別物という訳だ。その分際で私に挑もうなど……だから底が知れたと言ったのだ。出直せ」

 

最後に軽く肋を叩かれ雲雀は大袈裟な程に身を跳ねさせる。

半年前、半数もの肋骨を折られた場所だ。

 

思った以上に入院生活は地獄だった。何せ息をすれば激痛、寝返りも打てず、起き上がれない状態だ。完治して間もない今は仕方の無い反応やもしれない。

 

跳ね上げられたトンファーを寸前で躱したプルトーネは高笑いしながら悠々と去っていく。

 

「まあ、出直したところでこの私には敵う筈もないがな!!ははは、ふはははははははっっ!!」

「……」

 

雲雀は近年稀に見る、鬼神のような憤怒の表情でその後ろ姿を睨め付ける。

 

「……」

 

最早咬み殺すという言葉さえ出ない雲雀。

視線で人を殺せるとしたら、恐らくプルトーネは100は死んでいる。

 

 

 

 

 

「……挑発し過ぎたか……?」

 

だが彼が成長するには煽る方が良いのだよなぁ……。

三日月は最後の殺意の塊に冷や汗を拭いながら、少し自重しようと思うのだった。

 

 

 

 

 

《え、三日月マジでそんな事言ったの?》

「うむ。やり過ぎた」

《うはっ!見てみてぇ》

 

けらけらと爆笑するベルに、流石にやり過ぎたと反省する三日月。恐らくまたやる。

 

「だがなぁ……無理に動くと骨格的に良くないと、ルッス嬢も言っておったしなぁ、」

《いいんじゃねーの?別に、どうなろうとそいつの勝手だろ》

「む……そうか?」

《自分の状態もわかんねー奴が強くなるとか、王子笑い過ぎて腹が痛い》

「うむ、それはそうやもしれんが。……ところで腹は大丈夫か……?」

《うししっ、全然オッケー》

「ならば良いが。では、な。息災でいろ」

《しし、当たり前じゃん。だってオレ王子だぜ》

 

 

 

 

 

観察記録・其ノ拾壱

 

監視対象に異常無し。護衛によって襲撃者が速やかに排除された。

表の支配者と現地協力者が協力態勢に。発言力に変化無し。

現地の治安は安定の目処が立ったため状況を凍結する。

 

報告は以上、監視を継続する。

 

 




煽りストメイりん

誓いが果たされたのは西川智だった(小並感)
雲雀さんはまた来てくださいねぇ(ゲス顔)


皆ミカさん好き過ぎません?(評価欄見ながら)
この前評価4人ありがとうってなってたのに5倍て。シャア様でも3倍やぞ(ガルマは死んだ)(坊やだからさ)

なんか驚き過ぎて賢者になりそうだどうしてくれる(感謝)

今回かなり偽物っぽかったしサブキャラが出張ってましたけど、必要そうだったので入れました
尺稼ぎともいう(素直)(澄み切った目)


メイりんさんは後日桃巨会らに雲雀さんと協力体勢を取るように言ってます。報告書だけじゃ分かりづらいなと思ったので追記。

寝たきりって……辛いのよ……(実感)


次回!
ミカさん、踊る

感想ありがとうございます!なるべく返しますのでどんどんどうぞー
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