余っていた一室に客用の布団を敷いていた俺は、いつもの時間に目を覚ました。少しの間うつらうつらとして、漸く顔を出し始めた日の出に目を向けて、うんと背伸びをする。
布団を仕舞い、影の差す階段を降りて顔を洗う。
今日の朝餉はベル殿に合わせて洋食にするとしよう。
「んー、60点」
「手厳しいな」
髪を寝癖で跳ねさせてベル殿は欠伸をしながら居間へとやって来た。ルッス嬢に習ったすこっちえっぐと、
「流石は王族、舌が肥えている」
「ったりめーじゃん」
苦笑して紅茶を差し出すとベル殿はそれにしては上機嫌に受け取った。
「そういえば、聞いてなかったが。皆は元気にしておるかな」
「んあー?別に、いつも通りだぜ。カスアーロはうるせーしオカマは変態だしマーモンはチビだし雷親父はキモイし。……ボスは、まだ見つかってねーし」
「……そうか」
「けどさ、どーやら本部がキナクセーってんで、マーモンが潜入しようとしてたんだよ」
「!……ほう?それで、」
「その直前でヴァリアー幹部全員が散らされたってワケ」
それは、間が悪かったな。
俺も朝食にナイフを入れる。
「派遣期間は長くて半年から1年ってとこだろーな。めんどくせー」
「ベル殿が日本に滞在するのは、大体1週間と言っておったな」
「そ。その間に標的をぶっ殺しときゃアイツらも文句ねーよ。しっしっし」
文句を言わせない、の間違いでは?どうやら今も変わらず自由気ままのようだしな。彼の二つ名は
まあ、今のところ
「この町でもするのだろう?ええと、確か……ご当地殺し屋殺し?」
「うっしっし。トーゼン……て言いてーとこだけど、今回は下見程度のつもり」
「珍しいな?」
「此処で事を起こしたらカスアーロがクソうぜーから」
任務地で殺すからいい、と。
内心胸を撫で下ろす。ベル殿の殺しは緻密でいて特徴的故、恐らくだが検証でもされればバレる可能性が非常に高いのだ。
「では、そろそろ俺は学校に行くとしよう」
「いってらー」
「うむ。行ってくるぞ」
こう、人に見送られるのも悪くないなあ。
「よお、政宗」
「おお。おはようリボーン殿」
道端で偶然出会したリボーン殿は家屋の塀の上でいつもの笑みを浮かべている。
「ちょっと頼みてーことがある」
「うむ。聞こう」
「そう難しい事じゃねー。放課後にプール含めた校舎周辺とグラウンドを借りたい」
無理ではないが無茶を言うよな、お主。
「うむ……確か、今日は家庭訪問期間で早下校であったか。なれば許可を貰ってくるとするか。いつまで使う?」
「1時間もあれば十分だ。使うのはオレとツナ、あと獄寺に山本だな」
「わかった。やってみよう」
「さんきゅー」
「沢田に山本に獄寺ですか。家庭訪問はもう済んでますし、時間的に部活は始まっていませんから、大丈夫でしょう。じゃあ、一応この紙にグラウンドの借用の旨を書いてください」
「ありがとうございます」
使用時間は1時間、騒音の可能性有り、立ち入り禁止と。
「騒音?……って、ああ。獄寺の例のアレですか」
「ああ、根津事件のですか。凄かったですよねぇ、グラウンドが真っ二つになるなんて」
……うむ。凄かったで済むのか、それは。時々此処での常識が分からなくなるなあ。
「だって今更でしょ、八朔先生。例のあの方はホラ、……トンファー振り回してますし……」
「1年の内藤の家なんて日中爆発音ばっかりですし……」
それもそうか、と頷きを返し、書き終えた書類を教頭先生に手渡す。
「はいどうも。校長先生にも言っておきます。責任者は八朔先生ですから、ちゃんと整備して、その後野球部とサッカー部が使えるようにしていてくださいね。くれぐれも、グラウンドを割らないように!」
「ふ……あい分かりました。ありがとうございます」
下準備などそんなもの。
宣言通りリボーン殿は放課後、校舎周辺とグラウンドを大きく使用した
「どうやら獄寺も武も10代目ファミリーの一員となるらしいな」
ツナは認めてはおらんが、まあ、外堀が埋められて身動きが取れなくなるのも時間の問題だろう。ツナは結構情に脆いしな……。
リボーン殿は事前に俺にかりきゅらむを見せた。
入ファミリー試験。それが今日行う指導のようだ。
極限状態での武(とついでにツナ)の身体能力を測るその内容は、万一基準に達せなければ
投げナイフに、ボウガン。
と、此処で見知らぬ子がツナ達に向けて武器を構えていた。
「む、いかんな」
借用書にはあの子の名はないぞー?
撃ち放たれた砲弾は誘導性を伴ってツナ達の方向へ。
ドガアアアアッ!!
爆発。黒煙の奥に目を凝らせば、爆風に煽られたものの彼らの命には別状なさそうだ。
「勝手に校舎に入られたともなれば俺が雲雀殿に叱られてしまう……か。止むを得まい」
窓際から離れ、彼の元に歩を進めていく。
シュルルルル……ドガアアアッ!!
パラララララッ!!
様々な爆発と銃火器の叫びは、いつかロンシー殿の家で聞いた振りか。
一際大きな爆発特有のそれに、周辺の音が一瞬一切消え去る。
一拍。
ドガアアアアアアアアンッッ!!!
耳鳴りがする程の炸裂音が、開いた扉から響き渡る。
砂煙の収まる頃、獄寺が武の胸倉を掴んで……何やら、褒めておるのか。それから騒々しく罵り合い。……いやはや、これが青春というやつか。よきかなよきかな。
「くっ……若きボンゴレ、オレを忘れていませんか……!?」
「うむ。忘れられてはおらんぞ」
「?!」
ぽん、と。牛柄シャツの青年の肩に手を置く。
びくぅ!と体を跳ねさせた青年はゆっくりと俺を振り向いた。
「あ、あ、貴方は……!!」
「ん?俺を知っているのか?俺には覚えがないが……」
「あっ、そうか、初対面……オレはランボっていいます。えっと、10年後の……」
10年後……?
「もしや、お主……時間遡行軍か?」
「へ??」
─────首の裏がザワリと逆立つような感覚が走る。それは所謂激情、というやつで。
四肢の感覚が薄れ、鼻が血潮と黒煙を嗅ぎ、鈍い痛みに似た衝動があの頃を彷彿とさせた。
すっと目を細めて、見極めんとして、……首を横に振る。
……いや、ないか。ないな。うむ。
「いや、すまん。忘れてくれ。つまるところ、時を遡ったか」
「は、はい、というより入れ替わったってとこです」
……話の通りとするならば、10年後の自分と入れ替われるばずーかとやらがぼゔぃーのファミリーにはあるらしい。
この時代に時を遡行できる道具が生まれているとは、なんとも。
10年前から本当に全く変わってなかったんですね……、と顔を引き攣らせたらんぼ殿は、うって変わりにこりと笑う。
「10年前のオレを、よろしくお願いします、
「!!」
ぼふん!!
間抜けた音ともに桃色の煙が起こり、腕で顔を隠し目を細める。
「んー?あーれれーのれー?お前だれー?」
……牛柄のたいつに量感のある髪。牛の角が側頭部に差し込まれた、小さな子である。
「ふう。……俺は八朔政宗。お主の名前は?」
「オレっちは〜、ランボさんだもんねぇ!ねえねえおまえ、お菓子持ってない??」
ふむ、やはり彼もらんぼ殿か。
「よしよし、上手く自己紹介できて偉いな。飴玉をやろう。詰まらせるなよ」
「やったぁ!!ランボさんあめだま好き!ブドウ味あるー?」
「あるぞ。ほれ」
「いっただっきまーす!あー……んっ!おいひぃーーー!!」
おお、無邪気よな。元気で良し。
「えっとぉ、マサだっけー?おまえオレっちの部下にしてやるんだものねー!!」
「はっはっは、!それは光栄だなぁ」
らんぼ殿を片腕に抱えあげると、高い視界が気に入ったのか両手を上げて喜んだ。
……さて、彼もリボーン殿関連であるだろう。一先ず連れてゆくか。
色々あったが、彼には今度会った時俺の名の事は伝えておかなければなるまい。未来でも交友はあるようだしな。
並盛に住んでりゃ皆感覚が麻痺するよね!!!(決めつけ)
無邪気な奴ほど爆弾投下してくるよねって話。
ミカさん、時間遡行軍か?と聞いた時。
─────めっちゃ怖い顔してたけど大丈夫??