月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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21ヶ月目の話。

前話の補足。
それと不穏な影。

皆さんおでんは好きですか。
私は味の染みた厚揚げにカラシをいっぱい付けて食べるのが好きです。
冷酒があれば尚よし。

20180722/ミカさんの最後の言葉を訂正しました。ちょっとアレだったので。


第26話

プルトーネとしての活動を自粛して1ヶ月程が経過したある日の事。

今晩は奈々嬢の勧めで夕餉を頂き、その帰りだった。

 

「お?」

「ん?」

 

金の短髪の、三十路過ぎだろう男性とばったり出会した。

ここ一年半の内には見た事のない顔だ。自慢ではないが、この町のこの地区に住む人とは殆ど顔馴染みである。その為少し疑問に思ったのだ。

濃い橙のツナギに黄色いヘルメット。所謂土方の格好だ。顔立ちは彫りが深いが日本人とも言える造りをしている。

 

「こんばんは。良い夜だな」

「……ああ、こんばんは。そうだな、月の明るい良い夜だ」

 

少し驚いたような男は直ぐに顔を綻ばせて笑う。

 

「この時間までお勤めか?」

「ああいや、単身赴任でな。少し近場まで来たんで、家族の様子を見に」

「そうであったか。いやはや、一家の大黒柱は強きものよな」

 

……うん?すると家族は普段は母子家庭という事か?

……、もしかするとこの方は。

 

「失礼だが、お主は沢田家の……?」

「おっと、これは失敬した。オレは沢田家光という」

「おお、やはりか。御子息にお主の面影を見た。よく似ている」

 

俺は遅ればせながら八朔政宗だと名乗る。

 

「つ、ツナにオレの面影が……?!」

「うむ。時偶に見る凛々しい顔だ。成程、父親似であったか」

「んんっ、……─────その話、詳しく聞かせてもらえるか」

 

ああ何だ、やはり家族を想う良き父親ではないか。

緩みそうになる口元を無理に引き締めては変な表情になっている男に、俺も思わず頬が緩んでしまう。よきかな、よきかな。

 

「っと、それよりも、お主は奈々嬢やツナに会われた方が良いのでは?」

「……、いや、元気そうならそれでいいんだ。顔を合わせちまえば、別れるのが辛くなるだろ?」

「うむ……、」

 

どうした事か、俺はこの大きな背を持つ男と語り合いたくなってしまっていた。

 

「時間はお有りか?良ければ近くの飲み屋で一献しながらでも……どうだ?」

「おお!いいのか?!」

「勿論だとも」

 

 

 

「それでな、先日は奈々嬢にくりすますぷれぜんとを選んでな、」

 

携帯端末を取り出して日頃のツナの写真等を見せながら、あの時はこうだった、その時はこうだったとあれこれ家光殿に話す。

それを嬉しそうに頷いて聞く家光殿に、自分の事のように嬉しく思うのだ。

 

「そうか……そうか、倅は優しい子に育ったんだなぁ……」

 

その写真も送ってくれと言う家光殿に頷いて連絡先を含めてやり取りし、感慨に耽る家光殿の杯に酒を注ぐ。

 

「これも、優しくあたたかい奈々嬢の御蔭だろう」

「……奈々はやらんぞ?」

「はっはっは、奈々嬢と家光殿の間には入る隙間などないだろうに」

 

奈々嬢はひとたび家光殿の話となると、さぞ愛おしいと惚けるのだから、脈など万に一つもないと思うだろう。

それを聞いて顔を赤くしながら相好を崩す家光殿は、確かに人生の絶頂期を思わせた。

……それにしても冬場の屋台で食べるおでんは、中々美味いものだなぁ。

よく味の染みた大根を大きめに切り、カラシを付けて頬張る。熱い……が、それが良い。

 

「大分ツナが世話になってるみたいで」

「いやいや、それは俺の方こそ」

「くぅ〜っ!俺も久々に奈々の作った飯が食いたいもんだ!」

「……今日の夕餉だがな。……かなり、美味かったぞ」

「!!こんにゃろ〜……っ!」

「……っ、あっははは……!」

 

肩を組まれて、髪を掻き乱され、俺は思わず弾けるように笑ってしまった。

斯様な事をされたのは、記憶の中では初めてだ。

 

「ふ、ふふ……、まあ、なんだ。別れは寂しく辛いものであるが、再会はそれ以上に嬉しいものよ。故、少しだけでも会ってはどうか」

 

待ち続けるのは、案外、心にくる。

穏やかに笑って、傾いた眼鏡を掛け直す。

 

「っ、そう、だな。よしっ」

 

紙幣を机に置いた家光殿は釣りはとっておけと言って、また俺の頭をくしゃりと撫で、沢田家の方へ走って行った。

いやはや……、

 

「良い父親であったなぁ」

「ええ……」

「……」

「……」

「……お客さん、これ、ウチじゃ扱ってませんや」

「うむ」

 

机に置かれたのは代金以上のユーロ紙幣。慌てたのだろうなぁ。

俺は有難く紙幣を受け取りつつ、代わりに財布を出すのだった。

 

 

 

 

 

家光は自身の携帯端末に送られた写真の数々に頬を緩める。

久々に会った奈々はやはり愛おしく、愛らしくも輝かしい笑みで家光を迎えた。

家を出る時は確かに名残惜しくもあったが、事実、会えてよかったという思いの方が強い。

家光はこの笑顔を守る為に、己の命を賭けるのだ。それを今一度、決意する程に。

 

「親方様」

「オレガノか」

 

夜闇より現れた部下の姿に、家光は顔を引き締める。

 

「どうでしたか、彼は」

「ああ……」

 

家光は先程まで酒を酌み交わしていた男の事を思い浮かべた。

美味そうにおでんを食う……ではなくて。

 

「温厚、実直、鷹揚……そして何処か老爺然とした言動。……あの程度では分かるものも分からんが、」

 

その穏やかな笑みからは何一つ、裏に通ずるものはなかった、が。

 

「……」

「……親方様?」

「いや、何でもない」

 

先月、家光の息子であり、イタリアンマフィアボンゴレファミリーの10代目候補、沢田綱吉に殺し屋が差し向けられた。同じく10代目候補であるXANXUSの行方が知れなくなった事も要因の一つだろう、最後の後継者候補を始末する事で勢いのままボンゴレに攻撃、秩序の崩壊を目論んだと思われる。

ボンゴレファミリーは世界最大規模のマフィアとはいえ、いや、だからこそ、かなりの数の敵対組織が潜在している。それは切っ掛けがあれば直様表面化しかねない程に苛烈なもの。

 

……XANXUSという存在は、ある種の防波堤だった。

ボンゴレの闇の爪牙であり、ボンゴレ最強と謳われる独立暗殺部隊ヴァリアーのボスにして、9代目ボスティモッテオの嫡子。今に頂点に君臨する、と言わんばかりの過激な行動は、自身に仇なすもの全てを排除するといった様子で裏社会の人間全てに恐れられていた。

その彼が6年前のある日以降見掛けられなくなった事で、今回の事態が起きてしまった……と、言えなくもないのである。

 

 

今回の襲撃事件に話が戻る。

主力は家光率いるCEDEFが捕らえたものの、陽動役だろう他の雑兵は殆どが町の裏を統率するヤクザによって処分された。数だけは多く、隠蔽能力に長けた者達を捕縛するには日本にいる人手だけでは到底足りないという矢先の事だ。……彼らが動かなければ一般人に多大な被害が出ていただろう。

その組織のボスと家光は会談し、その上で疑問に思った。

例え地元である為に優れた情報網を持っていようと、あまりに対応が早過ぎた。失礼ではあるが、家光の目にはその組織にそのような戦力があるとは思えなかったのだ。

 

そして思い至ったのは─────全てを隠れ蓑に潜む、何者かの存在だった。

その謎の人物を、CEDEFは探している。……まるで雲を掴むような話だが。

 

 

 

それとは関係無しに、沢田家の周囲を初めとして警備の強化が行われている。残党がいる可能性は極低だが捨てきれない上、綱吉の命が狙われた為にそれは然る可し。

八朔政宗との接触もその一環であった。

 

「彼を疑っていた訳では無いのですね」

「そりゃあな。ツナに最も近付いているからといって、最初から敵だのなんだのと疑ってちゃキリがねェ」

 

例え敵だとしても直ぐには動かない事を、他ならぬ彼自身が証明している。

家光は内心その言葉を転がした。……襲撃事件と同時に綱吉を殺めれば、それを暗殺者の仕業にする事も容易。それをしなかったという事は、今は時期ではないと見定めたのだ。

 

家光は何故か、八朔政宗の事が気に掛かった。

 

 

「(隙のない立ち振る舞い、鍛えられた刃の如き肉体、老齢の……そう、9代目にも似た、達観した目)」

 

彼が表の人間か裏の人間か知れないが、それでも敵には回したくない相手だと、家光は漠然と思ったのだった。

 

「……それにこれからも2人の写真を送ってくれるらしいしな〜」

 

愛する妻と子の写った写真にでれっと顔を緩ませた家光は部下を連れ、気合いも十分に夜闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

「うーん、侮れん」

 

流石はCEDEFの頭目。油断も隙もない。

三日月は眼鏡を外し、コンタクトをケースに仕舞いつつ苦笑う。

あの酒宴の中自身の持つカードをどのタイミングで晒し、如何に効率良く相手のカードを窺うか、という軽い情報戦じみた事が行われていたのだ。

家光は三日月にカマを掛け、1ヶ月前のアリバイに不備がないかちょっかいを出し、三日月は三日月で飄々と質問を一般人らしく受け流しつつ家光の職について聞く、といった様子だ。

 

「にしてもあそこのおでんは美味かったな」

 

その間も食を楽しむとは、やはり三日月は三日月なのである。

 

 

 

 

 

《この前は危なかったわねぇ。というか沢田家光と酒盛りなんて!》

「うん?そうか?まあ、普通に酒を酌み交わしただけだからなぁ、肝は冷えたが美味かった」

《んもう!ミカちゃんってばそればっかりね!!》

 

久久に誰かと一緒に酒を呑んだ三日月は、それが敵であろうと味方であろうと、今戦っている訳ではないのだから、と十二分に酒宴を楽しんできたのである。

心臓に毛でも生えてるの?とはルッスーリアの弁である。

 

《先月も防衛戦だなんて面倒なお仕事だったんでしょう?》

「ん、まあな……」

 

案外そっちの潜入も大変そうでびっくりしちゃった!と言うルッスーリアに三日月は眉根を下げる。こういった任を担うことになろうとは、三日月自身思ってもみなかった事である。

確かに任務である以上、難度の高いものが齎されるのも当然だが、下準備から後片付けまで一貫して1人というのもあまりない。

 

「欲を言うなら、次は護衛の任が良いなとは思う」

《……あら、大分参っちゃってるのかしら》

「……孤立無援は懲り懲りだ」

 

普段の生活はともかく。

このままでは闇堕ちしかねんぞ?とからからと笑う三日月に、もうどっぷり浸かっちゃってるじゃないと冗談めかして笑うルッスーリア。

 

「いや、いや。俺も血に酔うさ」

《まあ。ちょっぴり見てみたいかも》

「冗談の内に留めておいてくれ」

 

三日月は空を見上げて口を開く。

 

「……あけましておめでとう、ルッス嬢」

《ふふ、あけましておめでとう、ミカちゃん》

 

 

 

腕を這う穢れを自身の霊力で打ち払いながら、三日月は目を伏せるのだ。

 

「我が主よ。お主が望むのなら、俺は穢れすらも厭わない」

 

狂えと云うなら狂おうか。壊せと云うなら壊そうか。

嗚呼、我が敬愛する紅き斜陽よ。

 

 

「─────……、いかんな、少しあてられたか」

 

ここ最近毎日、凍てついた氷の中で憤怒を抱く夢を見る。

人の器を得た身としては、ふつふつと沸き上がるような感情は手に余った。

 

彼ら(・・)のようになる訳にはいかんのだ。でなくば、長らくそれ(・・)を斬り伏せていたというのに……申し訳が立たぬ」

 

この身で主を持つ事の意味を痛感しつつ、それでも後悔はない。

 

 

「何にせよ、その炎。……黒く鈍く、陰る事のないよう」

 

 

─────刀は担い手次第で、凶刃にもなりうるのだから。

 

 

 

観察記録・其ノ弐拾壱

 

監視対象に異常無し。

護衛組織の頭目と接触、疑われるも許容範囲内。危険度A、今後の接触は無理に忌避する事なく、疑われない事を第一に行動する。

 

報告は以上、監視を継続する。

 

 

 




前話が結構人を選ぶものだった件について
いや、ホント、ちょっと頭沸いてた(真顔)
でもこれでいく(無謀)

何回か襲撃あるだろうなぁって思った。だって日本に候補者いるって周りのファミリーからすれば公然の秘密かなって……すみませんでした尺稼ぎに使いましたすみませんでした(一気)
ぶっちゃけ気合い入ったファミリーなら候補者の特定とか出来そうと思ったからつい(沢田家光の名字からCEDEFの動向見て手繰り寄せる感じで)

原作改変タグ入れようかなぁ捏造タグが仕事してるからいいかなぁ


そんな訳で12月のミカさんでして。
ちょっと闇堕ちしかけてたっていう話。

歴史修正主義者って皆さんどういう解釈してます?
私は刀剣男士達の歴史修正主義者化を推してます(ゲス顔)

彼曰く、"友を斬った"という事は……

まるで某運命のように主と刀は繋がりが……あったらいいなぁ
夢という限りなく虚ろで防壁的なものが(ほぼ)ない世界なら、接触はくらいはできるのでは、という捏造である(ご都合主義)


今回もお付き合いありがとうございました。
お疲れ様でした。
これからもどうかよろしくお願い致します。
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