観察記録・其ノ弐拾肆
偽装した経歴での表立った活動を開始する。
監視対象の行動範囲に当たる学園全体の地図は別紙に添付。
此処を拠点とする該当者、及びその関係者には細心の注意を払う。
─────尚、潜入は成功。独自に情報網を編み、情報収集に徹する。
今後、来日する対象 特SS級重要人物(以降No.18とする)を警戒し、報告書は不定期となる。3ヶ月何らかの連絡、及び音信が途絶えた場合、自死、他殺、捕縛の何れかを想定し、新たな人材の派遣を求める事とする。
「契約を果たしてもらう」
その手にトンファーを携え、黒い衣を纏う少年が三日月、基、八朔政宗の前に現れて言い放った。
並盛中学校、とある教室。夕日の射し込む教室は橙に染まり、何処か郷愁の念を感じさせる。まだ寒さの残る空気は始まりを予期させながらも、少しだけ物悲しいと八朔は思う。
春休み真っ只中の人の少ない学校で、きっちりとスーツを纏った八朔は生徒の座る椅子に座り、雇主に当たる風紀を掲げる少年・雲雀恭弥の姿を、仄かな笑みと共に見上げていた。
「今から軽い試験を受けてもらうから。これは単純な学力調査だね。今年の教員資格認定試験の筆記の問題だよ。赤点だった時は咬み殺すからそのつもりで」
「うむ。承知した」
「じゃあ、僕は見回りに行くから」
そうして出て行った彼の代わりに、黒髪をリーゼントにした大柄な体躯の少年が前に立つ。
「委員長の代理としてこの試験に立ち会う、風紀委員会副委員長、草壁だ」
「ああ、俺は八朔政宗という。今日は宜しく頼む」
明らかに中学生には見えない強面にすら、顔色を崩す事なくマイペースに、いつもの穏やかな笑みを浮かべて落ち着いた様子で軽く会釈をした。それに対し草壁も厳しく眉根を寄せていたのを少しだけ緩め、再び引き締める。
「不正は一切許さん。終われば声を掛けるように。……では、始めろ」
配られた問題の書かれた冊子を捲り、八朔は眼鏡を押し上げて鉛筆を手に取った。
次いで、澱みなく紙を走る音から順調に空欄が埋められていくのが分かる。解き方を問題冊子の方に書き記し、損じていないかを一つ一つ確認しながら、それでもかなりの早さで書き上げているのである。
経歴上は専攻とは異なる学科に加え数年のブランクがあるにも関わらず、八朔はよくやっていた。例え脅されていたとしても大した苦もなく勉学を楽しんでいる様は実に珍しい。
……実際はその経歴の9割9分が詐称されたものではあるが。
制限時間を15分ほど残し、確認まで終えたらしい。草壁殿、と古風な呼名を口にしてにこりと微笑んだ八朔は答案用紙を差し出す。
「終わったぞ」
「ああ」
答案と問題を回収した草壁はその場で採点を始める。
その間はといえば、八朔はのんびりと筆記具を仕舞い、興味深そうに暗がり始めた教室を見回していた。
流石の草壁もそれが気になったらしい。
「何か気になる物でも?」
「ん?ああいや、今の学び舎はこうなっているのだなぁと思ったのでな」
そう言われて草壁もぐるりと教室を見回す。
何の変哲もない、ごく普通の教室だ。
今年で26、27という彼としては、珍しいものだろうか。それでも懐かしい、と言っているようには見えず、草壁は少しの違和感に首を傾げながら、採点の終わった解答用紙を手に立ち上がる。
「委員長の元へ行く」
「うむ、ついて行こう」
結果は尋ねないらしい。それ程までに自信があるのか─────どんな結果になれど後悔はないという事なのか。
「……委員長は、やると仰ればやる御方だ」
「? そうだな」
あちらこちらと視線を向けていた八朔は不思議そうに草壁を見遣る。
「……」
「……ああ!もしや心配をしてくれているのか。はは、ありがとう」
「そうだがそうじゃなくて、」
「分かっておるとも。……彼の
逃れられるものでもあるまいし。
草壁は警告の言葉を呑み込んだ。あまりに呑気で雲雀の恐ろしさを知らぬものと思っていたが、八朔はそれを理解している上で全く緊張感を持っていなかったのだ。
普通、殴られるともなれば恐れ、職だけではなく住処すら追われる危機ともなれば鬼気迫る筈。
相当な天然、若しくは確固たる実力者─────?
「おお、ここは……音楽室、というのか?草壁殿、ここではどんな授業がされるのだ?」
……いや、天然なだけだろう。
にこにこと笑う八朔に、草壁は過った想定を振り払い、歩きながら律儀に部屋の説明をするのだった。
草壁から答案用紙を受け取り彼を下がらせた雲雀は、無表情ながら満足そうだった。どうやら想定以上に良い結果であったらしい。
「形式上1年が教習期間だけど、君は例外ね。最初の内は補助として授業を見学、ひと月で慣れてもらうから」
僅かひと月。本来ならば初任者研修は1年を通してあるのだが。無茶振りにも程があるが、それでも八朔は二つ返事で快諾した。これには雲雀も口を噤む。
「……」
「どうした?何か困り事でもあるのか?」
「……君、変」
変人だ変人だと言われ続けている
普通は無理だなんだと弱音を吐くか、虚勢を張って逆らうか、もしくは雲雀の圧力に負けて青ざめながら了承するものだが、八朔は絶えず飄々と笑いながら命ぜられた事を鷹揚に了承するのである。少なくともその対応をする者は雲雀にとっては稀有であり、今のところ唯一の存在ではあった。
呵々と笑われて良い気はしない雲雀であったが、それに気付いた八朔は謝辞と共に馬鹿にした訳ではないのだと言う。
「ははは、……ふぅ。ああ、すまぬ。変だなんだとは前の地でも言われ慣れておるでな、此処でもそれを言われて、懐かしさに思わず笑ってしまったのだ。失礼を侘びる。だが……まあ何、尽くせば為せる事であると俺自身が判断した迄の事よ。故、案ずる事はないぞ」
「……そう」
そう言うのであれば雲雀から手を出す事はない。精々果たせなかった時の制裁について考える程度だ。
つくづく
「始業式前に顔合わせがあるから、詳しい事はこの後校長に聞いて」
「うむ。了解した」
再び外に待機していた草壁に連れられ、校長室に案内される。そこで草壁は見回りに行くからと、校長の話が終わった後は解散だと告げて踵を返した。
壁には歴代校長の写真や額縁に入れられた賞状があり、分厚いファイルの入れられた書棚が並んでいた。
ガラス製のテーブル、黒いソファー、奥にはダークブラウンのデスク、革張りのチェアー。一つひとつそこそこのグレードがあったが、風紀委員長の使っていた部屋の調度品の品質の方が全て数段上回っていると八朔の目に映り、内心苦笑を禁じ得ない。如実にこの並盛中学校での格差を如実に感じさせられ、なんとも言い難いのである。
奥のデスクには気弱そうな校長らしき老年の男の姿があった。
「失礼致します」
背筋を伸ばし、変わらずマイペースに。
穏やかに笑んだ八朔に校長は肩の力を幾分抜いた。
「はじめまして、私は八朔政宗と申します」
「ええ、お聞きしております。私は当校の校長を務めさせて頂いております小林です」
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
定型文を述べて、八朔は勧められた椅子に腰掛ける。
「先程学力試験を行われたそうですが、その様子では問題ない結果だったようですね」
「はい。雲雀殿は満足していらっしゃったかと」
「そうですかそうですか!いや、雲雀くんが合格を出したのならば、問題なさそうですね」
雲雀は並盛中学校を愛していると言って過言ではない。妥協の欠片もない彼によって直々に見出され、認められた。それは並大抵の事ではない。
雲雀は並盛に住まう者達から恐れられ校長自身も恐怖しているが、彼の暴政とも呼べる統治が彼の並盛に対する愛着故と知る校長からの信頼は案外厚い。……逆らえないから、というのが理由の大半ではあるが。大人だって怖いものは怖い。だって暴力だけじゃなくて警察とか病院とか果ては町長や役場にまで権力が及ぶんだもの。超こわい。
それ故彼がヘッドハンティングした八朔政宗という青年の事を、雲雀、もしくは彼に従う風紀委員会並に恐ろしいものと思っていた。
「(お、穏やかそうな子で良かった─────!!)」
割と苦労性で小心者な校長の内心は名誉の為、これ以上は伏せておく。
「こほん。……八朔さんの雇用は雲雀くんによって決定されたもの。これは面接ではありますが、
「ご厚情痛み入ります」
「では軽く、今までの経験で思い出深いものでも─────」
とっぷりと夜の闇が街を包み込む頃。
イタリアに滞在していた頃のエピソードを幾つか口にし、日本に訪れてからは剣の腕を見込まれ剣道を教えていた事、桜の美しさに心を打たれた事など、聞き手を飽きさせないよう抑揚付けて語り、自分も思い出して楽しむように目を輝かせ、綻ぶように笑う。
感受性豊かであり生き生きとした様を見て、校長自身も八朔にかなり好印象を受けていた。
先生として物を教える事の難しさや、それを上回る楽しさを語ったところでは校長も、種は異なるものの先生をしていた若き頃を思い返し、いつの間にやら教師となる上での心構えなどを丁寧に説明していた程だ。
巧妙な相槌、穏やかな語り口、多彩にある話の種。
空が真っ暗になるまで気付かなかった程で、校長と八朔はお互いの顔を見合わせて苦笑を零した。
「いやはや……長々と語ってしまい申し訳ありません」
「こちらこそ、こんな時間までお留めして申し訳ない」
軽く頭を下げた八朔はとても為になるお話をありがとうございますと告げる。
「これからはこの学校で、精一杯努めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします、校長殿」
「勿論、寧ろ私の方こそよろしくお願いしたい。またこうして話をしましょう。今度は美味しいお茶でも御馳走しますよ」
「大変光栄です。是非とも、また」
改めて礼をした八朔の肩を校長は軽く叩く。
それは八朔に対する大きな期待と親しみを示した物だった。
*
「今年度より拝命致しました八朔政宗と申します。担当教科は数学です。至らぬ所は多々ありますが、皆様のご指導ご鞭撻の元、誠心誠意努めて参りたいと思います。よろしくお願い致します」
職員室での同僚からの印象はかなり良好だ。以前剣道部の外部コーチとして言葉を交わした事のある女性教員や剣道部顧問の佐々木先生等にも声を掛けられ、俺自身も挨拶ができた。同時期に入職してきた新任教師との連携も図れ、先人からは詳しい仕事を学ぶばかりである。
「八朔先生は飲み込みがとても早いですね。教えるこちらは楽でいいですよ」
「いえいえとんでもない、池沢先生の説明が分かりやすいからですよ」
書類仕事には慣れているからかもしれないが。
自筆で書く方が早いがパソコンも出来なくもないぞ。ヴァリアーでも極秘資料は手書きだったが、その他はパソコン打ち込みだったからな。慣れざるを得なかったとも言う。
「八朔先生はこれから副担任として私の補助をしてもらいますし、
「ありがとうございます。期待に応えられるよう励みます」
「ええと、半月くらいで研究授業、それとレポート提出があるし、後は……校外研修で出張とかもあったな。その時は自習用の課題を作ってもらって……ああ、まあこれはその時になって説明しますね。今は毎日の仕事内容を覚えて、生徒達に慣れてもらえれば。……3年は割と不良が多いので気を付けて。まあ大体は
「ふむ、そうなのですね……十分留意しておきます」
「これが最も重要なのですが、!」
ふと池沢先生の顔色がとても悪い事に気付く。
「風紀委員会にはあまり逆らわないように……!!」
あー……、なるほど。雲雀殿はこの事を言っておられたのか。
"丁度人手が欲しかったんだ。どいつもこいつもビクビクして話にならない"
池沢先生の言葉に頷き、内心雇い主だしなぁと思いつつ。
どうやら正規の手順で雇われたと思われているらしい。校長殿の配慮であろうな。
正義感が強い新任教師が町の外から来た際、風紀委員会の恐ろしさも権威も知らず、授業中にも巡回している風紀委員に突っ掛かった事があるようだ。校長殿に直談判だの、風紀委員会を目の敵にして教員に同意を求めたりだの行動が目に余り、遂に風紀委員長自ら制裁に乗り出すまでに到ったらしい。当然その新任は解雇である。しかも風紀委員会の権威の届く先では買い物すら覚束無い有様だ。
……これを聞いた同期の新任教師が震え上がっていたが、まあ、慣れろと言う他ない。
「と、一先ずこのくらいか。後は学期が始まってから随時言うから」
「はい。よろしくお願いします」
窓の外に見える桜の木は、蕾を大きく膨らませ、開花の時を待ち望んでいた。
また、春が来る。
ちょっと長くなったかなと思ったので切る。
次書いたら原作に入れる。8年編長過ぎた。後悔はしているが反省はしない。多分またやる。
ミカさんと試験と顔合わせ。そうです前段階です
別にこれすっ飛ばして入学式しても良かったんですけどね。
雲雀さんを筆頭に同僚さんや校長みたいな、ミカさんにとっての日常の一員となる人達だからさ……避けては通れぬ話だった(無事死亡)
安定のハイスペックミカさんに敬礼!
特SS級重要人物No.18
言わずもがな。
アルファベット順で18番目はR。そういう事です。
話し上手と聞き上手。
ルッス姉さんからもらったスパイ本に書いてあった事を活用したとかいう裏話。題名『実録 人心掌握術〜あなたの心にお邪魔します〜』。サブタイにセンスを感じたらしい。
数学新任教師八朔政宗。
必死こいて勉強してたのは数学でした。選ばれたのは(ry
理科はなんか実験とかするから勉強がクソめんど……ゲフンゲフン。難しいらしいので。第1候補だったけど残念ながら。
もう1つのはブラフ。ミカさんでも美術は流石に無理。
書類仕事には慣れている
書類地獄はそれ程までにしんどかった。
某正義感の強い熱血新任教師
全治半年の上並盛病院は受入拒否、並盛町のお店で買い物できない、役場も出禁。彼は町から出て行かざるを得なかった。こわい。
プルトーネ
雲雀「ふざけた野郎だぜ!」(激おこスティックファイナリアリーぷんぷんドリーム)
余談。
前回の投稿後の鍛刀all350松札、4時間。
「よろしく頼む」「 」
おいこれ……書いたら出るってマジかよ!都市伝説だと思ってたよ!
難民のみんな!書いたら出るぞ!書こう!!もしくは描こう!!(布教)(とうらぶ小説増えろ)